ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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今回は短いです


第62話 ともしび温泉へ! レンとの約束とメイド姉妹の休日!

ナナシマ 4のしま、いてだきのどうくつで四匹のポケモンを仲間にしたシンヤは、リザードンの背に乗って五の島の別荘へと戻ってきた。

 

 

「ただいまー!」

 

 

「お帰りなさいませ、坊ちゃま」

 

 

「お帰りなさい、シンヤ」

 

 

 

玄関まで出迎えてくれたのは、レムとレンだった。

その後ろでは、ラムが腕を組み、いかにも面倒そうな顔をしている。

 

「随分と早かったわね。てっきり、日が暮れるまで帰ってこないと思っていたのだけれど」

 

 

「いや、今回は目的がはっきりしていたからな。いてだきのどうくつで、パウワウ、ラプラス、ヤドン、ニョロゾを捕まえてきた」

 

 

「まあ、四匹も?」

 

 

レンが目を輝かせた。

 

 

「ああ。特にラプラスは、あの洞窟にいる特別な個体に出会えたんだ。いやあ、いい出会いだった」

 

 

「ふふっ。シンヤらしいわね」

 

 

レンは楽しそうに微笑んだ。

一方、ラムは小さくため息をつく。

 

 

「帰ってきて早々、ポケモンの話ばかり。坊ちゃまは本当にブレないわね」

 

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

 

「褒めていないわよ」

 

 

「知ってる」

 

 

シンヤは肩をすくめた。

レムがくすりと笑う。

 

 

「新しく仲間になったポケモンたちは、あとで私たちもご挨拶してよろしいでしょうか?」

 

 

「もちろん。みんなにも、ここが新しい拠点になるって教えないとな」

 

 

シンヤはそう答えながら、レンへ視線を向けた。

 

 

「ところでレン。約束、覚えてるよな?」

 

 

「……っ!」

 

 

レンの肩がぴくりと跳ねた。

その反応を見て、ラムが目を細める。

 

 

「約束?」

 

 

「1のしまにある、ともしび温泉に行こうって話をしてたんだ」

 

 

「ああ、温泉ね」

 

 

ラムは納得したように頷いた。

しかし、次の瞬間。

 

 

「……へえ。レン様と坊ちゃまが、一緒に温泉へ?」

 

 

「ラム!」

 

 

レンが慌てて声を上げた。

 

 

「何を想像しているのよ!」

 

 

「別に何も? 水着を着て入るのでしょう?」

 

 

「そ、そうよ!」

 

 

「なら、何も慌てる必要はないのではなくて?」

 

 

「うっ……!」

 

 

レンが言葉に詰まる。

ラムは口元に薄い笑みを浮かべた。

 

 

「ふふっ。レン様も、なかなか積極的なのですね」

 

 

「~~~~っ!」

 

 

レンの顔がみるみる赤くなっていく。

シンヤは二人のやり取りを見ながら、首を傾げた。

 

 

「……何をそんなに騒いでるんだ?」

 

 

「「あなた(坊ちゃま)は黙っていて!」」

 

 

「はい」

 

 

見事なまでに声が揃った。

シンヤは素直に口を閉じた。

その様子を見て、レムが微笑みながら口を開く。

 

 

「ともしび温泉でしたら、私たちもご一緒してよろしいでしょうか?」

 

 

「もちろん。せっかくだから、みんなで行こう」

 

 

「ありがとうございます、坊ちゃま」

 

 

「……え?」

 

 

レンが顔を上げた。

シンヤは不思議そうに彼女を見る。

 

 

「どうした?」

 

 

「い、いえ……ラムさんとレムさんも一緒なのね?」

 

 

「そのつもりだけど?」

 

 

「そ、そう……」

 

 

レンは一瞬だけ考え込んだ。

もともとシンヤと一緒に温泉へ行くつもりだった。

しかし、二人きりになると思っていたわけではないにせよ、ラムとレムまで同行するとは考えていなかった。

 

 

とはいえ、ここで二人に来ないでほしいと言うのも不自然だ。

それに――。

 

 

 

 

 

(別に、みんなで温泉に入るだけなんだから……!)

 

 

 

 

 

レンは自分に言い聞かせるように頷いた。

 

 

「……分かったわ。みんなで行きましょう」

 

 

「うん。それじゃ、準備をして出発だな」

 

 

シンヤはあっさりと話をまとめた。

レンはそんな彼を見つめ、そっと頬を膨らませる。

 

 

 

 

 

(もう少し、こう……何かないのかしら)

 

 

 

 

 

もっとも、何を期待しているのかと自分自身に問われれば、答えられる自信はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出発の準備を終えた一行は、別荘の前に集まった。

 

 

「さて、どうやって1のしままで行こうか」

 

 

「船を手配いたしましょうか?」

 

 

レムが尋ねる。

 

 

「いや、そこまでしなくてもいいよ。俺のポケモンに頼めば移動できるからな」

 

 

シンヤはボールを取り出した。

 

 

「出てこい、リザードン!」

 

 

「グォォォッ!」

 

 

「ピジョー!」

 

 

大きな翼を広げ、リザードンが姿を現した。

 

 

シンヤはその首元を軽く撫でる。

 

 

「悪いけど、もうひと仕事頼むな」

 

 

「グォッ!」

 

 

リザードンは力強く鳴いた。

 

 

「えっと……私たちも乗るのよね?」

 

 

レンが少しだけ不安そうに尋ねる。

 

 

「ああ。ただ、四人全員を一度に乗せるのは負担が大きい。だから――」

 

 

シンヤは少し考えた。

リザードンは大型のポケモンだが、四人を乗せて長距離を飛ぶとなれば話は別だ。

ポケモンの体力を考えれば、無理をさせるべきではない。

 

 

「フーディンにも手伝ってもらおう。まず俺たちが先に行って、あとからフーディンにラムとレムを連れてきてもらう方法もあるけど……」

 

 

「それでしたら、私たちは船で向かうこともできますわ」

 

 

ラムが淡々と告げる。

 

 

「確かに、それもありだな……」

 

 

「ただ、せっかくの機会ですし、フーディンにお願いしてみてはいかがでしょう?」

 

 

レムが提案した。

シンヤは少し考え、頷いた。

 

 

「そうだな。フーディンの負担も確認して、問題がなければ頼んでみよう」

 

 

こうして、シンヤはフーディンを呼び出し、四人で移動するための方法を相談した。

十分な休息を取っていたフーディンは、短距離のテレポートなら問題ないと伝えるように頷いた。

 

 

「よし。じゃあ、頼むな」

 

 

「フーディン」

 

 

フーディンの周囲に、淡い光が広がる。

次の瞬間、四人の姿は別荘の前から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1のしま。

 

 

 

そこには、ナナシマを訪れた観光客にも知られる温泉施設、ともしび温泉があった。

温泉から立ち上る湯気。

周囲に広がる自然。

 

 

そして、火山地帯ならではの温かな空気。

到着したシンヤたちは、まず施設の受付で利用手続きを済ませた。

 

 

「温泉の効能としては、疲労回復やリフレッシュが期待できるそうです。ポケモン向けの設備もあるようですね」

 

 

レムが案内板を確認しながら説明する。

 

 

「へえ、ポケモン用の温泉もあるのか」

 

 

「ええ。ポケモンによって適した温度は違いますから、専用の浴場が用意されているようですわ」

 

 

ラムが案内板を指さした。

 

 

「ただし、すべてのポケモンが温泉を好むわけではないみたいね。無理に入れないよう注意書きがあるわ」

 

 

「それは大事だな」

 

 

シンヤは頷いた。

温泉だからといって、すべてのポケモンが喜ぶとは限らない。

 

 

特に水温や環境の好みは、種族や個体によって違う。

ポケモンたちにも、それぞれの意思がある。

 

 

「今日は俺たちがリフレッシュするのが目的だ。ポケモンたちは、本人が入りたがるなら考えるくらいでいいな」

 

 

「そうね」

 

 

レンが微笑んだ。

受付を済ませると、施設のスタッフが四人を案内した。

温泉には男女別の浴場があり、水着を着用して利用できる混浴エリアも設けられている。

 

 

レンが希望していたのは、もちろん後者だった。

もっとも、いざ目の前にすると、少しばかり緊張してしまう。

 

 

「……本当に、一緒に入るのね」

 

 

レンが小さく呟いた。

 

 

「そういう約束だっただろ?」

 

 

「そ、そうだけど……!」

 

 

シンヤは不思議そうに首を傾げた。

レンは顔を赤くしながら、心の中で自分に言い聞かせる。

 

 

 

 

 

(落ち着きなさい、レン。水着を着るんだから、何も問題ないわ……!)

 

 

 

 

 

そう。

何も問題はない。

ただ、いつも一緒に旅をしている相手と、普段とは違う場所で過ごすだけだ。

それだけなのに、どうしてこんなに意識してしまうのだろう。

 

 

「レン様?」

 

 

「な、何でもないわ!」

 

 

レムに声をかけられ、レンは慌てて返事をした。

ラムは、その様子を見て小さく笑う。

 

 

「……本当に分かりやすいわね」

 

 

「ラム!」

 

 

「はいはい。私は何も言っていないわ」

 

 

ラムは涼しい顔で更衣室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

着替えを済ませた四人は、混浴エリアで合流した。

もちろん、全員が水着を着用している。

シンヤはシンプルな水着姿で、温泉の周囲を見回していた。

 

 

「へえ……思っていたより広いな」

 

 

温泉は十分な広さがあり、周囲には休憩用の椅子や、ゆっくり景色を眺められる場所も用意されている。

 

 

熱すぎない湯加減に調整された場所もあれば、少し温度の高い浴槽もあるらしい。

 

 

「こちらは温度が少し高めのようですね」

 

 

レムが案内板を確認する。

 

 

「坊ちゃま、最初はこちらのぬるめの浴槽から試されてはいかがでしょう?」

 

 

「そうだな。いきなり熱いところに入る必要もないし」

 

 

シンヤが頷く。

レンも、その隣に立った。

 

 

「……それじゃ、入るわよ」

 

 

「ああ」

 

 

二人はゆっくりと湯船に足を入れた。

温かな湯が身体を包み込む。

 

 

「……はぁ」

 

 

シンヤは思わず息を吐いた。

 

 

「これはいいな……」

 

 

「でしょう?」

 

 

レンも、ほっとしたように目を細めた。

旅の間は、毎日が慌ただしい。

 

 

ポケモンとの出会いがあり、バトルがあり、移動があり、時には思いもよらない事件に巻き込まれる。

 

 

カントー地方のジムバッジを八つ集めるまで、シンヤはほとんど休むことなく旅を続けてきた。

 

 

レンも、そんな彼の隣で旅をしてきた。

だからこそ、こうして何も考えずに温泉に浸かれる時間は、二人にとって貴重だった。

 

 

「……最近、ずっと忙しかったものね」

 

 

「ああ。ジム戦もそうだし、グンジョウシティの件もあったからな」

 

 

「でも、いろいろな経験ができたわ」

 

 

レンは穏やかに微笑んだ。

 

 

「シンヤと一緒に旅をしていなかったら、きっと知らなかったこともたくさんあったと思う」

 

 

「そうか?」

 

 

「ええ。ポケモンのことも、人のことも。強くなることだけが、旅の意味じゃないって分かったもの」

 

 

シンヤは少しだけ目を見開いた。

そして、穏やかに笑う。

 

 

「……そう言ってもらえると、嬉しいな」

 

 

「ふふっ。何よ、急に素直じゃない」

 

 

「俺だって、たまには素直になるさ」

 

 

「いつもそうならいいのに」

 

 

「それは難しいな」

 

 

「もう……」

 

 

レンは頬を膨らませた。

けれど、その表情はどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、その少し離れた場所では、ラムとレムも温泉を楽しんでいた。

 

 

「……ふぅ。たまには、こういう時間も悪くないわね」

 

 

ラムは肩まで湯に浸かり、ゆっくりと息を吐いた。

 

 

「はい。普段はお仕事で忙しいですから」

 

 

レムも、穏やかな表情で頷く。

二人は普段、家の仕事をこなしている。

料理や掃除、洗濯、来客対応、屋敷の管理。

さらに、乗り物の運転までこなせるという万能ぶりだ。

しかし、どれだけ仕事ができても、休息が必要なのは変わらない。

 

「それにしても、坊ちゃまは不思議な方ですね」

 

 

レムがぽつりと呟いた。

 

 

「何がよ?」

 

 

「ポケモンに対して、とても真剣なのに、人間相手だと少し鈍いところがあるといいますか……」

 

 

「……ああ」

 

 

ラムは納得したように頷いた。

 

 

「レン様があれだけ分かりやすい態度を取っているのに、まるで気づいていないものね」

 

 

「やっぱり、そう思いますか?」

 

 

「ええ。もっとも、坊ちゃまは十歳だもの。恋愛に関しては、まだまだこれからでしょう」

 

 

ラムは湯船の縁に腕を置き、遠くを眺めた。

 

 

「ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「レン様が気にしている相手は、レン様だけではないようだけれど」

 

 

ラムの言葉に、レムは少しだけ考え込んだ。

 

 

「……ナツメ様のことでしょうか?」

 

 

「そうね。あちらは、かなり積極的に見えるわ」

 

 

「レン様も、大変ですね……」

 

 

「まったく。坊ちゃまがもう少し周囲を見られるようになれば、少しは違うのでしょうけれど」

 

 

ラムはため息をついた。

もちろん、二人ともレンの気持ちをからかうつもりはない。

 

 

ただ、身近で見ていれば、彼女がシンヤを特別に思っていることは分かる。

そして、シンヤがポケモンのことになると周囲が見えなくなるのも、よく分かる。

その二つが組み合わされば、どうなるか。

 

 

 

 

……考えるまでもない。

 

 

 

 

「まあ、私たちは私たちで、できることをしましょう」

 

 

レムが微笑んだ。

 

 

「レン様が安心して旅を続けられるよう、そばで支えてあげたいです」

 

 

「そうね。私たちの仕事でもあるし」

 

 

ラムは、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温泉を楽しんだ四人は、その後、休憩スペースへ移動した。

冷たい飲み物と軽食を用意してもらい、ゆったりとした時間を過ごす。

シンヤは椅子に座りながら、4のしまで捕まえたポケモンたちのことを考えていた。

 

 

「……ラプラスは、今後の旅でも活躍してくれそうだな」

 

 

「もう次のことを考えているの?」

 

 

レンが呆れたように笑う。

 

 

「いや、考えるだろ。せっかく仲間になったんだから、どんなことが得意なのか、何をしたいのか、少しずつ知っていきたいし」

 

 

「ふふっ。そういうところは、本当にシンヤらしいわね」

 

 

「そうか?」

 

 

「ええ」

 

 

レンは頷いた。

 

 

「でも、今日はもう少し休みましょう? せっかく温泉に来たんだから」

 

 

「……それもそうだな」

 

 

シンヤは苦笑した。

いつもの癖で、つい先のことを考えてしまう。

しかし、休むことも大切だ。

ポケモンたちに休息が必要なように、トレーナーにも休息が必要なのだから。

 

 

「分かった。今日はゆっくりしよう」

 

 

「ええ!」

 

 

レンは嬉しそうに微笑んだ。

その表情を見て、シンヤも自然と笑顔になる。

ラムとレムも、そんな二人を少し離れたところから眺めていた。

 

 

「……まったく、見ているこちらが恥ずかしくなるわね」

 

 

「姉様、そう言いながら、少し楽しそうですよ?」

 

 

「気のせいよ」

 

 

「ふふっ」

 

 

レムは穏やかに笑った。

こうして、ともしび温泉での時間は、ゆっくりと過ぎていった。

旅の疲れを癒やし、仲間たちとの絆を確かめ、明日からの活動に備える。

 

 

セキエイ大会まで、残された時間は約二か月。

シンヤたちのナナシマでの生活は、まだ始まったばかりだった。

 

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