ジム戦から一夜明けた、ニビシティ。
昨日、シンヤは初めてのジム戦でタケシに勝利し、最初のバッジであるグレーバッジを手に入れた。
そして、激戦を繰り広げたリザードも、ポケモンセンターで十分な休息と治療を受け、すっかり元気を取り戻していた。
「よし、みんな! 体調は問題なさそうだな?」
「リザーッ!」
「ピジョン!」
「フリー!」
「ピカチュウ!」
「ニドラン!」
「コイキング!」
シンヤの声に、手持ちのポケモンたちがそれぞれ元気よく応える。
リザードは昨日の進化を経て、身体つきも以前よりたくましくなった。本人も自分の変化を実感しているらしく、時折、自分の爪や尻尾を眺めては、満足そうに炎を吐いていた。
「リザード、進化したからって無理はするなよ。身体の感覚も少し変わっているはずだから、今日の移動中に改めて確認しておこう」
「リザーッ!」
「それと、ニドラン♂。お前も最近、ずいぶん成長しているよな」
「ニドラン!」
シンヤはニドラン♂の頭を優しく撫でる。
ここ数日の戦闘やトレーニングを通じて、ニドラン♂の身体能力は着実に向上していた。波動の眼で観察すると、身体の内部を巡るエネルギーや筋肉の動きにも、以前とは違う変化が見られる。
(そろそろ進化できる状態になっていてもおかしくない。まあ、無理に進化を促すつもりはないけどな)
進化は単純に強くなるためだけのものではない。
身体の構造が変われば、今まで得意だった動きが変化することもある。進化後の身体に慣れる時間も必要だ。
だからこそ、シンヤはポケモンたち自身の成長を大切にしていた。
「それじゃあ、出発しよう! 目指すはオツキミ山だ!」
「ピカッ!」
こうして、シンヤと六匹の仲間たちは、ニビシティを後にした。
目指すは、ハナダシティへと続く道。その途中にそびえる、神秘的な洞窟――オツキミ山である。
◆3番道路の道中、それぞれの仲間と
ニビシティを出たシンヤたちは、まず3番道路へと足を踏み入れた。
道の周囲には草むらや岩場が広がり、遠くには山々が連なっている。
トレーナーたちが行き交い、野生のポケモンたちも時折、草むらの中から顔を覗かせていた。
「さて、オツキミ山まではまだ少し距離がある。焦らず進もう」
シンヤはそう言って、リザードたちを見回した。
「リザード、進化してから歩くときの感覚はどうだ?」
「リザー……」
リザードは自分の足を見下ろし、何度か地面を踏みしめた。
「なるほど。身体が重くなった分、踏み込みは強くなったけど、細かい方向転換はまだ調整中ってところか」
「リザーッ!」
リザードは、分かってくれたと言わんばかりに頷いた。
「じゃあ、後で安全な場所を見つけたら、少しだけ動きを確認しよう。今は移動が優先だ」
続いて、シンヤはピジョンへ目を向ける。
「ピジョンはどうだ? 空から何か見つけたか?」
「ピジョン!」
ピジョンは翼を広げ、周囲を旋回した後、シンヤの肩の近くへ戻ってきた。
今のところ、特に危険な野生ポケモンや、道を塞ぐような障害物は見当たらないらしい。
「よし。何かあったら教えてくれ。けど、遠くまで飛びすぎるなよ」
「ピジョン!」
その横では、ピカチュウがシンヤの足元を軽快に走り回っていた。
「ピカピカ!」
「お前は相変わらず元気だな。昨日までの疲れはもう大丈夫そうだ」
ピカチュウはシンヤを見上げると、得意げに胸を張った。
その姿に、シンヤは思わず笑う。
「頼もしい限りだよ」
一方、バタフリーは時折、花の咲いた草むらの上を飛んでいた。
キャタピーからトランセル、そしてバタフリーへ。
短い期間で大きく姿を変えたポケモンだが、今では自分の翼を使って自在に空を飛べるようになっている。
「バタフリー、飛ぶのは楽しいか?」
「フリ~~!」
「そうか。ならよかった」
シンヤは、バタフリーが気持ちよさそうに羽ばたく姿を眺めた。
(進化したばかりだし、これからは飛行の安定性や、粉を散布する範囲なんかも確認していきたいな)
バタフリーの強みは、単純な攻撃力だけではない。
粉を使った状態異常や、風を利用した妨害、空中からの位置取り。工夫次第で、戦況を大きく変えられるポケモンだ。
そして最後に、シンヤはコイキングへ視線を向ける。
「コイキング、お前も大丈夫か?」
「コイキング!」
元気よく跳ねるコイキング。
相変わらず、地面の上では移動しにくそうだったが、跳躍力はかなりのものだ。
「よしよし。無理に跳ね続ける必要はないからな。疲れたら休もう」
シンヤはコイキングの様子を確認してから、再び歩き始めた。
旅は、ポケモンに指示を出して戦わせるだけではない。
一緒に歩き、話しかけ、相手の調子を知り、信頼を深める。
その積み重ねこそが、いざというときの連携につながるのだ。
◆野生のポケモンたちとの出会い!
しばらく進んだ頃。
草むらの向こうから、可愛らしい歌声が聞こえてきた。
「プリ~ン♪」
「あれは……プリンか!」
シンヤが振り向くと、草むらの端で一匹のプリンが身体を揺らしていた。
その近くには、地面を掘り返しているサンドの姿もある。
さらに、岩の陰から細長い身体をくねらせながら、アーボが這い出してきた。
「プリン、サンド、アーボ……三種類か」
シンヤは波動の眼を発動させ、それぞれの様子を観察する。
プリンは周囲への警戒心がやや強いものの、好奇心もある。サンドは地面を掘る動作に集中しており、アーボは他の二匹を警戒するように舌を出していた。
(よし。ここはバタフリーに任せてみるか)
シンヤはモンスターボールを手に取り、バタフリーへと視線を向けた。
「バタフリー、出番だ。進化してから初めての本格的な捕獲戦になるけど、やれるか?」
「フリー!」
バタフリーは自信ありげに羽ばたいた。
「よし、頼んだぞ!」
シンヤはバタフリーを前に出し、三匹の野生ポケモンへ声をかける。
「こっちは戦うつもりだけど、必要以上に傷つける気はない。バタフリー、相手の動きを見ながら戦おう!」
最初に動いたのはサンドだった。
「サンド!」
サンドが地面を蹴り、バタフリーへ向かって突進する。
「バタフリー、上昇してかわす!」
バタフリーは翼を大きく羽ばたかせ、サンドの突進を空中へ逃れて回避した。
しかし、サンドはそのまま地面に潜るように身を低くし、勢いを殺して方向転換する。
(地面を利用して死角から接近するつもりか!)
「バタフリー、かぜおこし!」
「バタフリー!」
バタフリーが羽ばたき、風を巻き起こす。
風は地面の砂を巻き上げ、サンドが身を隠そうとしていた場所を露わにした。
サンドは一瞬、動きを止める。
「今だ! ねむりごな!」
バタフリーが羽から粉を散布する。
しかし、サンドはすぐに身体を丸めて転がり、粉が広がる場所から離れた。
「なるほど、簡単には当たってくれないか。なら……」
シンヤは周囲の地形に目を向ける。
サンドの後方には低い岩があり、その先は少し狭い草地になっていた。
「バタフリー、風を右から左へ流すんだ! 直接ぶつけるんじゃなく、あいつの進路を狭める!」
「バタフリー!」
バタフリーは羽ばたく角度を変え、風を横方向へ送った。
砂が流され、サンドは一度、岩の手前へ進路を変える。
そこへ――。
「しびれごな!」
バタフリーが散布した粉が、サンドの身体へ降りかかった。
「サンド……?!」
サンドの動きが鈍くなる。
完全に動けなくなったわけではない。しかし、素早い突進を繰り返すのは難しくなったようだった。
「よし、十分だ。モンスターボール!」
シンヤがボールを投げる。
赤い光がサンドを包み込み、ボールの中へ吸い込んだ。
地面に落ちたボールが、しばらく揺れる。
そして――。
カチッ。
「よし! サンド、ゲット!」
シンヤはボールを拾い上げ、優しく笑った。
「よく頑張ったな、バタフリー!」
「バタフリー!」
初戦を終えたバタフリーは、嬉しそうにシンヤの周りを飛んだ。
だが、まだ二匹が残っている。
プリンとアーボは、こちらの戦いを見て警戒を強めていた。
「今度はプリンか。バタフリー、引き続き頼む!」
「バタフリー!」
プリンが頬を膨らませ、歌うような声を響かせた。
「プープププ~~~」
「おっと、歌で眠らせるつもりか!」
シンヤはすぐに反応する。
「バタフリー、距離を取って、かぜおこし!」
バタフリーが風を起こし、プリンの歌声が届く距離から離れた。
風はプリンの足元の草を揺らし、身体を少しよろめかせる。
プリンは負けじと近づこうとするが、バタフリーは高度を変えながら距離を維持した。
(プリンの歌を真正面から受ける必要はない。相手が歌うために立ち止まるなら、こちらは位置を変え続ければいい!)
「バタフリー、強くかぜおこし!」
バタフリーが強い風を送る。
プリンは踏ん張ろうとしたが、軽い身体が後ろへ押し戻された。
その瞬間、バタフリーが低空へ降りる。
「今だ、たいあたり!」
「バタフリー!」
バタフリーの体当たりがプリンに命中した。
プリンは草地へ転がったものの、すぐに起き上がろうとする。
「プリン、まだやる気か……。いいぞ、その意気だ!」
シンヤは相手の意志を認めながらも、捕獲の機会を逃さなかった。
「バタフリー、ねむりごな!」
今度はプリンが立ち上がる動きに合わせて、粉が舞い落ちる。
プリンは身体を揺らし、まぶたを重そうにしながら、とうとうその場に座り込んだ。
「よし、モンスターボール!」
ボールがプリンを包み込む。
一度、二度と揺れ――。
カチッ。
「プリンもゲットだ!」
「フリー!」
シンヤはボールを手に取り、バタフリーを労った。
「粉の使い方が上手くなってきたな。相手の動きを見て、当てるタイミングを変えられている」
「フリー!」
「ただし、粉を使うときは風向きにも注意するんだぞ。自分に戻ってきたら大変だからな」
バタフリーは、理解したように小さく鳴いた。
残るはアーボだ。
アーボは二匹が捕獲されたのを見て、身体を低くして警戒していた。
「シャーボ……」
「大丈夫だ。無理に追い詰めたりはしない。バタフリー、慎重にいこう」
アーボは突然、身体を伸ばして飛びかかってきた。
「バタフリー、上へ!」
バタフリーは間一髪で回避する。
アーボはそのまま地面へ着地し、すぐさま首をもたげた。
「へびにらみか……!」
アーボの視線がバタフリーを捉えようとする。
シンヤはすぐに指示を出した。
「目を合わせ続けるな! 高度を変えながら、かぜおこし!」
バタフリーが急上昇し、斜め上から風を送り込む。
アーボは風に押されて体勢を崩したが、尻尾を地面に叩きつけて踏みとどまった。
「しぶといな……! なら、粉を直接浴びせるより、風に乗せて進路を制限する!」
バタフリーは低空を旋回し、アーボの周囲に風を流した。
草が揺れ、舞い上がった葉がアーボの視界を一瞬遮る。
「今だ! しびれごな!」
風の流れに乗った粉が、アーボの身体へ降りかかった。
アーボは身をくねらせて逃れようとしたが、動きが徐々に鈍くなっていく。
「よし。バタフリー、最後は無理に攻めずに距離を保ってくれ!」
バタフリーはアーボの反撃を警戒しながら、一定の距離を維持した。
シンヤはその隙にモンスターボールを構える。
「アーボ、これからよろしくな!」
ボールがアーボを包み込む。
そして――。
カチッ。
「よし! アーボもゲット!」
三匹の捕獲に成功したシンヤは、ボールを並べて眺めた。
「プリン、サンド、アーボか……。いやあ、いい出会いが続くな」
「フリ~!」
「ありがとう、バタフリー。進化してからの初戦としては上出来だ!」
シンヤはバタフリーの頭を優しく撫でた。
(粉技と風技の組み合わせは、やっぱり強い。ただし、相手の体重や地形、風向きによって結果は変わる。これからも経験を積ませていこう)
そして、捕まえた三匹を家へ送る準備を始めた、そのときだった。
◆ニドラン♂、進化の時!
「……ん?」
シンヤは、傍らにいたニドラン♂の様子に気づいた。
「ニドラン? どうした?」
ニドラン♂は自分の身体を見下ろし、何かを確かめるように前脚を動かしていた。
その身体から、普段よりも強い光があふれ始める。
「これは……!」
シンヤは思わず目を見開いた。
ニドラン♂の身体が光に包まれ、輪郭が変化していく。
頭部の角は大きくなり、身体も一回り以上たくましくなっていく。手足が伸び、全身のバランスが変化する。
やがて光が収まると、そこには以前よりも力強い姿のポケモンが立っていた。
「ニドー……!」
「ニドリーノ!」
ニドラン♂――いや、ニドリーノは、自分の身体を確かめるように軽く地面を踏みしめた。
「おめでとう、ニドリーノ!」
シンヤは笑顔で駆け寄り、その身体を見回した。
「ついに進化したな!」
「ニドリーノ!」
ニドリーノは嬉しそうに鳴き、シンヤの胸元へ身体を寄せた。
「よしよし。身体の調子はどうだ?」
シンヤは波動の眼を使い、ニドリーノの状態を慎重に確認する。
(筋力が上がっている。角の構造も変化しているし、身体の重心も前より前方に寄ったか?)
進化によって、攻撃の威力や突進の力は増しているようだった。
しかし、身体が大きくなったことで、今までと同じ感覚で動くと、旋回時に余計な力が必要になる可能性もある。
「よし。進化したばかりだから、今日は無理に戦わせない。移動しながら、歩き方や疲れ方を確認していこう」
「ニドリーノ!」
「それと……」
シンヤは少し考えてから、ニドリーノに向き直った。
「これからは、ニドリーノとしての新しい身体に慣れていこうな。今まで得意だった技も、進化したことで感覚が変わっているかもしれない」
ニドリーノは力強く頷いた。
その姿を見て、シンヤは満足そうに笑った。
(進化はゴールじゃない。ここから新しい成長が始まるんだ)
その後、シンヤは捕まえたプリン、サンド、アーボの三匹を、父と母の待つ実家へ送ることにした。
フーパのリングを応用した空間転送機能を備えたバッグから、家へつながる専用リングへアクセスする。
「母さん、また新しい仲間を送るよ。プリン、サンド、アーボの三匹だ。みんな、よろしく頼むな!」
バッグの向こう側へボールが転送されていく。
シンヤは続けて、家にいる母へ通信をつないだ。
『あら、シンヤ。また捕まえたの?』
画面に映ったミサキは、驚きながらも嬉しそうだった。
「うん。道中で出会ってね。それと、ニドラン♂がニドリーノに進化したんだ」
『まあ! おめでとう、ニドリーノ!』
「ニドリーノ!」
ニドリーノは画面に向かって元気よく鳴いた。
『ふふっ、立派になったわね。進化したばかりだから、身体の変化には気をつけてあげてね』
「分かってる。今日は移動が中心だから、無理なトレーニングはしないよ」
『それなら安心ね。新しく来た三匹も、うちの子たちと仲良くできるように見ておくわ』
「ありがとう、母さん。ニドリーノも、家に送ったポケモンたちも、よろしく頼むよ」
『ええ、任せてちょうだい』
通信を終えたシンヤは、ニドリーノへと向き直った。
「さて、ニドリーノ。これからもよろしくな!」
「ニドリーノ!」
新たな進化を見届けたシンヤは、再びオツキミ山を目指して歩き出した。
◆4番道路、そして再会
3番道路を抜け、さらに進んでいくと、景色は少しずつ変わっていった。
遠くには大きな山がそびえ、その麓には洞窟へと続く道が見える。
あれこそが、オツキミ山。
ニビシティとハナダシティを結ぶ、険しくも神秘的な山だった。
「ようやく4番道路か……」
シンヤは地図を確認し、顔を上げる。
「この先がオツキミ山だな」
ピジョンが空から周囲を確認し、戻ってくる。
「ピジョン!」
「ありがとう。入口付近に危険はなさそうか?」
ピジョンは頷くように鳴いた。
シンヤはバッグの中にある父の発明品を思い出し、自然と口元を緩めた。
(万能発掘ツールに、化石専用ケース。それに保護メガネと作業用の手袋まで……。父さん、本当にどこまで準備してくれているんだ)
オツキミ山には、化石や珍しい鉱石が眠っている可能性がある。
そして、ゲームで知っている情報が現実でも通用するのなら、ここは単なる通過地点ではない。
未知のポケモンの歴史に触れられる、貴重な場所になるかもしれないのだ。
そんなことを考えながら歩いていたシンヤは、山の入口付近に人影を見つけた。
フリルのついた白いエプロンドレス。その下には、濃い紫色のワンピース。
桃がかった紫色のボブヘアに、細いリボン。
人形のように整った顔立ちの少女が、入口の前に立っていた。
「……あれ?」
シンヤが目を凝らした、その瞬間。
少女がこちらを振り向いた。
「あら? シンヤ君」
「……レンじゃないか!」
そこにいたのは、ニビシティのポケモンセンターで出会い、別れた少女――レンだった。
「何でここに? それに、俺のことは呼び捨てでいいぞ?」
レンは目を細め、くすりと笑った。
「そう? なら、そうさせてもらうわね。シンヤ」
「ああ、よろしく」
再会した二人は、自然と笑顔を交わした。
しかし、シンヤには一つ疑問があった。
「ところで、レンは何でオツキミ山の入口にいるんだ?」
「それはね……」
レンは山の入口へと視線を向けた。
「もともとニビシティに来たのは、この辺りにいるプリンと、オツキミ山の中にいるピッピが目当てだったのよ」
「ああ、なるほど!」
シンヤは納得したように頷く。
「前に言っていた、捕まえたいポケモンってことか」
「ええ、そういうこと」
「しかし、見事にフェアリータイプばっかりだな……」
何気なく口にしたシンヤの言葉に、レンは嬉しそうに微笑んだ。
「そうね。私の手持ちは、みんなフェアリーばっかりよ?」
そう言うと、レンはモンスターボールを取り出した。
「せっかくだから、紹介してあげるわ」
彼女がボールを投げると、次々とポケモンたちが姿を現した。
「出てきて、みんな!」
最初に現れたのは、緑色の髪をした小さなポケモン。
「ラルトス!」
「おお、ラルトスか!」
続いて、頭部に大きな顎のような器官を持つポケモン。
「クチート!」
「クチートまでいるのか……!」
さらに、水色の身体をした丸いポケモンが跳ねる。
「マリル!」
「マリルも!」
そして、先ほどシンヤが捕まえたばかりのポケモンと同じ種族――プリンも現れた。
「プリ~ン♪」
「なるほど……。ラルトス、クチート、マリル、プリン。確かにフェアリータイプが揃っているな」
シンヤは感心しながら、波動の眼で彼女たちの様子を確認する。
それぞれ性格や身体の特徴は違うが、レンとの間には確かな信頼関係があるようだった。
そして最後に、レンがもう一つのボールを手に取る。
「それから、この子もね」
光とともに現れたのは、茶色い毛並みと大きな耳を持つ、小さなポケモンだった。
「イーブイ!」
「……イーブイ?」
シンヤは思わず声を上げた。
イーブイはレンの足元へ駆け寄り、彼女の顔を見上げる。
レンはその頭を撫でながら、優しい表情を浮かべた。
「この子は、まだ進化していないの。これから、どんな姿に進化するのかを一緒に考えているところなのよ。一応候補はあるのだけど……」
「進化先……」
シンヤはイーブイを見つめた。
そして、ほとんど反射的に口を開く。
「もしかして……ニンフィア?」
「……えっ?」
レンの表情が固まった。
「今、何て言ったの?」
「え? いや、イーブイの進化先はニンフィアかなって……」
「ニンフィア……?」
レンは驚いた様子でイーブイを見下ろし、それからシンヤへ視線を戻した。
「驚いたわね……。イーブイの新しい進化先は、つい最近になって、ようやく発見されたばかりなのよ?」
「そうなのか?」
シンヤは、しまった、という気持ちを胸の奥に押し込めた。
(しまった。今の世界では、まだニンフィアの発見が新しい出来事なのか!)
前世の知識では、ニンフィアはすでに知られた進化形だった。
しかし、この世界では違う。
地方によってポケモンの研究状況や発見の歴史が異なり、新しい進化形が見つかることもある。
シンヤはそのことを改めて思い出した。
レンは、さらに驚いた様子で続けた。
「それに、フェアリータイプのことまで知っているのね。あなた、見た目よりずっと物知りなのかしら?」
「まあね。ポケモンについて調べるのは好きなんだ」
シンヤは曖昧に笑って答えた。
(本当は前世の知識があるからなんだけどな……。さすがに、それを説明するわけにもいかないか)
レンはまだ不思議そうにしていたものの、それ以上は追及しなかった。
「ふふっ。シンヤって、面白い人ね」
「そうか?」
「ええ、とっても」
レンは楽しそうに笑った。
◆レンの故郷、カロス地方
ポケモンたちがそれぞれ自由に動き始めると、シンヤはふと思いついて尋ねた。
「そういえば、レンってどこの出身なんだ?」
「私?」
レンは一度、山の方へ目を向けた。
「私はカロス地方の出身よ」
「カロス地方……!」
シンヤは思わず反応した。
(やっぱりか!)
カロス地方といえば、独特の文化や美しい街並み、そしてフェアリータイプに関する研究でも知られる地方だ。
レンがフェアリータイプのポケモンを中心に手持ちを組んでいることにも、何となく納得がいった。
「カロスからカントーまで来たのか。結構な距離があるよな」
「そうね。いろいろ事情があって旅に出て、今はカントーに来ているの」
そう答えたレンの表情が、ほんの一瞬だけ曇った。
声の調子も、先ほどより少し落ち着いている。
シンヤはその変化を見逃さなかった。
(……事情、か)
彼女がどんな理由で旅に出たのかは分からない。
だが、無理に聞き出す必要はないだろう。
誰にでも、話したくないことや、まだ言葉にできない事情はある。
「そっか。遠くから来たんだな」
シンヤは、それだけを口にした。
レンは少し驚いたように彼を見たが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「ええ。旅をしていると、いろいろな出会いがあるものね」
「確かに。それは俺も実感してるよ」
シンヤは自分の手持ちを見回した。
ヒトカゲから進化したリザード。空を飛ぶピジョン。進化したばかりのバタフリー。そして、ニドリーノ、コイキング、ピカチュウ。
マサラタウンを出てから、まだそれほど日数は経っていない。
それなのに、出会いも経験も、驚くほど増えていた。
「……ところで」
シンヤは、話題を切り替えるようにオツキミ山の入口を指差した。
「何で、山の中に入らず入口にいるんだ?」
「うっ……」
レンは、少しだけ気まずそうに目を逸らした。
「それは……」
「それは?」
「……洞窟に入ったことがないのよ」
「え?」
「だから、洞窟に入ったことがないの。あまり暗すぎる場所も苦手で……」
レンは小さく咳払いをした。
「普段、夜はあまり出歩かないようにしているのだけれど、今回はどうしてもピッピに会いたくて。だから、入口までは来たのよ」
彼女はオツキミ山を見上げた。
洞窟の奥は暗く、入口からは内部の様子がほとんど見えない。
「でも、いざ入ろうとすると……少し、勇気がいるわね」
「なるほど……」
シンヤは納得した。
(まあ、そうだよな。トレーナーとして旅を始めたばかりの十歳くらいの子供が、暗い洞窟を一人で探索するのは、普通に考えたら怖いだろう)
ゲームなら、主人公は何のためらいもなく洞窟へ入っていく。
しかし、現実の洞窟は違う。
暗闇に足を踏み入れれば、何がいるか分からない。足場が崩れるかもしれないし、野生のポケモンに遭遇することもある。
まして、レンはピッピを探しに来ただけで、洞窟探索に慣れているわけではないのだ。
シンヤは少し考えてから、明るい声で提案した。
「ならさ。一緒にオツキミ山の中を探索するか?」
「……え?」
レンが顔を上げる。
「俺も、これからオツキミ山を通ってハナダシティへ向かう予定なんだ。山の中にいるポケモンを何匹か捕まえたいし、父さんからもらった発明品を試してみたいからな」
「お父様の発明品?」
「ああ。父さんは発明家なんだ。今回は、化石や鉱石を掘り出すための万能発掘ツールを作ってくれてね。それを使って、山の中を調べてみようと思ってる」
「まあ……!」
レンの表情がぱっと明るくなった。
「シンヤのお父様は発明家なのね。すごいわ!」
「まあ、すごい人だと思うよ。……本当に、いろいろと」
シンヤは、父が用意してくれた道具の数々を思い出す。
(旅に出て数日で、あの万能発掘ツールだもんな……。うちの父さん、発明家というより、発明王なんじゃないか?)
思わず苦笑しながらも、シンヤは続けた。
「俺一人でも探索はできるけど、誰かと一緒なら安全面でも心強い。レンがよければ、一緒に行かないか?」
レンはすぐには答えなかった。
少しだけ考え込むように視線を落とし、それから、そっと顔を上げた。
「……シンヤが迷惑ではなければ、お願いしてもいいかしら?」
「もちろん!」
シンヤは迷いなく頷いた。
「旅は道連れ世は情け、って諺もあるしな!」
「ふふっ……。そうね。それじゃあ、よろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくな!」
レンは、ほっとしたように微笑んだ。
そして、自分のポケモンたちへ声をかける。
「みんな、シンヤと一緒に探索することになったわ。よろしくね」
「ラル!」
「クチ!」
「ルリ!」
「プリン!」
「イーブイ!」
五匹のポケモンたちが、それぞれ元気よく応えた。
シンヤの手持ちたちも、興味深そうに彼女たちを見つめる。
ピカチュウはイーブイに近づき、何やら挨拶するように鳴いた。
「ピカピカ!」
「イーブイ!」
イーブイも嬉しそうに応じる。
その様子を見て、シンヤは微笑んだ。
「よし。それじゃあ、準備を整えてから入ろう。まずは周囲の確認と、洞窟内で使う道具のチェックだ」
「分かったわ」
レンは頷き、ポケモンたちをボールへ戻し始めた。
シンヤも仲間たちの状態を確認し、バッグの中身を確かめる。
懐中電灯代わりの照明器具、予備の電池、救急用品、飲み水、ポケモン用の食料。
そして、父が用意してくれた万能発掘ツールと化石専用ケース。
準備は整っている。
「よし……行こうか、みんな!」
シンヤがオツキミ山の入口へ向かって歩き出す。
その隣には、レンがいた。
彼女は少しだけ緊張した表情を浮かべていたが、シンヤが振り返って笑いかけると、安心したように頷いた。
こうして、シンヤの旅に新たな同行者が加わった。
フェアリータイプのポケモンたちを連れた、謎めいた少女――レン。
彼女との出会いは、オツキミ山の探索を、そしてこれからの旅を、さらに賑やかなものにしていくことだろう。
しかし、山の奥には何が待ち受けているのか。
ピッピとの出会いか。
珍しい化石か。
それとも、まだ誰も知らないポケモンの秘密か。
シンヤは、暗い洞窟の入口を見つめた。
「さて……何が待っているのかな」
隣でレンが、小さく息を呑む。
二人とポケモンたちは、未知の洞窟へと足を踏み入れようとしていた。
【シンヤの手持ち一覧】
・リザード LV:20→LV:21
・ピジョン LV:16→18
・コイキング LV:18
・ニドリーノ LV:17→18
ニドラン♂が進化した!つつく、つのでつくを覚えた!
・バタフリー LV:15→16
・ピカチュウ LV:15→18
【実家のポケモン】
・コラッタ LV:15
・コダック LV:12
・ヤドン LV:15
・ニョロモ LV:12
・トサキント LV:12
・ニドラン♀ LV:15
・オニスズメ LV:12
・ポニータ LV:15
・ドード LV:12
・スピアー LV:15
・マンキー LV:16
実家にて両親のポケモンかられいとうパンチ、ほのおのパンチなどを
教えてもらうため、実家へ
・サンド LV:10
・プリン LV:10
・アーボ LV:10
◆旅の同行者
・レン
カロス出身。英雄伝説のレンそっくりさん。
見た目はさることながら仕草までも瓜二つ。でもただのそっくりさんであり
原作のような辛い目にはなってないゾ!
【レンの手持ち一覧】
・イーブイ(♀) LV:15
・ラルトス(♀) LV:15
・クチート(♀) LV:15
・マリル(♀) LV:15
・プリン(♀) LV:10
今回からレンが増えたことで今後、シンヤの手持ちが増えたりする場合
新しくシンヤの手持ち一覧などを作り、そちらに掲載します。
新しく捕獲した場合や仲間にした場合、後書きに一回掲載はします。