ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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今回はサトシsideではない。そう、サカキ様sideだっ!


番外編 トキワジムのサカキ!最強のジムリーダーとその相棒

◆トキワジム

 

 

 

 

 

 

グレンタウン。

 

 

カツラとの激闘を終え、七つ目のバッジを手に入れたシンヤは、次の目的地について尋ねられていた。

 

 

『それで、シンヤ君。次はどこのジムへ向かうつもりじゃ?』

 

 

『次はトキワジムです。そこで八つ目のバッジを手に入れて、ポケモンリーグへの挑戦資格を揃えるつもりです』

 

 

『ほほう……トキワジムか!』

 

 

カツラは、白い髭を撫でながら愉快そうに笑った。

 

 

『ならば、ジムリーダーにも伝えておくとしよう。君のような挑戦者が来るのなら、向こうも退屈せずに済むじゃろうからな!』

 

 

その言葉を、シンヤは特に深く考えることなく聞き流していた。

まさか、その一言がトキワジムの主の心に火をつけることになるとは、知る由もなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして現在。

 

 

 

 

 

 

 

カントー地方、トキワシティ。

街の一角にそびえ立つ、巨大な建造物――トキワジム。

その最奥にあるジムリーダーの部屋で、一人の男が通信機の前に座っていた。

 

 

 

 

 

 

サカキ。

 

 

 

 

 

トキワジムのジムリーダーであり、ポケモンバトルにおいて並外れた実力を持つ男。

そして、表向きの顔とは別に、裏社会に暗い影を落とす組織――ロケット団を率いる首領でもあった。

 

 

『……というわけじゃ。マチスとのバトルを皮切りに、次々と強敵を乗り越えてきた少年が、そちらへ向かうそうじゃぞ』

 

 

通信機の向こうから聞こえてくるのは、グレンジムのジムリーダー、カツラの声だった。

 

 

『君も、少しは楽しみにしておくといい。あの少年、なかなか面白いぞ』

 

 

「……なるほど」

 

 

サカキは静かに答えた。

それから、通信機の向こうへ視線を向けるように、わずかに顔を上げる。

 

 

「わざわざ知らせてくれて感謝する、カツラ。こちらでも準備をしておこう」

 

 

『うむ。それではな!』

 

 

通信が切れる。

室内に、再び静寂が戻った。

サカキはしばらく何も言わず、机の上に置かれた書類へ目を落としていた。

そこには、最近報告された数々の事件に関する資料が並んでいる。

 

 

 

 

 

――発電所における、サンダー捕獲計画の失敗。

 

 

 

 

――サント・アンヌ号で開催されたポケモンだいすきクラブの催しにおける、ポケモン強奪計画の失敗。

 

 

どちらも、ロケット団の一部の人間が独断、あるいは己の利益を優先して引き起こしたものだった。

そして、どちらの事件にも共通して記録されている少年の名前。

 

 

 

 

 

シンヤ

 

 

 

 

「……フフフ」

 

 

サカキの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

もちろん、サンダーを狙う計画も、船上でポケモンを奪う計画も、彼自身が直接命じたものではない。

 

 

組織が勝手に動き、勝手に失敗した。

それだけの話だ。

だが、報告書に目を通していくうちに、サカキはその少年に興味を持ち始めていた。

単に強いだけのトレーナーなら、いくらでもいる。

 

 

ポケモンの力を過信する者。自分の実力を誇示したがる者。勝利のためならポケモンを使い捨てにする者。

そうした人間を、サカキは数え切れないほど見てきた。

しかし、この少年は少々違うらしい。

 

 

発電所では、傷ついたポケモンたちを守るためにロケット団へ立ち向かった。

船上では、大勢の参加者やポケモンを巻き込む作戦を阻止した。

 

 

さらに、各地のジムリーダーからも、その実力を高く評価されているという。

 

 

 

 

マチス。

 

 

エリカ。

 

 

キョウ。

 

 

ナツメ。

 

 

カツラ。

 

 

 

 

それぞれ性格も戦い方も異なるジムリーダーたちが、揃って同じ少年を認めている。

これは、なかなか興味深い。

 

 

「歳に似合わず、胸が躍ってきたな……」

 

 

サカキは背もたれに身体を預け、天井を見上げた。

いったいいつ以来だろうか。

ジムリーダーとして挑戦者を迎えることは、日常の一部にすぎない。

 

 

挑戦者の力量を測り、適切な試練を与え、実力に見合った結果を示す。

それがジムリーダーの務めだ。

 

 

だが、今の彼の胸にあるのは、そうした義務感だけではなかった。

純粋に、戦ってみたい。

自分のポケモンと、相手のポケモン。

 

 

互いの知恵と技術、そして鍛え上げてきた力をぶつけ合う。

その先に何があるのかを確かめたい。

そんな気持ちが、久しく忘れていた熱を呼び起こしていた。

 

 

 

 

(……そういえば)

 

 

 

 

サカキは、ふと思い出す。

かつて、ナツメがまだ新人トレーナーだった頃。

彼女がジムリーダーとしての道を歩み始める、その過程で対戦相手を務めたことがあった。あのときも、ただ勝敗を決めるだけではなかった。

相手の成長を見届け、自分のポケモンと本気でぶつかり合う。

 

 

それは、確かに楽しい時間だった。

そして今、そのときに似た感覚が蘇っている。

 

 

「……ふむ」

 

 

サカキは机の上の書類を一つにまとめ、脇へ置いた。

 

 

「当初は、適当な理由をつけて部下に任せるつもりだったが……」

 

 

彼の視線が、部屋の奥へと向かう。

 

 

「あるいは、あの少年の力量を測るために、まずは別の相手をぶつけることも考えていた」

 

 

トキワジムには、優秀なトレーナーがいる。

彼らに相手をさせれば、シンヤの実力をある程度見極めることはできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

だが――。

 

 

 

 

 

 

「気が変わった」

 

 

サカキは、静かに笑った。

 

「他のジムリーダーたちが揃って認めるほどのトレーナーだ。ならば、私自身が相手をするのが筋だろう」

 

 

そう言って、彼は部屋の奥に向かって声をかけた。

 

 

「……お前の出番があるかもしれんな」

 

 

その言葉に応えるように、薄暗い室内で何かが動いた。

 

 

 

 

羽音。

 

 

 

 

それは、非常に小さな音だった。

しかし、確かな存在感を伴っていた。

サカキの背後から、鋭い針を備えたポケモンが姿を現す。

 

 

 

 

スピアー。

 

 

 

 

二本の腕に備わる毒針。細身ながらも鍛え上げられた身体。そして、わずかな動きにも無駄のない、研ぎ澄まされた佇まい。

 

 

「……スピッ」

 

 

スピアーは短く鳴いた。

その首元には、見慣れない石が装着されていた。

石の内部で、淡い光が揺らめいている。

 

 

サカキはそれを一瞥すると、胸元へ手を伸ばした。

取り出したのは、指輪のような装飾品。

その中央には、一つの石が埋め込まれていた。

 

 

 

 

キーストーン。

 

 

 

 

サカキは指輪を指先で回し、光の加減を確かめるように眺めた。

 

 

「メガシンカ……か」

 

 

その言葉を口にした瞬間、スピアーの羽音がわずかに強まった。

ただの進化ではない。

トレーナーとポケモンの絆、そして双方の意志が結びついたときにこそ発揮される、特別な力。

サカキはその可能性を理解し、研究し、己の手元に置いていた。

 

 

だが、それを使う機会は、そう多くない。

そもそも、誰にでも見せるつもりはなかった。

トキワジムに挑むトレーナーの大半は、そこまでの相手ではない。

 

 

メガシンカを披露する必要などないのだ。

しかし。

 

 

「……今回は、少しばかり違うかもしれんな」

 

 

サカキは指輪を胸元へ戻した。

まだ、メガシンカを使うと決めたわけではない。

シンヤがどれほどの実力を持っているのか。

どのような戦術を使い、どのようにポケモンと向き合っているのか。

 

 

それを実際に見てから決めればいい。

スピアーもまた、主の考えを察したかのように静かに羽ばたいた。

 

 

「お前も、久しぶりに本気で飛びたいだろう?」

 

 

「……スピッ!」

 

 

力強い返事。

サカキは満足そうに頷いた。

そのとき、部屋の隅で丸くなっていたペルシアンが、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

「ニャ……」

 

 

「どうした、ペルシアン。お前も気になるか?」

 

 

サカキが手を伸ばすと、ペルシアンはその手に頭を擦りつけた。

そのまま、主人の膝の上へと移動する。

サカキはペルシアンの頭を撫でながら、窓の外に広がるトキワシティの街並みを眺めた。

 

 

挑戦者が来るまで、まだ時間はある。

シンヤは今、グレンタウンにいる。

最後のジムへ向かう前に、仲間たちと休息を取っている頃だろう。

 

 

 

 

 

――隣にいる少女と、少々微笑ましい時間を過ごしていることなど、サカキには知る由もない。

 

 

 

 

 

 

「フフフ……楽しみだな、少年よ」

 

 

サカキの瞳に、静かな闘志が宿った。

八つ目のバッジを求めてやってくる挑戦者。

数々の強敵を乗り越え、七つのバッジを手にした少年。

 

 

その旅の終盤に待ち受けるのは、カントー最後のジム。

そして、その主は――久しぶりに、心からバトルを楽しみにしていた。

サカキの膝の上では、ペルシアンが再び眠そうに目を細めている。

 

 

その背後では、スピアーが静かに宙を舞っていた。

首元のメガストーンが、薄暗い部屋の中で小さく輝く。

トキワジムの主は、挑戦者の到来を待っていた。

まだ見ぬ少年が、どのような戦いを見せてくれるのか。

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

このスピアーが、その戦いでどのような姿を見せることになるのか。

答えが明らかになる日は、そう遠くない。

 

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