シンヤの手持ちポケモンは、かなりの数に上る。
その中でも、主力に分類されるポケモンたちは、それぞれ強い個性を持っている。
そして、セキエイリーグを終えた頃。
その主力メンバーの中でも、二匹のポケモンにちょっとした変化が起きていた。
ブースターとサンダース。
イーブイ三兄妹の兄と弟として進化した二匹である。
実はこの二匹、それぞれ別のポケモンと特別な関係になっていた。
ブースターの相手は、レンのニンフィア。
そして、サンダースの相手はリーフのリーフィアだった。
どちらも同じイーブイの進化系。
しかし、二組の恋模様はまったく違っていた。
ブースターとニンフィアは、以前から互いを特別に思っていた。
一方、サンダースとリーフィアは、偶然の出会いから始まった恋だった。
そして、そんな二組を見守るトレーナーたちにも、実は少しずつ変化が訪れていた。
◆ブースターとニンフィア――ずっと隣にいた相手
まずは、ブースターとニンフィア。
この二匹は、もともと仲が良かった。
ブースターがまだイーブイだった頃から、ニンフィアとは何かと一緒にいることが多かったのだ。
ニンフィアが近くに来れば、ブースターは自然とそちらへ顔を向ける。
ニンフィアがリボン状の触角を伸ばせば、ブースターはそれに鼻先を寄せる。
そして、ニンフィアもまた、ブースターに対しては特に甘かった。
ある日の午後。
庭の木陰で、ブースターが気持ちよさそうに横になっていた。
そこへニンフィアがやってくる。
「フィア♪」
ブースターは目を開けると、嬉しそうに尻尾を揺らした。
「ブイ」
ニンフィアは隣に座り、リボン状の触角をそっとブースターの首元へ伸ばす。
ふわふわした毛並みに触れる触角。
ブースターは目を細め、気持ちよさそうに喉を鳴らした。
今度はブースターが顔を寄せ、ニンフィアの頬へ鼻先をすり寄せる。
「ニンフィア……♡」
ニンフィアは嬉しそうに鳴くと、もう一本の触角をブースターの身体に巻きつけた。
ブースターも嫌がるどころか、そっとその触角に頬を寄せる。
二匹はそのまま、ぴったりと寄り添った。
もはや、そこにいることが当たり前。
互いに相手を探すことも、特別な言葉を交わすこともない。
ただ、気づけば隣にいる。
それが二匹にとっての自然な関係だった。
そんな様子を少し離れた場所から見ていたレンは、柔らかく微笑む。
「……本当に仲が良いわね」
隣にいたシンヤも頷いた。
「ああ。ブースターが進化する前から、ずっとあんな感じだったからな」
「ニンフィアも、ブースターが進化したときはとても嬉しそうだったものね」
「あのときも、真っ先に駆け寄っていたな」
二人は微笑ましい光景を眺める。
そのとき、ニンフィアがブースターの首元に顔を埋めた。
ブースターはニンフィアの頭を優しく舐める。
「……ふふっ」
レンが小さく笑う。
「なんだか、二匹を見ていると安心するわ」
「そうだな」
シンヤも同意する。
そして、何気なくレンの方へ視線を向けた。
レンも同じタイミングでシンヤを見ていた。
一瞬、視線が合う。
「……何?」
「いや、レンも嬉しそうだなと思って」
「ええ。自分のポケモンが幸せそうなのは嬉しいもの」
そう言ってレンは笑う。
シンヤも自然と笑顔になった。
そのまま二人は、しばらく隣に並んでいた。
互いに特別なことをしているつもりはない。
ただ、同じ景色を見て、同じように笑っているだけ。
しかし、その距離は以前よりも少し近くなっていた。
少し離れたところから見ていたラムとレムは、そっと顔を見合わせる。
(姉様)
(何よ、レム)
(ブースターとニンフィア、飼い主たちに似ている気がします)
(……そうね)
二人はシンヤとレンをちらりと見る。
そして、また顔を見合わせた。
(ポケモンたちの方が、素直ですね)
(レム。余計なことは言わないでおきなさい)
◆サンダースとリーフィア――突然の一目惚れ
一方、サンダースとリーフィアの関係は、少し事情が違っていた。
こちらは、出会いそのものが偶然だった。
きっかけは、リーフがシンヤの実家を訪れたときのこと。
広大な庭を見たリーフは興味を持ち、自分のポケモンたちを外へ出していた。
草原や森林、水辺など、さまざまな環境が整えられた庭。
リーフィアにとっても、過ごしやすい場所だった。
「リーフィア、気持ちよさそうね」
「リーフィ♪」
リーフィアは嬉しそうに草の上を歩き、木々の間を抜けていく。
そのときだった。
「サンダース?」
少し離れた場所から、サンダースが姿を現した。
進化したばかりの体にも慣れ、最近は庭の中を自由に走り回ることが増えていた。
サンダースはリーフィアの姿を見つけると、軽く鳴いて近づいていく。
「ダース!」
「リーフィ?」
二匹の視線が合った。
その瞬間。
リーフィアの動きが止まった。
サンダースは特に気にする様子もなく、軽快な足取りでリーフィアの前までやってくる。
「ダース?」
サンダースが首を傾げる。
リーフィアは、じっとその姿を見つめていた。
全身に宿る電気の輝き。
進化したばかりとは思えないほど軽やかな身のこなし。
そして、こちらを不思議そうに見つめる表情。
リーフィアの胸が、どきりと跳ねた。
(……素敵)
初めて会ったポケモン。
それなのに、目が離せない。
もう少し近くで見たい。
もっと声を聞きたい。
できるなら、一緒に過ごしたい。
リーフィアは、自分の胸に芽生えた感情を確かめるように、そっとサンダースへ近づいた。
「ダース?」
サンダースが不思議そうに鳴く。
リーフィアは一度だけ深呼吸するように胸を上下させた。
そして――。
「フィア!」
はっきりとした声で鳴いた。
サンダースが目を丸くする。
リーフィアは、そのまま真っ直ぐにサンダースを見つめた。
「リーフィ! フィーア!」
その声には、迷いがなかった。
もちろん、人間の言葉を話しているわけではない。
だが、そこに込められた気持ちは十分に伝わってくる。
――あなたが好き。
――もっとあなたと一緒にいたい。
――私と、特別な関係になってほしい。
出会ったばかりの相手に、リーフィアは自分の気持ちを真っ直ぐに伝えたのだ。
サンダースは、しばらく固まっていた。
まさか、初対面の相手からこんなにもはっきりと好意を向けられるとは思っていなかったのだろう。
「フィア……?」
リーフィアは、少しだけ不安そうに首を傾げる。
断られるかもしれない。
突然すぎたかもしれない。
それでも、気持ちを伝えずに後悔するよりはよかった。
リーフィアは、もう一度サンダースを見つめた。
すると――。
「……サンダース」
サンダースは、ゆっくりとリーフィアへ近づいた。
そして、リーフィアの額に自分の額をそっと寄せる。
「ダース♪」
その声は、とても優しかった。
リーフィアの表情がぱっと明るくなる。
サンダースは、リーフィアの頬に鼻先を寄せた。
その仕草は、彼なりの返事だった。
――自分も、君と一緒にいたい。
リーフィアは一瞬目を丸くしたあと、嬉しそうに鳴いた。
「リーフィアァ♪」
そして、サンダースの身体へ頬を寄せる。
こうして、二匹の恋は始まった。
そこへ、少し離れた場所からリーフの声が聞こえてきた。
「リーフィア? どうしたの?」
リーフは二匹の様子を見て、思わず足を止めた。
リーフィアがサンダースにぴったりと寄り添っている。
しかも、いつもよりずっと嬉しそうだ。
「……あら?」
リーフは目を細めた。
「もしかして、もう仲良くなったの?」
「リーフィ♪」
リーフィアは振り返り、嬉しそうに鳴いた。
サンダースも、まんざらではない様子で胸を張る。
リーフは二匹を見つめ、くすりと笑った。
「ふふっ。そういうことだったのね」
リーフィアは少し照れたように顔をそらす。
しかし、サンダースの隣から離れるつもりはないようだった。
◆それぞれの恋模様――トレーナーたちの距離
それからというもの、リーフィアはサンダースを見つけると、真っ先に駆け寄るようになった。
サンダースが庭を走れば、一緒についていく。
サンダースが休んでいれば、その隣に座る。
サンダースが別のポケモンと話していると、少しだけ気になった様子で近くに寄っていく。
ただし、無理に割り込むことはない。
サンダースが自分を見てくれると、嬉しそうに尻尾を揺らす。
そんなリーフィアの真っ直ぐな好意に、サンダースも次第に惹かれていった。
ある日のこと。
シンヤとレン、リーフの三人は、庭で二組の様子を眺めていた。
ブースターはニンフィアの隣でくつろぎ、ニンフィアはリボン状の触角でブースターの毛
並みを整えている。
少し離れた草原では、サンダースとリーフィアが追いかけっこをしていた。
「リーフィア、すっかりサンダースに夢中ね」
リーフが笑う。
「最初に見たときから、あんなに積極的だったものね」
レンも微笑んだ。
シンヤは少し驚いたように頷く。
「初めて会ったときに、あそこまで真っ直ぐ告白するとは思わなかったな」
「ふふっ。リーフィアらしいでしょう?」
「確かに」
リーフは嬉しそうに笑う。
そして、少しだけシンヤの方へ視線を向けた。
「……でも、好きな相手に自分から気持ちを伝えるって、なかなか勇気がいることよね」
「そうだな」
シンヤは素直に頷いた。
「相手がどう思っているか分からないんだから、簡単なことじゃない」
「シンヤは、そういうとき自分から伝えられる?」
「え?」
不意に尋ねられ、シンヤはリーフを見た。
リーフは何気ない顔をしているが、その視線はシンヤから離れない。
レンも、隣で静かにシンヤの反応を待っていた。
「……相手との関係にもよるだろ。大切な相手なら、ちゃんと伝えたいとは思う」
「そう」
リーフは小さく微笑んだ。
「それなら、いいわね」
その言葉に、レンもほんの少しだけ頬を緩めた。
「シンヤらしい答えね」
「そうか?」
「ええ」
レンはシンヤの隣に立ち、彼の袖を軽くつまんだ。
「少なくとも、何も言わずに相手を困らせるようなことはしないでしょう?」
「まあ、それはな」
シンヤは笑う。
そのやり取りを見て、リーフは少しだけ目を細めた。
そして、レンとシンヤの距離を見比べる。
(……二人とも、もう少し自分のことに気づけばいいのに)
そんなことを思いながら、リーフは視線をポケモンたちへ戻した。
一方、レンもまた、リーフの視線に気づいていた。
しかし、何も言わない。
ただ、シンヤの袖をつまむ指先に、ほんの少しだけ力を込めた。
シンヤはそれに気づかず、ポケモンたちを見つめている。
「……本当に、仲が良いな」
「そうね」
「幸せそうで何よりだ」
「ええ。私もそう思うわ」
レンは笑顔で答えた。
その様子を見ていたラムとレムは、またも顔を見合わせる。
(姉様)
(今度は何よ)
(ポケモンたちの方が、ずっと素直ですね)
(……否定できないわね)
二人はそっとため息をついた。
◆そして、ある日――
それからしばらく経った、ある日のこと。
シンヤが別荘の訓練場でポケモンたちの様子を確認していると、慌てた様子のシャワーズが駆け寄ってきた。
「シャワァッ!」
「ん? どうした、シャワーズ?」
シャワーズはシンヤの袖をくわえ、ぐいぐいと引っ張る。
「お、おい。何だ? 何かあったのか?」
「シャワッ! シャワッ!」
どうやら、すぐに来てほしいらしい。
シンヤは首を傾げながら、近くにいたレンとリーフへ声をかけた。
「レン、リーフ。ちょっと来てくれ」
「どうしたの?」
「シャワーズが何か見つけたみたいなんだ」
「そう。じゃあ、行ってみましょう」
三人はシャワーズに案内され、庭の奥へと向かった。
そして――。
「…………」
「…………」
「…………」
三人は、目の前の光景を見て固まった。
そこには、ブースターとニンフィア。
そして、サンダースとリーフィアがいた。
四匹はそれぞれ、ぴったりと寄り添っている。
しかも、こちらに気づいても離れようとしない。
「ブイ……♡」
「フィア……♡」
「ダース……♡」
「フィーア……♡」
……とにかく、ラブラブだった。
しかし、三人が驚いた理由はそれだけではない。
四匹のそばに、何かが置かれていた。
白く、丸いもの。
それが一つではない。
二つでもない。
四つ。
シンヤはゆっくりと視線を落とした。
そして、しばらく沈黙したあと、ぽつりと呟く。
「……タマゴ、だよな」
レンもリーフも、同じものを見つめていた。
「……うん」
「……そうね」
それぞれのペアのそばに、タマゴが二つずつ。
合計四つのタマゴが、大切そうに並べられていた。
シンヤは、ゆっくりとブースターを見る。
次に、サンダース。
そして、ニンフィアとリーフィア。
「……もしかして」
シンヤの視線が、レンとリーフへ向く。
二人とも、顔が赤い。
「俺のブースターとサンダースが……」
レンは視線を逸らした。
リーフも、何とも言えない表情で頬を押さえている。
シンヤは、もう一度四匹を見た。
ブースターはニンフィアに寄り添い、ニンフィアはリボン状の触角でブースターの首元を優しく撫でている。
サンダースはリーフィアの隣で胸を張り、リーフィアは嬉しそうにその体へ頬を寄せていた。
そして、二組の間には、それぞれ二つずつのタマゴ。
「…………」
シンヤは額に手を当てた。
「つまり……」
一度言葉を区切る。
そして、レンとリーフの顔を交互に見た。
「二匹とも、ニンフィアとリーフィアとラブラブになって……その結果、タマゴが生まれ
たってことか」
『言葉に出さないで!?』
レンとリーフの声が重なった。
「いや、だって事実だろ!?」
「事実でも、わざわざ口にしなくていいでしょう!」
「そ、そうよ! もう少し言い方があるでしょう!?」
二人は真っ赤になって抗議する。
シンヤは困ったように頭を掻いた。
「いや、俺だって驚いてるんだよ……」
その間にも、四匹は幸せそうに寄り添っていた。
ブースターは、まるで自慢するように胸を張る。
サンダースも、リーフィアの隣で得意げに鳴いた。
どうやら、何も問題ないらしい。
むしろ、二匹とも誇らしげだった。
レンはニンフィアのそばへしゃがみ込む。
「ニンフィア……おめでとう。良かったわね」
「ニンフィア♪」
ニンフィアは嬉しそうに鳴き、ブースターへ頬を寄せる。
リーフもリーフィアのそばへ近づいた。
「リーフィア、あなたもおめでとう」
「リーフィ♪」
リーフィアは嬉しそうに尻尾を揺らした。
サンダースも、その隣で満足そうに鳴く。
「……そっか」
シンヤは四匹と四つのタマゴを見つめ、少しだけ表情を和らげた。
「家族が増えるんだな」
その言葉に、レンとリーフもようやく笑顔を浮かべる。
「そうね」
「ええ。これから賑やかになりそう」
しかし、シンヤはすぐに現実的な問題へと思考を切り替えた。
「とりあえず、タマゴを安全に保管できる場所を用意しないとな。温度や環境も確認しな
いと」
「ふふっ。もうそんなことを考えているの?」
「当たり前だろ。大切な命なんだから」
シンヤは真剣な顔で答えた。
その様子を見て、レンとリーフは微笑む。
こういうところが、シンヤらしい。
そして、シャワーズはようやく役目を終えたとばかりに、ほっとした様子で鳴いた。
「シャワァ……」
「知らせてくれてありがとうな、シャワーズ」
シンヤが頭を撫でると、シャワーズは嬉しそうに目を細めた。
一方、ブースターとニンフィア。
サンダースとリーフィア。
二組は相変わらず、互いに寄り添っている。
その姿は、まるでこれから生まれてくる家族を待ち望んでいるかのようだった。
シンヤは改めて四匹を見つめる。
「……まさか、リーグが終わってすぐに家族が増えるとはな」
「ふふっ。おめでたいことじゃない」
レンが笑う。
リーフも頷いた。
「ええ。これからが楽しみね」
こうして、シンヤとレン、そしてリーフの周囲には、新しい家族が増えることになった。
ブースターとニンフィア。
サンダースとリーフィア。
ずっと隣にいた相手と、出会った瞬間に心を奪われた相手。
始まりは違っても、二組の恋は同じように実を結んだ。
そして、その幸せは四つのタマゴという形で、新たな一歩を迎えたのだった。
――なお。
その後、シンヤは母ミサキにこのことを報告した。
するとミサキは、満面の笑みでこう言ったという。
「まあ! シンヤ、もうおじさんになるのね!」
「いや、俺の子供じゃないからな!?」
その日、実家にはシンヤのツッコミが響き渡った。
原作ではないチャンピオンリーグをするべきか、それともその後の話を進めてジョウトなどに行くか
-
チャンピオンリーグやっていくか
-
いいやここはジョウトなどにいくだろう