『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
暗い通りは、静まり返っていた。
人影は一人もいない。
しかし、ヴァン・ティエンは、まだ何かがおかしいと感じていた。
彼はミンのほうを振り向く。
「お前は先に部屋へ戻ってろ」
ミンは少し驚いた。
「え? 兄ちゃんは戻らないの?」
「俺は外に出て、水を一本買ってくる」
ミンはそれを聞いて頷いた。
「じゃあ、先に戻るね」
ミンはみんなのいるホテルへ向かって走っていく。
ホテルへ入る直前、彼は振り返って言った。
「あっ、ついでに僕の分も一本買ってきてよ! ありがとう!」
そう言って、ミンはホテルの中へ走っていった。
ヴァン・ティエンは微笑んだ。
数秒間その場に立ったまま、ゆっくりと歩き出す。
そして――
ホテルの隣にある細い路地へ入っていった。
その路地は、旧市街の裏手にある古い住宅街へと続いていた。
古い屋根が、いくつも並んでいる。
夜の薄暗い街灯が、古びた壁を黄色く照らしていた。
ヴァン・ティエンは足を止めた。
そして、静かに言う。
「……もう隠れるのはやめろ」
「出てこい」
返事はない。
ただ、夜風だけが路地を吹き抜けていく。
一秒。
二秒。
そして――
カンッ!
金属音が、頭上から響いた。
ヴァン・ティエンはすぐに顔を上げる。
屋根の上。
そこには、一人の巨大な人影が立っていた。
黒い装甲。
まるで戦闘機械そのもののような巨大な身体。
右腕には、巨大な金属製のハンマーが取り付けられている。
ダン・ティエットだった。
彼は小さく笑った。
「まさか……俺の存在に気づくとはな」
ヴァン・ティエンは、冷静に彼を見上げる。
「お前は……何者だ?」
ダン・ティエットは答えない。
次の瞬間――
ドンッ!
彼は屋根から飛び降りた。
巨大な身体が地面へ落下する。
ドォン!
道路に小さな亀裂が走り、周囲のレンガが弾き飛ばされる。
ダン・ティエットはゆっくりと立ち上がった。
赤い瞳が、ヴァン・ティエンを睨みつける。
「お前が……俺の偵察隊を殺した奴だな」
ヴァン・ティエンは眉をひそめる。
「……あいつらは、お前の部下だったのか?」
ダン・ティエットが冷たく笑う。
「勘違いするな」
「あいつらは、俺にとってただの駒にすぎん」
そして――
赤い瞳をヴァン・ティエンへ向ける。
「だが、今の俺が知りたいのは……」
「お前が……一体、何者なのかということだ」
ヴァン・ティエンは静かに息を吐く。
「……俺も、それを知りたいと思っている」
突然――
シュッ!
ダン・ティエットの姿が消えた。
次の瞬間。
彼はヴァン・ティエンの目の前に現れた。
巨大なハンマーが横薙ぎに振り抜かれる。
空気が激しく震える。
ドォン!
ヴァン・ティエンは、とっさに腕を上げて受け止めた。
衝撃波が爆発する。
足元の地面に亀裂が走る。
二人は、そのまま数秒間動かなかった。
ダン・ティエットが目を細める。
「……これは驚いたな」
ヴァン・ティエンが力を込める。
ドン!
彼はダン・ティエットを押し返した。
二人の身体が同時に離れる。
ダン・ティエットは、そのまま後方へ跳び、屋根の上へ着地した。
ヴァン・ティエンも地面を蹴る。
ドンッ!
一瞬で彼も屋根へ飛び上がった。
次の瞬間――
二人の姿は、ホアンキエム湖近くの古い街並みの屋根の上にあった。
夜風が激しく吹き抜ける。
古い瓦屋根が、暗闇の中へどこまでも続いている。
ダン・ティエットがハンマーを振り上げる。
「なら……これはどうだ!」
ドォン!
巨大なハンマーが屋根へ叩きつけられる。
瓦が一瞬で砕け散った。
ヴァン・ティエンは後ろへ跳んで攻撃をかわす。
バラバラッ!
大量の瓦が周囲へ飛び散る。
下の道路では、衝撃によって車の警報音が鳴り響いた。
ピーピーピー!
ダン・ティエットが大声で笑う。
「悪くない!」
「なら、これはどうだ!」
彼は再び突進する。
巨大なハンマーが、凄まじい速度で振り下ろされる。
ドォン!
屋根の一角が崩れ落ちる。
「キャッ!」
「何の音だ!?」
激しい戦闘音によって、周辺の住民たちが目を覚ます。
猫が暴れたのだと思う者もいた。
何人かは窓や扉を開けて外を確認する。
しかし――
彼らが見たのは、ただの暗い夜空だけだった。
その上空では――
戦いが続いていた。
ヴァン・ティエンの姿が消える。
次の瞬間――
彼はダン・ティエットの背後に現れた。
「ブッ!」
拳が背中へ直撃する。
ドン!
ダン・ティエットの身体が数歩吹き飛ぶ。
彼は振り返った。
赤い瞳が鋭く光る。
「……面白い」
ヴァン・ティエンは静かに立っていた。
首にかかった十字架のペンダントが、弱々しく光り始める。
彼は深く息を吸う。
そして――
小さく呟いた。
「……5%」
その瞬間。
周囲の空気が変わった。
ヴァン・ティエンの腕を、細かな青い光のラインが走り始める。
目には見えない圧力が、周囲へ広がっていく。
ダン・ティエットの動きが止まった。
彼は、そのエネルギーを感じ取っていた。
「……そういうことか」
「どうやら、お前はまだ全力を出していないらしいな」
ヴァン・ティエンは、まっすぐに彼を見つめる。
ダン・ティエットが大きく笑った。
「ハハハハ!」
「いいぞ……!」
「なら、お前がどこまで強いのか……見せてもらおう!」
彼は巨大なハンマーを持ち上げる。
赤いエネルギーが、金属製の腕を伝って走り始めた。
「そういえば……自己紹介がまだだったな」
ダン・ティエットは、ゆっくりと口を開く。
「俺は――」
「ダン・ティエット」
「ファイア・フォレスト第4艦隊――」
「偵察部隊の指揮官だ」
彼はヴァン・ティエンを真っ直ぐ見つめる。
「そして、お前は……」
「何という名前だ?」
夜風が、ハノイ旧市街の古い屋根の間を激しく吹き抜ける。
ヴァン・ティエンは拳を強く握った。
「……ヴァン・ティエン」
二人の視線がぶつかる。
一秒の沈黙。
そして――
シュッ!
二つの影が、夜空の中で同時に動いた。
二人は、真正面から激突した。