セキチクシティの名所、サファリゾーン!
セキチクジムでキョウを破り、五つ目のバッジであるピンクバッジを手に入れたシンヤ。
その翌日。
「さて、と……今日はサファリゾーンだな!」
シンヤはセキチクシティの街並みを眺めながら、そう宣言した。
隣を歩くレンは、いつものように上品な笑みを浮かべている。
「ふふっ。昨日ジム戦を終えたばかりなのに、もう次の予定を決めているのね」
「せっかくセキチクまで来たんだからな。サファリゾーンは、この街の名所だし」
「それはそうね。珍しいポケモンがたくさん暮らしていると聞いたわ」
「そういうこと。しかも、普通の野生ポケモンとは違って、広い自然環境の中で暮らしているんだ。どんなポケモンに出会えるか、楽しみだよ」
シンヤはバッグの位置を確かめた。
今回はジム戦ではない。
珍しいポケモンを探し、普段とは異なる環境での生態を観察する。必要なら捕獲もするつもりだった。
もちろん、すでに捕まえたことのあるポケモンばかりなら、無理にボールを投げるつもりはない。
(とはいえ、まだ捕まえていないポケモンがいるなら、ぜひ会っておきたいところだな)
彼の頭の中では、カントー地方のポケモン図鑑が次々と開かれていた。
ゲームで知っているポケモンでも、実際にこの世界で出会うとなれば話は別だ。
図鑑の説明を読むだけでは分からないことがある。
どんな場所を好むのか。
何を食べるのか。
ほかのポケモンとどう関わるのか。
そして、どんな性格をしているのか。
それらを自分の目で確かめることも、シンヤにとっては旅の大きな楽しみだった。
「それじゃ、行こうか」
「ええ。今日はレンも一緒に楽しませてもらうわね」
二人は並んで歩き、サファリゾーンの入口へと向かった。
◆受付を済ませて、いざ出発!
サファリゾーンの入口は、多くの観光客やトレーナーで賑わっていた。
受付では、係員が訪問者たちに施設の説明をしている。
「ようこそ、サファリゾーンへ! 当施設では、自然に近い環境で暮らす野生ポケモンたちを観察できます。指定された区域内で探索をお楽しみください!」
「無論、ポケモンの捕獲などは可能なので是非、気に入ったポケモンをゲットしてみましょう!」
「ただし!注意点としてはポケモンバトルは禁止になっていますので注意を!」
「ゲットの際はサファリ専用のこの、サファリボールで捕獲をしてくださいね!」
シンヤとレンも受付を済ませ、施設の案内を受け取った。
「かなり広いな……」
案内図を見たシンヤが感心したように呟く。
草原、湿地、池、森林、岩場。
それぞれ異なる環境が用意されており、そこに暮らすポケモンたちも違うらしい。
「一日では全部回りきれないかもしれないわね」
「そうだな。でも、今日はまだ出会っていないポケモンを中心に探してみるつもりだ」
「シンヤのことだから、またたくさん捕まえるんじゃないかしら?」
「いやいや。出会ったからって、片っ端から捕まえるわけじゃないぞ?」
「本当かしら?」
レンは意味ありげに微笑んだ。
シンヤは苦笑する。
「……まあ、気に入ったポケモンがいたら話は別だけど」
「ふふっ、やっぱり♪」
そんな会話を交わしながら、二人はサファリゾーンの奥へと足を踏み入れた。
◆第一の出会い! 草むらのタマタマ
最初に二人が向かったのは、背の高い草が広がる区域だった。
風が吹くたびに草が揺れ、ところどころに木々が点在している。
「この辺りには、草タイプのポケモンが多いのかしら?」
「そうだと思う。地面も湿り気があるし、木陰も多いからな」
シンヤは周囲を見回しながら歩いていた。
すると、少し先の木の根元で、何かが動いた。
「ん?」
草むらの向こうから、丸いものが六つほど転がり出てきた。
それぞれの殻には顔があり、互いに寄り集まっている。
「タマタマだ!」
シンヤの目が輝いた。
タマタマたちは、地面に落ちた木の実を囲み、何やら相談するように顔を寄せ合っていた。一匹が木の実をつつくと、別の一匹が横から割り込む。
すると、残りのタマタマたちも一斉に集まり、木の実を取り囲んだ。
「……なんだか、みんなで一つの生き物みたいね」
レンが不思議そうに眺める。
「見た目は卵みたいだけど、実際には植物に近い性質も持っているポケモンだな。エスパータイプでもある」
「植物なのにエスパータイプなの?」
「そういう組み合わせもあるってことさ」
シンヤはタマタマたちを観察した。
六匹はそれぞれ別々に動いているようでいて、どこか息が合っている。
一匹が木の実を転がせば、別の一匹が受け止める。
一匹が草むらへ移動すると、ほかのタマタマも後を追った。
「連携が上手いな。仲間同士で情報を共有しているのかもしれない」
そのとき、一匹のタマタマが二人に気づいた。
「タマ?」
残りのタマタマも一斉に顔を向ける。
「タマタマタマ?」
「おっと、驚かせたかな。大丈夫だ、何もしないよ」
シンヤはしゃがみ込み、距離を保ったまま優しく声をかけた。
タマタマたちは警戒するように集まったが、しばらくすると好奇心が勝ったのか、少しずつ近づいてきた。一匹がシンヤの靴をつつく。
「タマ!」
「ははっ、なんだ?」
今度は別の一匹が、シンヤのバッグを気にするように顔を寄せた。
レンはその様子を見て、くすくす笑う。
「シンヤ、すっかり懐かれているじゃない」
「そうみたいだな」
シンヤはタマタマたちを見渡した。
そのうちの一匹が、ほかの仲間よりも積極的にシンヤの周りを動き回っている。
興味があるのか、それとも単純に好奇心旺盛な性格なのか。
シンヤは波動の眼で様子を確認した。
敵意はない。警戒心も徐々に薄れている。そして、こちらに対して強い興味を抱いているようだった。
「……よかったら、一緒に来るか?」
シンヤはサファリボールを取り出したが、すぐには投げなかった。
「もちろん、嫌なら無理強いはしない。ここで仲間と暮らすのも、お前にとっては大事なことだからな」
タマタマはシンヤの手元を見つめた。
それから、仲間たちのほうを振り返る。
仲間のタマタマたちは、しばらく顔を寄せ合っていたが、やがて一匹がシンヤの前へ転がってきた。
「タマ!」
その様子に、シンヤは笑みを浮かべた。
「よし。それじゃあ、これからよろしくな!」
ボールがタマタマを包み込む。
一度、二度、三度。
カチッ。
捕獲成功だ。
「よしっ!」
シンヤはボールを手に取った。
残されたタマタマたちは、少しだけ寂しそうに見えたものの、やがてまた木の実の周りへ集まり始めた。
「仲間と離れることになるけど、ちゃんと世話をするからな」
シンヤはボールを大切にしまった。
「タマタマの仲間たちも、元気でな!」
「タマター!」
六匹は顔を揃え、二人を見送るように声を上げた。
◆第二の出会い! 岩場の暴れん坊、サイホーン
次に二人が訪れたのは、岩がごろごろと転がる区域だった。
地面は硬く、ところどころに大きな岩山がそびえている。
「こっちはずいぶん荒っぽい環境だな」
「大きなポケモンが暮らしていそうね」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに――。
ドドドドドドッ!!
地面が揺れた。
「……ん?」
「シンヤ、あれ!」
レンが指さした先から、巨大なポケモンが猛然と突進してきた。
頭部には一本の鋭い角。
頑丈そうな身体に、岩のような皮膚。
「サイホーン!?」
サイホーンは二人の存在など気にしていない様子で、まっすぐに突っ込んでくる。
「ちょっ、待て待て待て! こっちに来るな!」
シンヤはレンの手を引き、岩陰へ飛び込んだ。
ドゴォン!!
サイホーンは二人がいた場所を通り過ぎ、そのまま岩に頭から突っ込んだ。
ガラガラガラッ!
岩が崩れ、土煙が舞い上がる。
「……すごい勢いね」
「すごいなんてもんじゃないだろ!」
サイホーンは頭を振り、何事もなかったかのように立ち上がった。
そして、今度は別の岩へ向かって走り出す。
ドゴンッ!
また岩が砕けた。
「……なるほど。突進して、障害物ごと吹き飛ばすのが得意なのか」
シンヤは感心したように呟いた。
サイホーンは視力があまりよくない一方、突進の威力と頑丈さは抜群だ。こうした岩場なら、その力を存分に発揮できるのだろう。
「でも、あれだけ勢いよく走っていて、ぶつかったときに痛くないのかしら?」
「頑丈だから平気なんだろうけど……さすがに何度も頭をぶつけていると心配になるな」
シンヤはサイホーンの様子を観察した。
すると、サイホーンは岩を砕いたあと、満足そうに鼻を鳴らした。
どうやら、本人にとっては遊びのようなものらしい。
「……よし」
シンヤはボールを手に取った。
「おーい、サイホーン!」
「ホーン?」
サイホーンが振り返る。
「お前、すごいな! その突進、かなりの威力だぞ!」
褒められたことが分かったのか、サイホーンは胸を張った。
「ホーン!」
「もしよかったら、俺と一緒に旅をしてみないか? 強くなりたいなら、いろんな相手と戦えるぞ!」
サイホーンはしばらくシンヤを見つめた。
そして、地面を前脚で掻き始める。
「……あ、これ、もしかして」
「シンヤ、危ないんじゃない?」
「だよな!」
サイホーンは勢いよく地面を蹴った。
「うおおおっ!?」
突進してくるサイホーン。
シンヤは横へ跳び、突進をかわす。
サイホーンはそのまま岩へ激突し、再び岩を砕いた。
「……こいつ、バトルを申し込んでいるのか?」
レンは額に手を当てた。
「ふふっ。シンヤ、気に入られたみたいね」
「これで気に入られたって言えるのか!?」
だが、サイホーンは今度こそシンヤの前で立ち止まった。
その目は、明らかに期待に輝いている。
「……なるほど。力を試したいわけか」
シンヤは笑った。
「いいぞ。正式なバトルはここではできないけど、俺と一緒に来れば、強い相手と戦える機会はたくさんある」
サイホーンはしばらく考えるように首を傾げた。
やがて、ゆっくりとシンヤの前へ歩み寄る。
「ホーン!」
「よし、決まりだな!」
シンヤが差し出したボールにサイホーンが触れると、光に包まれて中へ入った。
今度は、ボールがほとんど揺れることなく捕獲が完了した。
「よしっ! これからよろしくな、サイホーン!」
シンヤは嬉しそうにボールを掲げた。
レンはその様子を眺め、微笑んだ。
「また一匹、頼もしい仲間が増えたわね」
「ああ。あの突進をバトルでどう活かすか、今から楽しみだ」
◆第三の出会い! 幸運のポケモン、ラッキー
岩場を抜けた二人は、木々に囲まれた静かな区域へと足を踏み入れた。
そこには小さな花が咲き、柔らかな草が広がっている。
先ほどまでの騒がしさが嘘のように、穏やかな空気が流れていた。
「ここは落ち着く場所ね」
レンが花を眺めながら言った。
「ああ。さっきの岩場とは大違いだ」
シンヤは周囲を見回す。
すると、少し離れた場所に、桃色の丸いポケモンがいた。
お腹のポケットに卵のようなものを抱え、ゆっくりと歩いている。
「……ラッキー!」
シンヤは思わず声を上げた。
ラッキーは二人に気づくと、驚いたように身体を揺らした。
「ラッキー?」
「大丈夫。驚かせるつもりはないよ」
シンヤはゆっくりと近づいた。
ラッキーはしばらく二人を見つめていたが、やがて抱えていた卵を大事そうに抱き直した。
「その卵、いつも持ち歩いているのかしら?」
「そうだな。ラッキーは、卵を大切にするポケモンとして知られているんだ」
シンヤはしゃがみ込み、優しく話しかける。
「ラッキーは傷ついたポケモンを助けることもある。ポケモンセンターで活躍していることも多いんだ」
「まあ……素敵ね」
レンの表情が柔らかくなった。
そのとき、ラッキーが小さく鳴いた。
「ラッキー!」
どうやら、二人に何かを伝えたいらしい。
ラッキーは近くの草むらへ歩いていくと、そこに落ちていた木の実を拾い上げた。
そして、それをレンへ差し出す。
「えっ、私に?」
レンは驚きながらも、そっと受け取った。
「ありがとう。優しいのね」
「ラッキー♪」
ラッキーは嬉しそうに笑った。
その様子を見て、シンヤは目を細めた。
(この子、かなり人懐っこいな。それに、周囲への警戒よりも、相手を気遣う気持ちが強いみたいだ)
波動の眼で確認しても、ラッキーから敵意は感じられなかった。
むしろ、二人と一緒にいることを心地よく思っているようだった。
「ラッキー、よかったら俺と一緒に来ないか?」
シンヤはサファリボールを差し出した。
「俺の家には、ポケモンを治療できる設備もあるし、たくさんの仲間がいる。お前が誰かを助けたいなら、その力を活かせる場所もあると思う」
ラッキーはシンヤの顔をじっと見つめた。
それから、レンのほうへ視線を移す。
レンは微笑みながら頷いた。
「シンヤなら、きっとあなたを大切にしてくれるわ」
ラッキーはしばらく考えたあと、嬉しそうに鳴いた。
「ラッキー!」
そして、自分からボールに触れた。
カチッ。
捕獲成功。
「よしっ!」
シンヤはボールを手に取り、嬉しそうに笑った。
「これからよろしくな、ラッキー」
ラッキーのボールを大切にバッグへしまう。
「この子は、うちの施設でも活躍できそうだな。もちろん、本人が望むならだけど」
「ふふっ。シンヤの家には、本当にいろいろな設備があるのね」
「まあな。父さんが発明家だから、普通の家とは少し違うんだ」
レンは楽しそうに笑った。
「いつか、レンもゆっくり見学してみたいわ」
「いつでも歓迎するよ」
二人は顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべた。
◆第四の出会い! 群れで駆けるケンタロス
さらに奥へ進むと、開けた草原に出た。
見渡す限りの緑。
風に揺れる草。
そして、遠くから響く蹄の音。
ドドドドドドッ!!
「……今度は何だ?」
シンヤが顔を上げた瞬間、草原の向こうから複数のポケモンが駆けてきた。
牛のような体格。
頭部から伸びる三本の尻尾。
そして、額に生えた鋭い角。
「ケンタロスの群れだ!」
シンヤの声が弾んだ。
数匹のケンタロスが、草原を一斉に駆け抜けていく。
先頭の個体が方向を変えると、ほかのケンタロスもほぼ同時に向きを変えた。
その動きには統率が取れており、群れ全体が一つの生き物のように見える。
「すごい迫力ね……!」
レンも目を輝かせた。
ケンタロスたちは互いに競い合うように走り、時折、頭を突き合わせて力比べをしている。その中の一匹が、ほかの個体を追い抜こうとして加速した。
だが、先頭のケンタロスも負けてはいない。
二匹は並走し、角をぶつけ合いながら競争を続けた。
「なるほど……群れの中でも競争があるんだな」
シンヤは感心していた。
「こういうポケモンは、単純に力が強いだけじゃない。持久力もあるし、集団で動くときの連携も重要なんだろう」
そのとき、群れの最後尾を走っていた一匹が、急に速度を落とした。
ほかのケンタロスたちは、そのまま草原の向こうへ駆けていく。
残されたケンタロスは、首を振りながら二人のほうへ歩いてきた。
「……どうしたんだ?」
シンヤが声をかけると、ケンタロスは鼻を鳴らした。
「ブルルルッ!」
そして、前脚で地面を掻く。
シンヤは思わず笑った。
「もしかして、お前も競争したいのか?」
ケンタロスは勢いよく頭を振った。
「ブルルッ!」
「元気だなあ……」
レンが苦笑する。
「シンヤ、またバトルを申し込まれているんじゃない?」
「そんな気がする」
シンヤはケンタロスを見つめた。
この個体は、群れの中でほかの仲間と競い合っていた。まだまだ走り足りないのかもしれない。
「よし。俺と一緒に来るか? 旅の中では、いろいろな場所を走れるぞ。広い草原もあるし、強いポケモンと競い合うこともできる」
ケンタロスはシンヤの前を歩き、彼の周囲を一周した。
そして、正面でぴたりと止まる。
「ブルルルッ!」
「……よし、分かった!」
シンヤがボールを投げると、ケンタロスは光に包まれた。
ボールが一度だけ揺れ、すぐに静かになる。
捕獲成功。
「よしっ! ケンタロス、ゲットだ!」
シンヤは拳を握った。
「これは頼もしい仲間になりそうだな」
レンは草原の向こうを眺めた。
「群れから離れてしまったけれど、大丈夫かしら?」
「大丈夫だと思う。あの様子なら、自分の意思でこっちに来たんだろうしな。それに、家に着いたら広い放牧地で暮らせる。走る場所には困らないはずだ」
シンヤはケンタロスのボールを見つめた。
「もちろん、群れの仲間たちと離れたことで寂しくなるなら、その気持ちにも向き合わないとな」
「……シンヤらしいわね」
レンは穏やかに微笑んだ。
◆第五の出会い! 子どもを守るガルーラ
草原を抜けた先には、背の高い木々が並ぶ森林区域があった。
木漏れ日が地面に落ち、木の葉が風に揺れている。
「ここはまた、雰囲気が変わったな」
「森の中なら、木の実を食べるポケモンも多そうね」
二人は足音を立てないようにしながら、ゆっくりと森の中を進んだ。
すると、少し先の茂みが揺れた。
「……何かいるな」
シンヤが足を止める。
茂みの奥から姿を現したのは、頑丈な身体を持つ大型のポケモンだった。
長い尻尾。
力強い腕。
そして、お腹の袋に入った小さな子ども。
「ガルーラ……!」
シンヤは思わず声を漏らした。
ガルーラは周囲を警戒するように辺りを見回しながら、ゆっくりと歩いていた。
お腹の袋からは、小さなガルーラの子どもが顔を出している。
「まあ……赤ちゃんがいるのね」
レンが声を潜めた。
「ガルーラは子どもを大切にするポケモンだからな。あの子を守るためなら、どんな相手にも立ち向かうことがある」
シンヤはガルーラの様子を観察した。
母親らしきガルーラは、二人に気づくとすぐに身体の向きを変えた。
子どもをかばうように立ち、鋭い目でシンヤたちを見つめる。
「……警戒されているな」
「当然よ。子どもがいるんだもの」
レンの言葉に、シンヤは頷いた。
「その通りだ。ここは慎重にいこう」
シンヤは両手を軽く上げ、敵意がないことを示した。
「大丈夫だ。俺たちは何もしない。子どもにも手を出さないよ」
ガルーラはじっとシンヤを見つめていた。
しばらくして、子どものガルーラが袋から身を乗り出し、シンヤたちを興味深そうに眺めた。
「ガル?」
「おっと、元気だな」
シンヤが笑うと、子どものガルーラは嬉しそうに声を上げた。
しかし、母親のガルーラはまだ警戒を解いていない。
シンヤは無理に近づくことをやめ、少し離れた場所に腰を下ろした。
レンも隣に座る。
二人はしばらく、ガルーラ親子の様子を静かに眺めていた。
やがて、母親のガルーラが少しずつ警戒を緩めた。
シンヤたちが危害を加えようとしていないと分かったのだろう。
子どものガルーラが再び顔を出すと、母親はその頭を優しく撫でた。
「……いい親子だな」
シンヤが呟く。
レンも穏やかな表情で頷いた。
「ええ。見ているだけで温かい気持ちになるわ」
シンヤはガルーラに向き直った。
「俺はシンヤ。旅をしているトレーナーだ。もし、お前が望むなら、一緒に来てくれないか?」
ガルーラはすぐには答えなかった。
お腹の子どもを見下ろし、それからシンヤを見る。
その視線には、簡単には割り切れないものがあった。
当然だろう。
このポケモンにとって、子どもは何よりも大切な存在なのだから。
「……無理にとは言わない。お前がここで子どもを育てたいなら、それが一番だ」
シンヤはボールをしまい、静かに立ち上がった。
「今日は会えてよかったよ。元気でな」
そう言って、二人はその場を離れようとした。
そのときだった。
「ガルーラ!」
背後から声が響いた。
振り返ると、ガルーラが一歩、二歩と近づいてきていた。
子どもをかばう姿勢は崩していない。
しかし、先ほどまでの強い警戒心は薄れている。
ガルーラはシンヤの顔を見つめ、ゆっくりと頷いた。
「……一緒に来てくれるのか?」
「ガルーラ!」
シンヤは目を見開いた。
「ありがとう。でも、子どもはどうする?」
ガルーラはお腹の袋にいる子どもを優しく撫でた。
子どもは母親の胸元に顔を寄せ、安心したように目を細める。
シンヤはその様子を見て、ようやく理解した。
このガルーラは、子どもを守りながら、新しい環境へ進むことを選んだのだ。
「分かった。お前たち二匹とも、責任を持って面倒を見るよ」
シンヤはボールを取り出したが、すぐにガルーラへ投げることはしなかった。
「ただし、ここから先はお前たちの意思を大事にする。無理に戦わせるつもりはないし、子どもが安心して過ごせる環境も用意する」
ガルーラは満足そうに頷いた。
「ガルーラ!」
シンヤはボールを構え、ガルーラへ向けてそっと投げた。
光がガルーラを包み込む。
一度、二度、三度。
カチッ。
「よし……!」
シンヤはボールを大切に受け止めた。
「ガルーラ、これからよろしくな!」
レンは微笑みながら、シンヤの隣へ並んだ。
「シンヤなら、きっといい環境を用意してあげられるわね」
「ああ。家には広い敷地もあるし、子育てに詳しいブリーダーさんたちもいる。安心して暮らせるようにしてやらないとな」
シンヤはボールを見つめ、静かに頷いた。
◆第六の出会い! 森の奥のモンジャラ
ガルーラ親子との出会いを終えた二人は、さらに森の奥へと進んだ。
木々が密集した場所では、蔓が地面や幹に絡みついている。
「この辺りは、草タイプのポケモンが多そうだな」
「そうね。でも、さっきのタマタマとは違う気配がするわ」
レンが周囲を見回した、そのとき。
「……ん?」
シンヤは足元に何かが触れたことに気づいた。
見ると、青い蔓が靴に絡みついている。
「なんだ、これ?」
蔓を外そうとした瞬間、茂みの奥から大量の蔓が伸びてきた。
「うわっ!?」
シンヤの腕と足が、あっという間に蔓で覆われる。
「シンヤ!?」
レンが駆け寄ろうとするが、今度はレンの足元にも蔓が伸びた。
「きゃっ!」
「レン、動くな! 無理に引っ張ると余計に絡まる!」
シンヤは周囲を見回した。
青い蔓の塊が、ゆっくりと茂みから姿を現す。
その中心には、小さな目と口があった。
「モンジャラか!」
モンジャラは二人を拘束したまま、不思議そうに首を傾げている。
「モンジャ?」
「いやいや、ちょっと待て! 俺たちは食べ物じゃないぞ!」
シンヤが叫ぶと、モンジャラは一瞬動きを止めた。
そして、まるで面白がるように蔓を揺らした。
「……こいつ、遊んでいるのか?」
レンは苦笑した。
「ふふっ。ずいぶん人懐っこい子なのね」
「人懐っこいっていうか、いたずら好きなんじゃないか!?」
モンジャラは蔓を緩めたり、また少し締めたりしながら、二人の反応を楽しんでいるようだった。シンヤはため息をついた。
「分かった分かった。遊びたいのは分かったから、そろそろ離してくれないか?」
モンジャラはしばらく考えるように動きを止めたあと、ゆっくりと蔓を解いた。
「……ありがとう」
シンヤは服についた葉っぱを払い落とした。
「モンジャラは蔓を使って相手を捕まえたり、身を守ったりするポケモンだ。こういう森の中では、かなり隠れるのが上手そうだな」
レンはモンジャラへ近づき、少し離れたところから話しかけた。
「ねえ、あなたはいつもこんなふうに人を捕まえて遊んでいるの?」
「モンジャ?」
モンジャラは蔓を揺らした。
どうやら、悪気はないらしい。
シンヤは笑った。
「なあ、モンジャラ。もしよかったら、俺と一緒に来ないか?」
モンジャラは動きを止めた。
「俺の家には、いろいろなポケモンがいるんだ。遊び相手にも困らないと思うぞ」
モンジャラはシンヤの周りをくるりと回り、彼の腕に蔓を軽く巻きつけた。
今度は拘束するためではなく、まるで握手を求めるような仕草だった。
「……ははっ。気に入ってくれたのか?」
「モンジャ!」
「よし、それじゃあ一緒に行こう!」
シンヤがボールを差し出すと、モンジャラは自分から触れた。
光に包まれ、ボールの中へ入っていく。
カチッ。
「よし、捕獲成功!」
シンヤは満足げに頷いた。
「これからよろしくな、モンジャラ!」
レンは、シンヤの腕にまだ少し残っている蔓の跡を見て笑った。
「ふふっ。シンヤ、ずいぶん気に入られたみたいね」
「……次からは、もう少し優しく歓迎してほしいけどな」
◆第七の出会い! 舌が自慢のベロリンガ
サファリゾーンの探索も、いよいよ終盤に差しかかっていた。
二人は湿地に近い区域を歩いていた。
地面は柔らかく、ところどころに水たまりがある。
草むらの間には小さな虫ポケモンの姿も見られた。
「ここは湿地か。いろいろなポケモンがいそうだな」
「ええ。でも、さっきから姿が見えないわね」
レンがそう言った直後だった。
ぺろっ。
「……ん?」
シンヤは頬に妙な感触を覚えた。
ぺろぺろっ。
「……え?」
今度は耳の近くに、何か柔らかいものが触れた。
「うわあああっ!?」
シンヤが飛び退くと、茂みの陰から丸い身体のポケモンが姿を現した。
大きな目。
丸みを帯びた身体。
そして、身体の大きさに似合わないほど長い舌。
「ベロリンガ!?」
ベロリンガは、長い舌を伸ばしてシンヤの頬を舐めていたらしい。
「お前、いきなり何をするんだ!?」
「ベロォ?」
ベロリンガは不思議そうに首を傾げた。
レンは口元を押さえ、肩を震わせている。
「ふ、ふふっ……! シンヤ、顔が……!」
「笑うな、レン!」
「だ、だって……ふふふっ!」
ベロリンガは二人の反応が面白かったのか、今度はレンのほうへ近づいていった。
「えっ、ちょっと待って!」
ぺろっ。
「きゃあっ!?」
レンの頬にも、長い舌が伸びた。
「もうっ! この子ったら!」
レンは慌てて後ろへ下がった。
ベロリンガは楽しそうに鳴き、舌を揺らしている。
「ベロリンガ……舌を使って周囲のものを確かめているのか?」
シンヤはようやく落ち着きを取り戻し、ベロリンガを観察した。
ベロリンガは興味を持ったものを舐めることで、においや味などを確かめているらしい。
つまり、悪意があってやったわけではない。
「……なるほど。好奇心が強いんだな」
「好奇心が強いのはいいけれど、もう少し距離を考えてほしいわね……」
レンは頬を拭いながら、少しだけ頬を膨らませた。
シンヤは苦笑する。
「まあまあ。悪気はないみたいだし」
「シンヤは甘いわね」
「そうか?」
「そうよ。さっきだって、モンジャラにぐるぐる巻きにされていたのに、結局仲間にしたでしょう?」
「……それは、まあ」
シンヤは頭を掻いた。
「でも、こうして出会ったのも何かの縁だろ?」
レンは一瞬だけ目を丸くし、それから柔らかく笑った。
「ふふっ。そういうところ、シンヤらしいわね」
シンヤはベロリンガの前にしゃがみ込んだ。
「なあ、ベロリンガ。俺と一緒に来ないか?」
「ベロ?」
「俺の家には、たくさんのポケモンがいる。きっと、いろんなものに出会えるぞ」
ベロリンガはシンヤの顔をじっと見つめた。
それから、また長い舌を伸ばそうとする。
「おっと、今度は舐める前に返事をしてくれ!」
「ベロォ!」
ベロリンガは楽しそうに鳴いた。
そして、シンヤの差し出したボールへ自分から近づき、ぽんっと触れた。
光が広がり、ベロリンガがボールの中へ吸い込まれる。
一度、二度、三度。
カチッ。
「よし、捕獲成功!」
シンヤは笑顔でボールを掲げた。
「これからよろしくな、ベロリンガ!」
レンはシンヤの隣に立ち、今日出会ったポケモンたちを思い返すように呟いた。
「タマタマにサイホーン、ラッキー、ケンタロス、ガルーラ、モンジャラ、そしてベロリンガ……。今日は本当にたくさんのポケモンに出会ったわね」
「ああ。しかも、みんな個性が違う。やっぱり、実際に会ってみると面白いな」
シンヤは七匹のボールを見つめた。
「ただ捕まえるだけじゃなくて、それぞれがどんな場所で暮らして、何を大切にしているのか。それを知るのも大事だと思うんだ」
「ふふっ。シンヤは本当にポケモンが好きなのね」
「もちろん!」
シンヤは迷わず答えた。
その表情を見て、レンは穏やかに微笑んだ。
サファリゾーンの探索を終えて
夕方。
サファリゾーンを巡った二人は、受付へ戻ってきた。
シンヤのバッグには、今日出会ったポケモンたちのボールが収まっている。
タマタマ。
サイホーン。
ラッキー。
ケンタロス。
ガルーラ。
モンジャラ。
ベロリンガ。
七種類の新たな出会い。
どのポケモンも、それぞれ異なる個性を持っていた。
群れで協力するタマタマ。
突進を好むサイホーン。
他者を気遣うラッキー。
競争心旺盛なケンタロス。
子どもを守るガルーラ。
いたずら好きなモンジャラ。
好奇心いっぱいのベロリンガ。
シンヤは、今日の出来事を振り返りながら満足げに頷いた。
「いやあ、楽しかったな!」
「ええ。レンも楽しめたわ」
「よかった。明日は大好きクラブの施設も見てみるか。父さんから聞いた話だと、トレーニング設備もあるらしいし」
「そうね。レンのポケモンたちも、もっと鍛えてあげたいわ」
レンは自分のポケモンたちのボールを確認した。
「それに、シンヤの家で暮らしているポケモンたちの様子も気になるわね。今日捕まえた子たちが、どんなふうに馴染むのかも楽しみだわ」
「帰ったら、まずはみんなの体調を確認しないとな。特にガルーラの子どもは、環境が変わるから慎重に見てやりたい」
「ええ。無理は禁物ね」
二人は顔を見合わせ、頷いた。
セキチクシティでの目的は、まだすべて終わったわけではない。
しかし、今日の出会いは、シンヤにとって大きな収穫となった。
「よし。それじゃあ、ポケモンセンターへ行こう!」
「ええ、シンヤ♪」
夕焼けに染まるセキチクシティ。
二人は新しい仲間たちとともに、次の冒険へ向けて歩き出したのだった。
感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで
-
出す。セキエイリーグから出す
-
出さないか。ホウエンからでいいやろ