ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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番外編 イーブイ4姉妹

 

 

セキエイリーグが終わり、シンヤたちがマサラタウンで過ごしていたある日のこと。

 

 

シンヤの実家では、ちょっとしたおめでたい出来事が起ころうとしていた。

 

 

その中心にあるのは、父マサユキが製作したポケモンのタマゴ専用の孵化装置。

 

 

温度や湿度を自動で調整し、タマゴの状態を確認できるという、いかにも発明家のマサユキらしい装置だった。

 

 

そして、その中に収められているのは四つのタマゴ。

 

 

二つは、シンヤのブースターとレンのニンフィアの間に生まれたもの。

 

 

残る二つは、シンヤのサンダースとリーフのリーフィアの間に生まれたものだ。

 

 

つまり、これから生まれる四匹は、父親がそれぞれ違うものの、同じ日に孵化を待つイーブイたちだった。

 

 

もっとも。

 

 

この四つのタマゴが見つかったとき、シンヤがどれほど驚いたかについては、今さら説明するまでもないだろう。

 

 

「……まさか、本当に四つとも無事に育つとはな」

 

 

シンヤは孵化装置の前で、感慨深そうに呟いた。

 

 

その隣にはレンとリーフ。

 

 

さらに、ブースター、ニンフィア、サンダース、リーフィアの四匹も集まっている。

 

 

「ふふっ。楽しみねぇ、シンヤ」

 

 

「うん! どんな子たちが生まれるんだろう!」

 

 

レンは穏やかに微笑み、リーフは目を輝かせていた。

 

 

そして、そのとき。

 

 

ピシッ。

 

 

「……ん?」

 

 

小さな音がした。

 

 

四人――いや、三人と四匹の視線が、一斉に孵化装置へ向けられる。

 

 

ピシッ、ピシピシッ。

 

 

一つ目のタマゴに、ひびが入っていた。

 

 

「……来た!」

 

 

シンヤが声を上げる。

 

 

続いて、二つ目。

 

 

三つ目。

 

 

そして四つ目にも、次々とひびが入っていく。

 

 

「わぁ……!」

 

 

リーフが思わず両手を合わせた。

 

 

レンも身を乗り出す。

 

 

「ふふっ。みんな、同じ日に生まれたいのね」

 

 

そして。

 

 

パキンッ!

 

 

最初のタマゴが割れた。

 

 

「……ブイ?」

 

 

中から顔を出したのは、小さな茶色いポケモン。

 

 

ふわふわの毛並み。

 

 

大きな耳。

 

 

首元を覆うクリーム色の毛。

 

 

イーブイだった。

 

 

「ブイ……ブイ!」

 

 

生まれたばかりのイーブイは、きょろきょろと周囲を見渡す。

 

 

すると、ブースターとニンフィアが嬉しそうに駆け寄った。

 

 

「ブース!」

 

 

「フィア~♪」

 

 

二匹は小さなイーブイへ顔を近づけ、優しく身体を寄せる。

 

 

「ブイ……?」

 

 

イーブイは少し不思議そうに首を傾げたあと、嬉しそうに鳴いた。

 

 

「ブイッ♪」

 

 

「……おお」

 

 

シンヤは思わず笑みを浮かべた。

 

 

「ちゃんと親だって分かるんだな」

 

 

「ふふっ。可愛い……」

 

 

レンも嬉しそうに微笑む。

 

 

そして、その直後。

 

 

パキンッ!

 

 

二つ目のタマゴが割れた。

 

 

 

「ブイッ!」

 

 

こちらも元気なイーブイ。

 

 

しかし、三つ目が割れた瞬間。

 

 

「……ん?」

 

 

シンヤが目を見開いた。

 

 

「……あれ?」

 

 

「どうしたの、シンヤ?」

 

 

リーフが尋ねる。

 

 

「いや……あの子」

 

 

三つ目のタマゴから生まれたイーブイ。

 

 

その毛並みは、ほかのイーブイたちとは明らかに違っていた。

 

 

通常の茶色ではない。

 

 

淡い銀色を帯びた、柔らかな毛色。

 

 

「……色違いだ」

 

 

「えっ!?」

 

 

「本当!?」

 

 

レンとリーフが同時に声を上げた。

 

 

「ブイ~♪」

 

 

当の本人は、そんな驚きを知る由もなく、嬉しそうに尻尾を振っている。

 

 

「……まさか、四匹のうち一匹が色違いとはな」

 

 

シンヤは苦笑した。

 

 

そして、最後のタマゴも割れた。

 

 

「ブイッ! ブイブイ!」

 

 

元気な声とともに、四匹目のイーブイが姿を現す。

 

 

こうして。

 

 

四つのタマゴから、四匹のイーブイが無事に誕生した。

 

 

しかも。

 

 

「……ちょっと待て」

 

 

シンヤは図鑑を取り出し、四匹の情報を確認した。

 

 

「……全部、♀?」

 

 

「えっ?」

 

 

「……四匹とも?」

 

 

「うん」

 

 

シンヤが頷く。

 

 

「四匹ともメスだ」

 

 

「…………」

 

 

レンとリーフが顔を見合わせた。

 

 

そして。

 

 

「「……すごい偶然!」」

 

 

二人の声が重なった。

 

 

こうして、四匹のイーブイ姉妹が誕生したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 四匹の引き取り先

 

 

それから数日後。

 

 

シンヤ、レン、リーフの三人は、シンヤの家のリビングに集まっていた。

 

 

話題はもちろん、生まれたばかりの四匹のイーブイについてだ。

 

 

「さて……どうしたもんか」

 

 

シンヤが腕を組む。

 

 

「そうよねぇ。四匹全部シンヤに預けるっていうのも、悪くないと思うけど……」

 

 

レンが小さく首を傾げた。

 

 

「でも、それだとシンヤ君への負担が大きくなりそうだし……」

 

 

リーフも少し心配そうだった。

 

 

「…………」

 

 

そんな二人を見ながら、シンヤは内心で苦笑する。

 

 

(……いや、四匹程度なら別に負担でもなんでもないんだけどな)

 

 

何しろ、シンヤは既にカントー地方のポケモンを149種類、図鑑に登録している。

 

 

未捕獲なのは、ライチュウ、ミュウツー、ミュウの三種類のみ。

 

 

それほど多くのポケモンと関わってきたシンヤにとって、イーブイが四匹増える程度は、そこまで大きな問題ではなかった。

 

 

そもそも、シンヤの実家には広大な庭がある。

 

 

母ミサキ曰く、数百匹単位のポケモンが暮らしても問題ないほどの敷地だ。

 

 

しかも、ポケモンたち自身が協力して生活環境を整えている。

 

 

最近では、伝説の三鳥専用の住処まで勝手に造ってしまったほどである。

 

 

(……まあ、あれはさすがに驚いたけど)

 

 

シンヤは、あのときの光景を思い出して苦笑した。

 

 

「でもね、シンヤ」

 

 

レンが口を開く。

 

 

「実は、あたしも一匹くらい育ててみたいと思ってるの」

 

 

「ん?」

 

 

「ほら、今のあたしの手持ちって、フェアリータイプに偏ってきてるでしょう?」

 

 

「ああ、確かに」

 

 

「もちろん、フェアリータイプが好きなのは変わらないけど……コンテストバトルを続けていくなら、相手に対策されることも考えないとね」

 

 

レンは少し真剣な表情になる。

 

 

「だから、違うタイプのポケモンも育ててみたいの」

 

 

「なるほどな」

 

 

シンヤが頷く。

 

 

「それなら、イーブイはちょうどいいかもしれないな」

 

 

「ふふっ。そうでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リーフも元気よく手を上げた。

 

 

「私も一匹育てたい!」

 

 

「リーフもか?」

 

 

「うん! 今の手持ちでも十分戦えるけど、もっといろんなポケモンを育ててみたいし!」

 

 

リーフは笑顔で続ける。

 

 

「それに、リーフィアの子供なんだよ? やっぱり私も育ててみたいじゃない!」

 

 

「……まあ、それもそうか」

 

 

シンヤは納得した。

 

 

そして、少し考えたあと。

 

 

「じゃあ、本人たちに聞いてみるか」

 

 

「……本人たち?」

 

 

レンが首を傾げる。

 

 

「そう。四匹のイーブイに、誰と一緒にいたいか決めてもらうんだ」

 

 

「……ああ、なるほど」

 

 

リーフが頷く。

 

 

「確かに、それが一番いいかも!」

 

 

「だろ?」

 

 

シンヤは立ち上がった。

 

 

「じゃあ、ポリゴンとフーディンに協力してもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ イーブイたちの選択

 

 

庭に集められた四匹のイーブイ。

 

 

その前には、シンヤ、レン、リーフ。

 

 

そして、ポリゴンとフーディンがいた。

 

 

「ポリゴン、フーディン。四匹の気持ちを分かるようにしてくれるか?」

 

 

「ポリポリ!」

 

 

「フーディン」

 

 

二匹が頷く。

 

 

ポリゴンが情報を整理し、フーディンがテレパシーでイーブイたちの意思を読み取る。

 

 

そして、四匹へ問いかけた。

 

 

――これから、誰と一緒にいたい?

 

 

最初に前へ出てきたのは、ブースターとニンフィアの子供の一匹だった。

 

 

「ブイッ!」

 

 

その子は迷うことなくレンのもとへ駆け寄った。

 

 

「……あら?」

 

 

レンが目を丸くする。

 

 

「ブイ~♪」

 

 

イーブイはレンの足元へ身体を擦り寄せた。

 

 

「……ふふっ」

 

 

レンはしゃがみ込み、優しく抱き上げる。

 

 

「あなた、あたしと一緒に来たいの?」

 

 

「ブイッ!」

 

 

元気な返事。

 

 

「……そう」

 

 

レンは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「じゃあ、これからよろしくね」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

続いて、サンダースとリーフィアの子供の一匹が前へ出る。

 

 

「ブイッ!」

 

 

そして、リーフのもとへ一直線に駆け寄った。

 

 

「わっ!?」

 

 

リーフは慌てて受け止める。

 

 

「ブイブイ!」

 

 

「……私?」

 

 

「ブイッ!」

 

 

「……そっか!」

 

 

リーフは満面の笑みを浮かべた。

 

 

「じゃあ、これから一緒に頑張ろうね!」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

そして、残る二匹。

 

 

一匹はブースターとニンフィアの子供。

 

 

もう一匹はサンダースとリーフィアの子供で、色違いのイーブイだった。

 

 

二匹は顔を見合わせる。

 

 

「ブイ?」

 

 

「ブイッ!」

 

 

そして。

 

 

タタタッ!

 

 

二匹揃って、シンヤのもとへ駆け寄った。

 

 

「……お?」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

「ブイブイ!」

 

 

二匹はシンヤの足元へ飛びつく。

 

 

「……俺か?」

 

 

「ブイッ!」

 

 

「ブイ~!」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「そっか。じゃあ、よろしくな」

 

 

二匹の頭を優しく撫でる。

 

 

すると、イーブイたちは嬉しそうに尻尾を振った。

 

 

こうして、四匹の引き取り先が決まった。

 

- シンヤ:二匹。ブースターとニンフィアの子供一匹、サンダースとリーフィアの子供一匹。後者は色違い。

 

- レン:一匹。ブースターとニンフィアの子供。

 

- リーフ:一匹。サンダースとリーフィアの子供。

 

 

「……綺麗に分かれたな」

 

 

シンヤが呟く。

 

 

「ふふっ。みんな、自分で決めたんだもの」

 

 

レンが微笑む。

 

 

「うん! これなら文句なしだね!」

 

 

リーフも嬉しそうだった。

 

 

そして、親である四匹のポケモンたちも、子供たちの選択を見守っていた。

 

 

ブースターとニンフィア。

 

 

サンダースとリーフィア。

 

 

どちらの組も、子供たちが新しいトレーナーと出会えたことを喜んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 将来の進化先

 

 

「さて……育成するにしても、しばらくは無理かな」

 

 

シンヤが四匹のイーブイを見つめる。

 

 

「生まれたばかりだし、まずは身体を作らないとな」

 

 

「そうね」

 

 

レンが頷く。

 

 

「でも、四匹とも随分やる気があるみたいよ?」

 

 

「……ああ」

 

 

シンヤは苦笑した。

 

 

何しろ、この四匹。

 

 

生まれてまだ数日しか経っていないというのに、既に庭で行われているポケモンたちの特訓に興味津々なのだ。

 

 

番長ピカチュウがほかのポケモンたちを指導していると、揃って近くへ寄っていく。

 

 

リザードンたちが模擬戦をしていると、目を輝かせて見つめる。

 

 

そして、三鳥の施設から技の音が響くたびに、四匹揃って耳を立てる。

 

 

「……まあ、やる気があるのはいいことだけどな」

 

 

シンヤは、ふと一匹のポケモンを思い出した。

 

 

ムチュール。

 

 

フリーザーに弟子入りし、シンヤの知らないところで驚異的な成長を遂げた、あの努力家のポケモンだ。

 

 

そして、最終的には通常とは異なる姿のルージュラへと進化してしまった。

 

 

(……あいつみたいな例もあるしなぁ)

 

 

シンヤは苦笑する。

 

 

(……うちのポケモンたち、どうしてこう自主性が強いんだろう)

 

 

そんなことを考えていると、リーフが口を開いた。

 

 

「ねえ、シンヤ君」

 

 

「ん?」

 

 

「イーブイって、ほかにも進化先があるんだよね?」

 

 

「ああ」

 

 

「シンヤ君が持ってるブースター、サンダース、シャワーズ。それにレンのニンフィアと私のリーフィア以外には、どんな子がいるの?」

 

 

「そうだな……」

 

 

シンヤは少し考えたあと、説明を始めた。

 

 

「まず、エーフィ」

 

 

「エーフィ?」

 

 

「エスパータイプのポケモンだ。トレーナーとの仲を深めて、十分になついた状態で昼間にレベルアップすると進化する」

 

 

「へぇ……!」

 

 

リーフが目を輝かせる。

 

 

「次に、ブラッキー」

 

 

「ブラッキー?」

 

 

「こっちはあくタイプ。エーフィと同じようになつき度を高めて、夜にレベルアップすると進化するんだ」

 

 

「……昼と夜で違うのね」

 

 

レンが感心したように頷いた。

 

 

「そして、グレイシア」

 

 

「グレイシア!」

 

 

「こおりタイプだな。特殊な氷の岩――『こおりでおおわれたいわ』の近くで進化する方法がある。あとは、こおりのいしを使って進化させる方法もあるな」

 

 

「……へぇ!」

 

 

リーフが感嘆の声を上げる。

 

 

「そんな進化方法なんだ! シンヤ君って本当に物知りだね!」

 

 

「そうね。進化の条件までしっかり知ってるなんて」

 

 

レンも感心していた。

 

 

「……まあ、色々調べてるからな」

 

 

シンヤは軽く笑った。

 

 

しかし、内心では。

 

 

(……まあ、前世のゲームじゃブラッキーやニンフィアにはランクマで随分世話になったしな)

 

 

そんなことを考えていた。

 

 

特にブラッキー。

 

 

高い耐久力を活かして相手の攻撃を受け止め、味方を支援する戦い方は、シンヤにとって非常に馴染み深いものだった。

 

 

そして、ニンフィア。

 

 

こちらも、特性を活かした戦い方で何度も助けられたポケモンである。

 

 

(……まあ、この世界じゃゲーム通りにいくとは限らないけど)

 

 

シンヤは、そう付け加える。

 

 

この世界のポケモンバトルは、ゲームとは違う。

 

 

技の使い方。

 

 

地形。

 

 

相手の動き。

 

 

そして、ポケモン自身の判断。

 

 

それらが複雑に絡み合う。

 

 

だからこそ、育て方次第で可能性は大きく広がるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 三人の希望

 

 

「……ねえ、シンヤ」

 

 

レンが口を開いた。

 

 

「もし、あたしのイーブイが進化するなら……エーフィもいいかもしれないわね」

 

 

「エーフィか」

 

 

「ええ。エスパータイプなら、サーナイトと一緒に練習できるでしょう?」

 

 

「確かにな」

 

 

「それに、コンテストでも魅せるパフォーマンスができそうだし」

 

 

レンは、腕の中のイーブイを見つめる。

 

 

「ふふっ。あなたはどう思う?」

 

 

「ブイ?」

 

 

イーブイは首を傾げた。

 

 

まだ、進化について深く考えているわけではなさそうだ。

 

 

「……まあ、今すぐ決めなくてもいいわね」

 

 

レンは優しく頭を撫でた。

 

 

「あなたがどんな姿になりたいか、ゆっくり考えましょう」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、リーフはというと。

 

 

「私はグレイシアかな!」

 

 

「グレイシア?」

 

 

「うん!」

 

 

リーフは元気よく頷いた。

 

 

「シンヤ君にはリーグで負けちゃったけど、あのとき色々考えたんだ!」

 

 

「……ほう?」

 

 

「もっと戦い方の幅を広げたいなって!」

 

 

リーフは拳を握る。

 

 

「それでね、天候を利用するパーティーを作ってみたいの!」

 

 

「……天候パか」

 

 

シンヤが感心したように頷いた。

 

 

「いいんじゃないか?」

 

 

「でしょ!?」

 

 

「グレイシアなら、あられや雪のような環境を利用した戦い方ができる。氷タイプの技も強力だしな」

 

 

「うん!」

 

 

リーフは嬉しそうに笑う。

 

 

「だから、もしこの子がグレイシアになりたいって言ったら、一緒に頑張ってみたいな!」

 

 

「ブイッ!」

 

 

腕の中のイーブイが元気よく鳴いた。

 

 

「……ふふっ。やる気満々ね」

 

 

レンが微笑む。

 

 

そして、今度はシンヤへ視線を向けた。

 

 

「ところで、シンヤは?」

 

 

「ん?」

 

 

「二匹を進化させるとしたら、どうするつもり?」

 

 

「ああ……」

 

 

シンヤは、足元で遊んでいる二匹のイーブイを見た。

 

 

一匹は通常色。

 

 

もう一匹は色違い。

 

 

二匹とも、楽しそうにじゃれ合っている。

 

 

「……そうだな」

 

 

少し考えたあと、答えた。

 

 

「ブラッキーとニンフィアかな」

 

 

「……へぇ?」

 

 

レンが興味深そうに目を細めた。

 

 

「その心は?」

 

 

「まず、ブラッキーは耐久力が高いポケモンだからな」

 

 

シンヤは説明する。

 

 

「相手の攻撃を受け止めながら、味方をサポートする戦い方が得意なんだ」

 

 

「……なるほど」

 

 

「それに、あくタイプならエスパータイプへの対策にもなる」

 

 

リーフが頷いた。

 

 

「確かに、シンヤ君の手持ちって攻撃的な子が多いもんね!」

 

 

「まあな」

 

 

シンヤは苦笑する。

 

 

「だから、守りやサポートに特化したポケモンも育ててみたいんだ」

 

 

「……それで、ニンフィアは?」

 

 

レンが尋ねる。

 

 

「ニンフィアには、ちょっと面白い特性があるんだ」

 

 

「面白い特性?」

 

 

「ああ。フェアリースキンっていう特性だ」

 

 

「……フェアリースキン?」

 

 

「ノーマルタイプの技をフェアリータイプに変えて、威力も高める特性なんだ」

 

 

「……えっ!?」

 

 

レンが目を見開いた。

 

 

「そんな特性があるの!?」

 

 

「ああ」

 

 

「……でも、あたしのニンフィアはそんな特性じゃないわよ?」

 

 

「知らなくても当然だよ」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「フェアリースキンは隠れ特性――いわゆる夢特性だからな」

 

 

「……夢特性」

 

 

レンは少し考え込む。

 

 

そして。

 

 

「あっ!」

 

 

何か思いついたように顔を上げた。

 

 

「ねえ、シンヤ!」

 

 

「ん?」

 

 

「それって、マサユキさんにお願いすれば……」

 

 

「ああ」

 

 

シンヤはすぐに察した。

 

 

「特性パッチのことか?」

 

 

「そう!」

 

 

レンが頷く。

 

 

「もし使わせてもらえるなら、あたしのニンフィアもフェアリースキンにできるかもしれないでしょう?」

 

 

「まあ、そうだな」

 

 

「……お願いできるかしら?」

 

 

「父さんなら、秒で許可すると思うぞ」

 

 

「……そんな簡単に?」

 

 

「うん」

 

 

シンヤは即答した。

 

 

「むしろ、特性が変化する過程のデータが取れるって喜ぶんじゃないか?」

 

 

「…………」

 

 

レンは少し呆れたように笑った。

 

 

「……本当に、研究者一家なのね」

 

 

「否定できないな」

 

 

シンヤも苦笑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 本当に秒だった

 

 

そして、後日。

 

 

「マサユキさん、少しお願いがあるんですけど……」

 

 

「ん? どうしたんだい、レンちゃん」

 

 

「実は、ニンフィアの特性を変えられないかと思って……」

 

 

「特性パッチかい?」

 

 

「はい。もし可能なら――」

 

 

「いいよ!」

 

 

「…………」

 

 

レンが固まった。

 

 

「……え?」

 

 

「もちろん構わないよ!」

 

 

マサユキは満面の笑みだった。

 

 

「むしろ、ニンフィアの特性が変化する前後のデータを取れるなら、こちらとしてもありがたいくらいだ!」

 

 

「…………」

 

 

レンはゆっくりとシンヤを見る。

 

 

「……シンヤ」

 

 

「ん?」

 

 

「……本当に秒だったわね」

 

 

「言っただろ?」

 

 

「……ええ」

 

 

レンは小さくため息を吐いた。

 

 

「……親子って、似るものなのね」

 

 

「……どういう意味だよ」

 

 

「ふふっ。内緒♪」

 

 

そんな二人のやり取りをよそに、マサユキは既に装置の準備を始めていた。

 

 

「よし! じゃあ、まずはニンフィアの現在の特性を確認して――」

 

 

「……あの、マサユキさん?」

 

 

「ん?」

 

 

「……そんなに嬉しいんですか?」

 

 

「もちろん!」

 

 

即答だった。

 

 

「貴重なデータが取れるんだからね!」

 

 

「…………」

 

 

レンは、もう一度シンヤを見る。

 

 

「……やっぱり似てるわ」

 

 

「だから何が!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 四姉妹の新しい日常

 

 

それからというもの。

 

 

四匹のイーブイたちは、それぞれのトレーナーのもとで新しい生活を始めた。

 

 

とはいえ、しばらくの間はシンヤの実家で一緒に過ごすことになっている。

 

 

まだ生まれたばかりだ。

 

 

いきなり本格的な旅やバトルに参加させるより、まずは身体を作り、様々な経験を積ませる方がいい。

 

 

そして、何より。

 

 

四匹は、とても仲が良かった。

 

 

「ブイッ!」

 

 

「ブイブイ!」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

「ブイッ!」

 

 

庭を駆け回る四匹。

 

 

ときには追いかけっこをし。

 

 

ときには草むらに飛び込み。

 

 

ときには親たちのもとへ駆け寄って甘える。

 

 

そんな姿を見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。

 

 

「……元気だなぁ」

 

 

シンヤが呟く。

 

 

「ふふっ。四匹とも、すっかり仲良しね」

 

 

レンが微笑む。

 

 

「うん! 見てるだけで楽しい!」

 

 

リーフも嬉しそうだった。

 

 

そのとき。

 

 

ぐぅぅぅ……。

 

 

小さな音が響いた。

 

 

「……ん?」

 

 

シンヤが振り返る。

 

 

四匹のイーブイが、揃ってこちらを見ていた。

 

 

「…………」

 

 

「ブイ……」

 

 

「ブイ~……」

 

 

「……ああ」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「お腹空いたのか?」

 

 

「ブイッ!」

 

 

四匹が一斉に頷く。

 

 

「よし、分かった」

 

 

シンヤは立ち上がる。

 

 

そして、庭に向かって声を張り上げた。

 

 

「おーい、イーブイズ! ご飯だぞー!」

 

 

その瞬間。

 

 

「「「「ブイブイブーイ!!」」」」

 

 

四匹が一斉に走り出した。

 

 

「うおっ!?」

 

 

シンヤの足元を、茶色と銀色の小さな影が駆け抜けていく。

 

 

「……元気すぎるだろ!」

 

 

「ふふっ!」

 

 

レンが楽しそうに笑う。

 

 

「本当に、シンヤの家のポケモンらしいわね」

 

 

「うん!」

 

 

リーフも頷いた。

 

 

「きっと、みんな強くなるよ!」

 

 

「……そうだな」

 

 

シンヤは、走り回る四匹を見つめた。

 

 

ブースターとニンフィア。

 

 

サンダースとリーフィア。

 

 

二組のカップルから生まれた、四匹の小さな命。

 

 

その未来は、まだ何も決まっていない。

 

 

エーフィになるのか。

 

 

ブラッキーになるのか。

 

 

グレイシアになるのか。

 

 

ニンフィアになるのか。

 

 

あるいは、まったく別の進化先を選ぶのか。

 

 

それは、これから彼女たち自身が決めていくことだ。

 

 

「……まあ、焦る必要はないな」

 

 

シンヤは微笑んだ。

 

 

「ゆっくり育って、好きな道を選べばいい」

 

 

「ブイッ!」

 

 

一匹のイーブイが振り返り、元気よく鳴いた。

 

 

まるで、その言葉に返事をするかのように。

 

 

そして。

 

 

「ブイブイ!」

 

 

「ブイ~♪」

 

 

「ブイッ!」

 

 

残る三匹も、楽しそうに駆け寄ってくる。

 

 

シンヤは笑いながら、四匹を迎えた。

 

 

「……よしよし。分かったから、順番にな?」

 

 

そんな賑やかな光景を、四匹の親ポケモンたちが優しく見守っていた。

 

 

ブースターはニンフィアの隣に寄り添い。

 

 

サンダースはリーフィアと顔を見合わせる。

 

 

どちらの組も、どこか誇らしげだった。

 

 

そして、レンとリーフも。

 

 

それぞれ、自分の新しいパートナーとなったイーブイを見つめながら、これからの未来に思いを馳せていた。

 

 

 

 

――四匹の小さなイーブイ姉妹。

 

 

 

その成長が、シンヤたちに新たな驚きと喜びをもたらすことになるのは、まだ少し先のお話。

 

 

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