レンのポケモンたちとの特訓を重ね、少しばかり時間が経過した頃。
ついに、ポケモンだいすきクラブ主催のパーティー兼バトル大会の開催日がやってきた。
シンヤとレンは、クチバ港に停泊している豪華客船――サント・アンヌ号の前に立っていた。
「…………すごいわね」
レンが思わず感嘆の声を漏らす。
「これは……想像していた以上だな」
シンヤもまた、目の前にそびえ立つ船を見上げていた。
巨大な船体。磨き上げられた白い外壁。金色の装飾が施された手すりに、いくつもの甲板。そして、乗船客を迎え入れるために整列した係員たち。
豪華客船という言葉が、これほど似合う船もそうそうないだろう。
シンヤは自分の服装を見下ろし、隣にいるレンへと視線を向けた。
「まさか、十歳の子供二人だけでこんな船に乗ることになるとはな」
「ふふっ。シンヤ、今さら何を言っているの? あなた、自分から大会に参加するって決
めたのでしょう?」
「それはそうなんだけどな……」
「それに、あなたのお父様からいただいたチケットなのだから、堂々としていればいいのよ」
「違いない」
二人は顔を見合わせて笑うと、乗船受付へと向かった。
「チケットを拝見いたします」
係員にチケットを差し出すシンヤ。
レンも同じようにチケットを提示した。
係員は二枚のチケットを端末に読み込ませ、内容を確認していく。
「はい、確認いたしました。お二人ともポケモンだいすきクラブ主催パーティーへの招待客ですね。こちらが大会用の端末になります」
差し出されたのは、タブレットのような薄型の機器だった。
「大会の参加登録、ポイントの確認、対戦相手の情報確認などに使用できます。詳しい
ルールは、船内で主催者から説明がございます」
「ありがとうございます」
シンヤは端末を受け取った。
レンも受け取った端末を大切そうに抱える。
「それでは、どうぞ船内へ」
係員に見送られ、二人はサント・アンヌ号の中へと足を踏み入れた。
そして――。
二人の姿が見えなくなってから数分後。
「いやぁ、すごい船ですなぁ!」
「本当に! こんな立派な船に乗れるなんて、感激ですわ!」
別の二人組が受付にやってきた。
片方は丸みを帯びた体格の男性。もう片方は、どこか愛想のよい女性。
二人とも笑顔ではあったが、なぜか胡散臭さを感じさせる雰囲気があった。
「チケットを確認いたします」
「はい、こちらです!」
チケットを確認した係員は、問題がないことを確かめると二人を通した。
係員は特に不審に思うこともなく、次の乗船客の対応へ戻る。
二人組は顔を見合わせ、船内へと入っていった。
「……さて、と」
男が小さな声で呟く。
「今回は、うまくいくといいわね」
女もまた、笑顔のまま囁いた。
その正体を知る者は、まだ誰もいなかった。
◆豪華客船のパーティー
船内は、すでに多くの人々で賑わっていた。
ポケモンだいすきクラブの会員たちをはじめ、ポケモン関連の企業関係者、各地から招かれたゲスト、そして大会に参加するトレーナーたち。
広々としたホールには華やかな装飾が施され、テーブルには料理や飲み物が並んでいる。
ポケモンたちを連れている参加者も多く、あちらこちらから楽しげな声が聞こえてきた。
「まあ……! 見て、シンヤ。あちらのポケモン、とても綺麗に手入れされているわ」
「ああ。毛並みもいいし、表情も落ち着いている。トレーナーが普段から丁寧に世話をしているんだろうな」
「ふふっ、あなたらしい感想ね」
レンは微笑んだ。
彼女は大会の景品よりも、こうした場所で出会うポケモンたちに興味があるようだった。
もちろん、シンヤもポケモンたちを観察していた。
波動の眼を通じて見える情報だけではなく、実際の仕草や歩き方、トレーナーとの接し方にも目を向けている。
同じ種族でも、育ち方や経験によって個性は違う。
それを見つけることも、シンヤにとっては楽しみの一つだった。
やがて、パーティーの開催時刻が近づいた。
ホールの照明が少し落とされ、正面の壇上へ一人の男性が上がる。
少しぽっちゃりとした体格に、立派な髭。
彼はマイクを手に取ると、会場全体を見渡した。
「お集まりの皆さま! 本日は、我がポケモンだいすきクラブ主催のパーティー、そしてバトル大会にご参加いただき、心より感謝申し上げます!」
大きな拍手がホールに響き渡った。
「我々ポケモンだいすきクラブの会員は、日頃からポケモンを愛し、その魅力を見つけ、共に暮らすことを何よりの喜びとしております!」
会長は一度言葉を切り、壇上から参加者たちを見渡す。
「しかし! ポケモンの魅力は、愛でることだけにとどまりません!」
「共に走り、共に考え、時には困難に立ち向かう! バトルという真剣勝負の中でこそ、新たに見えてくる魅力もあるのです!」
参加者の中から、賛同する声が上がった。
「今回の大会では、ぜひ皆さまの大切なパートナーとともに、バトルを楽しんでいただきたい!」
再び拍手が起こる。
レンも拍手をしながら、壇上の会長を見つめていた。
その隣で、シンヤは大会用の端末を操作している。
やがて、会長が片手を上げた。
「それでは! 大会のルールについて説明いたしましょう!」
壇上の背後にあった壁が開き、巨大なスクリーンが姿を現す。
画面には、参加トレーナーたちの名前と、それぞれの名前の横に表示された数字が並んでいた。
その数字の後ろには、大きく『P』の文字。
「皆さまにお渡ししたタブレットにも、同じ情報が表示されているはずです!」
会長は説明を続ける。
「この『P』はポイントを表します! 大会中、バトルに勝利することでポイントが加算されていきます!」
画面の表示が切り替わった。
「そして! 大会終了時に最も多くのポイントを獲得していた優勝者には――!」
会長は懐から、金色に輝くカードを取り出した。
「こちら! ポケモンだいすきクラブ会員専用、特別利用許可証を贈呈いたします!」
会場から歓声が上がる。
「この許可証があれば、各地方にあるポケモンだいすきクラブ系列の施設を、特別に無料で利用できます!」
会長は指を一本ずつ立てながら説明した。
「ポケモンを癒やすもよし! ポケモンと一緒に買い物を楽しむもよし! 施設によっては、ポケモンとともに身体を鍛えることだってできます!」
「もちろん、利用できる施設の詳細は許可証をお渡しする際に説明いたします!」
そして、最後に力強く宣言した。
「ぜひとも、この特別な許可証を手に入れてください!」
会場の熱気が一段と高まった。
一方、シンヤは端末に表示された大会規則を読み進めていた。
参加者は、百人を優に超えている。
そして、ルールの中には見逃せない一文があった。
勝利数の多いトレーナーを相手に勝利した場合、より多くのポイントを獲得できる。
「なるほど……」
シンヤの口元に、自然と笑みが浮かんだ。
勝ち星の多い相手ほど、得られるポイントも多い。
ならば、どうするべきか。
答えは決まっていた。
「これは……連戦するしかないな。そして狙い撃ちもするし、されるか……」
「……シンヤ?」
隣のレンが、不穏な言葉を聞いて首を傾げた。
「何か思いついたの?」
「いや、少し大会の攻略法を考えていただけだよ」
「その顔は、絶対に何か考えている顔よね……」
レンは苦笑した。
シンヤの頭の中では、すでに大会の戦い方が組み上がりつつあった。
◆レンの目的
レンも端末に表示された規則を確認していた。
特に念入りに読み込んでいたのは、バトルの参加条件についてだった。
そこには、明確に記されている。
- バトルは参加者同士の合意があった場合のみ成立する。
- 相手が拒否した場合、バトルを強要してはならない。
- 無理やりバトルを仕掛けた者は、即刻大会から退場させる。
「……よかった」
レンは小さく息を吐いた。
彼女が今回の大会に参加する目的は、景品を手に入れることではない。
自分のポケモンたちに、実戦経験を積ませること。
サント・アンヌ号での大会参加を提案されたときは少し迷ったものの、発電所での事件を経験してから、レン自身もポケモンたちにもっと多くの経験を積ませたいと思うようになっていた。
けれど、だからといって勝利だけを求めているわけではない。
「レン?」
「大丈夫よ。バトルを無理強いされることはないみたいだから」
レンは微笑み、端末を胸元に抱えた。
「私は、あの子たちにいろいろな相手と戦う経験をさせてあげたいだけ。景品には興味がないもの」
「そうか。なら、お互いに目的は違っても、ここに来た意味はあるな」
「ええ。……ただし、あなたがどこまで暴走するのかは、少し心配だけれど」
「暴走って人聞きが悪いな」
「ふふっ。だって、あなたのことだもの」
レンは楽しそうに笑った。
シンヤは否定しようとしたが、先ほどから連戦の計画を立てていたことを思い出し、何も言い返せなかった。
「……まあ、ほどほどにはするさ」
「本当かしら?」
「本当だよ」
レンは、まだ少し疑わしそうな顔をしていた。
◆バトル大会、開幕!
会長が壇上で大きく手を広げる。
「それでは、皆さま!」
ホールに集まったトレーナーたちが、壇上へと注目した。
「ポケモンだいすきクラブ主催、サント・アンヌ号バトル大会――!」
一瞬の静寂。
「ただいまより、開始いたします!」
歓声と拍手が会場を包み込んだ。
同時に、スクリーン上の参加者情報が更新される。
大会の開始を告げる表示が現れ、参加トレーナーたちの端末にも通知が届いた。
シンヤは端末を確認し、満足そうに頷いた。
今回の大会では、一対一のシングルバトルから複数匹を使ったバトルまで、参加者同士が合意すればさまざまな形式で対戦できる。
一対一なら、勝利した場合に一ポイント。
二対二なら、バトル終了時に瀕死になっていないポケモンの数に応じて、最大二ポイント。
つまり、勝つだけではなく、いかに多くのポケモンを最後まで戦える状態に保つかも重要なのだ。
ポケモンの交代も自由。ただし、制限時間があるため、いつまでも交代を繰り返すわけにはいかない。
そして、相手の勝利数が多ければ多いほど、獲得できるポイントも増える。
「ふむ……一匹ずつの勝負だけでなく、複数匹でのバトルもあるのか。面白いな」
シンヤは右手を持ち上げた。
そこには、父マサユキが新たに開発したポケモン転送用グローブが装着されている。
軽く、動きを妨げない。それでいて、手にしっかりと馴染む確かな存在感。
まさか、受け取ったばかりの発明品が、こんなにも早く役立つことになるとは思わなかった。
シンヤはグローブを見つめ、心の中で父に感謝した。
(父さん、さっそく使わせてもらうよ)
現在、シンヤが所有しているポケモンは四十六匹。
そのすべてを同時にバトルへ出すことはできないが、戦闘の合間に別のポケモンを呼び出せるなら、回復の時間を確保しながら戦力を入れ替えていける。
もちろん、ポケモンたちの体力や状態を無視するつもりはない。
むしろ、これだけ多くのポケモンを育てているからこそ、適切な休息と回復を挟み、個々の成長につなげることが重要だった。
(実家で鍛えているメンバーもいる。まだ本格的なバトルに出していないポケモンも多い。なら、この大会は絶好の機会だ)
今回の大会では、実家で育成しているポケモンたちを中心に戦わせる。
ただし、毎回一匹は現在の主力メンバーを加える。
そうすることで、実家のポケモンたちに実戦経験を積ませながら、主力メンバーにも異なる相手との戦闘経験を積ませられる。
一石二鳥の作戦だった。
「よし……決めた」
シンヤは端末を操作し、大会参加の準備を整えた。
一方、レンも自分のポケモンたちの入ったモンスターボールを確認している。
「まずはラルトスから始めようかしら。それとも、マリルのほうがいいかしら……」
彼女は真剣に考え込んでいた。
今回の大会で、レンは勝利そのものよりも経験を重視する。
ラルトス、イーブイ、クチート、マリル。
それぞれの得意なこと、苦手なこと。どんな相手と戦えば新しい課題が見つかるのか。
それを一つずつ確かめていくつもりだった。
「レン、最初の相手は決まったか?」
「まだよ。あなたは?」
「もちろん」
シンヤは自信たっぷりに答えた。
「できるだけ多くの相手と戦う」
「……やっぱり、そうなるのね」
レンは額に手を当てた。
「あなた、さっきほどほどにするって言ったばかりでしょう?」
「ほどほどに連戦するつもりだぞ?」
「その言い方、全然安心できないわ!」
二人のやり取りを聞いていた近くの参加者が、思わず笑みを浮かべる。
そのときだった。
「おや、君たちも大会に参加するのかい?」
声をかけてきたのは、年配の男性トレーナーだった。
隣には、よく手入れされたウインディが座っている。
「はい。俺はシンヤ、こちらはレンです」
「シンヤ君に、レンさんか。私はポケモンだいすきクラブの会員でね。こういう大会には毎年参加しているんだよ」
男性はウインディの頭を優しく撫でた。
「この子と一緒に、いろいろなトレーナーと戦うのが楽しみでね。もちろん、勝つことも大事だが、それ以上に新しい発見があるのがいい」
「なるほど……」
シンヤはウインディを観察した。
堂々とした立ち姿。落ち着いた呼吸。トレーナーに撫でられると、目を細めて気持ちよさそうにしている。
長年連れ添ってきたパートナーなのだろう。
「よければ、最初の対戦相手になってくれないかね?」
男性がシンヤに尋ねた。
シンヤはすぐに頷いた。
「ぜひ、お願いします!」
レンは隣で小さく呟く。
「……始まったわね」
「何が?」
「あなたの連戦よ」
シンヤは聞こえなかったふりをして、男性とともにバトルスペースへ向かった。
こうして――。
シンヤの、サント・アンヌ号バトル大会における最初の戦いが始まろうとしていた。
四十六匹のポケモンを育てる少年。
そして、その手には父から託された新たな発明品。
この大会で、彼はどこまで勝ち進むのか。
その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。
◆サント・アンヌ号に潜むロケット団!
サント・アンヌ号で、ポケモンだいすきクラブ主催のバトル大会が始まった頃――。
華やかなパーティー会場から離れた、船内の倉庫。
積み上げられた木箱や荷物の陰で、先ほど乗船した丸みを帯びた体格の男性と、愛想のよい女性が密かに話し合っていた。
「さて、大会が始まったわけだが――――」
男性が周囲を見回しながら口を開く。
「大会が終わった後なら、ポケモンたちは疲労困憊。トレーナーたちも気が緩んでいるはずよ」
女性は腕を組み、ニヤリと笑った。
「つまり、奪いやすいってわけね。それに……」
彼女は指を一本立てる。
「ポケモンだいすきクラブ会員専用、特別利用許可証も手に入れるわよ!」
「おお! それがあれば、系列施設を無料で利用できるんだったな!」
「そうよ。ポケモンを奪って、許可証も手に入れる。一石二鳥じゃない!」
「ラッタ!」
二人は満足そうに頷いた。
しかし、その直後――。
「……ところで、コサブロウ」
「何だ、ヤマト?」
「貴方、その格好で本当に大丈夫なの?」
「はぁ? それを言うなら、お前のほうこそ怪しいだろうが!」
「なによ!?」
小声ながらも、言い争いを始める二人。
もっとも、ここで正体を知られるわけにはいかない。
二人は同時に、自分たちの服に手をかけた。
そして――。
シュバッ!
一瞬のうちに、先ほどまでの服装が変わる。
身にまとっていたのは、黒を基調とした制服。
胸元には、鮮やかな赤い文字。
『R』
そう、この二人の正体は――!
「世界のポケモンは、我らロケット団のもの!」
「ポケモンを奪い、組織の利益に変える! それが私たちの仕事よ!」
ロケット団のヤマトとコサブロウ!
二人は、船内の倉庫で堂々と名乗りを上げた。
……もっとも、聞いている者は誰もいない。
「よし、ヤマト。大会が終わるまでは、ここで待機だ」
「ええ。トレーナーたちが疲れ切ったところを狙うわ。バトルに参加しているポケモンも、回復中のポケモンも、まとめていただきよ!」
「ラッタ!」
二人は不敵に笑った。
彼らの計画は単純だった。
大会が終了し、トレーナーたちとポケモンが疲れたところを狙い、ポケモンを奪う。
さらに、優勝者に与えられる特別利用許可証まで手に入れるつもりだった。
しかし――。
彼らはまだ知らない。
この船には、数多くのポケモンを育て、相棒たちの状態を細かく把握する少年がいることを。
しかも、その少年は――。
「……さて、次は誰を出そうかな」
大会会場で、すでに次の対戦を考えている最中だった。
シンヤの右手には、父親が開発したポケモン転送用グローブ。
そして、その背後には、四十六匹ものポケモンたちを育ててきた経験がある。
果たして、ヤマトとコサブロウの計画は成功するのか。
それとも、思いもよらない相手に邪魔されることになるのか――。
サント・アンヌ号の大会は、まだ始まったばかりだった。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
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出す。セキエイリーグから出す
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出さないか。ホウエンからでいいやろ