ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第29話 クチバジムの激闘!マチスの本気と、オレンジバッジ!!

クチバシティに到着したシンヤとレン。

港町の景色を楽しみ、ポケモンセンターで自分のポケモンたちを回復させたシンヤは、いよいよ次の目的地へ向かおうとしていた。

そう――クチバジムである。

 

 

 

 

……と思いきや。

 

 

 

 

「スリープ、ゲット!」

 

 

「……ええと、シンヤ?」

 

 

「よし、これでまた新しいポケモンを捕まえられたな!」

 

 

シンヤは手元のモンスターボールを眺め、満足そうに頷いた。

その隣では、レンが何とも言えない表情を浮かべている。

 

 

「私たち、これからジムに挑戦するところだったのではなくて?」

 

 

「そうだよ?」

 

 

「だったら、どうして十一番道路で野生のポケモンを捕まえているのかしら……?」

 

 

「いや、まだ捕まえてないポケモンがいたから」

 

 

「……そう」

 

 

レンは一度、目を閉じた。

この少年は本当に、ポケモンのこととなると行動が早い。

ジム戦を前にした緊張感など、どこ吹く風である。

 

 

しかも、シンヤの捕獲活動はそれだけでは終わらなかった。

十一番道路でスリープを捕獲したあと、彼はディグダの穴にも足を運んだ。

ニビシティ付近へとつながる、地下の長い通路。

 

 

そこで彼が見つけたのは――。

 

 

「ディグダ、ゲット!」

 

 

「…………」

 

 

レンは無言でシンヤを見つめた。

 

 

「レン?」

 

 

「いいえ。何でもないわ」

 

 

「そう?」

 

 

「ええ。ただ、ジム戦に向かう前に、普通はもう少し気持ちを整えるものではないのかしらと思っただけよ」

 

 

「俺は十分整ってるぞ?」

 

 

「そういう問題ではないのだけれど……」

 

 

シンヤは首を傾げた。

レンは小さくため息をつく。

もっとも、彼女もシンヤのこういうところは嫌いではなかった。

ポケモンを見つければ興味を持ち、出会った相手を知ろうとし、仲間に迎えたいと思えば迷わず行動する。

 

 

 

 

ただし――。

 

 

 

 

「……せめて、ジム戦が終わってからでもよかったのではなくて?」

 

 

「それはそうかもしれない」

 

 

「認めるのね……」

 

 

「でも、出会いは一期一会だからな!」

 

 

「ふふっ。そういうところよ、シンヤ」

 

 

結局、ほかに目立った未捕獲のポケモンが見当たらなかったため、二人はようやくクチバジムへと向かうことになった。

なお、ジム戦に挑戦する直前までポケモンを捕まえていたトレーナーが、果たしてどれほどいるのか。

その疑問を抱くレンは、決して間違っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ クチバジム――待ち受ける軍人トレーナー

 

 

クチバジム。

電気タイプの使い手が待ち受けるこのジムへ足を踏み入れたシンヤとレンは、すぐに一人の大男の姿を目にした。

軍服を身にまとい、鍛え上げられた筋肉を持つ大柄な男性。

その迫力は、十歳の少年少女が向き合うには相当に強烈だった。

彼こそ、クチバジムのジムリーダー――マチスである。

マチスはシンヤを見るなり、豪快な声を響かせた。

 

 

「ヘーイ! ユーの名前はシンヤでOKカ?」

 

 

「イエス」

 

 

シンヤが答えると、マチスは満足そうに頷いた。

そして、突然深々と頭を下げた。

 

 

「……えっ?」

「え?」

 

 

シンヤとレンは、そろって目を丸くした。

ジムリーダーが、挑戦者にいきなりお辞儀をする。

しかも、あの迫力ある大男が。

二人が戸惑っていると、マチスは顔を上げ、真剣な眼差しでシンヤたちを見つめた。

 

 

「ユーたち、無人発電所での活躍は聞いているネ」

 

 

「ああ……あの件ですか」

 

 

シンヤは納得したように頷いた。

ロケット団が無人発電所を占拠し、伝説のポケモンであるサンダーを捕らえようとしていた事件。

そこでシンヤとレンは、傷ついた野生のポケモンたちを救い、ロケット団との戦いにも加勢したのだった。

 

 

「ミーのポケモンの中にも、あの発電所で育った者が何匹かいるネ。電気ポケモンたちがあそこで暮らしていたことも知っているヨ」

 

 

「そうだったんですね」

 

 

「ロケット団のような連中が、野生とはいえ電気ポケモンたちを苦しめていた……。それを思うと、私としても忍びないネ」

 

 

マチスの声から、先ほどまでの陽気さが少しだけ薄れる。

 

 

「私は元軍人ネ。戦争を生き抜いた経験がある。だからこそ、仲間を守ることや、弱い者が理不尽に傷つけられることの重さは知っているつもりヨ」

 

 

彼は腕を組み、少し遠くを見るような目をした。

 

 

「今でも時間があるときは、警察関係者に体術や組み手を教えることもあるネ。いざというとき、自分の身や仲間を守れるようにするためヨ」

 

 

マチスの豪快な振る舞い。

相手を挑発するような言葉遣い。

そして、挑戦者の実力を確かめようとする厳しい姿勢。

それらの背景には、戦場で生き残ってきた経験があるのだろう。

 

 

「だからこそ、ユーたちが発電所のポケモンを助けてくれたことには感謝しているネ」

 

 

シンヤは少し困ったように笑った。

 

 

「いえ、俺たちは困っているポケモンたちを助けただけですよ」

 

 

「私も同じですわ。傷ついたポケモンたちの手当てをしただけですもの」

 

 

レンも穏やかに続ける。

マチスは二人の顔を交互に見たあと、豪快に笑った。

 

 

「ハッハー! 今時のリトルボーイ&プリティガールにしては、できた心構えだな!」

 

 

「はは……」

 

 

「ふふっ」

 

 

二人は少し照れくさそうに笑った。

しかし、次の瞬間。

マチスの眼差しが、ジムリーダーとしての鋭さを帯びる。

 

 

「ところで、ボーイの実力はハナダのジュンサーから聞いているネ」

 

 

「ジュンサーさんから?」

 

 

「ユーは新人にしては、かなりの実力を持っているそうだネ。しかも、無人発電所では強力なポケモンたちを率いて戦ったと聞いているヨ」

 

 

マチスはニヤリと笑った。

 

 

「だから、今回は少し特別にするネ」

 

 

「特別、ですか?」

 

 

「そう。駆け出しのトレーナーに出すには、すこーしストロングなメンバーになるけど……アーユー、オーケー?」

 

 

レンがシンヤを見る。

普通なら、ここで少し考えるところだろう。

相手は電気タイプのジムリーダー。しかも、相手側のポケモンが通常より強いというのなら、なおさらだ。

だが、シンヤは即答した。

 

 

「イエス」

 

 

「グッド! それでこそチャレンジャー!」

 

 

マチスは満足そうに笑った。

こうしてシンヤのクチバジム戦は、本来の想定よりも難易度を上げた状態で始まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 第一試合!フシギダネVSマルマイン

 

 

「バトル形式はスリー・オン・スリー! 交代できるのはチャレンジャーのみネ!」

 

 

「了解です」

 

 

シンヤはフシギダネの入ったモンスターボールを手に取った。

マチスの一匹目は――。

 

 

「カモン! マルマイン!」

 

 

ボールから現れたのは、白と赤の球体のポケモン、マルマインだった。

その身体からは、いつでも電撃を放てるような緊張感が漂っている。

 

 

「フシギダネ、頼んだぞ!」

 

 

「ダネフシ!」

 

 

フシギダネがフィールドへと飛び出した。

草タイプのフシギダネに対し、相手は電気タイプ。

一見すると不利な組み合わせではない。むしろ、地面に根を張るような戦い方ができれば、フシギダネにも十分な勝機がある。

だが、マルマインは素早さに優れたポケモンだ。

 

 

「マルマイン! スピードで攻めるネ! 走り回るヨ!」

 

 

マルマインはフィールドを縦横無尽に駆け回った。

 

 

「速い……!」

 

 

レンが思わず声を漏らす。

マルマインは直線的に走るだけではない。急に方向を変え、フシギダネの側面や背後へと回り込む。

フシギダネがつるのムチを伸ばしても、攻撃は空を切るばかりだった。

 

 

「フシギダネ、追いかけるな! 相手の動きを見ろ!」

 

 

「ダネ!」

 

 

シンヤはフシギダネの視線とマルマインの走行ルートを交互に観察する。

速い。

しかし、どれほど速度があろうとも、進行方向を変える際にはわずかな癖が生じる。

そしてマルマインは、攻撃の直前に必ずフシギダネの正面を通過するように動いていた。

 

 

「よし……フシギダネ! マルマインの進路に、やどりぎのタネ!」

 

 

「ダネフシッ!」

 

 

フシギダネがタネを発射した。

だが、マルマインはすぐさま方向を変え、難なく回避する。

 

 

「ハッハー! その程度では当たらないネ!」

 

 

マチスは笑う。

しかし、シンヤは動じなかった。

 

 

「まだだ! 次の進路を狙え!」

 

 

フシギダネがもう一度、やどりぎのタネを放つ。

マルマインはそれも回避した。

 

 

 

 

――その瞬間。

 

 

 

 

「今だ!」

 

 

シンヤの声が響いた。

最初に放ったやどりぎのタネが、マルマインの進行方向の先に残っていたのだ。

回避したことで一瞬だけ減速したマルマインは、時間差で伸びてきたツルに絡め取られた。

 

 

「マルマイン!」

 

 

「よし! フシギダネ、ねむりごな!」

 

 

フシギダネが胞子を放つ。

拘束されたマルマインは十分に逃げることができず、眠りの粉を浴びて動きを止めた。

 

 

「ここで決めるぞ! せいちょう!」

 

 

フシギダネの身体が光を帯び、力が高まっていく。

 

 

「最後は、つるのムチ!」

 

 

二本のツルがしなり、眠ったマルマインへと叩きつけられた。

マルマインの身体が大きく弾み、フィールドの上に転がる。

審判役のジムトレーナーが確認した。

 

 

「マルマイン、戦闘不能! 勝者、フシギダネ!」

 

 

「ダネフシッ!」

 

 

フシギダネが嬉しそうに鳴く。

 

 

「ナイスファイト、フシギダネ!」

 

 

シンヤが褒めると、フシギダネは胸を張った。

マチスは腕を組んだまま、やがて大きな拍手を送った。

 

 

「ブラボー! 相手の動きを観察し、進路を予測して罠を張る……新人とは思えない戦い方ネ!」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「だが、次も同じようにいくとは限らないヨ!」

 

 

マチスは二匹目のボールを手にした。

 

 

「カモン! レアコイル!」

 

 

フィールドに現れたのは、三つのコイルが結合したような姿のポケモン。

その身体から発せられる磁力と電気が、周囲の空気を震わせた。

シンヤは表情を引き締める。

フシギダネはまだ戦える。

だが、次の相手がどんな戦い方をするのかは、実際に見なければわからない。

 

 

「フシギダネ、引き続き頼むぞ!」

 

 

「ダネ!」

 

第二試合が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 第二試合!フシギダネVSレアコイル

 

 

「レアコイル! まずは足元を狙うネ! 10万ボルト!」

 

 

「コイルッ!」

 

 

レアコイルから放たれた電撃が、フシギダネの足元へと叩きつけられた。

 

 

「フシギダネ、跳べ!」

 

 

フシギダネは反射的に跳び上がった。

だが、地面に電撃が炸裂し、激しい煙が舞い上がる。

視界が遮られた。

 

 

「くっ……!」

 

 

シンヤが次の指示を出そうとした、そのとき。

 

 

「レアコイル! トライアタック!」

 

 

煙の向こうから、三つの異なる色のエネルギーが飛来した。

 

 

「なっ……!」

 

 

フシギダネが反応するよりも早く、三つのエネルギーが命中する。

 

 

「ダネェッ!」

 

 

フシギダネが地面へと落下した。

さらに、その身体がビリビリと震え始める。

 

 

「麻痺状態……!」

 

 

レンが息を呑んだ。

マチスは容赦なく次の指示を飛ばす。

 

 

「レアコイル! もう一度トライアタック!」

 

 

「コイルッ!」

 

 

三色のエネルギーが再び集束する。

フシギダネは麻痺によって動きが鈍っている。回避を指示しても、間に合わない可能性が高い。

シンヤは一瞬で判断した。

 

 

「フシギダネ! 攻撃を受ける直前に、やどりぎのタネを撃て!」

 

 

「ダネフシッ!」

 

 

フシギダネは震える身体を必死に動かし、タネを発射した。

直後、トライアタックが直撃する。

 

 

「ダネェェッ!」

 

 

フシギダネはその場に倒れた。

一方、やどりぎのタネはレアコイルに絡みつき、養分を吸い取り始めていた。

 

 

「フシギダネ、戦闘不能!」

 

 

審判の宣言が響く。

シンヤはすぐにフシギダネのもとへ駆け寄った。

 

 

「よく頑張ったな、フシギダネ。最後まで諦めずに、ちゃんと仕事をしてくれた」

 

 

「……ダネ」

 

 

フシギダネは小さく鳴いた。

シンヤはその身体をそっと抱き上げ、モンスターボールへ戻した。

 

 

「ゆっくり休んでくれ。あとは任せろ」

 

 

ボールを握りしめ、シンヤは静かに息を吐いた。

 

 

 

 

 

――手持ちのポケモンが、相手の攻撃によって完全に戦闘不能になる。

 

 

 

 

 

これまでの旅では、交代や相手の隙を突くことで、誰かが倒れる前に戦いを終わらせることが多かった。

だからこそ、改めて実感する。

ジムリーダーとの戦いは、野生のポケモンや一般トレーナーとの戦いとは違う。

相手もまた、長年ポケモンを鍛え上げてきた実力者なのだ。

 

 

「……さて」

 

 

シンヤは顔を上げた。

 

 

「ニドキング、頼む!」

 

 

「ニドォォキング!」

 

 

巨大な角を持つニドキングが、力強くフィールドへと降り立った。

その姿を目にした瞬間、マチスの表情が変わった。

 

 

「……ホウ?」

 

 

先ほどまでの陽気な笑顔が、わずかに引き締まる。

ニドキングの体格。

鍛え上げられた身体。

そして、シンヤの指示を待つその落ち着き。

どれも、ただ経験値を積んだだけのポケモンとは違っていた。

 

 

「ユー……そのニドキング、かなり鍛えているネ」

 

 

「ええ。頼りになる古参の一匹です」

 

 

シンヤは笑みを浮かべた。

 

 

「さあ、ここから巻き返すぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ニドキングVSレアコイル――捨て身の戦術

 

 

「レアコイル! ソニックブーム!」

 

 

「ニドキング、かわして接近! メガホーン!」

 

 

ニドキングは地面を蹴り、レアコイルへと突進する。

しかし、レアコイルはニドキングを引きつけるように移動した。

その身体には、まだフシギダネが仕掛けたやどりぎのタネが絡みついている。

少しずつ養分を奪われ、レアコイルの動きも鈍り始めていた。

 

 

「よし、そのまま押し切れ!」

 

 

ニドキングが角を突き出す。

レアコイルは攻撃を受ける寸前、ニドキングの間合いへと踏み込んだ。

 

 

「レアコイル――だいばくはつネ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 

次の瞬間。

閃光。

轟音。

 

 

 

そして、フィールド全体を揺るがす爆発が巻き起こった。

 

 

「きゃっ!」

 

 

レンが思わず顔を覆う。

爆風が吹き荒れ、観客席の人々もざわめいた。

シンヤは目を見開く。

 

 

「まさか、だいばくはつ……!」

 

 

煙がゆっくりと晴れていく。

そこには――。

目を回して倒れているニドキングと、同じく戦闘不能となったレアコイルの姿があった。

 

 

「ニドキング、レアコイル、両者戦闘不能!」

 

 

審判の宣言が響く。

シンヤはしばらく二匹を見つめていたが、やがて納得したように頷いた。

 

 

「……なるほど。そう来ましたか」

 

 

マチスは腕を組み、堂々と言い放つ。

 

 

「言ったはずネ。今回は難易度を上げると!」

 

 

「はい」

 

 

「ジムリーダーは挑戦者のレベルに合わせて、使用するポケモンやその強さを調整できるネ。今回のレアコイルは、普通の新人トレーナーに出す相手よりも強いヨ」

 

 

マチスはレアコイルのモンスターボールを手に取った。

 

 

「そして、やどりぎのタネでダメージを受け続けていたレアコイルは、長く戦えない状態だったネ。ならば、相手を道連れにしてでも勝負を終わらせる。それも一つの戦術ヨ」

 

 

シンヤは静かに頷いた。

確かに、理にかなっている。

レアコイルがそのまま戦い続ければ、やどりぎのタネによって徐々に体力を奪われ、ニドキングに押し切られる可能性が高かった。

 

 

だからこそ、最後に残された手段として、だいばくはつを選んだのだ。

自分のポケモンを失う危険を承知で、相手も戦闘不能にする。

それは、勝つための覚悟を伴う戦術だった。

 

 

「……勉強になります」

 

 

シンヤは真剣な表情で答えた。

 

 

「フシギダネのやどりぎのタネが、結果的にレアコイルを追い詰めていた。ですが、相手もその状況を利用して、こちらの戦力を削ってきたわけですね」

 

 

「その通りネ!」

 

 

マチスは嬉しそうに笑った。

 

 

「ユーは負けた戦いからも学べるようだネ。グッド!」

 

 

シンヤはニドキングをボールへ戻した。

 

 

「よく頑張った、ニドキング。相手も強かったな。ゆっくり休んでくれ」

 

 

残るポケモンは一匹ずつ。

マチスの最後のポケモンも、シンヤの最後のポケモンも、まだフィールドには姿を見せていない。

そして、シンヤの最後の一匹は――。

 

 

「……リザード」

 

 

シンヤは、相棒のボールを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ 最終試合!リザードVSライチュウ

 

 

「ラスト・バトルネ!」

 

 

マチスが三つ目のボールを掲げた。

 

 

「カモン! ライチュウ!」

 

 

まばゆい光の中から現れたのは、オレンジ色の身体に長い耳、そして大きな電気袋を持つポケモン――ライチュウだった。

その身体からは、強烈な電気エネルギーが放たれている。

 

 

「ピカチュウの進化形……!」

 

 

レンが息を呑んだ。

シンヤもライチュウを見据える。

ゲームで知っているライチュウ。

アニメで見たことのあるライチュウ。

 

 

しかし、目の前にいる個体は、そのどちらの印象とも少し違っていた。

電気の放出量だけではない。

足運び、視線、構え、そして戦いに臨む集中力。

どれを取っても、並のポケモンではなかった。

 

 

「……これは、強いな」

 

 

シンヤは小さく呟いた。

 

 

「ユーの最後のポケモンは、リザードだったネ?」

 

 

「はい。俺の相棒です」

 

 

「ならば、こちらも全力で迎え撃つヨ!」

 

 

マチスが腕を振り上げる。

 

 

「ライチュウ! 10万ボルト!」

 

 

「リザード、回避しろ!」

 

 

ライチュウの身体から強烈な電撃が放たれる。

リザードは横へ跳び、紙一重で攻撃をかわした。

 

 

「そのまま接近! ドラゴンクロー!」

 

 

リザードの爪が青白い光を帯びる。

 

 

 

だが――。

 

 

「ライチュウ、あなをほる!」

 

 

ライチュウは一瞬で地面へと潜り込んだ。

 

 

「何っ!?」

 

 

リザードのドラゴンクローが空を切る。

次の瞬間、ライチュウはリザードの背後から飛び出した。

 

 

「10万ボルト!」

 

 

「リザード、受け流せ!」

 

 

リザードは身体をひねり、直撃を避ける。

それでも電撃の一部が身体をかすめ、火花が散った。

 

 

「リザード!」

 

 

「ガアァッ!」

 

 

リザードは踏みとどまり、すぐさま反撃の構えを取る。

 

 

「ニトロチャージ!」

 

 

炎をまとった身体がライチュウへ迫る。

しかし、ライチュウは軽やかに跳び退いた。

その動きに、マチスが目を見張る。

 

 

「オー……! そのリザード、予想以上に速いネ!」

 

 

炎と電撃が交差する。

リザードは接近戦で押し込もうとし、ライチュウは距離を取りながら電気技を放つ。

だが、リザードの機動力はマチスの予想を超えていた。

 

 

「リザード、ニトロチャージ!」

 

 

リザードの身体が炎に包まれる。

加速しながらライチュウへと突進するリザード。

 

 

「ライチュウ、あなをほるでかわすネ!」

 

 

ライチュウは再び地中へ潜ろうとした。

しかし――。

 

 

「読んでるぞ! リザード、地面にドラゴンクロー!」

 

 

「ガアッ!」

 

 

リザードはライチュウが潜ろうとした地面へ、ドラゴンクローを叩きつけた。

土が跳ね上がる。

ライチュウは完全に潜り切る前に動きを止め、横へと飛び退いた。

 

 

「ナイス判断ネ!」

 

 

マチスは笑った。

 

 

「だが、まだまだ!」

 

 

「ライチュウ! かみなり!」

 

 

「リザード、横へ回り込め!」

 

 

空気を震わせるほどの電撃が落ちる。

リザードはその直撃を避けるため、全速力で駆けた。

電撃がフィールドを焦がす。

 

 

その余波だけでも、並のポケモンなら動きが止まっていたかもしれない。

だが、リザードは止まらない。

 

 

「ドラゴンクロー!」

 

 

今度こそ、攻撃がライチュウへと迫った。

ライチュウも迎撃しようと電撃をまとい、両者が激突する。

衝撃音がジム内に響き渡った。

 

 

「すごい……」

 

 

レンは思わず両手を握りしめていた。

どちらも一歩も引かない。

炎が舞い、電撃が弾け、土煙が上がる。

 

 

シンヤはリザードの動きを見ながら、ライチュウの攻撃パターンを分析していた。

強い。

間違いなく強い。

これまで戦ってきたポケモンとは、明らかに違う。

おそらく、アニメで見たライチュウと比べても、相当に鍛え上げられた個体なのだろう。

そして、シンヤ自身も認めざるを得なかった。

現在の手持ちで最高レベルを誇るリザードですら、簡単には押し切れない。

 

 

「……レベルも、かなり近いのか?」

 

 

そう考えた瞬間、シンヤは小さく笑った。

ここまでの相手を用意してくれたマチスには、感謝すら覚える。

これほどの実力者と戦える機会は、そう多くない。

 

 

「リザード!」

 

 

「ガアッ!」

 

 

「まだいけるな?」

 

 

リザードは一度だけシンヤを振り返り、力強く頷いた。

その目には、闘志が燃えている。

シンヤも頷き返した。

 

 

「よし。最後まで全力でいこう!」

 

 

「リザード! かえんほうしゃ!」

 

 

リザードが炎を吐き、ライチュウへ向かう。

 

 

「ライチュウ、10万ボルト!」

 

 

電撃が正面から迫った。

リザードは直前で身体をひねり、電撃をかすめながらも前進する。

炎と電気がぶつかり合い、視界が白く染まった。

 

 

「今だ! ドラゴンクロー!」

 

 

リザードは全身の力を込め、爪を振り抜いた。

ライチュウが反応する。

だが、ほんのわずかに遅かった。

 

 

ドラゴンクローがライチュウの身体を捉え、強烈な一撃を叩き込む。

しかも、その一撃は――急所に入った。

 

 

「オー?! ライチュウッ!」

 

 

ライチュウはフィールドを滑るように吹き飛び、地面へと倒れ込んだ。

しばらくの沈黙。

やがて、審判が手を上げた。

 

 

「ライチュウ、戦闘不能! 勝者、リザード! よって、このバトルはチャレンジャー、シンヤの勝利!」

 

 

「……よっしゃあ!」

 

 

シンヤは思わず拳を握った。

 

 

「よくやった、リザード!」

 

 

「ガアァァッ!」

 

 

リザードは雄叫びを上げる。

その姿を見て、レンも満面の笑みを浮かべた。

 

 

「おめでとう、シンヤ! リザードも、本当にすごかったわ!」

 

 

「ありがとう、レン!」

 

 

一方、マチスは戦闘不能になったライチュウのもとへ歩み寄り、優しくボールへ戻した。

そして、シンヤへと向き直る。

 

 

「オー、ノー! ユーはストロング!」

 

 

マチスは大きな声で笑った。

 

 

「オッケー! オレンジバッジ、やるヨ!」

 

 

彼はバッジケースからオレンジ色のバッジを取り出し、シンヤへと差し出した。

シンヤは両手で受け取る。

 

 

「ありがとうございます、マチスさん!」

 

 

「ユーの戦い方、実に見事だったネ! 相手をよく観察し、状況に合わせて戦術を変える。そして、ポケモンを信じて最後まで戦う。ユーはまだまだ強くなるヨ!」

 

 

「……はい!」

 

 

シンヤは笑顔で頷いた。

クチバジムでの激闘。

フシギダネはマルマインを倒し、レアコイルとの戦いでは惜しくも戦闘不能になった。

ニドキングはレアコイルと相討ちとなり、最後はリザードがライチュウとの死闘を制した。

 

 

決して一方的な勝利ではなかった。

それでも、シンヤは勝った。

そして――。

これでシンヤは、三つ目のジムバッジとなるオレンジバッジを獲得したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ ジムを出たあと

 

 

「……ふう」

 

 

ジムを出たシンヤは、手の中のオレンジバッジを眺めた。

グレーバッジ、ブルーバッジ、そしてオレンジバッジ。

三つのバッジがそろった。

旅立ったばかりの頃には、まだ想像もできなかった景色だ。

 

 

「三つ目のバッジ、おめでとう。シンヤ」

 

 

隣を歩くレンが微笑む。

 

 

「ああ。ありがとう」

 

 

シンヤはバッジケースを閉じた。

 

 

「でも、今回のジム戦は本当に勉強になったよ。マチスさんのポケモンは、どの子もかなり強かった」

 

 

「そうね。特に最後のライチュウは、見ている私まで緊張してしまったわ」

 

 

「俺もだよ。リザードが勝てたのは、最後のドラゴンクローが急所に入ったのも大きい」

 

 

「運も実力のうち、ということかしら?」

 

 

「そういう面もあるけど、運だけじゃ勝てなかったと思う。リザードが最後まで諦めずに戦ってくれたからだよ」

 

 

シンヤは相棒のボールに手を添えた。

今回の戦いで、改めて思い知らされたことがある。

自分が知っているポケモンの情報や、波動の眼で得られる情報は、確かに大きな助けになる。

 

 

しかし、それだけでは勝てない。

相手にも経験があり、相手にも戦術があり、相手にも譲れないものがある。

だからこそ、戦いの中で考え、判断し、仲間とともに乗り越えていかなければならないのだ。

 

 

「……次も頑張らないとな」

 

 

「ふふっ。そうね。でも、今日は少し休んでもいいのではなくて?」

 

 

「そうだな。フシギダネもニドキングも、しっかり休ませないと」

 

 

「あなたもよ、シンヤ」

 

 

「え?」

 

 

「あなた、バトルになると夢中になりすぎるところがあるもの。ポケモンたちの体調を気遣うのなら、自分の体調も気遣わないと駄目よ?」

 

 

シンヤは一瞬、言葉に詰まった。

 

 

「……はい」

 

 

「よろしい」

 

 

レンは満足そうに微笑んだ。

こうして、シンヤは三つ目のバッジを手に入れた。

だが、クチバシティでの冒険は、まだ終わらない。

捕まえたばかりのスリープとディグダ。

 

 

新たに仲間となったポケモンたちの育成。

そして、次なる街へ向かうための準備。

シンヤの旅は、まだまだ続いていくのだった。

 

感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで

  • 出す。セキエイリーグから出す
  • 出さないか。ホウエンからでいいやろ
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