『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
その時、ヴァン・ティエンは殺気を感じ取った。
直後――
一つの黒い影が、二人の背後を横切った。
あまりにも速い。
残されたのは、わずかな残像だけだった。
その影は二人へ襲いかかろうとした。
だが――
ヴァン・ティエンは咄嗟にバオ・ウエンを引き寄せ、横へ飛び退いた。
ズッ!
影の男は足を止め、振り返ってヴァン・ティエンを睨みつけた。
「俺たちについて来い。」
ヴァン・ティエンは答えなかった。
ただ一歩前へ出て、バオ・ウエンを背中で庇う。
そして、男を真っ直ぐ見据えた。
「嫌だ。」
男の目が赤く染まる。
「ならば……」
「お前たちは死ぬ。」
その瞬間――
もう一人の男が背後に現れた。
シュッ!
拳がヴァン・ティエンへ一直線に飛んでくる。
ドンッ!
ヴァン・ティエンは片手を上げ、その拳を受け止めた。
衝撃によって、足元の地面に細かな亀裂が走る。
彼の目が鋭くなる。
そしてバオ・ウエンへ言った。
「下がってろ。」
二人の黒服が同時に襲いかかった。
シュッ! シュッ!
左と右。
完全に挟み込む。
ヴァン・ティエンは重心を低く落とした。
伝統武術の構え。
そして――
身体を回転させる。
ドンッ!
横薙ぎの拳。
左側の男が吹き飛ぶ。
だが右側の男は、高く脚を振り上げた。
狙いは――頭。
ヒュッ!
ヴァン・ティエンは身を低く沈めた。
そして――
足を払う。
ドガンッ!
男の身体が地面に叩きつけられた。
しかし――
最初の男が立ち上がった。
口元には歪んだ笑み。
「なかなかやるじゃないか……」
彼は黒い刃を取り出した。
冷たい金属の光が走る。
「だが、まだ足りない。」
シュッ!
男が突進する。
ヴァン・ティエンは一歩下がった。
さらに一歩。
徐々に追い詰められていく。
弱いからではない。
――背後にいるバオ・ウエンを守らなければならないからだ。
男がナイフを突き出す。
ヴァン・ティエンは身体を傾けた。
刃が服を掠める。
その瞬間――
ヴァン・ティエンは男の腕を掴んだ。
そして――
ドンッ!
そのまま地面へ叩きつける。
男の身体が地面に縫い付けられた。
もう一人の男は、それを見ると視線をバオ・ウエンへ向けた。
バオ・ウエンも、その視線に気づいた。
男は一気に彼女へ飛びかかる。
シュッ!
一瞬で彼女の目の前へ。
ナイフが閃く。
刃先が彼女の身体へ届こうとした、その瞬間――
シュッ!
ヴァン・ティエンが男の背後に現れた。
脚を横薙ぎに振り抜く。
その瞬間――
首元のペンダントが、激しく光り輝いた。
ドンッ!
男は蹴り飛ばされ、木の幹へ叩きつけられた。
二人の黒服が立ち上がる。
そして互いに顔を見合わせた。
二人ともナイフを取り出す。
自らの手首を刃で切り裂いた。
そこには――
「X」のような奇妙な紋章が刻まれていた。
二人はその紋章へナイフを突き刺した。
グググ……
すると――
「X」の内部から黒い気体が噴き出した。
それは二人の身体を包み込んでいく。
二人の目が赤く染まる。
凄まじい殺気が周囲へ広がった。
風が激しく吹き荒れる。
地面が震える。
ヴァン・ティエンは眉をひそめた。
次の瞬間――
二人が同時に飛びかかってきた。
足元の地面が沈み込む。
シュッ!
二人が同時にヴァン・ティエンの目の前へ現れた。
拳が振り抜かれる。
ドンッ!
二人の力は先ほどとは比較にならなかった。
ヴァン・ティエンの身体が吹き飛ぶ。
ドォン!
彼は木の柱へ叩きつけられた。
「お兄ちゃん……!」
バオ・ウエンが叫ぶ。
木の根元で、ヴァン・ティエンはゆっくりと立ち上がった。
全身が痛む。
口元から血が流れる。
彼は急いで血を拭った。
そしてバオ・ウエンを見る。
「大丈夫だ。」
「そこに立ってろ。」
二人の黒服が再び突進する。
左右から同時に攻撃。
ヴァン・ティエンは受け止める。
しかし――
ドンッ!
二人の拳が身体を捉えた。
ヴァン・ティエンは顔をしかめる。
だが、吹き飛ばされる直前――
彼は二人の腹へ同時に蹴りを叩き込んだ。
ドンッ!
三人の身体が同時に吹き飛ぶ。
ヴァン・ティエンは数メートル後ろへ下がった。
まだ頭が少しふらついている。
一方、二人の黒服もすぐに立ち上がった。
そして再び襲いかかる。
ヴァン・ティエンは拳を強く握り締めた。
首元のペンダントが光る。
彼の瞳が――青く輝いた。
構える。
二人が同時に飛び込んでくる。
左右から――
同時に蹴りを放つ。
ドンッ!
だが――
ヴァン・ティエンは二人の脚を受け止めていた。
そのまま両足を掴む。
「うおおおっ!」
ブンッ!
二人を後方へ投げ飛ばす。
ドガンッ!
二人の身体が木へ激突する。
一人がすぐに立ち上がり、ヴァン・ティエンへ突進。
ナイフを突き出す。
ヴァン・ティエンは横へ避ける。
そして――
脚を高く上げた。
ドンッ!
上から振り下ろした蹴りが、男を地面へ叩きつける。
その頃――
もう一人の男が立ち上がろうとしていた。
だが、彼の目に――
バオ・ウエンの姿が入った。
バオ・ウエンも、その視線を感じ取る。
男はヴァン・ティエンから目を逸らし――
彼女へ向き直った。
ヒュッ!
一瞬でバオ・ウエンへ向かって飛びかかる。
「バオ・ウエン!」
ヴァン・ティエンは助けに向かおうとした。
しかし――
地面に倒れていた男が起き上がり、ヴァン・ティエンの腕と脚を押さえ込んだ。
「くっ……!」
ヴァン・ティエンはバオ・ウエンを見る。
「バオ・ウエン……!」
首元のペンダントが強く輝く。
一方――
もう一人の男のナイフが、バオ・ウエンの首へ迫る。
あと数ミリ。
刃先が彼女の首へ触れようとした、その瞬間――
――川が突然、大きく動いた。
ドォォォン!!!
どこからともなく、黄金色に輝く巨大な気が爆発する。
ドンッ!!!
二人の黒服が吹き飛ばされた。
そのまま――
白藤江へ真っ直ぐ落下する。
バシャァァン!!!
川面が大きく波打った。
そして――
ドン……ドン……
戦鼓のような音が響いた。
地面が、さらに深く震える。
ヴァン・ティエンは立ち尽くした。
荒い息を吐きながら、敵を飲み込んだばかりの川を見つめる。
彼の目が冷たくなる。
低い声で呟いた。
「言っただろ……」
彼は水面を見下ろす。
「……彼女に手を出すな。」
そして――
ヴァン・ティエンの目が大きく見開かれた。
「……何だ、これ……?」
彼は振り返る。
広場に立つ三体の巨大な銅像。
呉権王。
黎大行皇帝。
そして――
興道大王・陳国峻。
ヴァン・ティエンは、三体の像に何か異常な光が反射していることに気づいた。
その瞬間――
彼の目に、一瞬だけ幻が映った。
川の底に並ぶ無数の木杭。
そして――
古い戦袍をまとった人影。
風が激しく吹き抜ける。
空間が静まり返る。
ヴァン・ティエンは感じていた。
先ほどの黄金色の気は――
ここから放たれた。
だが――
誰が?
首元のペンダントが激しく震える。
まばゆい光が周囲を包み込む。
そして――
消えた。
何事もなかったかのように、空間は再び静かになった。
その時――
バオ・ウエンがヴァン・ティエンへ駆け寄り、彼を強く抱きしめた。
身体が小さく震えている。
「……お兄ちゃん……」
ヴァン・ティエンは優しく彼女の頭を撫でた。
「もう大丈夫だ。」
「あの二人は吹き飛ばされた。」
バオ・ウエンは、それでも彼を強く抱きしめていた。
ヴァン・ティエンは彼女を見て言った。
「二人であそこのベンチに座って、少し休もう。」
バオ・ウエンは頷いた。
「うん……」
二人は近くの石のベンチへ向かった。
腰を下ろしても、バオ・ウエンはまだ先ほどの出来事を怖がっていた。
ヴァン・ティエンは三体の銅像を見つめる。
首元の十字架型ペンダントは、先ほどの気とわずかに共鳴していた。
彼の顔には、深い疑念が浮かんでいる。
しばらくして――
ヴァン・ティエンは立ち上がった。
三体の銅像へ向かおうとする。
その時、バオ・ウエンが彼の手を掴んだ。
「お兄ちゃん……どこへ行くの?」
ヴァン・ティエンは笑い、彼女の頭を撫でた。
「ちょっと三体の像を見てくるだけだ。」
「すぐ戻ってくるから、ここで待ってて。」
バオ・ウエンは彼の服を強く握った。
「でも……怖い……」
ヴァン・ティエンは優しく笑った。
「大丈夫だ。」
「俺がここにいる。怖がるな。」
その言葉を聞いて、バオ・ウエンは渋々手を離した。
「うん……じゃあ、ここで待ってる。」
「ちゃんと戻ってきてね。」
ヴァン・ティエンは笑った。
「分かった。」
彼は三体の銅像の前へ歩いていった。
しばらく見上げた後――
両手を合わせ、深く頭を下げた。
(ここにいるどなたが助けてくださったのか、俺には分かりません。)
(でも……二人を助けてくださったこと、本当にありがとうございます。)
そう心の中で呟き――
ヴァン・ティエンは三度、深く頭を下げた。
その瞬間――
首元のペンダントが、かすかに震えた。
そして――
ペンダントから伝わった微かな熱が、彼の掌へ流れ込んでくる。
ヴァン・ティエンは目を細めた。
その後、彼はバオ・ウエンのもとへ戻った。
彼の姿を確認した瞬間――
バオ・ウエンが走ってきて、彼を抱きしめた。
ヴァン・ティエンは優しく頭を撫でる。
「もう全部終わった。」
「じゃあ、続きを見て回ろう。」
先ほどの出来事がまだ怖かった。
それでも――
バオ・ウエンは彼と一緒に歩きたかった。
彼女は小さく頷いた。
「うん。」
その頃――
白藤江の川底。
黒い戦艦の内部では、一人の兵士が報告していた。
「閣下、二名とも撃破されました。」
赤眼黒龍は画面を見つめる。
目を細めながら、手の中のナイフをゆっくり回した。
「……思った以上に面白いな。」
「次の計画を準備しろ。」
「はい。」
赤眼黒龍は再び画面へ視線を向けた。
口元に笑みが浮かぶ。
「君は日に日に……俺を楽しませてくれる。」
そして――
画面に映るヴァン・ティエンの首元へ視線を移す。
「それに……」
「そのペンダントもな。」