◆順調すぎる旅路?
トキワシティを出発して、しばらく。
緑豊かな木々が遠くに見え始めた頃、シンヤは地図を確認しながら歩いていた。
「うん。この道で間違いないな。もう少し進めば、トキワの森か」
「ヒトカゲ!」
隣を歩くヒトカゲが元気よく返事をする。
ポッポは頭上を飛び、周囲の様子を確認していた。コイキングは父親の発明品である携帯用の水容器の中で跳ね、ニドラン♂とマンキーはシンヤの両側を歩いている。
マサラタウンを出発してから、まだ一日も経っていない。
それなのに、手持ちのポケモンは五匹になり、すでに何度も野生ポケモンとの戦闘やトレーナーバトルを経験している。
シンヤは仲間たちを見渡して、満足げに頷いた。
「みんな、少しずつ実戦に慣れてきたな」
もちろん、まだ課題はある。
技の威力や命中精度、スタミナ、指示を受けたときの反応。それぞれのポケモンに確認すべきことは多い。
だが、実際に戦ってみなければわからないこともある。
だからこそ、シンヤは道中で出会ったトレーナーたちとのバトルを、できる限り経験させることにしていた。
ただし、疲労が蓄積しているポケモンには無理をさせない。
連戦で動きが鈍れば交代させ、必要なら休憩を取る。
勝利することだけではなく、仲間たちの状態を把握しながら経験を積ませること。それが
シンヤの方針だった。
――ところが。
「おーい! そこの君! ポケモンバトルしないか!?」
「こっちも挑戦者を探してたんだ!」
「お前、見たところ旅を始めたばかりだろ? 俺たちが相手になってやるよ!」
「……あれ?」
シンヤは思わず足を止めた。
前方に一人。
道の脇に二人。
少し進んだ先にも、また別のトレーナー。
どういうわけか、トキワの森へ向かう道には、十人近いトレーナーが待ち構えていたのである。
(……なんだ、このエンカウント率!?)
ゲームなら、トレーナーが視界に入ると勝負を挑んでくることは珍しくない。
だが、実際に十人近くも待ち構えていると、さすがに圧迫感があった。
「えっと……みんな、そんなにバトルがしたいのか?」
「もちろんだ!」
「旅のトレーナーと戦えば、自分の実力もわかるからな!」
「さあ、誰からでもかかってこい!」
トレーナーたちは、やる気満々だった。
シンヤは苦笑しつつ、五つのモンスターボールを確認する。
「……よし。みんな、順番にいこう。ただし、疲れたらすぐに交代だ。勝ち負けよりも、今できることを確かめるぞ」
「ヒトカゲ!」
「ポッポー!」
マンキーは拳を突き上げ、ニドラン♂もやる気を見せる。
コイキングだけは、いつもどおり水の中で跳ねていた。
「よし、それじゃあ始めよう!」
こうして、シンヤたちの道中バトルが始まった。
◆ヒトカゲ――四つの技で戦場を支配する!
最初の相手が繰り出したのは、野生で見かけることも多いポケモンだった。
「いけっ! コラッタ!」
「ヒトカゲ、頼む!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲが前へ出る。
相手のコラッタが勢いよく飛び込んでくると、シンヤは落ち着いた声で指示を出した。
「ヒトカゲ、ひのこ! 相手の足元を狙え!」
ヒトカゲは小さな炎を吐き出す。
相手はそれを避けようと横へ跳んだ。
「今だ。えんまく!」
ヒトカゲが口から黒い煙を吐き出す。
煙は地面を這うように広がり、相手の視界を遮った。
「なにっ!? どこにいる!?」
相手のトレーナーが声を上げる。
しかし、シンヤは煙の広がり方と相手の動きを見ていた。
「ヒトカゲ、右側へ回り込め。煙の外へ出た瞬間を狙うんだ!」
「カゲッ!」
ヒトカゲは煙の中を低い姿勢で移動する。
相手のコラッタが煙から飛び出した瞬間――。
「ひのこ!」
炎が命中した。
「よし!」
相手は体勢を立て直そうとする。
だが、ヒトカゲは追撃を急がなかった。
相手がどこへ動こうとしているのかを観察し、距離を保ちながら次の攻撃を準備している。
(いいぞ。えんまくで相手の視界を奪うだけじゃなく、相手の動きを限定するために使えている)
煙は、ただ隠れるための技ではない。
相手の視界を遮り、判断を遅らせ、動ける方向を絞る。
そこへ、ひのこを置くように放つことで、相手の回避先まで攻撃範囲にできる。
もちろん、風向きや相手の嗅覚、煙への対応力によって効果は変わる。
だが、今のヒトカゲは、その場の状況をうまく利用できていた。
さらに別のバトルでは、ヒトカゲが新たに覚えていた技を使う機会もあった。
「ヒトカゲ、りゅうのいぶき!」
「カゲェーッ!」
ヒトカゲの口から、竜の力を帯びた息吹が放たれる。
相手のポッポは横へ跳び、直撃を避けようとした。
「追いかけなくていい! 相手の着地点に、ひのこ!」
ヒトカゲはシンヤの指示に合わせて炎を放った。
回避した先に攻撃が待ち構えていたことで、相手は再び進路を変えざるを得なくなる。
その隙を利用し、ヒトカゲは距離を詰めすぎないように動きながら、攻撃を重ねていった。
相手は反撃の機会を探すものの、えんまくによる視界の妨害、ひのこによる牽制、りゅうのいぶきによる圧力に翻弄される。
そして、体勢を崩したところへ最後の攻撃が決まった。
「そこまで! ヒトカゲの勝ち!」
「よし、よくやった!」
シンヤが褒めると、ヒトカゲは嬉しそうに鳴いた。
「カゲーッ!」
(覚えた技をただ使うんじゃなく、戦術の一部として組み込めている。いい成長だ)
ヒトカゲは、ひのこ、えんまく、りゅうのいぶきという技を使い分け、さらに状況に応じ
て立ち回りを変えていた。
実際に使用する技の組み合わせはバトルによって変わるが、シンヤが指示を出すときに重視しているのは、相手に攻撃を当てることだけではない。
相手の選択肢を減らし、自分たちが有利に動ける状況を作ること。
ヒトカゲは、その考え方を少しずつ身につけ始めていた。
◆ポッポ――一撃離脱のヒット&アウェイ!
次に活躍したのは、ポッポだった。
「ポッポ、頼むぞ!」
「ポッポー!」
ポッポが空へ舞い上がる。
対戦相手は、飛行するポッポを見て身構えた。
「空を飛んでいるからって有利とは限らないぞ! 迎え撃て!」
相手のポニータが攻撃を仕掛ける。
「ポッポ、上昇! そこから、でんこうせっか!」
「ポッポッ!」
ポッポは急上昇し、勢いをつけて相手の側面へ突っ込んだ。
攻撃が命中する直前、相手は体をひねって衝撃を逃がそうとする。
それでも、ポッポの体当たりは相手を押しのけた。
「そのまま離脱!」
ポッポはすぐに距離を取る。
相手が追いかけようとしたところで、ポッポは旋回し、木々の間を抜けるように飛んだ。
「逃がすな!」
相手が追跡を試みる。
だが、ポッポは真正面からぶつかり合うつもりはなかった。
「もう一度、でんこうせっか! 今度は低い位置から!」
ポッポは高度を落とし、相手の視界の端から一気に接近する。
攻撃を仕掛けた直後には、再び上昇して距離を取った。
攻撃、離脱、旋回、再接近。
相手が反撃の構えを取れば、ポッポは正面から突っ込まず、方向を変えて攻撃のタイミングをずらす。
「くっ……! ちょこまかと!」
相手のトレーナーが悔しそうに声を上げる。
シンヤはポッポの動きを観察しながら指示を出した。
「ポッポ、相手の目線を見ろ! 攻撃を仕掛けると見せて上へ抜けろ!」
ポッポは一瞬、相手へ向かって加速する。
相手のポケモンが迎撃しようと構えた瞬間、ポッポは急角度で上昇した。
攻撃は空を切る。
その隙に、ポッポは背後へ回り込んだ。
「今だ! でんこうせっか!」
「ポッポーッ!」
一撃が決まる。
相手は体勢を崩し、地面に膝をついた。
「そこまで! ポッポの勝ち!」
「よしっ!」
シンヤは笑顔でポッポを迎えた。
「いい動きだったぞ! 攻撃したあとに、ちゃんと離脱できていたな!」
「ポッポー!」
ポッポは得意げに鳴いた。
(でんこうせっかを覚えたことで、攻撃の選択肢がかなり増えたな)
ポッポの戦い方は、相手の懐に飛び込んで力比べをするものではない。
速度を利用して攻撃を当て、相手が反撃する前に離脱する。
さらに、飛行能力と旋回を組み合わせることで、相手に攻撃のタイミングを読ませにくくする。
ただし、急加速と方向転換を繰り返せば、それだけ体力も消耗する。狭い場所では飛行ルートが制限され、相手の攻撃に巻き込まれる危険もある。
だからこそ、シンヤはポッポのスタミナを確認しながら、無理のない範囲で戦わせていた。
「よし、ポッポ。少し休もう。次は別の仲間に任せるぞ」
「ポッポ!」
ポッポはシンヤの肩に戻り、満足そうに翼をたたんだ。
◆コイキング――笑ったトレーナーたちの誤算!
そして、三匹目。
「次はコイキングだ!」
「……は?」
相手のトレーナーは、シンヤが出したポケモンを見て、目を丸くした。
赤い体。
大きな口。
水の中で跳ねること以外には、あまり役に立たないと思われがちなポケモン。
コイキングだった。
「おいおい、コイキングかよ!」
「そんなポケモンで勝てるわけないだろ!」
「雑魚なコイキングじゃんwww!」
周囲にいた数人のトレーナーまで笑い始めた。
シンヤは、特に怒る様子もなく肩をすくめた。
「へえ。コイキングを見ただけで勝った気になってるんだ?」
「何だと?」
「まあ、いいや。コイキング、頼むぞ!」
「コイーッ!」
コイキングが元気よく跳ねる。
相手のドードは、余裕の表情で構えた。
「いけっ! 攻撃しろ!」
相手が攻め込んでくる。
「コイキング、はねる!」
「……は?」
コイキングは、その場で大きく跳ねた。
相手の攻撃は空振りに終わる。
「何やってんだよ! 攻撃しろ!」
相手のトレーナーが声を荒らげる。
シンヤは笑みを浮かべた。
「コイキング、もっと高く! とびはねる!」
「コイィィィーッ!!」
コイキングは勢いよく跳躍した。
その体が、先ほどよりもはるかに高く舞い上がる。
相手のポケモンは上空を見上げ、落下地点を予測しようとした。
「よし、落ち着いて見ろ! コイキングの動きを追え!」
しかし、コイキングはただ真っ直ぐ落ちてくるわけではなかった。
跳躍の勢いと体の向きを利用し、空中でわずかに姿勢を変えながら落下してくる。
相手は着地点を予測して動いたが、コイキングの体はその予測から少しずれた。
ドゴォンッ!!
コイキングが地面へ着地する。衝撃で土煙が舞い上がった。
「うわっ!?」
相手のドードは視界を遮られ、コイキングの位置を見失った。
「見えねえ! どこだ!?」
シンヤは、土煙の広がり方と相手の足音を観察していた。
コイキングは跳ねるたびに大きく動くため、正確な位置を把握するのは簡単ではない。
だが、シンヤの波動の眼は、コイキングの位置と動きを追っていた。
「コイキング、少し右へ跳ねろ! 相手がそっちを向いたら、今度は左側からとびはねる!」
「コイーッ!」
コイキングは地面を蹴り、再び跳躍する。
相手のポケモンが音のした方向を向いた、その反対側からコイキングが落下してきた。
「なっ、そっちか!?」
ドゴォンッ!!
再び地面が揺れ、土煙が舞い上がる。
コイキングの攻撃が相手のポケモンに命中した。
「まだだ! 相手の動きを確認して、もう一度!」
コイキングは勢いよく跳ね上がる。
今度は相手も、ただ立ち尽くすことはしなかった。
土煙の中から距離を取り、コイキングが落下してくる方向を見極めようとする。
しかし、シンヤは相手の動きも見ていた。
「コイキング、真正面じゃない! 少し角度を変えて、相手の横へ!」
コイキングは空中で体の向きを変え、相手の横側へ落下した。
ドンッ!!
今度の一撃は、相手の体勢を崩すのに十分だった。
「そこまで! コイキングの勝ち!」
静寂。
先ほどまで笑っていたトレーナーたちは、ぽかんと口を開けていた。
「……え?」
「コイキングが……勝った?」
「う、嘘だろ……」
シンヤはコイキングを迎えながら、満足そうに頷いた。
「よくやった、コイキング!」
「コイーッ!」
コイキングは、まるで褒められたことが嬉しいと言わんばかりに、元気よく跳ねた。
(ゲームでのイメージだけで判断すると、こういうことになるんだよな)
もちろん、コイキングがどんな相手にも勝てるわけではない。
とびはねるは着地の衝撃を攻撃に利用できる一方、着地点を読まれれば反撃を受ける危険がある。跳躍の高さや勢いを調整するにも、練習が必要だ。
それでも、コイキングにはコイキングなりの戦い方がある。
シンヤは、その可能性を見つけて引き出したのだ。
「さて、コイキング。頑張ったな。少し休もう」
「コイッ!」
シンヤはコイキングの状態を確認し、疲労が蓄積する前に休ませることにした。
その様子を見て、先ほど笑っていたトレーナーの一人が、小さく呟いた。
「……ポケモンって、見た目だけで判断しちゃいけないんだな」
「そういうことだよ」
シンヤは振り返り、笑顔で答えた。
「どんなポケモンにも、そのポケモンにしかできないことがあるんだからさ」
◆ニドラン♂――冷静な連携で勝機をつかめ!
次に前へ出たのは、ニドラン♂だった。
「ニドラン♂、頼むぞ!」
「ニドッ!」
ニドラン♂は、相手のニョロモをしっかり見据えていた。
先ほどのバトルで、自分がどんな戦い方をすればいいのかを考えていたのかもしれない。
シンヤは波動の眼で状態を確認し、ニドラン♂の集中力が高まっていることを感じ取った。
「よし、まずはきあいだめ!」
「ニドッ!」
ニドラン♂は体を低くし、全身に力を込める。呼吸が整い、視線が鋭くなる。
きあいだめは、攻撃の精度や急所を狙う意識を高めるための技だ。使ったからといって必ず急所に当たるわけではないが、ここぞという場面で攻撃を決めるための準備になる。
相手のニョロモがみずでっぽうをしてくる。
「ニドラン♂、躱してどくばり!」
ニドラン♂は角から毒針を飛ばし、相手の進路を牽制した。
相手は横へ避ける。
「いいぞ。次は、つつく!」
ニドラン♂が素早く接近し、角を使って相手を突いた。
「まだまだ! もう一度攻めろ!」
相手が反撃しようとした瞬間、ニドラン♂は相手の動きに合わせて身を引き、攻撃をかわす。その隙を逃さず、再びつつく。
相手のニョロモが体勢を崩した。
「今だ! にどげり!」
「ニドォッ!」
ニドラン♂は二度、連続して蹴りを繰り出した。
相手は衝撃を受けて後退し、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「そこまで! ニドラン♂の勝ち!」
「よし、いいぞ!」
シンヤは頷いた。
ニドラン♂は、きあいだめで集中力を高め、どくばりやつつくで相手の動きを牽制し、隙を見てにどげりを決めた。
ただ力任せに攻めるのではなく、技を組み合わせて戦えている。
(やっぱり、こいつは距離を変えながら戦うのがうまいな)
遠距離からの牽制、中距離での様子見、近距離での連続攻撃。
ニドラン♂は、状況に応じて戦い方を切り替えることができる。
まだ経験を積む必要はあるが、将来が楽しみなポケモンだった。
「ニドラン♂、よく頑張ったな。いい戦いだったぞ」
「ニドッ!」
ニドラン♂は、嬉しそうにシンヤを見上げた。
◆マンキー――戦うことが大好きなアタッカー!
そして、最後に出番を迎えたのはマンキーだった。
「マンキー、いくぞ!」
「マンキーッ!!」
モンスターボールから飛び出した瞬間、マンキーは拳を突き上げた。
その姿を見たシンヤは、思わず苦笑した。
(本当にバトルが好きなんだな、こいつ……)
マンキーは、相手の同族のマンキーを見つけるなり、今にも飛びかかりそうな勢いだった。
「よし、まずはきあいだめ!」
「マンキー!」
マンキーは足を踏みしめ、全身に力を込めた。
その目は、相手の動きを捉えて離さない。
「いけっ! 攻めろ!ひっかくだ!」
相手のトレーナーが指示を出す。
両者が一気に動き出した。
「マンキー、みだれひっかき!」
マンキーは素早く腕を振り、連続攻撃を繰り出した。
相手は防ごうとするが、マンキーの攻撃は一度で終わらない。
右、左、さらに踏み込んで一撃。
相手が後退すると、マンキーは間合いを詰める。
「いいぞ! 相手の動きを見て、攻撃をつなげ!」
マンキーは相手の反撃を身をひねってかわし、再び攻撃へ移った。
「からてチョップ!」
マンキーが腕を振り下ろす。
相手のポケモンは防御しようとするが、マンキーは真正面から力比べを続けるのではなく、体の向きを変えながら攻撃を重ねていった。
「マンキーッ! マンキーッ!」
その表情は、戦うことが楽しくて仕方がないとでも言いたげだった。
(すごい勢いだな……! 攻めること自体が好きなんだろうけど、相手の動きを見ながら連続攻撃を続けられている)
マンキーは、ただ興奮して突っ込んでいるわけではなかった。
相手の防御が固ければ攻撃の角度を変え、距離を取ろうとすれば追いかける。
もちろん、まだ攻め急ぐ場面もある。
しかし、実戦の中で相手の反応を見ながら戦う感覚をつかみ始めているようだった。
「マンキー、最後まで油断するな! 相手の反撃に注意しろ!」
「マンキー!」
マンキーは攻撃の勢いを保ちつつ、相手の動きを確認する。
そして、相手が体勢を崩した瞬間――。
「からてチョップ!」
一撃が決まった。
相手のポケモンはその場に倒れ、戦闘不能となった。
「そこまで! マンキーの勝ち!」
「よしっ! よくやった、マンキー!」
「マンキーッ!!」
マンキーは勝利の喜びを全身で表現するように、何度も拳を突き上げた。
シンヤはその姿を見ながら、笑顔を浮かべる。
(こいつ、ほんとに戦うのが好きなんだな……)
そのときだった。
マンキーが拳を握りしめた瞬間、腕の周囲に一瞬だけ、青白い火花のようなものが走った。
「……ん?」
シンヤは目を細めた。
今のは、見間違いではない。
マンキーの腕に、電気のようなものがまとわりついたのだ。
しかし、ほんの一瞬のことだった。
次の瞬間には、その光は消えていた。
マンキー自身は気づいていないのか、まだ興奮した様子で飛び跳ねている。
(……やっぱり、かみなりパンチを覚えかけているんだ)
シンヤは、先ほど波動の眼で見た技の一覧を思い出した。
ほのおのパンチ、かみなりパンチ、れいとうパンチ、じごくづき。
どれも未使用・未完成。
だが、今の現象を見る限り、少なくとも電気を拳にまとわせる感覚は、少しずつ形になり始めているらしい。
(ただ技の名前を知っているだけじゃない。体の中で、実際に何かが起き始めているんだ……)
シンヤはマンキーの様子を観察し続けた。
まだ威力や制御は不明。
意図して発動できるのかどうかもわからない。
それでも、戦闘経験を積むことで、マンキー自身の中にある感覚が刺激されている可能性はある。
(なるほどな……。実戦で動きを覚え、試行錯誤するうちに、未完成だった技が少しずつ形になっていくのかもしれない)
もちろん、バトルを重ねれば必ず技を習得できるというわけではない。
技の習得には、ポケモン自身の適性や理解、体の使い方、エネルギーの制御など、さまざまな要素が関係する。
それでもマンキーの場合、観察した動きを自分で試そうとする性質が、習得のきっかけになっている可能性は十分にあった。
「マンキー、今の腕の光……お前、何か感じたか?」
「マン?」
マンキーは首を傾げる。
どうやら、本人には自覚がないらしい。
「……だよな」
シンヤは小さく笑った。
「まあ、焦らず確かめていこう。無理に技を出そうとする必要はないからな」
「マンキーッ!」
マンキーは元気よく返事をし、再び拳を突き上げた。
その様子を見て、シンヤは改めて思った。
このポケモンは、きっとこれからも戦いを通して成長していく。
そして、その過程でどんな技を身につけるのか。
それを見届けることも、トレーナーとしての楽しみの一つなのだ。
◆十人近いトレーナーとのバトルを終えて
こうしてシンヤは、道中で出会ったトレーナーたちとのバトルを重ねていった。
ヒトカゲは、えんまくやりゅうのいぶきを使い、相手の視界や動きを制限しながら戦う方法を学んだ。
ポッポは、でんこうせっかを活かしたヒット&アウェイ戦法で、攻撃と離脱を繰り返す戦い方に磨きをかけた。
コイキングは、とびはねるの跳躍力と着地の衝撃を活用し、相手の視界が悪くなった状況でもシンヤの指示を頼りに攻撃を命中させた。
ニドラン♂は、きあいだめで集中力を高め、どくばり、つつく、にどげりを使い分けて、距離に応じた戦い方を見せた。
マンキーは、きあいだめからのみだれひっかきやからてチョップを中心に、積極的な攻撃で相手を圧倒した。そして、戦闘中には、かみなりパンチにつながるかもしれない不思議な兆候まで見せた。
ただし、全員が同じだけ戦ったわけではない。
シンヤは各ポケモンの体力や疲労を確認し、連戦による負担が大きくなる前に交代させていた。勝てるからといって、無理をさせるつもりはない。
「みんな、お疲れさま!」
シンヤは五匹を見渡した。
「今日のバトルで、できることも課題も見えてきたな。これから少しずつ、もっと上手くなっていこう!」
「ヒトカゲ!」
「ポッポー!」
「コイーッ!」
「ニドッ!」
「ウッキーッ!」
五匹の元気な声が響いた。
シンヤは笑顔で頷き、前方へ視線を向ける。
そこには、緑の木々が広がる森の入口があった。
◆トキワの森、到着!
「……よし。着いたな」
目の前に広がるのは、カントー地方でも有名な自然豊かな森。
トキワの森。
木々は高く伸び、枝葉が空を覆うように広がっている。森の奥からは、鳥ポケモンの鳴き声や、草むらを動く小さな生き物の気配が感じられた。
風が吹くたび、葉がさらさらと音を立てる。
シンヤは足を止め、森の入口をじっと見つめた。
「ここから先は、野生のポケモンとの出会いも増えそうだな」
ゲームで何度も通った場所。
それでも、実際に目の前にすると、印象はまったく違う。
草むらの奥にどんなポケモンがいるのか。
木々の間を飛んでいるのは何なのか。
森の地形を、どんなふうに戦闘へ利用できるのか。
想像するだけで、胸が高鳴る。
「みんな、森の中では周囲に気を配ろう。無理に戦わず、危険そうなら距離を取る。疲れたらすぐに休むぞ」
「ヒトカゲ!」
ポッポは上空へ飛び上がり、周囲を見回した。
ニドラン♂は地面の匂いを確かめるように鼻を動かし、マンキーは森の奥に興味津々といった様子で拳を握る。
コイキングは容器の中で元気に跳ねた。
「ははっ。みんな、やる気は十分だな」
シンヤはバッグの肩紐を直した。
トキワジムには入れなかった。
だが、その代わりに道中で多くのトレーナーと戦い、仲間たちの成長を確かめることができた。
そして今、新たな冒険の舞台が目の前にある。
「さあ、行こう。トキワの森を抜けて、ニビシティを目指すぞ!」
シンヤの声に、五匹のポケモンたちが応える。
木漏れ日の差す森の入口へ、少年と仲間たちは一歩を踏み出した。
この森で待ち受ける出会いは、まだ誰にもわからない。
けれど、シンヤは確信していた。
ここでもきっと、仲間たちは新たな可能性を見せてくれるだろう。
【シンヤの手持ち一覧】
今回は連戦ボーナスでレベルがより上がりやすくなっているぞ!
・ヒトカゲ LV:13→LV:18
ヒトカゲはみだれひっかき・りゅうのいかり・ほのおのキバを覚えた!
ヒトカゲは進化可能レベルに到達!
・ポッポ LV:10→16
ポッポはオウムがえし・つばさでうつを覚えた!
・コイキング LV:10→15
コイキングはじたばたを覚えた!
・ニドラン♂ LV:10→15
ニドラン♂はみだれづき・てだすけを覚えた!
・マンキー LV:10→15
マンキーはおいうち・けたぐり・ちきゅうなげを覚えた!
【実家のポケモン】
・コラッタ LV:9
・コダック LV:10
・ヤドン LV:10
・ニョロモ LV:10
・トサキント LV:10
・ニドラン♀ LV:10
・オニスズメ LV:10
・ポニータ LV:10
・ドード LV:10