◆サイクリングロードを駆け抜けろ!
「それじゃあ、出発するわよ。シンヤ♪」
「はいはい。ちゃんと掴まってろよ」
タマムシシティで借りた自転車。
その後ろにレンを乗せ、シンヤはサイクリングロードへと漕ぎ出した。
カントー地方でも有名なサイクリングロードは、海沿いの道を長く伸びている。自転車を楽しむトレーナーたちが行き交い、道中ではポケモンを連れた人々がバトルを楽しんでいた。
しかし、シンヤには寄り道をするつもりなどなかった。
「おっ、そこの君! ポケモンバトルをしないか!」
「悪い、先を急いでる!」
「そんなこと言わずにさ!」
「……仕方ないな」
シンヤはため息をつき、自転車を安全な場所に止めた。
「リザードン、頼む」
「グオオオオッ!」
ボールから現れたリザードンが、力強く翼を広げる。
「えっ、リザードン!?」
「バトルは受ける。けど、こっちも急いでるからな。短期決戦でいくぞ!」
その後、何人かのトレーナーから勝負を挑まれたが、シンヤはリザードンの力と経験を活かして手早く勝利を収めていった。
レンはその様子を後ろから眺め、くすりと笑う。
「ふふっ。シンヤったら、ずいぶん急いでいるのね」
「そりゃあ、セキチクまでまだ距離があるからな」
「そう? でも……」
レンはシンヤの背中へ、そっと身体を寄せた。
そして、彼の腰に回した腕に少しだけ力を込める。
「こうして二人で自転車に乗るのも、なかなか楽しいものよね?」
「――っ!?」
シンヤの身体が一瞬だけ硬直した。
背中に伝わる柔らかな感触。
耳元に届くレンの声。
そして、いつもよりずっと近い距離。
(待て待て待て待て! 落ち着け、俺! 今は自転車を漕ぐことに集中しろ!)
前世の記憶を持つ少年にとって、精神的な年齢と肉体年齢の差は、ときとして厄介な問題を引き起こす。
しかも、相手は自分でも可愛いと思っている少女なのだ。
(いや、これは仕方ないだろ!? こんなの意識するなっていうほうが無理だろ!)
「シンヤ? どうかしたの?」
「な、なんでもない!」
シンヤはペダルを踏み込んだ。
グンッ!
「きゃっ!?」
自転車が勢いよく加速する。
「ちょ、ちょっとシンヤ!? 速いわよ!?」
「大丈夫だ! このまま一気にセキチクまで行くぞ!」
「ふふっ、もう……!」
レンは楽しそうに笑いながら、シンヤの腰にぎゅっとしがみついた。
その結果。
17番道路、18番道路を通過する頃には、シンヤはほとんど最高速度で自転車を走らせていた。
野生のポケモンが姿を見せても、シンヤは目もくれない。
この辺りに生息するポケモンは、すでに必要なものを捕獲している。今は寄り道をする理由もなかった。
……いや。
正確に言えば、シンヤが必死にペダルを漕いでいた理由は、それだけではなかったのだが。
「ふう……。やっと着いたな」
「ええ、とっても速かったわね♪」
セキチクシティに到着した二人。
レンは涼しい顔で自転車から降りたが、シンヤは額に浮かんだ汗を拭った。
(……危なかった。いろいろな意味で)
「シンヤ?」
「なんでもない。それより、自転車を返却しよう」
「ええ♪」
レンは不思議そうに首を傾げたものの、深く追及することはなかった。
こうして二人はレンタル自転車を返却し、セキチクシティの街並みを見渡した。
広々としたサファリゾーン。
ポケモンだいすきクラブ系列の施設。
ポケモンセンター。
そして――セキチクジム。
シンヤは街の建物を一通り確認すると、目的の場所へ視線を向けた。
「まずはジムだな」
「着いたばかりなのに、もう行くの?」
「特に疲れてないしな。だったら、先にバッジを取っておきたい」
「ふふっ。シンヤらしいわね」
今回のジムリーダーは、毒タイプのエキスパート。
キョウ。
忍術を修めた忍者でもあるという、少々変わった人物だ。
「さて、今回は誰を連れていくか……」
シンヤは手持ちのポケモンたちを思い浮かべた。
セキチクジムの内部がどうなっているのかは分からない。だが、木造の建物であるなら、大型のポケモンを使うのは避けたい。
何より、炎技を無闇に使うのも危険だろう。
(今回はスピアー、エレブー、ピカチュウ。追加で一匹必要になるならフーディンかな)
スピアーは毒タイプ同士の戦いに対応できるし、エレブーとピカチュウは素早さと火力を兼ね備えている。
フーディンなら、相手の毒ポケモンに対してエスパー技で有利に立ち回れるはずだ。
もっとも、試合形式が3対3なのか、4対4なのかはまだ分からない。
「よし、行こう」
シンヤはレンとともに、セキチクジムへと足を踏み入れた。
◆セキチクジム、忍者屋敷の罠!
「……あ」
ジムの内部を見た瞬間、シンヤは思わず足を止めた。
木造の廊下。
薄暗い室内。
壁に飾られた忍具。
そして、いかにも怪しげな仕掛けの数々。
「そうだった。ここ、忍者屋敷だったな……」
「忍者屋敷?」
レンが興味深そうに辺りを見回す。
「ええ、なかなか凝った造りね。まるで迷路みたい」
「ゲームだと見えない壁とかが面倒だったんだよな……」
「げーむ?」
「いや、こっちの話」
シンヤは慌てて咳払いをした。
そのとき。
カチッ。
足元から小さな音が鳴った。
「……ん?」
ガコンッ!
「うわっ!?」
床の一部が傾き、シンヤの身体が大きくよろめいた。
さらに、廊下の奥から丸い物体がゴロゴロと転がってくる。
「マルマイン!?」
レンが目を見開く。
「おいおいおい! ジムの中に爆発物を転がしてくるな!」
シンヤはレンの手を取って横へ飛び退いた。
ドゴオオオオンッ!!
マルマインが爆発し、木造の廊下を激しく揺らす。
「……本当にジムか、ここ?」
「ふふっ。シンヤ、顔が引きつっているわよ?」
「当たり前だろ! 普通のジムなら、もう少し安全に進めるはずだ!」
「でも、忍者屋敷として考えれば、よくできていると思うわ」
「感心するところじゃない!」
そんなやり取りをしながら先へ進んでいくと、二人の前に一人の女性が姿を現した。
忍装束を身にまとい、身軽な動きで廊下に降り立つ。
「ここから先へ進みたくば、まずは私を倒してみなさい!」
「……トレーナーか」
女性は不敵な笑みを浮かべた。
「私はアヤ。キョウの妹にして、くノ一よ!」
(ああ、いたな……キョウの妹)
シンヤは心の中で頷いた。
「それでは、勝負よ! コンパン、行きなさい!」
アヤのボールから、コンパンが飛び出す。
「コンパァ!」
シンヤはすぐにボールを一つ取り出した。
「フーディン、頼む!」
「フーディン」
現れたフーディンは、両手にスプーンを持ち、落ち着いた様子で相手を見据えた。
「コンパン、ねんりきを使いなさい!」
コンパンの目が光り、念力がフーディンへと向かう。
しかし、フーディンはわずかに首を傾けただけだった。
「サイコキネシス」
フーディンの目が輝く。
次の瞬間、コンパンの身体が見えない力に包み込まれた。
「コンパッ!?」
そのまま宙へ持ち上げられ、勢いよく床へと叩きつけられる。
ドンッ!
コンパンは目を回し、その場に倒れた。
「こ、コンパン!?」
アヤが驚きの声を上げる。
「勝負あり、だな」
「……まさか、一撃で倒されるとは」
アヤはコンパンをボールへ戻し、シンヤをじっと見つめた。
「なるほど。あなたが噂の挑戦者ね。キョウ兄さんが待っているわ。さあ、先へ進みなさい!」
「ありがとう」
シンヤたちはアヤに見送られ、さらに奥へと進んでいった。
途中、何度か仕掛けに遭遇したものの、今度は慎重に進んだおかげで大きな問題にはならなかった。
そして――。
「よくぞここまでたどり着いたな」
低く落ち着いた声が、薄暗い室内に響いた。
目の前に立っていたのは、紫色の忍装束をまとった男。
鋭い眼差しに、隙のない立ち姿。
セキチクジムリーダー、キョウである。
「拙者がセキチクジムのジムリーダー、キョウだ。お前が挑戦者のシンヤで相違ないか?」
「ああ。バッジを懸けたポケモンバトルをお願いしたい」
「よかろう。忍の戦いは、力だけでは決まらぬ。相手の意表を突き、隙を見極め、勝機を掴むものだ!」
キョウは懐からボールを取り出した。
「今回は四対四。互いに四匹のポケモンを使用する。すべてのポケモンが戦闘不能になった側の負けとするでござる!」
「四対四か。分かった」
シンヤは用意していた三匹に加え、フーディンのボールを手に取った。
(よし。想定どおりだ)
「行くぞ! モルフォン!」
キョウのボールから、巨大な蛾のようなポケモンが現れた。
「モルフォオオン!」
「なるほど、まずはモルフォンか」
シンヤはスピアーのボールを掲げる。
「こっちも毒ポケモンでいこう。スピアー、出番だ!」
「スビーッ!」
二本の鋭い針を構え、スピアーが飛び立つ。
「ほう。毒タイプ同士の戦いを選ぶか」
「こっちにも理由があるんでね」
シンヤは静かに笑った。
「それじゃあ、始めよう!」
◆第一戦! スピアー対モルフォン!
「モルフォン、ねんりきを使え!」
モルフォンの目が輝き、見えない力がスピアーを捉えようとする。
「スピアー、こうそくいどう!」
スピアーは瞬時に加速し、念力の拘束から逃れた。
「そのまま接近しろ!」
「モルフォン、しびれごな!」
モルフォンの翅が震え、黄色い粉が周囲に散らされる。
「毒の粉だけじゃないか。状態異常を狙ってきたな!」
シンヤはスピアーの動きを目で追う。
モルフォンは空中を旋回しながら、しびれごなやねむりごなを撒き散らし、スピアーを近づけさせない。
同じく飛行能力を持つ毒ポケモン同士。
単純な突撃では、粉を浴びて動きを封じられる危険がある。
「スピアー、無理に正面から行くな! 粉の流れを見ろ!」
「ビーッ!」
スピアーは上昇し、風の流れに乗るように大きく旋回した。
モルフォンが粉を撒く方向を変えた瞬間、その背後へ回り込む。
「今だ! こうそくいどうで一気に潜り込め!」
スピアーが急降下した。
モルフォンは慌てて翅を羽ばたかせ、距離を取ろうとする。
だが、スピアーのほうが一歩速い。
「ドリルライナー!」
スピアーは身体を回転させ、鋭い針を前方へ突き出した。
「モルフォン、回避しろ!」
モルフォンが横へ逃げようとする。
しかし、スピアーは相手の進路を読んでいた。
回転する針がモルフォンの身体を捉え、そのまま勢いよく弾き飛ばす。
「モルフォオッ!?」
モルフォンは床へ落下し、動かなくなった。
「モルフォン、戦闘不能!」
審判役のジムスタッフが宣言する。
「よし、スピアー!」
シンヤが拳を握ると、スピアーは誇らしげに翅を震わせた。
キョウはモルフォンをボールへ戻し、静かに頷く。
「見事だ。粉技を恐れて距離を取るのではなく、風と相手の動きを利用して突破したか」
「スピアーは接近戦が得意だからな。持ち味を活かさないと」
「なるほど。では、次のポケモンで試させてもらおう」
キョウは二つ目のボールを投げた。
◆第二戦! エレブー対マタドガス!
「マタドガス、出ろ!」
紫色の煙をまとったマタドガスが現れる。
「ドガース……いや、マタドガスか」
シンヤは目の前の相手を見て、少しだけ表情を引き締めた。
マタドガスは防御力に優れ、毒技を得意とするポケモンだ。簡単に倒せる相手ではない。
「スピアー、戻れ。エレブー、頼む!」
「エレキィッ!」
エレブーが勢いよく飛び出し、両腕を構えた。
その目は、強敵と戦えることへの期待に輝いている。
(本当に強い相手と戦うのが好きになったな、こいつ……)
シンヤは苦笑した。
おそらく、きっかけは実家にいるコノヨザルだけではないな。今までの激戦で、エレブー自身が戦いの楽しさを覚えたのだろう。
「マタドガス、ヘドロばくだん!」
マタドガスの口から、紫色の毒液が勢いよく吐き出された。
「エレブー、横へ跳べ!」
エレブーは地面を蹴り、毒液を紙一重でかわす。
ヘドロばくだんが床に当たり、嫌な音を立てて飛び散った。
「近づかせないつもりか……!」
マタドガスは浮遊しながら毒液を連射し、エレブーの進路を塞いでいく。
「なら、距離を取ってみろ!」
キョウが指示を出した。
「かえんほうしゃ!」
「……は?」
シンヤの顔が固まった。
マタドガスの口から、猛烈な炎が噴き出す。
「いや、普通にかえんほうしゃしてきたぞ!?」
シンヤは思わず叫んだ。
「ここ、そんなに広くない木造建築なんだけど!? 燃えたらどうするんだよ!」
レンは観客席から口元を押さえ、くすくすと笑っている。
「ふふっ。シンヤ、相手はジムリーダーなのよ? そう簡単には燃えないようにしてあるんじゃないかしら」
「だとしても、もっとこう……あるだろ!」
しかし、文句を言っている暇はなかった。
「エレブー、十まんボルト!」
「エレキィィィッ!」
エレブーの全身から電撃が迸る。
雷光と炎が激突し、凄まじい衝撃が発生した。
バチバチバチッ!
ゴオオオッ!
二つの技は互いを押し返し、爆発するように弾けた。
煙が立ち込め、二匹の姿が見えなくなる。
「マタドガス、ヘドロばくだんで追い打ちだ!」
キョウの指示が飛ぶ。
「ドガアアッ!」
煙の中から毒液が飛び出した。
だが――。
「エレブー、前へ出ろ!」
「エレキィッ!」
エレブーは避けなかった。
毒液の軌道を見極め、身体をひねって紙一重でかわすと、そのまま煙の中へ突っ込んでいく。
「なっ!?」
キョウが目を見開いた。
「雷パンチ! 続けてかわらわりだ!」
エレブーの右拳に電撃が集中する。
バチバチバチッ!
「エレキィィィッ!」
脳天へ叩き込まれた雷パンチが、マタドガスの身体を大きく揺らす。
そのままエレブーは身体をひねり、反対の腕を振り抜いた。
「かわらわり!」
ドゴォンッ!
強烈な一撃がマタドガスを吹き飛ばした。
マタドガスは床を転がり、壁際で止まる。
「マタドガス、戦闘不能!」
「よっしゃ!」
シンヤは拳を握りしめた。
「よくやった、エレブー!」
「エレキィッ!」
エレブーは胸を張り、得意げに腕を振り上げた。
キョウはその姿を見つめ、静かに笑う。
「遠距離攻撃で追い詰めたはずが、煙を利用して接近してきたか。強気な戦い方だ」
「エレブーは、ああいうところがあるからな」
シンヤは肩をすくめた。
(それにしても、炎技を使うことに何の躊躇もないんだな、このジム……)
心の中でそう呟きながら、次のポケモンに備えた。
◆第三戦! ピカチュウ対アーボック!
「次はこいつだ。アーボック!」
キョウの三つ目のボールから、巨大な毒蛇ポケモンが姿を現す。
「シャアアアッ!」
アーボックは首元の模様を広げ、威嚇するように身体を持ち上げた。
「なるほど、アーボックか。ピカチュウ、頼む!」
「ピカァ!」
ピカチュウが床へ降り立ち、頬の電気袋を光らせた。
「アーボック、どくばり!」
無数の毒針が飛ぶ。
「ピカチュウ、右へ!」
ピカチュウは素早く横へ跳び、毒針をかわした。
「続けて、ようかいえき!」
アーボックが口から酸性の液体を吐き出す。
ピカチュウは身体を低くして潜り込み、床を蹴って一気に距離を詰めた。
「でんこうせっか!」
「ピカピカッ!」
ピカチュウの身体が稲妻のように走る。
しかし、アーボックも負けてはいない。
長い身体をくねらせ、ピカチュウの突進を紙一重でかわすと、尻尾を振り抜いた。
「アーボック、たたきつける!」
「ピカッ!?」
ピカチュウは尻尾の一撃を受け、床を滑る。
「ピカチュウ!」
だが、ピカチュウはすぐに立ち上がった。
「ピカァ!」
「いいぞ。相手の動きを止めようとするな。こっちから崩すぞ!」
シンヤは目を細めた。
「ピカチュウ、フラッシュ!」
「ピカァァッ!」
ピカチュウの身体が強烈に発光する。
薄暗い室内が一瞬、昼間のような明るさに包まれた。
「シャアッ!?」
突然の光に、アーボックが目を細める。
視界を奪われ、攻撃のタイミングを失った。
「今だ! 懐に飛び込め!」
ピカチュウは一気に距離を詰め、アーボックの身体をすり抜けるように走った。
そして、その腹部の近くで急停止する。
「零距離、十まんボルト!」
「ピカチュウウウッ!!」
バリバリバリバリッ!!
至近距離から放たれた電撃が、アーボックの身体を包み込んだ。
「シャアアアアッ!」
アーボックは激しく痙攣し、そのまま床へ倒れ込む。
「アーボック、戦闘不能!」
「よしっ!」
シンヤが笑顔を浮かべる。
ピカチュウは振り返り、得意げに頬を光らせた。
「ピカピカッ!」
「フラッシュで視界を奪ってからの零距離攻撃か……。なるほど、技の威力だけに頼らぬ戦い方だ」
キョウはアーボックをボールへ戻し、最後のボールを手に取った。
「だが、ここからが本番だ」
シンヤも表情を引き締める。
「最後の一匹……か」
キョウはボールを高く掲げた。
「現れよ、クロバット!」
◆最終戦! フーディン対クロバット!
「クロバット!」
四枚の翼を広げたポケモンが、天井近くへ舞い上がった。
その姿を見た瞬間、シンヤはわずかに目を見開いた。
「クロバット……!」
ズバットやゴルバットならともかく、クロバットはかなり素早いポケモンだ。
しかも、キョウのクロバットは動きに一切の無駄がない。
(なるほど。最後にこいつを出してきたか)
シンヤは一瞬考えたあと、苦笑した。
(……まあ、不思議じゃないか)
クチバジムでは、予想以上に強いライチュウが待ち構えていた。
タマムシジムでは、エリカが巧みな戦術でこちらを追い詰めてきた。
そして、今回のセキチクジムでは、最後にクロバット。
(クチバジムから始まって、明らかに俺だけジム戦の難易度が上がってないか?)
自分の旅を振り返り、そんな考えが頭をよぎる。
しかし、もはや驚く気持ちは薄れていた。
(……いや、もういいや。強い相手と戦えるなら、それでいい)
シンヤは最後のボールを構えた。
「フーディン、頼む!」
「フー」
フーディンが静かに姿を現す。
スプーンを両手に持ち、宙に浮かぶクロバットを見上げた。
「クロバット、つばさでうつ!」
「クロバッ!」
クロバットの姿が消えた。
いや、正確には、目にも止まらぬ速さで移動したのだ。
「速い……!」
レンが思わず声を漏らす。
クロバットはフーディンの側面へ回り込み、翼を振り抜く。
「フーディン、サイコキネシス!」
フーディンの目が光る。
しかし、技が発動するよりも早く、クロバットは視界の外へ飛び去っていた。
「くっ……!」
サイコキネシスは空を切る。
「クロバット、かみつく!」
今度は背後からクロバットが迫る。
フーディンは振り返ろうとしたが、間に合わない。
ガブッ!
「フーディ!」
クロバットは攻撃を当てると、すぐに距離を取った。
そのまま旋回し、再び攻撃の機会を窺う。
キョウは腕を組み、静かに告げた。
「クロバットの速さを侮るな。相手が技を繰り出す前に攻撃し、反撃の隙を与えぬ。それがこのポケモンの戦い方でござる!」
「なるほどね……」
シンヤはフーディンの様子を観察した。
クロバットは速い。こちらがサイコキネシスを使おうとしても、発動前に射程から逃げられてしまう。
ならば、技を当てることだけを考えていては勝てない。
(速さを封じる。まずはそこからだ)
シンヤはフーディンに視線を向けた。
「フーディン、でんじは!」
「フーディン!」
フーディンが両手のスプーンを交差させ、電気を帯びた波動を放つ。
「クロバット、回避しろ!」
クロバットは即座に旋回し、電磁波の軌道から逃れようとする。
だが――。
「そこだ!」
シンヤはクロバットの進行方向を見ていた。
フーディンが狙っていたのは、クロバットの現在位置ではない。
高速で飛び回るクロバットが、次に通る場所だった。
「フーディン、軌道を修正しろ!」
電磁波がわずかに角度を変え、クロバットの進路を塞ぐ。
「クロバッ!?」
電撃が四枚の翼を捉えた。
バチッ!
クロバットの身体が大きく震える。
「よし、当たった!」
クロバットはなおも飛び続けようとしたが、その動きは明らかに鈍くなっていた。
「クロバット、もう一度つばさでうつ!」
キョウが指示を出す。
クロバットはフーディンへ向かって突進する。
しかし、先ほどまでの速度はない。
「フーディン、サイコキネシス!」
今度は、逃げられない。
フーディンの目が強く輝き、クロバットの身体が見えない力に包まれた。
「クロバッ!?」
四枚の翼が動きを止める。
クロバットは空中で拘束され、身動きが取れなくなった。
「そのまま押さえろ!」
フーディンは両手のスプーンを握り締め、念力を強める。
クロバットは必死に身体をひねり、拘束から逃れようともがく。
しかし、麻痺によって動きが鈍った状態では、フーディンの念力を振りほどけない。
「これで終わりだ! サイコウェーブ!」
フーディンの周囲から、波打つような超能力のエネルギーが広がった。
その波動が拘束されたクロバットを包み込む。
ドォンッ!
衝撃とともに、クロバットの身体が床へ落ちた。
「クロバット、戦闘不能!」
審判の声が響く。
「勝者、挑戦者シンヤ!」
「よしっ! 勝ったな、フーディン!」
「フーディン!」
フーディンは落ち着いた様子でスプーンを掲げた。
その姿を見て、シンヤは満足げに頷く。
(相手の速さを上回る必要はない。速さを発揮できなくして、確実に技を当てる。それが今回の正解だったな)
キョウはクロバットをボールへ戻し、シンヤの前へ歩み寄った。
「見事な戦いだった。相手の速さに翻弄されることなく、冷静に弱点を見極めたな」
「クロバットが想像以上に速かったからな。普通に攻撃していたら、フーディンの技が当たらないと思ったんだ」
「だからこそ、でんじはで動きを鈍らせたか。相手の長所を封じる、理に適った戦術だ」
キョウは懐から小さなバッジを取り出した。
淡い桃色に輝く、セキチクジムの証。
「これを受け取るがいい。セキチクジムの勝者に与えられる、ピンクバッジだ!」
シンヤは両手でバッジを受け取った。
「ありがとう、キョウさん!」
手のひらに収まったピンクバッジを見つめ、シンヤは笑顔を浮かべる。
これで五つ目。
ニビシティのグレーバッジ。
ハナダシティのブルーバッジ。
クチバシティのオレンジバッジ。
タマムシシティのレインボーバッジ。
そして、今回のピンクバッジ。
旅立ってからさまざまな出来事があったが、確実に目標へ近づいている。
「シンヤ、おめでとう!」
レンが嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ふふっ、これで五つ目ね。順調じゃない?」
「ああ。みんなが頑張ってくれたおかげだよ」
シンヤはスピアー、エレブー、ピカチュウ、フーディンのボールを見つめた。
今回も、四匹それぞれが自分の役割を果たしてくれた。
スピアーは粉技を突破し、エレブーは煙の中から反撃を仕掛け、ピカチュウはフラッシュで相手の隙を作り、フーディンはクロバットの速さを封じた。
誰か一匹だけの力ではない。
全員の勝利だった。
「キョウさん、今日はありがとうございました」
「うむ。お主の戦い方には、まだまだ伸びしろがある。これからも己のポケモンを信じ、共に鍛えていくがよい」
「はい!」
シンヤは力強く返事をした。
こうしてシンヤは、セキチクジムを攻略。
五つ目のバッジとなる、ピンクバッジを手に入れたのだった。
そして次なる目的地は――セキチクシティにある、広大なサファリゾーン。
まだ見ぬポケモンたちとの出会いが、彼を待っている。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
-
出す。セキエイリーグから出す
-
出さないか。ホウエンからでいいやろ