そしてアンケートの結果次第であることをします。
◆インターバル――サトシの再起
応援席へ戻ったサトシを、タケシとカスミが迎えた。
「落ち着いていけ、サトシ」
「そうよ。まだ逆転できるはず!」
二人の言葉に、サトシは笑顔を見せる。
「ああ、分かってる。こっからどう勝つか……」
そう答えたものの、表情には迷いが残っていた。
これまでの三戦。
サトシが繰り出したポケモンたちの戦術は、ことごとくシンヤに対処されていた。
相手の技を読まれ、対策され、こちらが優位に立とうとした瞬間には、さらにその先を行かれる。
このままピカチュウを出しても、またシンヤのペースに持ち込まれるのではないか。
そんな考えが頭をよぎる。
「こうしてみると、全然だめだな、俺」
「えっ?」
タケシとカスミは、思わず互いの顔を見合わせた。
まさかサトシの口から、そんな言葉が出るとは思っていなかったのだ。
「シンヤはポケモンごとに、いろんな技を覚えさせてるだろ? 俺はあんまり、そういうことをしてこなかった。それが今、自分自身を追い詰めてるんだなって……」
サトシはフィールドを見つめる。
先ほどまでの戦いを思い返していた。
スピアーのドリルライナーなどは、野生の頃から使えていた技だ。
それ以外のピカチュウたちが使う技も、基本的にはそれぞれが覚えられる技の範囲に収まっている。
もちろん、それが悪いわけではない。
ポケモンが覚えた技を磨き、その技を使いこなして勝つ。それも立派な戦い方だ。
しかし、シンヤは違った。
豊富な知識と経験をもとに、ポケモンごとの長所を伸ばすだけでなく、不利な相手と対面したときにも対応できるよう育成している。
例えば、ピカチュウ。
電気技だけでなく、ノ、水、草、鋼、フェアリーといった異なるタイプの技まで扱える。
相性の悪い相手が出てきても、簡単には手詰まりにならない。
さらに特性もある。
シンヤのピカチュウは、電気技を吸収できる「ひらいしん」を持っていた。
もちろん、これは最初から狙っていたわけではなく、偶然その特性を持つ個体だったのだが、それも含めてシンヤは自分の戦術に組み込んでいる。
積み重ねてきたものが違う。
知識だけではない。
経験も、育成にかけてきた時間も、ポケモンたちと積み重ねてきた訓練も。
その差が、今の二人の戦いに表れていた。
シンヤの知識には前世で得たものも含まれている。
経験についても、父マサユキの発明品である学習装置を利用した訓練、ゴールデンボールブリッジでの百人バトル、サント・アンヌ号で開催されたバトル大会など、数多くの実戦を積んできた。
さらに、セキエイリーグが始まる前には、四天王カンナとの特訓まで経験している。
単純な実戦経験だけを比べても、サトシの百倍以上あってもおかしくない。
そこに、シンヤのポケモンたち自身が持つ向上心の高さが加わる。
仲間同士で競い合う独自の訓練。
そして、実家の番長ピカチュウを中心とした厳しい特訓。
それらすべてが、今のシンヤたちを形作っていた。
「グンジョウシティからの一件で、強くなったって思ってたけど……」
サトシは力なく笑う。
「これは自信がなくなるな……」
その瞬間。
「ピッカッ!」
バチチチチチッ!!
「し、痺れびれ!? なにすんだよ、ピカチュウ!」
ピカチュウがサトシに電撃を浴びせたのだ。
「ピカ! ピカピッカ! ピピカチュ!」
何かを伝えようとしているピカチュウ。
しかし、サトシには何を言っているのか分からない。
そこへ――。
「ピカチュウはこう言ってるニャ」
「……?」
「『何を弱気になってるんだ! まだ僕らが三匹も残っているんだ! 勝つか負けるかなんて関係ない! 最後まで自信を持って指示をしてくれ!』とニャ」
『?!』
サトシ、タケシ、カスミの三人が一斉に振り返る。
そこにいたのは――。
弁当を売り歩いているニャースだった。
「ロケット団!? ここ最近、姿を見ないと思ったら!」
「ニャーたちにも事情があってニャ。いろいろあるんだニャ。それより、ピカチュウの言葉はちゃんと伝えたニャよ」
ニャースはそう言うと、何事もなかったかのように離れていく。
そして再び、弁当売りを始めた。
サトシは、腕の中のピカチュウを見つめる。
「……そうだな」
そして、ゆっくりと立ち上がった。
「ここまで圧倒されたって、どんなに強いポケモントレーナーだって最後まで諦めないよな!」
パンッ!
サトシは両手で頬を叩き、気合いを入れ直す。
「悪かったな、ピカチュウ! ちょっと弱気になってたぜ!」
「ピカ!」
仕方のない奴だな、とでも言いたげに鳴くピカチュウ。
それでも、サトシが元気を取り戻したことが嬉しいのか、その表情は明るくなっていた。
◆反対側の応援席――シンヤの余裕
一方、その様子を反対側から見ていたシンヤは、静かに呟いた。
「持ち直したか」
「サトシ君が?」
「ああ。どうやら発破をかけられたようだな」
シンヤは飲み物を口に運びながら、落ち着いた表情でサトシたちを眺めていた。
まさか、あのニャースが出てくるとは予想外だったが。
「そうこなくちゃな。戦いで戦意喪失した相手ほど、つまらないものはないし」
「ほんと、バトルジャンキーね」
隣に座るレンが呆れたように言う。
「ふっ、褒めるな」
「褒めてないわよ……」
レンは小さくため息をつく。
(ま、まあ……バトルしている時のシンヤの顔、好きだけども……)
その本音は、胸の内にしまっておいた。
寄り添うように座る二人を、後ろから見ているラムとレムはニヤニヤしている。
「お二人とも、仲がよろしいですね」
「そうですね。レン様も嬉しそうですし」
「ちょ、ちょっと二人とも!」
顔を赤くするレン。
そんなやり取りを、観客席から見ていたシンヤの両親もいた。
「これは、お嫁さん最有力候補はレンちゃんね、あなた」
「そうだな、ミサキ」
「ふふっ。あの二人、いつの間にあんなに仲良くなったのかしら」
一方、少し離れた場所から二人を見ていたリーフは、なぜか黒いオーラを纏っていた。
「……へえ。ずいぶん仲が良さそうね」
その隣では、ブルーが慌ててリーフを宥めている。
「ちょ、ちょっとリーフ! 落ち着きなさいって!」
そんな周囲の様子をよそに、会場にはアナウンスが響き渡った。
『まもなくインターバルが終了します! 両選手はフィールドへお戻りください!』
シンヤは飲み物を置き、立ち上がった。
「さて、後半戦だ」
レンも立ち上がる。
「頑張ってね、シンヤ」
「ああ」
こうして、決勝戦の後半戦が始まろうとしていた。
◆後半戦開始――ギャラドスVSプテラ
『さあ、インターバル終了! セキエイリーグ決勝戦、後半戦の開始です!』
実況の声が会場に響き渡る。
両者がフィールドへ戻り、それぞれボールを構えた。
「頼む、プテラ!」
「ギャラドス!」
二つのボールが開く。
「ギャォォォォォ――!」
「グォォォォォン!」
サトシのポケモンはプテラ。
リザードンやピカチュウに並ぶ、強力なアタッカーの一匹だ。
対するシンヤはギャラドス。
その巨体がフィールドに現れた瞬間、会場に緊張が走る。
しかし、プテラが飛び立とうとした直後だった。
「っ……!」
プテラの足元で岩が弾ける。
ドサイドンが設置したステルスロック。
スピアーによってその一部は破壊されていたが、まだフィールドには残っていた。
プテラは登場と同時に、そのダメージを受けてしまったのだ。
「プテラ! まずは邪魔なステルスロックを破壊するぞ! フィールド全体に、いわなだれだ!」
「ギャラドス、岩を回避しつつ、りゅうのまい!」
プテラの周囲に大量の岩が浮かび上がる。
だが、それらはギャラドスへ向かって飛ぶのではなかった。
フィールド全体へ広がり、地面に残されたステルスロックを押し潰すように次々と落下していく。
一方、ギャラドスは舞うように身体を動かし、降り注ぐ岩をかわしていた。
シンヤは、プテラがステルスロックの破壊を優先すると読んでいた。
その隙に、りゅうのまいで攻撃と素早さを上昇させていく。
「よし! これでもう、ステルスロックのダメージをしばらく受けずに済む! 今度はギャラドスに向かって、いわなだれだ!」
「ギャラドス!」
プテラが翼を広げる。
大量の岩がギャラドスの周囲へ降り注いだ。
しかし――。
ギャラドスの特性、いかく。
登場した瞬間に相手の攻撃力を下げている。
そのため、プテラのいわなだれは本来の威力を発揮できていなかった。
それでも、岩の数は多い。
だが、シンヤとの特訓の成果はここにあった。
ギャラドスは大きな身体をくねらせ、岩と岩のわずかな隙間を通るように回避していく。
その巨体からは想像できないほど、しなやかな動きだった。
「なっ……!」
会場から驚きの声が上がる。
「その状態のまま、りゅうのまい。そして、こおりのキバ!」
「ギャラァァァ!」
ギャラドスは舞うように空中へ上昇する。
その口元に冷気が集まり、鋭い氷の牙が形成された。
「負けるな、プテラ! こっちはアイアンヘッドだ!」
「テラァァァ!」
プテラの頭部が硬質化し、鋼の輝きを帯びる。
氷の牙と鋼の頭部。
二匹が空中で激突した。
ガキィィィン!!
激しい衝撃が響き渡る。
しかし、ここで重要なのはギャラドスがすでに二度、りゅうのまいを積んでいるということだった。
攻撃力と素早さが大きく上昇したギャラドス。
その一撃は、プテラの想像を超えていた。
「テラァァァ?!」
ギャラドスのこおりのキバが、プテラを大きく吹き飛ばす。
「プテラ!」
シンヤは吹き飛んでいくプテラを追わなかった。
「さて――あまごいからの――――」
「ギャラドス!」
ギャラドスが空へ向かって鳴き声を上げる。
雲が広がり、雨が降り始めた。
そして、次の瞬間。
「かみなり!」
バリバリバリバリッ!!
巨大な雷が空から落ちる。
吹き飛ばされ、体勢を立て直せないプテラへ――直撃。
「プ、プテラァァァァァ!」
サトシの悲鳴が響く。
地面に倒れるプテラ。
「プテラ、戦闘不能!」
審判が旗を上げた。
サトシはプテラをボールへ戻す。
「よく頑張った、プテラ!」
そして、次のボールを手に取った。
「頼む、ピカチュウ!」
足元にいたピカチュウがフィールドへ飛び出す。
しかし、それを見たシンヤは即座に判断した。
「戻れ、ギャラドス」
「ギャラ?」
もういいのか?と言わんばかり。
シンヤは良いんだよ。という。
ギャラドスをボールへ戻す。
そして、次のボールを投げた。
「行け、コノヨザル!」
「プギィィィィ!」
タツマとの戦いでも活躍したコノヨザルが、フィールドへ降り立つ。
『試合再開!』
◆ピカチュウVSコノヨザル――怒りの拳
「この雨を利用するぞ! かみなりだ!」
「ピーカーチュゥゥゥ!」
ピカチュウが空へ向かって電撃を放つ。
雨雲から巨大な雷が落ち、コノヨザルを襲った。
バリバリバリバリッ!!
「プギィィィィ!」
しかし、コノヨザルは倒れない。
「そのまま、ビルドアップ!」
「プギィィィィ!」
コノヨザルは雷を受けながら、両腕に力を込める。
筋肉が膨れ上がり、攻撃と防御が高まっていく。
その姿に、サトシは目を見開いた。
(あの雷を受けながら、まだ動けるのか!?)
もちろん、電気技が全く効いていないわけではない。
ダメージは確実に蓄積している。
それでも、コノヨザルは耐えながら自分を強化していた。
「もう一回、ビルドアップ!」
「プギィィィ!」
再び力を高めるコノヨザル。
「こうなったら! ピカチュウ、十万ボルトを続けながら走り回れ!」
「ピピカッチュ!」
ピカチュウはフィールドを駆け回りながら、次々と電撃を放つ。
コノヨザルはその動きを追いながら、近くにあった岩場へ目を向けた。
ドサイドンが作り、先ほどの戦いで残していった岩場。
コノヨザルはそこへ拳を叩きつけた。
「ふんどのこぶし!」
「プギャァァァァァ!」
ドゴォォォン!!
巨大な岩場が粉々に砕け散る。
その衝撃で、ピカチュウは電撃を止めざるを得なかった。
そして――。
「プギィィィ!」
コノヨザルが一気に前進する。
砕け散った岩が巻き上げた粉塵。
それが視界を遮る目くらましとなっていた。
コノヨザルはその中を駆け抜け、ピカチュウが電撃を放っていた場所へと迫る。
「ピカッ!?」
粉塵の向こうから、ピカチュウの目の前に巨大な影が現れた。
冷や汗が流れる。
一方、粉塵によって視界を奪われたサトシは、必死に周囲を見渡していた。
「ピカチュウ! どこだ!? 大丈夫か!?」
だが、煙の中は見えない。
しかし、シンヤには確信があった。
コノヨザルが、ピカチュウの目の前にいる。
それは波動の眼を通して見たわけではない。
こんな隙が生まれた場面で、コノヨザルがその場に留まっているはずがない。
長く一緒に訓練してきたからこそ分かる、仲間への信頼だった。
「ドレインパンチ!」
「プギィィィヤァァァァ!」
ドスン!!
粉塵の中から、強烈な一撃が響いた。
ビルドアップによって高まった攻撃力。
そして、これまで雷を受け続けたことで威力を増したふんどのこぶしの影響もあり、コノヨザルの攻撃は凄まじいものになっていた。
ピカチュウの体力が、ドレインパンチによって奪われていく。
「ピッ?!」
サトシは、悲鳴が聞こえた方向を振り向いた。
やがて粉塵が晴れていく。
そこにいたのは――。
「ピィィカァァァ……」
目を回して倒れているピカチュウ。
その横には、堂々と立つコノヨザルの姿があった。
「ピカチュウ、戦闘不能!」
「ピカチュウ!」
サトシが駆け寄ろうとする。
すると、コノヨザルは倒れたピカチュウをそっと抱え上げ、サトシの前まで運んできた。
そして、気絶しているピカチュウを差し出す。
「あ……」
サトシは少し驚きながらも、ピカチュウを受け取った。
コノヨザルはそれを見届けると、シンヤの側へ戻っていく。
その風貌には似合わない、紳士的な振る舞いだった。
「し、紳士だ……」
「顔に似合わず、な……」
観客席から、そんな声が聞こえてくる。
コノヨザルは気にする様子もなく、シンヤの隣へ戻った。
サトシはピカチュウを優しく抱きしめる。
「よく頑張ったな、ピカチュウ。ゆっくり休んでくれ」
そして、最後のボールを手に取った。
「いけ、リザードン!」
「グオォォォォォオォ!」
フィールドに現れたリザードンは、やる気満々だった。
ちょうどその瞬間、ギャラドスが発生させた雨雲が消え、雨が止む。
シンヤはコノヨザルを見た。
「ふっ、戻れ、コノヨザル」
「プギィ!」
よくやった、と声をかけてボールへ戻す。
そして、最後の一匹を呼び出した。
「行け、相棒!」
「リザァァァァァァ!」
シンヤのリザードンがフィールドへ降り立つ。
二匹のリザードンが、真正面から向かい合った。
『おおっと! ここでリザードン同士の対決だ!』
会場が一気に沸き立つ。
「今度はリザードンマッチだ!」
「どっちが勝つんだ!?」
しかし、シンヤはここで終わるつもりはなかった。
ゆっくりと腕を掲げる。
左手のグローブに埋め込まれたキーストーンが輝いた。
「俺たちの紡いだ絆は、誰にも破れない!」
リザードンがシンヤを見つめる。
シンヤもまた、相棒を見つめ返した。
「限界の、その先へ突き進むぞ! リザードン、メガシンカ!!」
「リザァァァッ!!」
キーストーンが強く輝く。
光がリザードンを包み込んだ。
身体が変化する。
翼の形が変わり、全身を覆う体表は青黒く染まっていく。
そして、口元からは青く燃え盛る炎が噴き上がった。
光が収まる。
そこに立っていたのは――。
メガリザードンX。
「これが……リザードンのメガシンカ?!」
サトシは目を見開いた。
隣にいたリザードンもまた、驚いたように相手を見つめている。
これが、いつか自分たちもたどり着けるかもしれない極地。
そんな思いが、サトシとリザードンの胸に浮かんでいた。
シンヤは静かに構える。
「ファイナルラウンドだ」
『試合開始!』
◆最終決戦――メガリザードンXの力
「リザードン! かえんほうしゃ!」
「グオォォォォ!」
サトシのリザードンが大きく息を吸い込み、炎を吐き出す。
轟音とともに、巨大な炎がフィールドを走った。
「りゅうのまい!」
シンヤのリザードンは炎の軌道を見極め、身体をひねる。
炎が翼の先をかすめ、背後の地面を焼き焦がした。
その間にも、リザードンは舞うように身体を動かし、攻撃と素早さを上昇させていく。
メガリザードンXとなったことで、以前のように長時間空を飛び続けることは難しくなっている。
そのため、回避は最小限。
必要な動きだけで攻撃を避け、隙を作らずに強化を重ねていく。
「だったら接近して、ドラゴンクローだ!!」
「グオォォォォォ!」
サトシのリザードンが一気に距離を詰める。
両手の爪にドラゴンのエネルギーをまとわせ、左右から同時に振り下ろした。
「受け止めろ。ドラゴンクロー!」
ガキィィィィン!!
シンヤのリザードンは、片手のドラゴンクローだけで二つの攻撃を受け止めた。
両者の爪が激しく擦れ、火花が散る。
「なっ……!」
サトシが驚く。
次の瞬間、シンヤのリザードンは空いているもう片方の手に電気を集めた。
「かみなりパンチ!」
「グオォォォォォ!」
ドシュン!!
バチチチチチッ!!
「グォォォォン?!」
「リ、リザードン?!」
サトシのリザードンが大きく後退する。
メガリザードンXの特性は、かたいツメ。
接触技の威力を高める特性だ。
その効果は、接触技を主体とするポケモンにとって非常に強力。
ドラゴンクローやかみなりパンチといった技を使いこなすシンヤのリザードンにとって、まさに相性の良い特性だった。
「っ、距離を取るんだ!」
サトシはすぐに指示を出す。
だが――。
「なら、その間に舞え。リザードン」
「グオッ」
シンヤのリザードンは追撃を急がず、その場でりゅうのまいを繰り出す。
攻撃と素早さが、さらに上昇していく。
「がっ……! くっそ! 離れれば、そのりゅうのまいって技を使われる。近寄ればドラゴンクローにかみなりパンチ……!」
サトシは歯を食いしばる。
現在、サトシのリザードンが主に使っている攻撃技は、かえんほうしゃとドラゴンクロー。
この中で、メガリザードンXに大きなダメージを与えられる可能性があるのは、ドラゴンクローだ。
しかし、接近戦はシンヤのリザードンが最も得意とするところ。
ヒトカゲの頃から積み重ねてきた近接戦闘の経験がある。
仮に空中へ逃げようとしても、シンヤのリザードンには、げんしのちからやりゅうのはどうといった遠距離への対応手段もある。
近距離でも遠距離でも戦える。
攻撃を受け止め、回避し、相手の隙を突く。
まさに万能型のエースだった。
そのため、サトシが本来持っている直感や、状況に応じた即興の対応力が発揮されにくい。
シンヤは、サトシの戦い方そのものを封じるように立ち回っていた。
「――考え込むのは、お前らしくないな」
「?!」
サトシが一瞬、反応に遅れる。
その隙を逃さず、素早さの上昇したシンヤのリザードンが一気に接近した。
「かえんほうしゃで迎え撃て!」
「回避。そして連打だ!」
サトシのリザードンが炎を吐く。
しかし、シンヤのリザードンは最小限の動きで炎をかわし、そのまま距離を詰めた。
「かみなりパンチ!」
ズガガガガガガガ!!
連続する拳の嵐。
かたいツメによって威力を高められた接触技が、サトシのリザードンを襲う。
一撃。
二撃。
三撃。
拳が命中するたびに、電撃が全身を駆け抜ける。
「グォォォ……!」
効果抜群の電撃が、次々と身体へ叩き込まれる。
サトシのリザードンは、必死に腕を動かして反撃しようとする。
だが、その動きをシンヤのリザードンは読んでいた。
攻撃を受け流し、さらに一歩踏み込む。
「リザードン! 反撃だ!」
「グオォォォ!」
サトシのリザードンが、渾身の力でドラゴンクローを振るう。
しかし――。
「遅い!」
シンヤのリザードンは身体をわずかに傾け、その一撃をかわした。
そして、再び拳を叩き込む。
ズガァァン!!
衝撃でサトシのリザードンが地面を滑る。
ついに膝をついた。
そもそも、同じリザードンであっても、積み重ねてきたものが違う。
シンヤはヒトカゲの頃から育成に力を入れてきた。
リザードへ進化してからも、リザードンになってからも、ひたすら訓練を続けてきた。
技の威力、精度、使い方。
一対一での訓練も重ね、相棒と共に戦い方を磨き続けてきたのだ。
対するサトシのリザードンは、もともとはクロスのヒトカゲだった。
捨てられたところをサトシに拾われ、共に強くなってきたポケモンである。
そこには確かな絆がある。
しかし、トレーナーとしての育成方針や、これまで積み重ねてきた経験の差は大きかった。
サトシがこれまで多くの強敵に勝ってきたのは、優れた直感と機転の良さ、そして状況に応じた即興の戦術があったからだ。
では、その強みを発揮させないように立ち回られたらどうなるのか。
今の戦いが、その答えだった。
「グォォォ……」
サトシのリザードンが膝をつく。
その身体から、赤いオーラが立ち上り始めた。
尻尾の炎も大きく燃え上がる。
特性、もうか。
ピンチになったことで、炎技の威力が上昇している。
「リザードン! まだだ! 立ち上がれ!」
「グォォォ……!」
サトシの声に応えるように、リザードンが再び立ち上がる。
その姿に、会場から声援が飛ぶ。
「頑張れ、リザードン!」
「まだ終わってないぞ!」
サトシは歯を食いしばる。
まだ勝負は終わっていない。
しかし――。
問題は、相手のメガシンカした姿だった。
メガリザードンXは、進化前のほのお・ひこうタイプから、ほのお・ドラゴンタイプへと変化している。
そのため、もうかによって炎技の威力が上がったとしても、炎技では大きなダメージを与えられない。
残された有効打は、ドラゴンクローなどの技。
だが、接近戦はシンヤのリザードンの十八番。
攻撃を仕掛けたところで、返り討ちに遭う可能性が高い。
それでも、サトシは諦めなかった。
「リザードン! 最後まで戦うぞ!」
「グオォォォォ!」
その声に、シンヤはわずかに目を細める。
(そうだ。それでいい)
ここまで来た決勝戦だ。
最後まで全力でぶつかってきてほしい。
シンヤは相棒を見つめる。
「ドラゴンクローに、かみなりパンチのパワーを合わせろ!」
「グォォォン!」
リザードンが両手を構える。
片方の爪にはドラゴンのエネルギー。
もう片方の拳には強烈な電撃。
二つの力が重なり合う。
サトシのリザードンも、残された力を振り絞るように前へ踏み出した。
「リザードン! 迎え撃て!」
「グオォォォォォ!」
二匹が同時に地面を蹴る。
片方は、最後の力を振り絞った渾身の一撃。
もう片方は、ここまで積み重ねてきた技術と力を結集した一撃。
両者の攻撃が交差する。
ザシュン!!
バチィィィ!!
一瞬、フィールドが青白い光に包まれた。
そして――。
「グ……ォ……」
サトシのリザードンの動きが止まる。
その身体がゆっくりと傾き、地面へ倒れた。
ドスン。
「サトシ選手のリザードン、戦闘不能!」
審判が旗を上げる。
一瞬の静寂。
サトシは、倒れたリザードンを見つめたまま動かなかった。
「……リザードン」
シンヤのリザードンは、まだ立っている。
だが、その身体にも激しい疲労が見て取れた。
青い炎を揺らしながら、相棒は静かにシンヤを見つめている。
シンヤは小さく頷いた。
「よくやった、相棒」
◆決着――セキエイリーグ優勝者
『サトシ選手のポケモンが全て戦闘不能となったため、セキエイリーグ決勝戦!!』
実況者が大きく息を吸い込む。
会場の誰もが、次の言葉を待っていた。
『勝者は――――マサラタウンのシンヤ選手!!』
瞬間。
会場が爆発したような歓声に包まれた。
「うおおおおおおお!!」
「シンヤ選手、優勝だ!!」
「すげえ! 最後まで戦い抜いたぞ!」
「これがセキエイリーグの頂点か!」
観客席から、惜しみない拍手と歓声が降り注ぐ。
シンヤはゆっくりとリザードンへ近づいた。
「よくやった、相棒」
「グオォ!」
リザードンは、疲れた身体を起こすように翼を広げる。
そして、シンヤの前で力強く鳴いた。
シンヤはその首元に手を添えた。
「ありがとう。お前がいてくれたから、ここまで来られた」
リザードンは嬉しそうに目を細める。
その後、メガシンカが解け、元のリザードンの姿へ戻った。
一方、サトシは倒れた仲間のもとへ駆け寄っていた。
「リザードン!」
膝をつき、そっと身体を支える。
「……よく頑張ったな」
サトシの声は、いつもの明るさとは少し違っていた。
悔しさ。
申し訳なさ。
そして、最後まで戦ってくれたことへの感謝。
さまざまな感情が胸の中で入り混じっていた。
「ごめんな。最後まで勝たせてやれなかった」
リザードンは目を開け、サトシを見つめる。
そして、ゆっくりと顔を近づけた。
「……リザードン?」
サトシはその頭を撫でる。
「ありがとな。お前が最後まで戦ってくれたこと、俺は絶対に忘れない」
リザードンは小さく鳴いた。
その姿を見た観客席から、再び拍手が起こる。
勝者を称える拍手だけではない。
最後まで戦い抜いた敗者への、敬意を込めた拍手だった。
サトシはリザードンをボールへ戻す。
「ゆっくり休んでくれよ」
そして、ゆっくりと立ち上がった。
フィールドの向こうでは、シンヤがこちらを見ていた。
サトシは一度、深く息を吸い込む。
そして――。
「シンヤ!」
シンヤが振り返る。
「おめでとう! 優勝、本当にすごかったぜ!」
その言葉に、シンヤは少しだけ目を見開いた。
そして笑う。
「ありがとう、サトシ」
「でも、次は負けないからな!」
サトシの目には、すでに次の戦いへの闘志が戻っていた。
シンヤはその姿を見て、笑みを深める。
「ああ。次に戦うときも、全力で来いよ」
「もちろんだ!」
二人は互いに拳を握る。
敗者と勝者。
その間にあるのは、敵意ではない。
全力で戦った者同士にしか分からない、確かな敬意だった。
◆優勝の瞬間――仲間たちの歓声
「シンヤ――!!」
応援席からレンの声が響いた。
「優勝おめでとう!」
「おめでとうございます、坊ちゃま様!」
ラムとレムも、満面の笑みで手を振っている。
シンヤはそちらを向き、軽く手を上げた。
「やったわね、シンヤ!」
レンは嬉しそうに笑っていた。
その目には、少しだけ涙が浮かんでいる。
「……ありがとう、レン」
「ふふっ。こちらこそ、最後まで見届けられてよかったわ」
ラムとレムも頷く。
「本当に素晴らしいバトルでした」
「坊ちゃま様の努力が報われましたね」
観客席では、両親も立ち上がって拍手を送っていた。
「やったわね、あなた!」
「ああ。よく頑張ったな、シンヤ」
ミサキは嬉しそうに目元を拭う。
マサユキも、誇らしげに息子を見つめていた。
その少し離れた場所では、リーフが複雑そうな表情でシンヤを見ている。
「……本当に優勝しちゃったわね」
「何よ、嬉しくないの?」
ブルーが尋ねる。
「嬉しいに決まってるでしょ。ただ……」
リーフはレンの方へ視線を向ける。
「まあ、今はいいわ」
ブルーは苦笑した。
一方、サトシの応援席では、タケシとカスミが彼を迎えていた。
「お疲れ、サトシ」
「よく頑張ったわね」
サトシは少し悔しそうに笑う。
「負けちまったな……」
「ああ。でも、最後まで諦めなかったじゃないか」
タケシはサトシの肩に手を置く。
「今回の結果を、次に生かせばいい」
「そうよ。まだまだ強くなれるんだから!」
カスミも笑顔で続ける。
サトシは二人を見て、ゆっくりと頷いた。
「ああ。もっと強くなる。次にシンヤと戦うときは、絶対にもっといい勝負をするんだ!」
その言葉には、先ほどまでの弱気はなかった。
悔しさを胸に刻みながらも、前を向いている。
それがサトシだった。
◆長い旅の一区切り
フィールド中央では、優勝したシンヤに改めて拍手が送られていた。
長かったセキエイリーグ。
数々の強敵との戦い。
仲間たちと積み重ねてきた訓練。
そして、最後に立ちはだかったサトシとの決勝戦。
そのすべてが、今ここにつながった。
シンヤはフィールドを見渡す。
そこには、戦い抜いたポケモンたちの姿があった。
傷つきながらも最後まで戦ってくれた仲間たち。
そして、自分を信じてついてきてくれた仲間たち。
「……みんなのおかげだな」
シンヤは小さく呟いた。
リザードンが隣で鳴く。
「グオォ!」
その声に、シンヤは笑みを浮かべた。
「そうだな。まだ終わりじゃない」
セキエイリーグで優勝した。
それは大きな成果だ。
しかし、ポケモンとの旅はまだ続いていく。
まだ見ぬ地方。
まだ出会っていないポケモン。
そして、いつか再び戦うことになる強敵たち。
シンヤは空を見上げた。
長かったセキエイリーグは、ここに幕を閉じる。
だが、彼と仲間たちの物語は、まだまだ続いていくのだった。
原作ではないチャンピオンリーグをするべきか、それともその後の話を進めてジョウトなどに行くか
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チャンピオンリーグやっていくか
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いいやここはジョウトなどにいくだろう