ナツメからメガストーンとキーストーン付きのグローブを譲り受けた翌日。
シンヤとレンは、ヤマブキシティを出発する前に、ポケモンセンターの裏手にあるトレーニングスペースを借りていた。
目的は、もちろん――。
「さて、と。昨日もらったメガストーンだけど……せっかくだし、みんなにも見せておこうと思ってな」
シンヤはテーブルの上に大きな箱を置いた。
その隣には、左手にはめるキーストーン付きのグローブ。
レンは箱の中を覗き込み、きらきらと輝く石の数々を眺めた。
「改めて見ても、すごい数よね。これだけのメガストーンを持っている人なんて、そうそういないんじゃないかしら?」
「だろうな。俺も前世の知識がなかったら、ここまで珍しいものだとは思わなかったかもしれない」
「……前世?」
「あっ、いや。以前から知っていたこと、って意味だ」
「ふぅん?」
レンは少しだけ目を細めたが、追及はしなかった。
シンヤは苦笑しながら、箱から一つの石を取り出した。
「ただ、最初に決めておきたいことがある」
「何かしら?」
「メガシンカは、単に強くなるための手段じゃない。少なくとも、俺はそう考えてる」
シンヤは箱の中に並ぶ石を見つめた。
「メガシンカできるからって、全員にやらせるつもりはない。興味がないなら、それでいい。怖いなら無理をする必要もない。俺が強くなりたいからって、みんなの気持ちを無視するのは違うだろ?」
レンは目を丸くした。
やがて、ふっと微笑む。
「……シンヤらしいわね」
「そうか?」
「ええ。あなたって、ポケモンのことになると本当に真剣なんだもの」
「まあ、俺にとっては大切な仲間だからな」
「ふふっ。そういうところ、嫌いじゃないわよ」
レンはさらりと言ってから、ほんの少しだけ頬を染めた。
シンヤは気づかず、ボールを手に取る。
「よし。じゃあ、みんなを呼ぼうか!」
◆ ◆ ◆
最初に登場したのは、リザードンだった。
「リザードン、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」
「グオオ?」
リザードンは不思議そうに首を傾げた。
シンヤは箱から、リザードナイトに相当するメガストーンを取り出す。
橙色の体に、黒い翼。かつてヒトカゲだった頃からともに成長してきた相棒は、その石をじっと見つめた。
「これはメガストーンっていう特別な石だ。俺が左手にはめてるグローブのキーストーンと反応すると、お前はメガシンカできるようになるらしい」
「グオオオ……?」
「簡単に言えば、一時的に今よりも強い姿になれる可能性があるってことだ。ただし、どうなるかはメガシンカの種類によっても違うみたいだな」
リザードンは石に顔を近づけた。
しばらく匂いを嗅ぐようにしていたが、やがてシンヤの顔を見上げる。
「グオッ!」
その目には、はっきりとした闘志が宿っていた。
「……興味あるのか?」
「グオオッ!」
リザードンは力強く頷き、片方の拳を胸に当てた。
まるで、こう言っているようだった。
――もっと強くなれるなら、挑戦してみたい。
しかし、その直後。
リザードンはメガストーンではなく、シンヤの左手を見つめた。
そして、シンヤの肩に大きな手を置く。
「……ん? どうした?」
「グオッ、グオオ!」
リザードンは自分の胸を指し、それからシンヤを指差した。
「……俺と一緒に強くなりたい、ってことか?」
「グオオッ!」
「ははっ! なるほどな。わかった。俺もお前と一緒に強くなりたいよ」
シンヤはリザードンの手を握った。
「でも、今日はまだ試さない。石の反応も、メガシンカしたときの体への負担も、ちゃんと調べてからだ」
リザードンは一瞬だけ残念そうにしたものの、すぐに頷いた。
「グオッ!」
「ふふっ。まるで、すぐにでも試合がしたいって顔ね」
レンが笑うと、リザードンは自信満々に胸を張った。
その姿を見たシンヤは、思わず笑みをこぼした。
最初の反応は、上々だった。
◆ ◆ ◆
次に呼び出したのは、ピジョット。
「ピジョット、こっちに来てくれ」
「ピジョーッ!」
ピジョットは優雅に羽ばたき、シンヤの腕にとまった。
シンヤがメガストーンを見せると、ピジョットは首を傾げ、石をつついた。
「これを使うと、もっと速く飛べたり、今よりも強くなれたりする可能性があるらしい」
「ピジョ?」
ピジョットは石を見つめたあと、翼を広げた。
そして、トレーニングスペースの上空を大きく旋回する。
風を切り、急上昇し、空中で鋭く方向転換する。
最後にはシンヤの頭上を通り過ぎ、再び腕へと戻ってきた。
「ピジョーッ!」
どうやら、空を飛ぶこと自体が楽しいらしい。
「なるほどな。お前は、強さそのものよりも、もっと自由に空を飛べるかどうかが気になるのか」
「ピジョッ!」
ピジョットは満足そうに鳴いた。
「それなら、メガシンカが飛行能力にどう影響するか、調べる価値はありそうだな。でも、今の飛び方を気に入ってるなら、無理に変える必要はないぞ」
ピジョットはシンヤの頬に嘴を軽く寄せた。
そして、再び空を見上げる。
「……ふふっ。ピジョットは、空を飛ぶことが本当に好きなのね」
「ああ。だから、メガシンカした姿でも、あいつが空を楽しめるかどうかは大切にしたい」
シンヤはピジョットを腕から下ろし、優しく翼を撫でた。
ピジョットはもう一度羽ばたくと、近くの木の枝にとまり、誇らしげに胸を張った。
◆ ◆ ◆
続いて現れたギャラドスは、メガストーンを見るなり大きな咆哮を上げた。
「ギャアアアアアッ!」
「お、おう。相変わらず迫力があるな……」
レンは思わずシンヤの後ろに半歩隠れた。
ギャラドスは石を見つめ、鋭い牙を剥き出しにする。
その全身から、戦いたくてたまらないという気迫が伝わってきた。
「ギャラドス、これは強くなるための可能性を秘めた石だ。だけど、使えば必ず勝てるってわけじゃない」
「ギャアッ!」
「……お前、今の説明で理解してるか?」
ギャラドスは自信満々に頷いた。
そのままシンヤの前に顔を近づけ、口を大きく開ける。
「いや、近い近い! わかった、わかったから!」
レンは口元を押さえ、肩を震わせて笑った。
「ふふっ、ギャラドスったら。まるで『早く使わせろ』って言っているみたいね」
「実際、そうなんだろうな……」
シンヤは苦笑しつつ、ギャラドスの鼻先に手を置いた。
「でもな。お前がメガシンカしたいって思ってくれているのは嬉しい。だからこそ、ちゃんと準備をしてからだ」
ギャラドスはしばらく不満そうに唸っていた。
しかし、シンヤが目を合わせると、やがて大きく頷いた。
「ギャアッ!」
「よし。そのときは、思いっきり暴れていいぞ。ただし、周りの安全は守ること!」
ギャラドスは嬉しそうに尾を振った。
……その尾が地面を叩き、トレーニングスペースに小さな振動が走った。
「きゃっ!」
「おいおい、まだ何もしてないぞ!」
シンヤの声に、ギャラドスはきょとんとした。
その様子に、レンはとうとう笑い出した。
◆ ◆ ◆
ヤドランは、三匹とは対照的だった。
「ヤドラン、こっちだ」
「ヤドォ……」
のんびりと歩いてきたヤドランは、テーブルに置かれたメガストーンを見た。
それから、ゆっくりとシンヤを見上げる。
「これはメガシンカっていう、特別な変化を起こすための石なんだ。お前も、メガシンカできる可能性がある」
「ヤドォ……?」
ヤドランは石を見つめた。
数秒後。
「ヤドォ……」
興味を失ったように、あくびをした。
「……あれ?」
レンは唖然とした。
「興味がないのかしら?」
「いや、まだわからない。ヤドラン、もしメガシンカに興味がないなら、それでもいいぞ」
「ヤドォ……」
ヤドランは再びあくびをしたあと、シンヤの隣に座り込んだ。
そして、シンヤの膝に頭を乗せる。
「……もしかして、今のままで十分ってことか?」
「ヤドォ!」
ヤドランは満足そうに目を細めた。
「ははっ、そっか。お前はお前のペースでいいよ」
シンヤはヤドランの頭を撫でた。
「メガシンカしなくても、お前が大切な仲間であることは変わらないからな」
「ヤドォ……」
ヤドランは気持ちよさそうに目を閉じた。
レンはその光景を眺め、優しく微笑んだ。
「……強くなることだけが、ポケモンの幸せではないのね」
「そういうことだな。俺たち人間だって、全員が同じ目標を持ってるわけじゃないだろ?」
「ええ。レンだって、ただ勝つだけじゃなくて、美しさやポケモンとの調和も大切にしたいもの」
「なら、なおさらだな」
二人の視線の先で、ヤドランはすっかりくつろいでいた。
その尻尾にくっ付いて変化したシェルダーも、いつもどおりだった。
◆ ◆ ◆
スピアーが姿を現すと、空気が変わった。
「スピアー、これを見てくれ」
「スピィィッ!」
スピアーは鋭い複眼でメガストーンを観察した。
石の周囲を飛び、角度を変え、最後には両腕の針を構える。
「お前も興味があるのか?」
「スピィッ!」
スピアーは力強く鳴いた。
その姿からは、さらなる速度と攻撃力を求める戦士のような意志が感じられた。
「なるほど。お前は、もっと速く、もっと鋭く戦いたいんだな」
スピアーは頷き、空中で素早く旋回した。
その動きは、すでに十分なほど洗練されている。
しかし、本人はまだ満足していないらしい。
「いいぞ。その向上心は大切にしよう。でも、メガシンカに頼るだけじゃなくて、今の自分の技も磨いていこうな」
「スピィッ!」
スピアーはシンヤの周囲を一周すると、彼の肩のすぐ横で停止した。
まるで、いつでも出撃できると言っているかのようだった。
「ふふっ。スピアーは、ずいぶんとやる気ね」
「こいつは普段から努力家だからな。メガシンカできる可能性があると聞いて、目標が増えたんだろう」
シンヤはスピアーの頭を軽く撫でた。
「焦らなくていい。お前が望むなら、俺も全力でサポートする」
「スピィッ!」
スピアーは満足そうに鳴いた。
◆ ◆ ◆
次はピクシーだった。
「ピクシー、こっちにおいで」
「ピィクシィ!」
ピクシーは小さく跳ねながら近づいてきた。
メガストーンを見せると、興味深そうに両手で包み込むような仕草をする。
「これは、お前がもっと強くなれるかもしれない石だ」
「ピクシィ?」
ピクシーは石とシンヤの顔を交互に見た。
そして、突然シンヤの手を取ると、自分の胸元にそっと当てた。
「……ん?」
ピクシーは微笑み、シンヤの手を両手で包み込む。
それから、首を横に振った。
「……メガシンカそのものより、俺と一緒にいられることのほうが大切?」
「ピクシィ!」
ピクシーは嬉しそうに頷いた。
シンヤは一瞬、言葉を失った。
そして、優しく微笑む。
「……ありがとう。俺も同じだよ」
ピクシーはシンヤに抱きついた。
「ピクシィ~!」
「ははっ、くすぐったいって!」
レンはその様子を見て、胸の前で手を組んだ。
「まあ……なんて可愛らしいのかしら」
「だろ? ピクシーは本当に人懐っこいんだ」
「ええ。……シンヤも、こういうときは素直なのね」
「どういう意味だ?」
「さあ、どういう意味かしら。ふふっ」
レンは楽しそうに笑った。
ピクシーはそのままシンヤの腕の中に収まり、満足げに目を細めた。
メガシンカを望むかどうかは、まだわからない。
けれど、今この瞬間、ピクシーは十分に幸せそうだった。
◆ ◆ ◆
ウツボットは、少し変わった反応を見せた。
「ウツボット、これを見てくれ」
「ウツボォォッ!」
大きな口を開けたウツボットは、メガストーンを見つめた。
次の瞬間。
ガブッ!
「おいっ!?」
ウツボットは石に噛みつこうとした。
シンヤは慌てて手を引き、石を高く掲げる。
「食べ物じゃないぞ!」
「ウツボォ?」
ウツボットは不思議そうに首を傾げた。
レンは口元を押さえて笑った。
「ふふっ、まさか食べようとするなんて……」
「こいつ、珍しいものを見ると、とりあえず口に入れようとする癖があるんだよな……」
シンヤはため息をつきながら、メガストーンを箱に戻した。
「これは食べられない。もし興味があるなら、ちゃんと見てくれ」
「ウツボォ……」
ウツボットは少し残念そうだった。
しかし、シンヤがもう一度石を見せると、今度は口を開けず、じっと観察した。
やがて、ウツボットは自分の蔓を伸ばし、シンヤの腕に巻きつける。
「……ん? どうした?」
「ウツボォッ!」
ウツボットは自分の口を指し、それからシンヤを指した。
「……もしかして、俺が食べるなって言ったから、ちゃんと我慢できたってことか?」
「ウツボォ!」
「ははっ、そうかそうか。偉いぞ!」
シンヤが頭を撫でると、ウツボットは嬉しそうに鳴いた。
レンは微笑ましそうに眺めながら、そっと呟く。
「メガシンカ以前に、まずは食べられるものと食べられないものの区別が必要かもしれないわね」
「……それは否定できないな」
◆ ◆ ◆
フーディンは、メガストーンを見た瞬間に目を細めた。
「フーディン、これが何かわかるか?」
「フーディン」
フーディンは頷くと、スプーンを一本浮かせた。
そのスプーンがゆっくりと曲がり、空中で複雑な軌道を描く。
次に、フーディンはメガストーンをサイコパワーで浮かせた。
石を回転させ、光の反射を確認し、表面を細かく観察する。
「……お前、もう分析を始めたのか」
「フーディン」
フーディンは静かに頷いた。
その眼差しには、知的好奇心が宿っている。
シンヤは笑みを浮かべた。
「確かに、メガシンカは興味深い現象だよな。普段とは異なる姿になり、能力も変化する。どういう仕組みなのか、俺も知りたい」
フーディンは石をシンヤの前に戻した。
そして、自分の頭を指差す。
「……知識を深めたい、ということか?」
「フーディン」
「なるほどな。お前らしい」
フーディンは戦闘能力だけでなく、研究対象としてもメガシンカに興味を持ったらしい。
ただし、その反応には慎重さもあった。
石を見つめる目は鋭いが、すぐにメガシンカを試したいという様子ではない。
「無理に今すぐ答えを出さなくていい。まずは資料を集めて、わかることから調べていこう」
「フーディン」
フーディンは満足そうに頷いた。
レンが感心したように言う。
「フーディンは、ただ強くなることよりも、メガシンカの仕組みそのものが気になるのね」
「そうみたいだな。こいつが納得できるまで、研究は続くかもしれない」
「ふふっ。シンヤも一緒になって夢中になりそうね」
「……否定できない」
◆ ◆ ◆
カメックスとフシギバナは、対照的な反応を示した。
まずはカメックス。
「カメックス、これを見てくれ」
「カメェックス!」
カメックスは堂々と胸を張り、メガストーンを見つめた。
そして、両肩の砲身をゆっくりと動かし、射撃姿勢を取る。
「……お前、もう戦う気満々だな」
「カメェッ!」
カメックスは自信に満ちた表情で頷いた。
「強くなれるなら挑戦したい。だけど、今の自分の戦い方も大切にしたい。そんなところか?」
「カメックス!」
「ははっ、いい答えだ」
カメックスは前脚を踏み出し、力強く地面を踏みしめた。
その姿には、長年の戦闘経験を積んだポケモンらしい風格があった。
「ただし、メガシンカしたらどんな能力が伸びるのか、どんな弱点が生まれるのかも調べないとな。強くなることと、勝てることは必ずしも同じじゃない」
「カメェッ!」
カメックスは頷いた。
次に、フシギバナ。
「フシギバナ、こっちだ」
「バーナ!」
フシギバナはゆっくりと近づき、メガストーンを見つめた。
その背中の大きな花が、風に揺れる。
しばらくすると、フシギバナは自分の花をシンヤのほうへ傾けた。
「……どうした?」
フシギバナは花をそっと揺らし、シンヤの顔を見つめる。
それから、ゆっくりと首を横に振った。
「今の姿を気に入ってるのか?」
「バーナ!」
フシギバナは満足そうに頷いた。
「そっか。進化して、今の姿になった。それも、お前が積み重ねてきた成長の結果だもんな」
シンヤはフシギバナの花を傷つけないよう、そっと手を添えた。
「メガシンカしなくても、お前は十分に強い。もちろん、いつか気が変わったら、そのときは一緒に考えよう」
「バーナ……」
フシギバナはシンヤの手に頬を寄せた。
カメックスはその様子を見て、フシギバナの隣に並ぶ。
二匹は互いを見て、満足そうに鳴いた。
「……なるほどな。カメックスは挑戦したい。フシギバナは、今の自分を大切にしたい。どっちも間違ってない」
シンヤは二匹を見つめた。
「メガシンカは、みんなが同じ答えを出す必要のないものなんだ」
レンは静かに頷いた。
「ええ。それぞれの気持ちがあるものね」
◆ ◆ ◆
スターミーは、ほかのポケモンとはまったく異なる反応を見せた。
「スターミー、これを見てくれ」
「ヘアァー!」
スターミーはメガストーンを見つめると、中央のコアを輝かせた。
その光が石に反射し、トレーニングスペースの壁に複雑な模様を映し出す。
「……おお。光の反射を調べてるのか?」
スターミーはくるりと回転した。
続いて、石をサイコパワーで浮かせ、さまざまな角度から光を当てる。
その動きは、まるで実験を行っているかのようだった。
「スターミーは、メガシンカそのものに興味があるというより、エネルギーの反応が気になるのかもしれないな」
「ヘアァー!」
スターミーはコアを輝かせた。
すると、メガストーンの表面に反射した光が、わずかに揺らいだ。
シンヤは目を細める。
「……今の反応、もしかして?」
だが、そこで光は消えた。
「うーん、まだわからないな。これだけで結論を出すのは早いか」
スターミーは再び石を浮かせ、今度はゆっくりと回転させた。
「ふふっ。スターミーは、すぐに答えを出すよりも、じっくり観察するタイプなのね」
「ああ。俺も見習わないとな」
シンヤはノートを取り出し、スターミーの反応を記録した。
メガシンカが可能なのか。
どのような条件が必要なのか。
そして、ポケモン自身は何を感じているのか。
一つずつ確かめていく必要がある。
◆ ◆ ◆
ハガネールが現れると、トレーニングスペースの床がわずかに軋んだ。
「ハガネール、こっちだ」
「ゴォオオ……!」
ハガネールは長い体をゆっくりと動かし、シンヤの前で頭を下げた。
メガストーンを見せると、鋼鉄の体が光を反射する。
ハガネールは石を見つめ、しばらく動かなかった。
「……興味がないのか?」
「ゴォ……」
ハガネールは首を横に振った。
そして、自分の硬い体をシンヤに見せるように、ゆっくりと身を起こした。
「なるほど。今の自分の体を、もっと強くできるかもしれないってことには興味があるんだな?」
「ゴォオッ!」
ハガネールは頷いた。
しかし、すぐに自分の体を見下ろし、再び石を見つめる。
その様子には、慎重さがあった。
ハガネールにとって、鋼鉄の体はただの武器ではない。
長い時間をかけて成長し、仲間と戦い、守ってきた自分自身の一部なのだ。
「……姿が変わることに抵抗があるのか?」
「ゴォ……」
ハガネールは少しだけ首を傾けた。
「そっか。なら、今すぐ決める必要はない。お前の体に何が起こるのか、きちんと調べてから考えよう」
シンヤはハガネールの額に手を置いた。
「どんな姿になっても、どんな力を持っても、お前はお前だからな」
「ゴォオッ!」
ハガネールは嬉しそうに鳴いた。
その巨体が少しだけ動き、シンヤの足元に頭を寄せる。
「……うん。やっぱり、みんな反応が違うな」
シンヤは笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
最後に呼び出したのは、ゲンガーだった。
「ゲンガー、ちょっと来てくれ」
「ゲェーッ、ゲンガー!」
ゲンガーは地面から影のように現れ、シンヤの背後に回り込んだ。
「おい、いきなり後ろに立つなって!」
「ゲェゲェ!」
ゲンガーは楽しそうに笑った。
シンヤがメガストーンを見せると、ゲンガーは目を輝かせた。
そして、石を見つめたかと思うと、突然姿を消した。
「……あれ?」
次の瞬間。
シンヤの影が不自然に膨らみ、そこからゲンガーが顔を出した。
「ゲェーッ!」
「お前なぁ……!」
レンはとうとう吹き出した。
「ふふっ、ゲンガーったら。メガシンカよりも、シンヤを驚かせることのほうが楽しいみたいね」
「まったく……」
シンヤは額を押さえた。
しかし、ゲンガーはすぐに真面目な顔になると、メガストーンを見つめた。
その表情には、先ほどまでのいたずらっぽさとは違う、強い好奇心が宿っていた。
「……お前も興味はあるんだな?」
「ゲンガー!」
ゲンガーは頷いた。
そして、自分の影を伸ばし、シンヤの足元からレンの足元まで広げた。
影は二人を包み込むように揺れ、すぐに元へ戻った。
「……姿が変わっても、今の自分らしさを失いたくない。そんな感じか?」
「ゲンガー!」
ゲンガーは嬉しそうに頷いた。
「そうだよな。お前のいたずら好きなところも、仲間を守るために戦うところも、全部お前の大切な個性だ」
シンヤはゲンガーの頭を撫でた。
「メガシンカしても、そういうところを失わずにいられるのか。俺たちで確かめていこう」
「ゲンガー!」
ゲンガーはシンヤの肩に飛び乗ると、頬に自分の顔をすり寄せた。
そして、最後にもう一度だけ、シンヤの影へ潜り込んだ。
「……いや、そこは変わらなくていいんだけどな!」
レンの笑い声が、トレーニングスペースに響いた。
◆ ◆ ◆
一通りの確認が終わるころには、太陽が少し傾いていた。
シンヤはテーブルの前に座り、ノートを開いていた。
レンは隣から、その内容を覗き込む。
「それで、結局どうだったのかしら?」
「そうだな……」
シンヤはペンを止め、今日の反応を整理した。
「リザードン、ギャラドス、スピアー、カメックスは、メガシンカにかなり前向きだった。ピジョットは、空を飛ぶ楽しさを大切にしたいみたいだ。フーディンとスターミーは、能力や仕組みそのものに興味がある。ハガネールは慎重に考えたい。ゲンガーは、自分らしさを保てるかどうかが気になるみたいだな」
「ヤドランとフシギバナ、それからピクシーは?」
「ヤドランは今のままで満足してる。フシギバナも、今の姿を大切にしたい。ピクシーは……俺と一緒にいられることが、一番大事なんだろうな」
シンヤは少しだけ照れくさそうに笑った。
「ウツボットは、まず石を食べないことからだな」
「ふふっ、そこは重要ね」
レンは楽しそうに頷いた。
「でも、みんなの気持ちがわかってよかったわね」
「ああ。もちろん、今日の反応だけですべてが決まったわけじゃない。気持ちは変わることもあるし、実際にメガシンカしたときにどう感じるかも、試してみないとわからない」
シンヤは箱に視線を落とした。
「だから、急いで使うつもりはないよ。まずはメガシンカについて調べて、体への負担や必要な条件を確かめる。それから、本人が望むなら一緒に挑戦する」
レンはしばらくシンヤを見つめていた。
そして、そっと微笑んだ。
「……あなたと旅をしていると、ポケモンのことをもっと知りたくなるわ」
「そうなのか?」
「ええ。強さだけじゃなくて、その子が何を好きで、何を大切にしているのか。そういうことを知るのも、トレーナーの役目なのかもしれないわね」
「俺もそう思う」
シンヤはノートを閉じた。
「メガシンカは、ポケモンとトレーナーの絆によって引き起こされる現象だって話もある。もし本当にそうなら、単に石を持っているだけじゃ足りないはずだ」
左手にはめたキーストーン付きのグローブに目を落とす。
「俺たちがどれだけ互いを理解しているのか。それも、試されるのかもしれないな」
そのとき、リザードンが二人のそばにやってきた。
「グオオッ!」
リザードンはシンヤの左手を見つめ、それから自分の胸を叩いた。
どうやら、今日の話を忘れてはいないらしい。
「わかったよ、リザードン。いつか必ず、一緒に挑戦しよう」
「グオッ!」
シンヤは拳を差し出した。
リザードンは大きな拳をそっと合わせる。
その瞬間、キーストーンがかすかに光を反射した。
だが、何かが起こることはなかった。
それでも、二人には十分だった。
今はまだ、メガシンカしなくてもいい。
大切なのは、いつかその力を使うときに、互いが心から望んでいること。
そして、どんな姿になろうとも、変わらない絆を持っていることだ。
「……ふふっ。シンヤ、あなた、本当にいい顔をしているわね」
「そうか?」
「ええ。ポケモンたちと一緒に、これから何ができるのか。それを考えるのが楽しくて仕方ない、って顔よ」
「……まあ、否定はしないな」
シンヤは照れくさそうに頬を掻いた。
レンはそんな彼を見つめ、ほんの少しだけ頬を染める。
(……ポケモンたちに向けるその優しさを、レンにも少しだけ分けてくれたらいいのに)
そんな気持ちを胸の奥にしまい込み、彼女はいつものように微笑んだ。
「さあ、そろそろ出発しましょう? 次の目的地もあるのでしょう?」
「ああ。まずはトキワシティ方面に戻るか、それともグレン島を目指すか……そこは相談だな」
「ふふっ。どちらに行くにしても、退屈はしなさそうね」
二人はポケモンたちをボールへ戻した。
箱の中には、まだ多くのメガストーンが残っている。
そして、その一つ一つに、これから生まれるかもしれない新たな可能性が眠っていた。
メガシンカは、まだ始まったばかり。
それがどんな力をもたらすのか。
そして、ポケモンたちがどんな答えを選ぶのか。
その答えは、彼らとともに旅を続ける中で、少しずつ見つかっていくのだろう。
といった感じでヤドランとフシギバナ、それからピクシーはメガシンカしない方向で進むかも。まあ、メガシンカしないでも強いポケモンでもあるし。
サトシの手持ちを無印版で仲間にしてないのを仲間にするか否か
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仲間にしてええんやで
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仲間にしなくてもいいだろ