育て屋を出発したシンヤとレン。
ニドキングやニドクインたちの成長、そしてフシギダネとゼニガメという新たな仲間を得たことで、シンヤの旅はますます賑やかになっていた。
「さて、これからどうしようかしらね。ハナダジムへの挑戦は終わったし、次の目的地を決めるのもいいけれど……」
レンが小首を傾げる。
「そうだな。次の街に向かう前に、手持ちの状態を確認して、フシギダネとゼニガメの連携も練習しておきたいところだけど」
「ふふっ。シンヤってば、本当にポケモンのことばかり考えているのね」
「それがトレーナーだからな」
「それはそうだけど……」
レンはくすりと笑い、シンヤの隣を歩いていた。
そのときだった。
「そこのあなたたち! ちょっといいかしら!」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには制服姿の女性が立っていた。
「ジュンサーさん?」
「ええ。ちょうどよかったわ。あなたたち、このあたりで怪しい人物を見かけなかったかしら?」
ジュンサーは普段の落ち着いた表情を崩し、少し焦った様子で二人に尋ねた。
シンヤとレンは顔を見合わせる。
「怪しい人物ですか? 俺たちは育て屋から出てきたばかりですけど、特に見ていませんね」
「私もよ。少なくとも、誰かがこそこそと動いているような様子はなかったわ」
「そう……。困ったわね」
ジュンサーは額に手を当て、深いため息をついた。
「実は、ハナダシティ全体で謎の停電が発生しているの。街の施設だけじゃなくて、ポケモンセンターにも影響が出ている可能性があるわ」
「ポケモンセンターまで……?」
シンヤの表情が変わった。
ポケモンセンターの治療装置は、ポケモンの健康を守るために欠かせない設備だ。
もちろん、電力が止まったからといって、すべての治療が即座に不可能になるわけではない。
しかし、設備の稼働や医療器具、施設の維持に支障が出れば、救えるはずのポケモンまで危険にさらされかねない。
「停電の原因はわかっているんですか?」
「それが、まだ特定できていないのよ。街の設備を調べても、これといった異常が見つからなくて……」
ジュンサーは少し考え込んだあと、ぽつりとつぶやいた。
「そうなると……無人発電所で何かあったのかしら」
その言葉に、シンヤとレンは反応した。
無人発電所。
街に電力を供給する重要な施設であり、普段は人が常駐していない場所だ。
もし、そこで何らかの異常が起きているのなら――。
「……放っておけないわね」
レンが静かに言った。
「そうだな」
シンヤも頷く。
二人の脳裏には、ポケモンセンターで治療を受けているポケモンたちの姿が浮かんでいた。
旅の途中で傷ついたポケモン。病気になったポケモン。そして、今この瞬間にも助けを必要としているかもしれないポケモンたち。
電力の供給が止まったままでは、街全体に影響が広がる恐れがある。
しかし、ジュンサーはすぐには返事をしなかった。
「……気持ちはありがたいけれど、あなたたちに頼むわけにはいかないわ。危険な犯罪者が関わっている可能性もあるのよ?」
「それはわかっています」
「それに、私たち警察官も自由に動けるわけじゃないの。普段の巡回や捜査で連れているポケモンは、基本的にガーディ一匹。発電所の調査に出ている間、街で別の事件が起きても、すぐには対応できない可能性があるわ」
ジュンサーは悔しそうに唇を引き結んだ。
警察官として、危険な場所へ向かうのなら十分な準備が必要だ。民間人、それも旅を始めたばかりの子供たちに危険を背負わせるなど、本来なら避けるべきことだった。
だが――。
「でも」
レンが、穏やかな声で口を開いた。
「原因がわかっている可能性があるのに、何もせずにいるのはどうなのかしら?」
「……っ!」
ジュンサーの動きが止まった。
レンは責めるような口調ではなかった。ただ、目の前で困っている人やポケモンがいるのなら、できることを考えるべきだと言っているだけだった。
その言葉は、ジュンサー自身が抱えていた焦りを正面から突いていた。
シンヤは彼女の様子を見て、静かに一歩前へ出る。
「なら、俺たちが発電所の様子を見てきますよ」
「シンヤ……」
レンが隣から見上げる。
「もちろん、無茶をするつもりはありません。現場の状況を確認して、危険なら撤退します。犯罪者がいた場合も、人数やポケモンの様子を見て判断します」
「でも、あなたたちはまだ子供でしょう?」
「ええ。だからこそ、勝てるかどうかも含めて慎重に判断します。俺にはポケモンたちがいますし、レンも一緒です。それに、現場を見なければ何が起きているのかもわかりません」
シンヤは、真っ直ぐにジュンサーを見つめた。
「助けられる可能性があるのに、何もしないまま通り過ぎるのは嫌なんです」
その言葉を聞いたジュンサーは、しばらく黙っていた。
やがて彼女は、深々と頭を下げた。
「……ごめんなさい。申し訳ないけれど、お願いできるかしら。危険だと判断したら、必ず引き返して。無理に犯人を捕まえようとしないこと。何かあったら、すぐに警察へ連絡するのよ」
「わかりました」
「私も一緒に行くわ。シンヤだけに任せるつもりはないもの」
レンもはっきりと答えた。
こうして二人は、ハナダシティの停電の原因を調べるため、無人発電所へ向かうことになった。
◆9番道路の先に待つもの
二人は必要な道具とポケモンたちの状態を確認し、ハナダシティを出発した。
9番道路を進み、途中の横道を抜け、発電所へ続く道を急ぐ。
「それにしても、無人発電所か……」
シンヤは歩きながら考え込んでいた。
前世のゲーム知識では、カントー地方の無人発電所は伝説のポケモン、サンダーが出現する場所として知られている。
だが、ここはゲームの中ではない。
ゲームで知っている場所だからといって、同じ出来事が起きる保証はない。野生のポケモンの行動も、施設の状況も、細かな部分は異なっている可能性がある。
それでも、街全体の停電という異常事態と無人発電所。
無関係だと考えるほうが難しかった。
「何か気になることでもあるの?」
レンが尋ねる。
「まだ確証はない。実際に見てみないとね」
「ふふっ。そういうところは慎重なのね」
「知っているつもりのことほど、確認が必要だからな」
そんな話をしながら、二人はついに目的地へ到着した。
そして――。
「……あれは」
発電所の入り口付近に、黒い服を着た集団がいた。
服には、赤い「R」の文字。
シンヤの表情から、温かみが消えた。
「あれは……ロケット団か」
「ロケット団……?」
レンも息をのむ。
「カントー地方で暗躍しているという、あの犯罪組織……!」
「間違いないだろうな」
シンヤはすぐにレンへ目配せし、物陰に身を隠した。
二人は距離を取り、入り口付近の様子を観察する。
ロケット団員の数は、少なくとも十人。
全員が発電所の入り口付近に集まり、何かを待ち構えているようだった。
遠すぎて声は聞こえない。
だが、シンヤには別の手段があった。
前世で身につけた読唇術。
相手の口の動きから言葉を読み取る技術だ。もちろん、距離や角度、遮蔽物によって読み取りには限界がある。それでも、発電所の入り口で会話する彼らの顔は、どうにか確認できた。
シンヤは目を細め、口の動きを追った。
――そして、聞こえない会話の内容を読み取っていく。
『それで、例のポケモンは本当に現れるのか?』
『ああ。ここは人が全然いないからな。休息をとるために立ち寄るらしいぞ』
『十人いれば何とかなるだろうか?』
『さすがに伝説のポケモン、サンダーであろうと、この人数がいれば――』
『街にいるやつらがこっちに来られないよう、街でも騒ぎを起こしているからな! ジュンサーも来られない!』
『ああ。その間に何としてもサンダーを捕獲して、サカキ様に褒めていただくのだ!』
シンヤの目が、すっと細くなる。
「……そういうことか」
「シンヤ? 何がわかったの?」
レンが小声で尋ねた。
「奴らの目的はサンダーだ。伝説のポケモンを捕獲して、ボスに献上するつもりらしい」
「サンダーを……!?」
レンは驚きに目を見開いた。
伝説のポケモンを捕獲する。
それは、単なる野生ポケモンの捕獲とは訳が違う。どれほどの実力を持つトレーナーであっても、簡単に成し遂げられることではない。
しかも、彼らは街で騒ぎを起こし、警察が発電所へ来られないようにしている。
つまり、今回の停電そのものが、サンダーを捕まえるための計画の一部である可能性が高い。
だが、シンヤの意識はすぐに別のものへ向いた。
ロケット団員たちの足元。
そこには、複数のポケモンが倒れていた。
コイル。
ビリリダマ。
ベトベター。
いずれも戦闘不能になり、身動きが取れない状態だ。
そして、その少し先では――。
「……エレブー?」
膝をついたエレブーが、なおもロケット団員たちに抵抗していた。
身体には疲労が見え、呼吸も荒い。それでも、彼らを通すまいとするかのように、必死に立ち上がろうとしている。
その姿を見た瞬間。
シンヤの胸の奥で、何かが急速に冷えていった。
街の人々を困らせているだけではない。
自分たちの欲望のために、そこに暮らしていたポケモンたちを傷つけ、抵抗するエレブーまで追い詰めている。
ポケモンを捕まえること自体が悪いわけではない。
だが、ポケモンの意思を無視し、傷つけ、伝説の力を自分たちの出世の道具にしようとする行為は、シンヤにとって到底許せるものではなかった。
「……あいつら」
声が低くなる。
隣のレンも、倒れているポケモンたちを見つめていた。
普段の彼女なら、皮肉の一つでも口にしていたかもしれない。
けれど、今は違った。
「……許せないわね」
レンの声も、静かに冷えていた。
シンヤは彼女を見た。
レンもまた、シンヤを見返す。
言葉は必要なかった。
二人は同じものを見て、同じことを感じていた。
シンヤは深く息を吸い、立ち上がった。
「行こう、レン」
「ええ」
二人は物陰から姿を現し、発電所の入り口へ向かって歩き出した。
靴音に気づいたロケット団員たちが、一斉に振り向く。
「ん? 何だ、お前らは!」
「ガキが二人……? どうやってここまで来やがった!」
シンヤは倒れているポケモンたちを一瞥し、それからロケット団員たちを見据えた。
その目に、迷いはなかった。
「お前たちが、この停電を引き起こしたのか?」
「はっ! だったら何だってんだ?」
ロケット団員の一人が鼻で笑う。
「ガキはさっさと帰って、家で寝てな!」
別の団員が、腰のモンスターボールへ手を伸ばす。
「ここは俺たちの仕事場だ。余計な真似をするなら、お前らもポケモンごと痛い目に遭わせてやるぜ!」
その言葉を聞いたシンヤは、静かに目を細めた。
「そうか」
彼は腰のモンスターボールに手をかける。
「なら――」
レンもまた、モンスターボールを手に取った。
二人の視線が、ロケット団員たちを射抜く。
「ここから先へは、一歩も進ませないわ」
「傷つけたポケモンたちの分も、きっちり責任を取ってもらうぞ」
発電所の入り口に、張り詰めた空気が満ちた。
街の電力を取り戻すため。
倒れたポケモンたちを守るため。
そして、伝説のポケモンを欲望のために狙うロケット団を止めるため。
シンヤとレンは、ついに犯罪組織と対峙したのだった。
◆ロケット団との初戦!
「へっ、威勢だけはいいじゃねえか!」
ロケット団員の一人が前へ出た。
「おい、お前ら! ガキどもを追い払え! サンダーを捕まえる計画の邪魔をさせるな!」
「「「了解!」」」
団員たちが次々とモンスターボールを構える。
「行けっ、マタドガス!」
「出てこい、ゴルバット!」
「アーボック、やっちまえ!」
ほかにもドククラゲやラッタなど、さまざまなポケモンが姿を現した。
その数は、シンヤとレンの二人だけで相手にするには決して少なくない。
「数で押し切るつもりね……」
レンが呆れたように呟く。
「どうする、シンヤ?」
「まずは倒れているポケモンたちから離れさせる。あいつらを巻き込むわけにはいかない」
シンヤは周囲を素早く確認した。
発電所の入り口付近には、戦闘不能のコイルやビリリダマが散らばっている。
エレブーも限界が近い。ここで派手な攻撃を乱発すれば、ロケット団だけでなく、守るべきポケモンたちまで危険にさらしてしまう。
ならば、戦場を制御する。
「ピジョン、頼む!」
モンスターボールからピジョンが飛び出した。
「ピジョンッ!」
「上空から相手の配置を確認! かぜおこしで砂埃を巻き上げて、俺たちの前にいる連中の視界を奪え! 倒れているポケモンには風を当てるなよ!」
「ピジョーッ!」
ピジョンは翼を大きく広げ、ロケット団員たちの足元へ向けて風を放った。
「うおっ、何だ!?」
「目に砂が……!」
「ちっ、鳥ポケモン一匹で調子に乗りやがって!」
ロケット団員たちが視界を遮られた隙に、シンヤは次の指示を出す。
「リザード、前へ!」
「リザァッ!」
赤い身体のリザードが、シンヤの前に立った。
「フシギダネとゼニガメは後ろで待機。倒れているポケモンたちを巻き込まないよう、俺の指示があるまで大技は使うな!」
「フシギ!」
「ゼニッ!」
新しく仲間になった二匹も、真剣な顔で頷く。
一方、レンも落ち着いていた。
「ラルトス、お願い。相手の動きをよく見て、私たちに近づいてくるポケモンを教えてちょうだい」
「ラルッ!」
「クチートは私のそばを守って。マリルは、相手が突っ込んできたらバブルこうせんで牽制よ!」
「クチッ!」
「マリル!」
小さな二人のトレーナーは、年齢に似合わないほど冷静に戦場を組み立てていた。
しかし、相手は十人ものロケット団員。
一人が視界を取り戻すと、すぐさま反撃に出た。
「ゴルバット、つばさでうつ!」
「アーボック、まきつけ!」
「マタドガス、ヘドロばくだんだ!」
複数の攻撃が一斉に迫る。
「リザード、右へ飛べ! ピジョンはゴルバットの進路を塞げ!」
「リザァッ!」
リザードが横へ跳び、飛来したヘドロばくだんをかわす。ピジョンはゴルバットの進路へ滑り込み、翼をぶつけるようにして軌道を乱した。
「そのまま、リザード! かみなりパンチ!」
「リザァァッ!」
リザードの拳に電撃が走る。
相手の攻撃をかわした勢いをそのまま利用し、ゴルバットの懐へ踏み込んだ。
「なっ、速――」
ドゴォッ!!
電撃をまとった拳がゴルバットを捉え、相手は地面へ落下した。
「ゴルバット!」
「続けて、ピジョン! ダブルウィング!」
「ピジョーッ!」
ピジョンは旋回してアーボックの背後へ回り込み、翼でその頭部を2回、打ち据えた。
「シャーボッ!?」
「よし、そのまま距離を取れ!」
二匹は深追いしない。
一撃を与えたら、すぐに味方のそばへ戻る。相手の数に囲まれないようにしながら、確実に戦力を削っていく。
その動きを見たロケット団員の一人が、歯噛みした。
「こいつら……ガキのくせに、妙に戦い慣れてやがる!」
「当然だろう」
シンヤは冷たい目で答えた。
「ポケモンたちと一緒に、何度も戦ってきたんだ」
「なら、これならどうだ! マタドガス、えんまく!」
マタドガスの身体から黒い煙が噴き出した。
視界が一気に遮られる。
「シンヤ、前が見えないわ!」
「落ち着いて、レン! ラルトスの感覚を頼りに位置を確認してくれ!」
「わかったわ!」
シンヤは煙の中で目を閉じ、意識を集中させた。
波動の眼。
相手の状態や動き、そしてポケモンたちの放つ波動を捉える。
煙で視界が悪くなっても、周囲のすべてがわからなくなるわけではない。
「リザード、左斜め前! 相手が煙から出てきた瞬間に、ドラゴンクロー!」
「リザァッ!」
リザードの爪が淡い光を帯びる。
煙の向こうから飛び出したアーボックへ、鋭い一撃を叩き込んだ。
「シャーボ!」
「今よ、マリル! バブルこうせん!」
レンの指示とともに、マリルが泡の弾幕を放つ。
煙から飛び出そうとしていたドククラゲの進路が塞がれ、動きが鈍った。
「クチート、かみつく!」
「クチィッ!」
クチートが素早く距離を詰め、ドククラゲの触手へ食らいつく。
「ドククラゲ、戻れ!」
ロケット団員が慌てて指示を出したが、すでに遅かった。
次々と攻撃を受けたポケモンたちが、戦闘不能になっていく。
ただし、シンヤは相手を必要以上に痛めつけることはしなかった。
「リザード、そこまでだ! 相手が戦えないなら追撃はするな!」
「リザッ!」
リザードは拳を引き、シンヤのそばへ戻った。
その光景を見たレンは、少しだけ表情を和らげた。
危険な相手と戦っていても、シンヤは自分のポケモンに無闇な攻撃をさせない。
勝つことだけを考えているわけではないのだ。
だからこそ、レンも安心して自分のポケモンたちを任せられる。
だが――。
「このガキども……!」
奥にいたロケット団員が、忌々しげに叫んだ。
「だったら、まとめてぶっ飛ばしてやる! エレブーを押さえろ! こいつらも一緒に始末してやれ!」
その声に、シンヤの視線が鋭くなる。
ロケット団員たちは、倒れかけているエレブーを再び取り囲もうとしていた。
「……まだそんなことをするのか」
シンヤの声が、低く響いた。
「自分たちが負けそうになったからって、抵抗できないポケモンを狙うのか?」
「うるせえ! こいつを捕まえりゃ、サンダーを誘い出すのに使えるんだよ!」
「……そうか」
シンヤは静かにモンスターボールを掲げた。
「ニドキング!」
白い光とともに、巨大なポケモンが姿を現す。
「ニドォォキングッ!!」
ニドキングは雄叫びを上げ、ロケット団員たちの前に立ちはだかった。
その威圧感に、何人かの団員が思わず後ずさる。
「な、何だ、あのニドキング……!」
「ニドキング、だいちのちから! ただし、狙うのは相手の足元だ!」
ニドキングが地面へ両腕を叩きつけた。
次の瞬間、ロケット団員たちの足元が大きく揺れ、地面が盛り上がる。
「うわああっ!」
「立っていられねえ!」
攻撃そのものを直接ぶつけるのではなく、地形を変えて相手の陣形を崩す。
ロケット団員たちがよろめいたところへ、レンが指示を飛ばした。
「マリル、もう一度バブルこうせん! クチートは、近づいてくる相手を止めて!」
「マリルッ!」
「クチィッ!」
泡の弾幕が相手の足元を濡らし、クチートが突破を試みたポケモンの前へ立つ。
その間に、ニドキングは倒れている野生ポケモンたちからロケット団員を遠ざけるように前進した。
圧倒的な体格と威圧感。
そして、シンヤの的確な指示。
十人ものロケット団員たちは、少しずつ追い詰められていった。
「くそっ! こんなガキ二人に……!」
「まだだ! まだこっちには――」
「もうやめなさい!」
そのとき、レンの声が響き渡った。
「あなたたちが何をしようとしているのか、私たちは知っているわ! サンダーを捕まえて、ボスに献上するつもりなのでしょう?」
ロケット団員たちの顔色が変わった。
「なっ……! どうしてそれを!?」
「あなたたちの会話、聞かせてもらったわ」
レンは毅然とした態度で続けた。
「伝説のポケモンを自分たちの出世の道具にするなんて……。それに、街を停電させて、人々やポケモンたちを危険にさらしている。そんなことが許されると思っているの?」
「う、うるせえ!」
一人の団員が叫ぶ。
「サンダーさえ捕まえれば、俺たちは出世できるんだ! 邪魔をするなら、お前らだって――!」
その瞬間だった。
「……ピィィィィィィィッ!!」
鋭い鳴き声が、発電所の奥から響いた。
空気が震える。
発電所の建物の奥で、青白い電光が閃いた。
そして、稲妻のような光が壁の隙間を走り抜ける。
「な、何だ!?」
ロケット団員たちが一斉に振り返った。
シンヤも、レンも、息をのむ。
発電所の奥。
暗がりの向こうに、巨大な鳥の影が見えた。
鋭いくちばし。
稲妻を思わせる羽毛。
全身から放たれる、凄まじい電気の波動。
「まさか……!」
シンヤの波動の眼が、その姿を捉えた。
「サンダー……!」
伝説のポケモン、サンダー。
その身体から放たれる電気は、発電所の機械を震わせ、周囲の空気を激しく帯電させていた。ロケット団員たちの表情が、一瞬にして歓喜へ変わる。
「出たぞ! 本当に現れやがった!」
「今度こそ捕まえてやる! 全員、モンスターボールを構えろ!」
彼らが一斉にボールを掲げる。
しかし、シンヤの視線はサンダーだけでなく、その周囲にも向いていた。
発電所の機械は不安定に唸り、床には電気の火花が散っている。
そして、サンダーの波動には、明らかな警戒と怒りが混じっていた。
無人発電所で何が起きていたのか。
なぜこの辺りが停電しているのか。
そして、サンダーの目線の先には倒れているポケモン達がいた。
まだ、何一つ確かなことはわからない。
ただ一つだけ、シンヤには理解できた。
このままロケット団にサンダーを攻撃させれば、発電所そのものが危険な状態に陥るかもしれない。
「……レン」
「ええ、わかっているわ」
レンはモンスターボールを握り直した。
二人は、伝説のポケモンを前にしても退かなかった。
「サンダーを捕まえさせるわけにはいかない」
シンヤは、静かに言い放つ。
「まずは、あいつの話を聞くところからだ」
伝説のポケモンと、二人の新人トレーナー。
そして、欲望に取りつかれたロケット団。
無人発電所を舞台にした戦いは、ここからが本番だった。