ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

23 / 44
第20話「ハナダシティ到着!増える仲間に実家の秘密(の1つ)」

◆4番道路、釣り竿の初披露!

 

 

オツキミ山の暗い洞窟を抜け、ようやくハナダシティ側の4番道路へとたどり着いたシンヤとレン。

頭上には青空が広がり、柔らかな日差しが二人を照らしていた。

 

 

「はぁ~っ! やっと外に出られたわね!」

 

 

レンは大きく伸びをする。

腕の中には、先ほど仲間にしたピッピ。すっかり暗闇への恐怖を忘れたかのように、彼女は上機嫌だった。

 

 

「そうだね。洞窟の中は思ったより長かったな」

 

 

「でも、ピッピにも会えたし、綺麗な踊りも見られたし……とっても楽しかったわ!」

 

 

「ピッピィ♪」

 

レンの言葉に、ピッピも嬉しそうに鳴いた。

シンヤはそんな二人を微笑ましく眺めながら、道路脇に広がる水辺へ目を向けた。

澄んだ水面が太陽の光を反射している。

その奥から、複数のポケモンの気配が感じられた。

 

 

(……水辺か。何かいるな)

 

 

シンヤは波動の眼を使い、水面の向こうに意識を向ける。

水中を移動する小さな気配。岩場の近くに潜む気配。そして、少し離れた場所を泳ぐ気配。その反応を確かめると、シンヤはバッグへ手を伸ばした。

 

 

「ちょっと釣りでもしてみようかな」

 

 

「釣り?」

 

 

「うん。父さんから貰った道具があるんだ」

 

 

シンヤが取り出したのは、父マサユキの発明品――万能釣り竿だった。

折り畳まれた竿を操作すると、瞬く間に釣り竿の形へと変形する。

釣り糸には、丈夫なイトマルの糸を参考に作られた特殊素材が使われていた。

 

 

「えーっ?!」

 

 

レンが大きな声を上げた。

 

 

「ま、またなの!? 今度は釣り竿まで変形するの!?」

 

 

「うん。これも父さんの発明品」

 

 

「シンヤのお父様、いったい何者なの……!?」

 

 

「俺もたまにそう思うよ」

 

 

シンヤは苦笑しながら、釣り竿を組み立て終えた。

 

 

実際に使うのは今回で2回目だ。

 

 

「さて、と……」

 

 

餌を取り付け、釣り糸を水辺へ投げ入れる。

 

 

 

ぽちゃん、と小さな水音が響いた。

 

 

 

レンは興味津々で隣から覗き込む。

 

 

「何が釣れるのかしら?」

 

 

「それは釣れてからのお楽しみだね」

 

 

しばらくすると、竿先がぴくりと動いた。

 

 

「おっ!」

 

 

シンヤはすぐに竿を握り直す。

水面の下で、何かが勢いよく動いた。

 

 

「よし、来た!」

 

 

竿が大きくしなる。

シンヤは力任せに引き上げるのではなく、相手の動きに合わせて糸を調整しながら、少しずつ岸辺へ誘導していった。

やがて水面から飛び出してきたのは――。

 

 

「メノクラゲだ!」

 

 

「わあっ、クラゲのポケモンなのね!」

 

 

メノクラゲは水面から飛び出した勢いのまま、岸辺へと落ちてきた。

シンヤはすぐに距離を取り、ピカチュウを前へ出す。

 

 

「ピカチュウ、頼めるか?」

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウは待ってましたと言わんばかりに前へ飛び出した。

波動の眼でメノクラゲの様子を確認したシンヤは、ひとまず安全にバトルできる状態だと判断する。

 

 

「相手は水辺だ。足場に気をつけて、無理はしないでくれ!」

 

 

「ピカ!」

 

 

メノクラゲが触手を振り、毒針を飛ばしてくる。

ピカチュウは横へ跳んで回避。そのまま相手が水へ戻ろうとする動きを見て、素早く距離を詰めた。

 

 

「接近しろピカチュウ!」

 

 

「ピカピッカッ!!」

 

 

「ピカチュウ!?」

 

 

シンヤは一瞬、接近しろとしか指示を出してない。

ピカチュウの拳に電気が集まり、バチバチと音を立てる。

 

 

(……えっ、あれはまさか――――かみなりパンチ!? いつ覚えた!?)

 

 

しかし、驚いている暇はなかった。

ピカチュウはメノクラゲが触手を伸ばす瞬間を見極め、攻撃をかいくぐって電撃をまとった拳を叩き込んだ。

メノクラゲは短く鳴き、地面に倒れる。

あまりにも鮮やかな決着だった。

 

 

「……え?」

 

 

シンヤが呆然とする。

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウは得意げに胸を張った。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前、いつの間にそんな技を……」

 

 

返事の代わりに、ピカチュウは「ピカピカ!」と元気よく鳴く。

どうやら、本人はすっかり使いこなしているつもりらしい。

 

 

「……あとで詳しく確認しよう」

 

 

シンヤは気を取り直し、メノクラゲを捕獲した。

そのまま、釣りを続けることにする。

続けて、クラブにタッツーが現れ、

 

 

「かみなりパンチ!」

 

 

 

バチィッ!

 

 

 

続いてクラブがハサミを振り上げ、横から突進してきた。

ピカチュウは跳び上がって攻撃をかわし、クラブの背後へ回り込む。

 

 

「ピカッ!」

 

 

再び、かみなりパンチ。

クラブもあっという間に戦闘不能になった。

最後のタッツーは、水を吐き出してピカチュウを牽制する。

ピカチュウは水飛沫の中を走り抜け、タッツーの攻撃が途切れた瞬間に距離を詰めた。

 

 

「ピカチュウ、無理はするなよ!」

 

 

「ピカァッ!」

 

 

電撃をまとった拳が、タッツーへと命中する。

タッツーもその場に倒れ込んだ。

そして、三匹とも捕獲完了。

その間、ほんのわずかな時間しか経っていなかった。

 

 

「…………」

 

 

シンヤは、捕獲した三つのボールを見つめたまま固まっていた。

 

 

(いや、待ってくれ。メノクラゲ、クラブ、タッツー……三匹とも、ほぼ一瞬じゃないか)

 

 

ピカチュウは嬉しそうにシンヤの足元へ駆け寄る。

 

 

「ピカピカ!」

 

 

「……お前、本当にすごいな」

 

 

褒めるしかなかった。

もちろん、相手との相性やバトルの状況も影響している。三匹とも、まだシンヤの指示やピカチュウの戦い方を十分に把握できていなかった。

それを差し引いても、今のピカチュウの動きは見事だった。

 

 

特に、かみなりパンチを使ったときの判断の速さ。

技を出すだけではなく、相手が攻撃を繰り出す瞬間や、体勢を崩した隙を正確に捉えていた。

 

 

(この子、バトルセンスまで相当なものなんじゃ……?)

 

 

シンヤは波動の眼でピカチュウを観察しながら、改めて感心した。

一方、レンは可愛らしく片手を頬に当て、不思議そうに首を傾げていた。

 

 

「ピカチュウって、こんなに強いのね?」

 

 

「……俺も、今ちょっと驚いているところだよ」

 

 

「ピカ~♪」

 

 

ピカチュウは二人の視線を受けて、ますます得意げに胸を張った。

なお、ピッピはずっとレンの腕の中にいたが、釣りとバトルが始まる前にボールへ戻している。

 

 

せっかく仲間になったばかりなのだ。無理をさせる必要はない。

こうしてシンヤは、ハナダシティへ向かう直前に、さらに三匹の仲間を増やしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆オーキド研究所、博士の悲鳴!

 

 

その頃、マサラタウンにあるオーキド研究所では――。

 

 

「……なんじゃ、これは」

 

 

オーキド博士は、目の前に表示されたデータを見つめながら、頭を抱えていた。

シンヤが旅立ってから、まだ数日。

普通なら、最初の街でポケモンを捕まえたり、トレーナーとバトルをしたりしながら、ゆっくりと旅に慣れていく頃である。

 

 

ところが、シンヤの場合は違った。

捕獲したポケモンのデータが次々と送られてくる。

さらに、進化したという報告まで届く。

そして、手持ちが六匹を超えたポケモンは、オーキド研究所ではなく、シンヤの実家へ転送されていく。

もちろん、それは事前にシンヤの両親とオーキド博士の間で取り決められていたことだ。

 

 

自宅にはポケモンの飼育に適した環境があり、育成を手伝うブリーダーやポケモンの医療に詳しい人々もいる。

そのため、博士も当初は「それなら問題ないじゃろう」と快く了承したのだった。

だが――。

 

 

「シンヤ君の家にボールが転送するのを許可するんじゃなかったわい?!」

 

 

博士の嘆きが、研究所に響き渡った。

もちろん、本気で後悔しているわけではない。

シンヤの家ならポケモンたちを適切に世話できることは知っているし、送られてくるデータも丁寧に整理されている。

ただ、あまりにも展開が早すぎるのだ。

 

 

「まだ旅立って数日じゃぞ!? それなのに、もうニビシティを越えてハナダシティに向かっておる! しかも、その間に捕まえたポケモンは次々と育ち、進化までしておるではないか!こんなもん、ワシが自分でデータを集めたいわい?!」

 

 

博士は報告書をめくる。

 

 

ヒトカゲがリザードへ。

ポッポがピジョンへ。

キャタピーがトランセル、さらにバタフリーへ。

ビードルがコクーン、さらにスピアーへ。

そして、ニドラン♂はニドリーノへと進化している。

 

 

「進化の報告が立て続けに来るとは……。しかも、どのポケモンも、ただ進化しただけではない。新しい技まで覚えておるようじゃ」

 

 

博士は椅子の背もたれに身体を預けた。

 

 

「シンヤ君は、いったいどんな育て方をしておるんじゃ……?」

 

 

答えは、シンヤが実際に行っている観察と、個々のポケモンに合わせた訓練にある。

ただし、それを知ったとしても、誰もが同じ成果を出せるとは限らない。

シンヤはポケモンの状態を細かく観察し、疲労や体調に注意しながら、実戦を通じて技の使い方を学ばせている。

さらに、前世のゲーム知識を参考にしつつも、現実のポケモンが見せる反応を優先していた。だからこそ、彼のポケモンたちは短期間でも経験を積み重ねているのだ。

 

 

「……いや、しかし」

 

 

オーキド博士は、ふと真剣な表情になった。

 

 

「これほど多くのポケモンを捕まえておきながら、きちんと一匹一匹の状態を把握しておるのなら……。シンヤ君には、トレーナーとしての大きな才能があるのかもしれんのう」

 

 

博士は苦笑しながら、新たなデータを保存した。

 

 

「まあ、これから何が起こるのか、楽しみにさせてもらうとするか」

 

 

そう言いつつも、博士は心の中で願っていた。

 

 

(頼むから、これ以上の勢いで増やさんでくれよ……!)

 

 

しかし、その願いが叶うかどうかは、誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ハナダシティ到着!

 

 

水辺での釣りを終えたシンヤとレンは、ついにハナダシティへと到着した。

街の入口を抜けた瞬間、シンヤの目に飛び込んできたのは、水路と橋が織りなす美しい街並みだった。

街のあちこちを水路が通り、建物の間を水が流れている。

水辺にはポケモンたちの姿も見られ、街全体がどこか涼しげな雰囲気に包まれていた。

 

 

「わあ……! 綺麗な街ね!」

 

 

レンが感嘆の声を上げる。

 

 

「うん。水路が多いんだな」

 

 

「本当ね。街の中を水が流れているなんて、素敵だわ」

 

 

シンヤは街の看板を確認した。

ハナダシティ。

キャッチフレーズは――。

 

 

「ハナダは水色、神秘の色……か」

 

 

「水色、神秘の色? 街の雰囲気にぴったりね」

 

 

レンは満足そうに頷いた。

シンヤも同意する。

 

 

この街は水に囲まれた独特の景観を持ち、少し先には24番道路へと続く大きな橋、ゴールデンボールブリッジがある。

その橋の先には、ハナダ岬と呼ばれる場所もある。

美しい景色が見られることから、デートスポットとしても知られている場所だ。

 

 

(ゲームでも印象に残っている場所だけど……実際に見ると、やっぱり違うな)

 

 

ゲーム画面の中では小さなマップだった場所も、現実では人が暮らし、ポケモンが生きる街だ。

水路の流れも、橋を渡る人々の声も、吹き抜ける風も、すべてが生きている。

シンヤは改めて、自分が本当にポケモンの世界を旅しているのだと実感した。

そして、隣にいるレンへ目を向ける。

 

 

「さて、まずはポケモンセンターに行こう。釣りもしたし、ポケモンたちの状態を確認しておきたい」

 

 

「ええ、そうしましょう」

 

 

ところが、ポケモンセンターへ向かおうとした、そのときだった。

 

 

「ねえ、シンヤ」

 

 

「ん?」

 

 

レンが、いつになく少し遠慮がちな声で呼びかけた。

 

 

「私ね……あなたと一緒に旅をしていると、なんだか楽しいことがたくさん起こりそうな気がするの」

 

 

「楽しいこと?」

 

 

「ええ。オツキミ山でも、ピッピに会えたし、とっても綺麗な踊りも見られたでしょう? それに、あなたといると、知らないことをたくさん知ることができるもの」

 

 

レンは腕の中のピッピを見つめ、優しく頭を撫でた。

 

 

それから、少しだけ頬を赤らめて、シンヤを見上げる。

 

 

「だから……これからも、あなたについていっていいかしら?」

 

 

「……えっ?」

 

 

シンヤは目を瞬かせた。

まさか、そんな提案をされるとは思っていなかったのだ。

レンはカントー地方を旅している途中で、シンヤとはオツキミ山で偶然再会したばかり。

それなのに、これから先も一緒に旅をしたいと言ってくれた。

 

 

(……俺と一緒に、か)

 

 

シンヤは少し考えた。

旅の仲間が増えれば、気を配ることも増える。自分一人の判断で動けない場面も出てくるだろう。

しかし、レンはポケモンが好きで、好奇心も旺盛だ。彼女自身の目的もあるはずだし、一緒に旅をすれば、自分とは違った発見があるかもしれない。

 

 

 

何より――。

 

 

 

「もちろん、いいよ」

 

 

シンヤは微笑んだ。

 

 

「俺も、一人より二人の方が楽しいと思うしね」

 

 

「……本当?」

 

 

「うん。これからよろしく、レン」

 

 

「ふふっ♪ こちらこそ、よろしくね、シンヤ!」

 

 

レンの表情が、ぱっと明るくなった。

腕の中のピッピも、二人の声に反応して嬉しそうに鳴く。

 

 

「ピッピィ!」

 

 

こうして、シンヤとレンは、ハナダシティから先も一緒に旅をすることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆母への紹介、そして両親の大騒動!

 

 

ポケモンセンターへ到着したシンヤは、受付のジョーイさんにポケモンたちを預けた。

リザードをはじめ、これまで戦ってきた仲間たちの疲労を確認してもらうためだ。

その間に、シンヤは母ミサキへ連絡を入れることにした。

 

 

今回捕まえたメノクラゲ、クラブ、タッツーのことも報告しなければならない。

それに、オツキミ山で発掘した三つの遺物についても、家にいる専門家に確認してもらいたかった。シンヤはバッグに手を入れ、接続先のリングを意識する。

 

 

父が開発した空間収納システムが働き、家の保管場所へとつながる。

まずは捕獲したポケモンたちのボールを、決められた手順で実家へ送った。

それから、通信端末を取り出す。

画面に母の姿が映し出された。

 

 

『あら、シンヤ! どうしたの?』

 

 

「母さん、無事にハナダシティに着いたよ」

 

 

『まあ! もうハナダシティなの? 早いわねえ!』

 

 

ミサキは嬉しそうに笑った。

シンヤは道中の出来事を簡単に報告する。

 

 

オツキミ山でレンと再会したこと。

一緒に洞窟を探索したこと。

ピッピを捕まえたこと。

そして、今後もレンと一緒に旅をすることになったこと。

 

 

「それで、紹介したい人がいるんだ」

 

 

『紹介したい人?』

 

 

「うん。レン、こっちへ」

 

 

シンヤが隣へ手招きすると、レンが少し緊張した様子で画面の前にやってきた。

「は、初めまして。レンと申します。シンヤ君とはオツキミ山で知り合って、これから一緒に旅をすることになりました」

 

 

レンは丁寧に頭を下げた。

 

 

 

 

 

その瞬間――。

 

 

 

 

『…………』

 

ミサキの動きが止まった。

数秒間、画面の向こうで固まっていた彼女は、突然目を輝かせた。

 

 

『えええええっ!? シンヤが女の子を紹介してきたわよーっ!?』

 

 

「……は?」

 

 

シンヤの思考が停止した。

そして、母の声は通信端末の向こうへと響き渡った。

 

 

『あなたーっ! ちょっと来てーっ! シンヤが彼女を紹介してきたわよーっ!!』

 

 

「母さん!?」

 

 

シンヤが慌てて止めようとしたが、もう遅かった。

画面の向こうから、父マサユキの声が聞こえてきた。

 

 

『ななッ、ぬわぁわぁ~んとッ!?』

 

 

「父さんまで!?」

 

 

ミサキは興奮した様子で、レンとシンヤを交互に見ている。

 

 

『あらあらあら! シンヤったら、旅先でこんなに可愛い子と知り合ったのねぇ!』

 

 

「違うって! そういうんじゃないから!」

 

 

シンヤは顔を真っ赤にして否定した。

隣のレンも、話の流れを理解した瞬間、顔を赤くして固まっている。

 

 

「え、えっと……その……!」

 

 

二人の頭から、アニメでよく見るような煙が立ち上りそうだった。

しばらくして、ようやく父マサユキが画面に顔を出した。

 

 

『な、なんだ……ミサキの早とちりか』

 

 

「父さんも信じかけてたよね!?」

 

 

『いやあ、息子が旅先で女の子を紹介してくれるとは、父として感慨深いものがあってだな……』

 

 

「だから違うって!」

 

 

シンヤは頭を抱えた。

その横で、ミサキがにこにこと笑っている。

 

 

『でもねぇ……』

 

 

「……母さん?」

 

 

『今は違うってだけで、これからどうなるかはわからないんじゃないかしらねぇ?』

 

 

「なっ……!?」

 

 

シンヤの顔が再び赤くなる。

レンも俯いてしまい、ピッピを抱く腕に少し力が入った。

 

 

「そ、そういうのでは……!」

 

 

『あら、レンちゃん。そんなに慌てなくてもいいのよ? ふふふっ』

 

 

「母さん! レンをからかわないで!」

 

 

シンヤは必死に話を収めようとした。

しかし、母の笑顔を見る限り、今の誤解を完全に解くのは難しそうだった。

 

 

(……頼むから、これ以上は勘弁してくれ)

 

 

シンヤは心の中で天を仰いだ。

ようやく二人の間に、少し気まずい沈黙が落ちる。

このままでは、せっかくの連絡が妙な空気で終わってしまう。

シンヤは咳払いを一つした。

 

 

「……そ、それより父さん! オツキミ山で化石を三つ発掘したんだ!」

 

 

『何!? 化石だと!?』

 

 

父の目の色が変わった。

先ほどまでの親バカぶりは、どこへやら。

 

 

『三つも発掘したのか!? どんな化石だ?』

 

 

「甲羅みたいな形のものと、貝みたいな形のもの。それから、琥珀色の小さな塊だよ。まだ正式な鑑定はしてないけど」

 

 

『なるほど……! それなら、こちらに送ってくれないか?』

 

 

「家に?」

 

 

『ああ。うちには、そういった分野に詳しい専門家もいるからな。化石の状態を確認して、種類や保存状態を調べてもらおう』

 

 

シンヤは頷いた。

確かに、家には母の縁で働いているブリーダーや医療関係者だけでなく、父の発明を支える専門家たちもいる。

化石の鑑定に詳しい人がいても不思議ではない。

しかし、父はさらに驚くべきことを口にした。

 

 

『それに、地下室に化石ポケモンの復元装置もあるぞ』

 

 

「…………え?」

 

 

シンヤの動きが止まった。

 

 

「……今、なんて?」

 

 

『地下室に、化石ポケモンの復元装置があると言ったんだ』

 

 

「地下室に!?」

 

 

シンヤは思わず声を上げた。

以前から気になっていた、実家の地下室。

まだ中を見たことがなく、何があるのか確かめようと思っていた場所だ。

まさか、そこに化石ポケモンの復元装置があるとは思わなかった。

 

 

「父さん、そんなものまで作っていたの!?」

 

 

『昔、ある専門家から、化石ポケモンの復元装置を作れないかと頼まれたことがあってな。そのときに試行錯誤して開発したものだ』

 

 

「……初耳なんだけど」

 

 

『まだお前が小さかった頃の話だからな。話す機会がなかったんだ』

 

 

マサユキは、さも当然のように説明を続ける。

 

 

『もちろん、単なる試作品ではない。きちんと実用に耐える正規の装置だ。化石の状態や種類にもよるが、必要な条件が整えば復元は可能だぞ』

 

 

「化石ポケモンを……復元できる……」

 

 

シンヤは、手元にある化石ケースを見つめた。

前世では、化石を研究施設へ持ち込むことでポケモンを復元するというのは、ゲームの中でおなじみの要素だった。

しかし、この世界では、それが実際に行われる。

古代に生きていたポケモンを、現代によみがえらせるのだ。

その事実を改めて考えると、胸が高鳴った。

 

 

『ただし、すぐに復元できるわけじゃないぞ。化石の鑑定や前処理、それから復元のための準備も必要になる。状態によっては、時間もかかる』

 

 

「それはもちろん。まずは鑑定してもらわないとね」

 

 

『そういうことだ』

 

 

父はそこで、もう一つ付け加えた。

 

 

『ちなみに、うちの装置は複数の化石を同時に処理できるように設計してある』

 

 

「……えっ?」

 

 

『一つずつ処理する方式だと、時間がかかるからな。複数の化石を並行して扱えるようにしたんだ』

 

 

「複数同時!?」

 

 

シンヤは、とうとう言葉を失った。

普通なら、一つの化石を復元するだけでも大変なはずだ。

それなのに、父の開発した装置は複数の化石を同時に処理できるという。

 

 

(……父さん。やっぱり、ただの発明家じゃないだろ)

 

 

旅立ってから、まだ数日しか経っていない。

なのに、父の発明品の数々に驚かされることばかりだった。

万能釣り竿。

万能発掘ツール。

空間収納システム。

そして、化石ポケモンの復元装置。

 

 

(実家に帰ったら、絶対に地下室を見せてもらおう……)

 

 

シンヤは固く決意した。

今まで家の広さや庭の環境に驚いていたが、どうやら自分が知らないものは、まだまだ山ほどあるらしい。

シンヤはバッグから化石ケースを三つ取り出し、父が指定した保管場所へと送った。

 

 

「父さん、母さん。化石の鑑定と復元について、よろしく頼むよ」

 

 

『任せておけ!』

 

 

『ええ、もちろんよ。シンヤのポケモンたちのことも、こちらでちゃんと面倒を見るから安心してね』

 

 

「ありがとう。ポケモンたちのことも頼んだよ」

 

 

シンヤは、両親に改めて礼を言った。

その横で、レンは少しだけ不思議そうにシンヤを見ていた。

 

 

(シンヤのお家って……本当に、いろいろなものがあるのね)

 

 

彼女の興味は、ますますシンヤの家族へと向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆実家からの報告、マンキーの驚くべき才能!

 

 

化石の話が一段落すると、母ミサキがふと思い出したように口を開いた。

 

 

『そうそう、シンヤ。あなたが送ってくれたポケモンたちのことで、少し面白いことがあったのよ』

 

 

「面白いこと?」

 

 

『ええ。特にマンキーなんだけど……』

 

 

シンヤはすぐに反応した。

 

 

「マンキーに何かあったの?」

 

 

『私のカイリキーと一緒に、技の練習をしていたのよ。そうしたらね……』

 

 

ミサキは少し興奮した様子で説明を始めた。

 

 

『マンキーが、カイリキーの動きを見ながら、ほのおのパンチとれいとうパンチを覚えようとしていたの。それだけなら、まだわかるのだけれど……』

 

 

「うん?」

 

 

『途中から、れんぞくパンチまで練習し始めてね。最後には、左右の腕で別々の技を同時に出そうとしていたのよ』

 

 

「…………は?」

 

 

シンヤの思考が、再び停止した。

 

 

『片方の腕に炎をまとわせて、もう片方の腕では氷をまとわせて、そこから連続パンチの動きを繰り返すの。まだ完全にはできていなかったけれど、本人はかなり真剣だったわ』

 

 

「ちょ、ちょっと待って! マンキーが、ほのおのパンチとれいとうパンチをれんぞくパンチにして同時に!?」

 

 

『そうなの。カイリキーも驚いていたわよ』

 

 

シンヤは口元を押さえた。

 

 

(いやいやいや……どんだけバトルセンスがすごいんだ、俺のマンキー!?)

 

 

もともと、マンキーは戦いを好む性格だった。

旅の途中でも、相手の動きを見て学ぼうとする姿勢が見られた。

だが、二つの異なる技を同時に扱おうとするとは、さすがに予想外だった。

 

 

(普通は、一つの技を覚えるだけでも、動きやエネルギーの制御を身につける必要がある。ましてや、左右の腕で別々の技を同時に扱うなんて……)

 

 

ただし、母の話によれば、まだ完成した技ではない。

マンキーが試みているのは、二つの技を同時に成立させるための練習だ。

実戦で安定して使えるかどうかは、また別の問題になる。

それでも、技を覚えるだけでなく、複数の動作を組み合わせようとしていること自体が驚異的だった。

 

 

「……マンキー、帰ったら絶対に詳しく調べないとな」

 

 

シンヤは思わず呟いた。

母は、さらに続けた。

 

 

『それから、ニドラン♀も進化できるくらいまで成長しているわよ』

 

 

「えっ、もう!?」

 

 

『ええ。ほかの子たちも、少しずつ力をつけてきているわ。うちのポケモンたちと一緒に過ごしているおかげかしらね』

 

 

シンヤは納得したように頷いた。

 

 

(なるほど……)

 

 

実家には、両親が長年育ててきたポケモンたちがいる。

その中には、カイリキーのように高い戦闘能力を持つポケモンもいるし、さまざまな技を使いこなすポケモンもいる。

そんな相手と一緒に訓練できるなら、若いポケモンたちにとっては大きな経験になるだろう。

 

 

(教える側のレベルが高いから、学ぶ側も効率よく成長できるのかもしれないな)

 

 

もちろん、強いポケモンと一緒にいるだけで急激に成長するわけではない。

実際に技を観察し、自分の身体で試し、失敗しながら調整していく必要がある。

だが、優れた手本が近くにいることは、確かな利点だった。

 

 

「母さん、みんなの様子を見てくれてありがとう。ニドラン♀のことも、無理のない範囲で頼むよ」

 

 

『ええ。もちろんよ』

 

 

シンヤは安堵した。

旅に出ている間、すべてのポケモンを自分一人で育てることはできない。

だからこそ、信頼できる家族と環境があることは大きかった。

それに、家に送ったポケモンたちが元気に過ごし、新しい技を学び、成長していると聞けば、トレーナーとして嬉しいものだ。

 

 

「みんなに、俺からもよろしくって伝えておいて」

 

 

『わかったわ。みんな、シンヤが帰ってくるのを楽しみにしていると思うわよ』

 

 

「……うん」

 

 

シンヤは微笑んだ。

そして、心の中で今後の予定を組み立て始める。

 

 

(ハナダシティに着いたら、まずジム戦に向けて準備。それから……)

 

 

ふと、街の先にある大きな橋のことを思い出した。

 

 

(そういえば、ゴールデンボールブリッジって、トレーナーとの連戦ができる場所だったよな)

 

 

ゲームの知識では、橋を渡る途中で複数のトレーナーとバトルすることになる。

この世界でも同じとは限らないが、トレーナーが集まる場所なら、実戦経験を積む機会になるかもしれない。

 

 

(よし。そこで仲間たちを鍛えて、ハナダジムに備えよう)

シンヤは、ひそかにそう決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆気まずい二人と、次なる目的地

 

 

両親との連絡を終えたシンヤは、通信端末をしまった。

隣を見ると、レンが少し顔を赤くしたまま、こちらをちらちらと見ている。

 

 

「……レン?」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「いや、どうかしたのかなって」

 

 

「べ、別に何でもないわ!」

 

 

レンはぷいっと顔を背けた。

しかし、その頬はまだ赤い。

シンヤも、先ほどの母の言葉を思い出してしまい、少しだけ顔が熱くなった。

 

 

(……今は違う、か)

 

 

母の言葉が、妙に頭の中に残っている。

もちろん、レンとは旅の途中で知り合ったばかりだ。

彼女のことをまだ十分に知っているわけでもない。

それでも、一緒に旅をしてみたいと言ってくれたことは嬉しかった。

そして、彼女と過ごす時間が楽しいと感じているのも事実だった。

 

 

(……いやいや。今は旅に集中しよう)

 

 

シンヤは小さく首を振った。

レンも、ちらりとシンヤを見てから、また顔を背ける。

お互いに何か言いたいようで、言い出せない。

そんな妙な空気が二人の間に漂い始めた、そのとき――。

 

 

『シンヤさん、レンさん! お預かりしていたポケモンたちの回復が終わりましたよー!』

 

 

ポケモンセンターの奥から、ジョーイさんの声が響いた。

 

 

「あっ、はい!」

 

 

「は、はい!」

 

 

二人はほとんど同時に返事をした。

そして、お互いの顔を見合わせる。

 

 

「……ふふっ」

 

 

「……あははっ」

 

 

どちらからともなく笑いがこぼれた。

さっきまでの気まずさが、少しだけ和らいだ。

 

 

「行こう、レン。ポケモンたちを迎えに行こう」

 

 

「ええ、そうね!」

 

 

二人は並んでカウンターへ向かった。

ジョーイさんからポケモンたちを受け取り、状態に問題がないことを確認する。

リザードも、ピジョンも、バタフリーも、ニドリーノも、それぞれ元気そうだった。

ピカチュウは相変わらず上機嫌で、シンヤの肩へ飛び乗ってくる。

 

 

「ピカチュウ、さっきのかみなりパンチについては、あとでじっくり話を聞かせてもらうからな」

 

 

「ピカッ!?」

 

 

どうやら、本人はその話をすっかり忘れていたらしい。

シンヤは苦笑した。

 

 

「まあ、今はいいか。ハナダシティに着いたばかりだしな」

 

 

ポケモンたちの状態は良好。

仲間も増え、レンという旅の同行者もできた。

次に目指すのは、ハナダジム。

そして、その先にあるゴールデンボールブリッジだ。

 

 

(まずは橋でバトルを重ねて、みんなの力を確かめよう。そのあと、ハナダジムに挑戦だ)

 

 

シンヤはそう考えながら、レンと一緒にポケモンセンターを出た。

水路を渡る風が、二人の頬を優しく撫でていく。

ハナダシティでの新たな冒険が、いよいよ始まろうとしていた。

 

 

 

 

――ただし。

 

 

 

 

シンヤは、まだ気づいていなかった。

 

 

ゴールデンボールブリッジで待ち受けるのは、単なるトレーナーとの連戦だけではないかもしれないということに。

ニビのように純粋に自身とポケモンの鍛錬のためのトレーナーだけではないことを。

そして、彼が忘れていた。オツキミ山でも、レンと一緒にいるシンヤを見て、「嫉妬に駆られた男たち」との騒動があったことを。

それがデートスポットのに向かうために必ず通るゴールデンボールブリッジでも、似たようなことが起きないとは限らない。

 

 

 

いや、むしろ――。

可愛らしい少女と一緒に旅をしている少年。

しかも、本人はそれほど自覚していない。

そんな二人が、トレーナーたちの集まる場所へ向かおうとしているのだ。

何も起きないと考える方が、難しいのかもしれない。

人の嫉妬とは恐ろしい物である、と。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。