結構変わります。
――ゴールデンボールブリッジ。
100人との連続バトルを終えたシンヤは、ポケモンたちの疲労や体調を確認し、必要な休息を取らせてから、レンとともにハナダ岬を目指していた。
目指すのは、ハナダシティでも有名な景勝地。
美しい海を一望できる、絶好の観光スポットである。
……なのだが。
「……」
シンヤは、隣を歩く少女へと視線を落とした。
「~~~♪」
レンは、とてもご機嫌だった。
それはもう、鼻歌まで聞こえてきそうなほどに。
しかも。
「…………」
「~~~♪///」
レンは、シンヤの腕に自分の腕を絡めるようにして歩いていた。
時折、彼の顔を見上げては、目が合った瞬間に頬を赤くする。
それでも腕を離そうとはせず、むしろ嬉しそうに隣を歩き続けているのだった。
(……どうしてこうなった?)
シンヤは内心で首を傾げた。
つい先ほどまで、普通に並んで歩いていたはずなのだ。
ところが、ゴールデンボールブリッジを離れてしばらくすると、レンの様子が急に変わった。
最初は少し距離が近くなっただけだった。
次に、歩いている時に手が触れるようになった。
そして今――腕を組まれている。
(いや、待て。落ち着け、俺)
前世の記憶を持つシンヤは、精神的には年相応の十歳よりも落ち着いている。
バトルなら、相手の動きやポケモンの状態を分析し、状況に応じた判断を下せる。
だが。
(これはバトルじゃないんだよなぁ……!)
女の子に腕を組まれて歩く。
しかも相手は、可愛らしい人形のような容姿で、普段は余裕たっぷりに振る舞うレンである。
そのレンが、今日は妙に恥ずかしそうにしながらも、自分からくっついてきている。
正直に言おう。
シンヤも、かなり落ち着かなかった。
「……レン?」
「な、何かしら?」
名前を呼ぶと、レンはぴくりと肩を揺らした。
「いや、その……」
シンヤは自分の腕に視線を落とす。
「恥ずかしそうにするくらいなら、無理に腕を組まなくてもいいんだぞ?」
「べ、別に恥ずかしいわけじゃないわよ?」
即答だった。
ただし、顔は真っ赤である。
「そうなのか?」
「そうよ。私はただ、あなたと一緒に歩いているだけだもの」
「……腕を組んで?」
「そ、それがどうかしたのかしら?」
レンは、ぷいっと顔をそらした。
「嫌なの?」
「いや、嫌じゃないけど……」
「なら、問題ないわよね?」
「……まあ、そうだけど」
レンは満足そうに微笑んだ。
「ふふっ。決まりね♪」
そして再び、シンヤの腕にぎゅっと抱きつく。
(……この子、今日どうしたんだ?)
シンヤにはわからなかった。
昨日までのレンなら、むしろ自分から人をからかって、相手の反応を楽しんでいたはずだ。
それが今日は、シンヤと目が合うだけで顔を赤くする。
一体、何があったのだろうか。
……もちろん、シンヤは知らない。
自分が100人とのバトルに集中していた間に、レンが女性陣から恋愛についてあれこれ聞かされていたことなど。
そして、その話を思い出すたびに、レンの心臓が忙しく跳ねていることも。
「……シンヤ」
「ん?」
「……何でもないわ」
「?」
レンは、彼の腕に頬を寄せそうになって、慌てて顔を上げた。
(……だ、駄目よ、レン! いくら一緒にいたいからって、こんなにくっついていたら……)
そう考えた直後。
(……でも、シンヤは嫌がっていないのよね?)
ちらり。
シンヤの顔を確認する。
目が合う。
「……っ///」
レンは真っ赤になった。
(……やっぱり、もう少しこのままでいいかしら)
彼女の機嫌は、ますます良くなっていった。
一方のシンヤはというと――。
(……駄目だ。気にしすぎるな。平常心、平常心……!)
すっかり、レンのことばかり考えてしまっていた。
その結果。
「……あれ?」
本来ならば、すぐに気づいていたはずのものを見落としてしまった。
道の脇。
草むらの向こう。
岩場の陰。
そこには、まだシンヤが捕獲していないポケモンたちが何匹もいたのである。
ナゾノクサ。
マダツボミ。
そして、コンパン。
さらには、珍しくも草むらの端でのんびりしているケーシィまで。
普段のシンヤなら、波動の眼で周囲のポケモンの気配を捉え、相手の様子を観察していただろう。
捕獲するかどうかは別としても、まずは存在に気づいていたはずだ。
しかし、今日のシンヤは違った。
レンに腕を組まれ、目が合うたびに顔を赤くする彼女に気を取られ、周囲への注意が大きく逸れてしまっていたのである。
そして、その様子を見ていたポケモンがいた。
――リザードである。
ボールの中から外の様子を感じ取っていたリザードは、ついに我慢の限界を迎えたらしい。
自らモンスターボールから飛び出すと、まずはシンヤの足元に降り立った。
「リザ?」
「……?」
シンヤは一瞬だけリザードに気づいた。
「どうした、リザード?」
リザードは、シンヤの顔を見た。
それから、隣のレンを見た。
そして、深々とため息をつくように首を振った。
「リザー……」
(……まったく、もう)
そんな声が聞こえてきそうな表情だった。
リザードは次に、ピジョンのモンスターボールを取り出した。
さらに、シンヤが持っていた空のモンスターボールを数個ほど。
「リザ? リザード!」
リザードはピジョンを呼び出し、何やら身振り手振りで説明を始めた。
ピジョンはシンヤを見た。
レンを見た。
そして、リザードを見た。
「ピジョー……」
ピジョンもまた、何かを察したらしい。
二匹は目配せを交わすと、そろって草むらへと向かっていった。
シンヤは、そのことに気づかない。
「……それで、ハナダ岬って、もうすぐなのか?」
「ええ。もう少し歩けば着くはずよ」
「そっか。楽しみだな」
「……私もよ♪」
レンは、また嬉しそうに微笑んだ。
その頃、リザードとピジョンは――。
ナゾノクサを見つけると、ピジョンが上空から位置を把握し、リザードが慎重に接近。
ナゾノクサが驚いて逃げようとしたところへ、ピジョンが進路を塞ぎ、リザードが攻撃を加減しながら追い込んだ。
続いてマダツボミ。
こちらはツルを使って反撃してきたが、ピジョンが上空から動きを誘導し、リザードが隙を見て距離を詰める。
コンパンとの戦いでは、ピジョンが風を起こして粉を散らし、リザードが不用意に粉を吸い込まないよう注意しながら、連携して相手を弱らせた。
最後はケーシィ。
テレポートで逃げられる可能性があったため、二匹は追い回さず、ケーシィが落ち着いているタイミングを見計らって接近した。
そして――。
ポンッ!
ポンッ!
ポンッ!
ポンッ!
四つのモンスターボールが、それぞれポケモンを捕獲したことを示す反応を返した。
「リザード!」
「ピジョン!」
二匹は顔を見合わせた。
無事、四匹の捕獲に成功したのである。
もっとも、これはシンヤが指示した捕獲ではない。
リザードとピジョンが、主人の注意が逸れている間に、自分たちで考えて行動した結果だった。
やがて、二匹は四つのモンスターボールを持って、シンヤたちのもとへ戻ってきた。
「……ん?」
そこでようやく、シンヤは違和感を覚えた。
「……あれ?」
腕に絡みつくレンのことを気にしながら、足元を確認する。
「リザード?」
返事がない。
「ピジョン?」
「ピジョン!」
二匹が戻ってきた。
そして、それぞれの手にはモンスターボールがある。
シンヤは目を瞬かせた。
「……えっ?」
リザードが、四つのボールを差し出した。
ピジョンも、得意げに胸を張っている。
シンヤはボールを受け取り、波動の眼で確認した。
「……ナゾノクサ、マダツボミ、コンパン……ケーシィ!?」
思わず声が裏返った。
「お前たち、いつの間に!?」
「リザード!」
「ピジョン!」
二匹は、誇らしげに鳴いた。
シンヤはしばらく固まっていたが、やがて何が起きたのかを理解した。
――自分が、周囲のポケモンに気づいていなかった。
しかも、リザードとピジョンが勝手に動いて、捕獲まで済ませてくれた。
(……うわぁぁぁぁぁ……!)
シンヤは心の中で頭を抱えた。
(俺、何をやっているんだ……!)
100人とのバトルでは、ポケモンの体調に気を配り、状況を分析し、勝利を積み重ねた。
それなのに、今はどうだ。
レンの可愛らしさに意識を持っていかれ、目の前のポケモンにさえ気づかなかった。
波動の眼を持つ者としても、トレーナーとしても、反省すべき点が多すぎる。
「……リザード、ピジョン」
シンヤは二匹の前にしゃがみ込んだ。
「ありがとう。助かったよ」
二匹は、少し得意げに鳴いた。
だが、その目は明らかに何かを語っていた。
――照れるのは別にいい。
――でも、意識を持っていかれすぎだ。
「…………」
シンヤは、二匹の視線を正面から受け止めた。
「……はい。ごもっともです」
思わず敬語になった。
リザードは腕を組み、ピジョンは翼を広げて呆れたような仕草をする。
まるで、どちらがトレーナーなのかわからない。
(……本当にすみませんでした)
シンヤは深々と頭を下げた。
今後は周囲への注意を怠らない。
レンが可愛いのは事実だ。
隣にくっついてきてくれるのが嬉しいのも事実だ。
だが、それとトレーナーとしての責任は別問題。
この件は、後々まで反省することになるのだった。
「……あの、シンヤ?」
その時、隣から控えめな声がした。
「ん?」
レンは、申し訳なさそうに眉を下げていた。
「……もしかして、私が腕を組んでいたから、周りが見えなくなってしまったのかしら?」
「え?」
「だって……私がずっとあなたの顔を見たり、くっついたりしていたから……」
レンは、組んでいた腕を少し緩めた。
「……ごめんなさい。あなたの邪魔をしてしまったのなら、離れるわ」
その言葉を聞いた瞬間。
シンヤは、思わず口を開いた。
「いや、ぶっちゃけ可愛いレンにそんなことされたら嬉しいに決まってるじゃん」
…………。
………………。
……………………。
「…………え?」
レンが固まった。
シンヤも固まった。
(……あ)
(……ああああああああっ!?)
シンヤは自分の口を押さえた。
今、何を言った?
何を、声に出してしまった?
しかも、よりにもよって――。
「……か、可愛い……?」
レンの頬が、みるみる赤くなっていく。
「え、いや、その……!」
シンヤは視線を泳がせた。
「ほら、レンは可愛いだろ? 見た目もそうだし、仕草とか、表情とか……いや、別に変な意味じゃなくてだな!」
「…………」
「いや、変な意味っていうか、別に嫌な意味ではなくて……!」
「…………シンヤ」
「はい」
「……あなた、私のことを可愛いと思っているの?」
逃げ場がなかった。
シンヤは数秒間、黙り込んだ。
そして、観念したように答えた。
「……思ってるよ」
「~~~~っ///」
レンは顔を両手で覆った。
シンヤも顔を赤くした。
二人そろって、しばらく何も言えない。
先ほどまでの会話とは違い、今度はシンヤの方も自分の気持ちを隠しきれなかったのである。もちろん、シンヤはレンを可愛いと思っていた。
初めて会った時から、人形のような容姿に驚いたし、時折見せる仕草や表情にも魅力を感じていた。ただ、それを本人に直接伝える機会がなかっただけだ。
それが、まさかこんな形で口から出てしまうとは。
「……ふ、ふふっ」
先に沈黙を破ったのは、レンだった。
顔はまだ真っ赤だが、口元には小さな笑みが浮かんでいる。
「……そう。あなた、私のことを可愛いと思っているのね?」
「……うん」
「ふふっ……そうなの……」
レンは、嬉しそうに目を細めた。
そして、今度は自分からシンヤの手を取った。
「……なら、もう少しだけ、このままでいいかしら?」
「……え?」
「腕を組むのは、あなたが嫌でないなら続けたいの」
レンは、上目遣いでシンヤを見た。
「……駄目?」
「…………」
シンヤは、天を仰ぎたくなった。
(……この子、無自覚に強すぎないか!?)
バトルなら、どれほど強い相手でも分析して対処できる自信がある。
だが、こういう場面は本当に駄目だった。
「……駄目じゃないよ」
シンヤは小さく答えた。
「……ありがとう、シンヤ♪」
レンは再び腕を組んだ。
二人の顔は、そろって赤いままだった。
そして、その様子を見ていたリザードとピジョンは――。
「リザード……」
「ピジョン……」
またか、とでも言いたげに顔を見合わせるのだった。
そして更に2匹は思った。今後似たようなことがあれば手持ち総出で各自の
判断で未捕獲いたら捕まえよう、と。
◆ハナダ岬、二人だけの景色
そうして、少々の寄り道と、ちょっとした騒動を経て。
シンヤとレンは、ついにハナダ岬へと到着した。
「……おお」
目の前に広がる景色を見て、シンヤは思わず感嘆の声を漏らした。
青く広がる海。
遠くまで続く水平線。
波が岩場に打ち寄せ、きらきらと光を反射している。
潮風が頬を撫で、海鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
ハナダシティの街並みも、ここからなら少し違った角度で眺められた。
「わぁ……!」
レンの瞳が輝いた。
「とっても綺麗……!」
彼女は手すりの近くまで歩き、海を眺めた。
「こんなに綺麗な景色が見られるなんて……。ふふっ、ここまで来てよかったわね、シンヤ!」
「……ああ。本当にそうだな」
シンヤは、嬉しそうなレンの横顔を見つめた。
よかった。
心から、そう思った。
ゴールデンボールブリッジで100人と戦い続けたことも、ここまで歩いてきたことも。
その先で、レンがこんなに喜んでくれている。
それだけで、今日ここまで来た意味があったように思えた。
(……まあ、途中でポケモンの存在を見落としたのは大反省だけどな)
シンヤは、先ほどの一件を思い出して苦笑した。
今後は注意しよう。
本当に。
……もっとも、隣にいるレンがあまりにも嬉しそうなので、また気を取られてしまいそうではあるのだが。
その時。
シンヤは、ふと周囲を見回した。
そして――ようやく思い出した。
(…………あ)
ここはハナダ岬。
美しい景色を楽しめる、人気の観光地。
そして。
(……そういえば、ここってデートスポットだったな)
シンヤの思考が、ぴたりと止まった。
周囲を見渡せば、そこかしこに男女のカップルがいる。
海を眺めながら肩を寄せ合う二人。
ベンチに座って楽しそうに話す二人。
手をつないで歩く二人。
中には、景色を背景に記念写真を撮っているカップルもいた。
(……ああ、そうだった。アニメでも、そういう場所だった気がする)
シンヤは、少しだけ視線をそらした。
(……いや、別に俺たちはデートじゃない。たまたま景色を見に来ただけだ)
そう。
たまたま。
一緒に旅をしている女の子と、たまたま腕を組んで歩いてきて。
たまたま二人で美しい景色を眺めているだけ。
……うん。
何もおかしくない。
「……シンヤ?」
「ん?」
レンが、こちらを振り返った。
「どうしたの? 何か気になることでもあるのかしら?」
「いや、何でもないよ」
「そう?」
レンは首を傾げた。
そして、再び海へと視線を戻す。
「……でも、いい眺めねぇ」
その声は、心から楽しそうだった。
シンヤは、その様子を見て少しだけ笑った。
(……まあ、本人が楽しんでいるなら、それでいいか)
ここがデートスポットだろうと、そうでなかろうと。
レンが喜んでくれている。
それなら、自分もこの時間を楽しもう。
そう思った、その時だった。
レンは、ふと周囲のカップルに気づいた。
(…………あら?)
あちらにもカップル。
こちらにもカップル。
向こうのベンチにも、仲良さそうな二人組。
(……もしかして、ここって……)
レンの頬が、じわじわと赤くなっていく。
(……デートスポット、なのかしら?)
そう考えた瞬間、先ほどの女性たちの言葉が脳裏によみがえった。
――一緒にいたいなら、その気持ちは素直に言葉にして伝えることも大切よ。
――相手に自分を意識してもらうことも大事。
(…………)
レンは、隣にいるシンヤを見た。
彼は、特に気にする様子もなく、穏やかに海を眺めている。
(……シンヤ)
胸が、どきりと鳴った。
(……別に、いいわよね?)
ただ、手をつなぐくらい。
それだけなら、何もおかしくないはず。
レンは、そっと手を伸ばした。
そして――。
きゅっ。
シンヤの手を取った。
「……ん?」
シンヤが振り返る。
レンは一瞬だけ目を合わせたものの、すぐに海の方へ顔をそらした。
「……こ、こうしていた方が、景色を見やすいでしょう?」
「……手をつなぐと?」
「そ、そうよ! ほら、風も強いし……!」
「……今日はそんなに強くないけど」
「シンヤ?」
「はい、何でもありません」
シンヤは即座に口を閉じた。
レンは、彼の手を握る力をほんの少しだけ強めた。
「……ふふっ。なら、いいわね?」
「……ああ」
シンヤは、握られた手を見た。
それから、レンの横顔を見た。
彼女はまだ少し赤い顔をしている。
それでも、手を離そうとはしなかった。
(……まあ、いいか)
シンヤも、そっと握り返した。
その瞬間。
レンの肩が、ぴくりと跳ねた。
「……っ///」
(……に、握り返してくれた……!)
胸の奥が、ふわりと温かくなる。
レンは、顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに海を眺め続けた。
そして、そんな二人を少し離れたところから見ていたカップルの女性が、隣の恋人に小声で話しかけた。
「ねえ、あの二人……」
「ん?」
「初々しいわねぇ」
男性は、二人の様子を見て微笑んだ。
「そうだな。まだ子供みたいだけど、仲がいいんだろうな」
「ふふっ。あの女の子、すごく嬉しそう」
「男の子の方も、照れているみたいだぞ」
「いいわねぇ。ああいう時期って、見ているだけで微笑ましくなるわ」
二人は、そっと視線を外した。
これ以上見ているのは野暮というものだろう。
ただし、去り際に女性が小さく呟いた言葉は、シンヤの耳に届いてしまった。
「……あの子たち、いつか付き合うのかしらねぇ」
「……っ!?」
シンヤの顔が、一瞬で赤くなった。
レンも、聞こえていたらしい。
「…………///」
二人は、何も言えなくなった。
けれど、つないだ手だけは離れなかった。
◆そして、夕暮れへ
しばらくの間、二人はハナダ岬からの景色を堪能した。
海を眺め、風を感じ、時折、他愛のない話を交わす。
レンは、カントー地方の景色について尋ねた。
シンヤは、これから向かう場所や、ポケモンリーグへの道のりについて話した。
もちろん、翌日に挑戦するハナダジムのことも。
「……明日は、いよいよジム戦ね」
レンが言った。
「ああ。タケシさんとのバトルとは違って、水タイプを使うジムリーダーだろうな」
「ふふっ。あなたなら、きっと大丈夫よ」
「そう簡単にはいかないと思うけどな。相手もジムリーダーなんだし」
「それでもよ。あなたはポケモンたちのことをよく見ているもの」
レンは、握った手に少しだけ力を込めた。
「だから、私はあなたのバトルを楽しみにしているわ」
「……ありがとう、レン」
シンヤは笑った。
その笑顔を見たレンは、また胸の奥がくすぐったくなるのを感じた。
(……本当に、どうしちゃったのかしら。私……)
自分でも、まだ答えは出ない。
けれど、今はそれでもよかった。
隣にシンヤがいる。
同じ景色を眺めている。
こうして手をつないでいる。
それだけで、十分に嬉しかったから。
やがて、海の向こうの空が少しずつ橙色に染まり始めた。
「……そろそろ戻ろうか」
シンヤが言った。
「ええ。明日はジム戦だものね」
レンは名残惜しそうに海を見つめてから、頷いた。
「ポケモンたちも休ませてあげないといけないし」
「ああ。今日の100連戦で頑張ってくれた仲間たちもいるからな」
シンヤは、モンスターボールに収まっているポケモンたちを思い浮かべた。
リザードとピジョンには、改めて感謝を伝えなければならない。
そして、自分自身も今日の失敗を忘れないようにしよう。
――レンが可愛いのは、もう仕方がない。
だが、トレーナーとして周囲を観察することを忘れてはいけない。
(……うん。明日はしっかり気を引き締めよう)
シンヤは、心の中で決意した。
その隣で、レンはまだ少しだけ赤い顔をしていた。
「……ねえ、シンヤ」
「何?」
「今日は……一緒に来てくれて、ありがとう」
「……どういたしまして。俺も楽しかったよ」
「……ふふっ。なら、よかったわ♪」
レンは、そっと彼の手を握り直した。
二人は並んで、ハナダ岬を後にした。
帰り道でも、レンはシンヤの腕に寄り添って歩いていた。
シンヤは少し照れながらも、今度は周囲の様子をしっかり確認しつつ、彼女の歩幅に合わせた。
……もちろん、時折レンと目が合うたびに、二人そろって顔を赤くしてしまうのは変わらなかったが。
こうして二人は、ハナダシティのポケモンセンターへと戻っていく。
翌日に控えたハナダジム戦に備えて。
そして、二人の距離がほんの少し縮まった、この日の出来事は――シンヤとレンにとって、忘れられない思い出のひとつになっていくのだった。
というわけでしっかりと番外編とのつながりをしっかりした感じに仕上げて見ました