ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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今回は番外編。前に話に出ていたピカチュウが番長と化しているのかを話にしてみました。


番外編 シンヤの知らない実家の事情! ポケモンたちの番長はピカチュウ!?

◆第一幕 今日も賑やかなシンヤの実家

 

 

マサラタウン。

シンヤの実家には、今日も多くのポケモンたちが暮らしていた。

 

 

広大な敷地には草原、森、池、川、岩場など、さまざまな環境が整えられている。ポケモンたちはそれぞれ好みの場所で過ごし、食事をし、休息を取り、そして――。

 

 

「ピカァッ!」

 

 

「ゴオオッ!」

 

 

「ブオオオッ!」

 

 

今日も今日とて、特訓をしていた。

草原では、ピカチュウとエレブーが電気技の精度を競っている。

森では、ピジョンが、ほかの飛行ポケモンたちと飛行訓練をしていた。

 

 

池の近くでは、ギャラドスが水面を揺らしながら泳ぎ、カメックスやキングラーたちが水中での動きについて意見を交わしている。

 

 

岩場では、ハガネールといつの間にかゴローンが進化したゴローニャたちが、互いの防御技を試していた。

 

 

そして、屋敷の一角では。

 

 

「……あらあら」

 

 

母親のミサキが、窓から外を眺めていた。

その手には、ポケモンたちの健康管理記録がある。

シンヤが旅立ってからというもの、実家に預けられたポケモンたちは、驚くほど活発に動いていた。

新しいポケモンが送られてくるたび、住み慣れた場所にいるポケモンたちが迎え入れる。

 

 

最初は警戒することもあるが、食事や休息を共にし、遊び、時にはバトルをすることで、少しずつ関係を築いていく。

しかも、シンヤの家には学習装置がある。

もちろん、装置を使えば一瞬で強くなれるわけではない。得た経験をどう活かすかは、それぞれのポケモン次第だ。

 

 

だが、ここには強いポケモンが大勢いる。

 

 

自分より少しだけ強い相手。

自分と同じくらいの実力を持つ相手。

そして、今の自分では到底かなわない相手。

さまざまな相手と交流できる環境は、ポケモンたちにとって理想的な修練場だった。

 

 

「それにしても……」

 

 

ミサキは記録に目を落とす。

 

 

「この子たち、本当に入れ替わりが激しいわね」

 

 

昨日はピカチュウがエレブーと特訓していたかと思えば、今日はギャラドスが相手をしている。昨日までピジョンと飛んでいたポケモンが、今日は別の仲間と技を磨いている。

 

 

特訓する相手も、練習する技も、日によって変わる。

さらに、誰かが新しい技を覚えれば、それを見ていた別のポケモンが興味を持ち、自分も試してみようとする。技を教え合うことも珍しくなかった。

 

 

「まるで、学校みたいね……」

 

 

もっとも、普通の学校と違うところが一つある。

ここでは、先生役のポケモンが生徒役のポケモンに技を教えるだけでは終わらない。

教えている途中で、なぜかバトルが始まるのだ。

そして、バトルが終わると、何事もなかったかのように再び技の練習へ戻る。

 

 

「……元気なのはいいことだけれど」

 

 

ミサキは小さくため息をついた。

 

 

「もう少し、お庭を壊さないようにしてくれると助かるのだけれどね」

 

 

その瞬間。

 

 

 

 

ドゴオオオオンッ!!

 

 

 

 

庭の向こうから、凄まじい音が響いた。

ミサキはゆっくりと窓の外を見た。

そこには、砕け散った岩と、気まずそうに視線を逸らすポケモンたちがいた。

 

 

「…………」

 

 

ミサキは健康管理記録を閉じた。

 

 

「あとで、お父さんに修理をお願いしましょう」

 

 

この家では、もはや珍しくもない光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第二幕 群れの中に生まれた序列

 

 

広い草原。

その中央には、複数のポケモンたちが集まっていた。

 

 

ギャラドス。

いつの間にかワンリキーが進化していたカイリキー。

オコリザルから進化したコノヨザル。

エレブー。

ピカチュウ。

そして、ほかにも多くのポケモンたちがいる。

 

 

種族も、体格も、得意技も異なる彼ら。

しかし、その中には自然と生まれた一つの共通認識があった。

 

 

 

 

 

――ピカチュウには逆らうな。

 

 

 

 

 

もちろん、誰かが正式に決めたわけではない。

シンヤが旅立つ前からピカチュウは強かったが、旅立ったあとも特訓を続け、その実力はさらに磨かれていた。

 

 

しかも、ピカチュウは単純に強いだけではない。

争いが起きれば間に入る。

弱いポケモンが困っていれば助ける。

 

 

新しくやってきたポケモンが環境に馴染めずにいると、さりげなく様子を見に行く。

そして、誰かが特訓で行き詰まっていれば、自分の経験をもとに動きを見せる。

ピカチュウは言葉で長々と教えるタイプではない。

だが、実際に技を使い、動きを見せ、相手が理解するまで付き合うことができた。

 

 

そのため、いつしか多くのポケモンたちがピカチュウを頼るようになっていた。

 

 

 

 

 

 

……もっとも。

 

 

 

 

 

 

「ピカァ」

 

 

「ギャオオオッ!」

 

 

「ピカ?」

 

 

「ギャオッ!」

 

 

今、目の前で起きていることは、少々穏やかではなかった。

ギャラドスとカイリキーが、互いに睨み合っている。

きっかけは、特訓中のちょっとした衝突だった。

 

 

ギャラドスが水流を操る練習をしていたところ、カイリキーが近くで岩を持ち上げる訓練をしていた。

水流が予想外の方向へ飛び、カイリキーの足元を濡らしてしまったのだ。

カイリキーは驚き、持ち上げていた岩を落としかけた。

 

 

幸い、怪我はなかった。

だが、互いに謝るより先に、どちらが悪かったのかという話になってしまった。

 

 

「ギャオオッ!」

 

 

ギャラドスが威圧するように唸る。

 

 

「カイッ!」

 

 

カイリキーも四本の腕を構えた。

周囲のポケモンたちは、少し離れて様子を見守っている。

誰かが止めようとしたものの、二匹とも興奮していて話を聞かない。

 

 

 

 

そこへ。

 

 

 

 

 

「ピカ」

 

 

ピカチュウが二匹の間に割って入った。

 

 

「ピカピカ!」

 

 

まずギャラドスを見上げる。

次にカイリキーを振り返る。

そして、両方に向かって何かを言うように頬を膨らませた。

その様子は、まるでこう言っているようだった。

 

 

 

 

 

――喧嘩するな。特訓場を使うなら、周りにも気を配れ。

 

 

 

 

 

ギャラドスは不満そうに鼻を鳴らした。

カイリキーも腕を組み、そっぽを向く。

それでも、ピカチュウは一歩も退かなかった。

 

 

「ピカッ!」

 

 

もう一度、強い声を上げる。

ギャラドスとカイリキーは、互いに顔を見合わせた。

やがて、先にカイリキーが頭を下げた。

ギャラドスも少し遅れて頷く。

どうやら、ひとまず和解したらしい。

 

 

周囲のポケモンたちが安堵する。

ピカチュウは満足そうに頷くと、二匹に背を向けた。

 

 

 

そして――。

 

 

 

「ピカッ!」

 

 

今度は特訓を再開するように、草原の中央へ戻っていった。

その背中を、ギャラドスとカイリキーは複雑そうな顔で見送った。

体格だけなら、ピカチュウは二匹よりも圧倒的に小さい。

 

 

 

だが、彼らは知っている。

 

 

 

あの小さな身体から放たれる電撃が、どれほど強烈なものなのかを。

そして、何よりも。ピカチュウは、喧嘩を止めるためなら相手が誰であろうと一歩も退かないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第三幕 「ピカチュウだから」と侮った結果

 

 

その日の午後。

新たに実家へやってきたポケモンたちが、広い草原で顔合わせをしていた。

サファリゾーンでシンヤに捕獲されたポケモンたちも、家族のスタッフによる健康確認を終え、少しずつ新しい環境に慣れ始めている。

 

 

タマタマは木陰で仲間たちと過ごし、ラッキーはブリーダーと一緒に周囲を歩いていた。

サイホーンは岩場を走り回り、ケンタロスは広い放牧地を気持ちよさそうに駆けている。

ガルーラは子どもの様子を見守りながら、周囲のポケモンたちを観察していた。

モンジャラは木々の間を移動し、ベロリンガは目につくものを確かめようとしていた。

それぞれが、新しい暮らしを始めている。

 

 

 

そんな中。

 

 

 

「ピカ?」

 

 

ピカチュウが、サイホーンの前にやってきた。

サイホーンは、目の前の小さなポケモンを見下ろした。

 

 

「ホーン?」

 

 

ピカチュウは前脚を上げ、挨拶するように鳴いた。

 

 

「ピカピカ!」

 

 

サイホーンはしばらくピカチュウを見つめたあと、ふんっと鼻を鳴らした。

 

 

「ホーン!」

 

 

どうやら、ピカチュウの小さな身体を見て、あまり強くないと思ったらしい。

サイホーンは地面を前脚で掻いた。

そして、ピカチュウへ向かって勢いよく突進した。

 

 

「ホーンッ!!」

 

 

「ピカ?」

 

 

ピカチュウは、首を傾げた。

 

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

 

ピカチュウの姿が、サイホーンの正面から消えた。

 

 

「ホーン!?」

 

 

サイホーンが驚いて足を止める。

その背後に、ピカチュウが立っていた。

 

 

「ピカピカ」

 

 

ピカチュウは、やれやれとでも言いたげに首を振った。

サイホーンは慌てて振り返る。

そして、再び突進した。

今度は先ほどよりも勢いをつけている。

 

 

「ホオオオオンッ!!」

 

 

ピカチュウは軽く跳び上がり、突進をかわした。

サイホーンは地面を滑りながら急停止する。

 

 

「ホーンッ!」

 

 

三度目の突進。

 

 

ピカチュウは横へ跳び、サイホーンの頭上を飛び越えた。

サイホーンは悔しそうに唸った。

ピカチュウは、とうとう足を止めた。

そして、サイホーンの前へ歩いていく。

 

 

「ピカチュウ」

 

 

その声には、先ほどまでの穏やかさがなくなっていた。

周囲のポケモンたちが、そっと距離を取る。

彼らは知っている。

ピカチュウがあの声を出したとき、次に何が起こるのかを。

サイホーンは、それでも引かなかった。

 

 

「ホーンッ!」

 

 

再び地面を蹴る。

 

 

「ピカァッ!!」

 

 

ピカチュウの頬から、激しい電撃が迸った。

サイホーンの突進が届く寸前、ピカチュウは身体をひねり、側面へ回り込む。

ピカチュウの尻尾が硬質な光を帯びた。

 

 

 

 

 

ゴォンッ!!

 

 

 

 

 

強烈な一撃が、サイホーンの側頭部に叩き込まれる。

サイホーンの巨体が大きく傾いた。

 

 

「ホ、ホーン!?」

 

 

「ピカチュウッ!」

 

 

ピカチュウは地面に着地すると、間髪入れずに電撃を放った。

 

 

 

 

 

バリバリバリバリッ!!

 

 

 

 

サイホーンの身体が電撃に包まれる。

もちろん、サイホーンは地面タイプを持つポケモンだ。

電気技そのものは効果がない。

だが、ピカチュウの狙いは、電気技だけで倒すことではなかった。

電撃を囮にして、サイホーンの動きを一瞬止める。

 

 

 

そして、その隙を逃さず―——

 

 

ピカチュウの小さな身体が、サイホーンの懐へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

 

 

 

一撃。

サイホーンの巨体が、地面へ横倒しになった。

 

 

「ホーン……」

 

 

サイホーンは目を回し、その場に倒れた。

周囲が静まり返る。

ピカチュウはサイホーンの前に立ち、腕を組んだ。

 

 

「ピカチュウ!」

 

 

その声は、明らかに叱っているものだった。

 

 

 

 

 

――相手の見た目だけで強さを判断するな。

 

 

 

 

――自分から勝負を仕掛けたなら、負けたことを認めろ。

 

 

 

 

 

そんな意味が込められているようだった。

しばらくして、サイホーンがゆっくりと起き上がった。

そして、ピカチュウを見つめたあと、深々と頭を下げた。

 

 

「ホーン……」

 

 

ピカチュウは表情を和らげ、サイホーンの頭を軽く叩いた。

 

 

「ピカ!」

 

 

その仕草に、サイホーンは目を丸くした。

怒っているだけではない。

相手を打ち負かしたあとも、ちゃんと立ち上がるのを待ってくれていたのだ。

 

 

サイホーンは、ピカチュウへ向かって頭を下げた。

今度は、先ほどよりもずっと深く。

周囲のポケモンたちから、感心したような鳴き声が上がる。

 

 

ピカチュウは満足そうに頷くと、何事もなかったかのように歩き出した。

その背中を見ていたコノヨザルは、腕を組みながら小さく頷いた。

どうやら、あの小さな電気ネズミを軽く見てはいけないということを、サイホーンも理解したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第四幕 番長の座を狙う者

 

 

しかし、すべてのポケモンがピカチュウを認めているわけではなかった。

屋敷の敷地内には、強いポケモンが数多くいる。

 

 

ギャラドス。

コノヨザル。

カイリキー。

フーディン。

ニドキング。

ハガネール。

そして、ほかにも多くのポケモンたち。

 

 

その中には、自分こそが最も強いと思っているポケモンもいた。

とりわけ、最近になって進化したばかりのポケモンたちは、自分の力を試したがる傾向がある。ある日、そんな一匹がピカチュウの前に立ちはだかった。

 

 

「ピカ?」

 

 

ピカチュウが振り返る。

相手は、堂々と胸を張り、ピカチュウを見下ろしていた。

自分の身体の大きさと力に自信があるらしい。

そして、その視線には、明らかな挑発が含まれていた。

ピカチュウはしばらく相手を見つめたあと、ため息をつくように頬を膨らませた。

 

 

「ピカピカ……」

 

 

 

 

 

――またか。

 

 

 

 

 

そんな気持ちが伝わってくるようだった。

相手はさらに一歩踏み出した。

どうやら、ピカチュウが争いを避けようとしているのを、弱気だと勘違いしたらしい。

周囲のポケモンたちは、すぐさま距離を取った。

そして、誰かが小さく鳴いた。

 

 

「ピカ……」

 

 

 

 

 

――やめておけ。

 

 

 

 

 

しかし、挑戦者は聞く耳を持たなかった。

とうとう、ピカチュウが前へ出た。

 

 

「ピカチュウ」

 

 

頬の電気袋が、青白く輝く。

その瞬間、周囲の空気が変わった。

先ほどまで騒がしかったポケモンたちが、いっせいに静まり返る。

ピカチュウは相手を見つめ、静かに構えた。

相手もまた、力を込める。

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

 

バトルが始まった。

最初の攻撃は、挑戦者のほうからだった。

ピカチュウは真正面から受け止めることなく、軽やかに攻撃をかわす。

相手が追撃しようとすると、ピカチュウはその懐へ入り込む。

 

 

 

 

一撃。

 

二撃。

 

 

 

 

 

そして、相手が体勢を立て直そうとした瞬間、強烈な電撃を浴びせた。

 

 

「ピカァァッ!!」

 

 

 

 

 

 

バリバリバリバリッ!!

 

 

 

 

 

 

挑戦者の動きが止まる。

ピカチュウはそこへ一気に接近し、最後の一撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

ドゴォンッ!!

 

 

 

 

 

挑戦者は地面へ倒れ、しばらく起き上がれなかった。

ピカチュウは相手を見下ろし、頬を膨らませる。

 

 

「ピカチュウ!」

 

 

 

 

 

――勝負をするなら、最後まで本気で来い。

 

 

 

 

 

――そして、相手を見た目で判断するな。

 

 

 

 

 

そう告げるような鳴き声だった。

挑戦者は、ゆっくりと頭を下げた。

周囲のポケモンたちは、安堵したように鳴き声を上げた。

 

 

ピカチュウは相手の様子を確認すると、今度は優しく前脚を差し出した。

挑戦者はその前脚に触れ、立ち上がる。

こうして、また一匹。

ピカチュウの強さと器の大きさを知るポケモンが増えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第五幕 母ミサキ、呆れる

 

 

その一部始終を、少し離れた場所から見ていた人物がいた。

シンヤの母、ミサキである。

彼女はスタッフと一緒にポケモンたちの健康状態を確認していたのだが、途中から完全に手が止まっていた。

 

 

「…………」

 

 

ミサキは、地面に倒れたポケモンと、その前で胸を張るピカチュウを見つめた。

 

 

「……またなの?」

 

 

スタッフが苦笑する。

 

 

「はい。どうやら、ピカチュウに勝負を挑んだようで……」

 

 

「それで、またピカチュウが勝ったのね」

 

 

「ええ。相手もかなり強かったのですが、ピカチュウの動きについていけなかったようです」

 

 

ミサキは額に手を当てた。

 

 

「……あの子、いつから番長になったのかしら」

 

 

スタッフは返事に困ったように笑った。

確かに、ピカチュウは強い。

シンヤの旅立ち以前から、ほかのポケモンたちと特訓を重ねていた。

 

 

旅立ってからも学習装置を通じて経験を積み、さらに多くの技を磨いている。

だが、ミサキが呆れている理由は、強さそのものではなかった。

 

 

ピカチュウは、争いが起きれば必ず仲裁に入る。

相手が納得するまで何度でも向き合う。

弱いポケモンが困っていれば助け、初めてやってきたポケモンには自分から挨拶をする。

その一方で、自分の強さを過信して他者を見下す相手には、容赦がない。

 

 

しかも、勝負が終わったあとは必ず相手の様子を確認し、必要なら手を貸している。

 

 

「……本当に、誰に似たのかしらね」

 

 

ミサキは呟いた。

もちろん、シンヤのポケモンなのだから、シンヤの影響を受けているのだろう。

だが、ここまで面倒見がよく、なおかつ喧嘩っ早いところまで似ているとは思わなかった。

 

 

 

 

いや。

 

 

 

 

正確に言えば、シンヤ自身は、ここまで頻繁に喧嘩をしているわけではない。

むしろ、シンヤは無駄な争いを避けるほうだ。

ピカチュウの場合は、争いを避けるために仲裁へ入る。

それでも相手が引かなければ、力で分からせる。

そして、相手が反省したら、何事もなかったかのように仲間として受け入れる。

 

 

 

 

……そのあたりが、余計に厄介だった。

 

 

 

 

 

「ピカピカ!」

 

 

ピカチュウがミサキに気づき、元気よく駆け寄ってきた。

 

 

「はいはい。お疲れさま」

 

 

ミサキはしゃがみ込み、ピカチュウの頭を撫でた。

 

 

ピカチュウは嬉しそうに目を細める。

 

 

「でもね、ピカチュウ。あまり無茶をしては駄目よ。あなたが強いのは分かっているけれど、相手も本気なのだから」

 

 

「ピカ!」

 

 

ピカチュウは元気よく返事をした。

 

 

……本当に分かっているのかどうかは、怪しいところだ。

 

 

 

ミサキは立ち上がり、周囲を見渡した。

そこでは、ギャラドスが別のポケモンと水流の練習をしている。

コノヨザルはパンチの威力を調整しながら、カイリキーと打ち合っている。

フーディンはスプーンを使って小石を浮かべ、ほかのポケモンたちに念力の使い方を見せていた。

 

 

そして、ピカチュウはというと――。

 

 

「ピカ!」

 

 

今度は、モンジャラの蔓に絡まって困っているポケモンを見つけたらしい。

すぐさま駆け寄り、モンジャラに何かを伝えている。

モンジャラは少し残念そうに蔓をほどき、絡まっていたポケモンを解放した。

 

 

ピカチュウはそのポケモンの様子を確認し、満足そうに頷く。

その後、モンジャラと何やら楽しそうに話し始めた。

 

 

「……本当に、忙しい子ね」

 

 

ミサキは苦笑した。

 

 

「まるで、シンヤがもう一人いるみたいだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第六幕 知らぬは本人ばかりなり

 

 

その夜。

ミサキは、夫のマサユキへ電話をかけていた。

 

 

「ねえ、あなた」

 

 

『どうした、ミサキ?』

 

 

「シンヤのポケモンたちのことなんだけれど……」

 

 

『ああ。最近も順調に訓練しているか?』

 

 

「順調どころじゃないわよ。毎日、誰かが誰かに技を教えて、その途中でバトルが始まって……」

 

 

『ははは! 元気で何よりじゃないか』

 

 

「それだけならいいのだけれどね」

 

 

ミサキは窓の外を見た。

夜になっても、敷地の一部ではポケモンたちが自主練習を続けている。

もちろん、無理をしないよう、スタッフが交代で見守っている。

 

 

「それでね。ピカチュウが、いつの間にかみんなのまとめ役になっているの」

 

 

『……ピカチュウが?』

 

 

「ええ。争いが起きると仲裁に入るし、特訓の相談にも乗っているみたい。でも、相手がピカチュウを見た目で侮ると……」

 

 

『……侮ると?』

 

 

「徹底的に叩きのめすのよ」

 

 

『…………』

 

 

電話の向こうで、マサユキが沈黙した。

 

 

 

 

やがて。

 

 

 

 

『……シンヤが帰ってきたら、驚くだろうな』

 

 

「ええ。きっと驚くでしょうね」

 

 

ミサキは笑った。

 

 

「自分のピカチュウが、実家で番長をしているなんて、夢にも思っていないでしょうから」

 

 

『まあ、あいつが戻ってくるまでには、もう少し規模が大きくなっているかもしれないぞ?』

 

 

「やめてちょうだい。これ以上、修理する場所が増えたら大変だわ」

 

 

二人は顔を見合わせることができない電話越しに、そろって苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃。

 

 

 

庭の中央では、ピカチュウが仲間たちに囲まれていた。

今日の特訓を終えたポケモンたちが、ピカチュウの周囲に集まっている。

ピカチュウは得意げに胸を張り、みんなの話を聞いていた。

そして、最後に大きく鳴いた。

 

 

「ピカチュウ!」

 

 

その声に、周囲のポケモンたちが一斉に応える。

 

 

「ギャオオッ!」

 

 

「カイッ!」

 

 

「フーディン!」

 

 

「モンジャ!」

 

 

それは、まるで群れの長を称えるような光景だった。

 

 

 

……もっとも、本人にそのつもりがあるのかは分からない。

 

 

 

 

ピカチュウにとっては、シンヤが帰ってくるまで、仲間たちと元気に過ごすことが大切なのだろう。そして、明日もまた。

誰かが新しい技を覚え、誰かが特訓に励み、誰かが喧嘩を始め、ピカチュウが仲裁する。

もし相手がピカチュウを侮れば――。

 

 

 

 

 

 

 

そのときは、容赦なく実力を示すことになる。

こうしてシンヤの実家では、今日も賑やかな一日が終わっていく。

その中心にいるのは、小さな黄色いポケモン。

シンヤの知らぬ間に、いつの間にか仲間たちから一目置かれる存在となった、ピカチュウだった。

 

感想でもあったのですが特性を出すか出さないかについて。期限はある程度表が集まり次第まで

  • 出す。セキエイリーグから出す
  • 出さないか。ホウエンからでいいやろ
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