『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
風……
向きが変わった。
川岸。
バクダン川の水面は……
もう静かではなかった。
揺れている。
かすかに。
そして……
少しずつ、強く。
廟の中にいたヴァン・ティエンも、何かを感じ取った。
バオ・ウエンも……
同じだった。
二人はそのまま廟の外へ出た。
外では……
風がさらに強くなっていた。
水面の波も……
激しく押し寄せている。
ヴァン・ティエンは何かを感じていた。
廟にいた人々も……
次第に不安を感じ始める。
その時――
遠くから……
一つの大きな波が迫ってきた。
「……!!」
人々はそれを見ると、すぐに高い場所へ走り出した。
しかし……
波があまりにも速かった。
何人かは間に合わない。
その中には……
ヴァン・ティエンとバオ・ウエンもいた。
波が押し寄せる直前――
ヴァン・ティエンがバオ・ウエンを引き寄せた。
「バオ・ウエン!」
彼は彼女を強く抱きしめる。
そして――
ザァァァン!!
大波が……
二人を飲み込んだ。
しばらくして……
波がゆっくりと引いていく。
人々は……
無事だった。
ヴァン・ティエンはまだバオ・ウエンを抱きしめている。
彼は外を見る。
終わった……
そう思った。
だが――
彼の目が……
大きく見開かれた。
遠くから――
「ゴォォン……」
低い音が……
川の底から響いた。
大きくはない。
でも……
重い。
まるで……
巨大な何かが……
今、身を動かしたように。
水面が……
渦を巻き始める。
ゆっくり。
そして……
少しずつ速くなる。
ヴァン・ティエンはすぐにバオ・ウエンを抱き上げた。
「えっ……!?」
彼女が驚く。
ヴァン・ティエンは彼女を抱えたまま、近くの高い場所へ走った。
その瞳は……
一瞬たりとも水面から離れない。
――その時。
「……パキッ……」
目の前の空間が……
ひび割れた。
川の水面の上。
真っ黒な裂け目が……
ゆっくりと広がっていく。
その中から……
一本の手が……
現れた。
そして……
一つの身体が……
姿を現す。
男は裂け目から……
ゆっくりと歩み出た。
遅い。
だが、一歩進むたびに……
足元の水面が……
何かに押し潰されるように沈んでいく。
長い黒い服。
垂れ下がる黒髪。
そして……
燃えるように赤く……
深い瞳。
――チー・ニャン・ハク・ロン。
「……ついに……」
彼の声が響く。
低い。
冷たい。
「……お前に会えたな。」
空気が……
重くなる。
ヴァン・ティエンはバオ・ウエンを下ろした。
そして……
彼女の前に立つ。
守るように。
その瞳は……
決して逸らさない。
「……お前が……すべての黒幕だな。」
チー・ニャン・ハク・ロンは首を傾げ……
小さく笑った。
「……そうとも限らない。」
「……私はただ……」
「……それを終わらせる者だ。」
沈黙。
風が……
止まった。
「……この川は……」
ヴァン・ティエンが言う。
「……お前のものじゃない。」
チー・ニャン・ハク・ロンの瞳に……
かすかな興味が浮かぶ。
「……そうか?」
彼は一歩……
水面へ降りた。
足は沈まない。
ただ……
水面に小さな波紋を作るだけ。
彼は笑った。
「……なら……」
――シュッ!!
何の前触れもなく……
彼の姿が消えた。
「気をつけろ!!」
――ドォォン!!!
激しい衝突。
ヴァン・ティエンが受け止めた。
両手で……
その拳を必死に押さえる。
背後の地面が……
大きくひび割れた。
「……!!」
重い。
圧力が……
今までの敵とは……
まるで違う。
チー・ニャン・ハク・ロンは笑った。
「……悪くない。」
――ドン!!
強烈な力が加わる。
ヴァン・ティエンの身体が……
後ろへ弾き飛ばされた。
地面を長く滑る。
だが――
止まる前に……
「シュッ!!」
彼が……
背後に現れた。
「キィン!!」
ヴァン・ティエンが振り向く。
防ぐ。
火花が……
飛び散る。
速い。
あまりにも……
速い。
二つの影が……
視界から消える。
残るのは……
音だけ。
「ドォン!!」
「バン!!」
「キィン!!」
衝突するたび……
地面が揺れる。
川の水も……
小さな波となって、何度も押し寄せる。
その後ろで……
バオ・ウエンは動けなかった。
前へ行くことも……
逃げることもできない。
ただ……
見つめるしかなかった。
「……ティエン兄ちゃん……」
彼女の手が震える。
首に掛けたペンダントが……
ゆっくりと……
光り始めた。
戦場の中央。
ヴァン・ティエンは激しく息をしていた。
口元から……
血が滲んでいる。
「……本当に……強いな……」
数メートル先。
チー・ニャン・ハク・ロンは……
傷一つ負っていない。
「……お前は……」
彼は淡々と言う。
「……私が思っていた以上に成長したな。」
だが……
その瞳が……
暗くなる。
「……しかし……」
「……まだ足りない。」
――ドォォン!!
彼が地面を踏み込む。
大地が……
爆発した。
その身体が……
黒い槍のように……
一直線に突っ込んでくる。
ヴァン・ティエンは拳を握る。
光が……
一気に溢れ出した。
「ドォォォォン!!!!!!!!」
正面衝突。
青い光と桃色の光。
そして……
漆黒の闇。
三つの力が……
激しくぶつかり合う。
風が……
すべてを吹き飛ばす。
川の水が……
高く舞い上がる。
そして――
二人は……
同時に止まった。
静寂。
二人は向かい合っている。
距離は……
わずか数メートル。
誰も倒れていない。
誰も勝っていない。
チー・ニャン・ハク・ロンはヴァン・ティエンを見つめ……
小さく笑った。
「……いい。」
「……それでこそ……」
「……相応しい。」
彼はそこに立ったまま……
「……なら……」
「……私も……」
「……本気を出すとしよう……」
風が……
再び吹き始める。
水面は……
少しずつ静かになっていく。
ヴァン・ティエンはそこに立っていた。
荒い呼吸。
その瞳は……
チー・ニャン・ハク・ロンを強く見据えている。
チー・ニャン・ハク・ロンが笑う。
その背後では……
川の水が……
激しく渦を巻き始めた。
渦の中心から……
黒い戦艦が……
ゆっくりと……
水面へ浮かび上がってくる。
巨大な黒い船体。
赤く燃えるような光。
ヴァン・ティエンの目が細くなる。
拳を強く握る。
その後ろで……
バオ・ウエンはペンダントを強く握りしめる。
波は……
まだ打ち続けている。
まるで……
この川が……
何かを……
思い出し始めたかのように。