『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第50話 潮が満ちる

風は、もう風ではなかった。

咆哮している。

 

白藤江の川面は、何度も何度も大きくうねり始めた。

規則もなく、潮の満ち引きにも従わず、まるで深い底から見えない手にかき乱されているかのようだった。

 

赤眼黒龍の背後では、黒い戦艦が……完全に姿を現していた。

 

長い船体。

焼け焦げた金属のような、冷たい黒色に覆われ、その船体には赤い筋が走っている。

まるで……血管のように脈打っていた。

 

甲板には、何人もの人影が立っていた。

動かない。

息もしない。

ただ、赤い目だけが光っている。

 

「これ……は……?」

 

宝瑛は小さく後ずさりし、ヴァン・ティエンの服の裾を強く握った。

 

「奴の軍隊なの?」

 

赤眼黒龍は、ゆっくりと前方へ手を伸ばした。

 

ヴァン・ティエンは拳を強く握りしめる。

 

その目が、初めて……わずかに揺らいだ。

 

「……」

 

赤眼黒龍は笑った。

 

「見えるか……」

 

「これが……戦争の力だ。」

 

ヴァン・ティエンは戦艦を見て言った。

 

「お前の戦艦……鉄くずの山みたいだな。」

 

それを聞いても、赤眼黒龍は怒らなかった。

ただ、笑った。

 

「どうやら、お前は……その壮大さが理解できていないようだな。」

 

彼は手を顔に当てた。

 

「残念だ……残念だ。」

 

そして、ヴァン・ティエンを横目で見る。

 

「だが、構わない……」

 

「お前はここで……これに埋もれて死ぬのだからな。」

 

ヴァン・ティエンは笑った。

 

「ここで埋もれる?」

 

「こんな鉄くずの山で?」

 

赤眼黒龍は笑う。

 

「そこまで自信があるのなら……」

 

「それなら……」

 

「こいつらを倒してみろ。」

 

彼が手を振る。

 

戦艦の兵士たちが一斉に飛び降り、ヴァン・ティエンへ向かって突っ込んでくる。

 

「殺せぇぇぇぇ!!」

 

ヴァン・ティエンはその場に立ち、拳を握りしめる。

身体の周囲で、青と桃色の光が一気に燃え上がった。

 

「……なら。」

 

彼は低い声で言った。

 

「……来い。」

 

一歩。

 

彼は一気に駆け出した。

 

ドン!!!

 

最初の一撃が、岸へ飛び込んできた兵士の顔面へ叩き込まれる。

 

バキッ!!

 

その身体は黒い煙となって砕け散った。

 

しかし――

 

ブンッ!!

 

別の一人が背後に現れる。

そして、また一人。

さらに、もう一人。

 

「……多すぎる……!」

 

ヴァン・ティエンは歯を食いしばる。

 

攻撃が続く。

 

ドン!!

バキッ!!

ガキン!!

 

一撃ごとに一人を倒す。

 

だが、その後ろからは……さらに三人が押し寄せてくる。

 

終わらない。

止まらない。

 

まるで……波のように。

 

「……まずい……」

 

ヴァン・ティエンは一歩下がる。

 

そして、もう一歩。

 

弱いからではない。

 

ただ……数が多すぎる。

 

遠くでは、赤眼黒龍がじっとその様子を見ていた。

 

「……そうだ。」

 

彼は小さく笑う。

 

「……そのまま下がり続けろ。」

 

「……お前が、どこまで耐えられるのか……見せてもらおう。」

 

ヴァン・ティエンは歯を食いしばりながら耐える。

 

その時――

 

首にかかったペンダントが……震えた。

 

小さく。

 

そして、徐々に強く。

 

「……!!」

 

彼の動きが、一瞬止まる。

 

何かの力を感じた。

 

彼は一度、深く息を吸う。

 

一人の兵士が突っ込んでくる。

 

ブンッ!!

 

ヴァン・ティエンは反射的に拳を振り返した。

 

バキッ!!

 

兵士は吹き飛ぶ。

 

さらに三人が同時に襲いかかってくる。

 

それぞれが別々の方向から迫る。

 

ヴァン・ティエンは集中した。

 

身を低くし、構える。

 

そして身体を回転させる。

 

風の中で、彼の青い瞳が鋭く光った。

 

そして――

 

バキッ!!

バキッ!!

バキッ!!

 

三人の兵士が蹴り飛ばされる。

 

さらに十人の兵士が一斉に突っ込んでくる。

 

ヴァン・ティエンは小さく呟いた。

 

「5%……」

 

その瞬間――

 

彼の身体が青い光を放った。

 

青い光の流れが腕を走っていく。

 

十人の兵士が近づいた瞬間――

 

ズドン!!

 

青い気流が爆発する。

 

十人の兵士は一斉に吹き飛ばされた。

 

その後ろで、宝瑛も自分のペンダントを強く握りしめる。

 

「……ティエン……」

 

その頃には、ヴァン・ティエンは岸へ上がってきた敵兵のほとんどを倒していた。

 

彼はその場に立ち、荒い息を吐く。

 

赤眼黒龍は彼を見る。

 

「おや……」

 

「どうやら……私はお前を見くびっていたようだな。」

 

「それなら……」

 

「少し……お前と遊んでやろう。」

 

そう言った瞬間――

 

ブンッ!!

 

彼の姿が消える。

 

あまりにも速い。

 

ヴァン・ティエンの背後に現れ――

 

ドゴッ!!

 

蹴り飛ばす。

 

「アニ・ティエン!!」

 

宝瑛が叫ぶ。

 

ヴァン・ティエンは壁へ激しく叩きつけられた。

 

ドン!!

 

「……っ!」

 

彼は瓦礫の中から、ゆっくりと立ち上がる。

 

口元から……血が流れている。

 

彼は赤眼黒龍を見つめた。

 

そして――

 

ブンッ!!

 

今度はヴァン・ティエンが、彼の背後へ現れる。

 

蹴りを放つ。

 

だが――

 

赤眼黒龍は、それを簡単に受け止めた。

 

「なかなか速いな。」

 

彼は嘲笑う。

 

「だが……」

 

「まだ遅すぎる。」

 

赤眼黒龍はヴァン・ティエンを引き寄せる。

 

そして――

 

ドゴッ!!

 

腹部へ拳を叩き込む。

 

「ぐっ……!」

 

さらに彼の足を掴む。

 

そのまま地面へ叩きつける。

 

ドォン!!

 

「……ゴホッ……」

 

何度も。

 

何度も。

 

地面へ叩きつけた後、ヴァン・ティエンを遠くへ投げ飛ばす。

 

ドン!!

 

それを見た宝瑛が、彼のもとへ走ろうとする。

 

その瞬間――

 

バチッ!!

 

一筋の雷が彼女の足元へ落ちた。

 

「……!!」

 

宝瑛はその場に倒れ込む。

 

首のペンダントが……激しく光り始める。

 

だが……今回は違った。

 

彼女には、それを制御できない。

 

まるで……川そのものが、彼女を拒絶しているかのようだった。

 

宝瑛は顔を上げる。

 

そして気づく。

 

赤眼黒龍が……手を出していた。

 

彼は彼女を見る。

 

「お前の番も……すぐだ。」

 

「大人しくそこで待っていろ。」

 

そう言うと、彼はヴァン・ティエンが吹き飛ばされた瓦礫へ視線を向ける。

 

瓦礫の中から、ヴァン・ティエンがゆっくりと立ち上がる。

 

身体中が傷だらけだった。

 

赤眼黒龍は彼を見る。

 

「よく……耐えるな……」

 

「なかなかのものだ……」

 

ヴァン・ティエンは何も言わない。

 

ただ、小さく呟いた。

 

「……8%。」

 

その瞬間――

 

彼の身体が一気に光り輝いた。

 

青い光の力が身体全体を包み込む。

 

さっきよりも……少し濃い。

 

ヴァン・ティエンは赤眼黒龍を見つめる。

 

そして――

 

ブンッ!!

 

一瞬で、彼の背後へ現れた。

 

赤眼黒龍が驚く。

 

次の瞬間――

 

ドゴッ!!

 

蹴りが直撃する。

 

赤眼黒龍の身体が吹き飛び、地面を滑っていく。

 

しかし、彼はすぐに立ち上がった。

 

そして……笑う。

 

「……面白い。」

 

二人は互いを見つめる。

 

そして――

 

ブンッ!!

 

二人同時に駆け出す。

 

真正面から。

 

二人の身体がぶつかる、その瞬間――

 

背後の川面が……大きく裂けた。

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