◆ヤマブキジムでの激闘から翌日。
シンヤとレンは、ヤマブキシティにあるナツメの自宅を訪れていた。
理由は単純。
「お茶会に招待したいの」
昨日のジム戦が終わったあと、ナツメからそう誘われたのである。
もちろん、シンヤは二つ返事で了承した。
美味しい紅茶が飲めるうえ、昨日の激闘を通じて知り合った相手とゆっくり話せるのだから、断る理由もない。
……もっとも。
「…………」
レンは、向かい側に座るナツメをじっと見つめていた。
「どうしたの、レンさん? 紅茶が冷めてしまうわよ?」
「……いえ。何でもないわ」
「そう? なら、どうぞ召し上がれ。今日のお茶は、ヤマブキでも評判の茶葉を使っているの」
「……いただくわ」
レンは優雅な仕草でティーカップを持ち上げた。
そして、一口。
「…………!」
その瞬間、レンの表情がわずかに変化した。
芳醇な香り。口の中に広がる豊かな味わい。飲み込んだあとにも残る、心地よい余韻。
なるほど、確かに美味しい。
もう一口。
そして、もう一口。
先ほどまでナツメを警戒するように見つめていたレンの表情から、少しずつ険しさが消えていった。
ナツメはそれを見届けると、カップを口元へ運びながら、ほんのわずかに口角を上げた。
(ふっ……計画通り)
その顔を見たシンヤは、危うく紅茶を吹き出しそうになった。
(お前はどこの新世界の神になる男だよ……!)
幸い、シンヤはどうにか笑いをこらえた。
しかし、口元がぴくぴくと震えている。
「……シンヤ?」
「ん? いや、何でもない」
「そう? さっきから、ずいぶん楽しそうだけれど」
「気のせいだ。うん、気のせい」
シンヤは紅茶を飲んで誤魔化した。
その様子を見て、ナツメは楽しそうに目を細める。
「ふふっ。あなたといると退屈しないわね」
「そりゃどうも」
「……お二人とも、ずいぶん仲がよろしいのね?」
レンがにっこりと微笑んだ。
その声には、どこか圧があった。
「昨日、一緒に全力でバトルしたからな」
「ええ。とても楽しかったわ」
ナツメは悪びれもせずに答える。
「シンヤのリザードン、本当に素晴らしかったもの。あれほどの強敵と戦えたのは、久しぶりだったわ」
「……そう」
レンは再び紅茶を口にした。
美味しい。
実に美味しい。
――だからこそ、今は余計なことを考えずに紅茶を楽しむことにした。
シンヤは、そんなレンを見て苦笑した。
(レン、紅茶が美味しくて助かったな……)
やがて、ひと通りお茶を楽しんだところで、シンヤは本題を切り出した。
「ところで、ナツメさん。今日はどうして俺たちを招待してくれたんだ?」
「そうね。お茶会だけが目的というわけではないの」
ナツメはカップをソーサーへ戻した。
そして、部屋の隅に置かれていた大きな箱へ視線を向ける。
「シンヤ。あなたに見せたいものがあるの」
「俺に?」
「ええ。少し重いから、気をつけてね」
ナツメは超能力で箱を持ち上げ、テーブルの上へ静かに置いた。
大きさは、ちょっとした旅行鞄ほどもある。
頑丈な造りで、表面には細かな装飾が施されていた。
シンヤは箱を見つめた。
「……何だ、これ?」
「開けてみて」
「分かった」
留め具を外し、蓋を持ち上げる。
そして、中を見た瞬間――。
「…………」
シンヤの動きが止まった。
箱の中には、専用の仕切りに収められたグローブがひとつ。
そして、その周囲には、大小さまざまな色や形の石が並んでいた。
シンヤはグローブを慎重に持ち上げる。
「これは……キーストーンを埋め込んだ、左手用のグローブか?」
「正解よ」
ナツメは頷いた。
シンヤはグローブの表面を観察する。
左手の甲に、キーストーンを固定するための装飾が施されている。装着する人物の動きを妨げないよう、関節部分には柔軟な素材が使われていた。
しかも、ただ石を取り付けただけの簡素な品ではない。
細部の仕上がりが、妙に見覚えのあるものだった。
「……この造り、まさか」
シンヤはグローブを元の位置へ戻し、今度は隣に並んだ石へ目を向けた。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
その特徴的な形状と、石の内部に感じられる不思議な気配。
見間違えるはずがなかった。
「これは――メガストーン!?」
思わず声が大きくなる。
レンも興味深そうに身を乗り出した。
「メガストーン? こんなにたくさん?」
「そうだ。これ、全部メガストーンだよ!」
シンヤは目を輝かせた。
先ほどまでの落ち着いた態度は、どこへやら。
彼の視線は、箱の中に並んだ石へ釘付けになっていた。
ナツメは満足そうに微笑んだ。
「ええ。これが、今日あなたを招待した理由よ」
◆ナツメが集めた石
「これらは、私がトレーナーとして旅を始めたころに見つけたものなの」
ナツメは箱の中のメガストーンを見つめながら語り始めた。
「最初は、ただの珍しい石だと思っていたわ。でも、調べていくうちに、それぞれが特定のポケモンと深い関係を持っていることが分かった」
「旅の途中で見つけたのか?」
「そうよ。各地を巡るなかで、偶然見つけたり、人から譲り受けたりしたものもあるわ」
ナツメはひとつの石を手に取った。
「ただ、私が実際に使うキーストーンはひとつあれば十分。それに、私がメガシンカさせたいと思うのは、相棒のフーディンだけなの」
彼女の声には、迷いがなかった。
「ほかのポケモンたちを大切に思っていないわけではないわ。でも、私にとってフーディンは特別な存在。これからも、あの子と一緒に戦っていきたい」
「なるほどな……」
シンヤは頷いた。
メガシンカは、単に強いポケモンをさらに強くするためだけのものではない。
トレーナーとポケモンの絆が重要な意味を持つ。
ナツメがフーディンだけをメガシンカさせたいというのなら、それも彼女なりの考えなのだろう。
「それなら、どうして俺に?」
シンヤが尋ねると、ナツメは微笑んだ。
「必要としている人が現れたからよ」
「……俺が?」
「ええ」
ナツメはシンヤをまっすぐ見つめた。
「昨日のバトルを見て、確信したの。あなたなら、これらの石を託す意味があると」
「意味、か……」
「あなたはポケモンをよく理解している。強さだけを求めているわけでもない。そして、ポケモンたちの力を引き出すために、いろいろな工夫をしている」
ナツメは昨日のバトルを思い返すように、目を細めた。
「六匹を使えるという条件を聞いて、あなたはすぐに作戦を組み立てた。最初の四匹でフーディンの体力を削り、バタフリーで能力を高め、最後にリザードンへ力を引き継ぐ。しかも、リザードン自身の強化まで重ねてきた」
「まあ、あのルールなら、そうするのが一番効率的だと思ったからな」
「それを即座に実行できる人は、そう多くないわ」
ナツメは箱をシンヤのほうへ押し出した。
「だから、あなたに託したいの」
シンヤは、改めて箱の中を見つめた。
そこには、彼が前世で知っていたメガストーンが、いくつも並んでいた。
ゲームで見慣れたもの。
図鑑や攻略情報で知識として覚えていたもの。
それらが今、目の前に実物として存在している。
しかも、自分の手持ちのポケモンたちに対応するものまで含まれているのだ。
「……すごいな、これ」
シンヤは思わず呟いた。
「これだけの数を、よく集めたな」
「時間はかかったわ。けれど、集めたまま眠らせておくより、活用してくれる人に渡したほうがいいでしょう?」
「確かに……」
「もちろん、無理に全部を使う必要はないわ。メガシンカさせるかどうかは、あなたとポケモンたちが決めることよ」
その言葉に、シンヤは深く頷いた。
「分かった。ありがとう、ナツメさん」
そして、再びグローブを手に取った。
その瞬間、シンヤの表情が変わった。
「……待てよ」
彼はグローブを裏返し、縫製部分を確認した。
そして、装飾の形状、素材の組み合わせ、留め具の構造をじっくりと観察する。
「この設計……この固定方法……」
見覚えがある。
というより、見覚えがありすぎる。
シンヤは顔を上げた。
「ナツメさん。これ、もしかして……父さんの発明品か?」
ナツメは、待っていましたとばかりに頷いた。
「ええ。正解よ」
「やっぱり!?」
シンヤは思わず声を上げた。
「父さん、こんなものまで作ってたのか……!?」
「あなたのお父様とは、私の両親が知り合いなの。以前、装備品の開発に関する相談を受けたことがあったそうよ」
「ええっ!?」
シンヤは驚きのあまり、椅子の背もたれに身体を預けた。
「ちょっと待ってくれ。父さんとナツメさんの両親が知り合い? いつの間にそんな関係になってたんだ……?」
「詳しいことは、私もすべて知っているわけではないけれどね」
ナツメは楽しそうに笑った。
「ただ、私が旅を始める前に、両親からあなたのお父様の話を聞いたことはあるわ。とても優秀な発明家だって」
「……父さん、いったいどこまで顔が広いんだ?」
シンヤは額を押さえた。
父はガラル地方出身で、発明家として活動している。
そのこと自体は知っていた。
しかし、まさかヤマブキジムのリーダーの家族とまで繋がりがあるとは。
「そういえば、父さんがヤマブキシティへ行ったことはあったな……」
「ええ。実は、今回のことも関係しているの」
ナツメは少しだけ声を落とした。
「あなたのお父様が、私の両親に頼んだそうよ」
「何を?」
「もし、メガシンカしたフーディンと戦って、それでもあなたが勝てるようなら――このグローブとメガストーンを、あなたに渡してほしいって」
「…………」
シンヤは固まった。
「……父さん?」
ナツメは頷いた。
「ええ。あなたのお父様がジョウト地方へ向かう前に、ヤマブキシティへ立ち寄る可能性を考えて、事前に話を通していたみたい」
「いやいやいや……!」
シンヤは両手で顔を覆った。
「父さん、行動力がありすぎるだろ!? いつの間にそんな話をまとめてたんだよ!」
「ふふっ。あなたのお父様らしいと思うわ」
「いや、確かに父さんらしいけどさ……!」
シンヤは苦笑するしかなかった。
息子の旅路を考え、必要になりそうな道具を準備する。
そこまでは、いつものことだ。
しかし、まさかジムリーダーの家族と連携し、メガシンカに関わる品まで用意していたとは。
(……本当に、うちの父さんは何者なんだ?)
シンヤは改めて箱を見つめた。
これほど貴重な品を、父は息子の旅のために用意してくれた。
その気持ちが、じわりと胸に広がる。
「……そっか」
シンヤは小さく笑った。
「父さんにも、あとでお礼を言わないとな」
◆メガストーンの数々
そのとき、紅茶を飲み終えたレンが、箱の中を覗き込んだ。
「へえ……。メガストーンって、こんなにたくさんあるのね」
彼女はひとつひとつの石を眺めながら、感心したように呟いた。
「私が知っているのは、サーナイトとクチートくらいだったわ」
「カロス地方では、メガシンカの研究も進んでいるものね」
ナツメが答える。
「ええ。カルネ様のサーナイトは有名だし、クチートのメガシンカも印象的だわ」
レンはそう言って、サーナイトナイトとクチートナイトを探すように視線を動かした。
「……あら。本当にあるのね」
「もちろん。ほかにも、いろいろなポケモンのメガストーンがあるわ」
ナツメは箱の中を指し示した。
「ただ、すべてのポケモンに対応する石が揃っているわけではないの。見つかっていないものもあるし、存在そのものが知られていないものもあるでしょうね」
シンヤは黙って頷いた。
前世の知識では、メガシンカに対応するポケモンは九十種類以上に及んでいた。
だが、目の前の箱に収められているのは、その一部だ。
それでも、およそ二十種類。
これだけの数が一度に手に入るのは、尋常なことではない。
シンヤはひとつずつ、石の特徴を確かめていった。
そして――。
「……おお」
思わず声が漏れる。
リザードナイト。しかもXとY両方。
ピジョットナイト。
ギャラドスナイト。
フーディナイト。
ゲンガナイト。
ハガネールナイト。
さらに、スピアー、カメックス、フシギバナなど、今の主力メンバーに関係するものまで含まれていた。
「……すごいな。俺の手持ちに関係するものが、かなり揃ってる」
「あなたのお父様から、現在の手持ちについて、ある程度話を聞いていたの」
ナツメが説明する。
「もちろん、すべてを把握しているわけではないわ。でも、あなたがどんなポケモンを育てているのか、参考にさせてもらったのよ」
「なるほど……」
シンヤは石をひとつ持ち上げた。
リザードンのメガシンカ。
ゲームの中では何度も見た。
しかし、今のリザードンが実際にメガシンカしたら、どれほどの力を発揮するのだろう。
考えるだけで胸が躍る。
だが、同時に忘れてはならないこともあった。
メガストーンを手に入れたからといって、すぐにメガシンカできるわけではない。
キーストーンとの共鳴。
ポケモンとの絆。
そして、メガシンカした力を制御するための訓練。
必要なことは、いくらでもある。
「……すぐには使わないほうがいいな」
シンヤが呟くと、ナツメは満足そうに頷いた。
「ええ。そう考えてくれるなら、安心だわ」
「せっかく託してもらったんだ。石を持っているだけで満足するつもりはないけど、焦って使うつもりもないよ」
「それでいいの」
ナツメは微笑んだ。
「メガシンカは、ただの強化手段ではないもの。あなたとポケモンたちが、必要だと思ったときに使えばいいわ」
レンも、静かに頷いた。
「そうね。ポケモンの意思を無視してまで、強くなる必要はないもの」
「……レン」
「何かしら?」
「いや。いいことを言うなと思って」
「ふふっ。当然でしょう?」
レンは得意げに胸を張った。
その横で、ナツメが小さく笑う。
「本当に、あなたたちは面白いわね」
「……何か?」
レンが微笑んだまま尋ねる。
「いいえ、何でもないわ」
ナツメもまた、微笑んだ。
二人の間で、再び見えない火花が散った。
そして、その中央にいるシンヤの視線は、相変わらずメガストーンに釘付けだった。
◆ナツメの本音
ひと通りメガストーンを確認したところで、ナツメは紅茶を一口飲んだ。
そして、シンヤへ視線を向ける。
「ねえ、シンヤ」
「ん?」
「あなたのこと、もう少し知りたくなったわ」
シンヤは首を傾げた。
「昨日のバトルで、ずいぶん分かったんじゃないか?」
「バトルについてはね。でも、それ以外のあなたについては、まだ知らないことばかりよ」
ナツメは頬杖をついた。
「同年代の男の子って、どうも見栄っ張りに見えてしまうのよね。自分を大きく見せようとしたり、強さを誇示したり……」
「まあ、そういう人もいるだろうな」
「それに、私は自分が美人だという自覚もあるわ」
ナツメはさらりと言った。
「だから、私の外見だけを見て近づいてくる人もいるのでしょうね。中には、私の身体だけが目的の人だっているかもしれない」
レンの眉が、ぴくりと動いた。
ナツメはそれに気づいているのかいないのか、シンヤを見つめたまま続ける。
「でも、私が求めているのは、そういう相手じゃないの」
「……というと?」
「私と真剣にバトルをしてくれる人。私を本気にさせてくれる人。そして、私自身も楽しませてくれる人よ」
そう言ったナツメの頬が、ほんのりと赤くなった。
「昨日のあなたは、その条件を満たしていたわ」
「……なるほど」
シンヤは素直に頷いた。
ナツメは少し照れたように視線を逸らしたが、すぐに彼を見つめ直す。
「だから、これらの石を渡すのは、あなたとの繋がりを持つための先行投資でもあるの」
「先行投資……?」
シンヤは思わず聞き返した。
ナツメは微笑む。
「ええ。これだけの品を託したのだから、またいつか、私とバトルをしてくれるでしょう?」
「……ああ、そういうことか」
シンヤは納得した。
「それなら、俺も異論はないよ。昨日のバトルは本当に楽しかったし、また戦えるなら歓迎する」
「ふふっ。約束よ?」
「約束だ」
二人は笑顔で頷き合った。
――その瞬間。
「……年を考えなさいよ」
レンの冷静な声が響いた。
「……え?」
シンヤが振り返る。
ナツメはきょとんとした顔をした。
「年?」
「そうよ。シンヤはまだ十歳なのよ?」
「ええ、知っているわ」
「あなたは?」
「私は今年で二十歳よ」
ナツメは何でもないことのように答えた。
レンはこめかみを押さえた。
「だったら、なおさら年齢差を考えなさいよ!」
「あら?」
ナツメは首を傾げた。
「気に入った相手に投資することの、何がおかしいのかしら?」
「何もかもよ!」
レンの声が、少しだけ大きくなった。
「そもそも、先行投資って何なのよ! メガストーンを渡すのはいいわ。でも、あなたの言い方だと、まるでシンヤを自分のものにしようとしているみたいじゃない!」
「ふふっ。そんなつもりはないわよ?」
「本当に?」
「ええ。少なくとも、今はね」
「今は!?」
レンの表情が固まった。
ナツメは楽しそうに笑う。
「だって、これから先、シンヤがどんなトレーナーになるのか、気になるでしょう? また成長した姿を見たいし、もう一度本気で戦ってみたいもの」
「……それだけ?」
「それだけよ?」
「……本当に?」
「ふふふっ」
ナツメは答えず、紅茶を口にした。
レンも紅茶を飲む。
シンヤはメガストーンを見る。
三者三様の反応だった。
(……何で俺が蚊帳の外みたいになってるんだ?)
シンヤは心の中で首を傾げた。
そもそも、彼にとって今の最優先事項はメガストーンだった。
ナツメとの再戦も魅力的だが、これほど貴重な品を手に入れられた喜びには及ばない。
リザードンをメガシンカさせたらどうなるのか。
ギャラドスなら?
ゲンガーなら?
ハガネールなら?
考えれば考えるほど、試してみたいことが増えていく。
もちろん、ポケモンたちの意思と準備が整ってからだ。
だが、その未来を想像するだけで、シンヤの口元は自然と緩んでしまう。
「……シンヤ?」
レンが声をかけた。
「ん?」
「聞いているの?」
「え? ああ、聞いてるぞ」
「……本当に?」
「もちろん。ナツメとの再戦の話だろ?」
「……そう」
レンはじっとシンヤを見つめた。
そして、彼の視線が再び箱へ向かったのを見て、深いため息をついた。
(……この人、本当にメガストーンのことしか頭にないのね)
ナツメはその様子を見て、またしても楽しそうに笑った。
「ふふっ。やっぱり、あなたたちは見ていて飽きないわ」
「……ナツメさん」
「何かしら、レンさん?」
「……別に」
レンは紅茶を飲み干した。
そして、カップをソーサーへ置き、きっぱりと言った。
「とにかく、シンヤは私と一緒に旅をしているの。そこは覚えておいてちょうだい」
「あら、もちろんよ」
ナツメは穏やかに微笑んだ。
「だからこそ、あなたとも仲良くしたいと思っているわ」
「…………」
レンは少しだけ言葉に詰まった。
敵意を向けられているわけではない。
むしろ、ナツメは本気でそう思っているらしい。
だからこそ、余計に厄介だった。
「……ふふっ。そう。なら、いいわ」
レンもまた、微笑み返した。
その笑顔は優雅だった。
ただし、二人の間には、依然として火花が散っていた。
◆大切な贈り物
お茶会も終盤に差し掛かったころ。
シンヤは、改めて箱の中を確認していた。
キーストーンを埋め込んだグローブ。
そして、複数のメガストーン。
どれも、これからの旅において大きな意味を持つ品になるだろう。
シンヤはグローブをそっと持ち上げ、ナツメへ向き直った。
「ナツメさん。本当にありがとう。大事にするよ」
「……ナツメで構わないわ」
「え?」
「ナツメさん、じゃなくて、ナツメ。そう呼んでちょうだい」
彼女は少しだけ照れくさそうに頬を掻いた。
「御同類にさん付けされるのって、何だか変な感じがするのよ」
シンヤは一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「……分かった。じゃあ、ナツメ」
「ええ。それでいいわ」
ナツメは満足そうに頷いた。
「改めて、これらの品をあなたに託すわ。キーストーンもメガストーンも、ただの道具ではない。あなたとポケモンたちの絆を深めるためのものよ」
「分かってる。焦らず、ひとつずつ向き合っていくよ」
「期待しているわ」
シンヤは箱の蓋を閉じ、丁寧に持ち上げた。
その重みを、しっかりと受け止める。
父が用意してくれたもの。
ナツメが旅の中で集め、大切に保管してきたもの。
そして、これから自分とポケモンたちが新たな可能性を切り開くためのもの。
そのすべてを、シンヤは大切にしようと思った。
「いつか、また戦おう」
「ええ。次は、もっと強くなったフーディンを見せてあげるわ」
「こっちも負けないぞ」
二人は笑顔で約束を交わした。
その横で、レンがそっとシンヤの袖を引いた。
「……シンヤ。そろそろ行きましょう?」
「ん? ああ、そうだな」
シンヤは箱を抱え直した。
「今日は本当にありがとう、ナツメ。またヤマブキに来たら、顔を出すよ」
「ええ。待っているわ」
ナツメは二人を玄関まで見送った。
扉の前で、シンヤはもう一度振り返る。
「それじゃあ、またな!」
「またね、シンヤ」
ナツメは微笑んだ。
「……それと、レンさん」
「何かしら?」
「シンヤのこと、よろしくね」
レンは一瞬だけ目を見開いた。
そして、いつもの優雅な笑顔を浮かべる。
「ええ。もちろんよ」
その返事を聞き、ナツメは満足そうに頷いた。
扉が閉まる。
シンヤとレンは、ヤマブキシティの街へと歩き出した。
「……ねえ、シンヤ」
「何だ?」
「あなた、本当にメガストーンが好きなのね」
「え?」
「お茶会の間、ずっと箱を見ていたでしょう?」
「……いや、だって、あれだけのメガストーンだぞ? 気になるに決まってるだろ」
「ふふっ。そうでしょうね」
レンは小さく笑った。
「でも、たまには私のことも見てちょうだい?」
「……え?」
シンヤは足を止めた。
レンは、ほんの少しだけ頬を赤くしていた。
「な、何でもないわ! 今のは忘れて!」
「いや、今のは……」
「忘れてって言ったでしょう!?」
「は、はい!」
シンヤは慌てて頷いた。
レンは顔を背けたまま、歩き始めた。
その耳が赤くなっていることに、シンヤは気づいていた。
けれど、なぜ赤くなっているのかまでは、分からなかった。
そして彼の腕には、未来の可能性を秘めた箱が抱えられていた。
メガシンカという、新たな力への扉。
その先にどんな戦いが待っているのか。
どんなポケモンたちが、新たな姿を見せてくれるのか。
シンヤは、胸の高鳴りを抑えられなかった。
「……よし。まずは、みんなの意思を確かめるところからだな」
「ふふっ。シンヤらしいわね」
二人は並んで歩き続ける。
ヤマブキシティの空は、今日も青く澄み渡っていた。
サトシの手持ちを無印版で仲間にしてないのを仲間にするか否か
-
仲間にしてええんやで
-
仲間にしなくてもいいだろ