10/15。すみません。予約投稿などをしている準備で誤って投稿してたみたいです。
本日の0時に第29話を更新です。皆さん、何も見なかったということで
◆クチバシティ――オレンジ色の港町
シゲルとのライバル対決を終えたシンヤとレンは、再びクチバシティを目指して歩き始めた。
途中、何度か休憩を挟みながら進むことしばらく。
二人の目の前に、大きな港町が見えてきた。
「……あれがクチバシティか」
シンヤは、海沿いに広がる街並みを見渡した。
港には大小さまざまな船が停泊し、船乗りたちが荷物を運んでいる。海風が吹き抜け、遠くからは船の汽笛も聞こえてきた。
潮の香りが漂う、活気に満ちた街だった。
「きれいな街ね。海がすぐ近くにあるなんて、ハナダとはまた違った雰囲気だわ」
レンは、帽子代わりのリボンを軽く押さえながら海を眺めた。
「そうだな。クチバシティのキャッチフレーズは――『クチバは オレンジ 夕焼けの色』だったはずだ」
「オレンジ、夕焼けの色?」
「ああ。夕方になると、夕日が海に反射して、海面がオレンジ色に染まるんだってさ」
「まあ……素敵ね」
レンは海の向こうへ視線を向けた。
「せっかくだし、夕方までに少し街を見て回るのもいいかもしれないわね」
「そうだな。港も見てみたいし、船のことも気になるし……」
シンヤはそこで言葉を切った。
そして、何かを思い出したように、勢いよく海のほうを振り返った。
「……そうだ!」
「えっ? どうしたの?」
「釣りだ!」
「…………は?」
レンの表情が固まった。
シンヤはすでに、父親からもらった万能釣り竿を取り出していた。
その顔は、先ほどまで街の景色を眺めていたときとは比べものにならないほど輝いている。
「まだ捕獲してないポケモンの気配――――フィッシュ!」
「釣り?!」
レンの声が港に響いた。
しかし、シンヤは聞いていない。
彼の意識は、すでに海へと向いていた。
「いやあ、クチバといえば海! 海といえば釣り! そして釣りといえば、まだ出会っていないポケモンとの遭遇だろ!」
「……シンヤ?」
「よし、さっそく始めよう!」
「ちょっと待ちなさい! さっきまで街を見て回ろうって話をしていたじゃない!」
「釣りも街を楽しむ一環だぞ!」
「そういう問題じゃないわよ!」
レンは額に手を当てた。
(……ああ、もう。この人は……)
シンヤはポケモンのことになると、途端に行動が早くなる。
新しいポケモンを見つければ捕獲したくなるし、知らない技を見れば調べたくなる。
そして、海があれば釣りを始める。
レンは深々とため息をついた。
それでも、楽しそうに釣り竿を準備するシンヤを見ていると、怒る気も失せてしまう。
(……これが、シンヤなのよね)
呆れ半分、微笑ましさ半分。
結局、レンは彼の隣へ歩いていった。
「……もう。少しだけよ?」
「おう! ありがとう、レン!」
「その代わり、私も釣れたポケモンを見せてもらうわ。どんな子が来るのか、気になるもの」
「もちろんだ!」
シンヤは満面の笑みで釣り竿を構えた。
こうして、クチバシティに到着して最初に行われたのは――観光でも、食事でも、ポケモンセンターへの訪問でもなく、釣りだった。
◆三度目のポケモン釣り――シェルダーとヒトデマン
シンヤは海辺に腰を落ち着け、万能釣り竿を構えた。
釣り糸を垂らし、波の動きを観察する。
父親が開発した釣り竿は、ポケモンの素材を利用した丈夫な糸を採用している。折り畳み式で持ち運びやすく、一般的な釣り竿よりも扱いやすい。
とはいえ、道具が優れているからといって、必ずポケモンが釣れるわけではない。
シンヤは焦らず、海面を見つめた。
「…………」
隣で見ていたレンが、首を傾げる。
「シンヤ、何か分かるの?」
「周囲のポケモンの気配を探っているんだ。もちろん、海の中は全部見通せるわけじゃないけど……」
シンヤは、釣り糸の先へ意識を集中させた。
「……よし、来た!」
釣り竿が大きくしなった。
「えっ、もう!?」
「ヒット!」
シンヤは竿を引き上げる。
海面から飛び出してきたのは、紫色の殻を持つ二枚貝のようなポケモンだった。
「シェルダーだ!」
「シェルッ!?」
突然釣り上げられたシェルダーは、驚いて殻を閉じる。
シンヤはすぐに相手の様子を確認した。
大きな怪我はなく、敵意も強くない。ただし、見知らぬ人間に突然捕まったことで、かなり警戒している。
「大丈夫だ。無理に傷つけたりしないからな」
シンヤは落ち着いた声で話しかけた。
シェルダーは殻を少しだけ開き、様子をうかがっている。
「もしよかったら、俺たちと一緒に旅をしないか?」
「シェル……」
シェルダーはしばらくシンヤを見つめたあと、わずかに身体を動かした。
波動の眼で感じ取れるのは、警戒心がまだ残っていること。それでも、シンヤに対する敵意は薄れつつあった。
「よし。じゃあ、これからよろしくな!」
シンヤはモンスターボールを取り出す。
ボールがシェルダーを包み込み、海辺の地面に落ちた。
一度揺れる。
二度揺れる。
そして――。
カチッ。
「よし! シェルダー、ゲット!」
「……本当に釣ってすぐ捕まえたわね」
レンは、思わず拍手した。
「おめでとう、シンヤ!」
「ありがとう!」
シンヤはボールを掲げた。
「よし、次だ!」
「えっ、まだやるの!?」
「もちろん!」
レンは、もう一度ため息をついた。
その後もシンヤは釣りを続けた。
一度目の当たりは、しばらく待ってから訪れた。
今度の釣り竿は、先ほどよりも細かく震えている。
「……これは、軽い?」
シンヤは慎重に竿を引いた。
水面を跳ねるように飛び出してきたのは、星形の身体を持つポケモンだった。
「ヒトデマン!」
「ヘア……?」
レンが興味深そうに近づく。
ヒトデマンの中心にある赤い部分が、淡く光っていた。
「へえ……不思議なポケモンね。身体の中心が光るなんて」
「そうだな。ヒトデマンは海に生息しているポケモンで、夜になると中心部分が光ることでも知られているんだ」
「詳しいのね」
「ポケモンの知識なら任せてくれ!」
シンヤは得意げに胸を張った。
もちろん、その知識だけでヒトデマンのすべてが分かるわけではない。
彼は波動の眼で状態を確認し、ヒトデマンが釣り上げられた衝撃に驚いているものの、大きな怪我はしていないことを確かめた。
「ヒトデマン。よかったら、俺と一緒に来ないか?」
ヒトデマンは、中心の赤い部分を一度だけ光らせた。
そして、シンヤの差し出したボールに触れる。
「おっ、いいのか?」
もう一度、赤い部分が光った。
シンヤは嬉しそうに笑った。
「ありがとう! これからよろしくな!」
ボールがヒトデマンを包み込む。
今度も、数回の揺れのあとに捕獲が成功した。
「ヒトデマン、ゲット!」
「……二匹目」
レンは、ついに呆れたような笑いを浮かべた。
「シンヤ、あなた本当に……」
「ん?」
「いえ、何でもないわ」
レンは肩をすくめた。
「あなたが楽しそうなら、それでいいわ」
「……レン」
「ただし、ポケモンセンターにはちゃんと行くこと。釣りに夢中になって、時間を忘れたりしないでね?」
「分かってるって!」
シンヤは、シェルダーとヒトデマンのボールを大事そうにしまった。
新しい出会いが二つ。
それだけで、彼の顔はすっかり満足げだった。
一方、レンは心の中で思う。
(……本当に、ポケモンが好きなのね)
その熱意は、少し呆れるほどだ。
でも、嫌いではない。
むしろ、夢中になっているシンヤを見ると、自分まで嬉しくなる。
レンはそんな気持ちを胸の奥にしまい込み、彼の隣を歩き始めた。
◆クチバシティのポケモンセンター
釣りを終えた二人は、クチバシティのポケモンセンターへ向かった。
シンヤは新たに捕まえたシェルダーとヒトデマンだけでなく、これまでの旅で活躍したポケモンたちの状態も確認してもらうことにした。
「こんにちは。ポケモンたちの回復をお願いします」
「はい、お預かりしますね」
ジョーイさんがボールを受け取る。
「少しお時間をいただきますので、あちらでお待ちください」
「分かりました」
二人は待合スペースへ移動した。
レンが椅子に腰を下ろすと、シンヤはバッグから通信機を取り出した。
「……さて、実家にも連絡しておくか」
「ご家族に?」
「ああ。最近、ポケモンの数も増えたしな。家で預かってもらっているみんなの様子も気になる」
「ふふっ。シンヤらしいわね」
シンヤは通信機を操作し、実家へ連絡を入れた。
数秒後、画面に映像が表示される。
『あら、シンヤ!』
画面に映ったのは、母親のミサキだった。
茶色の長い髪を整え、優雅な笑顔を浮かべている。
「母さん、元気?」
『ええ、もちろん。シンヤはどう? 旅先で困ったことはない?』
「今のところ大丈夫。クチバシティまで来たところだよ」
『まあ、もうクチバなのね! 順調に進んでいるみたいで安心したわ』
ミサキは嬉しそうに微笑んだ。
その視線が、ふとシンヤの隣にいる少女へ向かう。
『……あら?』
「ん?」
『そちらの可愛らしいお嬢さんは、レンちゃんかしら?』
「ええ。こんにちは、ミサキさん」
レンは丁寧に頭を下げた。
『こんにちは、レンちゃん。いつもシンヤと一緒に旅をしてくれてありがとうね』
「い、いえ! こちらこそ、シンヤには助けてもらっていますから……!」
レンの頬が、ほんのり赤くなる。
ミサキは画面越しに二人の様子を観察した。
シンヤとレンの距離。
会話するときの表情。
レンがシンヤのほうを見る仕草。
そして、シンヤが自然にレンの様子を気にかけていること。
(……あらあら??あらあらまあまあ!)
ミサキは内心で微笑んだ。
(ハナダで見た時よりもずいぶん仲良くなったみたいね)
もちろん、口には出さない。
ここでからかえば、二人とも顔を真っ赤にしてしまうだろう。
それはそれで面白いかもしれないが、息子の旅を応援する母親としては、今はそっと見守るのがよさそうだった。
『ふふっ。二人とも元気そうで何よりだわ』
「母さん、何かあった?」
『いいえ、何でもないわ。それより、今日は何の連絡かしら?』
「実家にいるポケモンたちの様子を聞こうと思ってさ。みんな、元気にしてる?」
その質問に、ミサキはぱっと表情を明るくした。
『それがね、シンヤ。ちょっと驚くことになっているのよ』
「……え?」
ミサキは、画面の向こうで楽しそうに笑った。
『あなたがハナダ周辺でいろいろなトレーナーと戦ったり、新しいポケモンを捕まえたりしていたでしょう? その影響なのか、家にいる子たちもすっかりやる気になっているの』
「やる気?」
『ええ。特に、最近こちらへ戻ってきたオコリザルとピカチュウが中心になって、みんなを鍛えてくれているのよ』
「…………は?」
シンヤの表情が固まった。
レンも、思わず画面へ顔を近づけた。
『オコリザルは、もともと戦うのが好きな子でしょう? ピカチュウも、あなたと一緒に旅をしていた経験があるから、みんなに積極的に動きを教えているみたい』
「いや、ちょっと待って。オコリザルとピカチュウが、家のポケモンたちを鍛えてるの?」
『そうよ。もちろん、私たちのポケモンたちも協力しているわ』
ミサキは、まるで日常の出来事を話すような口調で続けた。
『それでね――何匹か、進化したのよ』
「…………」
シンヤの顔から、ゆっくりと笑みが消えた。
◆実家のポケモンたち、大進化!
『まず、コラッタちゃんがラッタに進化したわ』
「……ラッタ?」
『ええ。それから、ニョロモちゃんがニョロゾに。オニスズメちゃんがオニドリルに進化したの』
「…………」
『サンドちゃんはサンドパンに、アーボちゃんはアーボックになったわよ』
「………………」
シンヤは、天を仰いだ。
「マジか……」
レンは、彼の顔を見て苦笑した。
「シンヤ、そんなに驚くことなの?」
「いや、驚くだろ……! 俺が一緒に旅をしている間に、家にいるポケモンたちがどんどん進化してるんだぞ!?」
「それは……確かに、すごいわね」
レンも改めて驚いた。
ポケモンの進化は、ただ強くなるだけの現象ではない。
身体が変化し、覚えられる技や能力が変わることもある。
そして、進化のタイミングはポケモンによって異なる。
それでも、これほど多くのポケモンが一度に進化したというのは、かなりの出来事だった。
ミサキは、さらに続ける。
『それだけじゃないのよ』
「……まだあるのか?」
『ええ。シンヤがオツキミ山で捕まえたズバットちゃん、イシツブテちゃん、パラスちゃんも進化したわ』
「――――は?」
シンヤの声が裏返った。
『ズバットちゃんはゴルバットに、イシツブテちゃんはゴローンに、パラスちゃんはパラセクトになったの』
「………………」
シンヤは、しばらく言葉を失った。
この三匹は、まだゴールデンボールブリッジでバトルには出してはいた。
だがレベルがまだ足りずに進化してなかったはずでは?と
理由は分かる。
父親が開発した学習装置によって、手持ちにいるポケモンだけでなく、実家に預けているポケモンたちも経験を積めるようになった。
さらに、オコリザルやピカチュウ、両親のポケモンたちが実戦形式の訓練を行っている。
つまり、シンヤが旅先で戦っている間も、実家では実家なりの育成環境が整っていたのだ。
しかも、ポケモンたち自身が成長を望み、自分の判断で進化している。
「……いや、学習装置がすごいのは分かってたけどさ……」
シンヤは頭を抱えた。
「俺が知らないところで、こんなに育成が進んでいるとは思わないだろ……」
レンは、こらえきれずに笑った。
「ふふっ……! シンヤ、まるで自分の知らない間に家が大きくなっていたみたいな顔をしているわよ?」
「実際、そんな気分なんだよ!」
「ふふふっ」
レンは口元を押さえた。
シンヤは不満そうに彼女を見たが、すぐにため息をついた。
「……いや、まあ、みんなが元気に頑張っているならいいんだけどさ」
『そうそう。みんな、とても楽しそうよ』
ミサキは微笑んだ。
『オコリザルもピカチュウも、無理をさせているわけではないわ。みんなの体調を見ながら、休憩もきちんと取っているし、私たちのポケモンたちも見守っているから』
「それなら安心だけど……」
シンヤは、ようやく少しだけ表情を和らげた。
「……それで、ニョロゾやプリン、ピッピは?」
『その子たちは、まだ進化していないわ』
「なるほど……」
ニョロゾ、プリン、ピッピ。
この三匹は、進化するために特定の進化アイテムが必要になる。
経験を積み、進化するだけの力を得ても、アイテムを使わなければ次の姿にはなれない。
シンヤは納得したように頷いた。
「そこはさすがに、レベルを上げるだけじゃ駄目か」
『そうね。でも、本人たちも焦ってはいないみたいよ。今の姿でできることを増やそうと、練習しているわ』
「それならよかった」
シンヤは、ほっと息を吐いた。
進化は成長の一つの形だ。
しかし、進化することだけが目的ではない。
今の姿で覚えられる技を練習し、得意な動きを磨き、自分の意思で進化を選べるようになることも大切なのだ。
シンヤは、その点を母親が理解してくれていることに安心した。
◆実家はもう一つの育成拠点?
『それからね、シンヤ』
「……まだ何かあるのか?」
『もちろん。マダツボミちゃん、ナゾノクサちゃん、コンパンちゃん、ケーシィちゃんも特訓に参加しているわ』
「……ああ、あの子たちか」
マダツボミ、ナゾノクサ、コンパン。
そして、念力を使うケーシィ。
いずれもシンヤが最近仲間にしたばかりのポケモンたちだ。(正確に言えばシンヤがレンを意識し過ぎでリザードとピジョンが捕まえたが正しい)
『それに、無人発電所で捕まえたコイルちゃん、ビリリダマちゃん、ベトベターちゃんも頑張っているわよ』
「コイルたちまで!?」
『ええ。特に電気タイプの子たちは、ピカチュウと一緒に練習しているわ。エレブーちゃんも積極的に参加していて、ほかの子たちに動き方を教えているみたい』
「…………」
シンヤは、再び天井を仰いだ。
コイルとビリリダマは、電気を扱うポケモン。
ピカチュウと一緒に訓練すれば、電気技の扱い方や、電気を制御する感覚を学ぶ機会も増えるだろう。
エレブーは、もともと戦闘経験も豊富で、技の種類も多い。
そのエレブーが指導役に回っているなら、家にいる電気タイプたちにとっては非常に恵まれた環境だ。
もちろん、ポケモンによって身体の構造や技の使い方は違う。
ピカチュウの動きをそのままコイルに真似させればいいわけではないし、エレブーの力任せの攻撃が、ほかのポケモンにも適しているとは限らない。
それでも、互いの動きを観察し、技の使い方を学び合うことには大きな意味がある。
「……なるほどな」
シンヤは、ようやく状況を整理し始めた。
「オコリザルが近接戦闘、ピカチュウが電気技の訓練を中心にして、エレブーも戦闘指導に参加。そこに父さんと母さんのポケモンたちも加わって、全体の訓練を見てくれているわけか」
『そういうことね』
「……俺が旅をしている間に、実家が育成施設みたいになってないか?」
『あら。もともと、ポケモンたちが安心して過ごせるように環境を整えてあるでしょう?』
「いや、それはそうだけど……!」
シンヤは思わず声を上げた。
「俺が捕まえたポケモンたちを預かってもらう場所だったはずなのに、いつの間にか、みんなで自主的に鍛え合う場所になっているんだけど!?」
『それだけ、みんながあなたの旅を応援しているということよ』
ミサキの声は優しかった。
『シンヤが外で頑張っているから、家にいる子たちも、自分たちにできることを頑張ろうと思ったのかもしれないわね』
「…………」
シンヤは言葉を失った。
彼が旅に出たのは、自分の夢を叶えるためだ。
ポケモンリーグに挑戦し、たくさんのポケモンと出会い、さまざまな場所を見て回る。
そのために、家にいるポケモンたちを両親に預けてきた。
だが、彼らはただ待っているだけではなかった。
自分たちも成長しようとしている。
仲間を助け、技を磨き、進化し、いつかシンヤの旅に役立てるように頑張っているのだ。
「……そっか」
シンヤは、小さく笑った。
「みんな、頑張ってくれているんだな」
『ええ。だから、帰ってきたら、たくさん褒めてあげてね』
「もちろんだよ」
シンヤの表情には、嬉しさと少しの驚きが混ざっていた。
それから彼は、ふと思い出したように尋ねる。
「そうだ。オコリザルとピカチュウは、ちゃんと休んでる?」
『ええ、もちろん。私たちも見ているし、疲れが見えたら休ませているわ。特にピカチュウは、あなたと旅をしていた頃から頑張り屋さんでしょう? だから、無理をしないように気をつけているの』
「よかった……。あの二匹、やる気になると止まらなさそうだからな」
レンが横から口を挟んだ。
「シンヤも人のことは言えないと思うわよ?」
「……え?」
「釣りを始めたときのあなた、止まる気なんてまったくなかったじゃない」
「…………」
今度はシンヤが黙り込む番だった。
ミサキは画面越しに、くすくすと笑った。
『ふふっ。レンちゃんの言うとおりかもしれないわね』
「母さんまで……」
『でも、二人が仲良く旅をしているようで安心したわ』
「……っ」
レンの頬が赤くなる。
シンヤも少し照れくさそうに目を逸らした。
ミサキは、そんな二人の様子を見て、心の中でそっと微笑んだ。
(本当に、仲良くなったわね)
けれど、やはり口には出さない。
今は、二人の旅を見守る時間なのだから。
◆新たな旅の目標
通話を終えると、シンヤは通信機をしまい、しばらく椅子の背もたれに身体を預けていた。
「……まさか、ここまで進化しているとはな」
「ふふっ。驚いた?」
「そりゃ驚くよ。ラッタにニョロゾ、オニドリル、サンドパン、アーボック……それにゴルバット、ゴローン、パラセクトまでだぞ?」
シンヤは指を折りながら、進化したポケモンたちの名前を数えた。
「しかも、まだ俺が直接バトルに出していない子まで進化している。帰ったら、全員の技やコンディションを確認しないと」
「大変そうね」
「大変だけど、楽しみでもあるさ」
シンヤは笑った。
「進化すれば、身体の構造も変わる。これまでできなかった動きができるようになることもあるし、技の使い方を見直す必要も出てくる。
眼で状態を確認しながら、一匹ずつ今後の育成方針を考えたいな」
「……本当に、あなたはポケモンのことが好きなのね」
「当たり前だろ?」
シンヤは、まっすぐに答えた。
「みんな、それぞれ違うんだ。得意なことも、苦手なことも、戦い方も違う。だから、同じ訓練をさせるだけじゃ駄目なんだよ」
レンは、彼の話を静かに聞いていた。
シンヤは続ける。
「家にいるポケモンたちが強くなってくれるのは嬉しい。でも、進化したから強い、レベルが高いから強い、というだけじゃない。本人がどんなことをしたいのか、何が得意なのかを見極めないとな」
「……そうね」
レンは頷いた。
「きっと、みんなもあなたに会える日を楽しみにしていると思うわ」
「そうだといいな」
シンヤは微笑んだ。
そのとき、ポケモンセンターの奥からジョーイさんが声をかけた。
「シンヤさん、レンさん。お預かりしていたポケモンたちの回復が終わりましたよ!」
「ありがとうございます!」
シンヤは立ち上がった。
新しく仲間になったシェルダーとヒトデマン。
これまで一緒に旅をしてきた仲間たち。
そして、実家で成長を続けている大勢のポケモンたち。
彼らと共に歩む旅は、まだまだ始まったばかりだ。
「さて、レン。次は街を見て回ろう」
「ええ。……今度は、釣り以外の場所にも案内してちょうだいね?」
「もちろん!」
シンヤは元気よく答えた。
だが、その視線は、窓の外に見える海へ一瞬だけ向けられていた。
レンは、それを見逃さなかった。
「……シンヤ?」
「ん?」
「まさか、また釣りをするつもりじゃないでしょうね?」
「…………」
「シンヤ?」
「……夕焼けの海も、ちょっと気になるなって」
「もうっ!」
レンの声がポケモンセンターに響いた。
シンヤは笑いながら歩き出し、レンも頬を膨らませながら後を追う。
クチバシティでの新たな旅が、ここから始まる。
そして夕暮れの海は、二人にどんな景色を見せてくれるのだろうか。
おまけエピソード
◆波動の眼の秘密
それは、シンヤとレンが正式に一緒に旅をすることになった日のこと。
オツキミ山を抜け、ハナダシティに到着して間もないことに遡る。
「ねえ、シンヤ」
「ん? どうした?」
「私……これからも、あなたと一緒に旅をしてもいいかしら?」
それは、レンにとって勇気を出した申し出だった。
カントー地方に来てから、彼女はさまざまな経験をした。オツキミ山では苦手な暗闇をシンヤと一緒に乗り越え、ハナダシティまでの道中では、彼のポケモンへの接し方や、戦いに臨む姿勢を間近で見てきた。
何より、彼と一緒にいる時間が楽しかった。
だからこそ、これからも一緒にいたいと思ったのだ。
シンヤは少しだけ目を丸くしたあと、穏やかに微笑んだ。
「もちろん。俺もレンと一緒に旅ができたら嬉しいよ」
「ほ、本当?」
「ああ。これからもよろしくな、レン」
「……ふふっ。こちらこそ、よろしくね」
レンが嬉しそうに笑う。
けれど、シンヤはそこで話を終わらせなかった。
「それとさ。レンには、先に話しておきたいことがあるんだ」
「話しておきたいこと?」
「うん。俺のことについて」
シンヤは少し考え、周囲に聞き耳を立てる人がいないことを確かめてから、声を落とした。
「実は俺、普通の人にはない、ちょっと特殊な目を持っているんだ」
「……特殊な目?」
レンは不思議そうに首を傾げた。
「うん。俺はそれを『波動の眼』って呼んでる」
「波動の眼……」
初めて聞く言葉を、レンはゆっくりと繰り返した。
「どんな力なのかしら?」
「簡単に言うと、ポケモンの状態や、覚えている技、得意なことなんかを、普通よりも詳しく見られるんだ。疲れていないか、体調はどうか、戦う気持ちがどれくらいあるか……そういうことも、ある程度わかる」
「まあ……!」
レンは思わず身を乗り出した。
「それって、ポケモンのことをとても深く理解できるということ?」
「そうだな。ただし、何もかもわかるわけじゃない。見えた情報がすべて正しいと決めつけることもできないし、相手の考えていることを何でも読み取れるわけでもない」
シンヤは念を押すように説明する。
「だから、目でわかったことだけに頼るつもりはないよ。実際に観察して、ポケモンと接して、ちゃんと確かめる。それが大事だと思ってる」
レンはしばらく黙っていた。
やがて、彼女はふっと微笑む。
「……なるほどね。だから、あなたはポケモンの様子を見ただけで、いろいろなことに気づけるのね」
「気づきやすい、っていうのが近いかな」
「でも、どうして私に教えてくれたの?」
その問いに、シンヤは少しだけ視線を落とした。
「これから一緒に旅をするんだろ?」
「ええ」
「だったら、俺が何を見て判断しているのか、レンにも知っておいてほしいんだ。俺がポケモンの状態を言い当てたり、普通なら気づかないことに気づいたりしたとき、何も知らなかったら不思議に思うだろうし」
「……それもそうね」
「それに、俺はレンを信頼したいと思ってる。だから、自分のことも少しずつ知ってもらいたいんだ」
レンの頬が、ほんのりと赤くなった。
「し、信頼……?」
「うん。もちろん、レンが話したくないことを無理に聞くつもりもないよ。だから俺も、話せることから話していこうと思ってさ」
シンヤは、レンがカロスから来た事情について、彼女が悲しそうな表情を浮かべたことを思い出していた。
彼女が自分から話したくなるまでは、無理に聞くつもりはない。
それと同じように、自分のことも隠し続けるのではなく、話せる相手には話しておきたかった。
レンは両手でカップを包み直し、少し照れくさそうに笑った。
「……あなたって、時々とても大人びたことを言うのね」
「そうかな?」
「そうよ。まだ十歳なのに」
「それを言われると、何も言い返せないな……」
シンヤは苦笑した。
前世の記憶を取り戻した彼にとって、精神的な感覚が同年代の子供と少し違うのは事実だった。とはいえ、その事情まで今ここで説明する必要はない。
レンはそんなシンヤをじっと見つめたあと、ふわりと微笑んだ。
「わかったわ。あなたの秘密、私も大切にするわね」
「ありがとう、レン」
「でも……」
「ん?」
レンはいたずらっぽく目を細めた。
「ポケモンのことがそんなに詳しくわかるなら、私のことも何か見えていたりするのかしら?」
「えっ?」
「たとえば、今の私が何を考えているか、とか?」
「いや、それは無理だって! さっき説明しただろ。心を何でも読めるわけじゃないって!」
シンヤが慌てて否定すると、レンは楽しそうに笑った。
「ふふっ、冗談よ。あなたのそんな顔が見られただけでも、教えてもらった甲斐があったわ」
「……レン、絶対に面白がってるだろ」
「さあ、どうかしら?」
彼女は優雅に紅茶を口に運んだ。
シンヤは小さくため息をつく。
けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
自分の特別な力を打ち明けても、レンは恐れたり、遠ざかったりしなかった。それどころか、彼女はいつもどおりに笑い、いつもどおりに接してくれた。
そのことが、シンヤには嬉しかった。
そしてレンもまた、彼が自分を信頼して秘密を明かしてくれたことを、心の中で大切に受け止めていた。
この日、二人の旅は始まった。
まだ恋人ではない。お互いの気持ちにも、はっきりとした名前はついていない。
それでも――。
シンヤにとってレンは、特別な力を打ち明けられるほど信頼できる旅の仲間になった。
そしてレンにとっても、シンヤはただ一緒に旅をするだけの少年ではなくなり始めていたのだった。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
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出す。セキエイリーグから出す
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出さないか。ホウエンからでいいやろ