「――――ゴルダック、戦闘不能! キングラーの勝ち! 勝者、シンヤ選手!」
審判の声が響き渡ると、観客席から大きな歓声と拍手が巻き起こった。
「グラァァッ!」
勝利したキングラーが、両方のハサミを高々と掲げる。
対するゴルダックは、トレーナーに支えられながらボールへと戻されていった。
「よく頑張ったな、キングラー。進化したばかりなのに、見事な戦いだったぞ」
「ゴキゴキ!」
シンヤが差し出した手に、キングラーは大きなハサミをそっと近づけた。
もちろん、挟まれないように細心の注意を払っている。
……進化したばかりのキングラーのハサミは、以前よりも明らかに大きく、そして力強くなっていた。
今回の戦いは、決して楽なものではなかった。
ゴルダックはサイコキネシスを巧みに操り、クラブの動きを封じたり、攻撃の軌道をずらしたりしてきた。クラブは何度も念力による攻撃を受け、そのたびに体勢を立て直して戦い続けた。
それでも、クラブは諦めなかった。
勝ちたい。もっと強くなりたい。
そんな気持ちが限界まで高まった瞬間、進化の光がその体を包み込んだのである。
進化によって増したパワーと、最後まで戦い抜こうとする意志。
その二つが、ゴルダックを上回る決め手となった。
「お疲れ様、キングラー。ゆっくり休んでくれ」
シンヤはキングラーをボールへ戻し、近くの回復装置へ向かった。
そして、ふうっと大きく息を吐く。
「ふぅ……」
ハナダシティのゴールデンボールブリッジで行った、あの連戦。
あれも相当なものだったが、今回の大会は別格だった。
何しろ、参加しているトレーナーの実力が高い。
単にポケモンのレベルが高いというだけではない。
相手の指示が的確なのだ。
こちらが技を繰り出すよりも早く、その狙いを察して回避行動を取る。攻撃を避けるだけでなく、こちらが次の行動に移ろうとする瞬間を狙って反撃してくる。
中には、ジムリーダーに挑戦する資格を持っていそうなエリートトレーナーまで混じっていた。
ゲームならば相手の行動パターンを覚え、技の相性や数値を考えれば有利に進められる場面もある。
だが、ここは現実のポケモン世界。
ポケモンたちは自分の意思で動き、トレーナーたちはその動きに合わせて瞬時に判断を下す。同じ技でも、使う場所やタイミングが違えば結果は変わる。
相手の技を利用するのは、シンヤだけではない。
相手もまた、シンヤのポケモンの癖や隙を見抜き、それを利用しようとしてくるのだ。
だからこそ、一戦一戦が濃密だった。
戦いを重ねるたびに、シンヤ自身の判断力も磨かれていく。
そして、ポケモンたちもまた、実戦の中で新たな動きや戦い方を身につけていた。
「……これで、船の中で戦わせるには危険なディグダと、進化に時間がかかりそうなポニータ、ベトベター。それから、進化アイテムを使う必要がある・船の中で戦うわせるのが危険なイワークなんかを除けば……」
シンヤは、回復装置に並ぶ自分のポケモンたちのボールを眺めた。
「ほとんど進化したか……」
そこで、ふと疑問が湧く。
(……なんか、みんな進化への躊躇がなさすぎないか?)
もちろん、全員が同じ理由で進化を望んだわけではない。
もっと強くなりたいと願う者もいれば、今の自分では届かない相手に勝つため、進化を選んだ者もいる。
それに、シンヤは進化を強制していない。
戦いの中で進化の兆候が見られたポケモンには、必ず本人の意思を確かめていた。
そのうえで、ほとんどのポケモンが迷いなく頷いたのである。
(まあ、本人たちが望んでいるならいいんだけどさ……)
進化は、単に体が大きくなったり、力が強くなったりするだけではない。
変化した体に慣れる必要もあるし、新しい力を制御するための訓練も必要になる。
だからこそ、進化したポケモンたちには、今まで以上に注意を払わなければならないだろう。
シンヤはそう考えながら、タブレットを取り出した。
そして、大会のランキング画面を確認する。
そこには、現在の獲得ポイントが表示されていた。
サント・アンヌ号大会・暫定ランキング
シンヤ
134 P
勝率100% 1位
レン
72 P
暫定2位
※大会中の暫定順位。参加者は100名以上。
「……うん。相変わらず、とんでもない数字だな」
自分で確認しておきながら、シンヤは少し遠い目をした。
この大会が始まってから、既に二十戦どころではない数のバトルをこなしている。
しかも、勝利を重ねるたびに、次の対戦相手が強くなっているような気さえした。
実際、連勝中のトレーナーや、何匹ものポケモンを育てているベテラントレーナーとの対戦では、獲得できるポイントも多い。
大会運営側としても、強いトレーナー同士がぶつかることを歓迎しているのだろう。
「……よし。少し休憩するか」
シンヤはドリンクを手に取り、食事の用意されたテーブルへ向かった。
さすがは豪華客船を貸し切って開催されている大会だ。
食事も飲み物も十分に用意されているし、船内の各所にはポケモン用の回復装置まで設置されている。
バトルに参加していない時間なら、トレーナーもポケモンも自由に休息を取れる仕組みになっていた。シンヤは料理を口に運びながら、回復装置に並ぶボールを確認する。
ポケモンたちの疲労が回復していることを確かめ、ようやく肩の力を抜いた。
(この大会、想像以上にいい経験になっているな……)
ただし、経験を積めるからといって、無理をさせていいわけではない。
疲労が残っているポケモンは、次のバトルに出さない。
進化したばかりのポケモンには、体の変化に慣れる時間を与える。
勝ち続けることよりも、ポケモンたちが健康で、楽しく強くなっていくことの方が大切だ。そこだけは、何があっても変えるつもりはなかった。
「――あ、シンヤ」
食事をしていたシンヤに、聞き慣れた声がかかった。
顔を上げると、そこにはレンが立っていた。
彼女の傍らには、ラルトス、イーブイ、マリル、クチートの四匹がいる。
「お疲れ、レン。そっちも終わったのか?」
「ええ。ちょうど一区切りついたところよ」
レンは四匹の頭を順番に撫でてから、それぞれのボールへ戻した。
そして、近くの回復装置にボールをセットする。
「よかった。シンヤ、休憩も取らずにずっと連戦しているんじゃないかと思っていたのよ」
「流石にそれはしないよ。ハナダのときより、参加しているトレーナーのレベルが高いからね。ちゃんと休まないと、俺もポケモンたちももたない」
「……よかった。シンヤもちゃんと人間だったのね」
「どういう意味だ、それ?」
思わず聞き返すシンヤ。
レンは、くすくすと笑った。
「だって、私と同い年なのに、体力も集中力も化け物じみているんだもの。私と同じ人間なのかしら、って思っていたのよ」
「失礼だな、おい」
「ふふっ。褒めているのよ?」
「絶対に褒めてないだろ……」
シンヤは呆れたように息を吐く。
とはいえ、レンも冗談だけで言っているわけではなかった。
シンヤの戦い方は、相手のポケモンの動きだけでなく、トレーナーの視線や指示の癖まで観察しているように見える。
さらに、手持ちのポケモンを次々に入れ替えながら戦っているにもかかわらず、その判断が鈍る様子もない。
普通なら、何十戦も続ければ集中力が落ちてくるはずだ。
それなのに、シンヤは今も冷静に状況を分析していた。
レンが驚くのも無理はなかった。
「それで、レンの方はどうだった?」
「そうねぇ……勝ち負けで言うなら、勝利が七割、敗北が三割くらいかしら」
「勝率七割!? それ、十分すごいぞ」
「あら、そう?」
レンは少し得意げに微笑んだ。
「もちろん、負けた試合もあるわ。相手のポケモンが想像以上に素早かったり、私の指示が遅れてしまったり……。あと、こちらの技を読まれて、逆に利用されたこともあったわね」
「なるほど。そこまで経験できているなら、参加した意味は十分にあるな」
「ええ。ラルトスたちも、以前よりずっと自信がついたみたい」
レンの表情が柔らかくなる。
今回の大会で、彼女はただ勝つことだけを目的にしているわけではなかった。
ラルトスたちがどんな相手と戦い、どんな状況で戸惑い、何を乗り越えればもっと強くなれるのか。
それを知るために、さまざまなトレーナーとのバトルを重ねていた。
ときには負けて悔しがり、ときには勝利して喜ぶ。
そうした経験の一つ一つが、彼女とポケモンたちの絆を深めていた。
「……ただね」
「ん?」
レンがタブレットを見せてくる。
「シンヤの勝率、やっぱりおかしいわよ」
画面には、シンヤの名前とともに勝率100%の表示。
「何よ、この勝率100%って……。しかも、ポイントが134って……」
「俺は父さんの発明品で手持ちをすぐに入れ替えられるからね。家で休んでいたポケモンも呼び出せるし、交代している間に別のポケモンを回復させられる。だから、バトルの回数をかなり重ねられるんだ」
「……それは知っているけれど、普通はそこまで戦い続けないと思うわ」
「まあ、そこは否定できない」
「ちなみに、何戦したの?」
「何戦……?」
シンヤは指を折りながら数え始めた。
一戦、二戦、三戦……。
途中で数え直し、さらに指を折る。
そして、ようやく答えた。
「今のところ……四十戦以上?」
「…………」
レンが固まった。
「……四十戦以上?」
「うん」
「……それで、まだ元気なの?」
「いや、さすがに疲れているぞ?」
「そういう問題じゃないと思うのだけれど……」
レンはこめかみに手を当てた。
ハナダのゴールデンボールブリッジで連戦した話は聞いていたが、今回はそれ以上だ。
しかも、対戦相手のレベルが高く、バトルごとの負担も大きい。
普通のトレーナーなら、数戦しただけでも十分に疲れるはずである。
「……それで、このポイントなのね」
「相手に手持ちの多い人が結構いたんだ。それに、連勝中の人や実力のあるトレーナーとの対戦も多かったから、獲得ポイントが高くなったんだと思う」
「なるほどね……」
レンは納得したように頷いたものの、すぐにシンヤのタブレットをもう一度見た。
「でも、これだけ勝っていると、他の参加者から目をつけられそうね」
「もうつけられているよ。さっきなんか、キングラーが進化したのを見て、何人ものトレーナーが対戦を申し込んできたし」
「ふふっ。大人気ね、シンヤ」
「嬉しいような、嬉しくないような……」
シンヤは苦笑した。
強いトレーナーと戦えること自体はありがたい。
だが、相手が次々に集まってくる状況は、さすがに予想していなかった。
もっとも、せっかくの機会だ。
体調とポケモンたちの状態に問題がなければ、できる限り多くの経験を積んでおきたい。
「……ところで、シンヤ」
「ん?」
「あなた、ポケモンをかなりたくさん持っているわよね?」
「ああ。今は四十六匹だな」
「四十六匹……。改めて聞くと、本当に多いわね」
レンは目を丸くした。
旅を始めてから、シンヤがさまざまなポケモンを仲間にしていることは知っていた。
それでも、四十六匹という数字には驚かされる。
「それだけいたら、進化するポケモンも多いでしょう?」
「そうだな。進化の石が必要なポケモンなんかは別として、戦いの中で進化できそうな奴らには、本人の意思を確認しているんだ」
「本人の意思?」
「うん。もっと強くなりたいか、進化したいかってね。そうしたら、ほとんどの奴が『する!』って答えたんだよ」
「ふふっ。みんな、シンヤに負けないくらい向上心があるのね」
「それもあるんだろうけど……」
シンヤは、回復装置の中で休んでいるポケモンたちのボールを見た。
「何匹かは、もう進化が近そうなんだよな」
「えっ、まだ進化するの?」
「うん。特にユンゲラーとゴーリキー、それからイワークあたりはね」
ユンゲラーとゴーリキー。
それぞれケーシィ、ワンリキーから進化したポケモンたちだ。
ゲームであれば、ユンゲラーとゴーリキーは通信交換によって進化する。
しかし、この世界では少なくとも、シンヤが知る限り通信交換による進化が一般的な仕組みとして存在している様子はなかった。
(サトシたちの冒険が終わるまで、通信進化に関する話はなかったんだよな……)
シンヤは前世の記憶を思い返す。
もちろん、アニメで描かれなかっただけという可能性もある。
だが、ゲームと同じ仕組みがすべて存在しているとは限らない。
この世界では、ポケモン自身の成長や意思、進化に必要な環境などが、ゲームとは違う形で関係しているのかもしれなかった。
(ユンゲラーとゴーリキーは、もう十分に経験を積んでいる。あとは本人たちが望むなら、何かきっかけがあれば進化できるのかもしれないな)
そして、イワーク。
こちらには、すでにメタルコートを持たせてある。
あとは、それを持った状態で十分に経験を積み、進化への準備が整うのを待つだけだ。
「イワークには、進化に必要そうな道具も持たせてあるんだ。あとは、どのタイミングで変化が起きるかだな」
「そうなのね……。シンヤのポケモンたちは、これからもどんどん強くなりそうね」
「まあ、本人たちが望むなら、できる限り力になってやりたいよ」
シンヤはそう言って笑った。
強くなりたいと願うポケモンがいる。
その願いを叶えるために、トレーナーとしてできることがある。
ならば、手を抜く理由などない。
ただし、無理をさせるつもりもなかった。
進化することだけが成長ではないし、今の姿だからこそできることもある。
大切なのは、それぞれのポケモンが自分にとって納得できる道を選べることだ。
「……ねえ、シンヤ」
「今度は何だ?」
「あなた、バトルをしているときと、ポケモンの話をしているときでは、ずいぶん雰囲気が違うのね」
「そうか?」
「ええ。バトル中はとても冷静で、相手の隙を見逃さない。でも、ポケモンの話になると、途端に優しい顔をするの」
「……そういうものかな」
「そういうものよ。ふふっ」
レンは楽しそうに笑った。
シンヤは少し気恥ずかしくなり、残っていたドリンクを飲み干す。
「……さて。そろそろ、次のバトルに行くか」
「あら、もう?」
「休憩は取ったし、ポケモンたちの回復も確認できたからな。もちろん、無理そうなら今日はここまでにするけど」
「ふふっ。シンヤらしいわね」
レンは回復装置からボールを取り出し、四匹を大切そうに抱えた。
「私も、もう少し頑張るわ。ラルトスたちには、まだまだ経験を積ませてあげたいもの」
「お互い頑張ろう」
「ええ!」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
そのとき、船内に設置された大型モニターが更新される。
暫定ランキングの上位には、相変わらずシンヤとレンの名前が並んでいた。
しかし、その下では別のトレーナーたちも着実にポイントを伸ばしている。
大会は、まだ終わらない。
シンヤはタブレットをしまい、次の対戦会場へと歩き出した。
その胸にあるのは、勝利への執着だけではない。
この大会で出会う強敵たちから、何を学べるのか。
そして、仲間たちはどこまで成長できるのか。
それを確かめるために、彼は再び戦いの場へ向かうのだった。
◆船底に潜む黒い影
サント・アンヌ号の華やかな宴会場から遠く離れた、薄暗い貨物室。
そこには、一般の乗客が立ち入ることのない区画があった。
「……おい、ヤマト。あのランキング、見たか?」
「ええ、見たわよ、コサブロウ」
二人の男女が、積み上げられた木箱の陰から船内モニターを覗き込んでいた。
丸みを帯びた体格の男と、愛想のよい笑みを浮かべる女。
だが、その正体はロケット団の団員、ヤマトとコサブロウだった。
再び変装した二人は、黒い制服に身を包んでいる。
「それにしても、シンヤって奴……とんでもないポイントね」
「四十戦以上して、いまだに負けなし、か。こいつがいるだけで、他の連中も盛り上がっているみたいだな」
「しかも、ポケモンを次々に入れ替えているって話よ。あれだけ手持ちが多ければ、奪えるポケモンも相当な数になるわね」
ヤマトは口元を歪めた。
「大会が終わる頃には、トレーナーもポケモンも疲れ切っているはずだ」
「その隙を突いて、一気に奪う……ってわけね」
「ああ。ポケモンを奪って、ついでに優勝者が手に入れる特別利用許可証もいただく。そうすれば、ロケット団の利益は計り知れない」
二人は顔を見合わせ、ほくそ笑んだ。
彼らはまだ知らない。
この船には、ポケモンの状態を細かく見極め、仲間の安全を第一に考える少年がいることを。そして、その少年が持つ道具が、彼らの計画を思いもよらない形で狂わせる可能性があることを。
「さあ、今は大人しく待ちましょうか」
「そうだな。獲物が疲れ切るまで、な……」
貨物室に、二人の不気味な笑い声が響いた。
華やかな大会の裏側で、ロケット団の魔の手が、静かに伸び始めていた。
だがこの2人はわかっていなかった。この大会で急激に成長を続けているあるポケモンの”怒”を買うことになろうとは。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
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出す。セキエイリーグから出す
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出さないか。ホウエンからでいいやろ