『天雲星系・銀河の記憶』   作:DanhDu_Chronicle

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第59話 最後の決着技 (下)

それでも――

 

ヴァン・ティエンの意志は、まだ諦めていなかった。

 

手を動かす。

 

必死に――

 

水面へ上がろうとする。

 

幸いにも――

 

指先が、ほんの少しだけ動いた。

 

だが――

 

喜ぶ暇すらなかった。

 

目の前に――

 

巨大な黒い影が現れた。

 

赤眼黒龍。

 

奴の手が、ヴァン・ティエンの顔面を掴む。

 

そして――

 

その頭を、そのまま白藤江の底へ押し込んだ。

 

「アグッ……!!」

 

ドゴッ!!

 

残っていた空気が、身体の中から一気に吐き出される。

 

口から――

 

最後の気泡がいくつも浮かび上がっていく。

 

ヴァン・ティエンの目が――

 

徐々に、霞んでいく。

 

岸では――

 

宝瑛が水面を見つめていた。

 

その目は、さらに不安に満ちている。

 

両手も――

 

強く握り締められていた。

 

白藤江の底。

 

ヴァン・ティエンの意識が徐々に消えていくのを見て――

 

赤眼黒龍は笑った。

 

そして――

 

腕に力を込める。

 

ヴァン・ティエンの身体を、川底から一気に投げ上げた。

 

身体が水面を突き抜け――

 

空中へ舞い上がる。

 

宙に浮いた、その瞬間。

 

赤眼黒龍もまた、同時に飛び上がった。

 

そして――

 

ドゴッ!!

 

ヴァン・ティエンの腹部へ、強烈な蹴りを叩き込む。

 

「ゴボッ!!」

 

口から大量の水を吐き出す。

 

身体が大きく折れ曲がり――

 

そのまま下へ吹き飛ばされる。

 

ドォン!!!!

 

砂地へ叩きつけられた。

 

ヴァン・ティエンは砂の上に倒れ――

 

「ゴホッ……ゴホッ……!!」

 

激しく咳き込む。

 

そして――

 

意識が、少しずつ戻ってくる。

 

その上空では――

 

赤眼黒龍が、再びヴァン・ティエンへ飛びかかろうとしていた。

 

だが――

 

突然。

 

奴の胸に激痛が走った。

 

「ぐっ……!?」

 

胸の内側。

 

鍵穴の中から――

 

紫黒色の気が徐々に漏れ出してくる。

 

しかし――

 

それは、ゆっくりと漏れ出すものではなかった。

 

制御不能なほど――

 

一気に噴き出した。

 

紫黒色の気が、赤眼黒龍の身体全体へ広がっていく。

 

「グオオオオッ!!」

 

赤眼黒龍が叫ぶ。

 

奴は鍵剣を胸へ強く押し当てる。

 

黒い気が――

 

徐々に乱れ始める。

 

目を細める。

 

その目が――

 

徐々に赤く戻っていく。

 

歯を食いしばる。

 

しばらくすると――

 

黒い気が、ようやく安定し始めた。

 

先ほどのような乱れはなくなっていく。

 

赤眼黒龍は、ゆっくりと鍵剣を身体から引き抜いた。

 

荒い呼吸。

 

ハァ……ハァ……。

 

そして――

 

少しずつ呼吸を落ち着かせていく。

 

奴は自分の胸を見る。

 

「これ以上は……長く続けられない」

 

そして――

 

下を見る。

 

そこには――

 

ヴァン・ティエンが倒れている。

 

しかし――

 

ヴァン・ティエンも、ゆっくりと立ち上がっていた。

 

足は――

 

もう真っ直ぐに立つことすらできない。

 

それでも――

 

その目は、赤眼黒龍を射抜いている。

 

赤眼黒龍はヴァン・ティエンを見る。

 

そして――

 

薄く笑った。

 

「まさか……」

 

「さっきの攻撃をあれだけ受けて……」

 

「まだ立ち上がれるとはな」

 

「大したものだ」

 

「本当なら……」

 

「もう少し、お前と遊んでやりたかったんだが……」

 

「どうやら、俺の限界も近いらしい」

 

「だから――」

 

「一撃で終わらせてやる」

 

言葉が終わった瞬間――

 

奴は手を上げた。

 

鍵穴の溝の中から――

 

紫色の気が、徐々に溢れ出していく。

 

身体全体から――

 

上げた腕へ向かって流れていく。

 

そして徐々に――

 

その気が、一つの奇妙な紫赤色の球体を作り出した。

 

周囲の空気も――

 

徐々に変化していく。

 

紫色の気が、赤眼黒龍の身体を包み込む。

 

空間が――

 

歪んでいく。

 

だが――

 

その紫色の球体が、徐々に形を変え始めた。

 

歪む。

 

変形する。

 

そして――

 

引き伸ばされていく。

 

一つの球体だったものが――

 

巨大な槍のような形へと変わっていく。

 

巨大な――

 

「鎖の槍」。

 

その鋭く尖った先端へ、黒い気が強烈に集中していく。

 

地上にいるヴァン・ティエンは――

 

目を大きく見開いた。

 

上空の赤眼黒龍は、自らの鎖の槍を見つめる。

 

そして――

 

ヴァン・ティエンを見下ろした。

 

「これが――」

 

「俺の必殺技だ」

 

「俺が強いと認めた相手にしか……」

 

「これは使わない」

 

「この技を見た奴は……」

 

「今まで、誰一人生き残っていない」

 

「だから――」

 

「これを見ることができたことを、幸運に思え」

 

言葉が終わる。

 

赤眼黒龍は――

 

軽く腕を前へ振った。

 

すると――

 

鎖の槍が、その勢いのままヴァン・ティエンへ一直線に飛んでいく。

 

地上のヴァン・ティエンは――

 

姿勢を低く落とした。

 

そして――

 

腕を上げる。

 

迫り来る鎖の槍を――

 

真正面から受け止めた。

 

ズズズズ……!!

 

足元の地面が――

 

ひび割れる。

 

そして――

 

大きく陥没していく。

 

それを見た赤眼黒龍は、少し驚いた。

 

だが――

 

それだけでは、奴を恐れさせるには足りなかった。

 

奴は手にさらに力を込める。

 

鎖の槍が――

 

ヴァン・ティエンを徐々に押し込んでいく。

 

身体が――

 

少しずつ後ろへ押し戻される。

 

それでも――

 

ヴァン・ティエンの目は、鎖の槍から離れない。

 

腕の筋が――

 

幾重にも浮き上がっていく。

 

先ほどまで――

 

かすかな光しか放っていなかったペンダントが。

 

今は――

 

より強烈な青い光を放ち始めた。

 

ヴァン・ティエンは――

 

叫んだ。

 

「オオオオオッ!!!!」

 

鎖の槍が――

 

徐々に押し返されていく。

 

それを見た赤眼黒龍の目が――

 

大きく見開かれた。

 

「どうやら……」

 

「もっと本気を出す必要があるようだな」

 

奴は腕に力を込める。

 

鍵穴から溢れ出る紫色の気が――

 

徐々に腕へ流れ込んでいく。

 

押し返されていた鎖の槍が――

 

徐々に止まった。

 

赤眼黒龍が腕を前へ押し出す。

 

すると――

 

鎖の槍も、それに合わせて――

 

再びヴァン・ティエンへ押し戻されていく。

 

ヴァン・ティエンは必死に耐える。

 

ペンダントの光が――

 

さらに強く。

 

さらに激しく輝いていく。

 

「アアアアアッ!!!!」

 

鎖の槍が――

 

突然、震えた。

 

それを見た赤眼黒龍も――

 

さらに力を込める。

 

「アアアアアッ!!!!」

 

両者が――

 

全力をぶつけ合う。

 

そして――

 

鎖の槍が、徐々にヴァン・ティエンへ近づいていく。

 

凄まじい圧力。

 

目から。

 

鼻から。

 

口から。

 

鮮血が流れ出す。

 

それでも――

 

ヴァン・ティエンは耐える。

 

そして――

 

鎖の槍が――

 

ヴァン・ティエンへ一直線に突き刺さった。

 

ドォォォォォン!!!!

 

天地を揺るがすような大爆発が起こった。

 

巨大な衝撃によって――

 

陳軍の兵士たち。

 

陳國寶。

 

そして――

 

赤眼黒龍の軍勢までもが、一瞬動きを止めた。

 

赤眼黒龍の方では――

 

すでに腕を下ろしていた。

 

その手は――

 

紫黒色の気によって、ひどく傷ついている。

 

奴は自分の手を見る。

 

「まさか……」

 

「ここまで傷つくとはな」

 

「だが……」

 

「まあ、いい」

 

奴は下に広がる煙を見下ろす。

 

「奴を殺せたなら……」

 

「それでいい」

 

しかし――

 

突然。

 

赤眼黒龍の目が、大きく見開かれた。

 

「……!?」

 

驚愕。

 

煙が――

 

徐々に晴れていく。

 

そして、その煙の中に――

 

見慣れた人影が立っていた。

 

ヴァン・ティエン。

 

身体中が――

 

傷だらけ。

 

血まみれ。

 

それでも――

 

立っている。

 

「あり得ない……」

 

「どうして……」

 

「どうして立っていられる……!?」

 

赤眼黒龍は、自分の目を信じられなかった。

 

煙の中。

 

ヴァン・ティエンは――

 

今も赤眼黒龍を射抜いている。

 

「まだ……」

 

「終わってない……」

 

一歩。

 

ヴァン・ティエンの足が前へ出る。

 

しかし――

 

突然。

 

目の前が、ぼやけた。

 

身体が――

 

前へ崩れていく。

 

意識も――

 

徐々に暗くなっていく。

 

ドサッ。

 

身体が地面へ倒れた。

 

一瞬の静寂。

 

そして――

 

風が吹き抜ける。

 

完全に意識を失う、その直前。

 

ヴァン・ティエンの耳に――

 

一つの声が聞こえた。

 

遠くから響いてくる声。

 

それでも――

 

彼には、はっきりと聞こえた。

 

「ティエンさん……」

 

ヴァン・ティエンは、かすかに呟く。

 

「この声は……」

 

「宝……瑛……の……声……」

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