ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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アニメではサトシはロケット団の妨害で怪我をしたランナーの代わりをしましたが――――


第85話「セキエイリーグ開幕! 聖火ランナーと不死鳥の祝福!」

◆セキエイ高原――ついに始まるポケモンリーグ

 

 

「はい! ジムバッジの確認は終わりました。セキエイリーグ出場、おめでとうございます!」

 

 

受付の女性たちから祝福の拍手を受け、俺は手渡されたガイドブックを受け取った。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

とうとう来た。

 

 

ポケモンリーグ・セキエイ大会。

 

 

マサラタウンを旅立ってから、数々の出会いとバトルを重ねてきた。その間に手持ちのポケモンたちも増え、俺自身もトレーナーとして成長してきた。

 

 

そして今、俺はカントー地方のポケモンリーグに挑もうとしている。

 

 

「シンヤ、とうとうここまで来たわね」

 

 

隣にいたレンが、どこか感慨深そうに言った。

 

 

「そうだな。ここまで来たら、あとは全力で戦うだけだ」

 

 

「ふふっ。言うじゃない。あなたがどこまで勝ち進むのか、楽しみにしているわ」

 

 

レンはいたずらっぽく笑った。

 

 

その隣では、ラムが腕を組み、レムが柔らかく微笑んでいる。

 

 

「坊ちゃまが負けるところなんて、ちょっと想像できませんね。……まあ、油断して足元をすくわれるようなら、帰ってから私が鍛え直してあげますけど」

 

 

「姉様、応援に来たのに、いきなり脅すのはどうかと思います」

 

 

「脅してないわよ、レム。愛情たっぷりの忠告よ」

 

 

「その愛情、もう少し穏やかに伝えられないかな……」

 

 

俺が苦笑すると、レンがくすりと笑った。

 

 

「いいじゃない。ラムなりに応援してるのよ」

 

 

「……まあ、そういうことにしておくか」

 

 

俺たちは指定された宿泊場所へ向かいながら、ガイドブックを開いた。

 

 

大会の進行や施設案内、対戦形式。そして、試合に関する細かな規則。

 

 

「まずはルールの確認だな」

 

 

俺はページをめくった。

 

 

 

 

 

 

 

◆大会要項――原作とは違う部分もある

 

 

ガイドブックには、セキエイ大会のルールが詳しく記載されていた。

 

 

**ポケモンリーグ・セキエイ大会 大会要項**

 

 

- 四回戦までは、草・氷・水・岩のいずれかのフィールドでバトルを行う。

- 五回戦までは、使用ポケモン三体。試合中の交代が認められる。

- Zワザ・メガシンカ・テラスタルは、それぞれ試合中に一度のみ使用可能。

- 準々決勝からは、使用ポケモン六体によるフルバトル。

- フルバトルでは、どちらかの手持ちが先に三体倒された時点で三分間のインターバルに入る。

- 試合中のポケモン図鑑の使用は禁止。

- お互いに最後の一体となった状況で、だいばくはつやみちづれなどを使用した場合、使用した側の敗北とする。

- 同種のポケモンの参加重複は禁止。ただし、試合中に進化した場合は、そのまま続行できる。

- 試合に出す登録されていないポケモンの使用は禁止。

- 試合中のZクリスタルの変更は禁止。

 

 

「へえ……」

 

 

俺は思わず声を漏らした。

 

 

一部は、俺が知っているアニメのセキエイ大会とは違う。

 

 

特に、Zワザ、メガシンカ、テラスタルが同じ大会規則の中で扱われている点は興味深い。

 

 

「この世界じゃ、もう三つとも大会で使われる可能性があるってことか」

 

 

俺は心の中でつぶやいた。

 

 

メガシンカについては、俺自身がハッサムやハガネール、ゲンガーたちと実際に経験している。

 

 

Zワザやテラスタルも、少なくとも大会運営が正式にルールを設ける程度には認識されているらしい。

 

 

ただし、認識されていることと、誰もが簡単に使えることは別だ。

 

 

俺はガイドブックを閉じかけ、もう一度、使用ポケモンの登録に関する項目を確認した。

 

 

「登録されていないポケモンは使えない、か……」

 

 

当然の規則だ。

 

 

俺には二十六匹の主力メンバーに加え、家で待機しているポケモンたちもいる。

 

 

だが、リーグで使えるのは、正式に登録したポケモンだけ。

正確に言えばバトルに出すときに登録をしているポケモン、だ。

 

 

もちろん、ファイヤー、サンダー、フリーザーを登録するつもりもない。

 

 

伝説のポケモンを使えば勝てるかもしれない。

 

 

けれど、俺が今回のリーグで確かめたいのは、そういうことじゃない。

 

 

今まで育ててきた仲間たちが、どこまで戦えるのか。

 

 

カンナさんとの特訓で身につけた判断力や戦術を、本番でどこまで発揮できるのか。

 

 

それを見たいんだ。

 

 

「ねえ、シンヤ。何か気になるルールでもあった?」

 

 

レンが俺の顔をのぞき込む。

 

 

「いや。確認してただけだよ。試合中に使える技も、ポケモン一匹につき四つまで。だから、登録したメンバーの得意分野と、相手に合わせた技構成が重要になる」

 

 

「なるほどね。覚えている技が多くても、試合中に全部使えるわけじゃないものね」

 

 

「そういうこと」

 

 

レンは納得したようにうなずいた。

 

 

「あなたなら、相手の戦い方を見て、柔軟に対応するんでしょうね」

 

 

「そうしたいところだな。実際にやれるかどうかは、試合になってみないと分からないけど」

 

 

「ふふっ。そこは期待してるわよ」

 

 

ラムが横から口を挟んだ。

 

 

「坊ちゃま、相手の分析に夢中になりすぎて、自分のポケモンへの指示が遅れないようにしてくださいね」

 

 

「分かってるって」

 

 

「本当ですか?」

 

 

「……分かってるよ」

 

 

レムが小さく笑う。

 

 

「皆さん、まずは宿泊場所へ向かいましょう。大会まで、まだ準備することがあるでしょうから」

 

 

「そうだな」

 

 

俺たちはガイドブックをしまい、選手用の宿泊施設へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆タマランゼ会長の訪問

 

 

セキエイ高原に到着してから、数日が過ぎた。

 

 

大会前の準備を進めながら、俺はポケモンたちの状態を確認し、軽い調整を続けていた。

 

 

無理に新しいことを詰め込むつもりはない。

 

 

今まで積み上げてきたものを、試合で確実に発揮できるようにする。それが今の俺にできる最善の準備だ。

 

 

そんなある日のこと。

 

 

俺たちが宿泊施設の近くで休憩していると、一人の老人がこちらへ歩いてきた。

 

 

「たまらんなあ!」

 

 

……この口癖。

 

 

俺は思わず顔を上げた。

 

 

白髪の老人は、独特の存在感を放ちながら、俺たちの前で足を止めた。

 

 

「君がシンヤ君だね?」

 

 

「はい。そうですけど……」

 

 

「いやあ、会えてよかった! 私はタマランゼ。今回のポケモンリーグで大会責任者を務めている者だよ!」

 

 

やっぱり、この人か。

 

 

ポケモンリーグの大会責任者、タマランゼ会長。

 

 

「お噂は聞いているよ。ジムリーダーたちからも、四天王のカンナ君からもね。たまらんなあ、君の活躍は!」

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

どうやら、俺の情報はかなり共有されているらしい。

 

 

ジムリーダーたちとのバトルだけでなく、カンナさんとの特訓についても話が伝わっているのだろう。

 

 

会長は俺の肩を軽く叩き、にこにこと笑った。

 

 

「そこで、君に一つお願いがあってね」

 

 

「お願い、ですか?」

 

 

「そう! ポケモンリーグの開会式で行われる、聖火リレーに参加してもらいたいのだ!」

 

 

「……聖火リレー?」

 

 

俺は思わず聞き返した。

 

 

会長は大きくうなずく。

 

 

「大会の聖火を運ぶランナーは、出場するトレーナーの中から選んでいるんだ。今回は、君にもぜひ参加してもらいたくてね!」

 

 

「俺が、ですか?」

 

 

「そうとも! 君のこれまでの活躍は、実に素晴らしい。大会を盛り上げる役目を担ってもらえれば、たまらんなあ!」

 

 

なるほど。

 

 

会長が直接指名してきたということか。

 

 

俺は少し考えたあと、頭を下げた。

 

 

「分かりました。俺でよければ、やらせていただきます」

 

 

「おお! 引き受けてくれるか! ありがとう!」

 

 

会長は満足そうに笑った。

 

 

その後、聖火リレーの進行や集合時刻など、必要な説明を受けた。

 

 

会長が去ったあと、レンが俺の顔をのぞき込む。

 

 

「まさか、聖火ランナーに選ばれるなんてね」

 

 

「俺も予想してなかったよ」

 

 

「会長が直接指名したのなら、断りにくいわね」

 

 

「いや、別に嫌ってわけじゃないさ。大会の開会式に関われるのは、いい経験になると思う」

 

 

ラムが腕を組む。

 

 

「坊ちゃまが聖火を運ぶんですか。途中で何かやらかしたりしませんよね?」

 

 

「俺を何だと思ってるんだよ……」

 

 

「日頃の行いを考えれば、念のため確認しておくのは当然でしょう?」

 

 

「姉様、シンヤさんを困らせないでください」

 

 

レムがたしなめる。

 

 

レンは楽しそうに笑った。

 

 

「大丈夫よ。シンヤなら、きちんとやり遂げるでしょうから」

 

 

「……ありがとな、レン」

 

 

俺は苦笑しながら、開会式の日に思いを巡らせた。

 

 

まさか、自分が聖火ランナーを務めることになるとは。

 

 

このときの俺は、まだ知らなかった。

 

 

その役目が、ただの記念行事では終わらないことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆開会式前日――遅れてやってきた挑戦者

 

 

そして、大会開催前日。

 

 

セキエイ高原には、続々とトレーナーたちが集まっていた。

 

 

その中に、見覚えのある少年たちの姿があった。

 

 

「……あれは」

 

 

俺は少し離れた場所から、彼らの姿を見つけた。

 

 

サトシ。

 

 

そして、タケシとカスミ。

 

 

どうやら、ようやく到着したらしい。

 

 

研究所でシゲルとのバトルを見たときは、以前よりもずいぶん成長したと思ったものだ。

 

 

だが、到着が大会前日とは。

 

 

「……相変わらずだな、サトシ」

 

 

俺が小さくつぶやくと、レンも彼らの方へ目を向けた。

 

 

「あらサトシ君じゃない。聞いた話ではオーキド研究所でシゲル君とバトルがあったとか?」

 

 

「ああ。バトルはかなり成長していたよ」

 

 

「でも、大会前日に到着するのは、さすがに緊張感がなさすぎじゃないかしら?」

 

 

「……まあ、そこは否定できないな」

 

 

レンはあきれたように息をついた。

 

 

その隣で、ラムとレムは初めて見るサトシの姿を眺めていた。

 

 

「えっ、あの子が大会に出るんですか? 前日到着って……準備は大丈夫なんでしょうか」

 

 

レムが少し心配そうに言う。

 

 

「ずいぶん余裕がありますね。坊ちゃまなら、前日までに会場の確認も済ませているでしょうに」

 

 

「俺を基準にしないでくれ」

 

 

「ですが、坊ちゃま。少なくとも、私なら前日に到着する予定は立てません」

 

 

「それはそうだろうけど……」

 

 

俺たちが見ていると、サトシが何かに気づいたように顔を上げた。

 

 

どうやら、聖火ランナーたちが通りかかったらしい。

 

 

「うわっ! あれ、ポケモンリーグの聖火ランナーだ!」

 

 

サトシは目を輝かせ、すぐさま彼らの方へ駆け寄った。

 

 

「すみません! 俺も聖火ランナーをやらせてもらえませんか!?」

 

 

ランナーたちは困ったように顔を見合わせた。

 

 

「ごめんなさい。もう担当者は決まっているんです」

 

 

「ええっ!? そんなあ!」

 

 

サトシは肩を落とした。

 

 

その様子を見て、俺は額に手を当てた。

 

 

「……あいつ、本当に変わってないな」

 

 

もちろん、バトル面では成長している。

 

 

シゲルとの戦いでも、相手の攻撃を受けながら、最後まで勝ち筋を探していた。

 

 

けれど、根本的なところは相変わらずだ。

 

 

興味を引かれるものがあれば、まず飛び込んでみる。

 

 

その行動力は長所でもあるが、場面によっては少し考えてほしいところでもある。

 

 

「ふふっ。サトシ君らしいわね」

 

 

レンは苦笑していた。

 

 

「シンヤから聞いてた話では以前よりずっと成長したと思ったんだけど……こういうところは変わってないのね」

 

 

「まあ、あいつはあいつでいいんじゃないか。大会が始まれば、ちゃんとバトルに集中するだろうし」

 

 

「そうだといいわね」

 

 

ラムは腕を組んだまま、サトシをじっと見ていた。

 

 

「坊ちゃま、あの子は何というか……思いついたらすぐ行動するタイプなんですね」

 

 

「そうだな」

 

 

「レム、私たちはああならないようにしましょう」

 

 

「姉様、そんな言い方をしなくても……」

 

 

「だって、明日から大会ですよ?」

 

 

「それはそうだけど」

 

 

俺は再びサトシを見た。

 

 

「……ま、あいつがどこまで勝ち上がるかも、楽しみではあるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆聖火リレー――アンカーの役目

 

 

開会式当日。

 

 

セキエイ高原には、多くのトレーナーや関係者が集まっていた。

 

 

俺は指定された場所で聖火ランナーたちと合流し、進行の最終確認を受けた。

 

 

そして、今回の聖火リレーで俺に任された役目は――アンカー。

 

 

聖火を最後に受け取り、聖火台へと運ぶ役目だった。

 

 

「……まさか、アンカーとはな」

 

 

俺は聖火を見つめた。

 

 

この大会に参加するトレーナーたちの思いを背負って運ぶ、開会式の最後を飾る役目。

 

 

そう考えると、少し緊張する。

 

 

だが、バトルの前に気持ちを整えるには、悪くない経験かもしれない。

 

 

聖火リレーが始まった。

 

 

ランナーたちは順番に聖火を受け渡し、観衆の前を走っていく。

 

 

俺は自分の番が来るまで、静かに待っていた。

 

 

そのとき、ふと、会場の外れに目を向けた。

 

 

……何も起きない。

 

 

少なくとも、今のところは。

 

 

俺の前世の記憶では、ロケット団が聖火を奪おうとする騒動が起きていたはずだ。

 

 

だが、今回に限っては、その心配は必要なさそうだった。

 

 

というのも、ロケット団のボスであるサカキから、すでに直接指示が出ていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

――シンヤが関わっている件には手を出すな。

 

 

 

 

 

 

 

組織の構成員たち――――というかムコニャは、その命令を受け、今回の聖火リレーを妨害する計画を断念していた。

 

 

俺自身は、そんな裏事情を知る由もない。

 

 

ただ、何事もなく進行していることに、少しだけ安心していた。

 

 

やがて、前のランナーが聖火を運んでくる。

 

 

「次は、あなたです!ラストだから気を付けてね!」

 

 

「はい!」

 

 

俺は聖火を受け取った。

 

 

炎は静かに揺らめいている。

 

 

俺はその火を大切に掲げ、聖火台へ向かって走り出した。

 

 

一歩、また一歩。

 

 

観衆の歓声が響く。

 

 

そして、ついに聖火台の前へと到着した。

 

 

「これで……最後だ!」

 

 

俺は聖火を掲げ、聖火台へと近づけた。

 

 

炎が聖火台に移る。

 

 

 

 

 

 

――その瞬間だった。

 

 

 

 

 

燃え上がった炎が、ふわりと大きく揺らめいた。

 

 

「……ん?」

 

 

炎が、まるで生き物のように形を変えていく。

 

 

翼が広がり、尾羽が伸び、燃え盛る炎の中から、一羽の巨大な鳥の姿が浮かび上がった。

 

 

「なっ……!?」

 

 

それは、見間違えるはずのない姿だった。

 

 

炎をまとった翼。

 

 

燃え盛る尾羽。

 

 

そして、太陽のように輝く体。

 

 

「ファイヤー……!?」

 

 

聖火から現れたファイヤーは、大きく翼を広げた。

 

 

その姿を見た観衆が、どよめきと歓声を上げる。

 

 

そして、次の瞬間。

 

 

ファイヤーは聖火台から飛び立ち、俺たちのいる場所へと向かってきた。

 

 

「えっ、ちょっ……待て待て待て!」

 

 

巨大な炎の鳥が、真正面から飛んでくる。

 

 

俺は思わず身構えた。

 

 

「きゃああっ?!シンヤっ!?」

 

 

レンが驚きの声を上げる。

 

 

ラムも目を見開いた。

 

 

「な、何ですかあれ!?」

 

 

レムは両手で口元を覆っている。

 

 

「ファイヤー……本物の、ファイヤー……!?」

 

 

そして、炎が俺たちを包み込んだ。

 

 

熱い。

 

 

確かに熱い。

 

 

だが、肌が焼けるような痛みはない。

 

 

むしろ――。

 

 

「……あれ?」

 

 

俺はゆっくりと顔を上げた。

 

 

体が軽い。

 

 

さっきまで感じていた、肩や背中のわずかな重さが消えている。

 

 

脚も、腕も、まるで長い休息を取ったあとのように軽快だった。

 

 

「これは……」

 

 

レンも自分の手を見つめていた。

 

 

「何だか、体がすごく軽くなった気がする……!」

 

 

ラムは何度か腕を動かし、驚いたように声を上げた。

 

 

「おいおい……今までの疲れが吹き飛んでやがる!」

 

 

レムも目を丸くしている。

 

 

「本当です……! さっきまで少し疲れていたのに、今は全然……!」

 

 

周囲からも、驚きの声が次々と上がった。

 

 

「熱い! ……って、あれ? 火傷してないぞ!?」

 

 

「どうなってるんだ!?」

 

 

「体が軽い……! 特訓で溜まっていた疲れまで消えてるぞ!」

 

 

「もう何も怖くない!」

 

 

「モエルーワー!」

 

 

最後の叫びは、誰のものだったのか分からなかった。

 

 

とにかく、会場は大混乱――いや、驚きと歓喜に包まれていた。

 

 

ファイヤーの炎は、開会式に参加しているトレーナーたち、観客席にいる人達を次々と包み込んでいた。

 

 

だが、誰一人として火傷を負っていない。

 

 

それどころか、炎に包まれた者たちは、まるで長い休息を取ったかのように疲労が回復していた。

 

 

これは、ただの聖火ではない。

 

 

ファイヤーの炎が持つ、不思議な力だった。

 

 

そして、その恩恵を最も強く受けていたのは――。

 

 

「……いや、これ、どうなってるんだ?」

 

 

俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆不死鳥の祝福

 

 

ファイヤーの炎は、俺の周囲でひときわ強く輝いていた。

 

 

当然だ。

 

 

俺は、つい先日までファイヤーと直接戦い、そして正式に仲間として迎え入れていた。

 

 

さらに、俺の手元にはファイヤーのモンスターボールがある。

 

 

つまり、今の俺は、ファイヤー自身とその聖火の両方に最も近い位置にいる。

 

 

そのためか、炎の恩恵は俺に対して特に強く働いていた。

 

 

三鳥との連続した捕獲戦。

 

 

5のしまの別荘での特訓。

 

 

そして、カンナさんによる容赦のないスパルタ訓練。

 

 

どれも決して楽な経験ではなかった。

 

 

肉体的な疲労はもちろん、俺自身が気づいていなかった小さな疲れも、確実に蓄積していたのだろう。

 

 

それが、今、すべて消えていく。

 

 

「……すごいな、これ」

 

 

俺は自分の手を握ったり開いたりした。

 

 

体の奥に残っていた重さが、すっかりなくなっている。

 

 

頭も冴えていた。

 

 

視界が明瞭になり、呼吸も深く、自然になっている。

 

 

まるで、心身ともに完全な状態へ戻ったようだった。

 

 

ただし、これは強くなったというより、溜まっていた疲労が取り除かれた感覚に近い。

 

 

特訓で身につけた技術や、ポケモンたちとの連携が急に上達したわけではない。

 

 

それでも、今の俺にとっては十分すぎるほどの恩恵だった。

 

 

「ファイヤー……お前、こんな力まで持っていたのか」

 

 

俺は空を見上げた。

 

 

ファイヤーは俺たちの頭上を大きく旋回し、炎の羽根をきらめかせている。

 

 

その姿を見つめていると、胸の奥に不思議な温かさが広がった。

 

 

「……ありがとうな」

 

 

俺が小さくつぶやくと、ファイヤーは一度、大きく鳴いた。

 

 

まるで返事をするかのように。

 

 

そして、炎の鳥は空高く舞い上がり、やがて光の中へと姿を消していった。

 

 

聖火台には、今も力強い炎が燃え続けている。

 

 

会場はしばらく騒然としていたが、やがて驚きは歓声へと変わっていった。

 

 

「すごいぞ! ファイヤーの聖火だ!」

 

 

「こんなことが起こるなんて!」

 

 

「今年のリーグは、何か特別な大会になりそうだな!」

 

 

俺は周囲の様子を眺め、苦笑した。

 

 

「……開会式から、とんでもないことになったな」

 

 

レンが客席から降りて、俺の隣へやってくる。

 

 

「シンヤ、大丈夫?」

 

 

「ああ。むしろ、今までで一番体が軽いくらいだ」

 

 

「本当に? 私もすごく楽になったけど、あなたは特に強く炎を浴びていたものね」

 

 

「たぶん、ファイヤーが俺の手持ちにいることも関係してるんだろうな」

 

 

レンは少し驚いたように目を見開いた。

 

 

「そういうこともあるのね……」

 

 

ラムが俺の顔をのぞき込む。

 

 

「坊ちゃま、まさか明日からのバトルで、いきなり飛ばしすぎたりしませんよね?」

 

 

「しないよ。体が軽くなったからって、無理をしていいわけじゃない」

 

 

「本当でしょうね?」

 

 

「本当だって」

 

 

レムはほっとしたように微笑んだ。

 

 

「よかったです。これで安心して大会を応援できますね」

 

 

「そうだな」

 

 

俺は聖火台を見つめた。

 

 

この炎は、ただ大会の始まりを告げるためだけのものではなかった。

 

 

ここまで戦い続けてきたトレーナーたちに、もう一度前へ進むための力を与えてくれたのだ。

 

 

そして俺自身も、その恩恵を受けた一人だった。

 

 

だが、忘れてはいけないことがある。

 

 

疲労が回復したからといって、勝利が約束されたわけではない。

 

 

明日からは、本当の勝負が始まる。

 

 

相手もまた、それぞれのポケモンと共に、この場所までたどり着いた挑戦者たちだ。

 

 

俺は手元のモンスターボールを見つめた。

 

 

中には、ファイヤーだけでなく、サンダーとフリーザーもいる。

 

 

けれど、今回のリーグで頼るべきなのは、伝説のポケモンたちの力ではない。

 

 

今まで一緒に旅をしてきた仲間たち。

 

 

彼らと積み重ねてきた経験。

 

 

そして、俺自身が考え、選び、戦う力だ。

 

 

「よし……明日からだな」

 

 

俺は拳を握った。

 

 

「みんなで、全力で戦おう」

 

 

モンスターボールが、手の中で静かに揺れた気がした。

 

 

セキエイリーグ。

 

 

いよいよ、その幕が上がる。

 

 

そして、聖火の炎が残した不思議な祝福は、俺たちの新たな戦いの始まりを、静かに照らしていた。

 

 




はい、今回、サトシはランナーしてません。
まあ、サカキが本気の自分と戦って勝利したシンヤがいるのにそんなシンヤを邪魔すれば面倒になると思ったからです。


なのでロケット団のムコニャは現れず傍観。
そのためサトシのアニメでの見せ場?なランナーはなしになってます
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