『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第78話 家族の味と約束 (下)

その夜。

 

ヒュエン・ゴックはヴァン・ティエンの部屋へ入った。

 

彼女はベッドまで歩いていき――

 

そこへ腰を下ろす。

 

そして――

 

そっとヴァン・ティエンの髪を撫でた。

 

小さな声で呟く。

 

「やっぱり……まだ私のことを思い出してないんだね」

 

「どうしてお兄ちゃんが……」

 

「私との記憶も……あの人との記憶も……全部忘れてしまったのか」

 

「私には分からない」

 

「でも――」

 

「一つだけ、確信してることがある」

 

「お兄ちゃんは……きっと、もうすぐ思い出す」

 

「だって私は、ずっと待ってるから」

 

「私だけじゃない」

 

「他のお姉ちゃんたちも……ずっと待ってる」

 

その時。

 

彼女の腕が――

 

少しずつ、ぼんやりと透け始めた。

 

だが――

 

すぐに元へ戻る。

 

ヒュエン・ゴックは自分の手を見る。

 

「……もう、時間がないみたい」

 

彼女はヴァン・ティエンを見る。

 

「どうか……」

 

「お兄ちゃんが早く思い出してくれますように」

 

そう言うと――

 

彼女は小さく微笑む。

 

そして、ゆっくりと身体を屈め――

 

ヴァン・ティエンの額へ、そっとキスをした。

 

「おやすみ……お兄ちゃん」

 

少女はヴァン・ティエンの隣へ横になる。

 

そして彼の腕を抱きしめ――

 

ゆっくりと眠りへ落ちていった。

 

* * *

 

広大な宇宙の彼方。

 

黒い戦艦の艦内。

 

治療室の外では――

 

兵士たちが、ずっと待っていた。

 

長い時間が過ぎた後。

 

治療室の扉が――

 

ゆっくりと開く。

 

そして中から――

 

ベリオスが歩いて出てきた。

 

彼の全身は、青い液体に包まれていた。

 

その液体は少しずつ身体へ染み込んでいく。

 

ビー玉によって傷ついた顔も――

 

完全に治療されていた。

 

兵士たちは一斉に頭を下げる。

 

ベリオスは軽く手を振る。

 

すると、一人の兵士が前へ出る。

 

「完全な治療が終わって、おめでとうございます」

 

「これで、また戻ってヴァン・ティエンを殺せますね」

 

ベリオスは軽く腕を回す。

 

「焦る必要はない」

 

「奴もかなりの傷を負っている」

 

「すぐには回復しないだろう」

 

「しかし――」

 

「今こそ奴を殺す絶好の機会では?」

 

ベリオスはその言葉を聞いた瞬間――

 

怒りに満ちた目を兵士へ向ける。

 

次の瞬間。

 

ドン!!

 

凄まじい圧力が発生し――

 

兵士の身体が強く地面へ押しつけられた。

 

「ぐあああっ!!」

 

「指揮官!」

 

「申し訳ありません!」

 

「私が間違っていました!」

 

「どうか命だけは……!」

 

身体を押しつけていた圧力が――

 

徐々に消えていく。

 

兵士は地面に倒れたまま、荒い息を吐く。

 

ベリオスは歩いていき――

 

その兵士の前へ座る。

 

「私はな……」

 

「自分が戦った相手が傷ついている時に、手を出す奴が一番嫌いなんだ」

 

「お前は――」

 

「私が一番嫌っている人間になれと言っているのか?」

 

「申し訳ありません……」

 

「私が間違っていました」

 

ベリオスは立ち上がる。

 

そして操縦室のガラス窓の前まで歩いていく。

 

両手を背中で組み――

 

星空を見つめる。

 

「最後の段階の準備はどうなっている?」

 

一人の兵士が近づいて答える。

 

「閣下、最後の段階は現在も進行中です」

 

「ですが……もう少し時間が必要です」

 

「急いで準備しろ」

 

「私は、これ以上待つつもりはない」

 

「はっ!」

 

「承知しました!」

 

「最後の準備が終わったら――」

 

「我々はもう一度、地球へ降りる」

 

「今度こそ、ヴァン・ティエンを殺す」

 

「そして奴を殺した後――」

 

「この惑星への侵略を開始する」

 

兵士たちが一斉に叫ぶ。

 

「了解!!」

 

* * *

 

翌朝。

 

タイ・ミー地区。

 

鳥の鳴き声が響く。

 

太陽も東の空から、ゆっくりと昇り始めていた。

 

部屋の中。

 

扉の隙間から差し込んだ朝の光が――

 

ヴァン・ティエンの顔を照らす。

 

眩しさに、彼は目を細める。

 

そして――

 

ゆっくりと目を開いた。

 

目の前には――

 

見慣れた天井。

 

「ここは……」

 

「俺の家……?」

 

ヴァン・ティエンは腕を動かそうとする。

 

だが――

 

動かない。

 

何かに押さえつけられているような感覚。

 

彼はゆっくりと顔を横へ向ける。

 

すると――

 

ヒュエン・ゴックが眠っていた。

 

彼女の腕は、ヴァン・ティエンの腕をしっかりと抱きしめている。

 

ヴァン・ティエンは驚く。

 

「ヒュエン・ゴック……」

 

「なんで、こいつがここにいるんだ?」

 

その物音で――

 

ヒュエン・ゴックが目を覚ます。

 

少女は眠そうに目をこする。

 

そして――

 

目の前にいるヴァン・ティエンが起きていることに気づく。

 

彼女は小さく笑った。

 

「おはよう、お兄ちゃん」

 

「俺はお前のお兄ちゃんじゃないだろ……」

 

「いや、それより――」

 

「なんでお前が俺の部屋にいるんだ?」

 

ヒュエン・ゴックはゆっくり身体を起こす。

 

寝起きで、髪はすっかり乱れていた。

 

「お兄ちゃんの両親が、私を泊めてくれたの」

 

「俺の両親が……?」

 

「俺の部屋で寝ろって言ったのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

ヴァン・ティエンは、何が何だか分からない。

 

その時。

 

外から母親が部屋へ入ってくる。

 

ヴァン・ティエンが目を覚ましているのを見ると――

 

母親は、とても嬉しそうな顔をした。

 

「やっと起きたのね!」

 

「昨日はお父さんとお母さん、本当に心配したんだから」

 

「このゴックちゃんが連れて帰ってきてくれなかったら……」

 

「今頃、あんたがどこで倒れてたか分からなかったわよ」

 

「ごめん……」

 

「いいのよ」

 

「無事に帰ってきたんだから、それで十分」

 

「それにしても……」

 

「誰があんたをあんなに殴ったのよ」

 

「私が知ったら、その子の首をへし折ってやるわ」

 

「殴られた?」

 

「だってゴックちゃんが、誰かに殴られたって言ってたじゃない」

 

「違うの?」

 

「ああ……」

 

「うん、そうだよ」

 

「近所の何人かに殴られたんだ」

 

「それを聞いたら、余計腹が立つじゃない!」

 

「まあいいわ」

 

「二人とも、顔を洗って口をゆすいできなさい」

 

「それから下へ来て、ご飯を食べるのよ」

 

「うん、分かった」

 

母親はそう言って部屋を出ていく。

 

ヴァン・ティエンとヒュエン・ゴックは顔を見合わせる。

 

そして――

 

二人とも小さく笑った。

 

その後。

 

二人はベッドから起き上がり、外へ出る。

 

兄妹のように並んで、口をゆすぎ、顔を洗う。

 

それから二人は居間へ戻った。

 

食卓の上には――

 

カボチャのスープ。

 

揚げたティラピア。

 

茹でた空心菜。

 

そして――

 

一杯のヌクマム。

 

ヴァン・ティエンとヒュエン・ゴックは席に座る。

 

母親が口を開く。

 

「ヒュエン・ゴック」

 

「家にいると思って、遠慮せず食べなさいね」

 

「はい」

 

ヒュエン・ゴックは箸で魚を一切れ取る。

 

そして――

 

一口。

 

サクッ!!

 

外側はカリッとしていて――

 

中の身は柔らかい。

 

ヒュエン・ゴックの目が輝く。

 

「おいしい……!」

 

「こんなに美味しい魚を食べたの……初めてです」

 

ヴァン・ティエンは魚を一切れ取る。

 

そして――

 

ヌクマムの入った小皿につける。

 

そのままヒュエン・ゴックの皿へ入れる。

 

「じゃあ、こっちも食べてみろよ」

 

ヒュエン・ゴックは魚を持ち上げて――

 

一口食べる。

 

その瞬間。

 

「……!!」

 

目を大きく見開く。

 

手で口を覆う。

 

「なに、この味……!」

 

「さっき食べた魚は、外がカリカリしてて、中が柔らかかったけど……」

 

「この魚は――」

 

「しょっぱくて……」

 

「少し辛くて……」

 

「口の中いっぱいに味が広がる……!」

 

彼女は目の前にある赤いタレを見る。

 

「これは……何?」

 

ヴァン・ティエンが答える。

 

「ああ、それはヌクマムだ」

 

「それから、お前が感じた辛さは唐辛子だな」

 

「こんなタレが……」

 

「こんなに美味しいなんて……」

 

少女は驚きながら――

 

今度はカボチャのスープをスプーンですくう。

 

そして――

 

一口飲む。

 

すると――

 

今度は、さらに大きく目を見開いた。

 

「この……優しい甘さは何……?」

 

彼女はそのままカボチャを一切れ口に入れる。

 

そして――

 

「えっ……!」

 

「これ……!」

 

「すごく美味しい……!」

 

「私、こんなの食べたの初めて!」

 

「それはカボチャよ」

 

「まさか……」

 

「お兄ちゃんのお母さん、こんなに料理が上手だったんだ……」

 

ヴァン・ティエンの母親は、それを聞いて笑う。

 

「そんなことないわよ」

 

「普通の料理よ」

 

「でも……」

 

「本当に美味しいです!」

 

「そう言ってくれるなら、嬉しいわ」

 

「ありがとうね」

 

その後――

 

五人は一緒に食卓を囲み。

 

食事をしながら――

 

笑い。

 

話し。

 

そして――

 

楽しそうな声が、家の中いっぱいに響いていた。

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