『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
夜の風は次第に静まり、古い街並みの屋根も再び静寂を取り戻していた。
地面には昨夜の戦いの痕跡として、割れた瓦がいくつか散らばっている。
壁にはいくつかひびが入り、屋根の一部も崩れ落ちていた。
しかし、この辺りの住民たちは、ただ古い屋根が風に煽られて崩れたのだと思っていた。
ホテルの部屋の窓辺で、ヴァン・ティエンは一人立っていた。
彼は手すりにもたれながら、下に広がる通りを見下ろしている。
東の空は次第に淡い青色へと変わり始めていた。
弱い朝の光が、彼の首に掛けられた十字架のネックレスに反射する。
青い光が、かすかに点滅した。
ヴァン・ティエンは小さく息を吐いた。
昨夜のドアン・ティエットとの戦いは、見た目ほど単純なものではなかった。
彼は自分の手を見つめた。
心の中でつぶやく。
「……あいつが自分から退かなかったら……」
目を閉じる。
すると、消える直前のドアン・ティエットの姿が頭の中に浮かんだ。
「命を大事にしろよ」
「俺はまだ、お前を何度も狩りたいからな」
ヴァン・ティエンは目を開いた。
心の中でつぶやく。
「ドアン・ティエット……お前はいったい、何を企んでいるんだ?」
その時――
「みんな準備してねー! あとで朝ご飯を食べて、それから古代都市コーロアを見に行くよー!」
部屋の外から、バー・トゥーの声が聞こえてきた。
それを聞いたヴァン・ティエンは空を見上げ、それから振り返って部屋の中へ入った。
しばらくして、ヴァン・ティエンたち一行はホテルを出た。
朝の日差しが街を照らしている。
街は再び賑わい始めていた。
車の音、けたたましいクラクション、そして商売人たちの呼び声。
「もち米のおこわー! コム・フックのおこわだよー!」
「中までふっくら、焼きたて熱々のバインミーだよー!」
自転車のベルの音が、人の流れの中に響いている。
まるで、この街では何事も起こらなかったかのようだった。
バー・トゥーが言った。
「じゃあ、まず朝ご飯を食べに行こうね。そのあと古代都市コーロアを見に行こう!」
チュー・ナムが言った。
「俺、ここの鶏肉フォーがうまいって聞いたんだけどさ。試しに行ってみない?」
コー・バーが驚いたように言った。
「えっ、鶏肉フォーなんてあるの? 私、初めて聞いたわ! 今まで牛肉のフォーばっかり聞いてたけど、鶏肉フォーなんて聞いたことないよ!」
バー・トゥーが言った。
「じゃあ、それで決まりね! みんなで鶏肉フォーを食べに行こう!」
一行は賛成した。
その後、みんなで車に乗り込む。
車はゆっくりとホテルを離れていった。
ヴァン・ティエンは周囲を見回した。
現在の街は、多くの車が行き交い、とても賑やかだった。
しばらくすると、車は近くのフォーの店に到着した。
車を降りたヴァン・ティエンは、店の看板を見上げた。
そこには、
「フォー・ガー・ヒエン・フオン(バオ・カイン20番地)」
と書かれていた。
店の中へ入ると、店内はとても清潔だった。
それほど広くはないが、庶民的な雰囲気で、木製のテーブルと椅子がきれいに並べられている。
席に着くと、みんなそれぞれ鶏肉フォーを注文した。
ヴァン・ティエンはいつものように、ネギ抜きの鶏肉フォーを注文した。
しばらくして、店員がフォーを運んできた。
ヴァン・ティエンは箸で少しだけ取って食べてみる。
「……うまい」
思わず目を少し見開いた。
みんなは朝ご飯を食べながら、楽しそうに話している。
朝の時間ということもあり、店内はかなり混んでいた。
その頃――
別の場所では。
ドアン・ティエットが、ある建物の屋上に立っていた。
彼は下に広がる道路を見下ろしている。
その時、一人の黒い装甲を身につけた部下が、彼の前に現れた。
ドアン・ティエットが尋ねる。
「準備はどこまで進んだ?」
黒い兵士が答えた。
「はい、閣下。すべて準備完了しております」
それを聞いたドアン・ティエットは、薄く笑った。
「よし。次の段階へ進めるぞ」
「はい」
そう答えると、黒い兵士は姿を消した。
ドアン・ティエットは再び、下に広がるハノイの街を見下ろした。
そして、その視線はヴァン・ティエンたちがいるフォーの店へ向けられる。
彼は不気味な笑みを浮かべた。
その頃――
ヴァン・ティエンは何かを感じ取った。
彼はすぐに顔を上げ、ドアン・ティエットが立っていた建物の方を見る。
しかし、そこには誰もいなかった。
ヴァン・ティエンは心の中でつぶやく。
「……気のせいか?」
朝食を食べ終えると、一行は再び車へ戻った。
そして、古代都市コーロアへ向かって移動を始めた。
ヴァン・ティエンは窓の外を眺めていた。
しばらく走ると、彼の目に二層構造の巨大な鉄橋が入ってきた。
それは、現代的な姿をしたロンビエン橋――ではなく、巨大な鉄骨構造を持つタンロン橋だった。
橋を渡ると、両側には歩いている人々の姿が見える。
その下には紅河が流れ、たくさんの船が行き交っていた。
しばらく走ったあと、車は何本かの道を曲がった。
そして――
ついに古代都市コーロアへ到着した。
ヴァン・ティエンは窓の外を見た。
目の前に広がっていたのは、巨大な高層ビルではなかった。
そこには、穏やかな田園風景と、長い歴史の痕跡が残されていた。
近づいていくと、竹林やリュウガンの木々、そして広々とした水田が広がっている。
風がとても心地よかった。
下を見ると、小さな水路や高低差のある土の丘がいくつも見えた。
それらはまるで螺旋のように曲がりくねっている。
古い大木の木陰を通り過ぎると、苔むした瓦屋根を持つ寺や祠が、ところどころに見え始めた。
その中でも特に目立っていたのは、コーロア市場の đình だった。
北ベトナムの平野部に特徴的な三間門の門構えが、堂々と建っている。
周囲では地元の人々がのんびりと歩いていた。
大きな木の下にある茶店では、何人もの人が座って冷たいお茶を飲んでいる。
やがて車は、古代都市コーロア遺跡の入口へ到着した。
一行が車から降りる。
ヴァン・ティエンの目の前には、反り返った瓦屋根を持つ古い門があった。
長い年月を経たその屋根には、苔が生えている。
門のすぐそばには、巨大なガジュマルの木が立っていた。
その根は深く大地に入り込み、広々とした枝葉が周囲を覆っている。
周囲には古い石碑がいくつもあり、祠の前には二体の石造りの龍が向かい合うように置かれていた。
ヴァン・ティエンは周囲を見回す。
門の近くには、コーロア市場で暮らす地元の人々の日常風景も広がっていた。
祭祀用品を売る店や、冷たいお茶を売る店などが並んでいる。
ヴァン・ティエンは思わず声を漏らした。
「……すごいな」
一行は中へ入っていった。
するとコー・バーが言った。
「広すぎるわねー! みんな、ここからは別々に行きましょう! ずっと全員でぞろぞろ歩いてたら、全部見て回れないよ!」
みんなも賛成した。
ヴァン・ティエンが一人で行こうとした、その時――
ミンが走ってきた。
「ティエン兄ちゃん、僕も一緒に行っていい?」
ヴァン・ティエンは不思議そうに尋ねた。
「どうしたんだ? おばさんたちと一緒に行かないのか?」
「嫌だよ。大人ばっかりだもん」
「兄ちゃんと一緒に行きたい。そっちのほうが楽しいから」
ヴァン・ティエンは困ったように笑った。
「わかったよ。それじゃあ、兄弟二人で一緒に行こう」
こうして二人は、一緒にコーロアを見て回ることになった。