知らない人は知らないかも!(FRLGやってないと知らないと思うし)
5のしまの別荘。その訓練場に、思いがけない来訪者が現れた。
落ち着いた雰囲気をまとった女性。彼女の顔を見た瞬間、シンヤは驚きのあまり声を上げてしまった。
「えええええっ!? な、なんであなたがここに!?」
女性はそんなシンヤの反応を見て、くすりと笑った。
「あら。そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「シンヤ……。いったい、どなたなの?」
隣に立つレンが、困惑した表情で尋ねる。
シンヤは一度深呼吸をしてから、女性を見つめた。
「カントー四天王の一人、カンナさんだ。氷タイプの使い手」
「えっ!?」
レンは目を見開き、カンナとシンヤを交互に見た。
カントー地方の四天王。
それは、各地のジムリーダーたちを突破したトレーナーでさえ、簡単には勝ち進めないほどの実力者たちだ。その一人が、まさか五の島の別荘を訪ねてくるとは思いもしなかった。
カンナは二人の反応を楽しむように微笑むと、優雅に一礼した。
「改めて名乗らせてもらうわね。私はカンナ。カントー地方の四天王を務めているわ。専門は氷タイプのポケモンよ」
「は、初めまして! 私はレンと申します。カロス地方から来ました。ポケモンコンテストを目指しながら、トレーナーとしても修行しています」
レンは少し緊張しながらも、礼儀正しく頭を下げた。
続いてシンヤも一礼する。
「俺はシンヤです。マサラタウン出身で、ポケモンリーグに向けて修行しています。よろしくお願いします、カンナさん」
「ええ、こちらこそよろしくね。レンさん、シンヤくん」
カンナは穏やかな口調で二人に応じた。
しかし、シンヤにはどうしても気になることがあった。
「ところで、カンナさん。どうして俺たちがここにいるって分かったんですか?」
「そうね。まずは、その理由からお話ししましょうか」
カンナは訓練場の周囲を見渡した。
そこには、先ほどまで模擬戦をしていたニンフィアやサーナイト、マリルリたちの姿があった。少し離れたところでは、シンヤのピカチュウが腕を組むように胸を張っている。
カンナはポケモンたちにも目を向け、感心したように微笑んだ。
「ずいぶんと熱心に特訓しているのね。先ほどのバトル、少し見せてもらったわ」
「ありがとうございます。でも、どうして俺のことを?」
「きっかけは、ジムリーダーたちの情報共有よ」
カンナの言葉に、シンヤは首をかしげた。
「ジムリーダーたちの……情報共有?」
「ええ。各地のジムリーダーは、挑戦者について必要な情報を共有することがあるの。もちろん、すべてのトレーナーについて細かく報告し合うわけではないけれど、印象に残る人物について話題になることはあるわ」
カンナは少し楽しそうに続けた。
「マチスさん以降のジムリーダーたちの間で、あなたのことが話題になったのよ。ポケモンの特徴をよく観察していること、相手の戦術に合わせて柔軟に対応すること。そして、ポケモンとの信頼関係を大切にしていることね」
「そ、そうなんですか……」
シンヤは少し照れくさそうに頬をかいた。
自分としては、勝つために必要だと思うことを実践しているだけだ。ジムリーダーたちの間で話題になっているとは、想像もしていなかった。
「それに、以前あなたを見かけたこともあったのよ」
「えっ?」
「いてだきのどうくつから出てきたとき、リザードンに乗っていたでしょう?」
「……あっ!」
シンヤは思わず声を漏らした。
以前、リザードンとともに移動していたときのことだ。
あのときは目的地へ向かうことに集中していたため、周囲に誰がいたのかまで気にしていなかった。
まさか、あの姿をカンナに見られていたとは。
「ふふっ。あのときは遠目だったけれど、リザードンと息が合っているのが印象的だったわ。乗せてもらっているというより、お互いに信頼しているからこそ、自然にあのような移動ができる。そんなふうに見えたの」
「俺とリザードンは、旅立ちからずっとなので、長い付き合いですから」
シンヤはリザードンを見上げた。
リザードンは、褒められたことが嬉しいのか、少しだけ胸を張る。しかし、シンヤと目が合うと、照れ隠しのように顔を背けた。
「グオオ……」
「ははっ、照れてるのか?」
「グオッ!」
リザードンは、違うと言いたげに短く鳴いた。
レンがくすりと笑う。
「ふふっ。リザードンも、シンヤに褒められると嬉しいのね」
「そ、そんなことないだろ」
「そうかしら?」
「……否定はしないけどさ」
シンヤが苦笑すると、カンナも楽しそうに微笑んだ。
「いい関係ね」
その一言には、四天王としての評価だけではなく、一人のポケモントレーナーとしての実感が込められていた。
◆ポケモンとは何か
カンナはしばらくポケモンたちの様子を見ていたが、やがてシンヤへと視線を戻した。
そして、先ほどまでの穏やかな笑みを少しだけ引き締める。
「シンヤくん。一つ、聞いてもいいかしら?」
「はい。何ですか?」
「あなたにとって、ポケモンとは何?」
その質問に、シンヤは一瞬だけ目を伏せた。
戦うためのパートナー。
旅をともにする仲間。
大切な家族。
どれも間違いではない。
しかし、それだけでは言い表せないものが、シンヤとポケモンたちの間にはあった。
彼は顔を上げ、迷いなく答えた。
「友であり、仲間であり、家族です」
カンナは黙って続きを待つ。
「俺にとって、ポケモンは一緒に旅をして、一緒に笑って、一緒に悩んで、時にはぶつかり合いながら成長していく存在です。俺が間違えたら、あいつらが気づかせてくれることもある。逆に、あいつらが迷ったときは、俺が支えたい」
シンヤは自分のポケモンたちを見渡した。
リザードン。
ピジョット。
ピカチュウ。
そして、今はボールの中で休んでいる仲間たち。
それぞれに個性があり、それぞれに意思がある。
だからこそ、彼らをただの戦力として扱うつもりはなかった。
「俺は、あいつらを信頼しています。だからこそ、背中を預けられる。俺が指示を出すことはあっても、ただ命令に従わせたいわけじゃない。あいつら自身が考えて、判断して、俺と一緒に戦ってくれることに意味があるんです」
シンヤの声には、確かな熱がこもっていた。
「俺なくしてポケモンはあらず。ポケモンなくして俺もあらず。俺にとっては、それくらい大切な存在です」
訓練場に静けさが広がった。
レンは、シンヤの横顔をじっと見つめていた。
彼がポケモンを大切にしていることは知っていた。
けれど、改めて言葉にして聞くと、その思いの深さを再認識させられる。
サーナイトも、ニンフィアも、マリルリも、レンのそばに集まっていた。
シンヤの言葉は、彼女たちにも届いていたのだろう。
カンナは目を細め、静かにうなずいた。
「……そう。よく分かったわ」
その表情には、満足そうな色が浮かんでいた。
「あなたがどんなトレーナーなのか、少し理解できた気がするわ。ジムリーダーたちがあなたに注目している理由もね」
「そんな、大げさですよ」
「いいえ。ポケモンを大切にしていると口にするトレーナーは、たくさんいるわ。でも、実際にどう接しているかは、その人によって違うもの」
カンナはシンヤのリザードンへ目を向けた。
「あなたとポケモンたちを見ていれば、言葉だけではないことが伝わってくるわ」
リザードンは大きく鼻を鳴らし、シンヤの後ろに立った。
まるで、当然だと言っているようだった。
◆託された小さな命
「それでね、シンヤくん」
カンナは、持っていたバッグを開いた。
中から慎重に取り出したのは、柔らかな布に包まれた一つのポケモンのタマゴだった。
タマゴは専用の保温ケースに収められ、温度と湿度が適切に保たれている。表面には淡い色合いが見え、ケース越しにも大切に扱われてきたことが伝わってくる。
シンヤは目を丸くした。
「タマゴ……?」
「ええ。あなたに、この子を預かってほしいの」
「俺に、ですか?」
「そうよ」
カンナはタマゴを両手で持ち、優しく見つめた。
「実は、私のルージュラが子どもを授かったの。とても嬉しいことだったのだけれど、この子が生まれた後、どんな環境で育てるのがいいのか、ずっと考えていたのよ」
「カンナさんのルージュラの子……!」
レンが驚いたように声を上げた。
「ということは、中には……」
「ムチュールがいるわ」
カンナは優しく微笑んだ。
「まだタマゴだから、性格など、実際に生まれてみなければ分からないこともあるけれどね」
シンヤはタマゴを見つめた。
ムチュール。
生まれたばかりの小さなポケモンが、これから世界を知り、成長していく。
その未来を考えると、胸の奥が温かくなる一方で、簡単には返事ができなかった。
「でも、どうして俺に?」
カンナは少しだけ視線を遠くへ向けた。
「正直に言うと、最初からあなたに託そうと決めていたわけではないの」
「そうなんですか?」
「ええ。ルージュラが子どもを授かったと分かったときは、本当に嬉しかった。でも、私自身は四天王としての仕事もあるし、この子が生まれた後、どのような環境で育てるのがいいのか、考え続けていたのよ」
カンナは、タマゴをそっと撫でた。
「もちろん、私が育てることもできるわ。でも、ルージュラと一緒に暮らしている私のもとで育つことが、この子にとって必ずしも唯一の答えとは限らない。いろいろな選択肢を考えていたの」
彼女は、そこで少し笑った。
「それで休暇を取っていたとき、あなたのことを思い出したのよ」
「俺を?」
「ええ。ジムリーダーたちの間で話題になっていたこともあるし、いてだきのどうくつであなたを見かけたこともあった。それに、先ほどのバトルを見て、あなたならこの子の意思を尊重しながら育ててくれるかもしれないと思ったの」
「……」
「もちろん、あなたが引き受けてくれなければ、無理に押しつけるつもりはなかったわ。タマゴを託すということは、その子の未来を託すということでもあるもの」
カンナの声は、最後まで穏やかだった。
しかし、そこには一つの命を預ける者としての真剣さがあった。
シンヤはタマゴを見つめ、長い沈黙の後に口を開いた。
「カンナさん。一つ、確認させてください」
「何かしら?」
「この子が生まれた後、俺が育てることになったとしても、いつかカンナさんやルージュラに会いたいと思うことがあるかもしれません。そのときは、会わせてあげてもいいですか?」
カンナは一瞬驚いた後、柔らかく微笑んだ。
「もちろんよ。むしろ、この子が私や母親に会いたいと思ってくれるなら、いつでも歓迎するわ」
「それと……この子が成長して、俺と一緒に旅をするのを望まなかったら、無理に連れていくつもりはありません。俺のポケモンになったからといって、俺の都合だけで生き方を決めたくないんです」
「……ええ」
カンナは深くうなずいた。
「そういう答えを聞きたかったのかもしれないわね」
シンヤはもう一度、タマゴを見た。
この小さな命を育てる責任。
生まれてくるムチュールの意思を尊重し、その未来を守る責任。
それを考えると、軽い気持ちで受け取ることはできない。
しかし、だからこそ。
「……分かりました」
シンヤは両手を差し出した。
「俺に、この子を預からせてください。生まれてくるまで大切に見守ります。生まれた後も、この子の気持ちを一番に考えて、家族として接します」
カンナはタマゴをそっと手渡した。
「ありがとう、シンヤくん」
シンヤは慎重に受け取った。
タマゴを揺らさないように気をつけながら、温度や状態を確かめる。
その様子を見たレンが、優しく微笑んだ。
「シンヤらしいわね」
「そうか?」
「ええ。あなたなら、きっとこの子のことも大切にしてくれるわ」
シンヤは照れくさそうに笑った。
「もちろんだ。……生まれてくるのが楽しみだな」
その言葉に呼応するように、タマゴの表面がほのかに光ったように見えた。
「……今、光らなかったか?」
「気のせいかしら?」
レンとシンヤは顔を見合わせる。
カンナは微笑みながら答えた。
「ふふっ。タマゴは不思議なものよ。今の光が何を意味するのかは分からないけれど、この子が元気に生まれてきてくれることを願いましょう」
シンヤはうなずき、タマゴを大切に抱え直した。
新たな仲間との出会いは、まだ始まったばかりだった。
◆四天王からの申し出
タマゴを託したカンナは、すっきりした表情で訓練場を見渡した。
「さて。これで私がここに来た目的の一つは果たせたわ」
「一つ?」
シンヤが首をかしげる。
カンナはいたずらっぽく微笑んだ。
「せっかく休暇で5のしままで来たのに、タマゴを渡して帰るだけではもったいないでしょう?」
その言葉に、シンヤは何となく嫌な予感を覚えた。
「……カンナさん?」
「それに、私も休暇中とはいえ、ポケモンたちのレベルを下げてしまうような過ごし方はしたくないのよね」
カンナは片手を頬に添えた。
「そこで、どうかしら。あなたの特訓相手になってあげるわ」
「……え?」
シンヤは一瞬、言葉を失った。
カントー四天王。
その一人が、自分の特訓相手になってくれるというのだ。
「えええっ!? 本当ですか!?」
今度は驚きというより、喜びの声だった。
「もちろんよ。あなたのバトルには興味があるし、私自身も腕を鈍らせたくない。お互いにとって、悪い話ではないと思うけれど?」
シンヤは思わず拳を握りしめた。
四天王との実戦形式の特訓。
普段なら、簡単に機会を得られるものではない。
「ぜひお願いします! 俺も、もっと強くなりたいと思っています。リーグに向けて、今の自分に何が足りないのか知りたいんです!」
「ふふっ。いい返事ね」
カンナは満足そうにうなずいた。
「ただし、私も手加減はするけれど、簡単に勝たせるつもりはないわよ?」
「望むところです!」
シンヤの目に、闘志が宿る。
その様子を見て、レンも一歩前へ出た。
「カンナさん。私からもお願いがあります」
「何かしら、レンさん?」
「私も、特訓のお相手をお願いできませんか?」
カンナは少し意外そうに目を瞬かせた。
レンはサーナイトの手を取り、真剣な表情で続けた。
「私はカロス地方で出身なんですが、ホウエンなどで盛んなポケモンコーディネーターを目指しています。でも、コンテストで美しく技を使うだけではなく、実戦でも通用する力を身につけたいと思っています」
レンは自分のポケモンたちを見渡した。
「特に、カンナさんは氷タイプの使い手ですよね。氷タイプのポケモンの特徴や、技の使い方、相手にしたときの対策……学べることがたくさんあると思うんです」
「なるほど」
カンナはレンの言葉に耳を傾けた。
「それに、サーナイトも昨日進化したばかりなんです。新しく身につけた力をどう活かすか、まだまだ勉強中で……」
レンはサーナイトを見上げた。
「この子と一緒に、もっと成長したいんです」
サーナイトはレンの思いに応えるように、しっかりとうなずいた。
カンナは二人を交互に見つめた後、柔らかな笑顔を浮かべた。
「もちろん、喜んで引き受けるわ」
「本当ですか!?」
レンの顔がぱっと明るくなる。
「ええ。ただ、私は氷タイプを中心に戦うけれど、氷タイプだけを使うとは限らないわ。タイプ相性を知ることも大切だけれど、相手の特徴や戦術を見て対応することも同じくらい重要だから」
「はい! よろしくお願いします!」
レンは嬉しそうに頭を下げた。
シンヤも力強くうなずく。
「ありがとうございます、カンナさん。俺もレンも、全力で学ばせてもらいます!」
「ふふっ。期待しているわね」
カンナは楽しそうに微笑んだ。
◆新たな特訓の始まり
こうして、五の島の別荘に思いがけない特別講師が加わることになった。
カントー四天王のカンナ。
氷タイプの使い手として数々の強敵と戦ってきた彼女との特訓は、シンヤにとってもレンにとっても、これまでとは違う経験になるだろう。
シンヤは、受け取ったタマゴを安全な場所へ運ぶため、いったん訓練場の外へ向かった。
「この子が生まれるまでは、温度管理も気をつけないとな。父さんに相談して、専用の保温ケースも用意してもらおう」
「ええ。ミサキさんなら、きっと喜んでくれるわね」
レンが隣を歩きながら微笑む。
「母さん、絶対に喜ぶだろうな。新しい家族が増えるんだから」
シンヤはタマゴを見つめ、優しく笑った。
その背後では、カンナが二人とポケモンたちを見守っていた。
「……いいトレーナーたちね」
小さくつぶやいた彼女の表情には、期待が浮かんでいた。
これからの特訓で、彼らがどんな成長を見せるのか。
そして、タマゴから生まれてくるムチュールが、どんな未来を歩むのか。
5のしまでの修行は、新たな局面を迎えようとしていた。