『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

30 / 83
第28話 狩りの始まり

部屋は次第に静けさを取り戻していった。

残っているのは、二人のかすかな荒い呼吸だけ。

 

二人の黒装束の男は床に倒れたまま動かない。

もう一人は窓の外へ吹き飛ばされ、生死すら分からない。

 

ヴァン・ティエンはその場に立っていた。

 

戦いの後の鋭い眼差しは、まだ消えていない。

 

しばらくして――

 

彼はゆっくり息を吐いた。

 

戦闘時の気迫が、少しずつ消えていく。

 

そしてバオ・ウエンのほうを振り返った。

 

「大丈夫か?」

 

少女はその場に立ち尽くし、両手で服の裾を強く握っていた。

 

瞳にはまだ少し怯えが残っている。

 

しかし、その奥には――

 

何か別のものがあった。

 

普通の少女にはない、何かが。

 

「わ……私は……大丈夫……」

 

小さな声だった。

 

ヴァン・ティエンは頷き、床へ視線を落とした。

 

そして倒れている男の一人を調べる。

 

その首には――

 

見慣れない紋章が刻まれていた。

 

黒い渦のような形。

 

その瞬間――

 

カンッ!

 

首にかけたペンダントが強く震えた。

 

淡い青い光が放たれる。

 

ヴァン・ティエンは動きを止めた。

 

胸の奥から――

 

また、あの感覚が込み上げてくる。

 

だが今回は――

 

以前よりも遥かに強かった。

 

彼は手を伸ばし、ペンダントを握る。

 

「……また震えてる。」

 

その時――

 

頭の中で、ごく小さな音が響いた。

 

はっきりとした言葉ではない。

 

ただ――

 

一定のリズム。

 

「ドン……ドン……」

 

まるで――

 

遠い場所から聞こえてくる太鼓の音。

 

水の流れを越え、遥か彼方から響いてくるようだった。

 

バオ・ウエンはその青い光を見て、目を大きく見開いた。

 

「お兄ちゃん……感じたの?」

 

ヴァン・ティエンは振り返る。

 

「君……このことを知ってるのか?」

 

少女は黙り込んだ。

 

一秒。

 

二秒。

 

そして、ゆっくり首を横に振った。

 

「私……よく分からない……」

 

だが――

 

その瞳は、明らかに違うことを語っていた。

 

ヴァン・ティエンは少女を見つめる。

 

そして、その視線は彼女のペンダントへ移った。

 

「そのペンダント……」

 

バオ・ウエンは突然びくっとした。

 

自分の首元を見る。

 

そして、ペンダントを強く握りしめた。

 

少し考えた後――

 

「実は……このペンダントは……」

 

しかし――

 

最後まで言い終える前に、家の下から父の声が響いた。

 

「ティエン! どこにいるんだ?」

 

ヴァン・ティエンは部屋から声を返す。

 

「うん、ここにいるよ!」

 

そしてバオ・ウエンを見る。

 

「この話は……また後でいいよな。」

 

少女は少し残念そうな顔をした。

 

それでも――

 

小さく頷いた。

 

「……うん。」

 

一方――

 

赤眼黒龍のもとでは、三人の兵士が敗北したという報告が届いていた。

 

彼は驚いたように目を細める。

 

「面白い……」

 

「まさか、お前が最初に会った時より強くなっているとはな。」

 

そしてホログラムに映ったバオ・ウエンの姿を見る。

 

赤い瞳が細くなる。

 

「それに……この少女か。」

 

「こいつにも……少し興味が出てきたぞ。」

 

その頃――

 

ヴァン・ティエン、父、叔父、そしてバオ・ウエンの四人は夕食を囲んでいた。

 

父と叔父は工事現場の話をしている。

 

叔父が口を開いた。

 

「兄さんが手伝ってくれて本当に助かったよ。兄さんがいなかったら、俺はどうしていいか分からなかった。」

 

ヴァン・ティエンの父は笑う。

 

「大げさだって。俺は大したことしてないよ。」

 

夕食を終えると、四人はそれぞれ部屋へ向かった。

 

叔父の家は広く、部屋もたくさんあった。

 

叔父が二人に説明する。

 

「二人の部屋はもう準備してあるぞ。兄さんの部屋は下、ティエンの部屋は二階だ。」

 

それぞれが自分の部屋へ向かう。

 

ヴァン・ティエンも二階へ上がった。

 

そして――

 

自分の部屋がバオ・ウエンの部屋のすぐ隣だと気づいた。

 

隣の部屋の扉は閉まっている。

 

「もう寝たのかな。」

 

そう思い、彼も自分の部屋へ入った。

 

ベッドに横になる。

 

「今日は……本当に色々あったな。」

 

しばらくすると――

 

彼は眠りへ落ちていった。

 

そして――

 

深夜。

 

ヴァン・ティエンが眠っている部屋の扉が、ゆっくり開いた。

 

ギィ……

 

外から、小さな人影が入ってくる。

 

その影は静かにベッドへ近づいていく。

 

なぜかその夜――

 

ヴァン・ティエンは深く眠っていた。

 

まるで――

 

何かに眠りへ誘われているかのように。

 

翌朝。

 

窓から差し込む朝の光が、彼の顔を照らした。

 

ヴァン・ティエンはゆっくりと目を覚ます。

 

しかし――

 

片腕がひどく痺れていた。

 

「……ん?」

 

彼が横を見ると――

 

そこにはバオ・ウエンが眠っていた。

 

少女は彼の腕をしっかりと抱きしめている。

 

ヴァン・ティエンは目を丸くした。

 

「……え?」

 

腕が痺れている。

 

彼は少女を起こさないよう、そっと腕を抜こうとした。

 

しかし――

 

少し動かした瞬間。

 

バオ・ウエンはさらに強く腕を抱きしめた。

 

ヴァン・ティエンはもう一度試す。

 

しかし――

 

また同じだった。

 

「……」

 

何度か試したが――

 

結局、諦めた。

 

「仕方ないか……。」

 

彼はそのまま横になり、眠っている少女を見る。

 

そして――

 

自然と視線が彼女のペンダントへ向かった。

 

昨日、少女が枕で黒装束の男を吹き飛ばした光景が蘇る。

 

「昨日のあれ……一体何だったんだ?」

 

その時――

 

バオ・ウエンがゆっくり目を覚ました。

 

彼女は目を擦りながら上体を起こす。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンと目が合った。

 

「……!」

 

少女は驚いて起き上がった。

 

ヴァン・ティエンは不思議そうに尋ねる。

 

「バオ・ウエン、どうして俺の部屋にいるんだ?」

 

少女はまだ眠そうに目を擦りながら答えた。

 

「昨日の黒い服の人たちが……夜にまた来て、私を連れていくんじゃないかって……」

 

「怖かったから……」

 

「だから……お兄ちゃんの部屋に来て、一緒に寝たの。」

 

ヴァン・ティエンは少し目を伏せた。

 

「……そうだったのか。」

 

彼がさらに何か言おうとした、その時――

 

下から父の声が聞こえた。

 

「ティエン!」

 

ヴァン・ティエンは仕方なく起き上がる。

 

部屋を出て階段を下りる。

 

父は彼を見ると声をかけた。

 

「これから父さんと叔父さんは、ちょっと工事現場へ行ってくる。」

 

「お前は家にいてな。バオ・ウエンと一緒に遊んでやってくれ。」

 

叔父も続ける。

 

「二人とも腹が減ったら、何か適当に食べていいからな!」

 

ヴァン・ティエンは頷いた。

 

「分かった。」

 

父と叔父は家を出ていった。

 

その直後――

 

バオ・ウエンも二階から降りてきた。

 

淡い黄色の寝間着を着ている。

 

ヴァン・ティエンは彼女を見る。

 

「お父さんが、二人で朝ごはんを食べに行っていいって。」

 

バオ・ウエンは頭を掻く。

 

「そうなんですか?」

 

ヴァン・ティエンは玄関を指差した。

 

「じゃあ、少ししたら二人で朝ごはん食べに行こう。俺が車で連れていくよ。」

 

バオ・ウエンは少し俯いた。

 

「……はい。」

 

そう言うと、少女は再び自分の部屋へ戻っていった。

 

ヴァン・ティエンはその背中を見送る。

 

「昨日より……俺と話してくれるようになったな。」

 

彼は小さく笑った。

 

そして――

 

空を見上げる。

 

その頃、遥か遠く――

 

古い水流が合流する場所。

 

川面が静かに割れた。

 

音もない。

 

水しぶきもない。

 

ただ――

 

暗闇だけが開いた。

 

そして、その中を何かが通り過ぎた。

 

あまりにも速く――

 

光さえ、その姿を捉えることができない。

 

次の瞬間。

 

川は再び静けさを取り戻した。

 

まるで――

 

最初から何も存在していなかったかのように。

 

一方――

 

水元の川底。

 

黒い戦艦の中で、赤眼黒龍はホログラム・スクリーンを見つめていた。

 

彼は手の中で黒いナイフの柄をゆっくり回す。

 

赤い瞳が、炎のように輝く。

 

「そろそろ……狩りの時間だ。」

 

ホログラム・スクリーンに映し出されたのは――

 

【白藤江】

 

その名だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。