『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
金亀神の咆哮が、空一面に響き渡った。
「グオオオオ……ッ!!!」
衝撃波が地震のように広がっていく。
空中の艦隊は激しく揺れ、今まさにエネルギーを蓄えていた砲台が、一斉に消えた。黒い兵士たちは混乱する。
「いったい何が起きたんだ!?」
「あの怪物は何なんだ!?」
巨大な金亀神の身体が、徐々にヴォン古螺池の水面から姿を現していく。
湖の水は大波となって渦巻き、その甲羅はまるで古代の山脈のようだった。
甲羅には東山銅鼓の古代紋様が刻まれ、青い光を放っている。
その中央には、十四本の光を放つ太陽の紋章。
甲羅に刻まれたラク鳥たちは、まるでエネルギーの流れに合わせて動いているかのようだった。
ヴァン・ティエンはその前に立っていた。
その巨体を前にすれば、彼はまるで一粒の塵のように小さい。
彼は荒い息を吐いた。
「あなた……は……」
すると、古代の声が再び彼の心の中に響いた。
低く――深い。
まるで千年の歴史から響いてくるような声だった。
「我は、古代よりこの大地を守護してきた者」
「人々は我を……」
「金亀神と呼ぶ」
空の上で、段鉄は目を細めた。
彼は湖の中から現れた巨大な生物を見つめる。
「……神獣」
だが、その口元にはさらに冷たい笑みが浮かんだ。
「実に面白い」
そう言って、彼は手を上げた。
一隻の戦艦から、エネルギー砲が一発放たれる。
赤い光線が、ヴァン・ティエンめがけて一直線に降り注ぐ。
しかし――
ドォォォン!!
金亀神は瞬時に身体を回転させ、巨大な甲羅でヴァン・ティエンを守った。
エネルギー砲が甲羅に直撃し、大爆発を起こす。
だが――
そこには傷一つ残っていなかった。
段鉄が眉をひそめる。
「神級防御……」
その下で、古代の声が再び響いた。
「星力を宿す者よ」
「お前の身体は、すでに限界へ達している」
ヴァン・ティエンは拳を強く握った。
「大丈夫です」
「まだ……戦えます」
金亀神は数秒間、黙っていた。
そして――
「ならば、お前に一つ貸し与えよう」
その言葉が終わった瞬間、古螺城の大地が突然震え始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
地面が裂け、巨大な構造物が大地の底からゆっくりと姿を現す。
黒い兵士たちは、それを見て呆然とした。
「あれは……何だ!?」
古螺城の中央に、巨大な弩が姿を現した。
全長数十メートルにも及ぶ巨大な神弩。
その表面には無数の古代紋様が刻まれ、弦はまるでエネルギーそのものから作られたかのように青い光を放っている。
そして中央には――
一本の神の矢。
青い光がその周囲を包み込んでいる。
ヴァン・ティエンは目の前の武器を見つめた。
「これは……」
金亀神が答える。
「連珠神弩」
「かつて我が安陽王に与え、この国を守るために使わせた神器だ」
「今……それをお前に貸そう」
しかし、神の声は重くなった。
「だが、これを起動するためには……」
「お前自身の生命力を使わなければならない」
「お前は……死ぬかもしれぬ」
ヴァン・ティエンは黙った。
彼は空を見上げる。
十万隻を超える戦艦が、空に浮かんでいる。
その下には、無数の人々が暮らすハノイの街。
父、母、ミン、トゥおばさん――そして、すべての人々。
ヴァン・ティエンは拳を強く握った。
「……もし、俺がやらなかったら」
「みんなが死ぬ」
彼は神弩の台座へと歩いていく。
そして、古代の弩に手を置こうとした、その時――
金亀神が突然、声を上げた。
「待て」
ヴァン・ティエンは振り返る。
「……?」
金亀神は低い声で言った。
「矢を放つ前に、お前に一つ与えよう」
そう言うと、金亀神は一本の足を持ち上げた。
そして――
自らの爪を一本、引き抜いた。
爪は静かに身体から離れた。
一滴の血も流れない。
金亀神は、その爪をヴァン・ティエンへ差し出した。
その瞬間――
爪は黄金色の光を放ち始めた。
まるで琥珀の宝石のように、美しく輝いている。
ヴァン・ティエンはそれを受け取り、困惑した表情を浮かべた。
「これは……?」
「これは――霊光金爪」
「我が国土を守るための、護国の爪だ」
「それを弩の弦を引く機構に取り付けよ」
「お前が弦を引けば、天地の霊気が集まり、万の矢となって敵軍を打ち砕くだろう」
「この古螺城の勝敗――」
「そして、この国の運命を……」
「今、すべてお前の手に託す」
ヴァン・ティエンは、手の中で燃えるように輝く神爪を見つめた。
千年もの間、流れ続けてきた力を感じる。
もう、迷いはなかった。
彼はすぐに神爪を弩の機構へ取り付けた。
その瞬間――
黄金色の光が、一気に爆発した。
まるで光る血管のような光の筋が、強固な木製の弩身を駆け抜け、巨大な弓の両端へと広がっていく。
ズズズズズ……!
地の底から、雷鳴のような低く重い音が響き渡った。
空気が一瞬にして重くなる。
その音を聞いた上空の兵士たちは、身体を震わせ、足を小刻みに震わせた。
突然――
ゴォォォォッ!!
猛烈な暴風が吹き荒れた。
ヴァン・ティエンが立つ神弩の周囲へ、風が渦を巻き始める。
山河、大地、天空――
天地の霊気が、まるですべて吸い込まれるように神弩の機構へ集まっていく。
その圧倒的な霊力によって、周囲のすべてが震え始めた。
ヴァン・ティエンは神弩の台座へ手を置いた。
そして、敵をまっすぐ見据える。
「なら……」
「必要なものを、全部持っていけ」
その瞬間――
首にかけた十字架のネックレスが、強烈な光を放った。
青いエネルギーが、彼の身体から神弩へと流れ込んでいく。
ドォォォン!!
神弩が激しく震え始める。
周囲の空間が歪んでいく。
段鉄はすぐに異変を察知した。
目を大きく見開く。
「何だと……?」
神弩の上にある矢が、突然分裂し始めた。
一本。
二本。
十本。
百本。
千本。
無数の矢が神弩の周囲に浮かび上がる。
まるで星の群れのように。
金亀神が空を見上げる。
「時は来た」
ヴァン・ティエンは弦を引いた。
身体が激しく震える。
口元から血が流れ落ちる。
それでも――
彼は引き続けた。
そして――
叫ぶ。
「撃てぇぇぇぇ!!」
ヒュン!!
無数の光の矢が空へと放たれた。
それらはさらに分裂し、数万本もの光の矢へと変わっていく。
まるで――
流星群。
ドォォン!!
ドォォン!!
ドォォン!!
最初の戦艦が爆発した。
続いて二隻目。
三隻目。
そして数秒のうちに――
ハノイの空は炎の海へと変わった。
無数の戦艦が次々と爆発していく。
黒い兵士たちは完全にパニックに陥った。
「こんな……あり得ない!!」
段鉄はその光景を見つめていた。
初めて――
彼の冷静な表情が消えた。
「……神器」
地上では、ヴァン・ティエンが膝をついた。
荒い呼吸。
口から流れる血。
それでも彼は顔を上げた。
燃えながら落下していく、数万隻もの戦艦を見つめる。
金亀神が彼を見つめる。
「お前は、代償を払った」
「だが……」
神は空を見上げる。
「戦いは……」
「まだ終わってはいない」