◆研究所に残された、もう一つの勝負
「いやーっ! やっぱりバトルって最高だな!」
サトシの声が、オーキド研究所のバトルフィールドに響き渡った。
ウインディとスピアーの活躍を振り返り、カメックスとニドキングの状態も確認し終えた一同。先ほどまでの激戦で荒れたフィールドは、研究所のスタッフによって整備されている。
「サトシ、シゲル。二人とも、ポケモンたちを十分に休ませるんじゃぞ。今日はこれ以上、何戦も続けるわけにはいかんからな」
オーキド博士が念を押した。
「分かってるって、オーキド博士!」
「もちろんです。僕も、これ以上カメックスに無理をさせるつもりはありません」
サトシとシゲルが頷く。
そのとき、リーフがシンヤへ視線を向けた。
「ねえ、シンヤ。せっかくフィールドも整ったことだし……私たちも一戦、どうかしら?」
「俺たちも?」
「ええ。あなたのポケモンたちがどれくらい成長したのか、私も見てみたいのよ。
タマムシで出会ったときは戦ってないしね?」
リーフはいつもの上品な笑みを浮かべた。
しかし、その瞳にはトレーナーとしての真剣な光が宿っている。
シンヤは少し考えたあと、頷いた。
「いいな。俺もリーフの今の実力を見ておきたいと思っていたところだ」
「決まりね!」
「ただし、2対2だ。お互いに二匹ずつ。交代は自由、どちらかの二匹が戦闘不能になった時点で決着としよう」
「サトシたちと同じ形式ね。異論はないわ」
二人はフィールドの両端に立った。
「おおっ! 今度はシンヤとリーフのバトルか!」
サトシが目を輝かせる。
「これは見逃せないね。リーフにシンヤ……単純な実力比較にはならないだろう」
シゲルも観戦位置へ移動した。
「ふふっ。二人とも、しっかり見ていてね?」
リーフが軽くウインクする。
「……お手柔らかに、とは言わないからな」
シンヤもモンスターボールを構えた。
オーキド博士が審判役を務める。
「それでは、シンヤ対リーフ! 2対2の模擬バトル、始め!」
◆第一試合――カブトプスVSキュウコン
「お願い、キュウコン!」
リーフのボールから、優雅な姿のキュウコンが現れた。
九本の尾が美しく広がり、金色の毛並みが陽光を受けて輝く。
「行くぞ、カブトプス!」
シンヤのボールから飛び出したカブトプスは、両腕の鎌を構え、低い姿勢で相手を見据えた。
サトシが首を傾げる。
「カブトプスか! でも、シンヤの主力ってリザードンやギャラドスたちじゃなかったっ
け?」
「控えのポケモンだからといって、戦闘力まで低いとは限らないさ」
シゲルが答えた。
「むしろ、シンヤがわざわざこの場でカブトプスを選んだことに注目すべきだろうね」
シンヤはカブトプスを見つめた。
5の島で過ごした日々。
さまざまなポケモンたちとの模擬戦。相手の得意技を真正面から受け止めるのではなく、どうすれば避け、崩し、反撃につなげられるのかを何度も考えさせた。
もちろん、ただ勝つだけの訓練ではない。
相手の技を理解し、自分の身体能力を把握し、仲間の動きまで利用する。
そうした積み重ねを経て、カブトプスは主力たちと同じように、状況に応じた戦術を選べるようになっていた。
「カブトプス、準備はいいな?」
カブトプスが鎌を交差させ、鋭い音を鳴らす。
「キュウコン、最初はあれで行きましょう。にほんばれ!」
キュウコンが空へ向かって鳴き声を上げた。
眩い光がフィールドを包み、太陽の光が一段と強まったように感じられる。
「天候操作から入るか」
シンヤは目を細めた。
(にほんばれで炎技を強化するだけじゃない。水技の威力を抑え、こちらの行動選択を狭める狙いもある。リーフらしい、手堅い立ち上がりだ)
「キュウコン、かえんほうしゃ!」
キュウコンの口から炎が噴き出した。
「カブトプス、右へ回り込め!」
カブトプスは地面を蹴り、炎の軌道ぎりぎりを横切った。
炎が背後の地面を舐める。
カブトプスはその熱を感じながらも足を止めず、キュウコンの側面へと迫った。
「そのまま、れんぞくぎり!」
両腕の鎌が交差する。
だが、キュウコンはしなやかに身をひねり、最初の一撃をかわした。
「後ろへ跳んで、でんこうせっか!」
キュウコンの身体が素早く後退する。
カブトプスの鎌が空を切った直後、キュウコンは一気に距離を詰め、体当たりを仕掛けた。
「カブトプス、受け止めなくていい。身体を沈めろ!」
カブトプスは地面すれすれまで姿勢を低くした。
キュウコンの突進が頭上を通り過ぎる。
その瞬間、カブトプスは前脚で地面を蹴り、キュウコンの着地地点へと身体を滑り込ませた。
「つじぎり!」
鎌が横から迫る。
「キュウコン、ひのこで牽制!」
小さな炎が連続して放たれた。
カブトプスは鎌を盾のように構え、炎の直撃を避けながら進路をわずかに変える。すべてを防ぐのではなく、炎の間を縫うように移動し、キュウコンが着地する瞬間を狙った。
キュウコンは尾を広げ、身体をひねって鎌をかわす。
「すごい……!」
リーフが思わず声を漏らした。
カブトプスは水技を一切使っていない。
水タイプだから水技で攻める、という発想に頼らず、相手の炎技と素早さに対して、身体能力と鎌による近接戦闘で勝負している。
しかも、攻撃を避けるたびに位置取りを変え、キュウコンの次の行動を制限しようとしていた。
「キュウコン、エナジーボール!」
緑色の光球が形成され、カブトプスへ放たれる。
「カブトプス、地面を蹴って横へ! そのまま岩場を利用しろ!」
カブトプスはフィールドに置かれた岩の陰へ滑り込んだ。
エナジーボールが岩に命中し、破片が飛び散る。
「その破片を踏み台にして、上から行け!」
カブトプスは崩れた岩の一部を足場にして跳躍した。
キュウコンが顔を上げる。
「かえんほうしゃ!」
炎が上空へ伸びた。
カブトプスは空中で身体をひねり、炎の中心を避ける。熱が甲殻をかすめるほどの距離だった。
そのまま落下の勢いを利用して、鎌を振り下ろす。
「キュウコン、しっぽで受け流して!」
九本の尾が広がり、カブトプスの攻撃の角度を逸らした。
鎌が地面を叩く。
着地したカブトプスの目の前で、キュウコンはすでに次の技を準備していた。
「ソーラービーム!」
太陽の光を集めた強烈な光線が放たれる。
「カブトプス、真正面から避けるな! 発射の瞬間に横へ!」
カブトプスは光線が放たれる直前、キュウコンの身体の動きを見て踏み切った。
ソーラービームがすぐ脇を通過し、背後の岩場を直撃する。
轟音とともに岩が砕け、土煙が上がった。
「今だ! きりさく!」
カブトプスは土煙を利用して接近する。
しかし、キュウコンは尾の動きで気配を察知し、身体を半回転させた。
鎌と尾がぶつかり、鋭い音が響く。
両者は同時に距離を取った。
「すごいな……」
サトシが思わず呟いた。
「カブトプス、ほとんど水技を使っていないぞ。なのに、キュウコンの攻撃を避けながら、ちゃんと反撃してる!」
「それだけじゃない」
シゲルが目を細める。
「キュウコンの攻撃を避けるたびに、カブトプスはフィールドの地形を利用している。岩場、土煙、破片……すべてを次の行動につなげているんだ」
リーフも、カブトプスの動きに目を凝らした。
(以前、別のトレーナーの使うカブトプスと戦ったけど動きがまるっきり違う!)
「リーフ、次はどうする?」
シンヤが問いかける。
「ふふっ。そう簡単には終わらせないわよ、シンヤ」
リーフは微笑み、キュウコンへ指示を出した。
「キュウコン、かえんほうしゃで地面を焼いて!」
炎が地面を走り、カブトプスの移動経路を塞ぐ。
「なるほど、足場を制限するつもりか」
シンヤは即座に状況を把握した。
「カブトプス、炎の切れ目を見つけろ。無理に突っ込むな!」
カブトプスは炎の広がりを見極め、焼かれていない地面を探す。
キュウコンはその動きを追い、逃げ道を塞ぐように炎を放った。
「そこよ! ソーラービーム!」
光線が一直線に走る。
カブトプスはぎりぎりまで引きつけ、横へ跳んだ。
光線は背後の地面を削り、土煙を巻き上げる。
その土煙に紛れ、カブトプスが一気に踏み込んだ。
「つじぎり!」
「キュウコン、でんこうせっか!」
二匹の影が交差した。
次の瞬間、カブトプスの鎌がキュウコンの肩口をかすめ、キュウコンの突進がカブトプスの甲殻にぶつかった。
両者は大きく距離を取る。
キュウコンは呼吸を整えながらも、まだしっかりと立っている。
カブトプスもまた、傷を負いながら鎌を構え直した。
「……ここまで互角に持ち込むなんてね」
リーフは嬉しそうに笑った。
「でも、まだよ!」
「俺も同じことを考えていたところだ」
シンヤが答える。
二匹は再び相手を見据えた。
そして、次の瞬間。
「キュウコン、かえんほうしゃ!」
「カブトプス、横へ回って、れんぞくぎり!」
炎と鎌がぶつかり合う。
炎の熱が甲殻を焦がし、鎌の一撃がキュウコンの身体をかすめる。
最後の一撃が交差した瞬間、二匹はほぼ同時に地面へ膝をついた。
「キュウコン、戦闘不能!」
オーキド博士の判定が響く。
一拍遅れて、カブトプスも身体を支えきれずに倒れた。
「カブトプスも戦闘不能じゃ!」
一瞬の静寂。
そして、サトシが大きく声を上げた。
「すっげえーっ! 引き分けだ!」
シゲルも頷く。
「互いに相手の得意分野を押しつけようとしながら、最後まで崩れなかった。特にカブトプスは、水技に頼らず、回避と地形利用でキュウコンに食らいついた。見事な戦いだったね」
シンヤはカブトプスをボールに戻し、静かに声をかけた。
「よくやった、カブトプス。最後まで自分の戦い方を貫いたな」
ボールが一度だけ小さく揺れた。
リーフもキュウコンを戻す。
「ありがとう、キュウコン。あなたの戦い方、とても素敵だったわ」
第一試合は、両者戦闘不能による引き分け。
残るポケモンは、それぞれ一匹ずつとなった。
◆第二試合――ニョロボンVSフシギバナ
「次は、あなたね!」
リーフが二つ目のボールを掲げた。
「お願い、フシギバナ!」
大きな花を背負ったフシギバナがフィールドへ現れる。
堂々とした体格。大地を踏みしめる四本の脚。背中の花からは、強い生命力が感じられた。
「行くぞ、ニョロボン!」
シンヤが繰り出したのは、鍛え上げられたニョロボンだった。
ニョロボンは両拳を構え、フシギバナの動きをじっと観察する。
サトシが目を輝かせた。
「ニョロボンか! シンヤ、今度はどう戦うんだ?」
「フシギバナ相手に、ニョロボンを選ぶとはね」
シゲルは少し考え込む。
「草技に弱点を突かれる組み合わせだ。単純な力比べでは厳しいはずだが……」
「単純な力比べをするつもりはないさ」
シンヤは落ち着いた声で答えた。
「リーフ、全力で来てくれ」
「もちろんよ!」
リーフはフシギバナへ手を伸ばした。
「フシギバナ、にほんばれ!」
フシギバナが大きく鳴き、背中の花から光が広がる。
空から降り注ぐ陽光が強まり、フィールド全体が明るく照らされた。
「そして、ソーラービーム!」
太陽のエネルギーが花に集まり、強烈な光線となって放たれる。
「ニョロボン、左へ回避!」
ニョロボンは素早く横へ跳んだ。
ソーラービームが地面を貫き、土煙が舞い上がる。
「続けて、はっぱカッター!」
無数の鋭い葉が飛んでくる。
「ニョロボン、れいとうパンチ!」
ニョロボンの拳が冷気をまとった。
飛来する葉に向かって拳を振るうと、冷気が葉を凍らせ、硬い氷片へと変える。
ニョロボンはそのまま拳を振り抜き、氷片を地面へ叩き落とした。
「なるほど。草技を防ぐだけじゃなく、氷を利用するつもりか」
シゲルが呟く。
「ニョロボン、前へ!」
ニョロボンは氷片の間を駆け抜け、フシギバナへ接近した。
「フシギバナ、つるのムチ!」
二本のつるが伸び、ニョロボンの腕を狙う。
「れいとうパンチで迎え撃て!」
ニョロボンは拳を振るい、つるの先端を凍らせた。
凍りついたつるが硬直する。
その隙に、ニョロボンは腕をひねってつるを弾き、距離を詰めた。
「ばくれつパンチ!」
拳がフシギバナの身体へ迫る。
「フシギバナ、こうごうせい!」
フシギバナの花が光を放ち、身体に活力を取り戻させる。
「そのまま、ねむりごな!」
花から淡い粉が舞い、ニョロボンの進路を覆った。
「ニョロボン、息を止めて、地面を叩け!」
ニョロボンは足を踏み込み、地面を強く叩いた。
舞い上がった土が粉を散らし、ニョロボンは粉の薄い場所へ跳び込む。
しかし、すべてを避けきれたわけではない。
ニョロボンの動きが一瞬だけ鈍る。
「今よ、フシギバナ! ソーラービーム!」
再び光が集まる。
「ニョロボン、れいとうパンチ! 地面を狙え!」
ニョロボンは拳を地面へ叩きつけた。
冷気が広がり、地表の水分が凍りつく。
ソーラービームが放たれた瞬間、ニョロボンは凍った地面を蹴って横へ滑った。
光線がすぐ脇を通過する。
その反動で舞い上がった氷と土が、フシギバナの視界を一瞬だけ遮った。
「今だ!」
ニョロボンは身体をひねり、氷の塊を両腕で掴むと、勢いをつけてフシギバナへ投げつけた。
「フシギバナ、はっぱカッターで迎撃!」
葉が飛び、氷の塊を砕く。
だが、ニョロボンが狙っていたのは、その破片だった。
「ばくれつパンチ!」
ニョロボンは地面を蹴り、拳を振り抜いた。
拳から生まれた風圧が、砕けた氷片をまとめて吹き飛ばす。
大小さまざまな氷の破片が、散弾のようにフシギバナへ襲いかかった。
「フシギバナ!」
フシギバナは身体をひねり、花をかばうようにして防御する。
氷片が葉や茎にぶつかり、細かな音が連続して響いた。
「すごい……!」
リーフは驚きながらも、すぐに表情を引き締めた。
(ニョロボンは、ただ氷を作っているわけじゃない。私の草技を凍らせ、砕き、今度はその破片まで攻撃に利用したのね!)
シンヤはニョロボンを見つめた。
(よし。フシギバナの草技は強力だが、放たれた技をただ防ぐだけなら、次の攻撃を受け続けることになる。ニョロボンは氷を盾にも、足場にも、弾丸にも変えている)
それは、5の島で繰り返した模擬戦の成果だった。
相手の攻撃を受けて終わるのではなく、攻撃そのものを次の行動の材料にする。
主力たちとの訓練で、ニョロボンは何度もその発想を試してきた。
「でも、まだまだよ! フシギバナ、つるのムチで地面を叩いて!」
フシギバナがつるを振るい、地面を強打する。
土煙が広がり、ニョロボンの足元が揺れた。
「そのまま、はっぱカッター!」
葉が左右から迫る。
「ニョロボン、れいとうパンチで正面を凍らせろ!」
ニョロボンは拳を振るい、迫る葉を次々に凍らせる。
しかし、左右からの攻撃をすべて防ぎきることはできない。
葉の一部が腕や肩をかすめ、ニョロボンの身体に傷が増えていく。
「フシギバナ、押し切るわ! ソーラービーム!」
花に再び光が集まった。
ニョロボンは一度、深く腰を落とした。
シンヤの指示を待つのではなく、自分でフシギバナの動きを見極めるように、拳を構える。
「ニョロボン、真正面から受けるな! 最後まで相手を見ろ!」
ニョロボンは短く鳴いた。
光線が放たれる。
ニョロボンは紙一重で横へ跳び、光線の余波に押されながらも、地面を蹴った。
「れいとうパンチ!」
拳が地面へ叩きつけられ、氷の塊が再び生まれる。
「フシギバナ、つるのムチ!」
つるが伸び、ニョロボンを捕らえようとする。
だが、ニョロボンは氷の塊を拳で打ち砕いた。
「その破片を、ばくれつパンチで飛ばせ!」
ニョロボンが拳を振り抜く。
氷片が風圧をまとい、フシギバナへと飛んでいく。
「フシギバナ、はっぱカッター!」
フシギバナは葉を放ち、氷片を迎撃した。
その瞬間、ニョロボンが氷片の陰から飛び出した。
「今だ、ニョロボン! れいとうパンチ!」
「フシギバナ、こうごうせい!」
フシギバナの花が光り、回復しようとする。
しかし、ニョロボンの拳はその直前に届いた。
冷気をまとった拳がフシギバナの身体に命中し、衝撃とともに冷気が広がる。
フシギバナは大きく後退した。
それでも倒れない。
「まだよ、フシギバナ! 立って!」
リーフの声に応え、フシギバナは再び足を踏ん張った。
「ニョロボン、最後まで油断するな!」
シンヤも声を張る。
二匹は互いに傷つきながら、最後の力を振り絞った。
「フシギバナ、ソーラービーム!」
「ニョロボン、れいとうパンチで地面を蹴れ!」
ソーラービームが放たれる。
ニョロボンは凍った地面を蹴り、身体を低くして光線の軌道を外れた。
そして、滑る勢いを利用して一気に間合いを詰める。
「ばくれつパンチ!」
拳がフシギバナへ迫る。
「フシギバナ、つるのムチ!」
つるが伸び、ニョロボンの腕に巻きついた。
一瞬、動きが止まる。
だが、ニョロボンは空いている拳に冷気を集め、つるの付け根を凍らせた。
「そのまま、押し切れ!」
ニョロボンは全身を使って踏み込み、拳を振り抜いた。
轟音。
フシギバナの身体が大きく揺れ、ついに地面へと倒れ込んだ。
「フシギバナ、戦闘不能!」
オーキド博士の判定が響く。
「勝者、シンヤ!」
「やったああっ!」
サトシが両手を上げた。
「ニョロボン、すっげえ戦い方だったぞ! 氷を作って、それをぶつけるなんて!」
シゲルも感心したように頷く。
「しかも、ただの飛び道具ではない。草技を防いだ氷を、攻撃の材料へ転換していた。相手の技やフィールドの変化を、戦術に組み込む能力が高いね」
シンヤはニョロボンのもとへ歩み寄った。
「よくやった、ニョロボン。最後まで自分で考えて戦えたな」
ニョロボンは拳を軽く打ち合わせ、誇らしげに笑った。
リーフもフシギバナのそばへ寄り、優しく身体を撫でた。
「ありがとう、フシギバナ。最後までよく頑張ったわ」
フシギバナは小さく鳴き、リーフに身体を預ける。
リーフはその様子を確かめてから、シンヤへ顔を向けた。
「負けちゃったわね。でも、とても楽しかったわ」
「俺もだ。キュウコンの天候操作も、フシギバナの草技の連携も、かなり厄介だった」
「ふふっ。次は負けないわよ?」
「そのときは、俺ももっと強くなっているさ」
二人は笑い合い、互いの健闘を称えた。
ライバルとして、そして仲間として
バトルフィールドを離れた四人は、ポケモンたちの回復を待ちながら、先ほどの試合を振り返っていた。
「シンヤのポケモンって、主力じゃなくてもあんなに強いんだな!」
サトシが感心したように言う。
「主力と控えという区別は、トレーナー側の運用上のものだろう。ポケモン自身の実力が、そのまま区分に対応するとは限らない」
シゲルが答えた。
「特にカブトプスとニョロボンは、相手の技を受け流しながら戦い方を変えていた。以前から、そういう訓練を積んでいたのかい?」
「ナナシマ 5の島でな。主力も控えも関係なく、いろいろな相手と模擬戦を繰り返したんだ」
シンヤは隠すことなく答えた。
「相手によって得意な距離も技も違う。だから、単純に技の威力を上げるだけじゃなく、どうすれば相手の攻撃を利用できるか、どうすれば自分の得意な状況を作れるかを考えさせてきた」
「だから、あんな戦い方ができたのね」
リーフが頷いた。
「キュウコンとの戦いでは、カブトプスが水技を使わずに接近戦で勝負してきた。フシギバナとの戦いでは、ニョロボンが氷を作るだけじゃなく、砕いて攻撃に利用した。どちらも、技を使うこと自体が目的じゃなかったのね」
「そうだ。技は手段だからな。状況によって使い方を変えれば、同じ技でもできることが増える」
シンヤはニョロボンのボールを見つめた。
「それに、実戦形式の訓練を繰り返したからといって、必ず強くなるわけじゃない。疲労や怪我の管理も必要だし、本人が納得して挑戦できることが大切だ。俺のポケモンたちは、みんな自分の意思で強くなろうとしてくれた」
「ふふっ。あなたらしい考え方ね」
リーフは微笑んだ。
「でも、次は私が勝つわ。今日の経験を活かして、もっと戦術を磨いてみせるから」
「望むところだ」
シンヤも笑った。
サトシは二人を見比べ、嬉しそうに拳を握った。
「よーし! オレも負けてられないな! リーグまでに、みんなでもっと強くなろうぜ!」
「君の場合、まずは新しいポケモンたちとの連携を安定させることだね」
シゲルが即座に突っ込む。
「分かってるって!」
研究所に笑い声が広がった。
今日の模擬戦は終わった。
けれど、それぞれが得たものは大きい。
サトシは新しい仲間の可能性を再確認し、シゲルは戦術の組み立て方に新たな興味を抱いた。リーフは自分の戦術を見直す課題を見つけ、シンヤは控えのポケモンたちが積み重ねてきた努力を、改めて誇りに思った。
ポケモンリーグまで、残された時間は多くない。
それでも、まだ成長できる。
仲間たちと共に、ライバルたちと競い合いながら。
それぞれの挑戦は、これからも続いていく。