『天雲星系・銀河の記憶』 作:DanhDu_Chronicle
「お前……」
「忘れるな……」
「お前の相手は……」
「俺だ……」
赤眼黒龍はヴァン・ティエンを見つめる。
そして、
顔へ手を上げる。
狂ったように笑った。
「ハハハハ。」
「お前は本当に……厄介な奴だな。」
そう言った瞬間――
彼の身体を包む赤黒い気が、
さらに激しく膨れ上がった。
周囲の空間までもが、
徐々に歪んでいく。
「ならば……俺は……」
「先にお前を殺す。」
だが――
ヴァン・ティエンの目は、
少しも揺らがなかった。
それどころか――
そこには、
揺るぎない決意が宿っていた。
彼は腕を上げる。
五本の指を強く握り締める。
石のように硬い拳。
そして身体を低く落とし、
戦闘態勢を取る。
「なら……来い。」
その頃――
興道大王のいる場所。
宝瑛は下を見下ろしていた。
陳軍と赤眼黒龍の軍勢は、
いまだ激しい戦いを続けている。
戦場は、
完全な混乱状態だった。
そして――
彼女の目が、
遠くにいるヴァン・ティエンへ向く。
その瞳には、
強い不安が浮かんでいた。
手は、
首に掛かったペンダントを強く握っている。
もう、
光ってはいない。
「……ティエン兄さん。」
彼女が小さく呟く。
その時。
興道大王は、
変わらず眼下の戦いを見つめたまま、
口を開いた。
「娘よ。」
「それほど心配するな。」
宝瑛が驚いて、
振り返る。
剣と槍が飛び交う戦場の中に立ちながらも――
大王の姿は、
湖面のように静かだった。
その目は、
下で懸命に戦う兵士たちを捉えている。
そして、
静かに言った。
「山河の豪気が、
あの者を選んだ。」
「クアン・イェンの民が、
あの者の背を守っている。」
「この戦――」
「必ず勝つ。」
その言葉を聞き、
宝瑛の胸は少しだけ軽くなった。
だが――
それでも、
ヴァン・ティエンが心配だった。
今の彼の身体は、
これまでの戦いによって、
すでに重傷を負っている。
彼女はヴァン・ティエンを見る。
手は、
まだペンダントを強く握ったまま。
だが心の中には――
強い信頼があった。
ヴァン・ティエンなら――
必ず、
この戦いに勝つ。
一方――
ヴァン・ティエンと赤眼黒龍。
二人の周囲の空気が、
突然重くなった。
川面を吹いていた風さえ、
止まった。
赤眼黒龍が、
腕を真っ直ぐヴァン・ティエンへ向ける。
すると――
赤黒いエネルギーの鎖が、
一斉に前方へ飛び出した。
彼の指し示す方向へ。
まるで無数のミサイル。
黒い気を纏い、
空気を引き裂きながら、
ヴァン・ティエンへ迫ってくる。
そして――
あと数センチ。
鎖がヴァン・ティエンへ触れる、その瞬間。
彼の目が、
わずかに光った。
身体を低く沈める。
鎖を避ける。
シュッ!!
鎖が身体のすぐ横を通り過ぎた。
逃げ切った――
そう思った。
だが――
突然。
鎖が方向を変える。
逆方向から、
再びヴァン・ティエンへ襲いかかる。
「何だと……」
ヴァン・ティエンは歯を食いしばる。
身体を横へ傾ける。
避ける。
だが、
鎖は一方向へ飛ぶだけではなかった。
まるで波のように、
うねりながら追ってくる。
ヴァン・ティエンは、
身体を可能な限り低くする。
だが――
一本の鎖が、
右肩をかすめた。
ジュッ!!
黒い気の熱で、
右肩の服が焼ける。
黒い煙が、
もうもうと立ち上る。
肩から腕へ――
焼けるような痛みが、
ゆっくりと広がっていく。
ヴァン・ティエンは、
わずかに顔をしかめる。
だが、
目は目の前の鎖から離れない。
その瞬間――
彼の瞳孔の奥に、
青い光が走った。
赤黒い鎖が、
再び高速で飛んでくる。
今度は――
一方向ではない。
幾つもの方向へ分裂する。
そして――
ヴァン・ティエンを包囲する、
死の網を作り出した。
だが――
ヴァン・ティエンは慌てない。
まるで、
その軌道が最初から見えていたかのように。
わずかに首を傾ける。
肩の関節を軽く回す。
そして――
一歩、
後ろへ下がる。
ほんのわずか。
数ミリ。
一本。
また一本。
鎖が、
彼の身体すれすれを通り過ぎていく。
赤眼黒龍の目が細くなる。
怒りではない。
驚きだった。
「……フム。」
鎖は、
止まらない。
何度も、
何度も、
ヴァン・ティエンへ襲いかかる。
彼は、
その動きを見ることができていた。
だが――
鎖はまるで、
獲物へ何度も飛びかかる狼の群れ。
一本を避ければ――
すぐに二本。
三本。
さらに別の鎖が高速で迫ってくる。
一本が、
右足をかすめた。
もう一本が、
額の中央をかすめる。
赤黒い気の熱で、
足も額も焼けるように熱い。
額の傷から流れた血が、
目へ入り込む。
ヴァン・ティエンは、
目を細める。
さらに――
額の傷へ流れ込む汗が、
焼けるような痛みを生む。
呼吸も、
徐々に重くなっていく。
絶え間なく鎖を避け続けているからだ。
ヴァン・ティエンは胸へ手を置く。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
自分の心臓が、
激しく脈打っているのを感じる。
強く。
速く。
一秒ごとに。
その時――
彼が気を抜いた一瞬。
一本の鎖が、
目の前へ迫った。
わずか数センチ。
反応する暇もない。
ドゴォン!!
千斤もの力を持つ一撃が、
左脇腹へ叩き込まれた。
圧倒的な衝撃。
身体が、
逆向きに折れた弓のように曲がる。
そして――
ヴァン・ティエンの身体は、
嵐に吹き飛ばされた破れた葉のように、
遥か後方へ吹き飛んだ。
ズドォン!!
背中が、
戦艦内部の頑丈な金属壁へ激突する。
衝撃があまりにも強く――
分厚い鋼鉄の壁が、
内側へ大きくへこんだ。
周囲の内部回路がショートする。
バチバチッ!!
電気の火花が、
辺りへ飛び散る。
ヴァン・ティエンは、
そのまま地面へ崩れ落ちた。