ちなみにキャラはある他作品のキャラでっす。
なのでタグのオリジナルヒロインかは曖昧?
トキワの森を抜けたシンヤたちは、無事にニビシティへと到着した。
森の中では野生のポケモンとの出会いこそあったものの、トレーナーとのバトルは一度もなかった。ピカチュウとの激闘を終えたばかりの一行にとって、それは幸運だったと言えるだろう。
「よし、まずはポケモンセンターだな」
シンヤは肩に掛けたボストンバッグを整えながら、隣を歩くヒトカゲへと視線を向けた。
「カゲ……」
ヒトカゲは返事をしたものの、いつもより少し元気がない。尻尾の炎は安定しているが、強敵だった野生のピカチュウとの戦いで、体力をかなり消耗していた。
「よく頑張ってくれたな。あのピカチュウ、相当な実力だった。今日はしっかり休もう」
「カゲッ!」
ヒトカゲは力強く鳴いた。
その様子に微笑みながら、シンヤは街並みを見渡した。
「ここがニビシティか……」
ニビシティ。
カントー地方にある街の一つであり、岩や山に囲まれた、いかにも石の街といった雰囲気を持っている。
『ニビは いわの いろ かちかちの いし』
そんなキャッチフレーズがあることも、シンヤは前世の記憶から知っていた。
周囲には岩肌を見せる山々がそびえ、街の建物にも石材が多く使われている。マサラタウンやトキワシティとは、また違った風景だった。
「街の名前もキャッチフレーズも、岩や石を強調している。となると……」
シンヤは顎に手を当て、考え込む。
「ニビジムのジムリーダーは、岩タイプの使い手なのはそのせいなのか?」
もちろん、街のイメージだけでジムリーダーの専門タイプが決まるわけではない。しかし、ニビジムに挑戦する以上、岩タイプへの対策は考えておいて損はないだろう。
「ヒトカゲにとっては、少し考えなきゃいけない相手になるかもしれないな。炎技だけに頼るわけにはいかない。ま、炎以外に技があるし平気か??」
「カゲ?」
「いや、今すぐ戦うわけじゃないさ。まずは休憩。それから作戦を考えよう」
シンヤはそう言って、ヒトカゲの頭を優しく撫でた。
彼の視線は、街の別の場所へも向けられた。
「それに、ニビシティといえば科学博物館もあるんだよな」
ニビ科学博物館。
化石や古代の生物に関する研究が行われている施設であり、ポケモンの歴史を知るうえでも重要な場所だ。
カントー地方で発見される代表的な化石といえば、甲羅の化石、貝の化石、そして秘密のコハク。
それらから復元されるポケモンたちは、現代ではなかなか見られない存在だ。
「もし旅の途中で化石を手に入れたら、ここに持ち込んで復元を頼むのもありだな。古代のポケモンと一緒に旅をする……それも面白そうだ」
もっとも、今のシンヤには、すでに手元にいる仲間たちとの関係を深めるという大切な課題がある。
ヒトカゲ、ポッポ、コイキング、ニドラン♂、マンキー、そしてトキワの森で仲間になったキャタピー、ビードル、ピカチュウ。
旅立ってから、まだそれほど時間は経過していない。
それなのに、出会いはずいぶんと濃密だった。
「まずはセンターだ。みんなの状態を確認して、今後の編成も考えないとな」
シンヤはそう言って、ポケモンセンターへと足を向けた。
◆ニビシティ・ポケモンセンター
ポケモンセンターに到着したシンヤは、受付でポケモンたちの状態を確認してもらうことにした。
「お願いします。特にヒトカゲは、かなり激しいバトルをしたので」
「かしこまりました。お預かりしますね」
ジョーイさんが微笑みながら、ポケモンたちを預かる。
シンヤはヒトカゲの入ったボールを手渡す直前、もう一度だけ相棒を見つめた。
「ゆっくり休んでくれ。戻ってきたら、また一緒に頑張ろう」
「カゲ!」
ヒトカゲは元気よく鳴いてから、ボールへと戻っていった。
ポケモンたちを預け終えたシンヤは、待合スペースへと移動する。
その途中だった。
ふと、視界の端に映った少女の姿に、シンヤの足が止まった。
「…………え?」
少女は待合スペースの一角にいた。
お人形のような、クラシカルなロリィタスタイル。
たくさんのフリルが施された白いエプロンドレス。その下には濃い紫、あるいはピンクパープルにも見えるワンピースが重ねられている。
桃色がかったスミレ色の髪は、整ったボブカット。
頭には細いリボンが結ばれ、可憐な顔立ちと相まって、まるで精巧に作られた人形がそのまま動き出したかのようだった。
しかし、シンヤが驚いたのは、単に少女が可愛らしかったからではない。
(……レン・ブライト?!)
頭の中に、前世で何度も遊んだゲームの記憶が一気に蘇る。
英雄伝説シリーズ。
その中でも、シンヤが特に思い入れを持っていた作品――『英雄伝説 空の軌跡』。
そして、彼がシリーズを通して好きだったキャラクターの一人。
レン。
(いや、待て。服装から考えると、レン・ヘイワースのほうか? 大鎌は持っていないみたいだけど……)
頭の中で、いくつもの記憶が交錯する。
見た目。髪型。服装。雰囲気。
どこを見ても、記憶の中のレンとそっくりだった。
いや、そっくりという言葉では足りない。
シンヤの目には、違いがほとんど見つけられなかった。
(落ち着け、俺。ここはポケモンの世界だ。英雄伝説の世界じゃない)
そもそも、彼女が本当にレン本人であるはずがない。
シンヤが知っているレンは、ゲームの物語に登場するキャラクターだ。
この世界にいる少女が、たまたま彼女と瓜二つの容姿をしているだけかもしれない。
それなのに。
(……いや、だって、これは……!)
前世で好きだったキャラクターに、目の前で出会ったようなものなのだ。
精神年齢は前世の記憶を取り戻したことで大きく成長している。だが、現在の肉体は十歳。
そのうえ、もともと好きだった相手が目の前にいるのだから、可愛いという感情が素直に湧き上がってくるのも仕方がなかった。
シンヤは思わず、少女の姿をじっと見つめてしまった。
すると――。
「……あら?」
少女が、こちらを向いた。
「さっきから、わたしのことを見ているようだけれど……何かご用かしら?」
その声を聞いた瞬間、シンヤの心臓が跳ねた。
(うわぁぁぁぁぁっ!? 声までそれっぽいんだが!?)
落ち着いた口調。
どこか人を試すような、余裕のある話し方。
それでいて、相手の反応を楽しんでいるような、お茶目な雰囲気。
シンヤの記憶にあるレンのイメージと、あまりにも重なっていた。
だが、ここで取り乱すわけにはいかない。
シンヤは一度、小さく咳払いをした。
「ああ、すまない。知り合いに君とよく似た人がいて、見間違えてしまったんだ。じっと見てしまって悪かった」
できるだけ自然に、そして失礼のないように謝る。
少女は一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと微笑んだ。
「まあ。そういうことだったのね」
そして、気にした様子もなく、軽く首を傾げる。
「気にしていないわ。人違いなんて、誰にでもあるもの。それに……そんなにそっくりな方がいるだなんて、ちょっと興味が湧いてしまうわね?」
(その反応までレンっぽいんだよなぁ……!)
シンヤは内心で頭を抱えた。
だが、少女は彼の反応を見て、楽しそうに目を細めている。
どうやら、こちらの動揺に気づいているらしい。
「ところで、あなたのお名前は?」
「あ、俺はシンヤ。マサラタウンから旅に出たばかりなんだ」
「シンヤ君ね。覚えたわ」
少女は上品にスカートの裾を軽く持ち上げ、優雅に一礼した。
「わたしはレン。よろしくね、シンヤ君」
「レン……」
思わず名前を繰り返してしまう。
少女は不思議そうに瞬きをした。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。こちらこそ、よろしく」
(名前までレンなのかよ……!)
もはや偶然という言葉で片づけていいのか、シンヤにも分からなくなってきた。
しかし、だからといって彼女をゲームのキャラクターと同一視するわけにはいかない。
彼女はこの世界で生きている、一人の人間なのだから。
シンヤは気持ちを切り替えるように、軽く息を吐いた。
「それで、レンはどうしてニビシティに?」
「わたし? 旅をしているのよ」
レンはそう答えると、指先を頬に添えた。
「この近くに、あるポケモンたちがいるって聞いたの。その子たちを捕まえようと思っ
て、ここまで来たのよ」
「この近くにいるポケモン……?」
「ええ。どんな子たちなのか、実際に会ってみないと分からないけれどね」
そう言いながら、レンは楽しげに微笑んだ。
その表情には、旅をするトレーナーらしい好奇心が感じられた。
シンヤは少し考えてから答えた。
「俺はジム戦だな。ポケモンリーグに出場するつもりだから、まずはここでバッジを手に入れたいんだ」
「まあ、ポケモンリーグ!」
レンはわずかに目を輝かせた。
「ずいぶんと大きな目標を持っているのね。旅に出たばかりなのに、もうそこまで考えているなんて」
「目標は大きいほうがいいだろ? もちろん、簡単にいくとは思っていないけど」
「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないわ」
レンは口元に手を添えて笑った。
シンヤは、その仕草を見てまたもや心の中でうめいた。
(駄目だ。仕草の一つ一つが、記憶の中のレンと重なる……!)
だが、同時に気づいていた。
彼女はレンという名前を名乗っているものの、シンヤの知っているキャラクターと同じ存在だと判断できる材料は何もない。
見た目も、名前も、話し方も似ている。
それだけだ。
ここで勝手に決めつけてしまえば、目の前にいる彼女自身を見失ってしまう。
(同じ名前で、そっくりなだけの別人。そう考えるべきだな)
そう結論づけたところで、レンが立ち上がった。
「さて、わたしはそろそろ行かなくちゃ。これから、あの子たちを捕まえるための準備をしなくてはいけないもの」
「ああ。頑張ってくれ」
「ありがとう。シンヤ君も、ジム戦を頑張ってね」
レンは数歩進んだところで、ふと振り返った。
そして――。
片目をぱちりとつぶり、指先で唇に軽く触れる。
「またいつか、どこかで会いましょう?」
その仕草は、いたずらを仕掛けた少女が相手の反応を楽しむような、実にお茶目なものだった。
それでいて、立ち居振る舞いにはお嬢様のような優雅さがある。
「……っ!」
シンヤは思わず言葉を失った。
(やめてくれ! その仕草は反則だろうが!!)
前世で好きだったキャラクターとあまりにも重なるその姿に、胸の内で喜びと困惑が同時に膨れ上がる。
レンはそんなシンヤの様子を見て、くすりと笑った。
「それじゃあ、ごきげんよう」
そう言い残し、彼女は軽やかな足取りでポケモンセンターを後にしていった。
最後まで、その振る舞いは優雅で、どこか人をからかうような愛嬌を感じさせた。
シンヤは、レンの姿が見えなくなるまで、しばらくその場に立ち尽くしていた。
◆偶然の出会い、そして未来へ
「…………はぁ」
レンの姿が完全に見えなくなったところで、シンヤはようやく大きく息を吐いた。
「まさか、あんな出会いがあるとはな……」
頭の中では、先ほどの光景が何度も繰り返されていた。
髪の色。
クラシカルなロリィタ服。
上品な話し方。
そして、あのいたずらっぽい笑み。
どれも、前世で好きだったレンを思い出させるものばかりだった。
だが、シンヤは改めて自分に言い聞かせる。
(彼女は殲滅天使のレンじゃない。この世界で生きている、レンという名前の少女だ)
似ているからといって、彼女の人生まで同じとは限らない。
彼女には彼女自身の旅があり、目的があり、出会いがある。
それを、ゲームの知識だけで決めつけてはいけない。
「……うん。そういうことだ」
自分の中で整理をつけるように頷くと、シンヤはポケモンたちを預けた受付へと目を向けた。
今はまず、仲間たちの回復が先だ。
ニビジムへの挑戦も控えている。岩タイプのポケモンを相手にするなら、ヒトカゲの炎技だけに頼らない戦術を考える必要がある。
ニドラン♂やマンキーの実力も、まだ十分には把握できていない。
やるべきことは山ほどあるのだ。
それでも――。
(また会えるといいな)
そう思ってしまう自分がいることを、シンヤは否定できなかった。
前世の思い出が、今世の旅に思いがけない彩りを添えてくれた。
そんな出会いだった。
そしてシンヤは、まだ知らない。
このニビシティでの何気ない邂逅が、これからの彼の旅に、予想もしなかった出来事を運んでくることを。
ポケモンリーグを目指す旅。
仲間たちとの成長。
ジム戦、未知のポケモンとの出会い、そして新たな人々との交流。
その道の先で、再びレンと出会うことになるのか。
彼女が探しているポケモンたちは、一体どんな存在なのか。
答えは、まだ誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは――シンヤの旅が、少しずつ面白くなり始めているということだった。
今回は更新なしです。