『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第47話 記憶の川

食堂はまだ暖かかった。

柔らかな黄色い照明。

空気の中には、料理の香りがほのかに漂っている。

 

でも……

 

ヴァン・ティエンは動きを止めた。

 

「……?」

 

目の前の水の入ったグラスが……

ほんのわずかに揺れた。

 

まるで……下から何かに触れられたかのように。

 

「ティエン兄ちゃん?」

 

バオ・ウエンが首を傾げる。

 

「……どうしたの?」

 

彼はすぐには答えなかった。

ただ、水面をじっと見つめる。

 

小さな波紋が……

広がっていく。

 

そして――

 

消えた。

 

「……なんでもない。」

 

彼はグラスを置いた。

 

だが、その瞳には……

まだ何かが残っていた。

 

外では風が吹いていない。

 

それなのに、遠くの川面が……

奇妙に揺れている。

 

波ではない。

 

まるで……

 

鼓動のように。

 

どこか……

狂ったようなリズムで。

 

食事を終えた二人は、外へ出た。

 

「じゃあ、先に帰りますね、トゥー姉ちゃん!」

 

バオ・ウエンが手を振る。

 

「うん、気をつけて帰るんだよ!」

 

店の中から、トゥーの声が返ってきた。

 

電動バイクが走り出す。

 

後ろに座ったバオ・ウエンは、いつものようにヴァン・ティエンにそっと抱きついている。

 

「……疲れた?」

 

彼が尋ねる。

 

「……ううん。」

 

彼女は小さく答えた。

 

「……お兄ちゃんがいれば、それでいい。」

 

ヴァン・ティエンは小さく笑った。

 

電動バイクはクアンイェンの静かな道を走っていく。

 

夕暮れが……

少しずつ消えていった。

 

――別の場所。

 

川底の奥。

 

黒い戦艦の内部。

 

チー・ニャン・ハク・ロンは、ホログラムモニターを見上げていた。

 

画面には……

いくつもの赤い点が表示されている。

 

――別の川の一角。

 

一人の黒服の男が、ゆっくりと川底へ潜っていく。

 

そして……

 

一本の柱のようなものを設置した。

 

柱の頂点にあるランプが……

 

赤く点滅する。

 

柱が川底に突き刺さった瞬間――

 

周囲の水が……

 

ゆっくりと逆方向へ渦を巻き始めた。

 

――家。

 

ヴァン・ティエンの父と叔父が、ちょうど帰ってきたところだった。

 

「二人とも、今までどこへ行ってたんだ?」

 

叔父が尋ねる。

 

「えっと……お寺に行ってました。」

 

バオ・ウエンが答える。

 

「そうか。どこへ行くのもいいが……ちゃんと早めに帰ってくるんだぞ。」

 

ヴァン・ティエンの父が、ヴァン・ティエンを見る。

 

「お前、ちゃんとこの子にちょっかい出してないだろうな?」

 

「……出してないよ、父さん。」

 

「うむ。」

 

バオ・ウエンはヴァン・ティエンの手を握った。

 

「じゃあ、私たち先に部屋へ行きますね。」

 

そう言うと、彼女はそのまま彼を引っ張っていった。

 

「おい、ちょっと待て……」

 

二人は階段の向こうへ消えていった。

 

ヴァン・ティエンの父と叔父は、顔を見合わせる。

 

「……あの二人……」

 

――部屋。

 

扉が閉まる。

 

二人はベッドに腰を下ろした。

 

ヴァン・ティエンが彼女を見る。

 

「どうしてそんなに急いで連れてきたんだ?」

 

バオ・ウエンは俯いた。

 

「……お父さんには知られたくないの。」

 

「何を?」

 

「……さっきのこと……」

 

空気が……

重くなる。

 

ヴァン・ティエンは優しく彼女の頭を撫でた。

 

「……誰にも知られないよ。」

 

「でも……」

 

彼女の手に力が入る。

 

「……まだ怖い。」

 

彼は彼女へ近づいた。

 

距離が……

少しずつ縮まる。

 

「ティエン兄ちゃん……」

 

彼女が驚く。

 

彼が手を上げる。

 

彼女は目を閉じた。

 

だが……

 

ただ、鼻に軽く触れただけだった。

 

「……バカ。」

 

バオ・ウエンが目を開く。

 

「……俺はここにいる。」

 

彼の声が低くなる。

 

「もう怖がるな。」

 

「……うん……」

 

彼女は小さく頷いた。

 

しばらくの沈黙。

 

窓の外から風が吹き込んでくる。

 

「……あ、そうだ。」

 

ヴァン・ティエンは外を見る。

 

「さっき、ある像を見たんだ。」

 

「川を指差している像……」

 

バオ・ウエンが首を傾げる。

 

「ああ……」

 

「……あの像ね。」

 

彼女は窓の近くまで歩いていき、遠くを見つめた。

 

「……あれは、フン・ダオ・ダイ・ヴオンだよ。」

 

ヴァン・ティエンは少し驚いた。

 

「……ここにもあるのか?」

 

バオ・ウエンは小さく笑う。

 

「……『ここにも』じゃないよ。」

 

「……むしろ……」

 

「……ここが……本当に近い場所なんだよ。」

 

「……近い?」

 

彼女は頷いた。

 

その瞳は、遠くの川へと向けられている。

 

「……あの川は……」

 

「……二つの場所の間を流れている。」

 

「まるで……分かれているみたいに。」

 

「でも、本当は……」

 

「……一つなんだよ。」

 

ヴァン・ティエンは黙っていた。

 

ただ……

聞いていた。

 

「お父さんが昔、話してくれたの……」

 

彼女の声が小さくなる。

 

「……あの時の戦いは……」

 

「……一つの場所だけで起きたんじゃない。」

 

「……川全体に……広がっていたんだって。」

 

風が……

静かに吹き抜ける。

 

「……だから……」

 

彼女は彼を見る。

 

「……それぞれの場所に……」

 

「……記憶の一部が残っているの。」

 

一秒の沈黙。

 

「……記憶……か。」

 

ヴァン・ティエンが繰り返す。

 

バオ・ウエンは頷いた。

 

「……うん。」

 

「……ある人が言ってた。」

 

彼女は少し言葉を止める。

 

「……あの川は……」

 

「……まだ、覚えているんだって。」

 

その瞬間――

 

空気が……

重くなった。

 

ヴァン・ティエンの首にあるペンダントが……

 

かすかに光った。

 

彼は外を見る。

 

川は……

今も流れている。

 

でも……

 

彼の目には、もう……

 

それは普通の川には見えなかった。

 

「……明日……」

 

彼は小さく言った。

 

「……そこへ行こう。」

 

バオ・ウエンは微笑んだ。

 

「……うん。」

 

外では……

風向きが変わった。

 

川の深く……

 

赤い光が一つ……

 

ゆっくりと……

目を開いた。

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