5のしまにある別荘の訓練場。
朝の涼しい風が吹き抜けるなか、シンヤとレンは向かい合うカンナの前に立っていた。
昨日までの訓練とは違い、今日は訓練場のあちこちに岩や水路、低い壁が設置されている。さらに、地面の一部には薄く水が張られ、ところどころに氷が張りやすい場所まで用意されていた。
自然の地形を模した、複雑なフィールドだ。
「今日は昨日までのように、技の使い方やポケモン同士の連携を確認するだけではありません」
カンナは眼鏡の位置を直し、穏やかな口調で告げた。
「シンヤくん。あなたには、相手が何を狙っているのかを読み切る力を試してもらいます。そしてレンさんには、地形と進路を制御する戦術を、自分のポケモンたちにどう応用できるかを実戦で示してもらいましょう」
「相手の狙いを読み切る、か……」
シンヤはフィールドを見渡した。
昨日、カンナのラプラスと戦ったとき、彼は相手の技そのものに対応することばかり考えていた。
れいとうビームが来れば避ける。
こごえるかぜが来れば耐える。
みずのはどうが来れば、その軌道を見極める。
だが、カンナはその一つ一つを単独で使っていたわけではない。
技を使った後の地形。
相手が移動する方向。
回避した先で選べる行動。
そのすべてを計算に入れ、シンヤの選択肢を少しずつ狭めていた。
「昨日の俺は、カンナさんが使う技への対処ばかり考えていました。でも、本当に見るべきなのは、技を使った後に相手がどう動いてほしいのか……ですね」
「ええ。では、そこまで考えたうえで、実際に対応できるかを見せてもらいます」
カンナはレンへ視線を移した。
「レンさんは、昨日のパルシェンとの戦いで何を学びましたか?」
「氷の技は、相手にダメージを与えるだけではないということですわ。地面を凍らせれば動きやすい場所と動きにくい場所が変わりますし、つららを配置すれば、相手が通れる道も限られますもの」
レンは自信ありげに微笑んだ。
「それに、相手を思いどおりの場所へ誘導できれば、こちらが使いたい技を当てる機会も増えるはずですわ」
「その理解が、実戦でも通用するかどうか。楽しみにしています」
カンナが手を軽く上げた。
「では、始めましょう」
◆シンヤ対カンナ! 読み切れない戦術!
「まずはシンヤくんからです。こちらは二匹。そちらも二匹で戦いましょう」
「二対二ですね。お願いします!」
シンヤはモンスターボールを手に取り、力強く投げた。
「行くぞ、ニドキング! スターミー!」
「ニドォォォォ!」
「ヘアッ!」
二匹がフィールドに降り立つ。
対するカンナが繰り出したのは、ラプラスとジュゴンだった。
「ラプラス、ジュゴン。お願いします」
「クゥゥゥン!」
「ジュゴー!」
ラプラスが首を伸ばし、ジュゴンが低い姿勢で身構える。
シンヤはすぐさま二匹の動きを観察した。
ラプラスは昨日と同じく、フィールド全体を使う構えだ。一方のジュゴンは、正面から攻め込むというより、ラプラスの動きに合わせて位置を調整している。
(ラプラスが地形を変えて、ジュゴンが俺たちの移動先を狙う……? いや、それだけとは限らない)
「ニドキング、いわなだれ! スターミー、みずのはどう!」
ニドキングが前方の岩場へ向かって腕を振り下ろし、複数の岩を崩して落とす。
同時にスターミーが放ったみずのはどうが、岩の隙間を縫うように進んだ。
ラプラスはれいとうビームで落下する岩の一部を凍らせ、足場を作るように着地する。ジュゴンはその陰から滑るように移動し、みずのはどうをかわした。
「なるほど。岩を避けるだけではなく、利用するのですね」
レンが感心したようにつぶやいた。
「でも、まだだ!」
シンヤはニドキングに視線を向ける。
「ニドキング、ジュゴンを追え! スターミーはラプラスの動きを見てくれ!」
ニドキングがジュゴンへ迫る。
ジュゴンは正面から受け止めようとせず、横へ滑って距離を取った。
その進路をニドキングが塞ごうとした瞬間、ジュゴンがこごえるかぜを放つ。
冷たい風が地面を走り、ニドキングの足元を凍らせた。
「くっ、足を止めに来たか!」
ニドキングが踏ん張る。
だが、ジュゴンは追撃してこない。
代わりにラプラスが、スターミーの周囲へれいとうビームを放った。地面が凍りつき、スターミーの移動できる方向が限られていく。
(そういうことか!)
シンヤの目が見開かれた。
ジュゴンがニドキングを足止めし、ラプラスがスターミーの進路を制限する。二匹を分断してから、それぞれを仕留めるつもりだ。
ならば――。
「ニドキング、メガホーン! 凍った地面を砕いて、こっちへ戻れ!」
ニドキングは角を地面へ突き立て、凍りついた部分を砕きながら前進した。
「スターミー、サイコキネシス!」
スターミーの周囲に浮かんだ氷の破片が、念力によって持ち上がる。
その破片がジュゴンとラプラスの間へ移動し、二匹の視界を一瞬だけ遮った。
「今だ、二匹とも中央へ!」
ニドキングとスターミーが合流する。
シンヤは小さく拳を握った。
読みは当たった。
しかし――。
「ラプラス、みずのはどう。ジュゴン、れいとうビーム!」
「なにっ!?」
ラプラスがスターミーの足元へみずのはどうを放ち、ジュゴンがニドキングの進行方向へれいとうビームを走らせた。
水流を受けた地面が濡れ、その上を氷が覆っていく。
中央へ戻った二匹の足場が、急速に不安定になった。
「しまった……!」
シンヤは歯を食いしばった。
(分断を狙っていたのは正解だ。でも、俺がそれを見破って合流するところまで、カンナさんは予想していた!)
カンナは落ち着いたまま、二匹の位置を見ている。
「相手の最初の狙いを見抜くことと、相手の戦術を読み切ることは違います。こちらの意図を見抜いた相手が何を選ぶのか。それも戦術の一部なのですよ」
「だったら……!」
シンヤは視線を鋭くした。
今度は、カンナの指示だけでなく、ラプラスとジュゴン自身の動きにも目を向ける。
ラプラスはスターミーを見ている。
ジュゴンはニドキングの正面を警戒している。
だが、どちらも決定打を狙う位置にはいない。
(俺たちが動くのを待っているんだ。どちらかが先に動けば、もう一匹がその隙を突く……)
シンヤは作戦を切り替えた。
「スターミー、サイコキネシス! 自分の周囲の氷をまとめて、ニドキングの前へ運べ!」
スターミーが念力を操り、足元の氷を浮かせる。
「ニドキング、いわなだれ! 浮いている氷にぶつけろ!」
ニドキングが岩を放つ。
岩が氷へぶつかり、砕けた破片がフィールドへ散らばった。
ラプラスがれいとうビームで破片を凍らせようとする。しかし、その瞬間にはもう、ニドキングが岩の陰から飛び出していた。
「今だ! メガホーン!」
ニドキングの角がジュゴンへ迫る。
「ジュゴン、こごえるかぜ!」
ジュゴンは冷気を放ち、ニドキングの突進を鈍らせた。
だが、シンヤはそこで止まらなかった。
「ニドキング、無理に突っ込むな! 地面を蹴って横へ回れ!」
ニドキングは直前で進路を変え、ジュゴンの横をすり抜ける。
その動きにジュゴンが反応した瞬間、スターミーが放ったみずのはどうが、ジュゴンの足元へ命中した。
「ジュゴン!」
体勢を崩したジュゴンへ、ニドキングが再び踏み込む。
しかし、ラプラスがれいとうビームを放ち、ニドキングとジュゴンの間に氷の壁を作り出した。
ニドキングは急停止し、氷の壁を前に立ち止まる。
「そこまでです!」
カンナの声が響いた。
「今の一連の判断はよかったですよ、シンヤくん。相手がこちらの動きを待っていると気づき、最初の作戦に固執せず、攻撃の狙いを変えましたね」
シンヤは息を整えながら、ニドキングとスターミーを見た。
「ありがとうございます。でも……まだ読み切れてはいませんでした」
「そうですね。ジュゴンへの攻撃が成功しかけたとき、あなたはラプラスがどこにいるかを意識していましたか?」
「……いいえ」
シンヤは悔しそうに顔をしかめた。
ジュゴンを追い詰めることに集中した結果、ラプラスが二匹の間へ割って入る可能性を見落としていたのだ。
「相手の戦術を読むとき、目の前の一匹だけを見てはいけません。二匹が互いに何を補い、何を狙っているのか。そこまで考える必要があります」
「はい。次は、もっと広く見ます!」
シンヤの返事には、悔しさだけでなく、新しい課題を見つけた喜びも混じっていた。
◆レンの挑戦! 地形を味方につけろ!
「では、次はレンさんの番です」
カンナがフィールドの反対側へ移動する。
「レンさんは、地形を制御することで相手の行動を変える。その考え方を、自分のポケモンたちで実践してみてください」
「承知しましたわ!」
レンはボールを二つ取り出した。
「サーナイト、マリルリ! お願いします!」
「サーナ!」
「ルリリー!」
サーナイトが優雅に立ち、マリルリが軽やかに跳ねる。
カンナはパルシェンとラプラスを繰り出した。
「パルシェン、ラプラス。お願いします」
「パルシェン!」
「クゥゥン!」
レンはフィールドを見回した。
中央には広い空間があるが、その周囲には岩場と浅い水路が配置されている。さらに、昨日と同じように氷を作りやすい地面もあった。
(相手の動きを追いかけるだけでは、こちらの技を当てる機会が限られてしまいますわ。なら、相手が動きたい場所と、動かざるを得ない場所を作ればいいのですわね)
「サーナイト、サイコキネシス! パルシェンの周囲にある岩を浮かせて!」
サーナイトの目が輝き、岩が次々と宙へ浮かぶ。
「マリルリ、アクアジェット! ラプラスの前を通り抜けて、水路の向こう側へ!」
マリルリは青い水流をまとい、ラプラスの前を勢いよく横切った。
ラプラスはマリルリを追おうとするが、レンはすぐに指示を重ねた。
「サーナイト、浮かせた岩をラプラスの進路へ移動させて!」
岩が動き、ラプラスが通ろうとした道を塞ぐ。
「今度はパルシェンが狙いを変えるはず……」
レンの読みどおり、パルシェンはマリルリではなく、岩を操るサーナイトへつららばりを放った。
「サーナイト、テレポート!」
サーナイトの姿が消え、つららばりが空を切る。
「マリルリ、今ですわ! アクアジェットでパルシェンの横へ!」
マリルリが勢いよく飛び出す。
パルシェンは殻を閉じて防御を固めた。
「正面から攻撃しなくていいですわ! そのまま通り抜けて、後ろの水路へ!」
「マリル!」
マリルリはパルシェンへ攻撃を仕掛けると見せかけ、その横を通過した。
パルシェンがマリルリを追おうとしたとき、サーナイトが浮かせていた岩を下ろし、パルシェンの退路を一部塞いだ。
「うまいですね、レンさん」
カンナが微笑んだ。
「相手を直接押さえつけるのではなく、移動先を限定している。攻撃を当てるための準備として、地形を利用できています」
「ありがとうございますわ!」
レンは嬉しそうに答えた。
だが、カンナはすぐに続けた。
「では、その状態から相手が予想外の行動を取ったら、どうしますか?」
「予想外の行動……?」
「ラプラス、みずのはどう! パルシェン、れいとうビーム!」
ラプラスが水路へ向けてみずのはどうを放つ。
水が跳ね上がり、岩の周囲へ広がった。
続いてパルシェンのれいとうビームが、水路とその周囲の地面を凍らせる。
レンが作った通路の一部が、逆に氷で覆われてしまった。
「そんな……!」
マリルリが水路を越えて戻ろうとする。しかし、着地地点が凍りつき、いつものようには踏み込めない。
サーナイトもまた、岩を浮かせたままではマリルリの足元を補助しにくい位置にいる。
レンは一瞬、判断に迷った。
(地形を制御するつもりが、相手に地形を変えられてしまいましたわ……。このまま岩を動かしても、マリルリの移動を邪魔してしまうかもしれません)
カンナは何も言わず、レンの判断を待っていた。
レンは深く息を吸い、サーナイトへ視線を向ける。
「サーナイト、岩を全部戻して! マリルリが動ける空間を作ってくださいな!」
サーナイトが念力を操り、浮かせていた岩を安全な場所へ移動させる。
「マリルリ、アクアジェット! 凍った地面を避けて、中央へ戻って!」
マリルリは勢いよく地面を蹴り、氷のない場所を選んで移動した。
「そしてサーナイト、サイコキネシス! 水路の水を持ち上げて、パルシェンの前へ!」
サーナイトが水を念力で持ち上げる。
水の塊がパルシェンの視界を遮り、ラプラスからの援護を一瞬だけ妨げた。
「マリルリ、アクアジェット!」
マリルリはその隙に接近する。
しかし、パルシェンは殻を閉じて攻撃を受け止め、ラプラスもすぐに位置を変えた。
決定打には至らない。
それでも、レンは先ほどのように迷わなかった。
「追いかけなくていいですわ! マリルリは中央を維持して! サーナイトは、ラプラスが援護に動くたびに、その進路を塞ぐように岩を移動させてくださいな!」
サーナイトが岩を操る。
ラプラスが右へ動けば、その先に岩が移動する。左へ動こうとすれば、別の岩が進路を狭める。
ラプラスを完全に止めることはできない。
けれど、パルシェンを援護するための移動に、わずかな遅れが生じ始めていた。
「なるほど……!」
レンの表情が明るくなった。
(すべての進路を塞ぐ必要はありませんのね。相手が選べる道を少しずつ変えて、その変化を見ながら、こちらも動けばいいのですわ!)
カンナが手を上げた。
「ここまでです」
レンはサーナイトとマリルリのもとへ駆け寄った。
「二人とも、お疲れさまですわ!」
サーナイトが穏やかに微笑み、マリルリも元気よく跳ねる。
「レンさん。最初の作戦が崩れたあと、すぐに地形を作り直そうとせず、まず味方の動ける空間を確保しましたね」
「はい。最初は、自分が考えた形を維持することに意識が向いてしまいましたわ。でも、相手が地形を変えたのなら、こちらも変えればいい。大切なのは、最初に作った形ではなく、そのときの状況に合わせて戦うことなのですね」
「そのとおりです。地形を制御するというのは、相手を思いどおりに動かすことだけではありません。自分たちが安全に動ける場所を確保し、相手の選択肢を観察しながら、戦いやすい状況へ近づけていくことでもあります」
レンはサーナイトとマリルリを見つめ、優しく微笑んだ。
「ふふっ……。コンテストで舞台を整えることと、バトルでフィールドを整えること。違うようでいて、通じる部分も多いのですわね」
◆二人の連携! 読みと地形制御を重ねろ!
「さて……ここからが本日の本番です」
カンナの言葉に、シンヤとレンが顔を上げた。
「最後は二人で協力して、私のポケモンたちと戦ってもらいます。シンヤくんは相手の戦術を読み、レンさんはその読みを実現するための地形と進路を作る。ですが、二人が同じことを考えているとは限りません」
「つまり、俺とレンの連携も試されるってことですね」
「ええ。相手を読むことに集中しすぎれば、味方への指示が遅れる。地形を作ることに夢中になれば、味方の狙いと噛み合わなくなる。その両方を意識してください」
カンナがボールを構える。
「こちらはラプラスとパルシェンです」
シンヤとレンは互いに顔を見合わせた。
「レン、まずは相手の動きを俺が読む。お前はその情報をもとに、動きやすい場所を作ってくれ」
「わかりましたわ。でも、あなたの読みが外れたときは、私の判断で動かせてもらいますわよ?」
「もちろんだ。俺だって、お前の作戦が崩れたら、それに合わせて考える」
レンは満足そうに笑った。
「ふふっ。それなら安心ですわね」
二人はそれぞれボールを手にした。
「行くぞ、ニドキング! スターミー!」
「サーナイト、マリルリ! お願いしますわ!」
四匹のポケモンがフィールドに並ぶ。
カンナのラプラスとパルシェンも、静かに構えた。
「では、始めましょう!」
カンナの声と同時に、ラプラスがれいとうビームを放つ。
その光線はニドキングを直接狙わず、ニドキングの背後にある地面を凍らせた。
続いてパルシェンがつららばりを放つ。
無数の氷の針が、スターミーとサーナイトの間へ降り注いだ。
「ニドキング、左へ! スターミーは右に回れ!」
シンヤはすぐに指示を出した。
だが、スターミーが右へ移動しようとした場所には、すでに氷の針が突き刺さっていた。
「スターミー、無理に進むな! 後ろへ下がれ!」
スターミーは進路を変える。
その瞬間、ラプラスがみずのはどうを放った。
水流がスターミーの退路へ押し寄せる。
「サーナイト、サイコキネシス! 水流の向きを逸らしてくださいな!」
レンの指示に、サーナイトが反応する。
念力が水流の一部を押し上げ、スターミーの進路から逸らした。
「助かった、レン!」
「まだですわ! マリルリ、アクアジェット! ニドキングの前を通って、パルシェンの
横へ!」
マリルリが青い水流をまとい、パルシェンへ向かう。
しかし、シンヤはその動きを見てすぐに叫んだ。
「待て、レン! パルシェンはマリルリを狙ってない!」
「えっ?」
「ラプラスが狙ってるのはスターミーの移動先だ! パルシェンは、マリルリを追うふりをしてサーナイトを引き離そうとしてる!」
シンヤはフィールドを見渡した。
パルシェンの殻はマリルリの方を向いている。
しかし、つららばりを放つ角度は、サーナイトがマリルリを援護しようと動く場所を狙いやすいものになっていた。
「レン、マリルリを戻してくれ! サーナイトと離れたら、パルシェンに狙われる!」
「わかりましたわ! マリルリ、アクアジェットで中央へ戻って!」
マリルリが急旋回する。
その直後、パルシェンがつららばりを放った。
氷の針が、先ほどまでマリルリのいた場所を貫く。
「本当に、そちらを狙っていたのですね……!」
レンは息をのんだ。
「でも、シンヤ。ラプラスはまだスターミーを狙っているわ!」
「わかってる!」
シンヤはすぐにスターミーへ指示を出した。
「スターミー、サイコキネシス! 足元の氷を浮かせて、ラプラスの視線を遮れ!」
スターミーが氷を持ち上げる。
だが、カンナは即座に対応した。
「ラプラス、こごえるかぜ!」
冷たい風が吹き抜け、浮かび上がった氷の表面が凍りつく。氷の破片が動きを鈍らせ、スターミーの念力による操作が乱れた。
(まただ……! 俺が一つの手を打てば、カンナさんはその次の動きまで見越している!)
シンヤは一瞬、考え込んだ。
これまでなら、次に使う技を考え、相手の技をどう突破するかに集中していただろう。
しかし、今は違う。
レンがいる。
レンのサーナイトが地形を変え、マリルリが進路を作り、ニドキングとスターミーが攻撃する。
すべてを自分一人で読み切る必要はない。
「レン! サーナイトに、右側の岩を動かしてもらえるか? ラプラスの正面じゃなくて、少し後ろだ!」
「後ろ……?」
「そうだ! カンナさんは俺たちがラプラスを直接狙うと思ってる。でも、ラプラスを動かす必要はない。ラプラスが次に援護しようとする場所を狭めたいんだ!」
レンは一瞬で意図を理解した。
「サーナイト、岩を右後方へ移動させて!」
サーナイトが岩を浮かせ、ラプラスの後方へ運ぶ。
ラプラスはパルシェンを援護するため、そちらへ移動しようとした。
しかし、岩が進路の一部を塞いでいる。
「ラプラス、左へ!」
カンナが指示を出す。
その動きを見たシンヤの目が輝いた。
「やっぱりそっちだ! ニドキング、いわなだれ! ラプラスの左側を狙え!」
ニドキングが岩を放つ。
ラプラスは進路を変え、岩をかわす。
だが、その先にはマリルリが待ち構えていた。
「マリルリ、アクアジェット!」
レンの声が響く。
マリルリが水流をまとい、ラプラスの移動先へ飛び込んだ。
「ラプラス、みずのはどう!」
ラプラスが水流を放つ。
マリルリは正面からぶつからず、体をひねって攻撃をかわした。
「サーナイト、サイコキネシス! 水流を横へ逸らして!」
サーナイトの念力が水流を押し流す。
マリルリはその隙に距離を詰めた。
ラプラスが対応しようとした瞬間、スターミーがみずのはどうを放つ。
ラプラスは防御のために動きを止めざるを得なくなった。
「今!」
マリルリがラプラスの側面へ迫る。
しかし――。
「パルシェン、れいとうビーム!」
カンナの指示で、パルシェンが冷気を放った。
マリルリの進路を塞ぐように地面が凍りつき、ラプラスへの接近が阻まれる。
「くっ……!」
レンが唇をかむ。
せっかく作った機会が、再び崩されてしまった。
だが、シンヤは焦らなかった。
「レン、マリルリを無理に進ませるな! その氷を利用するんだ!」
「氷を……?」
「そうだ! サーナイトに、氷の端を少しだけ持ち上げてもらってくれ!」
レンはすぐに意図を理解した。
「サーナイト、サイコキネシス! 氷の端を持ち上げて!」
サーナイトの念力が氷の一部を浮かせる。
それによって、氷の表面に小さな段差ができた。
「マリルリ、アクアジェット! その段差を使って跳んで!」
「マリル!」
マリルリはアクアジェットの勢いを利用して、氷の段差を踏み切る。
滑る地面を無理に走るのではなく、氷を足場として利用したのだ。
マリルリが宙へ飛び出し、ラプラスの正面へ迫る。
「ラプラス、れいとうビーム!」
ラプラスが冷気を放つ。
「サーナイト、テレポート!」
レンの指示にサーナイトが消え、マリルリの進路を塞いでいた氷の破片が念力で横へ移動する。
マリルリは空中で進路を変え、れいとうビームをかろうじてかわした。
「今度こそ、マリルリ!」
レンが叫ぶ。
しかし、マリルリがラプラスへ届く直前、カンナが手を上げた。
「そこまでです!」
四匹が動きを止める。
訓練は終了した。
◆読み切ること、変え続けること
シンヤとレンは、それぞれのポケモンたちへ駆け寄った。
「ニドキング、スターミー。よく頑張ったな!」
「ニドキング!」
「ヘア!」
「サーナイト、マリルリ。素晴らしい連携でしたわ!」
「サーナ!」
「マリル!」
カンナは満足そうに四匹を見渡した。
「今日の訓練では、二人とも大切なことを学べたと思います」
まず、カンナはシンヤへ視線を向けた。
「シンヤくん。あなたは相手の戦術を見抜く観察力と、状況に合わせて作戦を変える柔軟さを持っています。ただし、相手の狙いを一つ見抜いたとき、それだけで戦術全体を理解したと思わないことです」
「はい。最初の狙いを見抜いても、その先に別の狙いがあるかもしれない……ですね」
「ええ。相手が何をしたいのかだけでなく、その目的を達成するために、どのような選択肢を残しているのか。そこまで考えられるようになれば、読みの精度はさらに高まるでしょう」
シンヤは真剣な表情でうなずいた。
「次は、相手の技だけじゃなくて、二匹の位置や、技を使わずに残している選択肢にも目を向けます」
「期待していますよ」
次に、カンナはレンへ向き直った。
「レンさん。あなたは地形を利用して相手の進路を制限し、味方が動きやすい空間を作ることができました。特に、最初の作戦が崩れたあと、マリルリが動ける場所を確保することを優先した判断はよかったです」
「ありがとうございますわ」
レンはサーナイトの頭を優しくなでた。
「でも、地形を変えることそのものが目的になってしまってはいけないのですね。味方がどう動くのか、相手がどう反応するのか。その両方を見ながら、必要な場所だけを変える……」
「そのとおりです。すべての進路を塞ぐ必要はありません。相手に選択肢を残し、その選択肢を観察することで、次の手を考えることもできますから」
レンは納得したように微笑んだ。
「ふふっ……。コンテストでも、舞台を飾りつければそれでいいわけではありませんもの。ポケモンが動きやすく、技が美しく見え、次の動きへ自然につながるように整えることが大切ですわ。バトルでも同じなのですね」
「ええ。見せ方と戦術は、必ずしも相反するものではありません」
カンナはそう答えたあと、二人を交互に見た。
「そして、今日の訓練で最も重要だったのは、二人が互いの判断を信頼し始めたことです」
シンヤとレンは顔を見合わせた。
「シンヤくんが相手の狙いを見抜いても、それを実際の形にするには、仲間の協力が必要です。レンさんが地形を整えても、そこにどんな意味があるのかを理解し、活用する仲間がいなければ、十分な成果にはつながりません」
「俺が読みを伝えて、レンが動ける場所を作る……」
「そして、私が地形を変えたことで状況が変わったら、シンヤがそれを見て、次の作戦を考える。そういうことですね」
「そのとおりです」
カンナは穏やかに微笑んだ。
「二人が別々に優れた戦術を持っているだけでは、連携とは呼べません。互いの判断を受け取り、その結果を次の判断へつなげていく。それが連携です」
シンヤはレンへ手を差し出した。
「レン、今日の訓練、助かったよ。俺一人だったら、あそこまでラプラスの動きを制限できなかった」
レンは一瞬だけ目を丸くし、それから嬉しそうに微笑んだ。
「私こそ、シンヤの読みがあったからこそ、サーナイトたちに何をしてもらえばいいのか、判断できましたわ。あなたの観察力は、やっぱり頼りになりますもの」
二人は軽く手を合わせた。
「でも、次はもっと上手くやろうぜ。カンナさんに読み切られないくらいに!」
「ふふっ、そうね。次は、こちらが相手の選択肢を先回りして整えてみせるわ!」
その言葉を聞き、カンナは楽しそうに目を細めた。
「いい意気込みですね。ただし、相手もまた、あなたたちの成長に合わせて戦い方を変えてきますよ」
「望むところです!」
シンヤが力強く答える。
レンも、サーナイトとマリルリを見つめながらうなずいた。
「私たちだって、昨日と同じ戦い方をするつもりはありません」
訓練場には、四匹のポケモンたちの元気な声が響いた。
まだ課題は残っている。
シンヤは、相手の戦術を読み切るために、目の前の行動だけでなく、その先に残された選択肢まで見抜かなければならない。
レンは、地形を制御するために、最初に描いた作戦に固執せず、味方と相手の動きに合わせてフィールドを変え続ける必要がある。
そして二人には、それぞれの判断を一つの戦術へと結びつける、さらなる連携が求められていた。
カンナとの特訓は、まだ終わらない。
「明日も、今日の続きをしましょう」
カンナの言葉に、シンヤとレンはそろってうなずいた。
「お願いします!」
「よろしくお願いします!」
5のしまの青い空の下。
二人とポケモンたちの新たな挑戦が、また一歩前へ進んだ。