カントー地方、セキエイ高原。
ポケモントレーナーたちが長い旅の果てに集う、ポケモンリーグ本大会が、ついに開幕した。
予選を勝ち抜いたトレーナーたちが集まる会場は、朝から大勢の観客で埋め尽くされていた。
スタジアムの中央には、いくつものバトルフィールドが用意されている。草のフィールド、氷のフィールド、水のフィールド、岩のフィールド。それぞれに異なる環境が用意され、トレーナーたちはその条件に合わせた戦術を求められることになる。
観客席には、各地から集まったトレーナーの家族や友人、ポケモンバトルを愛する人々の姿があった。
その中には、シンヤの姿を探している者たちもいる。
「いよいよ始まったわね、セキエイリーグ!」
レンは客席からフィールドを見渡し、期待に満ちた表情を浮かべた。
隣では、ラムが腕を組み、レムが静かに微笑んでいる。
「坊ちゃまなら、予選で負けるなんてことはないでしょうけど」
「姉様、油断は禁物ですよ。リーグには強いトレーナーがたくさん集まっていますから」
「分かってるわよ、レム。だからこそ、どんな戦いを見せてくれるのか楽しみなの」
レンはフィールドへと視線を向けた。
シンヤがどのポケモンを選び、どんな戦い方をするのか。
それを見届けることが、彼女にとっても今回のリーグの大きな楽しみだった。
一方、別の観戦場所では、サトシがタケシ、カスミとともに試合開始を待っていた。
「なあ、俺たちの試合はもう終わったけど、シンヤの試合はいつなんだ?」
「順番が来れば呼ばれるさ。落ち着いて待て」
タケシが答えると、カスミも頷いた。
「せっかくのリーグなんだから、他のトレーナーの戦い方も見ておきなさいよ。参考になることもあるんだから」
「分かってるって! でも、シンヤがどんな戦い方をするのか、気になるんだよ!」
サトシは身を乗り出し、会場の案内板を見つめた。
シンヤがどんなポケモンを出すのか。
どんな技を使うのか。
そして、自分とは違う戦い方で、どこまで勝ち進むのか。
考えるだけで、胸が高鳴った。
◆第一回戦、最終試合
やがて、スタジアムに実況の声が響き渡る。
『さあ、皆さん! 第一回戦もいよいよ最後の試合となりました! これから行われるのは、水のフィールドでの一戦です!』
巨大なモニターに、二人のトレーナーの名前が表示された。
『まずは、挑戦者の紹介です! マサラタウン出身、シンヤ選手! 各地のポケモンたちと数多くのバトルを経験し、独自の戦術を磨いてきたトレーナーです!』
シンヤがフィールドへと歩み出る。
観客席から歓声が上がった。
シンヤは観客に軽く手を上げて応えながら、対戦相手の待つ反対側へと進んだ。
『対するは、虫ポケモンを専門とするトレーナー、マームッシ選手! 出身地はタマムシシティ! 虫ポケモンの特徴を生かした戦術と、状態変化を組み合わせた戦い方を得意としています!』
マームッシもフィールドへ姿を現し、観客へ向けて手を振った。
両者がフィールドの中央で向かい合う。
『今回の使用ポケモンは、両選手とも三体! ポケモンの交代は可能ですが、相手を見極める判断力も重要になります! それでは、選手の皆さん、準備はよろしいですか!』
「いつでもいいよ」
シンヤは落ち着いた声で答えた。
「こっちも準備はできている。虫ポケモンの強さ、存分に見せてやるさ!」
マームッシも自信たっぷりに言い返す。
審判が両者の確認を終え、旗を掲げた。
『それでは、第一回戦最終試合――バトル開始です!』
歓声がスタジアムを揺らした。
シンヤは腰のボールに手を伸ばす。
本来なら、最初から複数のポケモンを使い分け、相手の手持ちや戦術を探りながら戦うこともできる。
今回のルールでは三体まで使用できる。相手がどんなポケモンを繰り出すかを見ながら交代し、こちらに有利な状況を作ることも重要になる。
シンヤの手持ちには、カメックスもピカチュウもいる。
どちらも水のフィールドで戦ううえで、頼りになるポケモンだ。
それでも、シンヤは一つの考えを持っていた。
――今のハクリューは、どこまで戦える?
5のしまの別荘での特訓を経て、ハクリューを含む仲間たちは、それぞれの戦術や状況判断を磨いてきた。
相手の動きを読むこと。
フィールドを利用すること。
想定外の状況でも、自分で判断して対応すること。
シンヤ自身も、カンナとの特訓を通して、ポケモンにただ指示を出すだけでなく、状況に応じて作戦を変える重要性を改めて学んでいた。
そして、ハクリューは今、進化に近づきつつある。
もちろん、進化するかどうかはハクリュー自身の意思も大切だ。シンヤが勝手に急がせるつもりはない。
ただ、進化を目前にした今、これまでの特訓で身につけた力が、実戦でどこまで通用するのかを確かめたい。
リーグの初戦は、そのための絶好の機会だった。
――もちろん、無理をさせるつもりはない。
危険な状況になれば、すぐに交代する。
勝利を目指すことと、ポケモンの状態を見極めること。その両方を忘れるわけにはいかなかった。
「よし……。今回は、お前の力を見せてもらおうか」
シンヤはボールを投げた。
「行け、ハクリュー!」
白い光の中から、長い身体を持つ美しいドラゴンポケモンが姿を現す。
「ハクリュウッ!」
ハクリューは水面すれすれに浮かび、力強い鳴き声を上げた。
『シンヤ選手、最初のポケモンはハクリュー! 水のフィールドで、どんな戦いを見せてくれるのでしょうか!』
マームッシはハクリューを見て、少し意外そうな顔をした。
「最初からハクリューか。だが、虫ポケモン相手にドラゴンタイプがどこまで戦えるか、試させてもらおう!」
彼もボールを構えた。
「行け、モルフォン!」
紫色の大きな羽を持つモルフォンが、フィールドの上空へと舞い上がる。
『マームッシ選手の先発はモルフォン! 状態変化を得意とする虫・どくタイプのポケモンです!』
モルフォンは羽を震わせ、ハクリューを見下ろした。
シンヤはその様子をじっと見つめる。
モルフォンの動き、羽の開閉、目線の向き。
ハクリューも同じように相手を見ていた。
「それじゃ、始めようか」
シンヤは静かに告げた。
「ハクリュー、相手の技をよく見ておけ。最初は様子を見ながらいこう」
「ハクリュウ!」
『さあ、どちらが先に仕掛けるのか!』
マームッシが先に指示を飛ばした。
「モルフォン、ねんりき!」
モルフォンの目が光る。
見えない力がハクリューを包み込み、その身体を押さえつけようとした。
「ハクリュー、動きを止めるな!」
ハクリューは身体をくねらせながら、念力の圧力に抗う。
シンヤはモルフォンの技の性質を見極めていた。
遠距離から相手の動きを制限し、次の攻撃へつなげる。
ならば、相手に距離を保たせないことが重要になる。
「りゅうのはどう!」
ハクリューが口元に光を集め、竜のエネルギーを放つ。
モルフォンは上昇して回避したが、攻撃の圧力に押されて大きく軌道を変えた。
「なら、ねむりごなだ!」
モルフォンが羽を震わせ、眠りの粉を散布する。
細かな粉が雨粒と混ざり、ハクリューへと降り注いだ。
「ハクリュー、下がれ!」
ハクリューは素早く水面近くへと移動し、粉の広がる範囲から離れる。
粉は雨に濡れたフィールドへ落ちていった。
「今度はサイコキネシス!」
モルフォンの目が再び光り、今度は強い念力がハクリューを捉えた。
ハクリューの身体が空中で固定される。
「ハクリュー!」
シンヤは一瞬だけ考えた。
力任せに振りほどこうとすれば、相手の念力に押さえ込まれる可能性がある。
ならば、身体を固定された状況そのものを変えればいい。
「ハクリュー、フィールドの水を使え!」
「ハクリュウッ!」
ハクリューは身体をひねり、尾で水面を強く打った。
大きな水しぶきが上がり、念力で固定された身体の周囲に水が飛び散る。
その反動でハクリューの身体がわずかにずれ、念力の拘束が緩んだ。
「今だ、抜け出せ!」
ハクリューは身体をしならせ、拘束から抜け出した。
「よし! かみなり!」
ハクリューの身体から電撃が走る。
モルフォンは回避しようとしたが、雨の降るフィールドで放たれたかみなりを完全には避けきれなかった。
「モルフォン!」
電撃が直撃し、モルフォンの身体が大きく揺れる。
それでも、モルフォンは羽を震わせて持ちこたえた。
「まだだ! エアカッター!」
モルフォンが鋭い風の刃を放つ。
ハクリューは水面すれすれに移動し、風の刃を避けた。
そのまま、シンヤは次の指示を出す。
「りゅうのはどう!」
ハクリューの攻撃が再びモルフォンを捉えた。
モルフォンは空中で体勢を崩し、水面へと落下する。
審判が確認し、旗を上げた。
「モルフォン、戦闘不能! ハクリューの勝利!」
『まずはシンヤ選手! ハクリューで先制です! モルフォンの念力や状態変化をかわし、最後は攻撃の連続で勝利を収めました!』
シンヤはハクリューに笑いかける。
「よくやった。相手の動きを見て、ちゃんと対応できたな」
「ハクリュウ!」
ハクリューは元気よく鳴いた。
先ほどの戦いで、多少の疲労はある。しかし、大きなダメージは受けていなかった。
シンヤはその様子を確認しながら、次の相手を待った。
――ここまでは順調だ。
だが、相手もこのまま簡単に負けるつもりはないだろう。
マームッシはモルフォンをボールに戻すと、次のボールを取り出した。
「モルフォン、よくやった。だが、まだ終わりじゃない!」
彼はボールを投げた。
「バタフリー、頼んだぞ!」
白い光の中から、バタフリーが姿を現す。
『マームッシ選手の二体目はバタフリー! こちらも虫ポケモンですが、ちょうのまいによる能力強化を得意とするポケモンです!』
バタフリーは羽を広げ、ハクリューを見据えた。
「バタフリー、ちょうのまい!」
バタフリーが優雅に舞い始める。
淡い光が身体を包み、能力が高まっていく。
「ハクリュー、相手の動きを見ろ。まだ攻めるな!」
シンヤはすぐに攻撃を指示しなかった。
バタフリーがちょうのまいで能力を上げている間、ハクリューは距離を保ちながら動きを観察する。
マームッシはさらに指示を飛ばした。
「もう一度、ちょうのまいだ!」
バタフリーが再び舞う。
特攻、素早さが上がり、さらに特殊攻撃への耐久力も高まっていく。
「これで簡単には倒されないぞ!」
マームッシが自信を見せた。
シンヤはフィールドを見渡す。
水のフィールド。
そして、空中を舞うバタフリー。
「……ハクリュー、あまごい!」
ハクリューが空に向かって鳴き声を上げる。
上空の雲がさらに厚くなり、雨脚が強まった。
バタフリーの羽に雨粒が当たり始める。
最初は、羽の表面で弾かれるだけだった。
しかし、雨は降り続く。
羽の縁に水滴が並び、羽ばたくたびに細かな飛沫が散る。新しい雨粒が次々と重なり、羽の表面は徐々に濡れていった。
「バタフリー、雨なんか気にするな! エアカッター!」
バタフリーが羽を振るい、鋭い風の刃を放つ。
「右へ回避!」
ハクリューは水面を蹴るようにして横へ滑り、攻撃を避けた。
その間も、雨は降り続いている。
バタフリーの羽はすっかり濡れ、旋回するときの動きが少しずつ鈍くなっていた。
シンヤはその変化を見逃さない。
「……よし。羽の動きが遅くなってきたな」
マームッシが驚いたようにバタフリーを見上げる。
「何だと?」
「ならばバタフリー、もう一度ちょうのまい!」
バタフリーは指示に従い、再び舞おうとする。
だが、濡れた羽の動きは、先ほどよりも重くなっていた。
素早さそのものが上がっていても、羽ばたきや細かな方向転換に遅れが生じれば、その力を十分には発揮できない。
「ハクリュー、かみなり!」
ハクリューが空へ向かって電撃を放った。
雨雲の下を稲妻が走り、バタフリーに直撃する。
「バタフリー!」
激しい電撃が身体を包み込む。
しかし、ちょうのまいによって高められた特防が、かみなりの威力を軽減していた。
バタフリーは大きくよろめきながらも、どうにか空中に踏みとどまる。
「よし、耐えたぞ!」
マームッシが声を上げた。
だが、その直後。
「フ、フリィィ……!」
バタフリーの身体がびくりと震えた。
羽ばたこうとしていた羽が止まりかけ、頭ががくりと下がる。
**バタフリーは、かみなりの衝撃によってひるんでいた。**
身体が思うように動かず、空中で体勢を崩す。
「バタフリー、動け!」
マームッシが叫ぶ。
しかし、バタフリーはすぐには反応できない。
シンヤはその隙を逃さなかった。
「今だ、ハクリュー! りゅうのはどう!」
ハクリューの口元に青白い光が集まり、竜のエネルギーが一直線に放たれる。
「避けろ、バタフリー!」
マームッシの指示も間に合わなかった。
ひるんで動けないバタフリーに、りゅうのはどうが直撃する。
「フリーッ!」
バタフリーは水のフィールドへと落下し、大きな水しぶきを上げた。
審判が旗を上げる。
「バタフリー、戦闘不能! ハクリューの勝利!」
『シンヤ選手、二体目も撃破! 雨による環境変化と、かみなりのひるみを利用した見事な連続攻撃です!』
シンヤはハクリューに声をかけた。
「よくやった。相手の強化を真正面から打ち破る必要はなかったな」
ハクリューは嬉しそうに鳴いた。
マームッシはバタフリーをボールに戻し、悔しそうに息を吐く。
「ちょうのまいで強化したのに……。羽が濡れることまで利用されるとはな」
「バタフリーは強かったよ。だから、強化した能力を十分に発揮できない状況を作らせてもらったんだ」
シンヤは落ち着いて答えた。
「ただ攻撃を当てるだけじゃなくて、相手が動きにくい状況を作る。それも戦い方の一つだからな」
マームッシは最後のボールを手に取った。
「なるほど……。なら、最後は真正面から勝負させてもらう!」
彼がボールを掲げる。
「行け、スピアー!」
鋭い毒針を持つスピアーが姿を現し、羽を高速で震わせた。
ブブブブブッ!
スピアーは羽についた水気を振り払うように何度も震わせる。
雨が降り続いているため、身体が完全に乾くことはない。
「スピアー、こうそくいどう!」
スピアーの姿が一瞬で加速した。
フィールドの上を縦横無尽に飛び回り、その姿が残像のように見え始める。
「続けて、つるぎのまい!」
スピアーは高速移動を続けながら、身体の周囲に鋭い光をまとった。
攻撃力が高まり、速度と破壊力を兼ね備えた攻撃態勢が整う。
「これで準備はできた! いけるぞ、スピアー!」
マームッシは自信たっぷりに笑った。
しかし、シンヤはスピアーを目で追っていた。
ハクリューも同じだ。
スピアーは速い。だが、こうそくいどうを使って、ようやくハクリューと互角程度の速度に達しているようだった。
「……見えてるよ」
シンヤは静かに呟く。
スピアーが急旋回する直前。
高度を変える瞬間。
攻撃に移ろうとするわずかな間。
シンヤとハクリューは、その動きを見極めていた。
「スピアー! ドリルライナー!」
スピアーが羽を大きく震わせ、ハクリューへと突っ込んでくる。
身体をひねり、鋭いドリルのように回転しながら迫る。
つるぎのまいによって高められた攻撃力が、その突進に威力を加えていた。
「ハクリュー、回避!」
ハクリューは真横へ逃げるのではなく、細長い身体をしなやかにくねらせた。
逆巻くように身体をひねり、頭部を傾け、尾を水面すれすれに滑らせる。
スピアーのドリルライナーが、ハクリューの身体のすぐ脇を通り抜けた。
「何っ!?」
スピアーはそのまま突き抜け、攻撃を終えて身体を元の姿勢へ戻そうとする。
その瞬間。
「今だ! でんじは!」
ハクリューの身体から黄色い電気が放たれた。
体勢を立て直そうとしていたスピアーは、回避する間もなく電撃を受ける。
「スピアーッ!」
電撃が消えた後も、スピアーの身体には細かな電気が走っていた。
麻痺状態だ。
スピアーは羽を震わせ、再び加速しようとする。
しかし、身体がびくりと震え、思うように動けない。
さらに雨が降り続き、身体や羽は濡れたままだった。
羽ばたくたびに水滴が散り、麻痺による硬直が起こるたびに、狙った方向への移動が乱れる。
「くっ……! スピアー、こうそくいどうで距離を取れ!」
スピアーは指示に従おうとしたが、身体が思うように動かなかった。
そのとき、シンヤは空を見上げた。
雨脚が弱まり始めている。
先ほどまで強く降っていた雨が、少しずつ小降りになっていた。
「……そろそろだな」
シンヤは空の変化を確かめる。
「あまごいの効果が切れ始めてる」
雨が上がれば、戦況も変わる。
その変化を見極めたシンヤは、ハクリューに指示を飛ばした。
「ハクリュー、かみなり!」
ハクリューが空へ向かって鳴き声を上げる。
雨雲の間から、強烈な稲妻が走った。
「スピアー、避けろ!」
マームッシが叫ぶ。
スピアーは横へ逃れようとするが、麻痺による硬直で動き出しが遅れた。
かみなりが直撃する。
「スピーッ!?」
激しい電撃が身体を包み込んだ。
スピアーは苦しそうに声を上げながらも、必死に耐え抜く。
電撃が消えた後、スピアーは大きくよろめきながら、なんとか空中に踏みとどまった。
「よく耐えた、スピアー!」
マームッシが声を上げる。
だが、シンヤは空を見上げていた。
雨は、ほとんど上がっている。
水面に落ちる雨粒が減り、やがて最後の一滴が波紋を作った。
雨が止んだ。
シンヤはすぐさま次の指示を飛ばす。
「ハクリュー、りゅうのはどう!」
ハクリューの口元に青白い光が集まる。
次の瞬間、竜のエネルギーが一直線に放たれた。
「スピアー、避けろ!」
マームッシが叫ぶ。
しかし、スピアーは麻痺と連続攻撃によるダメージで、思うように動けなかった。
羽を震わせようとするものの、身体がわずかに硬直し、回避が間に合わない。
りゅうのはどうが直撃する。
「スピーッ!」
スピアーは大きく吹き飛ばされ、水のフィールドへと落下した。
水面に大きな水しぶきが上がる。
そして、スピアーはそのまま動かなくなった。
審判がフィールドを確認し、旗を上げる。
「スピアー、戦闘不能! よって、この試合、勝者シンヤ!」
スタジアムが大きな歓声に包まれた。
『勝者、シンヤ選手! ハクリュー一体で、マームッシ選手の三体を撃破しました!』
シンヤはハクリューのもとへ歩み寄り、その頭を優しく撫でた。
「よくやった、ハクリュー。三体相手によく頑張ったな」
「ハクリュウ!」
ハクリューは元気よく鳴いた。
モルフォン、バタフリー、スピアー。
三体それぞれの特徴に合わせ、シンヤは戦術を変え続けた。
モルフォンには、相手の拘束をフィールドの水を利用して抜け出し、攻撃を重ねた。
バタフリーには、雨で羽が濡れる状況を作り、かみなりによるひるみから、りゅうのはどうへとつないだ。
スピアーには、動きを見極めて攻撃を回避し、でんじはで動きを封じたうえで、天候の変化を利用して決着をつけた。
ただ技を当てるのではなく、相手の行動や環境の変化まで考えた戦いだった。
マームッシはスピアーをボールへ戻し、シンヤへ向き直った。
「まいったな……。こうそくいどうとつるぎのまいで強化したスピアーを、ここまで手玉に取られるとは」
「スピアーは強かったよ。だから、真正面からぶつかるより、動きを見て隙を狙うことにしたんだ」
シンヤは落ち着いて答えた。
「相手が強化するなら、その強化された能力をどう使わせないか考える。技の威力だけじゃなく、ポケモンが動きやすいかどうか、天候がどう変わるかも戦いの一部だからな」
マームッシは悔しそうな表情の中にも、感心したような色を浮かべた。
「なるほど……。ただ強いポケモンを育てるだけじゃ、ここまでは戦えないってことか」
「ポケモンの強さを引き出すのも、トレーナーの仕事だから」
シンヤはそう答え、ハクリューの頭をもう一度撫でた。
「それに、今回の勝利はハクリューが相手の動きをよく見てくれたからだ。俺だけじゃ勝てなかったよ」
ハクリューは嬉しそうに目を細めた。
◆観戦するトレーナーたち
その頃、客席ではレンがフィールドを見つめていた。
「雨を降らせたときは、かみなりを当てるためだけだと思ったけど……。羽が濡れるまで待っていたのね」
レンは感心したように微笑む。
「それに、相手が耐えることも考えていた。かみなりを一発当てて終わりじゃなくて、ひるんだところに次の技をつなげていたわ」
ラムも腕を組み、頷いた。
「坊ちゃま、相手が強くなることまで想定して、その先を考えていたんですね」
「シンヤは、相手の技だけでなく、フィールドの状態もよく見ていましたね」
レムが静かに言う。
レンはハクリューを見つめながら、嬉しそうに笑った。
「ハクリューも、シンヤの指示をよく理解しているみたい。二匹の息が合っているわ」
「坊ちゃまなら、これくらいできて当然ですけどね」
ラムはいつもの調子で言いながらも、フィールドから目を離さなかった。
一方、別の場所で観戦していたタケシとカスミも、シンヤの戦いに注目していた。
「天候を利用するだけじゃなく、雨が弱まり始めたことまで見て、最後の攻撃につなげたのか。よく周囲を観察しているな」
タケシは腕を組み、感心したように頷く。
カスミも驚いた様子だった。
「バタフリーには羽が濡れることを利用して、スピアーには麻痺を組み合わせた。同じ雨でも、相手によって狙いを変えているのね」
「そういうことだな。相手の特徴に合わせて、戦い方を変えているんだ」
タケシは真剣な表情でフィールドを見つめた。
サトシは身を乗り出し、目を輝かせていた。
「すげえっ! 雨を降らせて、相手の羽を濡らして、かみなりを当てて! それで、相手がひるんだ隙に次の技を使うんだ!」
「サトシ、少し落ち着け」
タケシが苦笑しながら声をかける。
「だって、すごいじゃん! 技を強くするだけじゃなくて、相手が動きにくくなるようにしたり、攻撃を当てるタイミングを考えたり……。俺も、もっといろんな戦い方を試してみたい!」
カスミは呆れたように肩をすくめた。
「あなたの場合、思いついたらすぐに試そうとするから、まずはちゃんと考えてからにしなさいよ」
「分かってるって!」
そう答えるサトシだったが、その目はすでに次の戦いへの期待で輝いていた。
別の観戦場所では、シゲルもまた、シンヤの戦いを興味深そうに見つめていた。
「ふむ……。相手がこうそくいどうで速度を上げたとき、無理に追いかけようとはしなかった。攻撃に移る瞬間を見極めて回避し、その隙にでんじはを当てる。実に合理的だね」
シゲルは腕を組み、静かに分析する。
さらに別の場所では、リーフも試合を見守っていた。
「雨を降らせて終わりじゃない。雨が降り続けている間も、雨が上がる瞬間も、全部利用していた……」
リーフは小さく息を吐き、感心したように笑った。
「シンヤって、本当に戦いながらいろんなことを考えているのね。私も、もっと考えて戦わないと」
シンヤの戦いは、ただ勝利するためだけのものではなかった。
ポケモンの技を組み合わせ、相手の特徴を観察し、フィールドや天候の変化まで利用する。
その姿は、観戦していたトレーナーたちに、それぞれ新たな気づきを与えていた。
◆次なる戦いへ
フィールド上では、シンヤがハクリューの状態をもう一度確認していた。
三体を相手にしたハクリューだったが、目立ったダメージはほとんどない。
「まだ元気そうだな。よし、次もこの調子でいこう」
「ハクリュウ!」
ハクリューは力強く鳴いた。
シンヤは笑みを浮かべながら、心の中で考える。
――いい戦いだった。
相手の特徴を見極め、技を組み合わせ、フィールドを利用する。
ハクリューも自分の指示に応えながら、状況をよく見て動いてくれた。
今回の戦いで、ハクリューがこれまでの特訓で身につけた力を、実戦でも発揮できることが分かった。
だが、リーグはまだ始まったばかりだ。
これから先には、さらに強いトレーナーたちが待ち受けている。
「よし、ハクリュー。次も油断せずにいこう」
「ハクリュウ!」
シンヤはハクリューとともに、次なる戦いを見据えた。
セキエイリーグ第一回戦。
シンヤはハクリュー一体で、マームッシの三体を撃破した。
そして、その戦い方は、リーグに集まった多くのトレーナーたちの記憶に刻まれ始めていた。
**技を知るだけでは足りない。相手を見て、環境を読み、勝つための一手を選ぶ。**
シンヤとハクリューの挑戦は、次の戦いへと続いていく。
ハクリュー LV:52→LV:54