レンとリーフのポケモンバトルは、レンの圧勝に終わった。
四匹全員を倒され、悔しそうにポケモンセンターへと入っていったリーフ。その背中を見送ったシンヤとレンは、再びタマムシシティの街を歩き始めていた。
「それにしても、レン。ずいぶん強くなったな」
「ふふっ、当然よ。シンヤと一緒に旅をしているんですもの。ポケモンのことを勉強する機会も多いし、実戦経験だって積んでいるわ」
レンは少し得意げに胸を張った。
「それに……シンヤに褒めてもらえるのは、悪い気分じゃないもの」
「ん? 何か言ったか?」
「なーんにも♪」
レンは楽しそうに笑い、シンヤの腕に自分の腕を絡めた。
そんなやり取りをしながら歩いていた二人だったが、やがてシンヤの足がぴたりと止まった。
「……おお」
「どうしたの?」
レンがシンヤの視線を追う。
そこにあったのは、タマムシシティでもひときわ目立つ巨大な建物だった。
派手な看板に、きらびやかな装飾。入り口からは楽しげな音楽が流れ、次々と客が出入りしている。
建物の正面には、大きくこう書かれていた。
『タマムシゲームコーナー』
「……大きいわね」
「大きいな……!」
シンヤの目が輝いた。
前世の記憶にあるゲーム内の施設とは違い、目の前にあるのは実際に人々が遊びに来る娯楽施設だ。
ゲームの中では一つの建物として認識していた場所が、現実の世界ではこれほどの規模を誇っている。
それだけでも、シンヤにとっては感慨深いものがあった。
「ゲームコーナーっていうから、もっと小さな遊び場を想像していたわ」
「俺もだ。これは……なかなか気合が入ってるな」
「ふふっ。そんなに楽しみなの?」
「ああ。こういう施設は、どういう仕組みになっているのか気になるからな」
「シンヤの場合、遊ぶことよりも調べることが目的になりそうね」
「失礼な。ちゃんと遊ぶぞ?」
「はいはい♪」
レンはくすくすと笑った。
二人が入り口へ向かうと、スタッフが笑顔で迎えてくれた。
どうやら、このゲームコーナーは年齢制限などを設けていない、誰でも気軽に楽しめる健全な娯楽施設らしい。
中から聞こえてくるのは、ゲームの効果音と客たちの歓声。
シンヤとレンは、そのまま建物の中へと足を踏み入れた。
そして、入り口付近を見回したシンヤが、隣接する別の建物に気づく。
「ん? あっちにも何かあるな」
「あら、本当ね。景品交換所……かしら?」
ゲームコーナーの隣には、集めたコインをさまざまな景品と交換できる店が併設されていた。
二人はまず、どんな景品が用意されているのかを確認することにした。
ところが――。
「……えっ?」
景品の一覧を見たレンが、思わず声を上げた。
「ポケモンの絵と、必要なコインの枚数が書かれているのだけど?」
「……ポケモンが景品?」
シンヤも目を丸くした。
そこには、ポケモンの名前と必要なコインの枚数が並んでいた。
しかも、ぬいぐるみやグッズなどではない。
本物のポケモンが、交換景品として記載されているのだ。
「いやいやいや……」
シンヤは思わず額に手を当てた。
確かに、前世で遊んでいたゲームでも、このゲームコーナーではポケモンを景品として交換できた。
しかし、それはあくまでゲームの中の話だ。
実際に生きているポケモンが、景品として並べられているとなると話は別だった。
「……ちょっと、スタッフに聞いてくる」
「ええ、行ってらっしゃい」
シンヤは近くにいたスタッフへと歩み寄った。
「すみません。一つ聞きたいことがあるんですが」
「はい、何でしょうか?」
「この景品に書かれているポケモンって……本物ですよね?」
「もちろんです!」
スタッフはにこやかに答えた。
シンヤは一度、景品一覧へ視線を戻す。
そして、改めてスタッフを見た。
「……これは合法なんですか?」
「はい。合法ですよ」
「…………」
「まあ、必要なコインの枚数が多すぎて、今まで交換した人はいませんけどね!」
スタッフは笑顔のまま、あっけらかんと言い放った。
「ははは……」
シンヤは乾いた笑いを浮かべた。
なるほど。
法律上は問題ないらしい。
だが、だからといって納得できるかは別問題である。
生きたポケモンを、ゲームで集めたコインと交換する。
ポケモン自身の意思はどうなっているのか。交換された後、どのように扱われるのか。
気になる点はいくつもあった。
そして何より――。
(……待てよ)
シンヤの脳裏に、ある考えが浮かんだ。
前世のゲームでは、タマムシゲームコーナーはロケット団が運営していた。
地下には秘密基地があり、ゲームコーナーはその隠れ蓑になっていたはずだ。
だが、ここはゲームの世界ではなく、現実のポケモン世界。
前世の知識がそのまま当てはまるとは限らない。
「……そうですか。ありがとうございます」
シンヤはスタッフに礼を言うと、レンのもとへ戻った。
「何かわかった?」
「合法らしい。まあ、景品のポケモンを交換した人は今までいないそうだ」
「それは……なんだか複雑ね」
「まったくだ」
シンヤはゲームコーナーの内部へと視線を向けた。
「……少し、調べてみるか」
「調べる?」
「いや、こっちの話だ」
シンヤは何食わぬ顔で、ゲームコーナーの奥へと進んでいった。
レンも首をかしげながら、その後に続く。
店内は大勢の客で賑わっていた。
スロットマシンの前で真剣な表情を浮かべる者。
ポーカーの台を囲んで盛り上がる者。
コインを積み上げて喜ぶ子供たち。
その光景だけを見れば、どこにでもある普通の娯楽施設だった。
シンヤは店内を歩きながら、さりげなく壁や柱を確認していく。
ポスターの裏。
棚の陰。
従業員しか通らない通路の入り口。
前世のゲームで見覚えのある場所も、念のため調べてみた。
しかし――。
(……スイッチらしきものはないな)
壁を軽く叩いてみても、怪しい反応はない。
ポスターをめくってみても、隠しスイッチらしきものは見当たらない。
従業員用の通路も、普通に管理されているようだった。
少なくとも、ここから秘密基地に通じているような気配は感じられない。
(ふむ……)
シンヤは腕を組んだ。
(ロケット団とは関係なしか。前世の知識に引っ張られすぎるのもよくないな)
どうやら、このゲームコーナーは本当にただの娯楽施設らしい。
ならば、別の問題が残る。
シンヤは先ほど見た景品一覧を思い出した。
(……となると)
(元々、景品にされているポケモンは渡す気がない、ということだな?)
そもそも、今まで誰も交換したことがないほどのコインを要求しているのだ。
実質的に、交換できないようなものではないか。
合法だと言い張りながら、実際には手に入らない。
シンヤの表情から、すっと笑みが消えた。
そして――。
「……良かろう」
ぼそりと呟く。
「ならば、戦争だ」
その瞬間。
シンヤの目の色が変わった。
先ほどまで施設の構造を調べていた少年は、もうそこにはいない。
目の前のゲーム台を見つめるその眼差しは、まるで強敵を前にしたトレーナーのようだった。
ただし、相手はポケモンではない。
ゲームコーナーのコインである。
「……あー、うん」
レンは、シンヤの横顔を見て何かを察した。
「シンヤ?」
「……」
「長くなりそうなら、私は買い物をしてくるわよ?」
「……すまない」
シンヤは少しだけ我に返った。
「せっかく一緒に来たのに、付き合わせてしまって悪いな」
「気にしてないわよ。私も補充しておきたい化粧品があるし、ちょうどいいわ」
レンは微笑んだ。
「それに、シンヤが何かに夢中になると、なかなか止まらないことくらいわかっているもの」
「……否定できない」
「ふふっ。それじゃ、また後でね」
そう言って、レンはゲームコーナーを後にした。
シンヤはその背中を見送る。
そして、ゆっくりと視線を戻した。
その先には――。
ずらりと並んだスロットマシン。
「…………」
シンヤは静かに歩き出した。
「さて、と」
こうして、シンヤとゲームコーナーの長い戦いが始まった。
~二時間後~
「流石に、シンヤもそろそろ終わらせている頃よね?」
タマムシシティの商店街。
レンは両手に買い物袋を提げながら、ゲームコーナーへと戻ってきていた。
この二時間で、美容液や化粧品、日用品など、旅に必要な消耗品をしっかりと補充できた。肌の手入れに必要なものも揃ったし、ポケモンたちのケア用品も買い足せた。
実に有意義な時間だった。
「ふふっ。シンヤったら、どれくらいコインを集められたのかしら?」
レンは少し楽しげに笑いながら、ゲームコーナーの入り口をくぐった。
そして――。
「か、勘弁してください、坊ちゃん!」
「…………え?」
レンは足を止めた。
目の前では、ゲームコーナーのスタッフが床に手をつき、見事な土下座を披露していた。
その正面には、腕を組んで仁王立ちするシンヤ。
そして、その後ろには――見慣れないポケモンたちが何匹もいた。
「……えっと」
レンは、思わず瞬きをした。
「何があったの?」
近くにいた一般客に、そっと尋ねる。
すると、その客は呆れたような、それでいてどこか感心したような表情で答えてくれた。
「いやあ……最初は普通にスロットで遊んでいたみたいなんだけどね」
「スロット?」
「そう。それでコインを稼いでいたんだけど、途中で効率が悪いって気づいたらしくてさ」
「効率……?」
レンは嫌な予感がした。
「そこからポーカーに切り替えたんだよ」
客は遠い目をした。
「最初の手札で、いきなりキングのフォーカードを揃えたらしい」
「……えっ?」
「それで、ダブルアップに挑戦したんだ」
「ダブルアップ?」
「次に出るカードが、今のカードより高いか低いかを当てるゲームだよ。ここのポーカーは、連続で当てるたびにコインが倍になっていくんだ」
「なるほど……」
レンは頷いた。
そこまでは、普通のゲームの話だ。
問題は、その先だった。
「ただし、一度に挑戦できる回数には制限があってね。最大十回までなんだ」
「十回……」
「そう。ところが、この少年は――」
客は、シンヤの背中を指差した。
「十回全部、当てたんだよ」
「…………」
「しかも、それを何度も繰り返してるんだ」
「………………え?」
レンは固まった。
客は、もはや笑うしかないという顔で続けた。
「一回だけなら、運が良かったで済むんだけどね……。この二時間で、何度も何度もコインを上限まで増やしてるんだ」
「コインの上限って……?」
「九千九百九十九枚だよ」
「……九千九百九十九枚?」
レンはゆっくりとシンヤを見た。
そして、もう一度、客を見た。
「それを……何度も?」
「そう。上限に達したら景品と交換して、また遊んで、また上限に達して……。もう何回繰り返したのか、誰にもわからないよ」
「…………」
レンは口を開けたまま、しばらく動けなかった。
波動の眼で相手の動きを見極めるシンヤなら、ポケモンバトルで強いのはわかる。
知識も豊富だし、判断力もある。
しかし、今の話に出てきたのはポケモンバトルではない。
単なるカードゲームだ。
しかも、シンヤ自身が言うところの――。
「波動の眼とは何の関係もない、本人の直感」
それだけで、連続十回のハイ&ローを何度も成功させたというのか。
「……シンヤって、そんなに勘が良かったのね」
レンは呆然と呟いた。
すると、シンヤの背後にいたポケモンたちが、興味深そうにレンを見た。
その顔ぶれを見て、レンはさらに驚くことになる。
まず目に入ったのは、小さな水色の体に、丸い頭を持つポケモン。
「……ミニリュウ?」
その隣には、鋭い鎌のような腕を持つ緑色のポケモン。
「ストライクまで……!」
さらに、白く滑らかな体に、どこか機械的な雰囲気を持つポケモン。
「えっ……この子は?」
シンヤが振り返った。
「ポリゴンだ」
「ポリゴン……?」
レンは初めて見るポケモンに目を丸くした。
そのほかにも、立派な角を持つカイロスや、両手を大きく広げたバリヤードの姿がある。
そして、レンの目を引いたのは――。
「……イーブイ?」
三匹のイーブイだった。レンも手持ちに一匹いるので間違えるはずがない。
三匹ともよく似ているが、互いに寄り添う様子から、どうやら兄妹らしい。
一匹がシンヤの足元に近づき、もう一匹がその後ろを追いかけ、最後の一匹が二匹の間に割り込む。
まるで、離れたくないと言っているかのようだった。
「この子たちも……景品だったの?」
「ああ」
シンヤは頷いた。
「交換できる状態だったから、全員引き取った」
「全員って……」
レンは改めて、シンヤの背後を見渡した。
ミニリュウ。
ストライク。
ポリゴン。
カイロス。
バリヤード。
そして、三匹のイーブイ。
合計八匹。
どのポケモンも、それぞれに魅力がある。
特にミニリュウやポリゴンなどは、簡単に出会えるポケモンではない。
そんなポケモンたちが、まとめてシンヤのもとにいるのだ。
レンは思わず額に手を当てた。
「……一体、何枚のコインを使ったのよ」
「さあ?」
「さあ、じゃないでしょう!?」
珍しくレンの声が大きくなった。
シンヤは少しだけ肩をすくめる。
「正確な枚数は数えていない。上限に達したら交換して、また増やして……を繰り返したからな」
「それを二時間で!?」
「うん」
「うん、じゃないわよ……!」
レンは深く息を吐いた。
その間にも、スタッフは床に手をついたまま、必死にシンヤへと訴えていた。
「お願いです! これ以上、景品を持っていかないでください!」
「……は?」
シンヤは冷ややかな視線を向けた。
「しかもですね! ミニリュウもストライクもポリゴンも、うちの目玉商品なんですよ!?」
「ほう」
「交換されることなんて、想定していなかったんです! まさか、本当に交換する人が現れるなんて……!」
「…………」
「せめて、残りの景品だけは! うちの看板なんです! どうか、どうかご慈悲を!」
スタッフは、再び深々と頭を下げた。
シンヤは腕を組んだまま、しばらく沈黙した。
やがて、静かに口を開く。
「……それは、おかしな話だな」
「は、はい?」
「そちらが合法だと言った。コインを集めれば交換できるとも言った。俺はルールに従ってコインを集め、必要な枚数を支払ってポケモンを引き取った」
シンヤは、足元に寄り添う三匹のイーブイへ視線を落とした。
一匹が、シンヤの靴に頬を擦りつける。
その様子を確認してから、シンヤはスタッフへ視線を戻した。
「それなのに、交換されると困る?」
「そ、それは……」
「だったら最初から、交換できない景品にするべきだったんじゃないか?」
スタッフは何も言い返せなかった。
シンヤの言い分は、あまりにも正論だった。
景品としてポケモンを掲示し、交換に必要なコイン数を設定している。
ならば、客がその条件を満たして交換を求めたとき、店側がそれを拒むのは筋が通らない。
もちろん、実際の交換に際しては、ポケモンの状態や譲渡に必要な手続きなどを確認する必要はある。
だが、少なくとも「店の目玉商品だから」という理由だけで、交換した客に返せと迫るのはおかしい。
「……俺は、ポケモンが好きなんだ」
シンヤは静かに言った。
「だから、ポケモンを景品にすること自体に疑問を持った。だが、そちらは合法だと言ったし、交換できるとも説明した」
「…………」
「なら、俺はそのルールに従っただけだ」
「ううっ……!」
スタッフは、とうとう言葉を失った。
その様子を見ていたレンは、ふと苦笑した。
(……まあ、ポケモンを景品にしているのだから、シンヤが怒るのも仕方ないわね)
先ほどまでの呆れは、いつの間にか納得へと変わっていた。
シンヤは、ただ珍しいポケモンが欲しくて交換したわけではないのだろう。
少なくとも、目の前のポケモンたちを見れば、そう思えた。
ミニリュウはシンヤの隣に寄り添い、ストライクは周囲を警戒するように立っている。
ポリゴンはシンヤの顔を見上げ、カイロスは大きな鋏を動かしていた。
バリヤードは、まるでスタッフとシンヤの間を取り持とうとするように、両手を動かしている。
三匹のイーブイは、シンヤの足元で仲良く身を寄せ合っていた。
どのポケモンも、少なくとも今はシンヤのそばにいることを嫌がっていない。
「……シンヤ」
「ん?」
「その子たち、これからどうするの?」
レンの問いに、シンヤは少しだけ表情を和らげた。
「まずはポケモンセンターで状態を確認してもらう。そのあと、本人たちの様子を見て考えるよ」
「そう」
レンは微笑んだ。
「それなら安心ね」
「……ああ」
シンヤは頷くと、改めてスタッフへと向き直った。
「というわけで、交換の手続きについて確認したいことがある。あと、ポケモンたちの健康状態や、これまでの飼育環境についても説明してもらいたい」
「ま、まだ何かあるんですか!?」
「あるに決まっているだろう」
シンヤの声は、どこまでも冷静だった。
「この子たちを引き取った以上、今後の世話は俺が責任を持つ。そのために必要な情報は、可能な限り確認しておきたい」
「ううう……!」
スタッフは再び頭を抱えた。
その背中を見ながら、レンは小さく笑った。
「ふふっ……。本当に、シンヤらしいわね」
そして、買い物袋を持ち直すと、シンヤの隣へと歩み寄った。
「それじゃ、私も手伝うわ。ポケモンたちのケア用品なら、さっき買ってきたものが役に立つかもしれないし」
「助かるよ、レン」
「どういたしまして♪」
レンは三匹のイーブイへ視線を向け、そっとしゃがみ込んだ。
「初めまして。私はレンよ。これからよろしくね?」
三匹のイーブイは、揃って彼女を見つめた。
やがて、そのうちの一匹がレンの手に鼻先を寄せる。
「まあ……可愛い!」
レンの顔がぱっと明るくなった。
その隣で、シンヤはようやく小さく息を吐く。
こうして、タマムシゲームコーナーでの大騒動はひとまず収束へと向かい始めた。
しかし――。
景品として扱われていたポケモンたちを引き取ったことで、シンヤの手持ちと預かりポケモンの数は、またしても増えることになる。
しかも、その中には珍しいポケモンが何匹も含まれていた。
(……さて、これからどうするかな)
シンヤは、嬉しそうにレンへ甘えるイーブイたちを見下ろした。
新たな仲間たちとの旅は、まだ始まったばかりだった。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
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出す。セキエイリーグから出す
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出さないか。ホウエンからでいいやろ