『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第10話 狩る者

ハノイの夜は、すでに深まっていた。

 

ヴァン・ティエンたちを乗せた観光バスは、ホアンキエム湖周辺を離れ、ゆっくりと走っていた。

 

街の明かりが、車窓の向こうへ少しずつ遠ざかっていく。

 

車内では、みんな一日中歩き回って疲れ果てていた。

 

何人かはすでに眠り込んでいる。

 

残った人たちは、まだ楽しそうに話をしていた。

 

ミンはヴァン・ティエンの隣に座っていた。

 

しばらく彼の顔を見つめてから、静かに尋ねる。

 

「ティエン兄ちゃん……」

 

「さっき、どうして僕にバ・トゥーさんたちへ旧市街でのことを話させなかったの?」

 

ヴァン・ティエンは少しだけ振り向いた。

 

「……このことは、みんなに話さないほうがいいと思ったんだ」

 

ミンは頭をかく。

 

「どうして?」

 

「話したって、別に問題ないんじゃない?」

 

ヴァン・ティエンは声を落とした。

 

「……とにかく、みんなを心配させたくないんだ」

 

ミンも納得したように頷いた。

 

そして、少し考えてから尋ねる。

 

「でも……」

 

「さっきの誘拐犯、なんか変だったよ」

 

ヴァン・ティエンが振り向く。

 

「何か見たのか?」

 

ミンは頭をかいた。

 

「僕にも、よく分からないんだけど……」

 

「あの誘拐犯が僕たちの横を走っていった時……」

 

「一瞬だけ、あいつの目が見えたんだ」

 

「……赤かった」

 

ヴァン・ティエンは数秒間、黙り込んだ。

 

だが、やがて小さく笑う。

 

「たぶん、見間違いだよ」

 

「その時、周りの照明がたまたま目に反射したんじゃないかな」

 

ミンも、それならあり得ると思った。

 

「そっか……」

 

「じゃあ、僕が本当に見間違えただけなのかも」

 

観光バスは、そのままハノイの明るい街を走り続けていた。

 

同じ頃――

 

ハノイの、とある路地。

 

暗闇の中に、一つの人影が立っていた。

 

黒い装甲。

 

巨大な身体。

 

そして――

 

右腕には、巨大な金属製のハンマー。

 

赤い瞳が、暗闇の中で不気味に輝いている。

 

段鉄だった。

 

彼は手に持った実験装置を見つめていた。

 

装置から青いホログラム画面が展開される。

 

そこには、ハノイ全域の地図が映し出されていた。

 

段鉄は、街全体の状況を確認している。

 

その時――

 

装置から機械音声が響いた。

 

「警告」

 

「高レベルの適合エネルギーを検出」

 

段鉄が目を細める。

 

「適合エネルギー……だと?」

 

ホログラム画面に、一つの光点が表示された。

 

その光点は――

 

ヴァン・ティエンたちが乗っている観光バスの位置だった。

 

段鉄の目つきが、一瞬で冷たくなる。

 

「……なるほど」

 

「お前だったのか」

 

「俺の偵察部隊を全滅させた奴は……」

 

彼は拳を強く握りしめる。

 

「実に……面白い」

 

夜風が街を吹き抜ける。

 

次の瞬間――

 

段鉄の姿は、一瞬で消えた。

 

その頃。

 

バスの中。

 

ヴァン・ティエンが突然、目を開いた。

 

首にかかった十字架のペンダントが、熱を帯びている。

 

彼は小さく眉をひそめた。

 

背筋を――

 

何か得体の知れない危険な感覚が走り抜ける。

 

ヴァン・ティエンは車窓の外へ目を向けた。

 

遠くには、旧市街の古い家々の屋根が暗闇の中を流れていく。

 

しかし――

 

ほんの一瞬。

 

誰かに見られているような感覚がした。

 

「……」

 

ヴァン・ティエンは、ゆっくりと拳を握る。

 

同じ頃――

 

高い建物の屋上。

 

段鉄が立っていた。

 

赤い瞳が、走り続ける観光バスを見下ろしている。

 

手に持った装置が、強い光を放つ。

 

「目標を確認……」

 

「高レベルエネルギー」

 

段鉄は冷たい笑みを浮かべた。

 

「まさか……こんなに早く見つけられるとはな」

 

カチッ……

 

彼の金属製の腕から、小さな金属音が響く。

 

段鉄は屋上から飛び降りた。

 

巨大な身体が、暗い路地へ向かって落下していく。

 

しかし――

 

地面へ激突する直前。

 

その姿が、消えた。

 

段鉄が飛び降り、姿を消した瞬間。

 

巨大なハンマーが空気をかすかに切り裂く。

 

キィン……

 

金属音とともに、薄い衝撃波が周囲へ広がった。

 

路地にいた野良猫たちは、一斉に毛を逆立てる。

 

「フーッ!」

 

猫たちは怯えたように暗闇へ逃げていった。

 

一方――

 

観光バスは、ゆっくりとホテルの前へ停車した。

 

「着いたぞー!」

 

運転手の声が響く。

 

みんなが次々とバスから降りていく。

 

バ・トゥーは降りながら、大きく伸びをした。

 

「もう、今日は歩きすぎて足が棒になったわ!」

 

コ・バーが笑う。

 

「何言ってるのよ」

 

「明日もまだ観光するんだからね!」

 

「ええー!」

 

「まだ歩くの!?」

 

みんなが笑いながらホテルへ向かっていく。

 

誰も気づいていなかった。

 

通りの遥か先。

 

暗闇の中に――

 

巨大な人影が立っていることを。

 

赤い瞳が、静かにヴァン・ティエンを見つめていた。

 

段鉄だった。

 

手に持った装置が、さらに強く輝き始める。

 

「目標を確認……」

 

「エネルギー適合率……92パーセント」

 

段鉄が、口元をわずかに吊り上げる。

 

「……ようやく見つけたぞ」

 

その頃。

 

ヴァン・ティエンがバスから降りる。

 

その瞬間――

 

首にかかった十字架のペンダントが、突然激しく震えた。

 

ドクン――

 

冷たい殺気が、背筋を駆け抜ける。

 

ヴァン・ティエンは、すぐに振り返った。

 

視線の先――

 

通りの奥。

 

だが、そこには何もない。

 

ただ――

 

暗闇だけが広がっている。

 

「……」

 

ヴァン・ティエンは、しばらくその場所を見つめていた。

 

そして、ゆっくりと眉をひそめる。

 

胸の奥に――

 

はっきりとした感覚が生まれていた。

 

「……敵が……」

 

「すぐ近くにいる」

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