5のしまの別荘。
昨日までの特訓で、レンのポケモンたちは一匹での技の連携、そして二匹での連携を学んだ。
しかし、シンヤは訓練場に集まったポケモンたちを見渡すと、いつも以上に真剣な表情を浮かべた。
「今日は、いよいよ実戦形式だ」
「ふふっ、待っていたわ。昨日までの練習が、実際のバトルでどこまで通用するか確かめるのね?」
レンは扇子を閉じ、サーナイトの隣に立った。
「そう。相手は連携を見破って対策してくる。予定どおりに動けなくなったとき、どうするか。それが今日の課題だよ」
シンヤの足元では、リザードンが翼を広げ、ピジョットが羽ばたいていた。
さらに、ピカチュウ、ニドキング、スターミーも訓練場の端で出番を待っている。
「今回は俺のポケモンたちにも相手役を頼む。もちろん、最初から答えを教えたりはしない」
「望むところよ。みんな、準備はいいかしら?」
「サーナイト!」
「ニンフィア!」
「マリルリ!」
レンのポケモンたちが元気よく返事をした。
「よし。それじゃあ、始めよう!」
◆第一試合――シングルバトル! ニンフィアVSピジョット!
最初の対戦は、レンのニンフィアとシンヤのピジョット。
「ニンフィア、お願い!」
「ピジョット、頼んだ!」
両者が向かい合う。
ピジョットは翼を広げ、風を受けながら空へ舞い上がった。
「まずはハイパーボイス!」
ニンフィアの強烈な音波が空へ向けて放たれる。
だが、ピジョットは真正面から受け止めようとはしなかった。翼の角度を変え、上昇と下降を織り交ぜながら音波の届く範囲から離れていく。
「速いわね……! ニンフィア、スピードスター!」
星形の光が次々と飛び出す。
ピジョットは空中で旋回し、星の軌道を見極めながら回避した。
シンヤはピジョットの動きを見ていた。
「ピジョット、ニンフィアの正面には入らない。距離を保って、相手の動きを見ていこう」
ピジョットは高く舞い上がる。
レンはすぐに状況を理解した。
(ハイパーボイスを避けながら、こちらのスピードスターにも対応する……。空中から距離を保たれたら、地上にいるニンフィアは攻撃を当てにくいわね)
「ニンフィア、もう一度ハイパーボイス! 今度はピジョットが降りてくる場所を意識して!」
ニンフィアが音波を放つ。
ピジョットは高度を下げるように見せかけ、直前で翼を大きく広げて上昇した。
「しまった……!」
レンが気づいたときには、ピジョットはニンフィアの側面へ回り込んでいた。
「ピジョット、つばさでうつ!」
鋭い翼が迫る。
「ニンフィア、かわして!」
ニンフィアは横へ飛び退いたが、翼の先がかすめた。
シンヤは追撃を急がせない。
「いいぞ、ピジョット。相手がどう動くか、最後まで見よう」
レンは唇を引き結んだ。
(こちらの技を避けるだけじゃない。ニンフィアが攻撃を当てるために狙っている場所まで読まれている……)
「ニンフィア、作戦を変えるわ!」
ニンフィアは一度距離を取り、スピードスターを放つ。
しかし、今度はピジョットを直接狙わなかった。
星形の光は、ピジョットが旋回しようとしている空間へ広がっていく。
「なるほど……!」
シンヤが目を細めた。
ピジョットは進路を変更する。そこへニンフィアがハイパーボイスを放った。
音波が空中を駆け抜ける。
ピジョットは翼を大きく動かして回避したものの、先ほどまでの余裕はなくなっていた。
「いい判断だ、レン!」
「ふふっ。相手を直接狙うだけでは、避けられてしまうもの。ならば、相手が動きたい場所を狙えばいいのよね!」
「そういうこと!」
ピジョットが高度を上げ、ニンフィアが再び技を構える。
その後も両者は攻防を続けたが、制限時間内に決定打は生まれなかった。
判定は引き分け。
レンはニンフィアを抱きしめ、優しく頭を撫でた。
「よく頑張ったわ。最初は相手の動きに翻弄されたけれど、最後には自分で作戦を変えられたもの」
「フィア!」
シンヤもピジョットを労った。
「ピジョットもよくやった。相手の連携を崩すだけじゃなく、こちらの動きも見られていたね」
第一試合は、両者にとって大きな収穫となった。
◆第二試合――ダブルバトル! サーナイト&マリルリVSニドキング&スターミー!
「次はダブルバトルだ」
シンヤが指名したのは、ニドキングとスターミー。
レンはサーナイトとマリルリを選んだ。
「サーナイト、マリルリ。お願いね!」
「サーナイト!」
「マリル!」
対するシンヤは、ニドキングとスターミーに視線を向ける。
「二匹とも、相手の連携を見ながら動くんだ。最初から無理に攻めなくていい」
ニドキングが地面を踏みしめ、スターミーは体を回転させながら浮かび上がった。
「まずはサーナイト、サイコキネシス! マリルリはアクアジェット!」
サーナイトが念力でニドキングの動きを制限しようとする。
その隙に、マリルリが水をまとって突進した。
昨日の訓練で磨いた連携だ。
しかし、ニドキングはサーナイトの力に抗いながら、真正面からマリルリを迎え撃つのではなく、横へ跳んだ。
「ニドキング、つのドリル……じゃない、今回はつのでつくで牽制だ!」
ニドキングは角を向けてマリルリの進路を制限する。
同時に、スターミーが高速で回転しながらサーナイトへ接近した。
「サーナイト、テレポート!」
サーナイトは攻撃を受ける直前に姿を消し、離れた位置へ移動する。
しかし、スターミーは追いかけなかった。
サーナイトが移動した先を予測するように、ニドキングとの距離を保ち続けている。
「えっ……?」
レンは思わず目を見開いた。
シンヤが微笑む。
「昨日の特訓で、二匹はサーナイトが相手の動きを制限し、マリルリが攻撃する連携を練習したよね。だから今回は、その連携を使わせないようにしているんだ」
「サーナイトが動きを制限しようとするとスターミーが接近し、マリルリが突進するとニドキングが進路を塞ぐ……。二匹の連携を分断しているのね!」
「正解」
シンヤの声が響く。
「二匹で戦うとき、相手の連携を崩すのも大事な戦術なんだ」
レンはすぐに気持ちを切り替えた。
「なら、こちらも作戦を変えるわ! マリルリ、アクアジェットでニドキングの正面を横切って!」
マリルリが水をまとって走り抜ける。
ニドキングは迎撃しようと向きを変えた。
「サーナイト、サイコキネシス!」
今度はサーナイトがニドキングを押さえ込もうとせず、ニドキングがマリルリを追う動きを妨げるように力を加えた。
ニドキングの動きが一瞬遅れる。
「マリルリ、今よ!」
マリルリが方向を変え、ニドキングの側面へ回り込んだ。
だが、シンヤもすぐに対応した。
「スターミー、ひかりのかべ!」
スターミーが光の壁を展開する。
マリルリの攻撃は壁に阻まれ、決定打には至らなかった。
「まだよ! サーナイト、マリルリと距離を取って!」
サーナイトがテレポートで位置を変える。
マリルリも突進を続けず、いったん離れた。
二匹は互いに距離を保ち、相手の動きを見直す。
シンヤはその変化を見逃さなかった。
「いい判断だ。連携が崩れたとき、無理に同じ攻撃を繰り返さなかったね」
「ええ。相手が対策しているなら、同じ方法に固執しても仕方ないわ」
レンは扇子を握り直した。
「今度は、相手の連携そのものを見てみるわ。サーナイト、スターミーの動きをよく観察して!」
サーナイトは静かに集中する。
スターミーが回転し、マリルリの動きを警戒している。その一方で、ニドキングはサーナイトの念力を警戒し、二匹の間には一定の距離が生まれていた。
「なるほど……。二匹はお互いを助けられる位置にいるけれど、同時に動きやすい場所を確保しているのね」
レンがつぶやく。
「なら、そこを崩す!」
「サーナイト、サイコキネシス! 今度はスターミーの進路を制限して!」
サーナイトの念力がスターミーの動きに干渉する。
スターミーはすぐに回転を強め、拘束されるのを避けようとした。
「マリルリ、アクアジェット! ニドキングへ向かって!」
マリルリが突進する。
ニドキングは迎撃のために動き、スターミーを助ける位置から離れた。
その瞬間、サーナイトはサイコキネシスを弱めて自分の位置を変えた。
「サーナイト、今よ!」
サーナイトはテレポートでスターミーの側面へ移動し、相手の動きを見据える。
マリルリはニドキングへ攻撃を仕掛けると見せかけ、直前で方向を変えて距離を取った。
二匹は攻撃を当てることだけにこだわらず、相手の連携を崩すことに成功したのだ。
シンヤは嬉しそうに笑った。
「いいね! 相手の連携を真似する必要はない。相手が連携するために必要な条件を崩せばいいんだ」
「ふふっ。あなたのポケモンたち、とても手強いわね」
「レンのポケモンたちも、昨日よりずっと判断がよくなっているよ」
模擬戦はその後も続いた。
両チームとも決定的な勝敗はつかなかったが、レンのポケモンたちは、連携を崩された後に自分たちで考えて動くことを覚え始めていた。
◆――訓練を見つめる女性
模擬戦が終わると、レンはサーナイトたちのもとへ駆け寄った。
「みんな、お疲れさま! 最初は思いどおりにいかなかったけれど、最後にはちゃんと対応できたわね」
「サーナイト!」
「マリル!」
シンヤもニドキングとスターミーを労い、ピジョットをボールへ戻した。
そのときだった。
「ずいぶんと面白いバトルをしているのね」
聞き覚えのない女性の声が、訓練場の入口から響いた。
シンヤとレンが振り返る。
そこには、一人の女性が立っていた。
整った顔立ちに、落ち着いた雰囲気。こちらの訓練をしばらく見ていたらしく、女性の視線はシンヤたちのポケモンへと向けられていた。
「あなたたち、ただ技をぶつけ合っているわけではないのね。相手の動きを見て、連携を崩されたら作戦を変える……。なかなか興味深いわ」
レンは礼儀正しく一礼した。
「ご覧になっていたのですね。ありがとうございます。私たちは、実戦で使える連携を身につけようと訓練していたところですわ」
「そう。コンテストのような美しい動きも、戦いの中では十分に意味を持つのね」
女性は微笑んだ。
そして、シンヤへと視線を向ける。
「ところで、そちらのあなた。少しお話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「え? 俺ですか?」
シンヤは不思議そうに女性を見た。
女性は一歩、訓練場へ近づいた。
その顔がはっきりと見えた瞬間――。
「ええ。あなたのバトル、とても興味深かったわ」
シンヤの目が大きく見開かれた。
「えええええっ!? な、なんであなたがここに!?」
普段は落ち着いているシンヤが、思わず大声を上げる。
レンは驚いてシンヤを振り返った。
「シ、シンヤ!? あなた、この方をご存じなの!?」
女性はシンヤの反応を見て、楽しそうに微笑んだ。
「あら。私のことを知っているのね?」
シンヤは口を開きかけたものの、言葉が出てこない。
まさか、こんな場所で彼女と出会うことになるとは、まったく予想していなかったのだ。
女性はそんなシンヤを見つめ、優雅に一礼した。
「初めまして、と言うべきかしら。それとも……あなたにとっては、そうではないのかしらね?」
その意味深な言葉に、シンヤはますます動揺した。
レンは二人を交互に見つめる。
「シンヤ……。いったい、どなたなの?」
女性は答えず、ただ微笑んでいた。
5のしまの穏やかな空気は、思いがけない来訪者によって一変する。
そしてシンヤは、この出会いが自分たちの旅に新たな展開をもたらすことを、まだ知らなかった。
一体、最後に出てきてシンヤを驚かせた人物は一体誰なんだー?!