原作主人公のサトシはというと――――
後原作からのセリフ等をそのまま使うと利用規約に引っかかるのでちょいオリジナルな文章にもしてます。
◆マサラタウン・オーキド研究所――寝坊した少年
時刻は、シンヤがトキワシティを出発しようとしていた頃より少し前。
マサラタウンにあるオーキド研究所では、一人の少年が慌ただしく飛び込んできていた。
「オーキド博士ーっ!!」
サトシである。
「はぁっ、はぁっ……! 博士! 俺のポケモンは!?」
息を切らしながら研究所に駆け込んできたサトシを見て、オーキド博士は呆れたようにため息をついた。
「サトシ君……。君はもう少し早く起きられんのかね?」
「うっ……そ、それは……!」
サトシは言葉に詰まった。
今日は、十歳になった少年少女たちが、初めて自分のポケモンを受け取り、旅立つ日。
そしてサトシは、見事なまでに寝坊したのである。
しかも、彼が研究所に到着した頃には、初心者用のポケモン三匹はすでにすべて引き取られていた。
フシギダネは、シンヤに続いて旅立つ予定の少女リーフが受け取っている。
ヒトカゲは、朝一番に研究所へ来たシンヤが選んだ。
ゼニガメも、すでに別のトレーナーへ渡す準備が進んでいた。というかシゲルが受け取っている。
「そ、そんなぁぁぁぁっ!?」
サトシの叫びが研究所に響き渡る。
「だから早く起きなさいと言ったじゃろうに……」
博士は頭を抱えた。
とはいえ、ここでサトシを手ぶらで帰すわけにもいかない。
博士は奥へと歩いていき、一つのモンスターボールを持って戻ってきた。
「サトシ。君には、このポケモンを渡そう」
「おおっ! どんなポケモンなんだ!?」
サトシは目を輝かせた。
そして、ボールが開かれる。
「ピッ……ピカチュウ!」
現れたのは、黄色い体に赤い頬を持つ、電気タイプのポケモンだった。
「……ピカチュウ?」
サトシは、目の前のポケモンを見つめた。
ピカチュウもまた、じっとサトシを見つめ返す。
「ピカチュウ。でんきタイプのポケモンじゃ。少々気難しいところがあってな……」
博士が説明を続けようとした、その瞬間。
「よーし! お前が俺の最初のポケモンか! よろしくな、ピカチュウ!」
サトシは勢いよく手を差し出した。
だが――。
「ピカッ!」
バチバチバチッ!!
「うわあああああっ!?」
強烈な電撃がサトシを襲った。
「サトシ君……。この先、苦労しそうじゃな……」
オーキド博士は、早くも将来を心配するのだった。
◆旅立ち! 言うことを聞かない相棒
「いいか、ピカチュウ! 今日から俺たちは一緒に旅をするんだ! 仲良くやろうぜ!」
「ピカッ!」
「……って、なんで逃げるんだよ!?」
研究所を出たサトシは、ピカチュウを連れて道を進んでいた。
しかし、ピカチュウはサトシの言うことを聞こうとしない。
歩けば勝手に先へ進み、呼び止めればそっぽを向き、近づけば電撃を浴びせてくる。
「お前なぁ! せっかく一緒に旅をするんだから、もう少し協力してくれよ!」
「ピカチュウ!」
「うわっ、また電気かよ!」
サトシは頭を抱えた。
それでも、彼は諦めなかった。
なにしろ、今日からポケモントレーナーなのだ。
ポケモンを捕まえ、育て、強くなって、いつかポケモンリーグで優勝する。
その夢を叶えるための、記念すべき第一歩なのだから。
「よーし! こうなったら、まずはポケモンバトルだ!」
サトシは近くにいた野生のポケモンを見つけ、ピカチュウに指示を出そうとする。
ところが、ピカチュウはまるで乗り気ではなかった。
「ピカチュウ!」
「おい、ピカチュウ! 頼むから言うことを聞いてくれよ!」
サトシの旅は、出発早々から波乱の連続だった。
そして、その一方で――。
すでにトキワシティを目指していたシンヤは、ポケモンセンターで仲間たちの状態を確認し、次の目的地へ向かう準備を整えていた。
もし二人の旅立ちを比較する人がいたならば、きっとこう言っただろう。
片や、準備万端で五匹のポケモンと旅を進める少年。
片や、相棒のピカチュウに振り回され、出発早々に苦戦する少年。
もちろん、サトシにはサトシの物語がある。
そして、その物語はここから始まるのだった。
◆オニスズメの群れ、襲来!
しばらく進んだ頃。
サトシは、傷ついた野生のポッポを見つけた。
「おっ、ポッポだ! よーし、初めてのポケモンゲットだぜ!」
サトシは勢いよく駆け寄った。
だが、ポッポは警戒して逃げてしまう。
「待てーっ! 逃げるなよ!」
サトシは追いかけたものの、ポッポを捕まえることはできなかった。
そのときだった。
「ギャアアアッ!!」
空から鋭い鳴き声が響いた。
サトシが顔を上げると、そこには一匹のオニスズメが飛んでいた。
「おっ、今度はオニスズメか!」
しかし、サトシが不用意に近づいたことで、オニスズメは激怒してしまった。
「ギャアッ!!」
「うわっ!? なんだよ、いきなり!」
オニスズメは猛烈な勢いでサトシたちへ襲いかかる。
「ピカチュウ! 電気攻撃だ!」
「ピカッ!?」
だが、ピカチュウは言うことを聞かない。
「なんでだよーっ!?」
サトシが逃げ回っているうちに、オニスズメの仲間たちまで集まってきた。
一匹、二匹、三匹……。
気づけば、空はオニスズメの群れで埋め尽くされていた。
「えええええっ!? 増えてるぅぅぅっ!?」
サトシは必死に逃げ出した。
ピカチュウを抱え、森の中を駆け抜ける。
しかし、オニスズメたちは執拗に追いかけてくる。
「なんでこんなことになるんだよーっ!!」
サトシの叫びが森に響いた。
◆カスミとの出会い――自転車を借りる少年
追い詰められたサトシがたどり着いた先で、彼は一人の少女と出会った。
「ちょっと! あなた、何やってるのよ!?」
少女の名前はカスミ。
彼女は、ボロボロになりながら逃げてきたサトシと、その腕の中にいる傷だらけになっているピカチュウを見て、驚いた表情を浮かべた。
「た、助けてくれ! オニスズメの群れに追われてるんだ!」
「はぁ!? なんでそんなことになってるのよ!?」
「説明してる暇はないんだ! 自転車を貸してくれ!」
「えっ!? ちょっと、何勝手に――!」
サトシはカスミの自転車を借りると、ピカチュウを抱えて走り出した。
「待ちなさいよーっ!! それ、私の自転車よーっ!!」
カスミの怒声が背後から飛んでくる。
だが、サトシには振り返っている余裕などなかった。
オニスズメの群れが、すぐ後ろまで迫っていたからだ。
自転車を必死に走らせるサトシ。その腕の中で、ピカチュウは苦しそうにしていた。
「ピカチュウ! 大丈夫か!?」
「ピカ……」
サトシは気づいていた。
ピカチュウは自分の指示を聞かない。
まだ信頼関係も築けていない。
それでも、このままではピカチュウまで危険にさらしてしまう。
「くそっ……! どうすればいいんだよ!」
そして、ついに――。
自転車は制御を失い、サトシはピカチュウを抱えたまま倒れてしまった。
自転車も壊れ、オニスズメの群れは二人を取り囲む。
「ギャアアアッ!!」
サトシは傷ついたピカチュウを抱きしめた。
「ピカチュウ……! 逃げろ! お前だけでも逃げるんだ!」
「ピカ……?」
「俺はいいから……! お前だけでも助かってくれ!」
それは、初めての旅で出会った相棒への、サトシの心からの言葉だった。
ピカチュウは、そんなサトシをじっと見つめていた。
これまで自分のことを無理やり連れ回してきた少年。
言うことを聞かない自分に腹を立てながらも、危険な目に遭えば必死に守ろうとする少年。
その姿を見て、ピカチュウの心に何かが芽生え始めていた。
そして――。
空を覆うオニスズメの群れに向かって、ピカチュウは自ら立ち上がった。
「ピカチュウ……!」
バチバチバチバチッ!!
全身から電気がほとばしる。
サトシは目を見開いた。
「ピカチュウ……!?」
その瞬間、ピカチュウの放った電撃が周囲を包み込んだ。
強烈な光と轟音。
オニスズメたちは驚き、怯み、空へと散っていく。
しかし、サトシとピカチュウも限界だった。
二人はその場に倒れ込み、動けなくなってしまった。
それでも、サトシはピカチュウを離さなかった。
「……ピカチュウ……」
「ピカ……」
二人の間には、ほんの少しだけ、確かな絆が生まれていた。
◆金色に輝く鳥――運命の始まり
雨が降りしきる中。
傷ついたサトシは、ピカチュウを抱えながら空を見上げた。
オニスズメの群れは去った。
周囲には、雨音だけが響いている。
「……ピカチュウ。大丈夫か……?」
サトシが声をかけると、ピカチュウは小さく鳴いた。
「ピカ……」
その返事を聞いて、サトシは安堵した。
「よかった……。本当に、よかった……」
そして、ふと空を見上げたときだった。
雨雲の向こう。
一瞬、空が金色の光に包まれた。
「……え?」
サトシは顔を上げた。
そこにいたのは、見たこともない鳥ポケモンだった。
金色に輝く翼。
長く優雅な尾。
神秘的な光をまとい、雨空を悠然と飛んでいく姿。
サトシは息を呑んだ。
「な……なんだ、あのポケモン……?」
ピカチュウもまた、その姿を見つめていた。図鑑が反応するもデータなしと表示。
金色の鳥ポケモンは、まるで二人の旅立ちを見届けるかのように、空の彼方へと飛び去っていく。
サトシは、その姿を目に焼きつけた。
「……いつか、絶対に会ってやる!」
傷つき、疲れ果てていたはずの少年の瞳に、再び強い光が宿った。
この世界には、まだ知らないポケモンがいる。
まだ見ぬ景色がある。
そして、自分の知らない可能性が、どこまでも広がっている。
サトシはピカチュウを抱きしめ直した。
「行こう、ピカチュウ。俺たちの旅は、これからだ!」
「ピカチュウ!」
雨の中、少年とポケモンは再び歩き始める。
こうして、サトシとピカチュウの長い旅が始まった。
そして、遠く離れた道の先では、シンヤもまた、新たな仲間たちと共に歩みを進めていた。
二人の旅は、まだ交わらない。
だが、同じカントー地方の空の下で、それぞれの物語が確かに動き始めていた。
というわけで今回はサトシsideの話でした。
ちょくちょく、サトシsideの話なども出していくつもりです。