ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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このバトルでは大会などでは普段しないというかできない同じポケモンがゲームみたいに出てきます


第58話 最後のジム! サカキとメガスピアー、絆の決戦!

翌朝。

 

 

グレンタウンのポケモンセンターでは、昨日までのぎこちなさが嘘のように、シンヤとレンが出発の準備を進めていた。

 

 

……もっとも、完全にいつもどおりに戻ったかといえば、そうでもない。

 

 

「シンヤ、荷物はそれで全部かしら?」

 

 

「ああ。ポケモンたちの状態も問題ないし、忘れ物もないはずだ」

 

 

「そう。なら、そろそろ出発しましょう」

 

 

「そうだな」

 

 

目が合う。

昨日の湯上がり姿が、ほんの一瞬だけ頭をよぎった。

 

 

「……」

 

 

「……」

 

 

二人は同時に視線を逸らした。

 

 

「……じゃ、じゃあ行くか!」

 

 

「え、ええ!」

 

 

ほんの少しだけ赤くなった顔を誤魔化すように、二人は出発した。

今日の目的地は、カントー地方最後のジムがあるトキワシティ。

そして、八つ目のバッジを手に入れるための最終戦だ。

 

 

シンヤは実家から連れてきたフーディンのボールを手に取った。

 

 

「すまんな、フーディン。ここからテレポートするとなると結構な距離があるけど、頼んだ」

 

 

「フーディ」

 

 

フーディンは、気にするなと言わんばかりに首を振った。

そして目を閉じ、静かに瞑想を始める。

周囲の空気がわずかに揺らぎ、フーディンの身体から超能力の波動が広がっていった。

 

 

「さて、次が最後のジムになる」

 

 

「ええ。トキワジムだったわね。どんなジムなのかしら?」

 

 

「……地面タイプの使い手、ということくらいしかわからないな」

 

 

シンヤは腕を組んだ。

前世の記憶には、サカキが使うポケモンの情報がいくつも残っている。

 

 

ただし、世代によって手持ちは微妙に変わっていた。

サイホーン、ダグトリオ、ニドクイン、ニドキング、サイドン。

あるいは、ドサイドンやゴローニャ、ガラガラ、サンドパン。

地面タイプを中心としたポケモンたちだ。

 

 

一方で、ナッシーやウインディ、ギャラドス、ガルーラ、ペルシアンなどを使う姿も記憶にある。

 

 

もっとも、この世界のサカキがゲームと同じ手持ちを揃えている保証はない。

何より、ゲームの知識だけで勝てると思うほど、シンヤは楽観的ではなかった。

 

 

「へぇ、地面タイプなのね。なら、水ポケモンや草ポケモンで攻めるのかしら?」

 

 

「いや。それだけで勝てるとは思わないな。相手だって弱点を突かれることは承知しているはずだ。技構成も、戦い方も、それを前提に組んでいるだろう」

 

 

「なるほど。相手の弱点を突くことと、それだけに頼ることは別なのね」

 

 

「そういうこと」

 

 

シンヤは頷いた。

 

 

「それに、今回はフルバトルになる可能性が高い。六匹対六匹だ」

 

 

「長いバトルになりそうね」

 

 

「ああ。あと、地面タイプ相手に気をつけたい技がある」

 

 

「それは?」

 

 

「じわれ。一撃必殺技の一つだ。まともに食らえば、一発で戦闘不能になりかねない」

 

 

「一撃必殺……」

 

 

レンの表情が引き締まった。

 

 

「つのドリルやじわれのような技は、当たれば勝負をひっくり返される可能性がある。だからこそ、相手が使う兆候を見逃さないようにしないとな」

 

 

「そうね。どれだけ強くても、一度の判断ミスで流れが変わるもの」

 

 

「そのとおり」

 

 

シンヤは、今回のメンバーを頭の中で再確認する。

 

 

先発はコノヨザル。

続いてギャラドス、カメックス、ピカチュウ、フシギバナ、そしてリザードン。

育成中のポケモンを出すつもりはなかった。

 

 

最後のジムなのだ。

ここまで一緒に戦ってきた主力たちで、真正面から挑む。

 

 

「今回はリザードンが最後の切り札になる。前半の三匹で相手の戦術を見極めて、後半の三匹で流れを作る」

 

 

「ピカチュウも出すのね?」

 

 

「ああ。あいつは少ない匹数で戦うより、フルバトルのほうがやる気になるだろうからな」

 

 

シンヤは苦笑した。

実家で番長を務めているピカチュウは、戦いの場数も十分だ。

 

 

相手を翻弄する素早さと、意表を突く技の組み合わせ。

そこにギャラドスの空中機動力と火力、コノヨザルの粘り強さが加われば、相手の戦術を崩す足掛かりになる。

 

 

そして最後は、リザードンの圧倒的な突破力で勝負を決める。

 

 

「……ディン」

 

 

フーディンが目を開いた。

 

 

「お、準備できたか」

 

 

シンヤはレンへ手を差し出す。

 

 

「レン、俺に捕まってくれ。テレポートするから」

 

 

「ええ」

 

 

レンは一瞬だけ迷い、それからシンヤのジャケットをそっと掴んだ。

フーディンが二人へ意識を集中させる。

 

 

 

次の瞬間――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~トキワシティ~

 

 

 

 

 

シュンッ!

 

 

 

 

 

「わっ、本当に一瞬ね!」

 

 

目を開けたレンは、周囲を見回して驚いた。

つい先ほどまでグレンタウンにいたはずなのに、二人はもうトキワシティの街中に立っていた。

 

 

「リザードンやピジョットに乗って空から来るのも悪くないけど、今回は時間を節約したいからな」

 

 

「八つ目のバッジを手に入れたら、リーグに向けた育成もあるものね」

 

 

「そのとおり」

 

 

シンヤはフーディンを労い、ボールへ戻した。

 

 

「助かったよ。あとは実家で休んでくれ」

 

 

「フーディ」

 

 

フーディンは満足そうに頷き、ボールの中へ戻った。

そのボールを転送用グローブで実家へ送る。

 

 

準備は整った。

シンヤは六つのボールを確認し、レンと並んでトキワジムへ向かった。

目の前にそびえ立つ、最後のジム。

ここを突破すれば、カントー地方の八つのバッジが揃う。

ポケモンリーグへの挑戦資格を手にすることになるのだ。

 

 

「……いよいよね」

 

 

「ああ」

 

 

シンヤはジムの扉を見上げた。

 

 

「行こう」

 

 

二人は、重厚な扉を押し開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~トキワジム~

 

 

ジムの内部は広大だった。

岩肌を思わせる壁面。頑丈な床。複雑な段差と、バトルのために設計された広いフィールド。

 

 

その奥に、一人の男性が立っていた。

腕を組み、二人の到着を待っていた男。

 

 

 

 

 

サカキ。

 

 

 

 

トキワジムのジムリーダーである。

 

 

「待っていたぞ、チャレンジャー」

 

 

低く、落ち着いた声がジム内に響く。

 

 

「君とのバトルを、心から楽しみにしていた」

 

 

「……あなたが、サカキさん」

 

 

シンヤは相手を見据えた。

アニメで見たサカキは、基本的に椅子に座り、部下へ指示を出す姿が印象的だった。

しかし、目の前にいる男は違う。

佇まいからして隙がない。

相手を値踏みする鋭い視線。余裕のある態度。その奥に潜む、研ぎ澄まされた闘志。

 

 

 

 

 

(……アニメ版やゲーム版というより、ポケスペ寄りか?)

 

 

 

 

 

そんな感想が頭をよぎった。

だが、今は余計なことを考えている場合ではない。

 

 

「マサラタウンのシンヤです。八つ目のバッジを懸けて、勝負をお願いします」

 

 

「いいだろう」

 

 

サカキは静かに頷いた。

 

 

「余計な前置きは必要ない。互いに時間を無駄にしないバトルをしようじゃないか」

 

 

「望むところです」

 

 

サカキはジムの中央へ歩み出た。

 

 

「ルールは六対六。ポケモンの交代は自由。最後まで戦い抜き、より多くのポケモンを倒した側が勝者となる」

 

 

「了解です」

 

 

シンヤもフィールドの反対側へ進む。

観客席には、ジムの関係者たちが集まり始めていた。

誰もが、トキワジム最後の試練を見届けようとしている。

 

 

「それでは――バトル、開始!」

 

 

審判の声が響き渡った。

 

 

「行け、ドサイドン!」

 

 

サカキの最初のボールから、巨大なポケモンが現れた。

地面を踏みしめるだけで、重い音が響く。

 

 

 

ドサイドン。

 

 

 

 

その巨体には、歴戦の風格があった。

 

 

「頼むぞ、コノヨザル!」

 

 

シンヤの先発は、怒りを力へ変えるポケモン。

コノヨザルがフィールドへ降り立ち、拳を握りしめた。

 

 

「コノォ……!」

 

 

両者が向かい合う。

そして、戦いが始まった。

 

 

「ドサイドン、ステルスロック!」

 

ドサイドンが地面へ力を込める。

フィールドに無数の岩が浮かび上がり、交代して出てくるポケモンを待ち受けるように配置され始めた。

 

 

「させるか! コノヨザル、れいとうパンチ!」

 

 

「コノォッ!」

 

 

コノヨザルが地面を蹴り、氷をまとった拳を叩き込む。

ドサイドンは岩を配置しきる前に攻撃を受け、技が中断された。

 

 

「ほう。場を整える時間すら与えないか」

 

 

サカキは目を細めた。

 

 

「ドサイドン、じしん!」

 

 

大地が激しく揺れる。

コノヨザルは大きく跳躍し、迫り来る衝撃波をかわした。

 

 

「そのまま動き続けろ! 隙を見てビルドアップだ!」

 

 

コノヨザルは着地と同時に拳を構え直す。

筋肉が膨らみ、全身に力が漲った。

 

 

「ストーンエッジ!」

 

 

鋭い岩の刃が、地面から次々と突き出す。

コノヨザルは身体をひねり、岩の間を縫うように走った。だが、完全には避けきれない。

岩の一つが肩をかすめ、身体が大きく揺れる。

 

 

「コノヨザル!」

 

 

「コノォッ!」

 

 

それでも、コノヨザルは止まらない。

ドサイドンの懐へ潜り込み、拳を振りかぶる。

 

 

「ドレインパンチ!」

 

 

強烈な一撃が、ドサイドンの身体へ突き刺さった。

同時に、コノヨザルの身体から疲労が抜けていく。

ドサイドンが苦しげに膝をついた。

 

 

「まだだ! ストーンエッジ!」

 

 

最後の抵抗。

しかし、コノヨザルは真正面から岩を受けることなく、身を低くして突進した。

 

 

「ふんどのこぶし!」

 

 

怒りを凝縮した拳が、ドサイドンを捉える。

 

 

 

 

 

 轟音。

 

 

 

 

 

巨体がフィールドを滑り、動きを止めた。

 

 

「ドサイドン、戦闘不能!」

 

 

「よし!」

 

 

シンヤは拳を握った。

コノヨザルは肩で息をしながらも、まだ立っている。

サカキは倒れたドサイドンをボールへ戻した。

 

 

「見事だ。では、次はどうかな?」

 

 

彼が繰り出したのは、骨を手にしたポケモンだった。

 

 

「ガラガラ!」

 

 

ガラガラは現れるなり、骨を両手で構えた。

 

 

「つるぎのまい!」

 

 

身体を旋回させるように踊り、攻撃力を高める。

 

 

「コノヨザル、ビルドアップで受ける準備を――」

 

 

「遅い! ボーンラッシュ!」

 

 

ガラガラが突進した。

骨が連続して振るわれ、コノヨザルへ次々と打ち込まれる。

一撃を受け止めても、二撃目、三撃目が間髪入れずに迫る。

コノヨザルは反撃の隙を見つけられない。

 

 

「くっ……!」

 

 

シンヤは歯を食いしばった。

ガラガラの連続攻撃は、単なる力押しではない。

コノヨザルが体勢を立て直そうとする瞬間を狙い、次の一撃を叩き込んでいる。

 

 

「コノヨザル、ふんどのこぶし!」

 

 

コノヨザルが吠え、拳を振り抜いた。

ガラガラは骨を交差させ、直撃を防ぐ。

しかし、衝撃で身体が後退した。

 

 

「今だ!」

 

 

シンヤが指示を出そうとした、その瞬間。

 

 

「ボーンラッシュ!」

 

 

ガラガラが再び連撃を叩き込んだ。

コノヨザルの身体が大きく揺れ、ついに膝をつく。

 

 

「コノヨザル、戦闘不能!」

 

 

「……よく戦った。戻って休め」

 

 

シンヤはコノヨザルをボールへ戻した。

最初の一匹を倒したものの、こちらも一匹を失った。

だが、まだ焦る必要はない。

 

 

「次はお前だ、ギャラドス!」

 

 

巨大なギャラドスが、咆哮とともにフィールドへ降り立った。

 

 

「ギャラァァァッ!」

 

 

「ガラガラ、ボーンラッシュ!」

 

 

サカキは即座に攻める。

だが、ギャラドスは大きく身体を持ち上げ、空中へ逃れた。

 

 

「ギャラドス、あまごい!」

 

ギャラドスが咆哮する。

天井の向こうから雨雲が広がり、ジムの内部にも雨が降り注いだ。

 

 

「ほう、天候操作か」

 

 

「さらに、りゅうのまい!」

 

 

ギャラドスが空中で舞うように旋回する。

力と素早さが高まっていく。

 

 

「ガラガラ、ボーンラッシュ!」

 

 

骨が飛ぶ。

ギャラドスは身をひねってかわし、そのまま一気に降下した。

 

 

「たきのぼり!」

 

 

雨をまとった水流が、ギャラドスの巨体を包み込む。

ガラガラは骨を構えて迎え撃とうとしたが、圧倒的な水流の勢いに押し潰された。

激しい水しぶきが上がる。

 

 

「ガラガラ、戦闘不能!」

 

 

「いいぞ、ギャラドス!」

 

 

シンヤが声を上げる。

サカキは静かに次のボールを取り出した。

 

 

「では、こちらも弱点を突かせてもらおう。ニドクイン!」

 

大柄なニドクインが現れ、雨の中で鋭い視線を向けた。

 

 

「十万ボルト!」

 

 

ニドクインの身体から電撃が走る。

 

 

「ギャラドス、かわ――」

 

 

シンヤが指示を出すより早く、電撃がギャラドスへ襲いかかった。

 

 

「ギャラァッ!」

 

 

身体が大きく震える。

効果は抜群。

それでも、ギャラドスは倒れなかった。

 

 

「まだだ! ぼうふう!」

 

 

強烈な風が巻き起こる。

雨粒が混じった風圧がニドクインへ襲いかかり、その巨体を押し戻した。

 

 

「ニドクイン、もう一度十万ボルト!」

 

 

電撃が走る。

ギャラドスは空中で身をひねろうとしたが、避けきれなかった。

 

 

 

 

直撃。

 

 

 

 

 

巨体が大きく揺れ、そのまま地面へ落下する。

 

 

「ギャラドス、戦闘不能!」

 

 

「戻れ、ギャラドス。よくやった」

 

 

シンヤはボールを握りしめた。

相手の弱点を突き、さらに天候まで利用した。

それでも、ニドクインを倒しきるには至らなかった。

 

 

「なら、次は俺の番だ。行け、カメックス!」

 

 

カメックスが堂々とフィールドへ現れる。

 

 

「ニドクイン、十万ボルト!」

 

 

再び電撃が走った。

 

 

「カメックス、こうそくスピン!」

 

 

カメックスは甲羅へ身体を収め、猛烈な勢いで回転する。

電撃をぎりぎりでかわしながら、ニドクインとの距離を取った。

 

 

「そのまま、からをやぶる!」

 

 

甲羅から身体を乗り出し、カメックスの力が一気に高まる。

攻撃力と素早さが増す一方、守りは薄くなる。

シンヤはそのリスクを承知していた。

だからこそ、ここで一気に攻める。

 

 

「みずのはどう!」

 

 

カメックスが2門の大砲を突き出した。

圧縮された水の波動が、ニドクインへ直撃する。

 

 

「ニドクイン!」

 

 

ニドクインは踏ん張ろうとしたが、強烈な水流に押し流され、地面へ倒れ込んだ。

 

 

「ニドクイン、戦闘不能!」

 

 

「よし!」

 

 

これでサカキの三匹目を倒した。

しかし、シンヤの側もコノヨザルとギャラドスが戦闘不能になっている。

戦況は、まだどちらにも傾いていなかった。

 

 

「次はニドキング!」

 

 

サカキが繰り出したのは、ニドクインと対になるポケモンだった。

 

 

「かみなり!」

 

 

空気を裂く電撃が、カメックスへ降り注ぐ。

 

 

「こうそくスピンでかわしながら、あくのはどう!」

 

 

カメックスは身体を回転させ、電撃の狙いを外した。

そのまま背中の2門の大砲から暗黒の波動を集め、ニドキングへ放つ。

 

 

衝撃が命中し、ニドキングの身体が揺れた。

しかし、次の瞬間には、再び雷が走る。

 

 

「カメックス、回避だ!」

 

 

カメックスは身をひねった。

だが、からをやぶることで守りを削っていた影響もあり、完全には避けきれない。

電撃が甲羅をかすめ、動きが鈍る。

 

 

「もう一度、かみなり!」

 

 

ニドキングが吠えた。

雷が落ちる。

カメックスは耐えようとしたが、ついに力尽き、膝をついた。

 

 

「カメックス、戦闘不能!」

 

 

「よく頑張った、カメックス。戻って休んでくれ」

 

 

シンヤは静かにボールへ戻した。

残るこちらのポケモンは三匹。

 

 

対するサカキは、まだ二匹を残している。

 

 

「さて……次はどうする?」

 

 

サカキの問いかけに、シンヤは迷わずボールを取り出した。

 

 

「ここからは、番長の出番だ。行け、ピカチュウ!」

 

 

「ピッカァ!」

 

 

黄色い小さな身体が、フィールドへ降り立つ。

ニドキングは一瞬、相手の小ささを侮るように視線を落とした。

 

 

その瞬間だった。

 

 

「ピカチュウ、なみのり!」

 

 

「ピカッ!」

 

 

ピカチュウの周囲に、水が渦巻いた。

予想外の攻撃に、ニドキングの目が見開かれる。

 

 

巨大な水流が襲いかかり、ニドキングの身体を包み込んだ。

地面タイプにとって、水技は大きな脅威だ。

まして、これほどの勢いで浴びせられれば、耐えきるのは難しい。

水流が収まったとき、ニドキングはすでに倒れていた。

 

 

「ニドキング、戦闘不能!」

 

 

「……なるほど」

 

サカキの目が細くなる。

 

 

「小さな身体に、意外な手札を隠しているわけか」

 

 

「ピカチュウは見た目で判断すると痛い目を見るぞ」

 

 

シンヤは笑った。

 

 

「さて、次はどう来る?」

 

 

「もちろん、力で押し潰す」

 

 

サカキが次のボールを投げた。

 

 

「ドサイドン!」

 

 

二匹目のドサイドンが、轟音とともに現れた。

ピカチュウは身構える。

 

 

「なみのり!」

 

 

再び水流が巻き起こる。

四倍弱点を突く、強烈な一撃。

だが、サカキは表情を変えなかった。

 

 

「ドサイドン、がんせきほう!」

 

 

ドサイドンが巨大な岩塊を発射する。

岩塊は迫り来る水流を正面から打ち砕き、衝撃で周囲に水しぶきを散らした。

爆風がフィールドを吹き荒れる。

 

 

「ピカチュウ!」

 

ピカチュウの身体が弾き飛ばされ、地面へ叩きつけられた。

ドサイドンもまた、がんせきほうの反動で動きを止めている。

 

 

「今だ、ピカチュウ! 近づけ!」

 

 

「ピカッ……!」

 

 

ピカチュウは立ち上がり、ドサイドンへ向かって駆け出した。

しかし、反動から立ち直ったドサイドンが、巨大な腕を振り上げる。

 

 

「アームハンマー!」

 

 

「アイアンテールで迎え撃て!」

 

 

ピカチュウは尻尾を鋼鉄のように硬化させ、振り抜いた。

両者の攻撃が激突する。

火花が散り、衝撃が床を揺らした。

 

 

 

 

 

 

だが――。

 

 

 

 

 

体格差と純粋な力の差は、あまりにも大きかった。

ピカチュウの身体が弾き飛ばされ、地面を転がる。

 

 

「ピカチュウ、戦闘不能!」

 

 

「……戻れ、ピカチュウ。よくやった」

 

 

シンヤはピカチュウをボールへ戻した。

予想以上に手強い。

相手のドサイドンは、弱点を突かれることを承知のうえで、それを力でねじ伏せてきた。

 

 

サカキは、単に地面タイプのポケモンを揃えているわけではない。

それぞれのポケモンに、弱点を覆すだけの戦術と技量を身につけさせている。

2匹目のドサイドンはおそらく最初の1匹目よりも攻撃特化なのだろうな。

 

 

「次は、お前だ。フシギバナ!」

 

 

大きな花を背負ったフシギバナが、フィールドへ現れた。

 

 

「フシギバナ、にほんばれ!」

 

 

フシギバナが空へ向かってエネルギーを放つ。

ジムの天井越しに、強い日差しが降り注いだ。

 

 

「せいちょう!」

 

 

日光を浴び、フシギバナの力が高まっていく。

 

 

「ギガドレイン!」

 

 

蔓が伸び、ドサイドンへ絡みつく。

緑色のエネルギーが吸い取られ、フシギバナの身体へと流れ込んだ。

ドサイドンは身体を震わせながらも、なお立ち続ける。

 

 

「ストーンエッジ!」

 

 

鋭い岩の刃が飛び出した。

フシギバナは身をよじって避けるが、すべてをかわすことはできない。

岩の一つが身体をかすめ、さらにもう一つが足元へ突き刺さった。

 

 

「フシギバナ、もう一度ギガドレイン!」

 

 

フシギバナは蔓を伸ばし、再びエネルギーを吸収する。

ドサイドンの身体が大きく揺れた。

だが、倒れるには至らない。

その巨体は、並外れた耐久力を誇っていた。

 

 

「……よく耐えてたな」

 

 

だがその直後、ドサイドンが崩れ落ちた。

 

 

「ドサイドン、戦闘不能!」

 

 

サカキは静かに目を細めた。

そして、最後のボールを手にする。

 

 

「……なるほど」

 

 

口元に笑み。

 

 

「最後は、お前だ」

 

 

ボールが開く。

高速で飛び出してきたのは――。

 

 

「スピアー!」

 

 

巨大な毒針を持つスピアーだった。

 

 

「なっ、スピアー!?」

 

驚くシンヤだったがすぐに冷静になり、

 

 

「フシギバナ!」

 

 

「ウェザーボール!」

 

 

晴天によって炎の力を得た球体が放たれる。

スピアーは高速で飛翔。

紙一重でかわす。

そのままフシギバナへ突撃する。

何度もその針で攻撃を食らわせてくる。

 

 

 

 

 

だが――。

 

 

 

 

 

フシギバナも簡単には倒れない。

 

 

耐えて。

 

 

耐えて。

 

 

タイミングを見計らう。

 

 

「ウェザーボール!」

 

 

再び炎の球体が飛ぶ。

 

 

「スピアー!」

 

 

今度は完全には避けられなかった。

 

 

 

 

 

 

ドォン!

 

 

 

 

 

炎が炸裂する。

 

 

「……スピィィィィッ!」

 

 

スピアーの目が鋭くなる。

その動きが、さらに速くなった。

 

 

「来るぞ!」

 

 

シンヤが叫ぶ。

スピアーが一気に接近。

フシギバナは耐える。

 

 

 

 

 

それでも――。

 

 

 

 

「フシギバナ!」

 

 

身体が揺らぐ。

倒れる寸前。

シンヤは叫んだ。

 

 

「最後の力を振り絞れ――にほんばれ!」

 

 

太陽が再び強く輝く。

そして。

 

 

「フシギ……バナ……!」

 

 

フシギバナは静かに倒れた。

 

 

「フシギバナ、戦闘不能!」

 

 

シンヤはボールを握りしめる。

 

 

「よくやった。ありがとう」

 

 

シンヤはフシギバナをボールへ戻した。

これで、シンヤの残るポケモンは一匹。

 

 

 

 

 

 

そして――。

 

 

 

 

最後のボールを取り出した。

 

 

「行くぞ、リザードン!」

 

 

「グオオオオオッ!」

 

 

リザードンが飛び出す。

まだ、先ほどのフシギバナによって晴天が残っている。

 

 

リザードンの身体に、炎の力が宿る。

そして目の前にいるスピアーを睨みつける。

 

 

その間、改めてシンヤはスピアーを見る。

その動きには、長年の鍛錬によって磨き上げられた無駄のなさがあった。

そして、首元に輝くメガストーン。

 

 

シンヤは、その石を見逃さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

(……やっぱり、メガシンカできるのか)

 

 

 

 

 

 

サカキは静かに口を開いた。

 

 

「君たちの強さは、十分に見せてもらった」

 

 

その声には、確かな満足感があった。

 

 

「私も本気を出そう。久しく忘れていたこの感覚を思い出させてくれた礼だ」

 

 

サカキは胸元から指輪を取り出した。

中央には、キーストーンが埋め込まれている。

 

 

「古の記憶を呼び覚まし、深き闇の底から真の姿を現せ……」

 

 

キーストーンが輝き始める。

スピアーの首元にあるメガストーンも、それに呼応するように光を放った。

 

 

「さあ、メガシンカの刻だ――スピアー!」

 

 

「スピィィィッ!」

 

 

光が弾けた。

スピアーの身体が変化していく。

 

 

羽が鋭く広がり、腕と脚の毒針がさらに巨大化する。身体の各部に力が漲り、その姿からは一切の無駄が削ぎ落とされていった。

 

 

やがて光が収まる。

そこに立っていたのは――メガスピアー。

研ぎ澄まされた刃のような姿。

その羽音だけで、周囲の空気が震えるほどだった。

 

 

「……すごい」

 

 

レンが息を呑む。

シンヤは、ゆっくりと笑みを浮かべた。

 

 

「なるほど。最後にそれを出してくるか」

 

 

彼は最後のボールを手に取る。

 

 

「なら、こっちも応えないとな」

 

 

シンヤは左手を掲げた。

そこには、ナツメから譲り受けたキーストーン付きのグローブがある。

 

 

「俺たちの紡いだ絆は、誰にも破れない!」

 

 

キーストーンが輝いた。

 

 

「限界のその先へ突き進むぞ! リザードン、メガシンカ!!」

 

 

「リザァァァッ!!」

 

 

光がリザードンを包み込む。

身体が変化し、青黒い体表と燃え盛る青い炎が現れた。

その姿は、メガリザードンX。

 

 

シンヤの切り札が、ついに真の力を解き放った。

 

 

「メガシンカ同士の対決……!」

 

 

レンは思わず手を握りしめた。

ジム内の空気が一変する。

ここから先は、互いの切り札をぶつけ合う最終決戦だ。

 

 

「リザードン、りゅうのまい!」

 

 

リザードンは翼を広げ、空中で舞うように旋回した。

身体の動きが鋭くなり、力が増していく。

 

 

「スピアー、ドリルライナー!」

 

 

サカキの指示と同時に、メガスピアーが弾丸のように飛び出した。

その速度は、先ほどまでとは比べものにならない。

 

 

「リザードン、かわしてほのおのパンチ!」

 

 

メガリザードンXは翼を翻し、紙一重で突進をかわした。

そのまま拳に炎をまとわせ、反撃する。

メガスピアーも空中で軌道を変え、毒針で炎の拳を受け流した。

 

 

火花が散る。

両者は一度距離を取ったかと思うと、再び激突した。

 

 

 

 

炎の拳。

 

 

 

ドリルライナー。

 

 

 

互いの攻撃が、何度も空中でぶつかり合う。

衝撃が広がるたび、床に亀裂が走り、壁の一部が崩れ落ちた。

 

 

「す、すごい……!」

 

 

レンは目を離せなかった。

メガスピアーの動きは異常なほど速い。

メガリザードンXの攻撃を正面から受けることなく、わずかな隙を見つけては毒針を突き出してくる。

 

 

対するリザードンも、龍の舞によって高めた素早さを活かし、何とかその攻撃を捌いていた。

 

 

「サカキさんのスピアー、相当鍛えられているわね……!」

 

 

レンの呟きに、シンヤは頷いた。

メガシンカの力だけではない。

 

 

あのスピアーは、もともと強い。

何度も鍛え上げられ、数え切れないほどの実戦を経験してきたのだろう。

レベルだけでいえば、メガスピアーのほうが上かもしれない。

 

 

だが、シンヤにはまだ勝ち筋があった。

メガスピアーは速い。

 

 

しかし、フシギバナのウェザーボールを受けたダメージが残っている。

そして、晴れが続いている中でリザードンは龍の舞によって攻撃力と素早さを高めている。ここで、焦って攻め続ける必要はない。

 

 

「リザードン、相手の動きを見ろ! 無理に追いかけるな!」

 

 

「リザァッ!」

 

 

リザードンは、迫るメガスピアーの動きを見極めた。

毒針が迫る。

 

 

紙一重で回避。

そして、反撃のほのおのパンチ。

 

 

メガスピアーは身体をひねって避けようとしたが、拳の炎が片側の羽をかすめた。

メガスピアーが空中で体勢を崩す。

 

 

「今だ! ドラゴンクロー!」

 

 

リザードンの両腕に、龍の力が宿る。

鋭い爪が振り下ろされる。

 

 

だが、メガスピアーは間一髪で距離を取り、再び突進の構えを見せた。

 

 

「ドリルライナー!」

 

 

「ほのおのパンチで迎え撃て!」

 

 

両者が再び激突する。

 

 

 

 

 

轟音。

 

 

 

 

 

衝撃がフィールドを揺らした。

メガリザードンの足が地面へ押しつけられ、床が砕ける。

メガスピアーもまた、衝撃で大きく弾き飛ばされた。

 

 

それでも、どちらも倒れない。

メガスピアーは羽を震わせ、再び空中へ浮かび上がる。

メガリザードンも荒い息を吐きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

「……すごいな」

 

 

シンヤは笑った。

ここまでの戦いで、リザードンも相当なダメージを受けている。

 

 

だが、まだ戦える。

そして、相手もまた、限界が近づいている。

 

 

「サカキさん!」

 

 

シンヤは相手を見据えた。

 

 

「このスピアー、あなたと一緒に相当な時間を積み重ねてきたんですね!」

 

 

サカキは、わずかに口元を緩めた。

 

 

「ああ。私の指示を理解し、己の限界を超えようとする。こいつは、私が信頼するポケモンの一匹だ」

 

 

「なら、こっちも負けられない!」

 

 

シンヤは左手を握りしめた。

 

 

「リザードン! 最後まで攻め続けるぞ!」

 

 

「リザァァァッ!!」

 

 

リザードンが咆哮する。

その身体から、青い炎が激しく噴き上がった。

 

 

「メガスピアー、ドリルライナー!」

 

 

サカキが指示を出す。

メガスピアーが一直線に突進した。

 

 

「リザードン、りゅうのまいから――最大パワーでドラゴンクロー!」

 

 

リザードンは最後の力を振り絞り、身体をひねった。

龍の舞で得た素早さを活かし、メガスピアーの突進をぎりぎりでかわす。

そして、全力のドラゴンクローを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

激突。

 

 

 

 

 

 

青い炎と鋭い毒針が交差し、強烈な衝撃がジム全体を揺るがした。

床が砕け、粉塵が舞い上がる。

観客席から、誰も声を出せなかった。

 

 

 

 

 

やがて――。

 

 

 

 

 

粉塵の中から、二つの影が姿を現した。

一匹は、膝をついたメガリザードンX。

もう一匹は、地面へ降り立ったメガスピアー。

 

 

 

 

どちらも、限界だった。

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

メガスピアーの身体を包んでいた光が、静かに消えていった。

メガシンカが解除されたのだ。

 

 

通常のスピアーへ戻ったその身体は、ふらつきながらも立ち続けていた。

 

 

だが、次の瞬間。

 

 

スピアーはゆっくりと前へ倒れた。

 

 

「スピアー、戦闘不能!」

 

 

審判の声が、静まり返ったジムに響いた。

 

 

「……勝った」

 

 

シンヤは、思わず呟いた。

 

 

メガリザードンXも、立ち上がる力は残っていなかった。

だが、最後の一撃を制したのは、シンヤとリザードンだった。

 

 

「リザードン!」

 

 

シンヤが駆け寄る。

 

 

「よく頑張った。本当に、よくやった!」

 

 

「リザァ……」

 

 

リザードンはメガシンカが解除され、疲れ切った様子ながらも、シンヤへ顔を向けた。

シンヤはその首元へ手を添え、労うように撫でる。

サカキもまた、スピアーのもとへ歩み寄っていた。

 

 

「……見事だったぞ」

 

 

彼はスピアーをボールへ戻す前に、そっとその身体へ手を添えた。

 

 

「久しぶりに、実に楽しいバトルだった」

 

 

サカキはシンヤへ向き直った。

 

 

「君の実力は本物だ。ポケモンたちを信頼し、状況を見極め、最後まで勝ち筋を探し続けた。その姿勢を評価しよう」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

シンヤは深く頭を下げた。

 

 

「こちらこそ、ありがとうございました。サカキさんとスピアーが本気で戦ってくれたからこそ、ここまで来られました」

 

 

「フフフ……その言葉、覚えておこう」

 

 

サカキは満足そうに笑った。

そして、ジムリーダーとしての務めを果たすべく、一つのバッジを取り出した。

 

 

「これが、トキワジムのグリーンバッジだ」

 

緑色に輝くバッジ。

シンヤは両手で受け取った。

 

 

「……これで、八つ目」

 

 

手のひらの上で、グリーンバッジが光を反射する。

 

 

グレー、ブルー、オレンジ、レインボー、ピンク、ゴールド、クリムゾン。

そして、グリーン。

 

 

八つのバッジが、ついに揃ったのだ。

 

 

「シンヤ!」

 

 

レンが駆け寄ってきた。

 

 

「おめでとう! ついに八つ全部揃ったわね!」

 

 

「ああ……ようやくだ」

 

 

シンヤは、バッジケースを開いて八つのバッジを並べた。

どれも、これまでの旅で手に入れてきた証。

強敵との戦い。仲間との出会い。失敗や反省。そして、ポケモンたちと積み重ねてきた経験。

 

 

そのすべてが、この八つのバッジにつながっている。

 

 

「これで、ポケモンリーグへの挑戦資格が揃った」

 

 

シンヤは、バッジケースをそっと閉じた。

 

 

「……ここからが、本番だな」

 

 

レンは隣で頷いた。

 

 

「ええ。リーグに向けて、まだまだやることはたくさんあるものね」

 

 

「ああ。まずはポケモンたちをしっかり休ませて、それから育成だ」

 

 

シンヤは、リザードンのボールを握りしめた。

最後のジムを突破した。

しかし、旅はまだ終わらない。

むしろ――本当の挑戦は、ここから始まるのだ。

 

 

トキワジムの窓から差し込む光が、八つのバッジを照らしていた。

 

カントー地方のジム巡り。

 

その最後を飾ったのは、シンヤとリザードン、そしてサカキとスピアーによる、メガシンカ同士の激闘だった。

 




以上を持ってジム巡り編は終了。
次回からはポケモンリーグ編へと移ります。
まあすぐにリーグってわけじゃないけど
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