◆グンジョウシティを発つ日の朝。
シンヤたちは、旅立ちの準備を整えながらポケモンセンターのロビーに集まっていた。
サトシはベトベトンをボールに戻そうと悪戦苦闘し、タケシはそんな彼を苦笑しながら眺めている。
レンは持ち物を確認し、シンヤは次の目的地へ向かう道順を地図で確認していた。
そのときだった。
「あの、シンヤ」
カスミが、少し改まった表情で声をかけた。
「ん? どうした、カスミ?」
「ちょっと……話があるの」
いつもの元気な様子とは違う。
シンヤが地図を畳むと、カスミは小さく息を吸った。
「ニビシティの次にハナダシティへ来たときのこと、覚えてる?」
「もちろん。ハナダジムでバトルしたときのことだろ?」
「……それもあるけど、もっと前よ」
カスミは視線を落とした。
「私のお姉ちゃんたちのこと」
その言葉に、シンヤは少しだけ目を瞬かせた。
「ああ……人魚ショーをやってたときの?」
「そう」
カスミは唇を結び、それから頭を下げた。
「ごめんなさい!」
突然の謝罪に、サトシたちも顔を上げる。
「えっ、カスミ? どうしたんだよ、急に」
「いいから、ちょっと黙ってて!」
サトシを一喝してから、カスミは改めてシンヤを見た。
「お姉ちゃんたちは、ジムリーダーとして挑戦者を迎えなきゃいけない立場なのに、バトルの代わりに、人魚ショーを手伝ってくれたらバッジをあげるなんて言ったでしょ?」
「まあ、そうだったな」
「本当にごめんなさい。あのときは、ジムのことをちゃんと考えていなかった。挑戦者に対しても失礼だったと思う」
カスミの声には、言い訳をするつもりのない真剣さがあった。
「私はあのあとも、ずっと気になってたの。あのときのあなたは、ジムリーダーとしての責任をちゃんと果たしてほしいって言ってた。なのに、私の姉たちは……」
「カスミ」
シンヤは穏やかに彼女の言葉を遮った。
「別に、もう気にしてないぞ」
「でも……!」
「確かに、あのときはちょっと呆れたけどな。ジムリーダーが挑戦者とのバトルよりショーを優先するのは、さすがにどうかと思ったし」
「うっ……」
「でも、そのあと俺はバトルをしてバッジをもらった。今さら蒸し返して怒るつもりはないよ」
シンヤは肩をすくめた。
「それに、あの出来事があったからこそ、ジムリーダーの仕事について考える機会にもなったんじゃないか?
まあ、あの後のことは見てないからどうしてたかわからんけど」
「シンヤ……」
「だから、気にするなって」
カスミはしばらく黙っていた。
やがて、顔を上げる。
「……ううん。それでも、私は謝りたかったの」
その表情は、先ほどよりもずっと晴れやかだった。
「そして、もうひとつ。これは謝罪とは別の話よ」
カスミは腰に手を当て、いつもの調子を取り戻す。
「改めて、ハナダジムのジムリーダーとして、私があなたの相手をするわ!」
「……今から?」
「そうよ!」
「カスミ、俺たちそろそろ出発するんだけど」
「分かってるわよ! だから、長々とはやらないわ!」
カスミは自信満々に宣言した。
「一対一! それならすぐに決着がつくでしょ?」
「なるほど。それならいいぞ」
シンヤがあっさり承諾すると、レンが隣から彼の顔を覗き込んだ。
「ふふっ。シンヤ、またバトルなのね。旅立つ直前まで忙しいこと」
「まあ、短い勝負だからな」
「その言葉、今まで何度聞いたかしら?」
「……気のせいだろ」
「ふふふっ♪」
レンの楽しそうな笑い声に、シンヤは苦笑した。
◆ハナダジム・臨時バトルフィールド
ポケモンセンターからほど近い場所にある、簡易バトルフィールド。
カスミはフィールドの反対側に立つと、モンスターボールを取り出した。
「それじゃあ、始めましょう!」
「おう!」
審判役はタケシが引き受けた。
サトシとレンは観客席代わりのベンチに並び、試合を見守る。
「カスミの出すポケモンは、やっぱり水タイプかな?」
サトシが尋ねると、レンが頷いた。
「ええ。ハナダジムは水タイプを専門にしているのでしょ?」
「じゃあ、シンヤは何を出すんだろうな? ゲンガーか? それとも相棒のリザードン?」
サトシが期待に胸を膨らませていると、カスミがボールを掲げた。
「行くわよ、マイステディ!」
光とともに、星形のポケモンがフィールドへ現れる。
中央の赤い宝石が輝き、水面を思わせる光沢を帯びた身体がゆっくりと回転した。
「スターミーか。なるほどな」
シンヤは頷き、腰のボールへ手を伸ばす。
「だったら、こっちも頼むぞ!」
ボールが開き、黄色いポケモンが軽やかに着地した。
「ピカチュウ!」
「ピカッ!」
「……え?」
サトシが目を見開いた。
「ピ、ピカチュウ!?」
サトシは自分の肩に乗っている相棒と、フィールドに立つもう一匹のピカチュウを交互に見た。
「シンヤもピカチュウを持ってたのか!?」
「まあな。トキワの森で出会ったんだ」
「そうだったのか……!」
サトシは驚きつつも、すぐに二匹を観察し始めた。
見た目は同じピカチュウだ。
だが、よく見ると違いがある。
シンヤのピカチュウは、四肢にしっかりと力が入っていた。重心は低く、いつでも前後左右へ動ける姿勢。耳の向きも、視線も、スターミーのわずかな動きを捉えている。
対するサトシのピカチュウも元気いっぱいだが、こちらはサトシの肩から降りたあと、相手を見て首を傾げていた。
「ピカ?」
シンヤのピカチュウは、そんなサトシのピカチュウへ一瞬だけ視線を向けると、すぐにスターミーへ意識を戻した。
「……なんか、シンヤのピカチュウ、雰囲気が違うな」
サトシがぽつりと呟いた。
タケシも真剣な表情で頷く。
「姿勢がいいな。無駄な動きがほとんどない。相手をよく観察している」
レンは微笑んだ。
「シンヤのピカチュウは、普段からよく鍛えられているもの。おうちにいるポケモンたちの中でも、ずいぶん存在感があるみたいよ?」
「えっ、そうなのか!?」
「ええ。詳しい話は、また今度ね」
レンは意味ありげに微笑んだ。
シンヤのピカチュウが自宅でどのような立場になっているのか。
それを知れば、サトシはもっと驚くことになるだろう。
もっとも、今はそれを知る由もなかった。
というかしばらくして聞いてたシンヤ本人も驚いてたぐらいである。
「両者、準備はいいな?」
タケシが二人を見渡す。
「いいわ!」
「いつでも!」
「それでは――バトル開始!」
◆第一戦 スターミーVSピカチュウ
「スターミー、みずでっぽう!」
カスミの指示と同時に、スターミーが勢いよく水を噴射した。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ピカッ!」
ピカチュウは地面を蹴り、水流が届く直前に横へ飛び出した。
水が地面を叩き、しぶきが上がる。
しかし、ピカチュウはすでにスターミーの側面へ回り込んでいた。
「速い……!」
カスミは目を見張る。
「逃がさないで!スターミー、サイコキネシス!」
スターミーの宝石が光り、ピカチュウの身体を念力で捉えようとする。
だが――。
「ピカチュウ、ジャンプ!」
ピカチュウは前足を地面につけ、跳ねるように高く飛び上がった。
念力が地面を押さえつけるよりも早く、拘束の範囲から抜け出す。
「そのまま、アイアンテール!」
尻尾が銀色に輝く。
ピカチュウは空中で身体をひねり、落下の勢いを乗せてスターミーへ振り下ろした。
「スターミー、受け止めて!」
スターミーは回転しながら攻撃を受け止めようとした。
金属音が響く。
しかし、ピカチュウの一撃は重かった。
スターミーの身体が地面へ押し込まれ、フィールドに小さな亀裂が走る。
「くっ……! スターミー、アクアジェット!」
スターミーは水をまとい、ピカチュウの懐へ突進した。
至近距離からの高速攻撃。
普通なら、かわす余裕はほとんどない。
だが、シンヤは落ち着いていた。
「ピカチュウ、回避!」
「ピカッ!」
ピカチュウは正面から迎え撃つように踏み込んだ。
スターミーが反応し、進路を微調整する。
その瞬間――ピカチュウの身体がふっと横へ流れた。
スターミーが狙った場所には、もう誰もいない。
「今だ、かみなりパンチ!」
ピカチュウの拳が電気をまとった。
「ピカァァッ!」
拳がスターミーの中心部へ叩き込まれる。
激しい火花が散り、スターミーはフィールドを滑るように吹き飛んだ。
「スターミー!」
カスミが叫ぶ。
スターミーは立ち上がろうとしたものの、身体がふらつく。
それでも、まだ戦う意思を見せていた。
「頑張って、スターミー! もう一度、サイコキネシス!」
スターミーの宝石が再び輝く。
ピカチュウの周囲の空気が揺らいだ。
しかし、今度はシンヤが先に動く。
「ピカチュウ、かげぶんしん!」
ピカチュウの姿が左右へ分かれ、フィールドを駆け抜ける。
スターミーは念力で本体を捉えようとするが、分身しているピカチュウに狙いを定めきれない。
「そこよ! スターミー、みずでっぽうを広く撃って!」
水流がフィールドを横切り、分身を次々とかき消していく。
だが、それはシンヤの狙いどおりだった。
「今だ。ピカチュウ、かみなりパンチ!」
「ピカァァァッ!」
ピカチュウの拳が電気を纏い、そのままスターミーの中心部へ叩き込まれる。
水しぶきが残る地面を電撃が駆け抜け、逃げ場を塞いだ。
「スターミー!」
カスミが声を上げる。
スターミーは最後まで耐えようとした。
しかし、拳の電気が収まったとき、その身体は力なく地面へ落ちていた。
「……スターミー、戦闘不能」
タケシが手を上げる。
「勝者、シンヤ!」
「よし!」
シンヤが拳を握ると、ピカチュウは得意げに胸を張った。
「ピカッ!」
カスミはスターミーをボールへ戻し、しばらく黙っていた。
そして、ふっと笑う。
「……参ったわ。ここまで差があるとは思わなかった」
「スターミーも強かったぞ。サイコキネシスの使い方も、アクアジェットで距離を詰める判断も悪くなかった」
シンヤは素直に評価した。
「でも、ピカチュウの方が一枚上手だったってことね」
カスミは自分のボールを握りしめた。
悔しさはある。
けれど、それ以上に、ジムリーダーとして得られたものがあった。
「ありがとう、シンヤ君。これで、ちゃんと謝罪と再戦ができたわ」
「どういたしまして」
二人が握手を交わす。
その横では、サトシがいまだに呆然としていた。
◆サトシが見た差
「……すげえ」
サトシは、フィールドのピカチュウを見つめたまま呟いた。
「同じピカチュウなのに……」
サトシの肩にいたピカチュウが、不思議そうに彼の顔を覗き込む。
「ピカ?」
「いや、お前が弱いって言ってるんじゃないぞ!」
サトシは慌てて相棒を抱き上げた。
「ただ……あいつ、すげえ強かったな」
シンヤのピカチュウは、バトルが終わると緊張を解き、シンヤの足元へ戻ってきた。
その動きには無駄がない。
戦いの最中は相手から目を離さず、指示が出れば即座に反応する。そして攻撃を終えたあとは、必要以上に動き回らず、次の指示を待つ。
サトシは自分のピカチュウを見つめた。
自分たちは、まだ旅を始めて間もない。
ピカチュウと衝突したこともある。言うことを聞いてくれなかったこともある。それでも、ここまで一緒に旅をしてきた。
だからこそ、サトシは分かった。
シンヤのピカチュウは、ただ技が強いだけではない。
戦い方そのものが違うのだ。
「なあ、シンヤ!」
「ん?」
「お前のピカチュウ、どれくらい鍛えてるんだ?」
「そうだな……。普段からバトルもするし、ほかのポケモンと一緒に訓練もしてるよ」
「ほかのポケモンと?」
「うちには、いろんなポケモンがいるからな。相手を変えながら戦えば、それだけ経験も増える」
「そっか……!」
サトシは目を輝かせた。
「じゃあ、俺たちももっとバトルすれば、あんなふうに強くなれるんだな!」
「経験を積むのは大事だ。でも、数をこなすだけじゃ足りないぞ」
シンヤは、サトシの目をまっすぐ見た。
「相手が何をしてくるのか。どんな動きをするのか。自分のポケモンが何を得意としていて、何が苦手なのか。それを考えながら戦えば、同じ一戦でも得られるものは変わる」
「相手を見て……考える……」
「そう。お前のピカチュウにも、こいつとは違う強みがあるはずだ。それを見つけて、伸ばしてやればいい」
サトシはしばらく考え込んだ。
やがて、力強く頷く。
「分かった! 俺もピカチュウと一緒に、もっと強くなる!」
「ピカピカ!」
サトシのピカチュウも、元気よく鳴いた。
シンヤのピカチュウはそれを見て、少しだけ耳を動かした。
まるで、いつかまた戦う日を楽しみにしているかのようだった。
「ピカ?」
「ふふっ。どうやら、シンヤのピカチュウもサトシたちを気に入ったみたいね」
レンが楽しそうに言う。
「そうなのか?」
「さあ、どうかしら?」
「おいおい……」
シンヤが苦笑する。
カスミはそんな一同を見て、明るい声で言った。
「よし! これで気持ちよく旅立てるわね!」
「そうだな。そろそろ出発するか」
シンヤはピカチュウの頭を軽く撫でた。
「よくやったな、ピカチュウ」
「ピカッ!」
こうして、カスミはハナダジムのジムリーダーとして、かつての出来事にひとつの区切りをつけた。
そしてサトシは、同じ種族のポケモンであっても、育て方や経験、トレーナーの指示によって、戦い方には大きな差が生まれるのだと知った。
その差は、決して埋められないものではない。
これからの旅で、サトシとピカチュウがどんな経験を積んでいくのか。
それは、まだ誰にも分からない。
「それじゃあ、またな!」
「ああ。またどこかで会おう!」
シンヤたちは手を振り、次の目的地へ向けて歩き出した。
その背中を、サトシはいつまでも見送っていた。
ピコン!サトシに強化フラグがたった!
ただし手持ちが増えるかはアンケート次第
サトシの手持ちを無印版で仲間にしてないのを仲間にするか否か
-
仲間にしてええんやで
-
仲間にしなくてもいいだろ