『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第81話 お兄ちゃん……

ヴァン・ティエンは身体を起こし――

 

目の前の敵へ向かって駆け出した。

 

ベリオスは、軽く手を前へかざす。

 

すると――

 

ヴァン・ティエンの周囲に、電磁の障壁が出現した。

 

次の瞬間。

 

四枚の電磁シールドが同時に展開され――

 

透明な正方形の箱を作り上げる。

 

ヴァン・ティエンの動きが――

 

突然、遅くなった。

 

ベリオスが軽く手を動かす。

 

すると――

 

四隅から青い電流が、同時に放たれた。

 

激しい電流が、真っ直ぐヴァン・ティエンの身体へ突き刺さる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

空気を引き裂くような叫び声。

 

掠れ――

 

そして、極限の苦痛に満ちた声だった。

 

ヴァン・ティエンの全身が硬直する。

 

そして――

 

青い閃光が身体を包むたびに、激しく痙攣した。

 

電流はあまりにも強く――

 

筋肉の繊維が、今にも千切れそうなほど張り詰める。

 

歯を強く噛み締め――

 

歯茎から血が滲み出る。

 

手を離したい。

 

倒れたい。

 

しかし――

 

電流は、目に見えない悪魔の手のように、彼の身体をその場へ縛りつけていた。

 

何千ボルトもの熱量が、絶え間なく肉体へ流れ込んでいく。

 

肩や焼け焦げた指先から――

 

白い煙が、もうもうと立ち上り始める。

 

青白くなった皮膚の下では――

 

血管が浮かび上がり、まるで陶器に走るひび割れのように赤く浮かんでいた。

 

ヴァン・ティエンの叫び声が――

 

少しずつ小さくなる。

 

そして――

 

喉の奥から漏れる、掠れた呻き声へと変わっていった。

 

意識が――

 

完全に、苦痛の真っ白な世界へ沈んでいく。

 

その意識が消えていく直前――

 

首にかかったペンダントに――

 

一本の小さな亀裂が入った。

 

その時――

 

外に立っていたベリオスが、もう一度軽く手を振る。

 

すると――

 

中の電流が、徐々に弱まっていき――

 

そして、消えた。

 

見えない圧力が消えた瞬間。

 

ヴァン・ティエンの身体が――

 

地面へ崩れ落ちた。

 

全身の感覚は――

 

完全に麻痺していた。

 

身体中から黒い煙が立ち上り――

 

空へと消えていく。

 

両手も両足も――

 

激しく震えている。

 

ヴァン・ティエンは地面へうつ伏せに倒れた。

 

目は大きく開いたまま――

 

前を見つめている。

 

しかし――

 

焦点は完全にぼやけていた。

 

目の前の景色が――

 

ぐるぐると回り、歪んでいく。

 

ヴァン・ティエンの胸が激しく上下する。

 

喉からは――

 

乾ききった、途切れ途切れの荒い呼吸が漏れる。

 

彼は震える両腕を地面へ押しつける。

 

浮き上がった血管が赤くなり――

 

力を込めることで、血が滲み出ていた。

 

そして――

 

ゆっくり。

 

少しずつ。

 

痛みに耐えながら、背中を真っ直ぐ起こして立ち上がろうとする。

 

しかし――

 

まだ立ち上がる前に。

 

突然――

 

見えない圧力が上から襲いかかった。

 

「ドン!!」

 

ヴァン・ティエンの身体が、地面へ押し潰される。

 

凄まじい圧力によって――

 

地面そのものが大きくへこんだ。

 

「アアアアアアアアアアアア!!!」

 

彼の叫び声が――

 

一面の田んぼへ響き渡る。

 

ベリオスが、ゆっくりと手を下ろす。

 

すると――

 

見えない圧力が消えた。

 

ヴァン・ティエンは地面に倒れたまま――

 

呼吸が、少しずつ弱くなっていく。

 

ベリオスは、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

 

歩きながら――

 

口を開いた。

 

「安心しろ。」

 

「お前を、そんな簡単には死なせない」

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの目の前まで歩いてくる。

 

ベリオスは足を上げ――

 

彼の頭を踏みつけた。

 

「しばらくお前を苦しめてから――」

 

「その後で殺してやる」

 

ベリオスの汚れた靴底が――

 

ヴァン・ティエンの顔を冷たい地面へ強く押しつける。

 

極限の屈辱。

 

胸が張り裂けそうなほどの怒り。

 

しかし――

 

生死の境界。

 

筋肉は完全に麻痺している。

 

その時――

 

突然。

 

胸の奥から――

 

温かい電流が流れ出した。

 

首にかかった――

 

あのペンダント。

 

それが――

 

激しく震えていた。

 

まるで――

 

主人の怒りと危険を感じ取ったかのように。

 

ベリオスは近すぎた。

 

そして――

 

彼がヴァン・ティエンの頭を踏みつけている足は――

 

首元で光を放つペンダントのすぐ近くにあった。

 

わずかな光だった。

 

それでも――

 

十分だった。

 

立ち上がる必要はない。

 

腕を振る必要もない。

 

ヴァン・ティエンは――

 

残された全ての力を、一つに集中させた。

 

喉の奥から――

 

低く唸るように叫ぶ。

 

「オオオオオオオオオオオ!!!」

 

その瞬間――

 

ペンダントから放たれていた光が――

 

突然、大爆発した。

 

「ドォン!!!!」

 

光は、凄まじい衝撃波へと変わり――

 

下から真っ直ぐベリオスを襲った。

 

距離が近すぎた。

 

ベリオスは――

 

完全に反応できなかった。

 

爆発の衝撃が、彼の足を弾き飛ばす。

 

そして――

 

黒いエネルギーの奔流が、真正面からベリオスの身体へ直撃した。

 

「ぐああああっ!!」

 

ベリオスが苦痛の叫びを上げる。

 

身体が大きくよろめき――

 

数歩、後ろへ下がった。

 

そして――

 

危うく膝をつきそうになる。

 

頭への圧力が消えた。

 

ヴァン・ティエンはすぐに身体を横へ転がし――

 

激しく咳き込む。

 

そして――

 

必死に空気を吸い込んだ。

 

間一髪。

 

どうにか、受け身の状態から抜け出した。

 

ベリオスは数歩後ろへ下がり――

 

そこで止まった。

 

先ほどの力を受けた脚には――

 

まだ痛みが残っている。

 

「ふむ……」

 

その隙を――

 

ヴァン・ティエンは逃さなかった。

 

すぐに両手を地面へつき――

 

全身の力を腕へ集中させる。

 

片脚を曲げ――

 

もう一方の脚を支えにする。

 

そして――

 

腕と脚の両方へ力を込め――

 

身体を起こす。

 

ようやく立ち上がった。

 

しかし――

 

身体は数歩、ふらついた。

 

ヴァン・ティエンは全身へ力を込め――

 

なんとかバランスを保つ。

 

しばらくして――

 

ようやく、しっかりと立つことができた。

 

口元から――

 

血が一滴、二滴と流れ落ちる。

 

それでも――

 

その目に宿る決意は消えていなかった。

 

彼は――

 

目の前の敵を真っ直ぐ見つめる。

 

それを見たベリオスは――

 

軽く拍手した。

 

「まさか――」

 

「さっきの私の攻撃を受けて、まだ立ち上がれるとはな」

 

「それなら――」

 

「もう少し遊ぶとしよう」

 

ヴァン・ティエンは――

 

腕へ力を込める。

 

しかし――

 

手はまだ麻痺していた。

 

強く力を込めると――

 

腕全体が震える。

 

首元のペンダントは――

 

まだ光を放っていた。

 

そして――

 

小さく、一度だけ震える。

 

すると――

 

ペンダントから青い光が流れ出し――

 

ヴァン・ティエンの全身へ広がっていく。

 

そして――

 

身体全体を包み込んだ。

 

身体の痺れと焼けるような痛みが――

 

ほんの少しだけ弱まった。

 

だが――

 

まだ痺れは残っている。

 

ただ一時的に――

 

その感覚が少し和らいだだけだった。

 

ヴァン・ティエンは――

 

ベリオスを見つめる。

 

そして――

 

再び駆け出した。

 

しかし――

 

今回の速度は、以前ほど速くなかった。

 

拳をベリオスへ向けて放つ。

 

だが――

 

その拳は遅い。

 

そして――

 

力も、以前ほど強くない。

 

ベリオスは軽々と受け止めた。

 

そして――

 

手から電流を流す。

 

青い電流が――

 

ヴァン・ティエンの身体へ真っ直ぐ流れ込んだ。

 

「バチバチッ!!」

 

ヴァン・ティエンの五本の指が――

 

一瞬で縮こまる。

 

腕を引くことができない。

 

電流があまりにも強く――

 

身体が高い周波数で激しく震え始める。

 

関節が――

 

「バキバキッ……!!」

 

今にも折れそうな音を立てる。

 

ヴァン・ティエンが叫ぶ暇さえない。

 

ベリオスは――

 

軽く脚を振り上げた。

 

そして――

 

強烈な蹴りをヴァン・ティエンの脇腹へ叩き込む。

 

「バキッ!!」

 

身体が大きく折れ曲がる。

 

内部の肋骨が――

 

粉々に砕けたような感覚。

 

ヴァン・ティエンの身体は、そのまま遠くへ吹き飛び――

 

近くの木の根元へ激突した。

 

身体が倒れそうになった、その瞬間――

 

彼は片手で木の幹を強く掴んだ。

 

指から――

 

血が滲む。

 

強く掴みすぎたせいで――

 

粗く硬い樹皮が、指先から皮膚へ食い込んでいた。

 

手全体へ焼けるような痛みが広がる。

 

それでも――

 

ヴァン・ティエンは気にしなかった。

 

しかし――

 

体勢を整える暇さえない。

 

ヴァン・ティエンの頭上に――

 

電磁装置が次々と出現した。

 

それらが彼の周囲へ分散する。

 

そして――

 

エネルギーを帯びた電流が、ヴァン・ティエンの周囲の地面へ真っ直ぐ落ちていく。

 

しかし――

 

それぞれの電流が互いに繋がり――

 

一つの檻を作り上げた。

 

「電磁檻……」

 

ベリオスは向かい側に立ち――

 

満足そうに笑った。

 

その檻は――

 

少しずつ半径を狭めていく。

 

ヴァン・ティエンへ――

 

ゆっくりと迫っていく。

 

同時に――

 

電磁の圧力によって、周囲の酸素が少しずつ奪われていく。

 

ヴァン・ティエンの呼吸が――

 

次第に苦しくなる。

 

そして――

 

酸素が完全になくなった。

 

ヴァン・ティエンの身体が――

 

力なく崩れ始める。

 

両手で首を押さえる。

 

必死に息をしようとする。

 

しかし――

 

喉から出るのは、掠れた乾いた呼吸だけ。

 

息が――

 

喉の奥で詰まる。

 

頭の中が――

 

少しずつ、ぐるぐると回り始める。

 

頭に走る鋭い痛み。

 

まるで――

 

巨大なハンマーで頭を叩き続けられているようだった。

 

目の前が――

 

徐々に暗くなる。

 

そして――

 

身体を包んでいた青い光が――

 

完全に消えた。

 

ヴァン・ティエンの身体が――

 

ゆっくり前へ倒れていく。

 

それを見たベリオスは――

 

手を振った。

 

すると――

 

電磁の檻が消えた。

 

そして――

 

同時に、ヴァン・ティエンの身体が地面へ崩れ落ちた。

 

空気が戻った瞬間――

 

ヴァン・ティエンは本能的に口を大きく開き――

 

一気に深く息を吸い込んだ。

 

しかし――

 

乾ききった喉へ空気が突然流れ込んだため――

 

激しく咳き込む。

 

「ゴホッ……ゴホッ……!!」

 

掠れた咳。

 

その咳と共に――

 

歯の隙間から鮮血が飛び散った。

 

呼吸は――

 

荒く、苦しそうに鳴る。

 

歯の隙間を通るたび――

 

「ヒュウ……ヒュウ……」

 

まるで壊れた鍛冶場のふいごのような音が響く。

 

息を吸うたび――

 

胸が激しく膨らむ。

 

そして――

 

肺へナイフを突き刺されたような激痛が走る。

 

そんなヴァン・ティエンを見て――

 

ベリオスは、ただ軽く首を横に振った。

 

「はぁ……」

 

「どうやら――」

 

「ここまで苦しめれば、もう十分のようだな」

 

そう言って――

 

手を振る。

 

すると――

 

目の前に電磁シールドが出現した。

 

シールドの中央に――

 

エネルギーが、ゆっくりと現れ始める。

 

少しずつ形を作り――

 

そして――

 

小さな球体へと凝縮していく。

 

その周囲には――

 

青い電流が走る。

 

「バチバチッ……」

 

電流が球体を包み込んでいる。

 

球体は――

 

少しずつ大きくなっていく。

 

その大きさは徐々に広がり――

 

ついにはベリオスのシールド全体を覆うほどになった。

 

ベリオスは手を空へ向ける。

 

すると――

 

球体も、彼の指先に導かれるように地面から浮かび上がった。

 

そして――

 

彼の頭上まで持ち上がる。

 

ベリオスは――

 

ヴァン・ティエンを真っ直ぐ見つめる。

 

「この苦しみを――」

 

「私が終わらせてやる」

 

「安心しろ。」

 

「この球の中には――」

 

「お前の力も入っている」

 

「だから――」

 

「無駄死ににはならない」

 

「さらばだ」

 

言葉が終わると同時に――

 

ベリオスは手を振り――

 

ヴァン・ティエンへ真っ直ぐ指を向けた。

 

その瞬間――

 

巨大な球体が、高速で飛び出した。

 

「ズドォォォン!!!!」

 

球体が通った道には――

 

深い溝が刻まれていく。

 

周囲十メートルほどの範囲にある草木。

 

実った稲。

 

土埃。

 

それらすべてが――

 

巨大な電場の圧力によって、地面へ強く押し潰されていく。

 

青いプラズマの稲妻が激しく走り――

 

地面へ次々と突き刺さる。

 

通過した地面が――

 

焼け焦げていく。

 

ヴァン・ティエンは――

 

そこに倒れたまま。

 

完全に動かなかった。

 

今の彼には――

 

もう、何もできない。

 

ただ一つ。

 

頭の中に浮かんでいた言葉。

 

「終わり……なのか?」

 

球体は――

 

もうすぐ目の前まで迫っている。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの顔のすぐ前まで来た。

 

彼に見えるのは――

 

ただ真っ白な光。

 

その周囲を――

 

青い電流が走っている。

 

ヴァン・ティエンは――

 

ただ、拳を強く握り締める。

 

何もできないまま――

 

迫り来る球体を見つめる。

 

しかし――

 

その時。

 

遠くから――

 

小さな足音が響いた。

 

「タッ……タッ……」

 

小さな身体が――

 

真っ直ぐこちらへ走ってくる。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンの目の前を――

 

小さな身体が覆った。

 

よく見ると――

 

それは、ヒュエン・ゴックだった。

 

ヴァン・ティエンの目が――

 

大きく見開かれる。

 

ベリオスも――

 

驚いた。

 

ヒュエン・ゴックは――

 

ゆっくりと後ろを振り返る。

 

その目が――

 

ヴァン・ティエンを見つめる。

 

ヴァン・ティエンは彼女を見て――

 

小さく叫んだ。

 

「逃げろ……」

 

少女は――

 

ただ、優しく微笑んだ。

 

そして――

 

静かに呼んだ。

 

「お兄ちゃん……」

 

巨大な球体が――

 

真っ直ぐ二人へ迫ってくる。

 

そして――

 

真っ白な光が一瞬で広がり――

 

ヴァン・ティエンとヒュエン・ゴックの身体を――

 

完全に包み込んだ。

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