「――挑戦者、シンヤ。ニビジムに挑戦します!」
シンヤはニビジムの扉を開けると、堂々とした声で宣言した。
すると、薄暗かったジム内の照明が、入口から奥へ向かって一つずつ点灯していく。
照らし出されたのは、広大な岩場を備えたバトルフィールド。そして、その奥に立つ一人の少年だった。
短い髪に、太い眉。落ち着いた表情ながら、鍛えられたトレーナーとしての雰囲気を漂わせている。
ニビジムのジムリーダー――タケシである。
「ニビジム、ジムリーダーのタケシだ。挑戦者か。バッジは?」
タケシが尋ねる。
シンヤは笑顔で答えた。
「ゼロ個だ! ここが最初の挑戦になる!」
「なるほど。初めてのジム戦か」
タケシはうなずき、シンヤを観察する。
そして、ふと周囲に目を向けた。
「それにしても――今日はギャラリーが多いな」
シンヤもつられて周囲を見渡す。
すると、観客席代わりのスペースには、見覚えのある顔が何人も並んでいた。
「おう、シンヤ! 頑張れよー!」
「午前中の勢いを見せてやれ!」
「ジムリーダー相手でも、あの連携が通用するか楽しみだぜ!」
彼らは午前中、シンヤとバトルしたトレーナーたちだった。
どうやら、シンヤのジム戦を見届けようと集まってくれたらしい。
「みんな……わざわざ応援に来てくれたのか!」
シンヤは嬉しそうに手を振った。
その様子を見ていたタケシが、ふむ、と顎に手を当てる。
「彼らには見覚えがある。なるほど……ジム戦で一度負けたトレーナーたちか。応援だけじゃなく、偵察も兼ねているというわけだな」
「まあ、そこは否定しません!」
スペースにりう1人があっさりと認めた。
「でも、せっかくなら本物のジム戦を見て勉強したいですからね」
「ははっ、正直でいいじゃないか」
タケシは笑った。
しかし、次の瞬間にはジムリーダーとしての真剣な表情に戻る。
「それじゃあ、ルールを説明する。よく聞いてくれ」
◆ ニビジム、公式戦開始!
タケシがフィールドの中央へ進み、シンヤも反対側のトレーナーエリアに立つ。
「このバトルで使用できるポケモンは、お互いに二匹。どちらかの手持ちがすべて戦闘不能になった時点で勝敗が決まる」
タケシは指を一本立てた。
「ただし、試合中にポケモンを交代できるのは挑戦者だけだ。ジムリーダーである俺には交代する権利はない。交代するかどうかも、挑戦者の判断に任せる」
「了解です!」
シンヤは力強く答えた。
二匹対二匹。
挑戦者だけが交代できるという、アニメでもおなじみのジム戦ルールだ。
シンヤは手持ちの中から、最初の一匹を選んだ。
「それじゃあ、いくぞ! マンキー!」
「マンキーッ!」
ボールから飛び出したマンキーが、両拳を構えてフィールドに立つ。
タケシも最初のポケモンを繰り出した。
「いけ、イシツブテ!」
「イシツブテ!」
両腕を持つ岩のポケモンが、地面から少し浮き上がる。
タケシはマンキーを見て、わずかに目を細めた。
「格闘タイプのマンキーか。岩タイプの俺に、相性で有利なポケモンをぶつけてきたわけだな」
「それだけじゃありませんよ!」
シンヤは笑顔で返した。
「マンキーの実力を、ここで試したいんです!」
「いいだろう。ならば、こちらも本気でいく!」
タケシが腕を振り下ろす。
「イシツブテ、ころがる!」
イシツブテは身体を丸め、岩場を勢いよく転がり始めた。
「マンキー、右の岩へ跳べ!」
「マンキー!」
マンキーは目の前に転がってくるイシツブテを見極め、横にあった大きな岩へ飛び乗った。
イシツブテはそのまま岩の下を通り抜ける。
「そのまま上から仕掛けろ!」
マンキーは岩の上から跳躍し、イシツブテへ接近した。
「イシツブテ、いわおとし!」
イシツブテが岩を持ち上げ、マンキーに向かって投げつける。
「マンキー、岩を蹴って左へ!」
マンキーは足場にしていた岩を蹴り、空中で身体をひねった。
投げつけられた岩がすぐそばを通過する。
さらにマンキーは、その岩が別の岩に衝突した瞬間を見逃さなかった。
砕けた岩片が飛び散る。
その破片を避けながら、マンキーは落下地点にある岩へ着地した。
「いいぞ! そのままイシツブテの動きを見ろ!」
シンヤの指示に、マンキーはすぐさま反応する。
イシツブテは再び転がろうと、身体を丸め始めていた。
「今だ! マンキー、岩場を使って跳べ!」
マンキーは岩から岩へと飛び移り、イシツブテの正面ではなく、側面へ回り込んだ。
「なにっ!?」
タケシが目を見開く。
マンキーはイシツブテが転がり始める直前に、さらに高い岩へ跳び乗った。
そして――。
「かわらわり!」
「マンキーッ!」
マンキーは岩を蹴り、上空から勢いをつけて急降下する。
狙うのは、転がり始める直前のイシツブテ。
イシツブテが身体を丸めるよりも早く、マンキーの腕が振り下ろされた!
ドガァッ!
かわらわりが直撃。
イシツブテは地面に叩きつけられ、動きを止めた。
「イシツブテ、戦闘不能!」
審判役の声が響く。
「よしっ! マンキー、ナイスだ!」
「マンキーッ!」
マンキーは拳を突き上げ、勝利を喜んだ。
タケシはイシツブテをボールに戻しながら、感心したように息を吐いた。
「なるほどな……」
彼の視線は、マンキーからシンヤへと移る。
「タイプ相性を理解しているだけじゃない。ポケモンの特徴や癖、戦い方までしっかり把握した上で指示を出している。岩場をただの障害物じゃなく、足場として利用する判断もいい」
そして、少しだけ笑みを浮かべた。
「新人にしては、やるじゃないか」
「ありがとうございます!」
シンヤは素直に礼を言った。
しかし、まだ勝負は終わっていない。
タケシは次のモンスターボールを手に取った。
「だが、ここからが本番だ。出てこい、イワーク!」
「イワァァーク!」
巨大な岩の胴体が、地面を揺らしながら姿を現した。
長い身体が岩場の上へと伸び、鋭い目がマンキーを見下ろす。
その圧倒的な大きさに、観客席からもどよめきが起こった。
「うわっ、でけえ……!」
「イワークか! あれは新人には厳しいぞ!」
「マンキーなら相性はいいけど、あの大きさ相手にどうするんだ?」
シンヤはイワークをじっくりと観察する。
その身体の長さ。岩のような外殻。巨体を支えるための動き。そして、攻撃の際に生じるわずかな隙。
(なるほど。こいつが本命か)
タケシはシンヤに尋ねた。
「どうする? 格闘タイプのマンキーなら、イワーク相手でも十分に戦える。交代せずに、そのまま戦わせるか?」
確かに、マンキーは格闘タイプだ。
岩タイプのイワークに対して、相性面で有利な攻撃を仕掛けられる。
しかし――。
「マンキー、戻ってくれ!」
「マンキー?」
シンヤは迷わずマンキーをボールに戻した。
その判断に、タケシはわずかに眉を上げる。
「交代するのか? マンキーならイワークと戦えると思うが」
「ええ。マンキーなら、きっといい勝負ができると思います」
シンヤはボールを握りながら答えた。
「でも俺は、この先、タイプ相性だけで勝ち負けが決まるとは思っていません」
そして、次のボールを掲げる。
「だから――俺はこいつを出します!」
「出てこい、ヒトカゲ!」
「カゲーッ!」
小さな炎を尻尾に灯したヒトカゲが、フィールドへと飛び出した。
その姿を見たタケシは、驚いたように目を見開く。
「ヒトカゲ……! 炎タイプのポケモンで、イワークに挑むのか?」
岩タイプへの炎技は、相性面で有利とはいえない。
それどころか、ヒトカゲの身体ではイワークの巨体を正面から押し切るのも難しいだろう。
タケシは真剣な表情で尋ねた。
「イワークとの相性を理解した上で、そのヒトカゲを選んだんだな?」
「もちろん!」
シンヤは迷いなく答えた。
「最初のジム、最初の相棒で締めたいんで!」
彼はヒトカゲを見つめた。
「何よりも――俺はこいつを信じているんですよ!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲもまた、シンヤを見上げて力強く鳴いた。
その瞳に、迷いはなかった。
タケシは二人の様子を見つめ、静かにうなずく。
「……いいだろう。ならば、その信頼がどこまで通用するか、確かめさせてもらう!」
こうして、ニビジムの第二戦が始まった。
◆ 第二戦!ヒトカゲ対イワーク!
「イワーク、しめつける!」
「イワァァーク!」
イワークが長い身体をくねらせながら、ヒトカゲへ迫る。
巨体が岩場を移動するたび、地面から小さな石が跳ね上がった。
「ヒトカゲ、左へ走れ!」
ヒトカゲは素早く横へ駆け出す。
イワークの身体がその後を追い、長い胴体が岩場を横切った。
「そのまま、えんまく!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲが口から黒い煙を吐き出す。
煙は岩場の間を広がり、イワークの視界を覆った。
「イワーク、落ち着け! 相手の位置を探るんだ!」
タケシは慌てずに指示を出す。
イワークは身体を低くし、周囲の音や気配を探るように頭を動かした。
(視界を奪っただけじゃ、イワークの動きを止めることはできない。なら――)
「ヒトカゲ、かえんほうしゃ! イワーク本体じゃなく、足元の岩場を狙え!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲの口から炎が放たれる。
炎はイワークの身体そのものではなく、その周囲の地面へと広がった。
岩の表面が熱せられ、煙が立ち上る。
もちろん、岩を一瞬で溶かしたわけではない。
だが、黒煙と炎の熱、舞い上がる粉じんによって、イワークが動きやすい場所とそうでない場所が少しずつ変わっていく。
「なるほど……! 煙で視界を奪い、炎で周囲の状況を変えるつもりか!」
タケシはシンヤの狙いに気づいた。
「だが、そんな小細工だけでイワークは倒せない! いわおとし!」
イワークが岩を持ち上げ、煙の中へ投げつける。
「ヒトカゲ、走り続けろ! 岩が落ちた場所を見て、次の進路を決めるんだ!」
ヒトカゲは煙の中を走り抜ける。
一つ、二つ、三つ。
岩が地面にぶつかる音を聞き分け、落下地点を避けながら進む。
しかし、イワークの攻撃は広範囲に及ぶ。
逃げ続けるだけでは、いつか追い詰められてしまう。
「ヒトカゲ、りゅうのいぶき!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲの口から、青みを帯びた不思議なエネルギーが放たれた。
煙の向こうから飛んできた攻撃が、イワークの頭部に命中する。
「イワーク!」
イワークが頭を揺らす。
大きなダメージとまではいかない。だが、イワークの注意を引きつけるには十分だった。
「よし、続けてかわらわり!」
ヒトカゲは岩場を蹴り、イワークの身体へ接近した。
小さな身体から繰り出される一撃が、イワークの側面に叩き込まれる。
ガンッ!
しかし――。
「イワァァーク!」
イワークの身体は、びくともしなかった。
むしろ、硬い岩の表面に弾かれたように、ヒトカゲの腕が押し戻される。
「ヒトカゲ!」
シンヤは思わず声を上げた。
ヒトカゲは着地に失敗しかけたものの、尻尾を振って体勢を立て直す。
「カゲ……!」
「そうだ。無理に押し切ろうとするな。相手はあの巨体だ!」
シンヤは冷静に指示を出す。
ヒトカゲはうなずくように鳴いた。
(やっぱり、パワー差は大きい。技の種類が多くても、それだけで勝てるわけじゃない。イワークの防御力を突破するには、もっと工夫が必要だ……!)
タケシはヒトカゲの様子を見ていた。
「イワーク、しっぽでたたく!」
イワークの長い身体がしなり、巨大な尾がヒトカゲに迫る。
「ヒトカゲ、岩を使って跳べ!」
ヒトカゲは足元の岩を蹴り、跳躍した。
尾が地面を打ちつけ、岩片が飛び散る。
ヒトカゲは空中で身体をひねり、イワークの頭部に近い岩へ着地した。
「その位置を維持しろ! かえんほうしゃ!」
「カゲーッ!」
炎が至近距離から放たれる。
イワークは頭を引き、身体をくねらせて炎を受け流そうとした。
それでも、炎の一部は頭部や身体の隙間に当たる。
イワークがうなり声を上げた。
「イワーク、かたくなる!」
イワークの身体に力が入り、岩の外殻がさらに堅牢になる。
「ここで守りを固めるか……!」
シンヤはすぐに次の指示を考えた。
(真正面からの攻撃は効きにくい。なら、動きを制限しながら、同じ場所に攻撃を集中させる!)
「ヒトカゲ、えんまく!」
ヒトカゲが再び黒煙を吐き出す。
煙はイワークの頭部付近に広がり、タケシからもヒトカゲの位置が見えにくくなった。
「また煙か……!」
タケシは目を細める。
「イワーク、身体を振って煙を散らせ!」
イワークが長い身体を大きく動かす。
その動きで煙が流され、少しずつ視界が開けていく。
だが、煙が完全に晴れる前に――。
「ヒトカゲ、りゅうのいぶき! 同じ場所を狙え!」
「カゲーッ!」
青みを帯びたエネルギーが、先ほど炎を受けた部分へと再び命中した。
イワークの身体がわずかに揺れる。
「イワーク、いわおとし!」
「ヒトカゲ、地面に降りろ!」
ヒトカゲはすぐに岩場から飛び降りた。
投げられた岩が頭上を通り過ぎ、地面に激突する。
ヒトカゲは着地すると、岩の陰へ走り込んだ。
「よし、今度は反対側から接近だ!」
ヒトカゲは岩陰を利用しながら、イワークの側面へ回り込む。
「かわらわり!」
小さな拳が再びイワークに叩き込まれた。
硬い外殻が衝撃を受ける。
イワークは身体を揺らしたが、まだ倒れない。
それでも――。
(効いている! 最初よりも、確実に動きが鈍くなっている!)
シンヤは見逃さなかった。
イワークが身体を動かすたび、その反応がほんの少し遅れている。
最初は滑らかだった身体のうねりも、今はわずかに重い。
ヒトカゲの攻撃は、一撃でイワークを倒せるほど強力ではない。
しかし、煙で視界を乱し、炎で攻撃できる位置を探り、りゅうのいぶきとかわらわりで繰り返し攻める。
その積み重ねが、確実にイワークの体力を削っていた。
「ヒトカゲ、あと少しだ! 焦るな!」
「カゲーッ!」
ヒトカゲは疲労しながらも、シンヤの声に応える。
タケシもまた、その戦い方に驚きを隠せなかった。
(ヒトカゲの火力では、イワークの防御を正面から突破するのは難しい。だが、挑戦者はそれを理解している。だからこそ、攻撃を重ね、動きを制限し、少しずつ削っているのか……!)
タケシは拳を握った。
「イワーク、負けるな! しめつける!」
「イワァァーク!」
イワークが身体を伸ばし、ヒトカゲを囲い込もうとする。
「ヒトカゲ、跳べ!」
ヒトカゲは岩を蹴り、イワークの身体を飛び越えた。
だが、疲労が蓄積している。
着地した瞬間、足元がわずかにふらついた。
「ヒトカゲ!」
シンヤの声が響く。
イワークはその隙を逃さず、頭部を振り上げた。
「いわおとし!」
岩がヒトカゲへ迫る。
ヒトカゲは咄嗟に身体をひねったものの、完全には避けきれなかった。
岩が肩をかすめ、ヒトカゲは地面を転がる。
「カゲーッ!」
「ヒトカゲ!」
観客席から悲鳴が上がった。
だが、ヒトカゲは倒れなかった。
身体を震わせながら立ち上がり、イワークを見据える。
尻尾の炎は、まだ力強く燃えていた。
「カゲ……ッ!」
その瞳には、闘志が宿っている。
まだ戦える。
まだ、終わっていない。
シンヤはヒトカゲの姿を見て、静かにうなずいた。
「……そうだな。ここまで来たんだ。最後まで一緒に戦おう!」
ヒトカゲが大きく鳴いた。
「カゲーッ!」
そして、その瞬間だった。
ヒトカゲの身体が、まばゆい光に包まれた。
「なっ……!?」
シンヤが目を見開く。
ヒトカゲの身体が光の中で変化していく。
身体が大きくなり、手足が伸び、頭部の形も変わっていく。
尻尾の炎が揺らめき、光が徐々に晴れていった。
そこに立っていたのは――。
「リザァァード!」
進化したポケモン、リザードだった!
「ヒトカゲが……進化した!?」
観客席から大きな歓声が上がる。
シンヤは驚きながらも、すぐに笑顔を浮かべた。
「ヒトカゲ……いや、リザード! おめでとう!」
「リザァード!」
リザードは力強く声を上げた。
その身体には、ヒトカゲの頃よりも明らかに強い力がみなぎっている。
腕も脚も大きくなり、鋭い爪を備えた手が開閉する。
尻尾は長く伸び、先端の炎が勢いよく揺れていた。
タケシもまた、驚きを隠せなかった。
「進化したのか……! あの激戦の中で!」
しかし、すぐに気を引き締める。
「だが、進化したからといって、勝負が決まったわけじゃない! イワーク、全力でいくぞ!」
「イワァァーク!」
イワークが身体を持ち上げる。
リザードはその姿を見据え、拳を握りしめた。
シンヤは進化したばかりの相棒を見て、力強く指示を出す。
「リザード! まずは距離を取れ! 相手の動きをよく見ろ!」
「リザァード!」
リザードは岩場を駆け、イワークの攻撃をかわす。
進化によって身体能力が向上したことで、動きはヒトカゲの頃よりも力強く、鋭くなっていた。
「かえんほうしゃ!」
リザードの口から炎が放たれる。
イワークは身体をひねって受け流そうとしたが、先ほどよりも勢いのある炎が、その身体を広く包み込んだ。
「イワーク!」
炎が収まる。
イワークはまだ倒れていない。
だが、その身体は明らかに疲弊していた。
タケシは歯を食いしばる。
(進化によってパワーが上がった……! 今までなら受け流せていた攻撃も、簡単にはいかない!)
「イワーク、しめつける!」
イワークがリザードへ迫る。
「リザード、岩場を駆け上がれ!」
リザードは目の前の岩を蹴り、斜面を駆け上がった。
イワークの身体が追いかけてくる。
しかし、リザードは岩場の起伏を利用し、身体を左右に振りながら進む。
イワークの長い身体が岩にぶつかり、進路がわずかに乱れた。
「今だ! りゅうのいぶき!」
「リザァード!」
青みを帯びたエネルギーが放たれ、イワークの頭部を直撃する。
「イワーク!」
イワークが頭を振る。
それでも、まだ立っている。
「すごいな、タケシさんのイワーク……!」
シンヤは思わずつぶやいた。
何度も攻撃を受けているのに、まだ倒れない。
さすがはジムリーダーのポケモンだ。
だが、リザードも負けてはいなかった。
進化によって得た力を確かめるように、拳を握り直す。
シンヤはその様子を見て、最後の指示を出した。
「リザード! これで決めるぞ!」
「リザァード!」
「イワーク、いわおとし!」
イワークが岩を持ち上げる。
「リザード、岩を避けながら接近! 最後は――かわらわりだ!」
リザードは走り出した。
投げつけられた岩が地面に落ちる寸前、リザードは横へ跳ぶ。
岩の破片が飛び散る中を駆け抜け、イワークとの距離を一気に詰めた。
「リザァァード!」
リザードが拳を大きく振り上げる。
狙うのは、何度も攻撃を受け、疲労が蓄積しているイワークの頭部。
「かわらわりィィッ!」
ドゴォォォン!!
強烈な一撃が、イワークの頭頂部に直撃した。
巨体が大きく揺れる。
イワークは身体を支えようとしたが、ついに力尽き、岩場へと倒れ込んだ。
ドォォォン……!
ジム内に地響きが響き渡る。
そして――。
「イワーク、戦闘不能!」
審判の声が響いた。
「勝者、挑戦者シンヤ!」
一瞬、静寂が訪れた。
その次の瞬間。
「やったああああっ!」
シンヤは思い切り拳を突き上げた。
「勝ったぞ、リザード!」
「リザァァード!」
リザードもまた、勝利の雄叫びを上げた。
観客席からは、割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「すげえ! 本当に勝っちまった!」
「ヒトカゲが進化した瞬間、鳥肌が立ったぞ!」
「タイプ相性が不利でも、あそこまで戦えるのか……!」
午前中に戦ったトレーナーたちも、興奮した様子で声を上げていた。
シンヤはリザードのもとへ駆け寄る。
「よく頑張ったな! 最後まで諦めずに戦ってくれて、ありがとう!」
「リザァード!」
リザードは嬉しそうに鳴いた。
その身体は疲れている。それでも、勝利の喜びが全身から伝わってくる。
シンヤはその額にそっと手を置いた。
(最初に選んだポケモンが、最初のジム戦で進化して勝利する……。ゲームでも嬉しい瞬間だけど、実際に目の前で見ると、まるで違うな)
胸の奥が熱くなる。
ただ勝っただけではない。
リザードと一緒に戦い、苦戦し、工夫し、最後まで諦めなかったからこそ得られた勝利だった。
◆ グレーバッジ、獲得!
イワークをボールに戻したタケシは、シンヤのもとへ歩み寄った。
「シンヤ。見事なバトルだった」
「ありがとうございます!」
「最初は、ヒトカゲでイワークに挑むと聞いて驚いたよ。だが、君は相性だけに頼らず、煙で視界を奪い、地形を利用し、攻撃を重ねてイワークの動きを制限していった」
タケシはリザードにも目を向ける。
「そして、最後まで戦い抜いたヒトカゲ……いや、リザードの粘り強さも見事だった。進化するまでの戦い方を含めて、君たち二人の勝利だ」
「はい!」
シンヤはリザードと顔を見合わせた。
タケシはポケットから、灰色の石を思わせるデザインのバッジを取り出した。
「これを受け取ってくれ。ニビジムのグレーバッジだ!」
シンヤは両手でそれを受け取る。
「グレーバッジ……!」
初めて手にするジムバッジ。
それは、単なる記念品ではない。
ニビジムのジムリーダーに挑み、ポケモンたちと力を合わせて勝ち取った証だった。
「ありがとうございます、タケシさん! 大切にします!」
「次のジムでも、その調子で頑張れよ。ただし、今日の勝利に満足せず、ポケモンたちの体調管理も忘れるな」
「もちろんです。まずは全員をポケモンセンターで休ませます!」
「ははっ、それなら安心だな」
タケシは満足そうに笑った。
シンヤはグレーバッジを大切にしまい、リザードを見上げた。
「リザード。俺たちの最初のバッジだ!」
「リザァード!」
リザードは胸を張り、誇らしげに鳴いた。
その様子に、観客席から再び拍手が送られる。
「おめでとう、シンヤ!」
「次のジムも頑張れよ!」
「またバトルしようぜ!」
シンヤは一人ひとりに手を振った。
「みんな、ありがとう! また会ったら勝負しよう!」
旅立ってから、まだそれほど時間は経っていない。
それなのに、シンヤにはすでに多くの出会いがあった。
新しい仲間。初めてのバトル。家族との連絡。そして、初めてのジム戦。
その一つひとつが、これからの旅を形作っていく。
シンヤはグレーバッジをしまったバッグを肩にかけ、リザードとともにジムの出口へ向かった。
(まずは一つ。次はハナダシティだな)
その先には、まだ見ぬポケモンたちとの出会いが待っている。
そして、いつか再会することになるサトシやシゲル、旅の途中で出会うさまざまなトレーナーたちとの物語も――。
シンヤの旅は、まだ始まったばかりだった。
【シンヤの手持ち一覧】
・リザード LV:20→LV:21
ヒトカゲはリザードに進化した!
リザードはほのおのパンチ、ドラゴンクローを覚えた!
・ピジョン LV:16→18
・コイキング LV:18
・マンキー LV:15→16
・バタフリー LV:15
・ピカチュウ LV:15→18
【実家のポケモン】
・コラッタ LV:15
・コダック LV:12
・ヤドン LV:15
・ニョロモ LV:12
・トサキント LV:12
・ニドラン♀ LV:15
・オニスズメ LV:12
・ポニータ LV:15
・ドード LV:12
・ニドラン♂ LV:17
・スピアー LV:15