ポケットモンスター~波動の眼を持つ少年~   作:レイザル

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第86話 第1回戦! 水のフィールドに挑むハクリュー!

 

 

カントー地方、セキエイ高原。

 

 

ポケモントレーナーたちが長い旅の果てに集う、ポケモンリーグ本大会が、ついに開幕した。

 

 

予選を勝ち抜いたトレーナーたちが集まる会場は、朝から大勢の観客で埋め尽くされていた。

 

 

スタジアムの中央には、いくつものバトルフィールドが用意されている。草のフィールド、氷のフィールド、水のフィールド、岩のフィールド。それぞれに異なる環境が用意され、トレーナーたちはその条件に合わせた戦術を求められることになる。

 

 

観客席には、各地から集まったトレーナーの家族や友人、ポケモンバトルを愛する人々の姿があった。

 

 

その中には、シンヤの姿を探している者たちもいる。

 

 

「いよいよ始まったわね、セキエイリーグ!」

 

 

レンは客席からフィールドを見渡し、期待に満ちた表情を浮かべた。

 

 

隣では、ラムが腕を組み、レムが静かに微笑んでいる。

 

 

「坊ちゃまなら、予選で負けるなんてことはないでしょうけど」

 

 

「姉様、油断は禁物ですよ。リーグには強いトレーナーがたくさん集まっていますから」

 

 

「分かってるわよ、レム。だからこそ、どんな戦いを見せてくれるのか楽しみなの」

 

 

レンはフィールドへと視線を向けた。

 

 

シンヤがどのポケモンを選び、どんな戦い方をするのか。

 

 

それを見届けることが、彼女にとっても今回のリーグの大きな楽しみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の観戦場所では、サトシがタケシ、カスミとともに試合開始を待っていた。

 

 

「なあ、俺たちの試合はもう終わったけど、シンヤの試合はいつなんだ?」

 

 

「順番が来れば呼ばれるさ。落ち着いて待て」

 

 

タケシが答えると、カスミも頷いた。

 

 

「せっかくのリーグなんだから、他のトレーナーの戦い方も見ておきなさいよ。参考になることもあるんだから」

 

 

「分かってるって! でも、シンヤがどんな戦い方をするのか、気になるんだよ!」

 

 

サトシは身を乗り出し、会場の案内板を見つめた。

 

 

シンヤがどんなポケモンを出すのか。

 

 

どんな技を使うのか。

 

 

そして、自分とは違う戦い方で、どこまで勝ち進むのか。

 

 

考えるだけで、胸が高鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆第一回戦、最終試合

 

 

やがて、スタジアムに実況の声が響き渡る。

 

 

『さあ、皆さん! 第一回戦もいよいよ最後の試合となりました! これから行われるのは、水のフィールドでの一戦です!』

 

 

巨大なモニターに、二人のトレーナーの名前が表示された。

 

 

『まずは、挑戦者の紹介です! マサラタウン出身、シンヤ選手! 各地のポケモンたちと数多くのバトルを経験し、独自の戦術を磨いてきたトレーナーです!』

 

 

シンヤがフィールドへと歩み出る。

 

 

観客席から歓声が上がった。

 

 

シンヤは観客に軽く手を上げて応えながら、対戦相手の待つ反対側へと進んだ。

 

 

『対するは、虫ポケモンを専門とするトレーナー、マームッシ選手! 出身地はタマムシシティ! 虫ポケモンの特徴を生かした戦術と、状態変化を組み合わせた戦い方を得意としています!』

 

 

マームッシもフィールドへ姿を現し、観客へ向けて手を振った。

 

 

両者がフィールドの中央で向かい合う。

 

 

『今回の使用ポケモンは、両選手とも三体! ポケモンの交代は可能ですが、相手を見極める判断力も重要になります! それでは、選手の皆さん、準備はよろしいですか!』

 

 

「いつでもいいよ」

 

 

シンヤは落ち着いた声で答えた。

 

 

「こっちも準備はできている。虫ポケモンの強さ、存分に見せてやるさ!」

 

 

マームッシも自信たっぷりに言い返す。

 

 

審判が両者の確認を終え、旗を掲げた。

 

 

『それでは、第一回戦最終試合――バトル開始です!』

 

 

歓声がスタジアムを揺らした。

 

 

シンヤは腰のボールに手を伸ばす。

 

 

本来なら、最初から複数のポケモンを使い分け、相手の手持ちや戦術を探りながら戦うこともできる。

 

 

今回のルールでは三体まで使用できる。相手がどんなポケモンを繰り出すかを見ながら交代し、こちらに有利な状況を作ることも重要になる。

 

 

シンヤの手持ちには、カメックスもピカチュウもいる。

 

 

どちらも水のフィールドで戦ううえで、頼りになるポケモンだ。

 

 

それでも、シンヤは一つの考えを持っていた。

 

 

 

 

 

――今のハクリューは、どこまで戦える?

 

 

 

 

 

5のしまの別荘での特訓を経て、ハクリューを含む仲間たちは、それぞれの戦術や状況判断を磨いてきた。

 

 

相手の動きを読むこと。

フィールドを利用すること。

想定外の状況でも、自分で判断して対応すること。

 

 

シンヤ自身も、カンナとの特訓を通して、ポケモンにただ指示を出すだけでなく、状況に応じて作戦を変える重要性を改めて学んでいた。

 

 

そして、ハクリューは今、進化に近づきつつある。

 

 

もちろん、進化するかどうかはハクリュー自身の意思も大切だ。シンヤが勝手に急がせるつもりはない。

 

 

ただ、進化を目前にした今、これまでの特訓で身につけた力が、実戦でどこまで通用するのかを確かめたい。

 

 

リーグの初戦は、そのための絶好の機会だった。

 

 

 

 

 

――もちろん、無理をさせるつもりはない。

 

 

 

 

 

危険な状況になれば、すぐに交代する。

 

 

勝利を目指すことと、ポケモンの状態を見極めること。その両方を忘れるわけにはいかなかった。

 

 

「よし……。今回は、お前の力を見せてもらおうか」

 

 

シンヤはボールを投げた。

 

 

「行け、ハクリュー!」

 

 

白い光の中から、長い身体を持つ美しいドラゴンポケモンが姿を現す。

 

 

「ハクリュウッ!」

 

 

ハクリューは水面すれすれに浮かび、力強い鳴き声を上げた。

 

 

『シンヤ選手、最初のポケモンはハクリュー! 水のフィールドで、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!』

 

 

マームッシはハクリューを見て、少し意外そうな顔をした。

 

 

「最初からハクリューか。だが、虫ポケモン相手にドラゴンタイプがどこまで戦えるか、試させてもらおう!」

 

 

彼もボールを構えた。

 

 

「行け、モルフォン!」

 

 

紫色の大きな羽を持つモルフォンが、フィールドの上空へと舞い上がる。

 

 

『マームッシ選手の先発はモルフォン! 状態変化を得意とする虫・どくタイプのポケモンです!』

 

 

モルフォンは羽を震わせ、ハクリューを見下ろした。

 

 

シンヤはその様子をじっと見つめる。

 

 

モルフォンの動き、羽の開閉、目線の向き。

 

 

ハクリューも同じように相手を見ていた。

 

 

「それじゃ、始めようか」

 

 

シンヤは静かに告げた。

 

 

「ハクリュー、相手の技をよく見ておけ。最初は様子を見ながらいこう」

 

 

「ハクリュウ!」

 

 

『さあ、どちらが先に仕掛けるのか!』

 

 

マームッシが先に指示を飛ばした。

 

 

「モルフォン、ねんりき!」

 

 

モルフォンの目が光る。

 

 

見えない力がハクリューを包み込み、その身体を押さえつけようとした。

 

 

「ハクリュー、動きを止めるな!」

 

 

ハクリューは身体をくねらせながら、念力の圧力に抗う。

 

 

シンヤはモルフォンの技の性質を見極めていた。

 

 

遠距離から相手の動きを制限し、次の攻撃へつなげる。

 

 

ならば、相手に距離を保たせないことが重要になる。

 

 

「りゅうのはどう!」

 

 

ハクリューが口元に光を集め、竜のエネルギーを放つ。

 

 

モルフォンは上昇して回避したが、攻撃の圧力に押されて大きく軌道を変えた。

 

 

「なら、ねむりごなだ!」

 

 

モルフォンが羽を震わせ、眠りの粉を散布する。

 

 

細かな粉が雨粒と混ざり、ハクリューへと降り注いだ。

 

 

「ハクリュー、下がれ!」

 

 

ハクリューは素早く水面近くへと移動し、粉の広がる範囲から離れる。

 

 

粉は雨に濡れたフィールドへ落ちていった。

 

 

「今度はサイコキネシス!」

 

 

モルフォンの目が再び光り、今度は強い念力がハクリューを捉えた。

 

 

ハクリューの身体が空中で固定される。

 

 

「ハクリュー!」

 

 

シンヤは一瞬だけ考えた。

 

 

力任せに振りほどこうとすれば、相手の念力に押さえ込まれる可能性がある。

 

 

ならば、身体を固定された状況そのものを変えればいい。

 

 

「ハクリュー、フィールドの水を使え!」

 

 

「ハクリュウッ!」

 

 

ハクリューは身体をひねり、尾で水面を強く打った。

 

 

大きな水しぶきが上がり、念力で固定された身体の周囲に水が飛び散る。

 

 

その反動でハクリューの身体がわずかにずれ、念力の拘束が緩んだ。

 

 

「今だ、抜け出せ!」

 

 

ハクリューは身体をしならせ、拘束から抜け出した。

 

 

「よし! かみなり!」

 

 

ハクリューの身体から電撃が走る。

 

 

モルフォンは回避しようとしたが、雨の降るフィールドで放たれたかみなりを完全には避けきれなかった。

 

 

「モルフォン!」

 

 

電撃が直撃し、モルフォンの身体が大きく揺れる。

 

 

それでも、モルフォンは羽を震わせて持ちこたえた。

 

 

「まだだ! エアカッター!」

 

 

モルフォンが鋭い風の刃を放つ。

 

 

ハクリューは水面すれすれに移動し、風の刃を避けた。

 

 

そのまま、シンヤは次の指示を出す。

 

 

「りゅうのはどう!」

 

 

ハクリューの攻撃が再びモルフォンを捉えた。

 

 

モルフォンは空中で体勢を崩し、水面へと落下する。

 

 

審判が確認し、旗を上げた。

 

 

「モルフォン、戦闘不能! ハクリューの勝利!」

 

 

『まずはシンヤ選手! ハクリューで先制です! モルフォンの念力や状態変化をかわし、最後は攻撃の連続で勝利を収めました!』

 

 

シンヤはハクリューに笑いかける。

 

 

「よくやった。相手の動きを見て、ちゃんと対応できたな」

 

 

「ハクリュウ!」

 

 

ハクリューは元気よく鳴いた。

 

 

先ほどの戦いで、多少の疲労はある。しかし、大きなダメージは受けていなかった。

 

 

シンヤはその様子を確認しながら、次の相手を待った。

 

 

 

 

 

――ここまでは順調だ。

 

 

 

 

だが、相手もこのまま簡単に負けるつもりはないだろう。

 

 

マームッシはモルフォンをボールに戻すと、次のボールを取り出した。

 

 

「モルフォン、よくやった。だが、まだ終わりじゃない!」

 

 

彼はボールを投げた。

 

 

「バタフリー、頼んだぞ!」

 

 

白い光の中から、バタフリーが姿を現す。

 

 

『マームッシ選手の二体目はバタフリー! こちらも虫ポケモンですが、ちょうのまいによる能力強化を得意とするポケモンです!』

 

 

バタフリーは羽を広げ、ハクリューを見据えた。

 

 

「バタフリー、ちょうのまい!」

 

 

バタフリーが優雅に舞い始める。

 

 

淡い光が身体を包み、能力が高まっていく。

 

 

「ハクリュー、相手の動きを見ろ。まだ攻めるな!」

 

 

シンヤはすぐに攻撃を指示しなかった。

 

 

バタフリーがちょうのまいで能力を上げている間、ハクリューは距離を保ちながら動きを観察する。

 

 

マームッシはさらに指示を飛ばした。

 

 

「もう一度、ちょうのまいだ!」

 

 

バタフリーが再び舞う。

 

 

特攻、素早さが上がり、さらに特殊攻撃への耐久力も高まっていく。

 

 

「これで簡単には倒されないぞ!」

 

 

マームッシが自信を見せた。

 

 

シンヤはフィールドを見渡す。

 

 

水のフィールド。

そして、空中を舞うバタフリー。

 

 

「……ハクリュー、あまごい!」

 

 

ハクリューが空に向かって鳴き声を上げる。

 

 

上空の雲がさらに厚くなり、雨脚が強まった。

 

 

バタフリーの羽に雨粒が当たり始める。

 

 

最初は、羽の表面で弾かれるだけだった。

 

 

しかし、雨は降り続く。

 

 

羽の縁に水滴が並び、羽ばたくたびに細かな飛沫が散る。新しい雨粒が次々と重なり、羽の表面は徐々に濡れていった。

 

 

「バタフリー、雨なんか気にするな! エアカッター!」

 

 

バタフリーが羽を振るい、鋭い風の刃を放つ。

 

 

「右へ回避!」

 

 

ハクリューは水面を蹴るようにして横へ滑り、攻撃を避けた。

 

 

その間も、雨は降り続いている。

 

 

バタフリーの羽はすっかり濡れ、旋回するときの動きが少しずつ鈍くなっていた。

 

 

シンヤはその変化を見逃さない。

 

 

「……よし。羽の動きが遅くなってきたな」

 

 

マームッシが驚いたようにバタフリーを見上げる。

 

 

「何だと?」

 

 

「ならばバタフリー、もう一度ちょうのまい!」

 

 

バタフリーは指示に従い、再び舞おうとする。

 

 

だが、濡れた羽の動きは、先ほどよりも重くなっていた。

 

 

素早さそのものが上がっていても、羽ばたきや細かな方向転換に遅れが生じれば、その力を十分には発揮できない。

 

 

「ハクリュー、かみなり!」

 

 

ハクリューが空へ向かって電撃を放った。

 

 

雨雲の下を稲妻が走り、バタフリーに直撃する。

 

 

「バタフリー!」

 

 

激しい電撃が身体を包み込む。

 

 

しかし、ちょうのまいによって高められた特防が、かみなりの威力を軽減していた。

 

 

バタフリーは大きくよろめきながらも、どうにか空中に踏みとどまる。

 

 

「よし、耐えたぞ!」

 

 

マームッシが声を上げた。

 

 

だが、その直後。

 

 

「フ、フリィィ……!」

 

 

バタフリーの身体がびくりと震えた。

 

 

羽ばたこうとしていた羽が止まりかけ、頭ががくりと下がる。

 

 

 

 

 

**バタフリーは、かみなりの衝撃によってひるんでいた。**

 

 

 

 

 

身体が思うように動かず、空中で体勢を崩す。

 

 

「バタフリー、動け!」

 

 

マームッシが叫ぶ。

 

 

しかし、バタフリーはすぐには反応できない。

 

 

シンヤはその隙を逃さなかった。

 

 

「今だ、ハクリュー! りゅうのはどう!」

 

 

ハクリューの口元に青白い光が集まり、竜のエネルギーが一直線に放たれる。

 

 

「避けろ、バタフリー!」

 

 

マームッシの指示も間に合わなかった。

 

 

ひるんで動けないバタフリーに、りゅうのはどうが直撃する。

 

 

「フリーッ!」

 

 

バタフリーは水のフィールドへと落下し、大きな水しぶきを上げた。

 

 

審判が旗を上げる。

 

 

「バタフリー、戦闘不能! ハクリューの勝利!」

 

 

『シンヤ選手、二体目も撃破! 雨による環境変化と、かみなりのひるみを利用した見事な連続攻撃です!』

 

 

シンヤはハクリューに声をかけた。

 

 

「よくやった。相手の強化を真正面から打ち破る必要はなかったな」

 

 

ハクリューは嬉しそうに鳴いた。

 

 

マームッシはバタフリーをボールに戻し、悔しそうに息を吐く。

 

 

「ちょうのまいで強化したのに……。羽が濡れることまで利用されるとはな」

 

 

「バタフリーは強かったよ。だから、強化した能力を十分に発揮できない状況を作らせてもらったんだ」

 

 

シンヤは落ち着いて答えた。

 

 

「ただ攻撃を当てるだけじゃなくて、相手が動きにくい状況を作る。それも戦い方の一つだからな」

 

 

マームッシは最後のボールを手に取った。

 

 

「なるほど……。なら、最後は真正面から勝負させてもらう!」

 

 

彼がボールを掲げる。

 

 

「行け、スピアー!」

 

 

鋭い毒針を持つスピアーが姿を現し、羽を高速で震わせた。

 

 

 

 

ブブブブブッ!

 

 

 

 

スピアーは羽についた水気を振り払うように何度も震わせる。

 

 

雨が降り続いているため、身体が完全に乾くことはない。

 

 

「スピアー、こうそくいどう!」

 

 

スピアーの姿が一瞬で加速した。

 

 

フィールドの上を縦横無尽に飛び回り、その姿が残像のように見え始める。

 

 

「続けて、つるぎのまい!」

 

 

スピアーは高速移動を続けながら、身体の周囲に鋭い光をまとった。

 

 

攻撃力が高まり、速度と破壊力を兼ね備えた攻撃態勢が整う。

 

 

「これで準備はできた! いけるぞ、スピアー!」

 

 

マームッシは自信たっぷりに笑った。

 

 

しかし、シンヤはスピアーを目で追っていた。

 

 

ハクリューも同じだ。

 

 

スピアーは速い。だが、こうそくいどうを使って、ようやくハクリューと互角程度の速度に達しているようだった。

 

 

「……見えてるよ」

 

 

シンヤは静かに呟く。

 

 

スピアーが急旋回する直前。

高度を変える瞬間。

攻撃に移ろうとするわずかな間。

 

 

シンヤとハクリューは、その動きを見極めていた。

 

 

「スピアー! ドリルライナー!」

 

 

スピアーが羽を大きく震わせ、ハクリューへと突っ込んでくる。

 

 

身体をひねり、鋭いドリルのように回転しながら迫る。

 

 

つるぎのまいによって高められた攻撃力が、その突進に威力を加えていた。

 

 

「ハクリュー、回避!」

 

 

ハクリューは真横へ逃げるのではなく、細長い身体をしなやかにくねらせた。

 

 

逆巻くように身体をひねり、頭部を傾け、尾を水面すれすれに滑らせる。

 

 

スピアーのドリルライナーが、ハクリューの身体のすぐ脇を通り抜けた。

 

 

「何っ!?」

 

 

スピアーはそのまま突き抜け、攻撃を終えて身体を元の姿勢へ戻そうとする。

 

 

その瞬間。

 

 

「今だ! でんじは!」

 

 

ハクリューの身体から黄色い電気が放たれた。

 

 

体勢を立て直そうとしていたスピアーは、回避する間もなく電撃を受ける。

 

 

「スピアーッ!」

 

 

電撃が消えた後も、スピアーの身体には細かな電気が走っていた。

 

 

麻痺状態だ。

 

 

スピアーは羽を震わせ、再び加速しようとする。

 

 

しかし、身体がびくりと震え、思うように動けない。

 

 

さらに雨が降り続き、身体や羽は濡れたままだった。

 

 

羽ばたくたびに水滴が散り、麻痺による硬直が起こるたびに、狙った方向への移動が乱れる。

 

 

「くっ……! スピアー、こうそくいどうで距離を取れ!」

 

 

スピアーは指示に従おうとしたが、身体が思うように動かなかった。

 

 

そのとき、シンヤは空を見上げた。

 

 

雨脚が弱まり始めている。

 

 

先ほどまで強く降っていた雨が、少しずつ小降りになっていた。

 

 

「……そろそろだな」

 

 

シンヤは空の変化を確かめる。

 

 

「あまごいの効果が切れ始めてる」

 

 

雨が上がれば、戦況も変わる。

 

 

その変化を見極めたシンヤは、ハクリューに指示を飛ばした。

 

 

「ハクリュー、かみなり!」

 

 

ハクリューが空へ向かって鳴き声を上げる。

 

 

雨雲の間から、強烈な稲妻が走った。

 

 

「スピアー、避けろ!」

 

 

マームッシが叫ぶ。

 

 

スピアーは横へ逃れようとするが、麻痺による硬直で動き出しが遅れた。

 

 

かみなりが直撃する。

 

 

「スピーッ!?」

 

 

激しい電撃が身体を包み込んだ。

 

 

スピアーは苦しそうに声を上げながらも、必死に耐え抜く。

 

 

電撃が消えた後、スピアーは大きくよろめきながら、なんとか空中に踏みとどまった。

 

 

「よく耐えた、スピアー!」

 

 

マームッシが声を上げる。

 

 

だが、シンヤは空を見上げていた。

 

 

雨は、ほとんど上がっている。

 

 

水面に落ちる雨粒が減り、やがて最後の一滴が波紋を作った。

 

 

雨が止んだ。

 

 

シンヤはすぐさま次の指示を飛ばす。

 

 

「ハクリュー、りゅうのはどう!」

 

 

ハクリューの口元に青白い光が集まる。

 

 

次の瞬間、竜のエネルギーが一直線に放たれた。

 

 

「スピアー、避けろ!」

 

 

マームッシが叫ぶ。

 

 

しかし、スピアーは麻痺と連続攻撃によるダメージで、思うように動けなかった。

 

 

羽を震わせようとするものの、身体がわずかに硬直し、回避が間に合わない。

 

 

りゅうのはどうが直撃する。

 

 

「スピーッ!」

 

 

スピアーは大きく吹き飛ばされ、水のフィールドへと落下した。

 

 

水面に大きな水しぶきが上がる。

 

 

そして、スピアーはそのまま動かなくなった。

 

 

審判がフィールドを確認し、旗を上げる。

 

 

「スピアー、戦闘不能! よって、この試合、勝者シンヤ!」

 

 

スタジアムが大きな歓声に包まれた。

 

 

『勝者、シンヤ選手! ハクリュー一体で、マームッシ選手の三体を撃破しました!』

 

 

シンヤはハクリューのもとへ歩み寄り、その頭を優しく撫でた。

 

 

「よくやった、ハクリュー。三体相手によく頑張ったな」

 

 

「ハクリュウ!」

 

 

ハクリューは元気よく鳴いた。

 

 

モルフォン、バタフリー、スピアー。

 

 

三体それぞれの特徴に合わせ、シンヤは戦術を変え続けた。

 

 

モルフォンには、相手の拘束をフィールドの水を利用して抜け出し、攻撃を重ねた。

 

 

バタフリーには、雨で羽が濡れる状況を作り、かみなりによるひるみから、りゅうのはどうへとつないだ。

 

 

スピアーには、動きを見極めて攻撃を回避し、でんじはで動きを封じたうえで、天候の変化を利用して決着をつけた。

 

 

ただ技を当てるのではなく、相手の行動や環境の変化まで考えた戦いだった。

 

 

マームッシはスピアーをボールへ戻し、シンヤへ向き直った。

 

 

「まいったな……。こうそくいどうとつるぎのまいで強化したスピアーを、ここまで手玉に取られるとは」

 

 

「スピアーは強かったよ。だから、真正面からぶつかるより、動きを見て隙を狙うことにしたんだ」

 

 

シンヤは落ち着いて答えた。

 

 

「相手が強化するなら、その強化された能力をどう使わせないか考える。技の威力だけじゃなく、ポケモンが動きやすいかどうか、天候がどう変わるかも戦いの一部だからな」

 

 

マームッシは悔しそうな表情の中にも、感心したような色を浮かべた。

 

 

「なるほど……。ただ強いポケモンを育てるだけじゃ、ここまでは戦えないってことか」

 

 

「ポケモンの強さを引き出すのも、トレーナーの仕事だから」

 

 

シンヤはそう答え、ハクリューの頭をもう一度撫でた。

 

 

「それに、今回の勝利はハクリューが相手の動きをよく見てくれたからだ。俺だけじゃ勝てなかったよ」

 

 

ハクリューは嬉しそうに目を細めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆観戦するトレーナーたち

 

 

その頃、客席ではレンがフィールドを見つめていた。

 

 

「雨を降らせたときは、かみなりを当てるためだけだと思ったけど……。羽が濡れるまで待っていたのね」

 

 

レンは感心したように微笑む。

 

 

「それに、相手が耐えることも考えていた。かみなりを一発当てて終わりじゃなくて、ひるんだところに次の技をつなげていたわ」

 

 

ラムも腕を組み、頷いた。

 

 

「坊ちゃま、相手が強くなることまで想定して、その先を考えていたんですね」

 

 

「シンヤは、相手の技だけでなく、フィールドの状態もよく見ていましたね」

 

 

レムが静かに言う。

 

 

レンはハクリューを見つめながら、嬉しそうに笑った。

 

 

「ハクリューも、シンヤの指示をよく理解しているみたい。二匹の息が合っているわ」

 

 

「坊ちゃまなら、これくらいできて当然ですけどね」

 

 

ラムはいつもの調子で言いながらも、フィールドから目を離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、別の場所で観戦していたタケシとカスミも、シンヤの戦いに注目していた。

 

 

「天候を利用するだけじゃなく、雨が弱まり始めたことまで見て、最後の攻撃につなげたのか。よく周囲を観察しているな」

 

 

タケシは腕を組み、感心したように頷く。

 

 

カスミも驚いた様子だった。

 

 

「バタフリーには羽が濡れることを利用して、スピアーには麻痺を組み合わせた。同じ雨でも、相手によって狙いを変えているのね」

 

 

「そういうことだな。相手の特徴に合わせて、戦い方を変えているんだ」

 

 

タケシは真剣な表情でフィールドを見つめた。

 

 

サトシは身を乗り出し、目を輝かせていた。

 

 

「すげえっ! 雨を降らせて、相手の羽を濡らして、かみなりを当てて! それで、相手がひるんだ隙に次の技を使うんだ!」

 

 

「サトシ、少し落ち着け」

 

 

タケシが苦笑しながら声をかける。

 

 

「だって、すごいじゃん! 技を強くするだけじゃなくて、相手が動きにくくなるようにしたり、攻撃を当てるタイミングを考えたり……。俺も、もっといろんな戦い方を試してみたい!」

 

 

カスミは呆れたように肩をすくめた。

 

 

「あなたの場合、思いついたらすぐに試そうとするから、まずはちゃんと考えてからにしなさいよ」

 

 

「分かってるって!」

 

 

そう答えるサトシだったが、その目はすでに次の戦いへの期待で輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

別の観戦場所では、シゲルもまた、シンヤの戦いを興味深そうに見つめていた。

 

 

「ふむ……。相手がこうそくいどうで速度を上げたとき、無理に追いかけようとはしなかった。攻撃に移る瞬間を見極めて回避し、その隙にでんじはを当てる。実に合理的だね」

 

 

シゲルは腕を組み、静かに分析する。

 

 

さらに別の場所では、リーフも試合を見守っていた。

 

 

「雨を降らせて終わりじゃない。雨が降り続けている間も、雨が上がる瞬間も、全部利用していた……」

 

 

リーフは小さく息を吐き、感心したように笑った。

 

 

「シンヤって、本当に戦いながらいろんなことを考えているのね。私も、もっと考えて戦わないと」

 

 

シンヤの戦いは、ただ勝利するためだけのものではなかった。

 

 

ポケモンの技を組み合わせ、相手の特徴を観察し、フィールドや天候の変化まで利用する。

 

 

その姿は、観戦していたトレーナーたちに、それぞれ新たな気づきを与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆次なる戦いへ

 

 

フィールド上では、シンヤがハクリューの状態をもう一度確認していた。

 

 

三体を相手にしたハクリューだったが、目立ったダメージはほとんどない。

 

 

「まだ元気そうだな。よし、次もこの調子でいこう」

 

 

「ハクリュウ!」

 

 

ハクリューは力強く鳴いた。

 

 

シンヤは笑みを浮かべながら、心の中で考える。

 

 

 

 

 

――いい戦いだった。

 

 

 

 

 

相手の特徴を見極め、技を組み合わせ、フィールドを利用する。

 

 

ハクリューも自分の指示に応えながら、状況をよく見て動いてくれた。

 

 

今回の戦いで、ハクリューがこれまでの特訓で身につけた力を、実戦でも発揮できることが分かった。

 

 

だが、リーグはまだ始まったばかりだ。

 

 

これから先には、さらに強いトレーナーたちが待ち受けている。

 

 

「よし、ハクリュー。次も油断せずにいこう」

 

 

「ハクリュウ!」

 

 

シンヤはハクリューとともに、次なる戦いを見据えた。

 

 

セキエイリーグ第一回戦。

 

 

シンヤはハクリュー一体で、マームッシの三体を撃破した。

 

 

そして、その戦い方は、リーグに集まった多くのトレーナーたちの記憶に刻まれ始めていた。

 

 

 

 

 

**技を知るだけでは足りない。相手を見て、環境を読み、勝つための一手を選ぶ。**

 

 

 

 

 

シンヤとハクリューの挑戦は、次の戦いへと続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハクリュー LV:52→LV:54

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