◆緑に包まれたトキワの森!
「てなわけで、トキワの森に到着!」
森の入口に立ったシンヤは、目の前に広がる景色を眺め、思わず感嘆の声を漏らした。
「うーん……凄く自然に溢れているな、この森!」
視界いっぱいに広がる木々。幾重にも重なった枝葉の隙間から差し込む木漏れ日。地面を覆う草や苔。そして、どこからともなく聞こえてくるポケモンたちの鳴き声。
風が吹けば木の葉が揺れ、少し奥へ目を向ければ、小さな影が草むらを横切っていく。
ゲーム画面で何度も見てきたトキワの森。しかし、実際に足を踏み入れてみると、その印象はまったく違った。
ここは単なる通過地点ではない。
数多くのポケモンが暮らす、本物の自然なのだ。
「さて……この森で出会えるポケモンといえば、キャタピー、トランセル、ビードル、コクーン。それからピカチュウだな」
シンヤは頭の中で、カントー地方のポケモン図鑑を思い浮かべる。
「まずは歩きながら探してみるか。キャタピーとビードルは進化が早いし、できれば仲間にしたいところだな」
キャタピーはトランセルを経てバタフリーへ。
ビードルはコクーンを経てスピアーへ。
どちらも比較的早い段階で進化するポケモンだ。
もちろん、進化すればそれで終わりというわけではない。進化前から育てることで、その個体の性格や得意な動き、戦い方を理解できる。
そして、進化後には新しい技や能力を身につける可能性もある。
「ニビシティに着いたら、一旦手持ちを入れ替えて、この二匹をじっくり育てるのもいいな」
シンヤはそう考えながら、森の中へ足を踏み入れた。
「よし、みんな。周囲の探索を頼む!」
「ポッポー!」
ポッポが翼を広げ、木々の上空へ飛び立つ。
高い場所から森の様子を観察し、動く影やポケモンの鳴き声を探してもらう作戦だ。
一方、マンキーは――。
「マンキーッ!」
木の幹を駆け上がり、枝から枝へと飛び移っていった。
「おお、身軽だな!」
マンキーは枝をつかみ、体を振り子のように揺らしながら、別の木へ飛び移る。まるでターザンのような身のこなしだった。
「マンキー、無茶はするなよ! 枝が折れそうなら、ちゃんと別のルートを探すんだ!」
「マンキー!」
元気な返事が返ってくる。
シンヤは笑いながら、残る仲間たちにも目を向けた。
ヒトカゲは地上を歩き、周囲を警戒している。ニドラン♂は草むらの匂いを確かめ、コイキングは父親の発明した携帯用の水容器の中で跳ねていた。
(ポッポの空中偵察と、マンキーの木々を利用した探索。なかなかいい組み合わせだな)
空から見える景色と、木々の間から見える景色は違う。
両方から情報を集めれば、地上を歩いているだけでは見つからないポケモンにも出会えるかもしれない。
「さて、何が見つかるかな……」
シンヤは期待に胸を膨らませながら、森の奥へと進んでいった。
◆仲間たちの新たな成長!
探索を続ける途中、シンヤはふと手持ちのポケモンたちの状態を確認した。
そして――。
「……ん?」
波動の眼に映る情報を見て、首を傾げる。
(あれ? ヒトカゲ、また新しい技を覚えているぞ?)
まずはヒトカゲ。
これまでのバトルを通して経験を積んできたことで、動きにも少しずつ磨きがかかっていた。
そして、新たに習得している技の欄には、三つの名前が表示されていた。
- みだれひっかき
- りゅうのいかり
- ほのおのキバ
「おお……みだれひっかきに、りゅうのいかり。それから、ほのおのキバか!」
シンヤは思わず声を上げた。
みだれひっかきは、連続して爪を繰り出す攻撃技。
りゅうのいかりは、竜の力を用いて相手に一定のダメージを与える技として知られている。
そして、ほのおのキバは炎をまとった牙で相手に噛みつく技だ。
特に、ほのおのキバは近距離戦で役立ちそうだった。
これまでヒトカゲは、ひのこやりゅうのいぶきで距離を取って攻撃するだけでなく、アイアンテールなどを使って接近戦にも対応してきた。
そこに、炎をまとった牙による攻撃が加われば、相手との距離に応じた選択肢がさらに増える。
「これは戦術の幅が広がるな……!」
しかし、シンヤはそこで、ある違和感を覚えた。
(……待てよ?)
ヒトカゲが覚えた技だけではない。
ほかの仲間たちにも、新しい技が増えている。
ポッポの技欄には、オウムがえしとつばさでうつ。
コイキングには、じたばた。
ニドラン♂には、みだれづきとてだすけ。
そして、マンキーには――。
おいうち、けたぐり、ちきゅうなげ。
「……いや、やっぱりおかしいぞ?」
シンヤは足を止めた。
前世でプレイしてきたポケモンのゲーム。その知識と照らし合わせると、技の習得時期や習得方法に、少しずつ違和感が出てきていた。
ヒトカゲが覚えた技も、ポッポが覚えた技も、マンキーが覚えた技も。
世代によって習得レベルが違ったり、技マシンで覚えるものだったり、作品によって習得できる技に違いがあったりする。
それなのに、今の仲間たちは、そうした違いを越えて技を習得しているように見える。
シンヤは、これまでの出来事を振り返った。
ヒトカゲは、初めて会ったときからアイアンテールとげんしのちからを覚えていた。
マンキーは、まだ使いこなせないながらも、三色パンチやじごくづきを習得しようとしていた。
そして今回、さらに新しい技が増えている。
(まさか……この世界のポケモンが覚えられる技は、過去作から最新作までの技を統合したものなのか?)
もしそうなら、技の習得に関する考え方を根本から見直す必要がある。
作品ごとの制限に縛られず、個体の適性や経験、技の仕組みへの理解によって、幅広い技を習得できる可能性があるということだ。
ただし、何でも自由に覚えられるという意味ではない。
技の仕組みを理解できるか。
そのポケモンの体で再現できるか。
必要なエネルギーを制御できるか。
そして、実際の戦闘で使えるほど習熟できるか。
そうした条件は、当然あるはずだ。
「……よし。これは今後も観察していく必要があるな」
シンヤはメモを取り出し、仲間たちの新しい技を書き留めた。
ポケモン 新たに確認した技
ヒトカゲ みだれひっかき、りゅうのいかり、ほのおのキバ
ポッポ オウムがえし、つばさでうつ
コイキング じたばた
ニドラン♂ みだれづき、てだすけ
マンキー おいうち、けたぐり、ちきゅうなげ
「うん。これで、みんなの戦術の幅がまた広がったな」
もちろん、波動の眼に技の名前が表示されたからといって、すべてをすぐに実戦投入するわけではない。
技ごとの威力や命中精度、発動条件、体への負担などを確かめる必要がある。
特に、りゅうのいかりやちきゅうなげのように、通常の攻撃とは異なる仕組みを持つ技については、発動の仕方や制御を慎重に確認したいところだ。
「焦らず、一つずつ確かめていこう」
シンヤはメモをしまい、再び歩き始めた。
そのときだった。
「ポッポーッ!!」
頭上から、ポッポの鳴き声が響いた。
ほぼ同時に、少し離れた木々の間からも――。
「マンキーッ!!」
マンキーの声が聞こえてきた。
シンヤは顔を上げた。
「おっ? もしかして……見つけたのか!?」
二匹の声の調子からして、ただの野生ポケモンを見かけただけではなさそうだ。
どうやら、目的のポケモンを発見したらしい。
「よし、みんな! 行ってみよう!」
シンヤは仲間たちとともに、鳴き声のした方向へ駆け出した。
◆最初の発見!キャタピーとビードル!
シンヤが鳴き声のした場所へ向かうと、木々の間に二匹のポケモンがいた。
一匹は、緑色の体に大きな目を持つ芋虫ポケモン。
もう一匹は、黄色い体に小さな角を持つ、細長いポケモンだった。
「おおっ! キャタピーとビードルか!」
ようやく発見した目的のポケモンに、シンヤの表情が明るくなる。
キャタピーは、木の幹をゆっくりと這っていた。ビードルは地面近くの草の間に身を隠し、こちらの様子をうかがっている。
「ポッポ、よく見つけたな! マンキーもありがとう!」
「ポッポー!」
「マンキー!」
二匹は得意げに鳴いた。
「さて、どうするかな……」
シンヤは二匹を見比べる。
キャタピーはポッポに、ビードルはマンキーに相手をしてもらうのがよさそうだ。
「よし! まずはキャタピーからだ。ポッポ、頼むぞ!」
「ポッポーッ!」
ポッポが前へ出る。
キャタピーは見慣れない相手に驚き、木の幹を伝って逃げようとした。
「逃がすつもりはないけど、無理に追い詰める必要もないな。ポッポ、まずは地面へ誘導してくれ!」
ポッポはキャタピーの近くを飛び、木の幹から離れるように動いた。
キャタピーは警戒しながらも、ポッポの動きを追う。
「よし、そこでつばさでうつ!」
ポッポは翼を使い、キャタピーの体を軽く打った。
「キャタッ!」
キャタピーが地面へ落ちる。
だが、ポッポは追撃しなかった。
「いいぞ。そのまま距離を取って、様子を見ろ!」
キャタピーは体を起こそうとしたものの、先ほどの攻撃で少しふらついていた。
シンヤは、その様子を見逃さなかった。
(体力はそこまで高くなさそうだ。ここで強い攻撃を重ねる必要はないな)
「ポッポ、これで終わりだ。あとは任せてくれ!」
シンヤはモンスターボールを取り出し、キャタピーへ向かって投げた。
ボールがキャタピーを包み込み、地面へ落ちる。
一度、二度、三度。
カチッ!
「よしっ! キャタピー、ゲットだ!」
シンヤは拳を握った。
「これで新しい仲間が一匹増えたな!」
ポッポは嬉しそうにシンヤの肩へ戻ってくる。
「ポッポー!」
「ありがとうな。お前の働きも大きかったぞ!」
続いて、シンヤはマンキーのほうを向いた。
「よし、次はビードルだ。マンキー、頼むぞ!」
「マンキーッ!」
マンキーは地面に降り立ち、ビードルと向き合った。
ビードルは小さな角を向けて威嚇する。
マンキーは楽しそうに拳を握った。
(おいおい……捕獲のためのバトルなんだから、張り切りすぎるなよ?)
シンヤは苦笑しながら指示を出した。
「マンキー、まずは相手の動きを見ろ。無理に接近しなくていい!」
ビードルが体をくねらせ、マンキーに向かって突進する。
「横へ避けろ!」
マンキーは軽々と横へ跳び、攻撃をかわした。
「よし、そこから軽く攻撃だ!」
マンキーは力を調節し、ビードルを地面へ押し戻した。
ビードルは再び立ち上がろうとするが、動きに勢いがない。
「今だ。モンスターボール!」
シンヤが投げたボールがビードルを包み込む。
そして――。
カチッ!
「ビードルもゲット!」
「マンキーッ!」
マンキーは勝利したことが嬉しいのか、また拳を突き上げた。
「ははっ、よく頑張ったな。でも、今回は相手を倒すことより、捕獲できる程度に力を調整することが大切だったんだぞ」
「マン?」
マンキーは不思議そうに首を傾げた。
「まあ、少しずつ覚えていこうな」
シンヤは笑いながら、二つのモンスターボールを確認した。
キャタピーとビードル。
これで、トキワの森で出会いたかったポケモンのうち、二匹を仲間にできた。
「よし。二匹とも、ニビシティに着いたら一度しっかり休ませよう。進化までの成長も楽しみだな」
シンヤは満足げに頷いた。
しかし、彼が本当に出会いたかったポケモンは、まだ残っていた。
「さて……あとはピカチュウだな」
その言葉に、ヒトカゲが反応した。
「カゲーッ!」
「そうだ。次はお前に頼むぞ、ヒトカゲ!」
◆進化目前のヒトカゲ、まだその時ではない
シンヤはヒトカゲを見つめた。
波動の眼を通して状態を確認すると、これまでのバトルで蓄積した経験が、確かな成長として表れている。
体力も十分。
技の習熟度も上がってきている。
そして――。
(……やっぱり、進化できる段階に近づいているな)
ヒトカゲの体から感じられるエネルギーは、以前よりも力強くなっていた。
ただし、進化の兆候があるからといって、今すぐ進化させる必要はない。
シンヤはヒトカゲの目を見た。
「ヒトカゲ。お前、最近すごく成長してるよな」
「カゲ?」
「覚える技も増えたし、戦い方も上手くなってきた。進化が近いのかもしれない」
ヒトカゲは自分の体を見下ろし、尻尾の炎を揺らした。
「でも、焦る必要はないぞ。進化するタイミングは、お前自身の気持ちも大事だからな」
シンヤは優しく笑った。
(進化のタイミング……。ゲームならレベルが条件になることが多いけど、この世界では、それだけじゃないのかもしれない)
ポケモンの進化は、体の成長やエネルギーの変化と深く関わっている。
もちろん、バトルで経験を積み、成長した結果として進化することはあるだろう。
だが、ヒトカゲがどのタイミングで進化するのかは、まだわからない。
(ジム戦あたりが一つの節目になるかもしれないな。でも、それも俺が決めることじゃない)
シンヤはヒトカゲの頭を軽く撫でた。
「お前が進化したいと思ったとき、その成長をしっかり支えてやる。だから今は、目の前のことを一つずつ頑張ろう!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲは元気よく返事をした。
その瞳には、やる気が満ちている。
「よし、それじゃあ次のポケモンを探そう!」
シンヤたちは再び森の中を進んでいった。
そして、その先で――。
「ピカチュウ!」
聞き慣れた鳴き声が、木々の間から響いた。
「……いた!」
シンヤは思わず足を止めた。
木の根元に、一匹のピカチュウが立っていた。
黄色い体に、赤い頬。
長い耳をぴんと立て、こちらをじっと見つめている。
その姿は、図鑑で知っているピカチュウと何ら変わらない。
しかし、波動の眼を通した瞬間、シンヤは違和感を覚えた。
(……ん? このピカチュウ、なんかおかしくないか?)
◆森の強敵! 野生のピカチュウ!
シンヤは、まずピカチュウの体調と能力を確認した。
その結果――。
「……えっ?」
思わず声が漏れた。
トキワの森に生息する野生のピカチュウ。
ゲームでの一般的な出現レベルを知っているシンヤにとって、目の前の個体は明らかに異質だった。
(レベル……十五前後? いや、正確な数値はまだわからないけど、少なくとも普通に出会う個体とは違うぞ!)
その体には、数多くの戦闘を経験してきた痕跡があった。
体の動かし方に無駄が少ない。
相手を見据える目には、強い警戒心と自信が感じられる。
そして何より、戦闘への対応力が高い。
(まさか、これまで何人ものトレーナーが捕獲しようとして、返り討ちにしてきたのか?)
森の中を旅するトレーナーは多い。
珍しいポケモンを見つければ、捕まえようとする者もいるだろう。
そのたびにピカチュウは戦い、攻撃を避け、反撃し、勝利を重ねてきた。
そうして経験を積み、ここまで強くなったのかもしれない。
「……なるほど。そりゃ、普通の野生ポケモンとは違うわけだ」
シンヤは納得したように頷いた。
だが、次の瞬間。
ピカチュウの体から、激しい電気がほとばしった。
バチバチバチッ!!
「ピカァッ!!」
「うおっ!?」
シンヤは反射的に後ろへ下がった。
ピカチュウは、明らかにこちらを警戒している。
そして、その技の一覧を見たシンヤは、再び目を見開いた。
「……じゅ、10万ボルト!? それに、かわらわりまで!?」
ただのピカチュウではなかった。
電気を強く放つだけでなく、近距離での格闘にも対応できる。
遠距離では強力な電撃を放ち、接近戦ではかわらわりで相手を迎え撃つ。
しかも、どちらも実戦で使い慣れているようだった。
(このレベルで十まんボルトとかわらわりを使いこなしているのか……! トキワの森、思ってたよりずっと奥が深いぞ!)
シンヤは、ヒトカゲへ視線を向けた。
「ヒトカゲ。相手は強いぞ。油断するな!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲは一歩前へ出た。
ピカチュウもまた、体を低く構える。
「ピカァ……!」
その目は、相手の実力を測ろうとしているようだった。
「よし……。ヒトカゲ、いくぞ!」
シンヤの声が森に響いた。
こうして、トキワの森での本格的なバトルが始まった。
◆10万ボルト VS りゅうのいぶき!
「ピカァァァッ!!」
ピカチュウの全身から、強烈な電撃が放たれた。
黄色い閃光が森の中を駆け抜け、周囲の草木を照らし出す。
「ヒトカゲ、りゅうのいぶき!」
「カゲェェッ!!」
ヒトカゲは口を大きく開き、竜の力を帯びた息吹を放った。
電撃と竜の息吹が正面から激突する。
バチバチバチッ!!
ドォンッ!!
二つの技がぶつかり合い、衝撃で周囲の木の葉が激しく揺れた。
「くっ……! やっぱり威力が高い!」
シンヤは思わず目を細めた。
ピカチュウの十まんボルトは、単純な出力だけでなく、放つタイミングも正確だった。
一方、ヒトカゲのりゅうのいぶきも、電撃に押し切られることなく、真正面から拮抗している。
「ヒトカゲ、無理に押し切らなくていい! 相手の動きを見ろ!」
「カゲッ!」
ヒトカゲは息吹を放ち続けながら、少しずつ体勢を調整する。
ピカチュウも電撃の出力を変え、押し切ろうとしていた。
やがて、二つの技がぶつかり合った中心で、電気と竜のエネルギーが弾けた。
バァンッ!!
互いの技が消え、両者は距離を取った。
ヒトカゲは息を整えながら、相手を見据える。
ピカチュウも、わずかに体を上下させていた。
(互角……いや、相手のほうが経験は上かもしれない)
シンヤは冷静に分析した。
ヒトカゲは成長著しいが、目の前のピカチュウは何度も実戦を経験している。
攻撃の判断、回避のタイミング、技の制御。
そうした細かな部分では、ピカチュウのほうが一枚上手かもしれなかった。
だが、ヒトカゲにも強みがある。
りゅうのいぶきで10万ボルトを正面から受け止められるだけの力があること。
そして、シンヤの指示に合わせて柔軟に戦術を変えられることだ。
「よし……ここからだ!」
シンヤは、ピカチュウの動きを注視した。
次に来るのは、遠距離攻撃か。それとも――。
「ピッカッ!」
ピカチュウが一気に地面を蹴った。腕を振り上げてくる。
電撃による牽制から、接近戦へ切り替えてきたのだ。
「速いっ!」
シンヤが声を上げる。
ピカチュウは素早く距離を詰め、前足に力を込めた。
ヒトカゲが迎撃態勢を取る。
「ヒトカゲ、アイアンテール!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲの尻尾が硬質化し、金属のような光沢を帯びる。
ピカチュウのかわらわりと、ヒトカゲのアイアンテールが正面からぶつかった。
ガキィィンッ!!
鈍い衝撃音が響き、両者の体が弾かれる。
ピカチュウは地面を滑るように後退し、ヒトカゲも尻尾の勢いを逃がすために数歩下がった。
「よし、相殺できた!」
シンヤは拳を握る。
しかし、まだ勝負はついていない。
ピカチュウはすぐに体勢を立て直し、再びヒトカゲへ向かっていく。
ヒトカゲもまた、相手の動きを見極めようと身構えた。
両者の間には、先ほどまでとは違う緊張感が漂っていた。
これは、ただの捕獲戦ではない。
互いの実力をぶつけ合う、本物の勝負だった。
◆ヒトカゲ、反撃開始!
「ヒトカゲ、ひのこ!」
ヒトカゲは炎を吐き出す。
ピカチュウは横へ跳び、直撃を避けた。
「ピカチュゥゥゥゥッ!
「ヒトカゲ、走れ! 木を盾にしろ!」
ヒトカゲはすぐそばの木の幹へ向かって駆け出した。
ピカチュウの電撃が放たれる。
バチバチバチッ!!
電撃は木の幹へと走り、周囲に火花を散らした。
ヒトカゲは幹の陰へ身を寄せ、直撃を避ける。
「そのまま横へ回り込め!」
ヒトカゲは木の幹を回り込むように移動し、ピカチュウの側面へ出た。
「今だ! みだれひっかき!」
「カゲッ、カゲッ、カゲッ!」
ヒトカゲは連続して爪を繰り出す。
ピカチュウは後退しながら腕で攻撃を受け流し、最後の一撃を身をひねってかわした。
「ピカァッ!」
ピカチュウはすぐに反撃へ転じようとする。
だが、ヒトカゲは追いすぎなかった。
「よし、距離を取れ! 相手の攻撃を誘うんだ!」
ヒトカゲは後方へ跳び、相手の出方をうかがう。
ピカチュウは警戒しながら、ゆっくりと距離を詰めた。
(いいぞ……。ヒトカゲは相手の強さを理解している。無理に押し切るんじゃなく、攻撃のタイミングを探している)
シンヤは、ヒトカゲの動きに目を凝らした。
そのとき、ピカチュウの足元で小さな石が転がった。
ピカチュウは、先ほどの連続攻撃で疲労が蓄積し始めていたのかもしれない。
一瞬、足を滑らせる。
「……今だ!」
シンヤの声が響いた。
「ヒトカゲ、接近! ほのおのキバ!」
「カゲェェッ!!」
ヒトカゲは一気に距離を詰めた。
口を開き、炎をまとった牙をピカチュウへ向ける。
ピカチュウは反応しようとしたが、体勢を立て直す直前だった。
ガブッ!
ほのおのキバが、ピカチュウを捉えた。
「ピカッ!?」
ヒトカゲは噛みついた状態で、相手を簡単には離さなかった。
「よし、ヒトカゲ! そのまま……ひのこ!」
シンヤの指示に、ヒトカゲは口元へ炎の力を集める。
そして、ほのおのキバで噛みついた至近距離から、ひのこを放った。
ボォッ!!
至近距離で放たれた炎が炸裂し、二匹の周囲に激しい火花と煙が広がる。
「うわっ!」
シンヤは反射的に腕で顔をかばった。
ドォォンッ!!
爆発音が森に響き、周囲の葉が大きく揺れた。
やがて煙が晴れると――。
地面に倒れたピカチュウの姿が見えた。
「……ピカ……」
ピカチュウは起き上がろうとしたものの、体に力が入らない。
それでも、目だけはヒトカゲを見据えていた。
ヒトカゲもまた、息を切らしながら立っていた。
「ヒトカゲ……!」
シンヤは駆け寄り、波動の眼で二匹の状態を確認する。
ヒトカゲもかなり疲れている。
だが、まだ立っている。
一方、ピカチュウは戦闘を続けるのが難しい状態だった。
「……よく頑張ったな、ヒトカゲ」
シンヤは静かに声をかけた。
「カゲ……!」
ヒトカゲは疲れた様子を見せながらも、誇らしげに鳴いた。
◆強敵ピカチュウ、ゲット!
シンヤは、倒れているピカチュウを見つめた。
ここまでの戦いを思い返す。
10万ボルトの威力。
かわらわりによる接近戦。
そして、相手の状況に応じて攻撃方法を切り替える判断力。
このピカチュウは、間違いなく強い。
そして、何より――。
(こいつ、何度もトレーナーに挑まれて、それを乗り越えてきたんだろうな)
その経験が、今の強さにつながっているのだろう。
シンヤはモンスターボールを取り出した。
「……ピカチュウ。お前がどんな旅をしてきたのかは、まだわからない」
倒れているピカチュウは、わずかに耳を動かした。
「でも、もし俺と一緒に来てくれるなら、もっといろんな景色を見せてやれる。もっと強くなるための経験も積めるはずだ」
シンヤは、優しく笑った。
「もちろん、無理にとは言わない。だけど……俺と一緒に旅をしてみないか?」
ピカチュウは、じっとシンヤを見つめた。
すぐには返事をしない。
それでも、その目には、先ほどまでの激しい警戒心とは違うものが浮かんでいた。
シンヤは、ピカチュウの様子を確認してから、モンスターボールをそっと投げた。
ボールがピカチュウを包み込み、地面へ落ちる。
一度、揺れる。
二度、揺れる。
三度――。
カチッ!
「……よし!」
シンヤは小さく拳を握った。
「ピカチュウ、ゲットだ!」
「ヒトカゲーッ!」
ヒトカゲが嬉しそうに鳴いた。
シンヤはモンスターボールを拾い上げ、両手で包み込むように持った。
「これからよろしくな、ピカチュウ」
その声は、静かな森の中に優しく響いた。
こうして、シンヤの手持ちに六匹目のポケモンが加わった。
ただし、ピカチュウはこれまで数多くのトレーナーと戦ってきた、ひときわ強い個体だ。
10万ボルトやかわらわりを使いこなす実力は、これからの旅でも大きな力になるだろう。
一方で、今回の戦いではヒトカゲも大きく成長した。
相手の攻撃を真正面から受け止めるだけでなく、木の幹を盾にしたり、攻撃の隙を見極めたり、ほのおのキバとひのこを組み合わせたりして勝利をつかんだのだ。
「ヒトカゲ、本当にお疲れさま。今日はポケモンセンターでしっかり休もうな」
「カゲーッ!」
シンヤはヒトカゲを労わり、ほかの仲間たちにも目を向けた。
キャタピーとビードルも、モンスターボールの中で新しい旅の始まりを迎えている。
「よし。今日はいろいろな出会いがあったな……」
シンヤは森の奥を見つめた。
トキワの森には、まだ知らないポケモンたちが暮らしている。
そして、この先にはニビシティが待っている。
初めてのジム戦も、そう遠くはない。
「さあ、みんな。まずは森を抜けよう!」
シンヤの声に、仲間たちは元気よく応えた。
木漏れ日の中、少年とポケモンたちは再び歩き始める。
新たな仲間を迎えたシンヤの旅は、ますます賑やかになっていくのだった。
【シンヤの手持ち一覧】
・ヒトカゲ LV:18→LV:19
ヒトカゲは激戦の中でひのこがかえんほうしゃへと変化した!
・ポッポ LV:10→16
・コイキング LV:10→15
・ニドラン♂ LV:10→15
・マンキー LV:10→15
【実家のポケモン】
・コラッタ LV:9
・コダック LV:10
・ヤドン LV:10
・ニョロモ LV:10
・トサキント LV:10
・ニドラン♀ LV:10
・オニスズメ LV:10
・ポニータ LV:10
・ドード LV:10