◆出発前の最終確認
翌朝。
グンジョウシティのポケモンセンターで、シンヤは荷物の最終確認をしていた。
「テント、調理器具、ポケモンフード……よし。忘れ物はないな」
「シンヤ、そっちはもう何度も確認したでしょう?」
隣で荷物をまとめていたレンが、呆れたように笑った。
「旅に必要なものだからな。確認しておくに越したことはない」
「ふふっ。几帳面なのね」
「レンこそ、化粧品や手入れ用品を忘れてないか?」
「もちろんよ。ポケモンたちのお手入れ用品も、ちゃんと確認済みだもの」
レンは自分のバッグを軽く持ち上げた。
二人は、今日グンジョウシティを出発する予定だった。
しかし、その前にもうひとつ、確認しておきたいことがある。
「出発する前に、市庁舎へ寄っていこう」
シンヤが言った。
「改善計画の引き継ぎね?」
「ああ。俺たちが調査に協力したからといって、俺たちがいなくなったあとに計画が止まってしまったら意味がないからな」
レンは微笑んだ。
「最後まで確認するのね。そういうところ、シンヤらしいわ」
「ここから先は、街の人たちが中心になって進めていくことになる。だからこそ、ちゃんと引き継がれているか確認しておきたいんだ」
二人は荷物をまとめ終えると、ポケモンセンターを後にした。
◆改善計画の引き継ぎ
市庁舎の会議室には、キョウ、エリカ、市の担当者、工場の管理責任者、そして環境調査を担当する専門家たちが集まっていた。
机の上には、これまでの調査記録と今後の改善計画が並べられている。
「わざわざ出発前に確認に来てくれたのか」
キョウが尋ねた。
「はい。俺たちがいなくなったあとも、計画が続けられることを確認したかったんです」
シンヤは、用意されていた資料に目を通した。
最初に確認したのは、水質調査についてだった。
「海水と河川水の採取は、今後も定期的に行う予定ですか?」
「そのとおりです」
市の担当者が答えた。
「採取地点と日時を記録し、検査結果を過去のデータと比較します。異常が見つかった場合には、追加調査を行うことになっています」
「検査結果は、住民の方々にも公開されるんですよね?」
レンが確認した。
「はい。専門家の説明を添えたうえで、定期的に公表する予定です。数値だけでは分かりにくい部分もありますから、何が分かり、何がまだ分かっていないのかも説明します」
「それなら安心です」
レンはうなずいた。
シンヤは、次の項目へ視線を移した。
「排水設備の修繕については?」
工場の管理責任者が答えた。
「漏水の可能性があった配管については、応急措置を実施しました。現在は本格的な修繕に向けて準備を進めています。ほかの設備についても、点検記録を確認し、劣化の程度に応じて修繕計画を組み直しています」
「修繕後も、排水の水質と量を確認してください。設備が直ったことと、汚染が止まったことは別ですから」
「分かっている。修繕前後のデータを比較し、必要なら追加対策を行うつもりだ」
責任者は真剣な表情で答えた。
以前は費用や操業への影響を心配していた彼も、今では具体的な改善策について話すようになっていた。
「それから、ベトベターたちの生息環境についても、引き継ぎをお願いします」
シンヤが続けた。
「危険な設備の周囲にポケモンが集まる原因を調べ、安全対策を進める。必要なら生息環境の改善も検討する。ただし、無理に移動させず、ポケモンの状態や移動先の安全を確認してから判断する、という方針でしたよね」
「ええ」
環境調査の専門家が答えた。
「現在、ベトベターたちが利用している場所を記録し、周辺環境との関係を調べています。生息地を移す必要があるかどうかも含め、調査結果をもとに判断します」
「よかった」
シンヤは小さくうなずいた。
これで、少なくとも調査と改善を続けるための体制は整いつつある。
しかし、彼は最後に、もうひとつ確認した。
「担当者が変わったり、予算の都合で計画が遅れたりした場合は、どうするんですか?」
会議室が少し静かになった。
シンヤは続けた。
「こういう計画は、始めることより、続けることのほうが難しい場合があります。誰が何を担当しているのか、いつまでに何をするのか、遅れたときは誰に報告するのか。
そこまで決めておいたほうがいいと思います」
市の担当者は、資料を見直した。
「確かに、そこはまだ十分ではありませんでした。市の環境担当部署を窓口にして、工場、専門家、住民代表との定期的な連絡会を設けましょう。進捗と課題を記録し、必要な場合は計画を見直すことにします」
「それなら、俺たちがいなくなったあとも、状況を確認しながら進められますね」
「そうだな」
キョウが満足そうにうなずいた。
「旅人がいつまでも街に留まるわけにはいかぬ。だが、問題を解決する仕組みは、この街に残すことができる」
エリカも微笑んだ。
「あなたたちは、ただ問題を指摘しただけではありませんでした。街の人々が自分たちで改善を続けられるよう、道筋を整えてくれたのですわ」
「俺たちだけでは、ここまでできませんでしたよ」
シンヤは首を横に振った。
「工場の方々も、市の方々も、住民の方々も、協力してくれたからこそです」
「ふふっ。シンヤは、すぐに自分の功績を小さく言うのね」
レンがからかうように言った。
「事実を言ってるだけだよ」
「はいはい。そういうことにしておきましょうか」
レンは楽しそうに笑った。
◆住民たちとの約束
市庁舎を出ると、入り口の近くで数人の住民が待っていた。
海岸清掃に参加していた人々だった。
「あんたたち、今日出発するんだってね」
年配の女性が、シンヤたちに声をかけた。
「はい。まだ確認したいことはありますが、あとはキョウさんたちや市の方々に引き継いでいきます」
「そうかい……。ありがとうね」
女性は、少し照れくさそうに笑った。
「最初は、どうせ何も変わらないんじゃないかと思っていたんだよ。今までも、海をきれいにしようって話は何度かあったからね」
「……」
「でも、今回は工場の人たちも一緒に調べてくれることになった。何が原因なのか、どこを直せばいいのか、少しずつ分かってきた。だから、今度こそ続けていこうと思うんだ」
シンヤは静かにうなずいた。
「すぐに海がきれいになるわけではありません。でも、調査と対策を続けていけば、改善できる可能性はあります。無理をせず、長く続けていってください」
「分かってるよ。私たちも、できることをやっていくさ」
別の住民も口を開いた。
「工場の人たちだって、街を悪くしたいわけじゃなかったんだよな。こっちも、相手の事情をちゃんと聞かずに責めていたところがあったのかもしれない」
「もちろん、環境への責任がなくなるわけではありません。でも、原因を調べて、必要な改善をして、同じ問題を繰り返さないことが大切だと思います」
シンヤは答えた。
「誰かを責めて終わりにするより、実際に変えていくことが大事ですから」
女性は、何度もうなずいた。
「そうだね。あんたたちに教えてもらったことを、忘れないようにするよ」
そのとき、少し離れた場所から、聞き慣れた声が響いた。
「おーい! シンヤー!」
サトシだった。
隣にはタケシとカスミ、そしてベトベトンもいる。
「お前たち、もう出発するのか?」
「ああ。そっちはどうするんだ?」
シンヤが尋ねる。
「オレたちも、そろそろ旅を続けるつもりだ!」
サトシは元気よく答えた。
「でも、その前にベトベターたちの様子を見ておきたくてさ」
ベトベトンは、サトシの隣で身体を揺らしていた。
「専門家の人たちが、これからも調べてくれるんだよな?」
「もちろんだ」
シンヤはうなずいた。
「ただ、環境の改善には時間がかかる。これからも様子を確認して、何か変化があれば、キョウさんたちに伝えてくれ」
「分かった!」
サトシは力強く答えた。
「オレも、ポケモンたちのことをもっと知るようにする。どんな場所で暮らしてるのか、何を必要としてるのか、ちゃんと考えるよ!」
タケシが、穏やかに微笑んだ。
「今回の経験は、サトシにとっても大きかったみたいだな」
「うるさいな、タケシ!」
「はははっ!」
カスミも笑った。
「でも、私も同じよ。水ポケモンたちのために、できることがあるなら協力したいわ」
シンヤは、三人を見回した。
「それなら、またどこかで会ったときに、お互いの旅の話をしよう」
「おう!」
サトシは笑顔で拳を突き出した。
シンヤも、その拳に自分の拳を軽く当てた。
◆街との別れ
出発の直前、サトシはベトベトンと一緒に、もう一度海岸へ向かった。
シンヤとレンも、少しだけ同行することにした。
波打ち際には、前日よりもゴミが少なくなっていた。
けれど、海水はまだ濁っている。
「……やっぱり、まだ汚いな」
サトシは残念そうにつぶやいた。
「そうだな。でも、海岸のゴミは減っているし、設備の修繕も始まっている。少しずつだけど、変化は出てきているよ」
シンヤは答えた。
「ただし、本当に環境が回復しているかどうかは、水質やポケモンたちの状態を継続して調べないと分からない」
「うん。分かってる」
サトシはベトベトンを見た。
「ベトベトン。オレたちは旅を続けるけど、またここに来ようぜ!その時はきっともっときれいになってるさ!」
「ベトベトーン!」
ベトベトンは、嬉しそうに身体を揺らした。
サトシは笑いながら、その身体を抱きしめた。
「よーし! それじゃあいこう!」
ベトベトンはサトシを包み込むように身体を広げた。
「うわっ! だから、くっつきすぎだって!」
いつものやり取りに、シンヤとレンは思わず笑った。
やがて、サトシたちは海岸を離れた。
それぞれの旅路へ戻るために。
◆次の街へ
グンジョウシティの出口。
シンヤとレンは、並んで街を振り返った。
工場地帯からは、今日も煙が上がっている。
海はまだ濁っている。
街の問題が、すべて解決したわけではない。
それでも、住民たちは海岸清掃を続け、工場側は設備の修繕に着手し、市は水質調査と改善計画を継続するための体制を整えた。
そして、ベトベターたちの生息環境についても、専門家による調査が始まっている。
シンヤは、その光景を目に焼きつけるように見つめた。
「……これで、俺たちにできることは一段落かな」
「ええ。あとは、この街の人たちが引き継いでくれるわ」
レンは、シンヤの隣でうなずいた。
「また来たときに、どう変わっているか楽しみね」
「そうだな。海がきれいになって、ポケモンたちが安心して暮らせるようになっているといい」
シンヤはバッグを背負い直した。
「さて、そろそろ出発しよう」
「ええ。次の街では、どんな出会いが待っているのかしら?」
レンは、いつものように楽しげな笑みを浮かべた。
「さあな。行ってみないと分からないよ」
「ふふっ。そういうところは、旅の楽しみね」
二人は歩き始めた。
グンジョウシティの海は、まだ完全には回復していない。
だが、彼らがこの街を去ったあとも、改善への取り組みは続いていく。
いつか再びこの街を訪れたとき、海の色が少しでも変わっていることを願いながら。
シンヤとレンは、次の目的地へ向けて旅を再開した。
というわけで以上、捏造話でした。
この話は、以前感想で「アニポケのオリジナルの街は出さないの?」という感想を貰い、ちょい、考えてた話です。
ここでサトシと再会→バトル→反省→街の状態などなどを調べていく話につなげてみました
サトシの手持ちを無印版で仲間にしてないのを仲間にするか否か
-
仲間にしてええんやで
-
仲間にしなくてもいいだろ