ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第57話 湯上りレンちゃんの大作戦?!

ポケモンやしきを後にしたシンヤは、三匹のイーブイとメタモンを連れてポケモンセンターへと戻ってきた。

 

 

今回の探索で捕まえたドガースとブーバーは、ひとまずボールの中で休ませている。受付でジョーイさんに二匹の健康状態を確認してもらうと、幸いにも大きな問題はなかった。

 

 

「二匹とも、少し疲れているみたいだけど健康状態は良好よ。しばらく休ませてあげれば大丈夫ね」

 

 

「ありがとうございます。じゃあ、実家に送っておきます」

 

 

シンヤは父親から渡された転送用グローブを使い、二匹のモンスターボールを実家へ送る手続きを済ませた。

これで二匹も、実家の広大な敷地でゆっくり休めるだろう。

その後、シンヤはポケモンセンターの通信設備を借り、マサラタウンの自宅へ連絡を入れた。

 

 

『おっ、シンヤ! どうした?』

 

 

画面に映ったのは、相変わらずどこか楽しそうな父・マサユキだった。その隣から母・ミサキも顔を覗かせる。

 

 

「父さん、母さん。七つ目のバッジを取ったよ」

 

 

『おお! もう七つか!』

 

 

『まあ、シンヤったら。順調じゃない!』

 

 

両親は自分のことのように喜んでくれた。

もっとも、息子の実力を知っている二人にとっては、ある程度予想どおりだったのかもしれない。

 

 

「次は八つ目だ。これを取れば、ポケモンリーグへの挑戦資格が揃う。もうひと頑張りだな」

 

 

『そうね。ここまで来たんだから、最後まで頑張りなさい。でも、無理はしないこと。ポケモンたちの体調も、あなた自身の体調も大切なんだからね』

 

 

「わかってるよ、母さん」

 

 

『それで、シンヤ』

 

 

そこで父親が、意味ありげな笑みを浮かべた。

 

 

『八つ目のバッジを取ったら、お前にいい物を渡してやろう』

 

 

「……いい物?」

 

『ああ。楽しみにしておけ』

 

 

ミサキも隣で、くすくすと笑っている。

 

 

『ふふっ。きっと気に入ると思うわよ』

 

 

「何だよ、二人とも。妙に意味深だな……」

 

 

『それは、もらってからのお楽しみだ』

 

 

「……まあ、わかったよ。期待しておく」

 

 

シンヤは首を傾げたものの、両親がこういう顔をしているときに問い詰めても、素直に教えてくれないことはよく知っていた。

 

 

何か新しい発明品だろうか。それとも、旅に役立つ道具か。

いずれにせよ、八つ目のバッジを手に入れればわかることだ。

 

 

「じゃあ、また連絡するよ」

 

 

『ああ。頑張れよ、シンヤ!』

 

 

『レンちゃんにもよろしくね!』

 

 

「……はいはい。伝えておくよ」

 

 

通信を切ったシンヤは、転送用グローブを軽く撫でてから、ポケモンセンターのロビーへと視線を向けた。

 

 

 

 

そのときだった。

 

 

 

 

「シンヤ、お待たせ――」

 

 

振り返ったシンヤは、言葉を失った。

そこにいたのは、温泉から戻ってきたレンだった。

 

 

普段のクラシカルなロリータ服ではなく、淡い色合いの浴衣を身にまとっている。湯上がりの身体はじっくりと温まり、耳の下から首筋、そして鎖骨にかけて、ほんのりと桜色に染まっていた。白い肌との対比が、いつもよりも鮮やかだ。

 

 

浴衣の襟元から覗くうなじには、小さな水滴がいくつか残っている。照明を受けたそれらが、きらきらと淡く光っていた。

いつもは上品で、どこか小悪魔的な笑みを浮かべているレン。

そんな彼女が、今は湯上がり特有の柔らかな雰囲気をまとっている。

 

 

シンヤは、思わず見入ってしまった。

 

 

(……いや、待て)

 

 

(可愛い。いや、それはいつものことなんだけど……)

 

 

頭の中で、何とか冷静さを取り戻そうとする。

 

 

(何だ、この妙な破壊力は……?)

 

 

レンが一歩近づく。

浴衣の袖がふわりと揺れ、濡れた髪から、ほのかに温泉の香りが漂ってきた。

 

 

(……俺たち、十歳だよな?)

 

 

シンヤは心の中で、誰にともなく確認した。

もちろん、レンは十歳の少女である。

それなのに、いつもの姿とは違う雰囲気に、シンヤはどう反応すればいいのかわからなくなってしまった。

 

 

 

 

 

――そして。

 

 

 

 

(よしっ!)

 

 

レンは、心の中で小さくガッツポーズを決めていた。

実のところ、彼女には今回の湯上がり姿について、ちょっとした作戦があったのである。

きっかけは、ナツメだった。

 

 

あの超能力者のジムリーダーが、シンヤに並々ならぬ興味を持っていること。

そして、シンヤがナツメから譲り受けた、数々の貴重なメガストーン。

レンは決して、シンヤがナツメに特別な感情を抱いているとは思っていなかった。

むしろ、メガストーンを前にした彼の様子を見れば、今のシンヤの頭の中が何でいっぱいなのかは一目瞭然だ。

 

 

 

問題は、ナツメのほうである。

 

 

 

(何とも思っていない相手に、あんな貴重なメガストーンをたくさん渡すかしら?)

 

 

少なくとも、レンにはそう思えなかった。

ナツメがシンヤに興味を持っている。

それ自体は、彼女も薄々感じていたことだった。

だからこそ、シンヤが少し離れている間、レンはある人物に相談を持ちかけたのである。

 

 

 

シンヤの母親――ミサキに。

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉に入る前のことだった。

 

 

『……なるほどねぇ』

 

 

ミサキは、レンの話を聞くと、にこにこと楽しそうに頷いた。

 

 

『つまり、レンちゃんはシンヤにもう少し女の子として意識してほしいのね?』

 

 

「そ、そういうわけでは……! いえ、そういうわけでも、あるのですけれど……」

 

 

普段は堂々としているレンも、さすがに恋愛の話となると、言葉が少しぎこちなくなる。

 

 

『ふふっ。大丈夫よ。あの子、ポケモンのことになると何でもすぐ気づくのに、女の子の気持ちには驚くほど鈍いところがあるから』

 

 

「……やっぱり、そうなのですね」

 

 

『ええ。だからね――』

 

 

ミサキは、そっとレンに耳打ちした。

 

 

『お風呂上がりの姿を見たら、きっと固まると思うわよ!』

 

 

その言葉を信じて、レンは浴衣の襟元をほんの少しだけ整えた。

普段より、うなじが見えやすいように。

もちろん、ミサキの助言どおりにするのは、かなり恥ずかしかった。

何しろ、レン自身もまだ十歳なのだ。

 

 

シンヤにどう思われるかを考えるだけで、胸の奥が落ち着かなくなる。

それでも、ナツメのことを思い出すと、少しくらいは自分を意識してほしいと思ってしまうのだった。

 

 

(……ふふっ。作戦、大成功ね)

 

 

そう考えながら、レンはいつもの余裕たっぷりな微笑みを浮かべた。

 

 

「どうしたのかしら、シンヤ? レンの顔に、何かついている?」

 

 

「い、いや! 別に、何も!」

 

 

「そう? でも、さっきからずっと見ているようだけれど?」

 

 

「そ、それは……!」

 

 

言い返そうとしたシンヤだったが、うまい言葉が出てこない。

普段なら、レンにからかわれても適当に受け流せる。

 

 

しかし、今はどうにも調子が狂っていた。

レンは、そんなシンヤの様子を見て、内心でほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

――ところが。

 

 

 

 

作戦が成功しているのは、レンだけではなかった。

シンヤもまた、相手の様子を見てしまう人間だったのである。

レンの頬が、少しずつ赤くなっている。

いつものようにからかっているはずなのに、目が合うたびに、ほんのわずかに視線が揺れる。

 

 

(……あれ?)

 

 

シンヤは気づいた。

 

 

(レンも、照れてるのか?)

 

 

その事実を認識した途端、今度はシンヤ自身の顔が熱くなった。

 

 

「……っ」

 

 

「……っ」

 

 

二人は、ほとんど同時に視線を逸らした。

そして、沈黙。

先ほどまでの余裕はどこへやら、レンは浴衣の袖をぎゅっと握りしめている。

シンヤもまた、何を話せばいいのかわからず、意味もなく頭を掻いていた。

 

 

(な、何だか……思っていたより恥ずかしいわね、これ……!)

 

 

(落ち着け、俺……! 別に何もおかしなことはない。温泉に入って、浴衣に着替えただけだ……!)

 

しかし、意識してしまったものは仕方がない。

互いの顔が赤くなっていくのを止めることは、できなかった。

 

 

そして、そんな二人の様子を、少し離れた受付から眺めている人物がいた。

ジョーイさんである。

 

 

彼女は、カウンター越しに二人を見守りながら、にこやかな笑みを浮かべていた。

……もっとも、その胸中は少しばかり複雑だったのだが。

 

 

(ああ……いいわねぇ)

 

 

湯上がりの少女と、顔を真っ赤にして固まっている少年。

互いに気になっているのに、素直になれず、目が合うだけで照れてしまう。

そんな初々しい姿を見ていると、何だかこちらまで温かな気持ちになってくる。

 

 

(私にも、ああいう時期があったらなぁ……)

 

 

ジョーイさんは、心の中でそっと嘆いた。

もちろん、彼女にも若い頃はあった。

しかし、こうして目の前で繰り広げられている光景は、何度見ても微笑ましいものだった。

 

 

 

 

 

 

いや、むしろ――。

 

 

 

 

 

(……この二人、いつになったら自分たちの気持ちに気づくのかしら?)

 

 

ジョーイさんは、少しだけ苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、シンヤとレンはというと。

 

 

「……あ、あのさ、レン」

 

 

「な、何かしら?」

 

 

「……温泉、気持ちよかった?」

 

 

「え、ええ! とっても気持ちよかったわ!」

 

 

「そ、そっか……」

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

会話が続かない。

いつもなら、レンが何かしら面白いことを言って、シンヤがそれに応じる。

あるいは、シンヤがポケモンの話を始め、レンが興味深そうに聞く。

 

 

それなのに、今はどうにもぎこちなかった。

やがてレンは、恥ずかしさを誤魔化すように、小さく咳払いをした。

 

 

「……ふふっ。シンヤったら、ずいぶんと可愛らしい反応をするのね」

 

 

「なっ……! そ、それを言うなら、レンだって……!」

 

 

「レンだって、何かしら?」

 

 

「…………何でもない」

 

 

「あら、残念。最後まで聞きたかったのに」

 

 

いつもの調子を取り戻そうとするレン。

だが、彼女自身の頬もまだ赤いままだった。

シンヤはそれを見て、思わず小さく笑った。

 

 

「……レン」

 

 

「何かしら?」

 

 

「その浴衣、似合ってるよ」

 

 

「――っ!」

 

 

今度こそ、レンの顔が一気に赤くなった。

自分から意識させようとしたくせに、いざ真正面から褒められると、どう反応していいのかわからなくなってしまう。

 

 

「……あ、ありがとう、シンヤ」

 

 

レンは、いつもより小さな声で答えた。

そして、ほんの少しだけ、彼の隣へと近づいた。

 

 

「……シンヤも、たまにはそういうことを言うのね」

 

 

「いや、思ったことを言っただけだけど……」

 

 

「ふふっ。そういうところよ」

 

 

「……?」

 

 

 

シンヤは首を傾げた。

どうやら、また何かを間違えたらしい。

その鈍感さに、レンは呆れたように微笑む。

 

 

けれど、その表情はどこか嬉しそうだった。

ナツメに負けたくない。

シンヤに、もう少し自分を意識してほしい。

そんな気持ちは、確かにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……シンヤが、レンのことを可愛いって思ってくれたなら)

 

 

それだけで、今日の作戦は十分に成功だったのかもしれない。

レンは、シンヤの隣でそっと笑った。

そしてシンヤは、まだ少し赤い顔のまま、そんな彼女を横目で見ていた。

 

 

グレンタウンの夜は、静かに更けていく。

ポケモンリーグまで、残るバッジはあと一つ。

しかし、シンヤにとっては、ポケモンとの絆を深める旅だけでなく――。

隣にいる少女との関係もまた、少しずつ変わり始めているようだった。

 

サトシの手持ちを無印版で仲間にしてないのを仲間にするか否か

  • 仲間にしてええんやで
  • 仲間にしなくてもいいだろ
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