ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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さあ、ここで同じマサラ出身のシゲルくぅんが登場するよ


第27話 ライバル対決?!シンヤVSシゲル その差は――――

◆通行止めのゲートと、思わぬ迂回路

 

 

ハナダシティでの一連の出来事を終えたシンヤとレンは、次の目的地であるクチバシティを目指していた。

フシギダネとゼニガメが新たに仲間に加わり、無人発電所ではロケット団の企みを阻止。さらに、サンダーとの遭遇という、普通の新人トレーナーなら一生に一度あるかどうかという経験までした。

しかし、二人の旅は順調そのもの……とはいかなかった。

 

 

「……通行止め?」

 

 

シンヤは、目の前のゲートに掲げられた案内板を見上げた。

ヤマブキシティへ通じるゲートは、現在通行禁止になっているらしい。

 

 

「ええ。どうやら今は通れないみたいね」

 

 

隣に立つレンも、案内板を確認して小さく息を吐く。

 

 

「せっかくここまで来たのに、引き返すことになるなんて……」

 

 

「まあ、仕方ないな。通れないものは通れないし、無理に突破するわけにもいかない」

 

 

シンヤはあっさりと踵を返した。

 

 

「ちょっと、切り替えが早すぎないかしら?」

 

 

「立ち止まっていても道が開くわけじゃないからな。別のルートを探そう」

 

 

そう言って歩き始めたシンヤだったが、しばらくして、ふと思い出したように足を止めた。

 

 

「……あ、そういえば」

 

 

「何か思いついたの?」

 

 

「ちかつうろがあったはずだ。クチバ付近に繋がる連絡通路にもなってたな」

 

 

ゲームの知識が頭をよぎる。

もっとも、ここはゲームの中ではない。道の構造や通行状況が記憶どおりとは限らない。

それでも、今いる場所から利用できる経路としては十分に検討する価値があった。

 

 

「地下を通るのね?」

 

 

「ああ。少し暗いだろうけど、遠回りするよりは早いはずだ」

 

 

その瞬間、レンの表情がわずかに強張った。

 

 

「……地下?」

 

 

「ん?」

 

 

「……暗いのよね?」

 

 

「まあ、地下通路だからな」

 

 

「…………」

 

 

レンは無言でシンヤの袖をつまんだ。

シンヤは、その仕草を見てすぐに察した。

 

 

「……ああ、なるほど」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「オツキミ山のときと同じか」

 

 

「ち、違うわよ! 別に暗いところが怖いわけでは……!」

 

 

「まだ何も言ってないんだけどな」

 

 

「~~~~っ!」

 

 

レンの頬が一気に赤くなる。

シンヤは苦笑した。

 

 

「大丈夫だ。今回も俺が一緒にいるから」

 

 

「……っ」

 

 

その言葉に、レンはますます顔を赤くした。

以前のオツキミ山では、暗闇への恐怖が先に立っていた。

 

 

けれど、今は違う。

一緒に旅を続けるうちに、シンヤのことを以前よりも強く意識するようになっていた。

優しくしてくれることも、困ったときに頼りになることも、何気なく笑いかけてくれることも。

そんな彼と、こんなにも近くで歩ける。

そう考えるだけで、レンの胸は落ち着かなくなってしまうのだった。

 

 

「……それじゃ、行きましょうか」

 

 

「おう」

 

 

こうして二人は、ちかつうろへと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ちかつうろ――近すぎる二人と、通行人たちの悲劇

 

 

地下通路の中は、昼間だというのに薄暗かった。

天井の照明が一定間隔で設置されているものの、場所によっては光が弱く、奥の様子が分かりにくい。

 

 

「…………」

 

 

レンは、シンヤのジャケットの袖をぎゅっと握った。

 

 

「レン、大丈夫か?」

 

 

「え、ええ。問題ないわ」

 

 

「そうか。じゃあ、ゆっくり進もう」

 

 

シンヤが歩き出す。

レンも続こうとした――のだが。

 

 

「……っ!」

 

 

少し先で、照明の切れかかった場所に差しかかった瞬間。

レンは反射的にシンヤの腕へしがみついた。

 

 

「うおっ!?」

 

 

「ご、ごめんなさい! ちょっと、その……!」

 

 

「いや、別にいいけど」

 

 

シンヤは足を止め、レンが落ち着くのを待った。

彼女の手は、彼の腕にしっかりと回されている。

しかも、以前より距離が近い。

肩が触れ合い、歩くたびに互いの身体がわずかに当たる。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

二人とも、何も言わなくなった。

そして、ほぼ同時に顔を赤くした。

 

 

(ち、近い……!)

 

 

(レン、こんなに近くに……!)

 

 

シンヤは前を向こうとする。

レンも顔を背けようとする。

だが、腕を組んだ状態では、どうしても相手の存在を意識してしまう。

 

 

「……レン」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「歩きにくくないか?」

 

 

「だ、大丈夫よ! むしろ、このほうが安心できるわ!」

 

 

「そ、そうか……」

 

 

言ったあとで、レンは自分の発言の意味に気づいた。

 

 

(むしろ、このほうが安心できるって……! わ、私は何を言っているの!?)

 

 

顔が熱い。

心臓がうるさい。

それでも、腕を離す気にはなれなかった。

シンヤもまた、困ったように微笑みながら、彼女の歩調に合わせてゆっくりと進んでいく。

 

 

そして――。

その二人の姿を見かけた通行人たちは、次々と足を止めていた。

 

 

若い男性が一人、二人。

カップルではない男女のグループ。

一人で通路を歩いていた青年。

彼らは、腕を組んで頬を赤らめながら歩く二人を見て、何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

「……なあ、あれ」

 

 

「見れば分かるだろ」

 

 

「まだ付き合ってないって感じなのに、あの距離感……」

 

 

「くっ……! まぶしい……!」

 

 

「地下通路って、こんなに甘い空気が漂う場所だったか……?」

 

 

そして、ついに一人の青年が膝をついた。

 

 

「ぐはっ……! 砂糖を……砂糖を吐きそうだ……!」

 

 

「しっかりしろ! お前にはまだ未来がある!」

 

 

「俺たちには何もないけどな!!」

 

 

そんな声が、薄暗い通路のあちこちから聞こえてくる。

もちろん、シンヤとレンには届いていなかった。

二人は二人で、互いを意識するあまり、周囲の様子に気づく余裕などなかったのである。

やがて、シンヤが口を開いた。

 

 

「……そういえば、レン」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「オツキミ山のときより、今日はずいぶん積極的だな」

 

 

「――――っ!?」

 

 

レンが硬直した。

 

 

「そ、それは……! あのときは、その……まだ……!」

 

 

「まだ?」

 

 

「な、何でもないわ!」

 

 

レンは真っ赤になって顔を背けた。

シンヤは首を傾げる。

 

 

「……?」

 

 

彼はまだ、自分がレンにとってどれほど特別な存在になりつつあるのか、完全には理解していなかった。

一方のレンは、自分の気持ちを少しずつ自覚し始めている。

 

 

けれど、本人にそれを認める勇気があるかどうかは、また別の話だった。

こうして二人は、周囲の独り身たちに多大な精神的ダメージを与えながら、ちかつうろを進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆6番道路――新たな仲間、ニャース

 

 

やがて、通路の先に明るい光が見えてきた。

 

 

「お、出口だ」

 

 

「やっとね……」

 

 

レンはほっと息を吐いた。

二人が地上へ出ると、そこは6番道路だった。

太陽の光が降り注ぎ、草むらを風が揺らしている。

地下の薄暗さから解放されたレンは、ようやくシンヤの腕から手を離した。

 

 

「……ふぅ」

 

 

「もう大丈夫か?」

 

 

「ええ。付き合ってくれてありがとう」

 

 

「気にするなよ」

 

 

シンヤが笑う。

レンはまた少しだけ頬を赤くした。

そのときだった。

 

 

「ニャー……」

 

 

道路脇の草むらから、一匹のポケモンが顔を出した。

二本足で立ち、丸い耳と長い尻尾を持つポケモン――ニャースである。

 

 

「おっ、ニャースか」

 

 

シンヤの目が輝いた。

波動の眼で観察すると、ニャースは周囲を警戒しながらも、逃げるほど強い敵意を見せてはいない。

 

 

「よし、仲間になってもらおう」

 

 

「えっ、もう!?」

 

レンが声を上げたときには、シンヤはすでに動いていた。

 

 

「フシギダネ、お願いだ!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

ボールから飛び出したフシギダネが、ニャースの進路を遮るように立つ。

 

 

「ニャッ!?」

 

 

ニャースが驚いて飛び退く。

 

 

「つるのムチ!」

 

 

フシギダネのつるが伸び、ニャースの逃げ道を塞いだ。

しかし、強く締めつけることはしない。

ニャースが飛び越えようとした瞬間、フシギダネはつるを引き戻し、相手の動きを一瞬だけ止める。

 

 

「今だ!」

 

 

シンヤはモンスターボールを投げた。

ボールがニャースに当たり、赤い光となって吸い込まれる。

地面に落ちたボールが揺れた。

 

 

一回。

 

 

二回。

 

 

三回。

 

 

そして――。

 

 

 

 

カチッ。

 

 

 

 

「よし、捕獲成功!」

 

 

シンヤはボールを拾い上げた。

 

 

「……え?」

 

 

レンは、目の前の出来事を理解するのに数秒かかった。

 

 

「えええええっ!? もう捕まえたの!?」

 

 

「おう」

 

 

「いや、今の一瞬だったじゃない!」

 

 

「逃げ道を塞いで、隙を作って、ボールを投げただけだぞ?」

 

 

「それを一瞬でやったことに驚いているのよ!」

 

 

レンは思わず拍手を始めた。

 

 

「すごいわ、シンヤ! 判断も指示も早すぎるわ!」

 

 

「そ、そうか? ありがとう」

 

 

褒められたシンヤは、少し照れくさそうに頭を掻いた。

レンはそんな彼を見て、くすりと笑う。

 

 

「ふふっ。あなたって、本当にポケモンのことになると目の色が変わるのね」

 

 

「そりゃあな。新しいポケモンとの出会いは、何度あっても楽しいから」

 

 

シンヤはニャースの入ったボールを見つめた。

どんな性格なのか。

どんな技を覚えているのか。

どういう戦い方を好むのか。

まだ分からないことは多い。

だからこそ、知る楽しみがある。

 

 

「よし。あとでゆっくり話をしような、ニャース」

 

 

ボールを軽く掲げるシンヤを見て、レンは微笑んだ。

 

 

(……こういうところも、好き……)

 

 

そこまで考えた瞬間、レンは慌てて首を振った。

 

 

(ち、違うわ! 今のは、そういう意味では……!)

 

 

しかし、頬の赤みは隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆道路の向こうから現れた車――再会

 

 

ニャースを捕獲した二人は、クチバシティを目指して歩き始めた。

しばらくすると、前方から車の走行音が聞こえてきた。

 

 

「ん?」

 

 

シンヤが顔を上げる。

道路の向こうから、一台の車が近づいてくる。

運転席には年上の女性。

そして、その車の周囲には、なぜか数十人もの女性が歩いていた。

車が近づくにつれ、女性たちの声が聞こえてくる。

 

 

「シゲルくーん!」

 

 

「今日も素敵よー!」

 

 

「次の街でも頑張ってねー!」

 

 

「また会いましょうねー!」

 

 

「…………」

 

 

シンヤは、思わず額を押さえた。

 

 

「……なんだ、あれ」

 

 

隣のレンも、呆れたように眺めていた。

やがて車が二人の近くまで来る。

助手席に座っていた少年が、窓の外を見て目を丸くした。

 

 

「……あれ?」

 

 

そして、すぐに笑顔を浮かべる。

 

 

「やあ! シンヤ君じゃないか!」

 

 

車がゆっくりと止まった。

助手席の窓から顔を出したのは、オーキド博士の孫にして、マサラタウン出身の新人トレーナー――シゲルだった。

 

 

「久しぶりだね、シンヤ君!」

 

 

「……ああ、久しぶりだな、シゲル」

 

 

シンヤは軽く手を上げて挨拶した。

シゲルは、相変わらず自信に満ちた笑みを浮かべている。

 

 

「それにしても、驚いたよ。僕よりも早く旅に出ているのに、まだクチバシティに着いていなかったのかい?」

 

 

その言葉には、明らかに優越感がにじんでいた。

 

 

「僕はもう、ずいぶん先まで進んでいるよ」

 

 

シゲルは得意げに、自分のジムバッジケースを開いて見せた。

中には、ニビジムのグレーバッジと、ハナダジムのブルーバッジ。

さらに、見慣れないバッジが収められていた。

 

 

「クチバジムにも挑戦しようと思ったんだけど、僕が訪ねたときはジムリーダーが不在でね。仕方がないから、別の街にある公認ジムで三つ目のバッジを手に入れた帰りさ」

 

 

「へえ。三つ目か」

 

 

シンヤはバッジケースを一瞥した。

 

 

「それで、君はいくつなんだい?」

 

 

「俺は二つだぞ」

 

 

「おや? それなら、なおさら僕のほうが先に進んでいることになるね」

 

 

シゲルが勝ち誇ったように笑う。

シンヤは、深々とため息をついた。

 

 

「……そりゃ、お前と違ってこっちは徒歩で移動してるしな」

 

 

「徒歩?」

 

 

「そう。自分の足で歩いて、道中のポケモンと出会って、街を巡って、いろいろなものを見る。旅を楽しむのも醍醐味だろ?」

 

 

シンヤは肩をすくめた。

 

 

「バッジを集めるのも大事だけど、それだけが旅じゃないからな」

 

 

「ふん。相変わらず、のんびりした考えだね」

 

 

「そう思うなら、それでいいさ」

 

 

シンヤは特に気にした様子もなかった。

シゲルは、そんなシンヤの態度が少し気に入らないらしい。

自分が優位に立っているはずなのに、相手が悔しがる様子を見せない。

それどころか、どこか余裕すら感じられる。

 

 

「……まあ、君らしいといえば君らしいか」

 

 

そこでシゲルは、ようやくシンヤの隣にいる少女へ目を向けた。

 

 

「ところで、そちらの女の子は?」

 

 

「レン。今、一緒に旅をしているんだ」

 

 

「初めまして。レンよ」

 

 

レンは軽く会釈した。

 

 

「僕はシゲル。シンヤ君とは同じマサラタウン出身なんだ」

 

 

「そうなのね」

 

 

「よろしく」

 

 

「ええ」

 

 

挨拶は、それだけだった。

レンはすぐに視線を逸らす。

シゲルは不思議そうに瞬きをした。

 

 

 

(……あれ? あまり興味を持たれていない?)

 

 

 

シゲルは普段、女性たちから熱烈な声援を浴びている。

自分が挨拶すれば、相手が笑顔を浮かべてくれることも珍しくない。

しかし、レンはあっさりと会話を切り上げ、シンヤの隣に戻ってしまった。

しかも、シンヤの袖を軽くつまんでいる。

 

 

 

(……ずいぶん仲がいいんだな)

 

 

 

シゲルは、二人の距離感を眺めた。

そして、すぐに口元を吊り上げる。

 

 

「なるほど。シンヤ君も、旅を楽しんでいるというわけか」

 

 

「まあな」

 

 

「だったら――」

 

 

シゲルは車から降り、道路脇の開けた場所へと歩いていった。

 

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。シンヤ君、ポケモンバトルをしないか?」

 

 

その言葉を聞いたシンヤは、ほとんど間を置かずに答えた。

 

 

「いいぞ」

 

 

「……即答かい?」

 

 

「お前から言い出したんだろ?」

 

 

「ふっ、そうだったね」

 

 

シゲルは笑みを深めた。

 

 

「それじゃあ、ルールを決めよう。お互い三匹ずつ。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になったら負け。交代は自由――これでどうだい?」

 

 

「問題ない」

 

 

シンヤは頷いた。

 

 

「三対三だな」

 

 

二人は、道路脇の広い場所へ移動する。

シゲルの周囲にいた女性たちも、バトルを見ようと集まってきた。

 

 

「シゲルくーん! 頑張ってー!」

 

 

「負けないでねー!」

 

 

「素敵なバトルを見せてー!」

 

 

シゲルは、彼女たちへ向かって片手を振る。

 

 

「みんな、応援ありがとう! すぐに勝ってみせるよ!」

 

 

「…………」

 

 

シンヤは、その光景を見て呆れたように息を吐いた。

 

 

「お前さ……」

 

 

「何だい?」

 

 

「旅先でも相変わらずなんだな」

 

 

「ふふん。人に好かれるのも、トレーナーとしての魅力のひとつさ」

 

 

「はいはい」

 

 

シンヤは深く追及するのをやめた。

隣ではレンが、少しだけ不機嫌そうな顔をしていた。

 

 

 

(……シゲルって、どうにも好きになれないわね)

 

 

 

 

シンヤに対して何かと対抗心を見せる態度。

自分の実績を誇る話し方。

 

 

そして、周囲の女性たちに囲まれていることを当然のように受け止めている様子。

レンには、どうにも馴染めなかった。

もっとも、彼女がシゲルに対して少しばかり厳しい目を向けている理由には、シンヤと一緒にいる時間を邪魔されたくないという気持ちも、ほんの少しだけ混ざっていたのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆三対三――第一戦、フシギダネVSガーディ

 

 

「それじゃあ、始めようか」

 

 

シゲルはモンスターボールを取り出した。

 

 

「僕の先発はこいつだ! 行け、ガーディ!」

 

 

「ガウッ!」

 

 

炎を思わせる橙色の毛並みを持つガーディが、元気よくフィールドへ飛び出した。

 

 

「ガーディか……」

 

 

シンヤは相手の姿を観察する。

ガーディは、シゲルが最初から育てているポケモンの一匹なのだろう。動きに迷いがなく、トレーナーの指示を待つ姿勢もしっかりしている。

 

 

 

(なるほど。きちんと育てているな)

 

 

 

シンヤは相手を侮らなかった。

シゲルは、シンヤが何を繰り出すのか知らない。

それも当然だ。

 

 

シンヤがフシギダネとゼニガメを仲間にしたのは、ハナダシティ近郊の育て屋でのこと。

シゲルがその情報を知る機会はなかった。

 

 

「さあ、シンヤ君。君のポケモンを見せてもらおうか!」

 

 

「分かった。行くぞ、フシギダネ!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

シンヤが投げたボールから、フシギダネが飛び出した。

 

 

「……フシギダネ?」

 

 

シゲルが目を丸くする。

 

 

「へえ。フシギダネを仲間にしていたんだね」

 

 

「最近な」

 

 

「なるほど。だが、ガーディに対して草タイプを出すとはね!」

 

 

シゲルは自信たっぷりに笑った。

 

 

「タイプ相性は理解しているのかい?」

 

 

「もちろん」

 

 

シンヤは落ち着いた声で答える。

 

 

「だからといって、出せるポケモンが限られるわけじゃないだろ?」

 

 

「ふっ……言うじゃないか」

 

 

シゲルは、ガーディへ指示を出した。

 

 

「ガーディ、ひのこ!」

 

 

「ガウッ!」

 

 

小さな火の粉がフシギダネへと飛んでいく。

 

 

「フシギダネ、つるのムチで受け流せ!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

フシギダネのつるが伸び、火の粉をまともに受けないように軌道を逸らす。

 

 

「なにっ!?」

 

 

シゲルの目が見開かれた。

フシギダネは、単に攻撃を避けただけではない。

つるを地面に打ちつけて身体を横へ移動させ、火の粉が届く直前に姿勢を変えていた。

シンヤは続けて指示を出す。

 

 

「そのまま、はっぱカッター!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

葉が鋭く飛び、ガーディへと向かう。

 

 

「ガーディ、かわして!」

 

 

ガーディは横へ跳んだ。

しかし、葉の軌道は一方向だけではない。

フシギダネが角度を変えて放った葉が、ガーディの着地点を狙う。

 

 

「ガウッ!?」

 

 

一枚が前脚をかすめ、ガーディが着地の姿勢を崩した。

 

 

「今だ。つるのムチ!」

 

 

フシギダネのつるが伸び、ガーディの身体を押し返す。

 

 

「ガウウッ!」

 

 

ガーディが地面を転がった。

 

 

「ガーディ!」

 

 

シゲルが声を上げる。

ガーディはすぐに起き上がったが、先ほどまでの余裕は消えていた。

 

 

「……まさか、ここまで動けるとはね」

 

 

シゲルはフシギダネを見つめる。

加入したばかりのポケモンだと聞いたら、信じられないほどだった。

もちろん、シゲルはフシギダネの現在のレベルや、無人発電所での戦闘経験を知らない。

 

 

フシギダネは、あの事件で実戦を経験している。

Lv.16で仲間になり、その後の戦闘を通してLv.20まで成長した。

技を知っているだけではなく、実際の戦場でどう使うかを学び始めていたのだ。

 

 

「ガーディ、かみつく!」

 

 

「ガウッ!」

 

 

ガーディが一気に距離を詰める。

 

 

「フシギダネ、後ろへ跳べ!」

 

 

フシギダネはつるを地面に引っかけ、後方へ身体を引いた。

ガーディの牙が空を切る。

 

 

「やどりぎのタネ!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

フシギダネが種を放つ。

種はガーディの身体に当たり、根を伸ばし始めた。

 

 

「しまった……!」

 

 

ガーディが身体を振って振りほどこうとする。

しかし、根はすでに絡みついていた。

 

 

「ガーディ、ひのこで振り払え!」

炎が放たれる。

フシギダネはすぐに距離を取った。

 

 

「無理に攻める必要はない。相手の動きを見ていこう」

 

 

シンヤは落ち着いて指示を出す。

ガーディの体力は少しずつ削られていた。

 

 

一方、フシギダネも攻撃を受けないように動き続けているため、疲労は蓄積している。

それでも、シンヤは無理に勝負を急がなかった。

 

 

「……くっ、ガーディ!」

 

 

シゲルは歯を食いしばる。

ここで初めて、彼は気づき始めていた。

 

 

シンヤは、ただタイプ相性を無視しているわけではない。

相手の技を観察し、動きを予測し、状況に応じて攻撃と回避を切り替えている。

しかも、フシギダネ自身も、シンヤの指示を理解して自分で動きを変えていた。

 

 

「フシギダネ、はっぱカッター!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

再び葉が飛ぶ。

ガーディは避けようとするが、やどりぎのタネによって動きが鈍っていた。

攻撃を受け、身体が大きく揺らぐ。

 

 

「ガウウッ……!」

 

 

そして、ついにその場へ倒れ込んだ。

 

 

「ガーディ、戦闘不能!」

 

 

審判役を務めることになった女性の一人が宣言した。

 

 

「……戻れ、ガーディ」

 

 

シゲルはボールを構え、相棒を戻した。

 

 

「よく頑張ったね。ゆっくり休んでくれ」

 

 

敗北したポケモンを責めることはない。

その点は、シゲルもきちんとしたトレーナーだった。

しかし、顔を上げたとき、その表情には明らかな驚きが残っていた。

 

 

「……シンヤ君。君、いつの間にそんな戦い方を覚えたんだい?」

 

 

「いつの間にって……旅をしているうちに、いろいろ経験したからな」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「それに、ポケモンが頑張ってくれているんだ。俺はそれに応えているだけさ」

 

 

「…………」

 

 

シゲルは黙り込んだ。

その言葉が、妙に引っかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第二戦――ゼニガメVSニドリーノ

 

 

「……いいだろう。次はこいつだ!」

 

 

シゲルは二つ目のボールを手に取った。

 

 

「行け、ニドリーノ!」

 

 

「ニドッ!」

 

 

鋭い角を持つニドリーノがフィールドに現れた。

シンヤはフシギダネの様子を確認する。

 

 

「フシギダネ、よく頑張った。少し休もう」

 

 

「ダネッ!」

 

 

フシギダネは嬉しそうに鳴いた。

シンヤはボールへ戻し、次のポケモンを選ぶ。

 

 

「次はお前だ。ゼニガメ!」

 

 

「ゼニッ!」

 

 

ゼニガメがフィールドに飛び出した。

 

 

「……ゼニガメだって!?」

 

 

シゲルは、またしても驚いた。

 

 

「君、フシギダネだけじゃなく、ゼニガメまで……!」

 

 

「まあな」

 

 

シンヤは平然と答える。

 

 

「この子も最近仲間になったんだ」

 

 

「最近って……!」

 

 

シゲルは言葉を詰まらせた。

マサラタウンを出発したとき、シンヤが何のポケモンを連れていたのかは知らない。

 

 

だが、今の彼は、フシギダネとゼニガメという、カントー地方の最初のパートナー候補として知られる二匹を手持ちに加えている。

それも、どちらもシンヤの指示にしっかりと反応している。

 

 

「……面白いじゃないか」

 

 

シゲルは笑みを浮かべた。

 

 

「なら、こちらも本気でいかせてもらうよ!」

 

 

「望むところだ」

 

 

二匹が向かい合う。

 

 

「ニドリーノ、つのでつく!」

 

 

「ゼニガメ、こうそくスピンでかわして!」

 

 

ニドリーノが突進する。

ゼニガメは身体を丸め、回転しながら横へ移動した。

角が甲羅をかすめる。

 

 

「そのまま、みずのはどう!」

 

 

「ゼニッ!」

 

 

水の波動が放たれ、ニドリーノを直撃した。

 

 

「ニドッ!?」

 

 

ニドリーノが後退する。

 

 

「くっ……ニドリーノ、にどげり!」

 

 

「ゼニガメ、からにこもる!」

 

 

ゼニガメは甲羅に身を引っ込め、攻撃を受け止める。

衝撃で地面を滑るものの、致命的なダメージは受けていない。

 

 

「今だ、バブルこうせん!」

 

 

ゼニガメが甲羅から飛び出し、泡の弾幕を放つ。

ニドリーノは回避しようとしたが、泡が視界を遮り、足元を取られた。

 

 

「ニドリーノ、落ち着け! つつく!」

 

 

ニドリーノが前進する。

しかし、ゼニガメは正面から迎え撃たなかった。

 

 

「右へ回り込め!」

 

 

ゼニガメが横へ走り、ニドリーノの突進をかわす。

そして、すれ違いざまにみずでっぽうを放った。

 

 

「ニドッ!」

 

 

水流がニドリーノを押し戻す。

ニドリーノは何とか踏みとどまったものの、攻撃を重ねられたことで体力が削られていた。

 

 

「……ここまで対応してくるとはね」

 

 

シゲルの声に、少しずつ焦りが混じる。

シンヤは、その様子を見ても表情を変えなかった。

 

 

「ゼニガメ、無理に追いかけなくていい。相手の動きを見て、隙を待とう」

 

 

「ゼニッ!」

 

 

ゼニガメは、ニドリーノとの距離を保つ。

焦って突っ込まない。

相手が動いたら対応する。

シンヤは、ゼニガメが自分で判断できる余地を残しながら指示を出していた。

 

 

「ニドリーノ、もう一度つのでつく!」

 

 

ニドリーノが突進する。

 

 

「今だ、こうそくスピン!」

 

 

ゼニガメは回転しながら横へ抜け、ニドリーノの攻撃を避けた。

 

 

「みずのはどう!」

 

 

水の波動が、回避直後のニドリーノを捉えた。

 

 

「ニドリーノ、戦闘不能!」

 

 

審判の声が響く。

 

 

「……っ!」

 

 

シゲルは唇を噛んだ。

これで二匹目。

対するシンヤは、まだリザードを残している。

 

 

しかも、シンヤはここまで一度も慌てていなかった。

ポケモンの状態を確認し、無理をさせず、相手の動きを見て指示を変える。

それは、シゲルが思い描いていた「知識の多いシンヤ」とは、少し違っていた。

 

 

昔からポケモンに詳しいことは知っていた。

だが、実際のバトルでここまで差が出るとは、考えていなかったのだ。

 

 

「戻れ、ニドリーノ。よくやった」

 

 

シゲルは二匹目を戻し、最後のボールを手に取った。

 

 

「……次は勝つ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆最終戦――リザードVSカメール

 

 

シゲルは最後のボールを掲げた。

 

 

「行け、カメール!」

 

 

「カメッ!」

 

 

甲羅を背負ったカメールが、堂々とフィールドに現れた。

シンヤは、その姿を見て小さく頷いた。

 

 

「なるほど。最後はカメールか。ということはお前が選んだのは」

 

 

「そうさ。ゼニガメだよ!僕のカメールは強いよ。

フシギダネやゼニガメといった草・水タイプを使ったところで、そう簡単には勝てない!」

 

 

シゲルは自信を取り戻したように笑う。

 

 

「さあ、シンヤ君。君の次のポケモンを見せてくれ!」

 

 

シンヤは、腰のボールに手を伸ばした。

 

 

「……分かった」

 

 

そして、ボールを構える。

 

 

「来い、リザード!」

 

 

「グオオオオッ!」

 

 

炎の尻尾を揺らしながら、リザードがフィールドへ降り立った。

 

 

「……リザード!」

 

 

シゲルは驚き、目を見開いた。

 

 

「最初に選んだのはヒトカゲッ!……君のヒトカゲが進化した姿か!」

 

 

「そうだ」

 

 

シンヤはリザードの背中を見つめた。

 

 

「頼むぞ、相棒」

 

 

「グオッ!」

 

 

リザードは力強く鳴いた。

その姿を見て、レンは自然と微笑んだ。

 

 

シンヤとリザード。

二人の間には、長い時間をかけて築いてきた信頼がある。

旅立ちの日から、共に戦い、共に成長してきた相棒。

ニビジムでの勝利も、その後の数々のバトルも、二人で積み重ねてきたものだ。

 

 

「……ふん。炎タイプで水タイプに挑むというのかい?」

 

 

シゲルは笑った。

 

 

「君らしいといえば君らしいね!」

 

 

「タイプ相性は重要だよ」

 

 

シンヤは淡々と答えた。

 

 

「でも、それだけで勝敗が決まるわけじゃない」

 

 

「なら、見せてもらおうじゃないか!」

 

 

シゲルが叫ぶ。

 

 

「カメール、みずでっぽう!」

 

 

「カメッ!」

 

 

水流がリザードへ向かって放たれる。

 

 

「リザード、右へ回避!」

 

 

リザードは素早く横へ跳び、水流をかわした。

 

 

「そのまま、ドラゴンクロー!」

 

 

「グオオッ!」

 

 

爪が青白い光をまとい、カメールへと迫る。

 

 

「カメール、からにこもる!」

 

 

カメールは甲羅へ身を引っ込め、攻撃を受け止めた。

鋭い爪が甲羅を擦り、火花が散る。

 

 

「よし、そのまま耐えろ!」

 

 

シゲルが声を張り上げる。

 

 

「リザード、離れろ!」

 

 

リザードはすぐに距離を取った。

 

 

「カメール、バブルこうせん!」

 

 

泡の弾幕が広がる。

 

 

「リザード、ほのおのうず!」

 

 

炎が渦を巻き、泡の軌道を乱した。

蒸気が立ち上り、フィールドの一部が白く煙る。

 

 

「なにっ!?」

 

 

シゲルが驚く。

 

 

「煙の中に隠れるつもりか!」

 

 

「違うよ」

 

 

シンヤは静かに答えた。

 

 

「リザード、左へ回り込め!」

 

 

煙の向こうから、リザードの足音が聞こえる。

カメールは警戒し、身体を回して音の方向を向いた。

 

 

 

だが――。

 

 

「上だ!」

 

 

シンヤの声が響いた。

リザードは岩場を蹴って跳び上がり、カメールの頭上から攻撃を仕掛ける。

 

 

「ドラゴンクロー!」

 

 

「カメール、避けろ!」

 

 

カメールが横へ飛ぶ。

爪は地面に突き刺さり、土煙が上がった。

しかし、リザードは着地と同時に身体をひねり、次の動きへ移っていた。

 

 

「かみなりパンチ!」

 

 

「グオオオオッ!」

 

 

電気を帯びた拳が、カメールの側面へと迫る。

 

 

「カメール、からにこもる!」

 

 

カメールは再び甲羅へ身を引っ込めた。

拳が甲羅へ叩きつけられ、激しい音が響く。

 

 

「よし! 耐えたぞ!」

 

 

シゲルが声を上げた。

だが、シンヤは慌てない。

 

 

「リザード、いったん離れろ。様子を見るんだ」

 

 

リザードはすぐに後退した。

カメールが甲羅から顔を出す。

その瞬間、シンヤが指示を出した。

 

 

「今だ、りゅうのいぶき!」

 

 

リザードの口から、ドラゴンの力を帯びた息吹が放たれる。

 

 

「カメール!」

 

 

攻撃を受けたカメールが後ろへ押し戻された。

 

 

「くっ……カメール、みずのはどう!」

 

 

水の波動が放たれる。

 

 

「リザード、えんまく!」

 

 

煙が広がり、波動の軌道がわずかに逸れた。

 

 

「そのまま距離を取れ!」

 

 

リザードは煙の中から飛び出し、カメールの攻撃範囲を外れる。

シゲルは歯を食いしばった。

 

 

 

(くそっ……! 攻撃が当たらない!)

 

 

 

リザードの攻撃は、単に威力が高いだけではなかった。

シンヤは、カメールの技を見てから回避方法を変えている。

甲羅へこもれば無理に攻撃を続けず、離れて次の機会を待つ。

 

 

相手が顔を出せば、その瞬間に攻撃する。

技を出すことだけを目的にせず、相手の行動を引き出してから攻めているのだ。

そして、リザード自身もその意図を理解し、状況に応じて動きを変えていた。

 

 

「……これが、シンヤの戦い方……」

 

 

シゲルは初めて、言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆決着――その差は、経験と信頼

 

 

「カメール、もう一度みずでっぽう!」

 

 

「カメッ!」

 

 

水流が勢いよく放たれる。

「リザード、左へ回避。そのまま接近してかみなりパンチ!」

 

 

「グオオオッ!」

リザードの両手に電気をまとい、地面を蹴って走りだす。

水流をかわし、カメールとの距離を一気に詰める。

 

 

「カメール、からにこもる!」

 

 

カメールが甲羅へ身を引っ込める。

だが、シンヤはすぐに次の指示を出した。

 

 

「リザード、ドラゴンクローに切り替えろ!! 甲羅を無理に割ろうとするな。押し返せ!」

 

 

「グオッ!」

 

 

ドラゴンクローが甲羅へと叩きつけられ、カメールの身体が大きく後退する。

甲羅に守られているとはいえ、衝撃までは消せない。

カメールは地面を滑り、体勢を崩した。

 

 

「カメール、立て直せ!」

 

 

シゲルが叫ぶ。

カメールは何とか顔を出し、起き上がろうとした。

その瞬間――。

 

 

「リザード、かみなりパンチ!」

 

 

「グオオオオッ!」

 

 

電気を帯びた拳が、カメールへと迫る。

 

 

「カメール、避けろ!」

 

 

だが、体勢を崩したカメールは反応が遅れた。

拳が直撃する。

 

 

「カメエエエッ!?」

 

 

カメールの身体が大きく弾き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

しばらくしても、立ち上がることはなかった。

 

 

「カメール、戦闘不能!」

 

 

審判の声が響いた。

 

 

「勝者、シンヤ!」

 

 

一瞬の静寂。

そして、レンが大きな拍手を送った。

 

 

「すごいわ、シンヤ!」

 

 

シンヤはリザードのもとへ歩み寄り、そっと肩に手を置く。

 

 

「よくやったな、相棒」

 

 

「グオッ!」

 

 

リザードは嬉しそうに鳴いた。

シンヤはその頭を撫でた。

 

 

「フシギダネもゼニガメも、よく頑張ってくれた。みんなのおかげだ」

 

 

ボールの中にいる二匹も、声に応えるように小さく鳴いた。

 

 

 

 

 

 

一方、シゲルは倒れたカメールを見つめていた。

三匹を出し、三匹とも敗北。

対するシンヤは、フシギダネとゼニガメを使い、最後にリザードで勝負を決めた。

 

 

もちろん、シゲルのポケモンが弱かったわけではない。

ガーディもニドリーノもカメールも、十分に戦っていた。

だが、シンヤは相手の技や動きを見て、戦術を変えていた。

 

 

タイプ相性だけに頼らず、地形や攻撃の隙、ポケモンの得意な動きを利用していた。

そして何より、ポケモンたち自身がシンヤの指示を理解し、自分で考えて動いていた。

シゲルは、ゆっくりとカメールをボールへ戻した。

 

 

「……負けた、か」

 

 

その声には、いつもの余裕がなかった。

シンヤは彼のもとへ歩み寄った。

 

 

「いいバトルだったぞ、シゲル」

 

 

「……慰めのつもりかい?」

 

 

「いや、本心だよ。お前のポケモンたちも、よく頑張っていた」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「ただ、今回は俺たちのほうが経験を積んでいた。それだけだ」

 

 

「経験……」

 

 

シゲルは、その言葉を繰り返した。

彼は旅をして、ジムバッジを集めてきた。

移動には車を使い、効率よく街を巡り、複数のジムに挑戦してきた。

それは決して間違った旅の形ではない。

 

 

だが、シンヤはその道中で、数えきれないほどのポケモンと出会い、100人ものトレーナーと戦い、ハナダジムを攻略し、無人発電所ではロケット団と対峙していた。

それらの経験が、戦闘中の判断や指示に結びついていた。

そして、シンヤには、まだ語っていない経験もある。

 

 

前世で遊び込んだポケモンゲームの膨大な知識。

ただし、その知識をそのまま現実の戦いに当てはめているわけではない。

相手を観察し、実際に技を見て、ポケモンの状態を確認し、状況に合わせて判断する。

知識と経験を結びつける力こそが、今のシンヤの強みだった。

 

 

「……シンヤ君」

 

 

シゲルは、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

「君、いつの間にそんなに強くなったんだい?」

 

 

シンヤは少し考えてから答えた。

 

 

「いつの間に、って言われてもな。俺も毎日勉強して、ポケモンたちと一緒に頑張っているだけだよ」

 

 

「…………」

 

 

「それに、俺だってまだまだだ。知らないことはたくさんあるし、これから出会うポケモンもいる。だからこそ、旅は楽しいんだろ?」

 

 

シゲルは、何も言わなかった。

彼は初めて、シンヤの言葉を素直に受け止めようとしていた。

自分はバッジを集めることに夢中になっていなかっただろうか。

勝利することを優先するあまり、ポケモンとの経験を深めることを忘れていなかっただろうか。

 

 

もちろん、シゲルが努力していないわけではない。

だが、今回の敗北は、彼にとって大きな意味を持つことになるだろう。

 

 

「……ふっ」

 

 

やがて、シゲルは小さく笑った。

 

 

「どうやら、僕もまだまだということらしいね」

 

 

「そういうことだな」

 

 

シンヤも笑った。

 

 

「次に会うときは、もっと強くなっておくよ」

 

 

「それはこっちの台詞さ!」

 

 

シゲルは顔を上げ、いつもの自信に満ちた表情を取り戻した。

 

 

「次は必ず勝つ。覚えておくんだね、シンヤ君!」

 

 

「ああ。楽しみにしているよ」

 

 

二人は、互いに笑みを浮かべた。

その様子を見ていたレンは、ほっと息を吐く。

 

 

 

(……シンヤって、やっぱりすごいわね)

 

 

 

勝利しても相手を見下さず、敗北した相手を馬鹿にもしない。

ただ、自分と仲間たちが積み重ねてきた努力を信じている。

 

 

レンは、そんなシンヤの横顔を見つめていた。

そして、自分の胸の奥がまた少し温かくなるのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆再び旅路へ――ライバルたちのこれから

 

 

バトルを終えたシンヤは、リザードたちを休ませるためにボールへ戻した。

 

 

「みんな、お疲れさま。後でしっかり休もうな」

 

 

「グオッ!」

 

 

「ダネッ!」

 

 

「ゼニッ!」

 

 

それぞれの返事を聞き、シンヤは満足そうに頷いた。

 

 

 

 

 

一方、シゲルは応援団の女性たちに囲まれていた。

 

 

「シゲル君、残念だったわね!」

 

 

「でも、いい勝負だったわよ!」

 

 

「次は頑張ってね!」

 

 

「……ああ、ありがとう」

 

 

シゲルは笑顔で答えたが、いつもより少しだけ静かだった。

彼は、シンヤの背中を見つめる。

同じマサラタウンから旅立った少年。

 

 

昔からポケモンに詳しく、少し苦手意識を抱いていた相手。

そのシンヤが、今では自分の先を行っている。

バッジの数だけを見れば、大きな差はない。

 

 

だが、実際に戦ってみて分かった。

ポケモンへの指示。

相手の動きを読む判断力。

不利な状況を覆す戦術。

そして、ポケモンと積み重ねた経験。

 

 

その差は、思っていた以上に大きかった。

 

 

「……次は負けないよ、シンヤ君」

 

 

シゲルは、静かに決意した。

その言葉は、周囲の女性たちの歓声にかき消される。

シンヤはレンと並び、クチバシティへ向かって歩き始めていた。

 

 

「ねえ、シンヤ」

 

 

「ん?」

 

 

「さっきのバトル、すごかったわね。フシギダネもゼニガメも、仲間になったばかりなのに、あんなに戦えるなんて」

 

 

「二匹とも頑張ってくれたからな。無人発電所での経験も大きかったと思う」

 

 

「それでも、あの指示は簡単にはできないわよ」

 

 

レンは、少しだけ顔を赤くして続けた。

 

 

「……やっぱり、あなたって頼りになるわね」

 

 

シンヤは目を瞬かせたあと、照れくさそうに笑った。

 

 

「ありがとう、レン」

 

 

「ふふっ」

 

 

レンは嬉しそうに微笑み、彼の隣を歩く。

二人の距離は、ちかつうろを通る前よりも、ほんの少しだけ近くなっていた。

 

 

こうしてシンヤは、新たなライバルとの再会を経て、再びクチバシティを目指す。

そしてシゲルもまた、今回の敗北を糧に、さらなる成長を目指していくことになる。

 

 

同じマサラタウンから旅立った二人の少年。

その差は、バッジの数だけでは測れない。

ポケモンと向き合い、経験を積み、考え続けること。

その積み重ねが、やがて二人をどこへ導くのか――。

 

 

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