前話のサトシVSシゲルのように互角な戦いがあった一方――――
◆ブルーside
「頑張りなさい、リーフ!」
「うん! 行ってくるね、ママ!」
娘を見送るため、応援席に立つブルー。
笑顔で手を振るリーフを見つめながらも、彼女の胸中には一つの懸念があった。
「(おそらく、リーフの戦い方の癖には気づくわよね……シンヤ君)」
予選から本戦まで、リーフのバトルには一つのパターンが存在する。
それは彼女の強みであり、今のリーフを形作っている戦術でもある。
しかし、強みが明確であるということは、裏を返せば弱点にもなり得る。
「どーなるかしらねぇ……?」
ブルーは頬に手を当て、フィールドへ向かう娘の背中を見つめた。
◆シンヤside
一方、反対側の通路では、シンヤが応援席にいる三人へ声をかけていた。
「んじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい、あ・な・た♪」
ズルッ!
シンヤは思わず足を滑らせかけた。
「いきなり何を言う?!」
「あら? 見たことのあるドラマでは、こんな感じじゃないかしら?」
「完璧よ、レン様」
ラムが満足そうに頷く。
どうやら、これもラムの差し金らしい。
「姉様、何を教えているんです……」
「男を落とす108の方法」
「むしろ108もあるんですか……」
呆れるレム。
レンはそんな二人を気にする様子もなく、楽しそうに微笑んでいた。
「ふふっ。次はもっと自然に言えるように練習しておくわね」
「練習しなくていい!」
シンヤは軽く頭を抱えた。
「と、とりあえず行ってくる!」
そう言い残し、シンヤは逃げるように通路を進んでいった。
「頑張ってね、シンヤ!」
レンの声に、シンヤは片手を上げて応えた。
◆準決勝第二試合――シンヤVSリーフ
セキエイリーグのバトルフィールド。
観客席には大勢の人々が詰めかけ、会場全体が熱気に包まれていた。
今日行われるのは、準決勝第二試合。
先ほどのサトシVSシゲルに続く、もう一つの準決勝である。
対戦する二人もまた、今大会で高い注目を集めていた。
珍しいポケモンを数多く所有し、相手の予想を超える戦術を繰り出すシンヤ。
そして、天候を変える特性を持つキュウコンを中心に、晴天を利用した戦術を組み立てるリーフ。
どちらも、ここまでの試合で強烈な印象を残している。
フィールドの両側に、二人のトレーナーが向かい合った。
「悔いのないバトルをしよう」
「うん!」
リーフはボールを構える。
それを見て、シンヤもボールを手にした。
「私が絶対に勝つ!」
「いいや、勝つのは――俺だ!」
二人の視線が交差する。
こうして、準決勝第二試合が始まった。
「それでは、両者ポケモンを!」
◆第一戦――キュウコンVSハガネール
「お願い! キュウコン!」
「コォォォォ――――ン!」
リーフの先発はキュウコン。
九本の尾を揺らしながら、優雅にフィールドへ現れる。
「頼むぞ、ハガネール!」
「ネイィィィ――――ル!」
シンヤの先発はハガネールだった。
巨体をくねらせながら現れたハガネールは、キュウコンを鋭く見下ろす。
ギロリ。
「コンッ?!」
その威圧感に、キュウコンが思わず身をすくませた。
だが、すぐに気を取り直し、全身に力を込める。
キュウコンの周囲から熱気が広がった。
雲が消え、太陽の光がフィールドを照らす。
特性――ひでり。
キュウコンが場に出たことで、天候が晴れへと変化したのだ。
それを確認したシンヤは、内心で舌打ちする。
(やっぱりか……。父さん、余計なことしてやがる)
キュウコンの特性がひでりになっている。
つまり、マサユキがリーフへ渡したあの道具が使われたのだろう。
「それでは、試合開始!」
「よーし、キュウコン! かえんほう――」
「ハガネール! すなあらし!」
「ハンガァァ!」
ハガネールが身体を大きく回転させた。
次の瞬間、フィールドに砂嵐が巻き起こる。
猛烈な砂が吹き荒れ、太陽の光を遮っていく。
「うそっ?!」
リーフが目を見開いた。
せっかくキュウコンが晴れにした天候が、すなあらしによって上書きされてしまったのだ。
「続いて、ステルスロック!」
「ハガァァァァ!」
ハガネールが地面を揺らす。
すると、フィールドのあちこちに目に見えない岩の罠が展開されていった。
交代してポケモンが場に出た際、そのポケモンにダメージを与える設置技。
「っ……!」
リーフはすぐに状況を理解した。
「晴れじゃないけど、ママの持っていた図鑑に載ってた! ハガネールは、はがね・じめんタイプ! だったら炎技は抜群――!」
「ハガネール、ほえるだ!」
「ハンガァァァァァァァ!」
ハガネールが大きく口を開く。
凄まじい咆哮がフィールド全体に響き渡った。
「コンッ?!」
キュウコンの身体が赤い光に包まれる。
そして、強制的にボールへと戻されてしまった。
代わりにフィールドへ現れたのは――。
「ニドォ?!」
ニドクインだった。
突然の交代に驚くニドクイン。
さらに、場に出た瞬間、ステルスロックの破片が身体を襲う。
「ニドクイン!」
リーフが声を上げる。
しかし、シンヤは間髪入れずに指示を出した。
「じしんだ!」
「ネイィィィル!」
ハガネールが地面を強く踏みつける。
大地が激しく揺れ、フィールド全体に巨大な地震が広がった。
「ニドクイン!」
ニドクインは体勢を立て直そうとするが、足元が揺れて思うように動けない。
地面が大きく盛り上がり、衝撃がニドクインを襲った。
「な、何が起こってるの?!」
リーフは困惑する。
すなあらし。
ステルスロック。
ほえる。
そして、じしん。
シンヤはこれらを連続して使用することで、リーフのポケモンに交代時のダメージを与えながら、相手の手持ちを確認していた。
(前世の実機なら、いわゆる昆布戦法に近いな)
設置技で相手の交代を牽制し、ほえるやふきとばしで強制的に交代させる。
それによって、相手のポケモン全体へ少しずつダメージを蓄積させていく戦術だ。
今回は、ハガネールがすなあらし・ステルスロック・ほえるを使い、その役割を担っている。
しかも、シンヤは単にダメージを与えたいだけではない。
(さて……後ろを見せてもらおうか)
シンヤはリーフを見据えた。
「もう一度、ほえる!」
「ハンガァァァァァァァ!」
再び、巨大な咆哮がフィールドに響き渡る。
赤い光に包まれたニドクインがボールへ戻される。
そして、次に現れたのは――。
「フィーアッ?!」
リーフィアだった。
「おおっ?! 何だあのポケモンは?!」
観客席から驚きの声が上がる。
『な、何だあのポケモンは?! どことなくイーブイに似ているようですが……ここで入った情報です! あのポケモンはリーフィア! なんと、イーブイの進化系とのことです!』
珍しい進化形の登場に、会場がどよめいた。
控室にいるサトシやシゲルも、驚いた表情でフィールドを見つめている。
一方、リーフの応援席にいるブルーは、シンヤの戦術を見て目を細めた。
「(まさか、そんな戦法でリーフの弱点を突いてくるなんて……)」
ブルーは理解していた。
シンヤは最初から、リーフがキュウコンを先発に出す可能性を考えていたのだろう。
だからこそ、その対策としてハガネールを選んだ。
事前にシンヤの手持ちについて、ある程度の情報を得ていたブルーは、リーフにタイプ相性だけを伝えていた。
ハガネールがはがね・じめんタイプなら、炎技が弱点。
だから、キュウコンを先発にすれば有利に戦える。
そう考えていたはずだった。
しかし、シンヤが最初に使ったのは攻撃技ではない。
天候の上書きだった。
そして、これはリーフにとって非常に厄介な展開だった。
リーフの手持ちは、晴天を起点に火力や素早さを高める戦術を組み込んでいる。
以前からその傾向はあったが、キュウコンがひでりを手に入れてからは、より明確な戦術として完成していたのだ。
その根本を、シンヤは初手から崩しにかかっていた。
控室――シゲルの分析
「え、じゃあ、さっきシゲルが言ってたのって……」
サトシがシゲルを見る。
「ああ。リーフの戦術には、致命的な弱点がある」
「弱点?」
「天候の上書きだ」
シゲルはフィールドを見つめたまま答えた。
「キュウコンの特性がひでりだと分かってから、僕もリーフと当たった場合を想定していた。だから、手持ちのポケモンたちに天候を上書きできる技を覚えさせていたんだ」
「なるほど……」
「それに、シンヤは単に天候を変えただけじゃない。ステルスロックとすなあらしでダメージを与えながら、ほえるで後続を確認している」
シゲルはそこで一度言葉を切った。
「ただ、分からないこともある」
「何が?」
「なぜ、あそこでニドクインを逃がしたのか、ということだ」
シゲルは眉を寄せた。
ニドクインはじめんタイプを持つ。
ハガネールのじしんを受ければ、大きなダメージを与えられるはずだ。
それなのに、シンヤはニドクインを倒し切ろうとはしなかった。
「うーん……」
サトシは腕を組み、フィールドを見つめた。
「もしかしてだけどさ。シンヤの奴、何かのポケモンを狙い撃ちしようとしているんじゃねえ?」
「……どうしてそう思うんだい?」
「いやぁ、シンヤってバトルで無駄なことはしないと思うんだよな」
サトシは頭をかきながら答える。
「だから、その……俺の直感だけどさ。リーフの手持ちを全部見るっていうより、何か特定のポケモンを狙っているんじゃないかなって」
「……なるほど」
シゲルの表情が変わった。
もしサトシの予想が正しいのなら。
シンヤは、ただ相手の手持ちを確認しているわけではない。
特定のポケモンを場に引きずり出すために、交代を繰り返している可能性がある。
「(もしそうなら……そのポケモンを出された時、リーフは本当に勝ち目が――)」
シゲルはフィールドを見つめた。
◆第二戦――ハガネールとシンヤの狙い
場面は再びフィールドへ戻る。
リーフィアは、すなあらしとステルスロックによるダメージを受けていた。
「まだまだ行くぞ。ほえる!」
「ハンガァァァァァァァ!」
三度目の咆哮。
リーフィアの身体が赤い光に包まれる。
リーフはその瞬間、シンヤの狙いを考えた。
(何を待っているの……?)
ただ交代させているだけではない。
シンヤは、何かを確認している。
そして、何かを待っている。
そのことを本能的に感じ取っていた。
次に現れたのは――。
「ラフゥゥゥッ!?」
ラフレシアだった。
それを見たシンヤは、小さく呟く。
「ビンゴ」
すなあらしは収まりつつあったが、ラフレシアもステルスロックのダメージを受ける。
シンヤはそれを確認すると、すぐに指示を出した。
「戻れ、ハガネール」
「ネイィ……」
ハガネールがボールへ戻る。
「えっ?」
リーフは目を丸くした。
ここでハガネールを交代するのか。
しかも、次に出てきたのは――。
「いけ、ブーバーン!」
「バーン!」
マグマのような体を持つ炎タイプのポケモン、ブーバーン。
その姿がフィールドに現れた。
(――っ!)
リーフはすぐに判断しようとする。
(交代してキュウコンを出したい。でも、ステルスロックが邪魔で……!)
本来なら、炎タイプのブーバーンに対してラフレシアを場に残しておくのは危険だ。
しかし、ここでキュウコンに交代すれば、ステルスロックによるダメージを受ける。
さらに、再びハガネールを出されてしまえば、せっかくの交代が無駄になる可能性もある。
一瞬の迷い。
そして、その隙こそがシンヤの狙いだった。
「かえんほうしゃ!」
「――――っ! ヘドロばくだん!」
ラフレシアが毒の塊を放つ。
ブーバーンの口から放たれた炎と、ヘドロばくだんが正面から激突した。
ドガァァァァン!
爆発が起こり、煙が広がる。
しかし、その煙を突き破って炎が迫った。
ゴォォォォ!
「ラ、ラフゥゥ……!」
ラフレシアは何とか耐えた。
だが、ブーバーンはすでに目の前まで迫っていた。
「なっ、早――!」
「マッハパンチ!」
ドスン!
ブーバーンの拳がラフレシアを捉える。
毒タイプには半減される格闘技。
しかし、すでにかえんほうしゃを受け、ステルスロックのダメージも蓄積していたラフレシアにとって、ブーバーンの一撃は十分に致命傷だった。
「ラ、ラフゥゥ~~~!」
ラフレシアが地面に倒れる。
「ラフレシア、戦闘不能!」
リーフは苦しそうな表情でラフレシアをボールへ戻した。
(この展開……まるで、シンヤが全部読んでいるみたい)
ただの偶然ではない。
自分がどのポケモンを出すか。
どのタイミングで交代するか。
それすらも、シンヤの掌の上で動かされているような感覚だった。
「……ここは!」
リーフは顔を上げた。
シンヤは、そんな彼女の様子を見て静かに口を開く。
「そう。ここはハガネールが出てきてもいい。そして、ブーバーンに対抗するポケモンを出すなら――」
「――ニドクイン!」
リーフが声を上げた。
「ニドッ!」
ニドクインがフィールドへ現れる。
しかし、場に出た瞬間、ステルスロックのダメージが襲いかかった。
さらに、先ほどハガネールのじしんを受けた際のダメージも残っている。
ニドクインは明らかに消耗していた。
「試合再開!」
「ニドクイン、だいちのちから!」
「ニドォォォォ!」
ニドクインが地面に力を込める。
足元が光り、ブーバーンのいる場所が大きく盛り上がった。
しかし――。
「ブーバーン、自分自身にサイコキネシス! 宙に浮かべ!」
「バーンッ!」
ブーバーンは自分の身体にサイコキネシスをかけ、地面から浮かび上がった。
直後、足元の地面が爆発する。
だが、攻撃は届かない。
「ふっ……にほんばれだ!」
「えっ?!」
リーフは思わず声を上げた。
ブーバーンが両手を掲げる。
再び、フィールドに強い日差しが戻ってきた。
自分の戦術の根幹である晴天を、シンヤが自ら復活させたのだ。
「どういうこと……?」
シンヤはニドクインを見据えた。
「先ほどのラフレシア。覚えている技は、ヘドロばくだん以外だと……ちからをすいとるや、やどりぎのタネ辺りはあっただろ?」
「っ?!」
リーフの表情が強張る。
図星だった。
シンヤは続ける。
「キュウコンのひでりで天候を晴れにして、特性ようりょくそのラフレシアで素早さを上げる。そして、ちからをすいとるややどりぎのタネで相手の体力を削り、攻撃力も落としていく。そういう戦術だったんだろ?」
リーフは答えない。
しかし、その表情が答えを示していた。
シンヤは、ここまでのリーフの試合を見ていた。
相手のポケモンがラフレシアの前で徐々に消耗していくこと。
攻撃を受けても、回復技や吸収技で立て直していくこと。
そして、晴天によってラフレシアの素早さが上がり、相手の行動を制限していたこと。
それらを見て、戦術の全体像を推測していたのだ。
「じわじわと、だがじっくり腰を据えて戦う。それがお前の戦術だ。なら、その根本を壊せば――どうなるかな?」
シンヤは口元を緩めた。
「そのためにハガネールを用意した。天候を変えて、ステルスロックで交代を制限して、ほえるでお前の手持ちを確認する」
そして、ブーバーンへ視線を移す。
「ブーバーンの特性はやるき。眠り状態にならない。ラフレシアがねむりごなを使ってきても、簡単には止められないぞ」
「……!」
リーフは歯を食いしばった。
「続けよう。かえんほうしゃ!」
「っ、こっちはだいもんじだよ!」
「バーン!」
「ニッドォォォ!」
ブーバーンのかえんほうしゃと、ニドクインのだいもんじが激突する。
ゴォォォォォ!
同じ炎技。
単純な威力なら、だいもんじの方が上だ。
しかし、炎タイプのブーバーンが放つ炎は、晴天によってさらに強化されている。
ニドクインのだいもんじも晴天の恩恵を受けている。
それでも――。
「押し切れ!」
ゴォォォォ!
ブーバーンのかえんほうしゃが、だいもんじを突き破った。
炎の勢いがそのままニドクインへと迫る。
「ニドクイン!」
避けきれない。
ニドクインは炎をまともに受けた。
シュドォォォォン!
爆発音が響く。
そして――。
ドサッ。
ニドクインが地面に倒れた。
「に、ニドクイン戦闘不能!」
審判も、その光景に冷や汗をかいていた。
二人の会話が聞こえていたからこそ、シンヤがどれほど周到に準備していたのかを理解してしまったのだ。
「~~~~っ、ごめんね、ニドクイン。私の判断ミスだね」
リーフはボールに戻し、悔しそうに呟いた。
これで二匹目。
そして、次に選ぶポケモンは――。
「お願い、リーフィア!」
「フィーア?!」
リーフィアがフィールドへ現れる。
当然、ステルスロックのダメージを受ける。
だが、その身体は心なしか緑色に輝いていた。
「……ようりょくそのリーフィアか」
シンヤはすぐに気づいた。
(また父さんが……って思ったけど、さすがに今回は違いそうだな)
野生で夢特性のイーブイを捕まえたのだろう。
そう判断したシンヤは、リーフィアを見据えた。
「いくよ、リーフィア!」
「フィア!」
「試合再開!」
「つるぎのまいからの――つばめがえし!」
「フィーア!」
リーフィアが身体を回転させ、剣の舞を舞う。
攻撃力を高め、その勢いのままブーバーンへと突撃した。
しかし――。
「戻れ、ブーバーン!」
シンヤは即座にブーバーンをボールへ戻す。
「えっ?!」
「いけ、ゲンガー!」
「ゲンゲロゲェェェ!」
舌を出しながら、ゲンガーがフィールドへ現れた。
リーフは思わず目を見開く。
ブーバーンを交代させた理由が分からない。
だが、シンヤの狙いはすぐに明らかになった。
「ゲンガー……どくびし!」
「ゲーンガァ!」
ゲンガーが手をかざす。
その周囲から、毒を帯びた無数の撒菱がフィールドへと広がっていった。
「っ?!」
リーフの表情が変わる。
シンヤはゲンガーを見ながら、静かに告げた。
「さあ、どうする? どくびしは、毒タイプのポケモンを出せば解除できるぞ」
(――そのために、わざわざラフレシアとニドクインを先に倒したんだ)
リーフのニドクインは毒・じめんタイプ。
そしてラフレシアはくさ・毒タイプ。
本来なら、どくびしを解除できるポケモンだった。
しかし、そのニドクインはすでに戦闘不能。
つまり、リーフは今、どくびしを解除する手段はエースであるフシギバナを投入するしかない。
観客席がざわめく。
ブルーも、レンも、ラムも、レムも。
控室のサトシとシゲルも。
誰もが、シンヤの戦術に驚きを隠せなかった。
単に相手の弱点を突いているのではない。
相手の手持ちを確認し、後続の選択肢を限定し、さらに次の行動まで制限している。
しかも、この世界でのどくびしは、場に出た時だけではない。
毒の撒菱が散らばった地面に足を触れれば、そこから毒が体内へ入り込む危険がある。
晴天でようりょくその素早さを高めたリーフィアであっても、自由に動き回ることは難しくなった。
「……短期決戦するしかない!」
リーフは決断する。
「リーフィア! つばめがえし!」
「フィィィ……っア!」
リーフィアがゲンガーへ突っ込む。
しかし、フィールドに散らばった毒の撒菱に触れた。
「フィアッ……!」
毒が回り始める。
「躱して、たたりめ!」
ゲンガーは、リーフィアの動きがわずかに鈍った瞬間を見逃さなかった。
攻撃を寸前でかわす。
そして、回避した直後に放ったたたりめが、リーフィアへ直撃した。
たたりめ。
状態異常の相手に対して威力が倍増するゴーストタイプの技。
さらに、攻撃力の高いゲンガーが放った一撃である。
「フィアァァァ~~~!」
リーフィアが地面に倒れた。
「リーフィア、戦闘不能!」
これで、リーフのポケモンが三匹戦闘不能となった。
「リーフ選手のポケモンが先に三匹戦闘不能となったため、ここで三分間のインターバルに入ります!」
会場にアナウンスが響く。
シンヤはゲンガーをボールへ戻した。
一方、リーフもリーフィアをボールへ戻す。
「……戻って、リーフィア」
その表情には、悔しさと焦りが浮かんでいた。
何しろ、リーフのポケモンは三匹倒された。
それなのに、シンヤのポケモンには、ほとんどダメージが入っていない。
「――――っ」
リーフは俯いたまま、応援席へと戻っていく。
シンヤはその背中を見つめたあと、自分も応援席へ向かった。
三分間のインターバル
今回の試合は、ここまでのシンヤの戦い方とは明らかに違っていた。
これまでのシンヤは、相手の技や動きを見極め、状況に応じて攻め方を変える戦術を得意としていた。
だが、今回は違う。
試合が始まる前から、リーフの戦術を想定していた。
そして、ハガネールを先発に選び、天候を上書きする。
ステルスロックで交代を制限し、ほえるで手持ちを確認する。
ラフレシアとニドクインを倒して、どくびしを解除する手段を奪う。
最後には、どくびしとたたりめを組み合わせてリーフィアを倒した。
一つ一つの行動が、次の展開へとつながっている。
リーフの戦い方を理解したうえで、その強みを一つずつ潰していったのだ。
「……あれが、シンヤ君の本当の戦い方の一つなのね」
応援席のブルーは、静かに呟いた。
レンもまた、シンヤが座る場所を見つめていた。
「ふふっ……。今回はずいぶんと容赦がないわね」
「坊ちゃま、あの戦術は事前に考えていたのでしょうか?」
レムが尋ねる。
「おそらくね。相手の手持ちを確認してから、次に何を出すかまで考えていたんでしょう」
ラムは感心したように頷いた。
「まったく、坊ちゃまも恐ろしいことを考えるわね」
一方、フィールドでは、シンヤが静かに次の展開を考えていた。
(さて……ここからどう来る?)
リーフの残りは三匹。
フシギバナ、キュウコン、まだ見ぬもう1匹。
まだ油断はできない。
むしろ、ここからが本当の勝負になる。
シンヤは拳を握った。
(残り三匹も、簡単にはいかないだろうな)
三分間の休憩が終われば、再び戦いが始まる。
今までとは違う戦術を見せたシンヤ。
そして、追い詰められながらも、まだ勝利を諦めていないリーフ。
準決勝第二試合は、まだ終わらない。