『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
だが――
その瞬間。
「……パキッ」
乾いた音が――
突然、響いた。
ベリオスの眉が――
ぴくりと動く。
「……今の音は?」
「パキッ……パキッ……パキッ……」
三つの音が続けて響く。
何が起きているのか――
ベリオスには分からない。
だが――
彼は突然、身体を起こした。
ヴァン・ティエンの杖先が触れている場所。
そこに――
深い亀裂が入っていた。
そしてそこから――
蜘蛛の巣のような亀裂が、エネルギーシールドの表面全体へ一気に広がっていく。
ベリオスの目が――
大きく見開かれた。
目の前で起きていることが――
信じられない。
そして――
「キィィン!!」
ベリオスが誇りにしていた電磁シールドが――
無数の光の欠片となって粉々に砕け散り、消滅した。
ベリオスは――
その場で完全に固まった。
何が起きたのかすら――
理解できない。
その瞬間を――
ヴァン・ティエンは逃さなかった。
歯を食いしばり――
勢いを利用して身体を一回転させる。
そして――
星雲天聚を大きく振り抜き――
ベリオスの腹部へ真っ直ぐ叩き込んだ。
「ドォォン!!」
千斤の力を込めた一撃。
ベリオスの身体が衝撃で大きく折れ曲がる。
「ガハッ!!」
大量の血を吐き――
その身体は砲弾のように遠くへ吹き飛んだ。
地面へ激突し――
そのまま長い距離を滑りながら、大地を深く抉っていく。
そして――
荒れ果てた田畑の中で動かなくなった。
ヴァン・ティエンは上空から地面へ飛び降りる。
「ハァ……ハァ……!」
激しく息を切らす。
胸が大きく上下し――
必死に酸素を取り込んでいる。
今こそ――
最大の好機。
ヴァン・ティエンはベリオスへ止めを刺すため、すぐに走り出そうとした。
だが――
数歩進んだところで。
突然――
目の前の景色がぼやけた。
激しい頭痛も同時に襲ってくる。
「……ッ!」
ヴァン・ティエンはすぐに足を止め――
星雲天聚を地面へ突き立てる。
もう片方の手で――
激しく痛む頭を押さえる。
そして――
煙と埃に覆われた戦場の中で、荒々しく息を吐き続けた。
一方――
ベリオスは田畑の上に倒れていた。
「ゴホッ……ゴホッ……!」
何度か激しく咳き込み――
手を地面につき、ゆっくりと立ち上がる。
身体がようやく真っ直ぐになった瞬間――
また激しく咳き込んだ。
そして――
口から大量の血を吐き出す。
ベリオスは口元から流れる血を、ゆっくりと拭った。
まだ――
信じられない。
そして――
受け入れることもできない。
自分が誇りにしていたシールドが――
ただのガキに破壊された。
そんなことが――
許せるはずがなかった。
一方――
ヴァン・ティエンの視界も、少しずつ元へ戻っていく。
頭痛はまだ激しい。
手もまだ頭に置いたまま。
それでも――
集中を失ってはいない。
敵は――
まだ目の前にいる。
ヴァン・ティエンはゆっくりと顔を上げ――
ベリオスを見た。
ベリオスは――
まだ衝撃から立ち直っていなかった。
そして突然――
「グオオオオオオオッ!!」
凄まじい咆哮を上げる。
その声が――
田園全体へ響き渡る。
咆哮が終わると――
ベリオスはヴァン・ティエンを睨みつけた。
今度の眼差しには――
怒りと憎しみしかなかった。
両目が――
真っ赤に充血している。
「お前は――」
「俺が最も誇りにしていたシールドを破壊した。」
「そのことを――」
「俺は絶対に許さない。」
「絶対に……お前を許さない。」
「覚悟しろ。」
そう言いながら――
ベリオスは拳を強く握る。
そして――
自分の胸へ拳を叩き込んだ。
しばしの静寂。
「バチッ……バチッ……」
胸の中央から――
青い雷がゆっくりと姿を現した。
今までとは違う。
より濃く――
より強烈な雷。
ベリオスの身体を取り巻く青い雷撃が――
激しく爆発する。
その衝撃で――
土や石が巻き上げられ、宙へ浮かび上がる。
ベリオスは目を細め――
ヴァン・ティエンを見つめる。
凶悪な笑みが――
口元へ浮かんだ。
「瀕死のお前一人を処理するなら――」
「この半分の力で十分すぎるほどだ!」
言い終わった瞬間――
ベリオスの姿が消えた。
一筋の雷光が――
空気を引き裂く。
そして――
一瞬でヴァン・ティエンの目の前へ現れる。
青い雷を纏った拳が――
脇腹へ叩き込まれた。
「ドォン!!」
「ガハッ!!」
ヴァン・ティエンは大量の血を吐き――
身体ごと吹き飛ばされた。
ひび割れた田畑へ何度も激突する。
骨の裂けるような激痛が――
頭の中を引き裂いていく。
視界が――
さらにぼやける。
速度も――
威力も。
ベリオスが完全に上回っていた。
ベリオスはすぐに追いつき――
身体を回転させ、ヴァン・ティエンの頭を狙って蹴りを放つ。
だが――
ヴァン・ティエンの手は本能的に星雲天聚を強く握った。
蹴りが頭へ届く、その瞬間――
腕が素早く上がり、杖で蹴りを受け止める。
ベリオスは驚き――
思わず声を漏らした。
「ほう……」
だが――
すぐに口元を歪める。
「だが、それだけじゃ俺は止められない!」
さらに――
もう片方の足で蹴りを放つ。
ヴァン・ティエンは歯を食いしばり、杖を持ち上げて防ぐ。
だが――
ベリオスは止まらない。
両手両足へ青い雷を纏わせ――
拳と蹴りを連続して叩き込んでくる。
ヴァン・ティエンは――
なんとか防ぐ。
だが今――
目の前の全てがぼやけている。
ベリオスの拳と蹴りは――
ただの青い光の筋にしか見えない。
いくつもの残像が――
夜を引き裂きながら、真っ直ぐ顔へ飛び込んでくる。
攻撃そのものは――
見えない。
だが――
空気を焼き尽くす熱。
耳元で鳴り響く雷の音。
それらが――
全てを教えてくれる。
今、ヴァン・ティエンが防げているのは――
本能。
そして――
星雲天聚の柔軟な動きのおかげだった。
しかし――
ベリオスの拳は、どんどん速くなる。
雷そのものの速度を利用し――
連続して拳を叩き込む。
そして――
一撃の蹴りが星雲天聚をすり抜け――
ヴァン・ティエンの腹部へ直撃した。
「ドォン!!」
凄まじい威力。
ヴァン・ティエンの身体が大きく折れ曲がり――
そのまま後方へ吹き飛んだ。
田畑を長く抉り――
広大な田園の中央で止まる。
そして――
煙と埃が立ち上がった。
遠くから――
ベリオスがゆっくり歩いてくる。
その視線の先には――
星雲天聚を支えにして、必死に立ち上がろうとしているヴァン・ティエン。
その眼差しには――
完全な侮蔑が浮かんでいた。
だが――
煙と埃の中から。
「……グッ……!」
低く――
重い咆哮が響いた。
ヴァン・ティエンの二色の瞳。
青と白の光が――
再び激しく燃え上がる。
前世で培われた戦闘本能が――
肉体の痛みを無理やり乗り越えていく。
ヴァン・ティエンは星雲天聚を強く回転させ――
その勢いを利用して身体ごと高く跳び上がる。
そして――
広い弧を描く一撃を放った。
夜空を――
真っ二つに切り裂くように。
ベリオスは――
完全に不意を突かれた。
「――ッ!」
避ける暇もなく――
杖の一撃が直撃する。
「ザシュッ……ドォォン!!」
星雲エネルギーの波が――
真正面から放たれた。
ベリオスの胸へ直撃し――
胸当てが大きくひび割れる。
身体が――
数十メートルも後方へ吹き飛ばされた。
そのまま地面へ二本の深い轍を刻みながら――
大きく後退する。
一方――
ヴァン・ティエンは星雲天聚を地面へ突き立てる。
そして――
激しく咳き込んだ。
「ゴホッ……ゴホッ……!」
今――
脇腹が激しく痛んでいる。
それだけではない。
頭も――
まだ激痛に襲われている。
まるで――
何千本もの赤く焼けた鋼鉄の針が、脳の奥へ突き刺さり、絶え間なく捻じ込まれているような痛み。
それでも――
今の危険な反撃は、ベリオスの自尊心を強烈に叩き潰した。
ベリオスはゆっくり立ち上がる。
鼻から流れる血を拭う。
その眼は――
完全に怒りで真っ赤になっていた。
「この……!」
「こんな瀕死の奴が……」
「俺を傷つけただと?!」
極限の怒りが――
ベリオスの理性を完全に奪っていく。
「今度は――」
「もう遊ばない。」
両手を強く握る。
全ての青い雷撃を――
両手へ凝縮する。
そして――
全力で自分の胸の中央へ拳を叩き込んだ。
「バチッ! バチッ! ドォォォン!!」
今度は――
濃密な青い雷が爆発した。
さらに濃い。
遥かに濃い。
ベリオスの瞳から――
完全に瞳孔が消えた。
そこにあるのは――
狂気に燃える二つの青い雷の炎だけ。
足元の地面は――
巨大な熱量に耐え切れず、溶け始める。
赤く燃える液状の泥へと変わっていく。
身体から放たれる強烈な磁場によって――
周囲の小石や瓦礫が、自然に宙へ浮かび上がる。
首や顔の血管が大きく浮き上がり――
青い光を放つ。
周囲の空気は――
巨大な熱量によって焼かれ、歪んでいく。
「今度こそ――」
「お前を必ず殺す!」
「死ぬ覚悟をしろ!」
だが――
その瞬間。
彼がその力の極限へ到達した、その瞬間だった。
大地が――
突然、激しく震え始めた。
そして――
惑星の深部から。
古く――
広大で――
原始的な圧力が爆発した。
それは――
目に見えない巨大な圧力の壁となり、ベリオスの胸へ真っ直ぐ叩き込まれる。
ベリオスの荒れ狂うエネルギーが――
その瞬間、強烈に押し返された。
異世界から来た巨大すぎるエネルギーが――
目に見えない封印の壁と激しく衝突する。
「な……」
「な、なんだこれは?!」
ベリオスは恐怖に目を見開く。
狂暴な雷撃が――
胸の内部へ強制的に押し戻された。
そして――
血管の中で爆発する。
「グハッ……!」
凄まじい反動が――
ベリオスの身体を激しく蝕む。
彼はよろめき――
暗い血を吐き出した。
全身が――
過負荷と深刻な損傷によって悲鳴を上げている。
ベリオスは荒い息を吐く。
胸の中央からは――
「バチ……バチ……」
という音だけが残り――
黒い煙が立ち上っていた。
彼は心の中で呟く。
「何なんだ……」
「今の力は……一体……」
だが――
彼が状況を理解するより先に。
ヴァン・ティエンが――
すでに目の前まで迫っていた。
そして――
星雲天聚を腹部へ叩き込む。
「グハッ!!」
ベリオスの身体が――
勢いよく折れ曲がり、そのまま木の根元へ吹き飛ばされた。
彼はそこで倒れ――
殴られた腹部を押さえる。
その視線の先。
遠くには――
星雲天聚を強く握りしめるヴァン・ティエンが立っていた。
その眼差しには――
強い決意が宿っている。
ベリオスは自分の身体を見下ろし――
小さく呟いた。
「……駄目だ。」
「このまま続けたら――」
「俺の身体が……持たない。」
しばし――
考える。
そして――
一つの決断を下した。
「仕方がない……」
「これを使うしかない。」
「もう他に機会はない。」
ベリオスは傷ついた身体を無理やり起こす。
そして――
空を見上げた。
次の瞬間――
地面を蹴って跳び上がる。
そのまま――
空中へ浮かび上がった。
眼下を見下ろし――
そして、ヴァン・ティエンへ視線を向ける。
地上のヴァン・ティエンには――
ベリオスが何をしようとしているのか分からない。
上空で――
ベリオスは低く唸る。
その声が――
空全体へ響き渡る。
胸の中央から――
一筋の光がゆっくりと生まれた。
それが一点へ集まり――
徐々に球体を形成していく。
「バチッ……バチッ……バチッ……」
周囲へ――
雷撃が集まり始める。
球体は――
ベリオスの胸ほどの大きさまで膨張した。
だが――
ベリオスは目を細める。
「……まだ足りない。」
彼は周囲を見渡した。
そこには――
無数の戦艦が宙に浮かんでいる。
ベリオスは何も言わず――
手の中の球体を高く掲げた。
球体が――
ゆっくりと回転し始める。
次の瞬間。
周囲の全ての戦艦から――
青いエネルギーが強制的に引き抜かれ始めた。
それらは――
狂ったようにベリオスの手の中の球体へ集まっていく。
球体は――
どんどん膨張する。
あらゆるエネルギーを――
飲み込んでいく。
そして僅かな時間の後。
それは――
小惑星にも匹敵する巨大なエネルギーの塊へと変貌した。
周囲の戦艦は――
エネルギーを完全に吸い尽くされる。
重力を失い――
大きく揺れながら、ゆっくりと落下していく。
ただ落下するだけではない。
頑丈な金属製の船体までもが――
次第にひび割れ。
無数の破片へと崩れ――
そして、無数の塵となって空から降り注いだ。
ベリオスは――
巨大な球体を持ち上げる。
そして――
ヴァン・ティエンを見下ろした。
その声は――
冷たい。
「この一撃で――」
「お前を終わらせる。」
地上では――
ヴァン・ティエンが星雲天聚を強く握りしめる。
全身は――
傷だらけ。
それでも――
その眼差しは、痛みを押し殺しながら鋭くなる。
揺るぎない決意が――
その瞳へ凝縮されていた。
上空のベリオスは――
ただ嘲笑う。
「安心しろ。」
「お前を――」
「すぐに楽にしてやる……」
一瞬――
言葉を止める。
そして――
空を焼き尽くすほどの熱を放つ巨大なエネルギー球を見上げる。
さらに――
遠くへ視線を向けた。
「だが――」
「この大きさじゃ……」
「お前だけじゃ済まない。」
ベリオスは――
地上を見下ろした。
遠くでは――
負傷した住民たちが、民兵や青年ボランティアたちによって応急処置を受け、避難を始めていた。
地上は――
混乱している。
それでも――
人の温かさが残っていた。
「こっちにも怪我人がいるぞ! 早く来てくれ!」
「役所の人! こっちは消毒液がもうない!」
青年ボランティアたちは――
足元の荒れた地面を慎重に進みながら、高齢者たちを支える。
「おじさん、足元に気をつけて!」
「ゆっくり歩いてください!」
小さな子供たちは涙を拭い――
恐怖でしゃくり上げる。
「怖いよ……ママ……」
一人の女性ボランティアが――
すぐにしゃがみ込み、子供を抱きしめる。
そして――
頭を撫でながら優しく慰める。
「いい子だから、怖がらないで。」
「大丈夫。きっと全部うまくいくよ。」
「お兄ちゃんやお姉ちゃんたちが、ここにいるからね!」
上空のベリオスは――
地上の人々を見ながら、再び口を開く。
「お前だけじゃない……」
「あそこにいる人間たちも――」
「巻き込まれる。」
そして――
最後にもう一度だけ、ヴァン・ティエンを見る。
そして――
冷たい笑みを浮かべた。
「さらばだ。」